古明地てんとの明朗   作:ナチュラル7l72

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行脚編今話終了予定


金は何にも勝るし、その逆も然り

チョリッス、俺てんと!

 

道の端っこで大量の思考の渦に頭を支配され呆然としている亡霊の男を置いて、まだまだ行脚は続く。いやーそれにしてもちょっと面白かったな。どう見ても人外が人間みたいな発言してたから最初はなんやこいつとか思ってたけど、視てみれば盛大な勘違いをしていたのがわかってすっきりすっきり。もしかして自分が死んでることに気づいていない亡霊って結構いたりするのかもね。

 

 

 

「それにしても、1週間くらいなんも食べてないからお腹がすくなあ」

 

 

 

「川とかあったらいいんだけどね」

 

 

 

腹が減っては戦はできぬ。とは人間の諺だが、餓死をしない妖怪であったとしてもそれは当てはまる。特に人間の姿に近い俺達覚りはまさにその典型例。いらないはずの飯を消化する器官もあるし食事を強要してくる欲もある。エネルギー効率が良いというのはわかるが空腹感まで備わっている必要はあるのかとつくづく感じるここ数日だ。

 

俺の今の持ち物は毛布とお金と鞄一つに姉二人。姉が結構頑張って仕事をしてくれたおかげでお金は結構な額がある。でもさとりんクス…!村が…!そういうわけでお金を使える場所がない。

 

というかそもそも、この金が本当に使えるのか怪しいという話もある。このお金は勿論村で稼いだ物だがあの村では二種類の単位…通貨があった。

陽と円。特に円は公式通貨と人間たちが呼んでいたのを聞いたことがある。あの村じゃ稼ぎは陽で渡されていたがもしかしたら陽はあの村限定でしか使えない地域通貨だったんじゃなかろうかという疑念が現れる。おいおいもしそうだったら俺達が違う村に行ったところでなんの意味もないコインを持ち歩いてるってことになっちまうぞ。なんとか疑念を確かめたいところだけど…

 

 

 

「夜も更けてきたなあ」

 

 

 

テクテク歩き続けて三千里。とまではいかないがかなりの道を歩くも未だ人間の営みを感じる建築物が見当たらない。我ら古明地家が引っ越した場所が意図して田舎だった故だろう、自然とそれだけ他の村、町と距離がある。勘弁してくれ~あと何日歩き続けなきゃあかんねん。

 

 

 

「…そろそろ暖を取った方がいいわ」

 

 

 

「じゃーあそこの小綺麗な土の上で焚火作ろうよ。私芝狩りしてくる」

 

 

 

火打ち石もない状況だが火をつけること自体は妖怪にとって難しい事じゃない。全然歳を重ねてない俺ですら人間と比べたら怪力の部類に入るのだ。妖力を与えつつゴリゴリ摩擦していけばそのうち火種はできる。さとり姉ちゃんやこいし姉ちゃんのひらひらした服の布とか使えばもっと簡単なんだけど流石に火つける度に服の面積を小さくするわけにはいくまい。

 

 

 

「…」

 

 

 

そして今日も飯はなし。ひもじいなあ…

村や町ならともかく、夜の帳の下でかつこんな土の上じゃ読書できるほどの光すらない。さては寝るしかやることねえな?

 

 

 

「…寝ましょうか」

 

 

 

何故かさとり姉ちゃんが申し訳なさそうな思考を持ちながら毛布にくるまる。36度の熱が心地よかった。

 

 

 

(―――焚火か…?こっちから光が、)

 

 

 

そうして意識を飛ばそうとしたその時、頭の隅で何かの思考が引っかかる。覚りは動物の思考も読むことができるが言語を解する動物というのはあまり多くない。たいていが本能から出た言葉とも呼べない囁きだけ。だから十中八九妖怪、もしくは人間なんだろうなあ。…正直眠くてかなりだるい。

がさがさと茂みの揺れる音がだんだん近づいてくる。あんまり眠くなさそうなさとり姉ちゃんに任せて寝てしまおうかと考えつつ既に夢の世界に旅立ったこいし姉ちゃんの肩口に顎を載せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

