古明地てんとの明朗   作:ナチュラル7l72

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遅くなりました。
さとり様の口調で身内や独白するの超ムズイ。ですます調のイメージあるけど身内や一人語りで使うのは不自然だし…


お互いの評価

さとりお姉ちゃんは俺が知っている中で一番覚りっぽい覚りだ。

「まずメンタルが強いよね。」覚りは相手の心を見る都合上時々めちゃめちゃ病んでる人とかの心を視ることがあるけどさとり姉ちゃんはそれを物ともしない。俺やこいし姉ちゃんと違って(うわ。ってならずにね。それでいて遠慮なくズカズカと相手の心を土俗で踏みに行くんだから質が悪いよほんと。

 

「あと性格も良いよね。」その性格の良さが一番覚りっぽいところだ。さっきの話と関係するけど、普通相手が心に傷があると知っててそれをいたずらに触れにいく、なんて性格悪いことをする人は少ないだろう。別に可哀想だからとかじゃなくて知らん他人の苦労話とかめんどくさいし、こっちが嫌な気分にさせられるだけだしね。しかしうちの姉ちゃんは一味、いや二味くらい違う。むしろその負の感情を催眠波で無理やり引き出すし、そのトラウマに付け込んで如何にその傷を広げれるか、利用できるかを考える悪辣さと発想力がある。仲間としては嬉しいけどこの評価の奴が身内なのは嫌すぎるよほんと。

 

覚りとは相手の思考を読んで悪事を働く妖怪。その適性にはまず強靭なメンタルとそれを扱うあくどい性格が必要だ。さとり姉ちゃんにはいらない程にこれらの才能がある。

あと「自信家だし」ね。最近ネガティブ思考だけど自分が失敗するわけがないって神経を太くして考えるからそのおかげで本当に失敗しないのはさとり姉ちゃんの長所の一つだ。父さんが死んだあとお金が危険でピンチだった時にもさとり姉ちゃんが危険を冒して仕事に就いてくれたしね。

「あとなにより綺麗だよね!」仕事につけたのはそのおかげもあったんだろうなあ。仕事帰りのさとり姉ちゃんって疲労はまた別の対人ストレスによる疲れがあったみたいだし。いやはやせいぜい街にいる間はしっかり休んでいてほしいものだ。

 

でも、俺の心情読み取って勝手にまた働いてるみたいだけど。

 

 

 

「まあこんな所かな。もしかして贈り物でも送りたいって事?」

 

 

 

「なら俺が手伝ってあげるよ。さとり姉ちゃんのボーイフレンドさん」

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

「うーん…さとりお姉ちゃんって権力者の縁故とかない?」

 

「持っていないけれど、どうして?」

 

「さとり姉ちゃんって性格悪いから惚れられたボンボンとかに付かず離れずで目茶目茶奢らせてから捨てそうだよねって。絶対そういう経験あるでしょ」

 

「私にどういう印象を抱いているかよくわかったわ。今すぐそれを捨てなさい。…そうじゃなくて、なんで権威者の縁を欲しがっているの?」

 

「もちろん、妖怪(俺たち)のためだよ」

 

 

 

「妖怪…ね」

 

 

 

それは嘘だった。でも悪意は感じないし違和感もない。でも耳障りの良い、都合のいい言葉で書き換えたのだろう。

 

何かを言おうとして、言葉が詰まる。嘘を追及する時はいつもコレだ。嘘の裏には醜さが見え隠れするものだと経験則から私は知っているから。相手を騙してまで叶えたい欲望が詰まっていると知っているから。それはてんとだろうと同じなのでは…。と疑心が浮かぶ。

駄目だ。浅慮になりかけていると私は己を律する。浅慮は熟慮に勝ると言うが、私に言わせればそれは思考停止に過ぎない。納得できる結果を求めたいならば浅慮は大敵だ。

喉の奥に溜まっていた空気を吐き捨て、熟慮する。

 

この街についてからここにたどり着く道中までてんとは時たま会う人間から利を得ようとしていた。

個人的欲求を貪るためではない。"皆"のためを思っていた。

その理由は妖怪全体のため。素晴らしい同族精神。そう嘯いているが初めて明言されて確信する。

 

てんとは妖怪の事なんてどうでもいいと考えている。同族とは思っているが仲間だとは微塵も思っていない。

 

冷淡な性格だからというわけではない。その証拠にてんとは幼いころからよく力仕事や相談、雑事を私たちやご近所のためにしていた。

ふと私はあの時の、そこそこに楽しい、父も母も生きていたころの幸せだった日々を思い出す。もしかしたらてんとの本質はあの時から私は感じ取っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

木造りの一軒家。それが私達の家だった。

この頃は妖怪なんて、わかるものが見ればそこら中にいる程身近な存在だ。

この地域はそこそこの数の妖怪たちが共同で管理、住居にしている。ただ同じ妖怪といっても仲間意識は薄く一時的な協力関係に近いものだったらしい。それでも「ご近所」や「お隣さん」の概念はあったので一応仲間ではあったように思う。そのなかの一種が私たち覚りだ。ただ、そのことを周りの妖怪たちには誰にも言っていない。理由は言わずもがなだ。私たちが覚りだとバレれば追い出されることが容易に想像がつく。

 

 

 

「おぎゃー」

 

 

 

そんななか生まれたのがてんとだ。明るい髪色で太陽のような髪色と表情。私は自分でも嫌味な性格であることを知っていたから、いざ弟が生まれたら嫌がらせの様な事をしてしまうのではないか。そう憂慮していたけれどまったくの杞憂。結局こいしと同じく他人とは思えない程可愛い弟に嫌がらせなどできるはずがなくかわいがることしかできなかった。

