追記:大幅に表現を変更しました
過度な欲望
「貴様!名前と出身を名乗れ!」
「ウィッス!☓☓村出身の、古明地てんとです!」
「そうか!馬鹿みてえな名前だな!貴様は何をしにここに来た!」
「金が無くなりそうなので、出稼ぎにきました!」
「貴様のようなどこの馬の骨ともわからん奴を街に入れるわけにはいかない!身分証でももって出直すんだな!」
「そうかあ…残念です」チャリン
「…貴様、何だその右手に持っているものは?」
「半分…どうぞ…」
「は…半…分…」
ウイッス俺てんと!
ようやく旅路は終わりついに街にたどり着くことができた。これで野蜜と水だけで飢えを凌ぐ生活とはおさらばだ。
検問所を無事突破し人々が生活を営む住宅街に出る。でかい歩道に街灯や標識が立ち並んでいるその風景はキチンと整備されていて、ここは人間の領土である。と主張されているような気分だ。
「おっちゃん、うどん3つ!」
「あいよ!」
人の往来が激しい道の路傍にてひっそりと経営していた屋台に腰掛け品を注文する。店員の男は俺の言葉に気の良さそうな相槌をして麺を茹で始めた。
「おっちゃん、どうやって屋台開いたんだ?俺もなんかの店出してみたいんだ」
「お、君子供ながらに飯屋を将来に据えて考えているのか!いい心意気だ。心なしか近所のガキどもと面構えが違う気もするな、坊主」
疲れた様子の姉2人を尻目にそう尋ねると感心したように鉢巻きを着けた頭をゆっくり頷いた。あらゆる方面に対する見当違いも甚だしいが訂正する必要もなし。それに定住する必要のある店はそれだけでリスクだからな。ほぼ絶滅したとは聞いたが陰陽師当たりに見つからない保証もないので一地域に長居するつもりは元々ない。居ても数か月を目途に立ち去るつもりだ。
数分後、ワカメや貝の入った磯の香りがする太麺のうどんが出される。もちもちしていていい食感だ。あっさりとした風味は旅疲れの胃にも優しい。久しぶりの食事を前に俺の頭は食欲で埋め尽くされていた。
「近場の市役所に行って必要な事項書いて金さえ払えば営業許可証が発行される。それさえ貰えればすぐにでも営業できるだろうな。俺は場所が取れなかったからこうして移動可能な屋台にしてんだ」
おっちゃんが話し始めたのでいったん麺をすするのをストップし脳内に必要事項をメモしていく。
俺達の懐にある金は困ったことに無限じゃない。交換前の陽が☓☓村にて2ヶ月分くらいの食費くらいだから、少なく見積もってもその半分はあるだろう。が逆に言えばそれしかないのだ。宿代や銭湯代も考えればきっと半月もしないうちになくなるのが目に見えている。
そしてもっと困ったことに俺たちは妖怪だ。リスクを考えれば冬眠中の熊並みに人と関わる機会を減らさなければならない。勿論妖怪だとバレたなら熊よろしく食い殺すでもなんでもすればいいが、だからといってどこかで顎で使われせこせこ働くというのは極力避けたいところ。父さんはある程度許容していたが、金は必要だけど金のせいで大切なものを失うという展開が一番寒いというのが俺の意見だ。これが自家撞着ってやつかね。違うか?違うかぁ。
なので金をかせぐ手段としては自営業が理想だろう。ものすごく無茶を言えばb to 虚空が一番なんだろうけど、無から金は錬成できないのでしょうがない。まあけど理想って言えどもそこまでムズイわけじゃない。要は人間に需要がある事柄を商売にすればいいってことだからね。最強の能力は金稼ぎでも火を噴くぜ。
今考えているのは占い師かメンタルケアカウンセラーとか、特に占い師は適正あると思うんだよな俺って。それにしても対面しないといけない職ばかり…。けど実はそれほど悪い事でもない。目標にしてるアレのことにも繋がるし。
それにしても、恐怖の感情を生み出す母数は減るけど質が何十倍にも上がるから、やっぱり妖怪の理想郷を作るんだったら人間をもっと殺した方がいいんだろうなあ。創ることを考えるならきっとそれはマストなんだろう。嫌な話だよまったく。
♦♦♦
妻に家を追い出され一刻ほど。薄暗く、しかし文明の灯りに灯された街中を彷徨く男が一人。