お金はあるけれどご飯はない。餓死することはないけれどそれでも一度底上げされたリスクは増す一方だ。貯める事をせずさっさと全部ご飯に変えておけば、いやもっとお金を稼いで悩むことなくもっとご飯を変えるくらい蓄えておけばと最近後悔しかしていない。

そう、もっとお金を稼いでいれば。

 

 

「おいおいおい、同業者かと思いきやガキじゃねーか」

 

 

 

私たちが仲良く固まって寝ようとしているとどこから来たのか、小汚い中年の男が茂みの奥から顔を出す。その表情には驚きと安堵があった。

 

 

 

「…アンタは?」

 

 

 

男は人間のようだ。つまり私たちの敵、ではあるのだが幸いにも私たちが妖怪であることには気づいていないようで安堵したその思考からもそれが読み取れる。なら情報を取ることくらいは可能なはずだ。

 

その一環として眠たそうなてんとが男の素性を尋ねた。

パチパチと芝が燃えて炭になっていく音が辺りに響く。

 

 

 

「俺は安藤商会の安藤澄太だ。商売の為に次の街に向かおうとしていたんだが、夜がこんなに寒いとはなあ。少し火を借りてさせてもらうぞ」

 

 

 

ぱっぱっと質のよさそうな服についた葉を落とし、承諾もなしに私たちと同じように焚火の傍に、私の隣に楽立て膝で座る。

 

 

 

「で?お前らみたいなガキがなんでこんな所にいる?この辺は人の手が入っていないだろ。何が出るかわからないぞ」

 

 

 

貴方が言える事ではないでしょうという言葉は飲み込む。なぜならもうその何かは男の前にいるから。今だけは戦闘力の低い能力の代わりに人間の容姿に近いことを感謝しよう。…そもそも戦闘能力があればこんな茶番をする必要さえないのだが。人の肉は好きでも嫌いでもないが、少なくとも飢餓で苦しむ今よりはまだマシな状況になるはずだ。てんとが何故この力を気に入っているのか私にはまるでわからない。

 

 

「私たちは、出稼ぎのために違う町に行こうとしてるんです。××村って知らないですか?そこの出身なんですよ」

 

 

 

「…おいおい懐かしいな。俺もそこ出身だぞ、××村」

 

 

 

この時点で会話に入っているのは私と対面の男のみ。てんととこいしは既に船を漕いでいた。

 

 

 

男はしきりに頷き、ある日の過去を思い出しているようだ。

いままで忘れていた過去が彼の思考を通じて私の瞳に映る。楽しそうな日々。無邪気に外に駆けだしていく元気溌剌な男の子。

今のこの男とは大違いだ。

 

 

 

「…××村に行きたくなりましたか?」

 

 

 

昼間のてんとのように、意地の悪い質問をする。…その事に少し楽しんでいる私がいた。覚りは往々にして性格の悪い人格をしているものが多いという。その質は同じく覚りである私にも受け継がれているのだろう。てんととこいしは無邪気故に、という感じがするが。

 

 

 

「…いや、懐かしんだだけだ。余計な時間なんて使ってらんないからな」

 

 

 

瞳で覗いても男は本当に本心で故郷に帰りたいとは思っていないようで、なにか複雑な理由でもあるのかと思いきやその理由はひどく単純、そして欲深い人間らしいものだった。

 

 

 

金。

 

 

 

「金がすべてだからな。金さえあれば、文明開化でぐちゃぐちゃな今の経済状況でも食っていけるし、あらゆる娯楽が楽しめる」

 

 

 

そう男は宣うが結局のところ、瞳が伝える由は「お金がある」という一種のステータスのためだった。見栄え、地位、弱者への驕り。それが許されるわかりやすい指標。

実際それが許される立場に立てるのがお金という物。お金さえあれば身分や人格問わずそこにたどり着けられる。それは、お金がもっとあればと今さっき実感していた私だからこそより理解できることだった。

 

 

 

「貴方、家族…もしくは思い者はいないんですか?随分身軽そうですが」

 

 

 

「ああ…、親は××村に置いてきて、情人は、まあどの地域にも女はいるからな。…いやなんでもない。恋人はいねえよ」

 

