追記:表現を大幅に変更しました
「…ようこそお客さん…。ここに来たという事は我が「目森占い屋」で何か占いたいのでしょう。貴方の望む事柄。それを占ってしんぜましょう…」
「あー、えっと、大したことじゃないんすけど、僕の財布って何処にあるかわかりますかね?」
まあ開業して一日目じゃこんなもんだよな…
おーす俺てんと!
無事店を構えることができたがただいまふざけた客を対応中だ。店内の装飾や口調で物々しい雰囲気を意図的に作り出しているはずだがこの始末。知らないかもしれないけど占いってさがしもん見つけるため職業じゃないんだけどね。探偵とかのほうがまだ近いんじゃない?まあ名を上げるために依頼は達成するけどさ。頭から垂れ下げた布越しに客の男を睨みつつも俺は占いの準備をしていく。
「ではこの水晶に触れてください。私は水晶術専門ですので」
「なんですかこれ。なんか柔らかい…?」
布を被せた第三の目に触れさせ適当に「ひとつ…ふたつ、みつめのタンゴ…」と口ずさみなんかすごそうなことしている感を出しつつ客の中身を覗いていく。
だがいくら覚りといってもこれ系の占いは一筋縄とはいかない。なぜなら客は探し物がどこにあるのかを忘れているからだ。どこにあるのか占ってほしいって言ってるんだからそりゃそうなんだけど、それはすなわち意識の外に置いてきてしまったという事。あくまで浅い思考を読み取り人間を恐怖させる覚り妖怪にそれを視る術はない。
しかし残念ながら俺は三つ筋縄くらいはある男。この程度で諦める謂れはまったくもってないのである。
「…今日、本棚から本を取り出し読書をしていましたね?そして読み終わった本を本棚に戻したはず。しかしあなたの本は依然として居間のちゃぶ台の上にある様子です。ならあなたは何を戻したんですか?」
「…ああそうか!」
思い出すのはこいし姉ちゃんが拗ねてどっか行ったとき。滅茶滅茶焦ったあの時。
男の海馬にて無意識に記憶されていた過去をほじくっていると男がバグって本の代わりに財布を戻し、肝心の本を置きっぱにしているところを発見する。何してんだこいつ…。それを発見した所ですぐに意識を浮上させ無意識を表層に退散させた。
「いやー助かった。また忘れ物をしたらここにくるとするよ。お代はいくらだい?」
「25銭ですね」
結構安いなあと言いながら懐をまさぐる男。占いって初期費用もランニングコストもほぼゼロだからいくらか税金でピンハネされるけど黒字にしかなんないんだよね。この客が評判を近所に広めてくれることを期待すればこれくらいが妥当だろう。
「またのご利用をお待ちしてまーす」
カランカランと扉に括り付けられている簡素なベルが鳴り男が退店した音が響く。
それを確認してから俺はメモ帳を取り出す。
「それにこっちは客の個人情報、抜き取り放題だからな」
さらさらと鉛筆と紙が擦れ合う音が静かな店内で響く。25銭でこれなら十分ぼろ儲けだ。
うーむ浮気に脱税、あと窃盗。こいつまだ人生短いくせして罪犯しすぎだな。弱み握りすぎて潰さないか心配なレベル。こんだけの情報を考えれば25銭なんてなんならおまけみたいなもんだな。
目標はもちろん命を狙われることのない、普通の生活。即ち理想郷。その小目標を俺はこの人間社会の混乱と定めた。この村を眺めて改めて思う。発展しすぎだろと。こんなん人間の住処横取りして妖怪の文明築いた方が早いに決まってる。
言うまでもなく先は長い。超長い。
この弱みは客の男にとって重要なものなんだろうが、社会全体から見れば海に垂れる雫の如し。雫が文明を破壊する津波を起こすなんてことはあり得ないからな。小目標の達成すら、目指すには随分とかかることになるだろう。
その「随分」短くするために俺の従来の力も使える効率良いやり方がこれだと思ったんだけど…。こんなんじゃ何年たっても達成できないだろうな。せめて権力者が訪れるくらいにはならないとお話にもなんないだろうなあ…。
(いや…そもそもこれだけじゃ足んないかもな)
覚りの力が最強なのは当然として、今回に関しては物理的な力も必要だ。どっかでやばい奴
『
人の噂も七十五日。けれどその伝播は一日足らずで街中に広まっていく。何故なら人は本質的にゴシップが大好きだから。本能にも刻まれているその質は非常に強く、他人の不祥事なんて大好物。まるで腐肉に群がるハイエナのように噂を耳に入れようとするだろう。
今日も今日とて喧騒は広がる。しかし最近はその広がりがより一層活発になっていた。
「またか?」
「まただよ。ったく、悪趣味なこって…」
皆はそれを陽口屋と呼ぶ。それは陰口と正反対に、陰口よりも質が悪く本人にも見えるよう街の中央に立て看板を夜な夜な置いていく。
犯した罪をツラツラと書き連ねて、最後に咎人の名前を残す。シンプルながら誰の目にも惹かれるその所業はもっぱらの噂だった。
普通、その内容の信憑性に疑問を持つ者も出てくるだろう。だが多くの民衆はその立て看板に書かれている内容がひたすら適当な、嘘の罪状を書き連ねているだけではない事を察していた。
何故なら看板に記された者はみな一様に表に出るのを辞め追及から逃げ出していたからである。
悪趣味。
倫理的にも感情論的にも、悪事をいたずらに赤の他人にまで吹聴するのはまったく悪い事だ。さらに証拠が示されているわけでもなく、言わば根拠のない誹謗中傷。いやはやほんとうに許せない。許してはならない下衆だ。
なのに自然と足はその悪趣味を見に歩きだす。
「今回はどんな旨趣なんだ?」
「詳しくは知らないが、三丁目の小山ん奴が標的みたいだな。どいつもこいつも大義名分立てて色めきだってやがる」
曰く、
『下劣な事をなした外道が悪い』
『そんな奴にやる慈悲はない』
「だが、実際やっちまったから起こったことではあるんだよなあ」
「…先ずは罪状を見てから判断するか」
正義漢ぶる男二人。だが人間の判断の内、95%は衝動によるものだと言われている通りに彼らも悪趣味に惹かれて噂の渦中に踏み入っていく。
衝動は、欲望だ。
「うわ…人混み激しいな。ただの看板一つでこんなに腰を上げるもんかね人ってのは」
「嫌な奴らだなまったく。ついこの前にあったあん時のボヤじゃあどいつもこいつも布団にもぐって知らんふりでいたくせになあ」
ぶちぶち言いつつもつま先立ちし、一生懸命に人の咎を視ようとする男二人。
その姿はひな鳥のよう。餌に向かって顔を伸ばす。ついでに口もぽかんと開いてるもんだからまさにそれだろう。
傍から見れば彼らと立て看に群がる多くの民衆になんの違いも見当たらない。
「うっ…わ。色々書いてあんな。店員への傷害人妻に浮気、ついでに無賃乗車か」
「これは擁護できねえなあ」
「思い返せばあいつ、気分屋だからな。カッとなってやっちまいそうな奴だとは思ってたが…」
結局、この二人も喧騒の一部となる。
氷面に覆われていた視たくもないものはだんだんと太陽に溶かされ露見していく。
正義はいつも欺瞞の隣に根差している。
根太がゆるみ始めていた。