男の趣味は青年時代と変わらず春を買う事だった。宿と粗飯も女もその趣味から得たものであり、その趣味故に放り出されている。
自己の未来を自分のモノとも考えない朝三暮四の猿のような男、だが今回に関しては無節操すぎたかと反省がてら1人言ちている。
後悔もしているが、男の感じる不愉快さの大半はこの事象に対する理不尽感からだった。男はなまじ顔が良く、体格も良い。さらには頭も人並み以上に回ったため、人生を流れる事に今迄苦労などしてこなかった。
宿なんて少し女に声をかければいくらでも彼方の方からやってくる。自分から金を払うことが多いがその気になれば其の辺から拾えばいい。そうなれば金のかかる趣味はびた一文もかからないだろう。
だが今回は流石に事を大きくしすぎた。そこらの御近所様が嫌なものを見る目で男を睥睨している。
宛もなく彷徨していると、やがて、街の様子を一望できる崖に当たる。背後の光景もそうではあるが、崖から覗く風景は彼の気分とは没交渉に煌びやかに、皆その日の生計を励んでいた。
思わず舌鼓を鳴らす。無関係な人々を無意味に呪うその姿は男の変わらぬ本質をわかり易く表していた。
そんな暗澹たる瞳に、まるで夜空にて輝く満月の様に麗美な者達が舞台に上がるように現れる。
それは三人の旅人だろうか、見慣れない辺ここらに住んでいる者ではないのだろう。しかし男の目を惹いたのはそれが原因ではない。趣味故に様々な容姿の女を見て、抱いてきたが花魁と比較しても美しい容姿だったからだ。
一人は、ローズクォーツのような髪色を肩口まで伸びている少女。淡青色のフリルブラウスと膝まで覆う褪紅のセミロングスカートといった、なるほど文明開化し西洋的な色鮮やかな服装が増えているとはいえそれでも中々に派手な容姿だ。
しかし奇抜というわけではない。むしろ、どこか夢幻的なデザインで淡い色調のドレスは彼女の儚げな存在感を一層引き立て、ドレスの裾は花のように広がり、歩くたびに花びらが揺れる様を思わせる。まるで彫刻品のようなその美しい瞼を閉じ控えめな歩幅で歩き、所作に楚々としたものを感じるその気風は作ったものではなくそういう
少女の笑みは微かであり、心の奥底に隠された秘密を暗示するような奥深さを持つ。男は無意識に息をのみ、己の咎を見透かされたような気分に陥っていた。
一人は、ターフェアイトのような灰緑色、まるで深緑の森がそのまま降り注いだかのように緑がかり、光を受けて微かに輝いている。その瞳は一見して深い湖のように澄み渡り、その中には何とも言えぬ神秘が宿っているようであった。男は思わず、見入りそうになり、気づかれる前にすぐ逸らす。一度見つめられてしまえばその視線から逃れることは困難であり、その魅力に引き込まれてしまうと本能的で理解していたからだ。
前述した少女と非常に容姿が似通っているがその印象は綺麗に逆転している。服装の色合いが全体的に淡い隣の少女と比べべた塗りのように綺麗に色付いている。目を大きく開きキョロキョロとあたりの風景を見まわし可愛らしい口元をニコニコと三日月にしているその様子は服装も相まって純真・元気溌剌といった要素が強く印象付けられる。しかしそれと同時にごこか危うさも感じさせるその少女は妖艶さを醸し出していた。
そしてもう一人は、この薄暗い夜道に似合わない、まるで太陽のような髪色のショートヘア、そして燃えるような燈の色彩、まるでサンストーンのような瞳を持つ、男目線で語るならば中性的な見た目の少女だ。裾が大きく開いた燃え尽きたような灰のような色のシャツ、そしてダークブルーのゆったりとしたワイドスラックスは服装だけ見れば平原に佇む大樹のように落ち着いた雰囲気だが、燃えるように風に靡く髪、そして瞳の奥に佇む炎のような虹彩は、男の様な胸に一物を抱える者を燃やし尽くしてしまいそうな、しかしそれでもなお手を伸ばしてしまいたくなるような蛮勇を誘発させる魅力を放っている。
思わず唾を飲む。
男にとって、恰も御馳走のような光景が目の前を闊歩していた。
しかし、先程満月のようにと形容したが彼らはあくまで人間であるからしてこのままでは手を伸ばす暇もなく彗星のように通り過ぎてしまうだろう。