 

 

時折色に濡れた視線だったその男だが、一応私の事は子供だと思っているらしい。頭を掻きつつ無駄な誤魔化しをされる。

白けながら私は"そうですか。"と適当にする気のない相槌を打った。

 

 

 

「でも、そうだな、少し商売に気を向けすぎだったかもな」

 

 

 

ちらりと私と、そしててんととこいしを見る男。

それもまた誤魔化しか、と思ったがどうやら本気でそう思っているらしい。

私の瞳に…、男の心には走馬灯のようにはるか昔の過去から現在に至るまでの軌跡が川のように流れていた。

 

男の一人称でその映像は始まり、母と思わしき者に白地の服を着せられ、そのままの服で限界から外へ飛び出ていく。そのまま近所の人間の子供たちと合流し共に森へと駆け出した。

だれかがカブトムシを鷲掴みにして、それみんなで宝物のようにただ見つめた。

と思ったら子供たちの中の誰かが唐突に駆け出し、川へと飛び込む。水を掛け合って、男は溺れそうになりながらもとても楽しそうだった。

 

 

 

『やめ、やめろよ!■■■■▼▼▼!』

 

 

 

だが男の視点で登場する人間達はどれも顔が黒ずみ、誰が誰だかわからない。男の友人だったらしき者も、母と思わしき人間も、顔が黒塗りされている。ただ人間であると、それだけしかわからないありさまだった。

 

記憶は飛び、男の近況に変わる。…青年期に関する記憶は残っていないらしい。

 

表情がわかる顔は商談相手や重要な顧客、そして女のみ。

 

 

 

「気が変わったよ。お前、××村から来たんだよな?どこにあるのか教えてくれないか。…残念ながら俺はもう場所もわからなくてな」

 

 

 

瞳に否応なく流れてくる記憶は幕を下ろす。あるのは自責と後悔のみ。意識を戻せば男はこれまで私に向けていた様々な感情を、疑念、欲情、哀愁を全て失くした澄んだ目を私に向けてくる。それはいつか見た幼いころのこいしやてんとに似たもののように思う。

 

それを見て私は。

 

ああ、そうか。てんとはこんな気分だったのか。

てんとには邪気なんてないから正確には違うけれど、この気持ちだけはきっと同じ。

 

楽しい。

 

妖力もない私たちでは武力じゃ絶対にかなわない人間の男。くだらない人間の男。

 

でもこんな事ができるのはきっと私たちだけ。

 

 

 

「もちろん構いませんよ。ここから南東に10里行った辺りです。…両親に会えるといいですね」

 

 

 

「…そうか。ありがとな。俺は、この出会いをきっと忘れない」

 

 

 

男の瞳はきっと後悔の涙で濡れていて何も見えていないのだろう。私たちなら容易く視える悪意に気付かず私に頭を下げて感謝しているのだから。

 

 

 

 

 

 


 

 

「改めてありがとう、お嬢ちゃん。お陰で失くしたものをもう一度、取り戻せるかもしない」

 

 

 

「いえいえ気にしないでください。私の方も、その地域通貨と公式通貨を両替してもらえたんですから。困ったときはお互い様、ですよ」

 

 

 

男はそのまま私たちと反対方向へ去っていった。きっと数日の内に村だったものに着くのだろう。

じゃらりと袋を揺らせば重い金属の音が鳴る。無事にどこの地域でも使用できるお金を手に入れた私たちは、とりあえずはこれで安心して行脚できる。男によれば私たちの目指す別の街もここから近いらしい。

 

 

 

「さとり姉ちゃん、少し昔みたいに戻ったみたいだね」

 

 

 

目覚めたてで目のあたりを擦っているこいしを尻目にてんとはそう言う。

 

 

 

「そう?」

 

 

 

「うん。勝ち気ながらも嫌味な覚りにね」

 

 

 

表面上では貶しているはずその言葉。だけどてんとはなぜか嬉し気だ。

それをこいしがうわーホントだーと嫌そうにつぶやく。

それは金で手に入らないモノだった。




敢えて男のその時を書かない方がドキドキ☆ワクワク胸が高まる!
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