「そこの君」
反射的に、思わず声をかける。目的は言うまでもないが、男は
少女らは大人びているとはいえ、容姿からして成人していないだろう。そしてその差は大きい。大人の思考は未熟かつ純真な子供に理解し得ないからだ。大人の思考とはそれ程子供のそれとは乖離している濁ったものだ。そして濁った湖を生きる魚は泳いでるうちに泳ぎ方を心得るというもの。生まれたばかりの稚魚は食物連鎖の地底で貪られるのみ。
男はまったく違和感のない、貼り付けた人のいい笑みを浮かべる。
見目麗し髪色豊な少女らは男を瞥見した。
「…隠しても無駄なのに」*1
「好きな考え発表ドラゴンが~」*2
「まあ、これくらいオセアニアじゃあ常識だからね」*3
薄紫色の髪の少女が少しだけ目を開き、溜息を吐いてのち半眼にて此方を睨む。もしや褪せた思考が見破られているのか、と焦りが生じるがその隣の溌剌な少女は何も思っていない様子で何か、南蛮語のようなものを口ずさんでいる。この目つきの悪さも薄紫色の少女の質なのかもしれない。隣の中世的な、少し声が低めの、者も特に訝しんでいる様には見えない。
これは会話をダラダラと繋いで満を持すより、勢いで往くべきと男はさらに言葉を重ねた。時間をかけてしまうとそのうち男の性根を知るものが通りがかって邪魔をされる可能性があるというのもあるが、明らかに男は馳走に喜び勇んでいた。
うら若き町娘の顔を染めさせるに十二分な顔立ちを用いて言葉を甘く掛ける。
「君達、見ない者だな。旅客か…それとも流れ者だろう?今夜は行く当てはあるのかい」
あまり言い慣れていない、丁寧な口調。だが
まるで自分の家に善意で案内しようといった具合だ。勿論、家はないしあわよくば彼女らの宿に泊まろうとしていて、男の内に親切心などあろう筈がないのだが。
だが少女達からすれば、どうだろうか。客観視するなら益荒男が旅人に助力しようとする、まるで幼子が読むような典型的道徳教育本の展開だ。
事実、男はこのような世間知らずの小娘を言葉巧みに誑かしその懐を
「このロリコンどもめ…」*4
「楽しみー 面白い~」
(恥を知れ!)*5
しかしそれでも少女達は靡くような様子を見せない。そして男は異変に気づく。
このような、女を誑かそうとした時に女が見せる反応は大別して二つ。コロッと堕ちるか、もしくは真意に勘付き警戒するか。
しかし、この少女達は、魅了されたような気配がないのともかく、その逆の此方を嫌悪するような視線を寄越してきていない。男に対する心象が最初から何も変わっていないのだ。
まさか、最初から俺の下心を知っていた……?
「静かに視れて疲れないやーつー」
「人間は愚かなものです。特にお前」*6
あまりに眩く、身を顧みずにでも手に入れたくなるほどの宝石。だがそう簡単に手に入るものがそれほどの価値が出るわけがないと男は知っていたはずなのに。
半眼で睨む少女が懐に手を伸ばし、何かを掴んで服の外へと出す。
赤い紐のようなもので少女の体と接合されている"何か"。それは本来人間にはないはずである第三の瞳だった。男は今まで人間だと思っていた者にあり得ない器官がついているのを見て思考に空白が生まれる。ギョロリと男を見詰める目玉に、無警戒に目を合わせてしまった。
『テリブルスーヴニール』
男には知る由もないが覚りという妖怪は表層意識しか視ることができない。しかし催眠波を対象の脳に流し込み忘れたくて堪らない、忘れていると思い込んでいるトラウマを想起させ無理やり情報を奪い取る事が可能なのだ。
仕事帰り…俺の嫁が…他の男と
「ぐわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
「ありゃあ…」
「正式名称がーわからないーあたかいーのーもー!好き好き大好き~」
「…見ていても仕様がないし、行きましょうか」
男の脳は木っ端微塵に破壊され、二重の意味で二度と立ち直れなくなってしまう。
歓楽街の常連だった男は、二度とそこに現れなかったという。
行脚編完ッ!