定義上では私が長女でこいしが次女ではあるがこいしの姉であるという感覚は物心がついた当初からあったように思う。だから、私に新しい姉妹ができるという感覚は人生で初めてだった。

 

 

 

「ご飯粒ついてるわよ」

 

 

 

「うん、ありがとさとり姉ちゃん」

 

 

 

「こいしも」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

姉妹仲は極めて良好。一応、てんとの物心がつき始めたての頃はてんととこいしとの関係はあまり良くなかったようだったが、いつのまにか一緒にカブトムシを取りに行くくらいには仲良しになっていたのでそのあたりは誤差だろう。とにかく、なんの心配もない十分満帆な生活だった。

 

でも、このころ一つだけ不安があった。

 

 

 

『今日は一段と寒いぜ』

『洗濯物取り込まないと』

『腹減ったなあ。人間でも襲うか…』

『コオロギいる!』

 

 

 

幼いころのてんとにはある特異な癖があった。周りの生命の思考を視て、それをわざわざ自分の中でもう一度再生する癖。両親に聞いてもこんなことは私たちが幼いころはしていなかったらしい。だからこそ私は少し恐怖に似た不安を持っていた。

覚りの中でもより奥深くまで視れる目をもっていると私は自負している。その目で視たてんとは、思考を再生するだけでなくその思考を自分の思考に取り込んでいるように見えていたから。

 

 

 

「てんと…その癖、昔からよくやってるわよね」

 

 

 

「んー…?あ、コレ?癖ってものでもないけどね。ちなみにいつから始めてたの、コレ」

 

 

 

「…四つん這いを卒業したくらいからかしら」

 

 

 

「ふーん」

 

 

 

咄嗟に嘘をついてしまう。ああ…これは私の悪い癖だ。覚り相手に嘘なんて通用しないとわかっているのに嫌な予感がするとつい誤魔化そうとしてしまう。

 

いつから始めてたというより元々癖を持っていた、といった方が適切かもしれない。てんとがこの癖を始めたのは生まれてすぐだったから。

 

 

 

『おなかすいたなあ』

『雨が降りそうな天気だ』

『ちっちゃ!』

『かわいい…』

 

 

 

生まれたばかりのその赤子はまるで機械のように周囲の思考を読み取り脳内で再生していた。それがてんとだった。てんとが言葉を覚えるのが異様に早かったのもこのおかげなのだろう。でもその癖が影響したのはそれだけなのだろうか。この時から少し疑念を持っていた。

 

 

 

 

 

このころから定期的に両親は私たちを連れ人間たちのいる街へ繰り出すようになった。

私たち覚りはその能力の都合上、多くの人が多い場所にいると大量の思考に酔ってしまう事が多い。けど子供のころから少しずつ慣れさせていくといくらかマシになると経験則から両親は知っていた。情報を取捨選択できず勝手に視てしまうこの能力はこういう時だけ酷く不都合だ。

 

 

 

「相変わらず人間がごみごみしてる…」

「大丈夫?」

「ううん…」

 

 

 

『最近肌寒くてかなわん』

『花曇りが続いて頭が痛い』

『憎い、憎い憎い憎い。妻を殺した妖怪は…妖怪どもを絶対に許さない』

『お鶴さん元気かなあ』

『えーと小麦粉は…』

『全部妖怪が悪い!なんで生きるために命張らないといけないんだ!?』

『あなたがいない生活はなんてつらいんだ…』

 

「うわあ」

 

 

 

割と早い年でたどたどしくも言葉を話すようになったてんとは驚いたように声を上げる。

おぼろげながらではあるが私が初めてここを訪れた際も同じような反応をしていたように思う。人里に混ざり適当に散策する。単純だけれどその効果は昔の私の感覚と比べて確かなように感じた。

 

けれど、マシになる程度でしかないのもまた事実。人間の喜怒哀楽。特に怒哀は姉妹の中で一番慣れているはずの私でさえそれらは頭をバットで殴りつけられるように頭が痛み軋む。さらにこの頃から人間の妖怪に対する憎心が強まっていたのでそれはさらに顕著だったのを覚えている。戦闘力のない私たちからすればまったくとばっちりだ。こいしはあからさまに顔を歪め私の背中に顔をぐりぐりくっつけ痛みを和らげている。

その法則に則ればてんとは一番つらいということになる。さらに最近になり判明したことだが、てんとの第三の目は私たちの中で一番広い範囲に思考を読み取ることができるらしい。覚りとして良い事では間違いなくあるがその苦痛もまた酷いもののはずだ。

そう思いちらりと横を見る。母と手をつないで歩くてんとの横顔を覗いた。

てんとは無表情だった。まるでなにも視えていないかのように能面を周囲に押し付けている。けれど燃えるような色の髪に手の爪を食い込ませ頭を圧迫させているその様は正常だとは思えない。

 

 

 

「てんと、だいじょう…」

 

 

 

妖怪、化け物共が…

 

 

 

「そうなんだ」

「妖怪って化け物なんだな」

 

 

 

か細く震えた声。それは私にだけ聞こえた。

思考は、てんとの思想に影響を与えていた。

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

私の目はより深い部分が見え、こいしは感情の機微に敏感。そしててんとは単純に広く見え、疎らに、そして()()に思考を読み取る。

周囲の思考、全体の考えを自分の考えと同一のものと考えてしまう。それも自分の立場も考えずに。不幸だと嘆くべきはその能力ではなく幼さゆえに周りと自分の思考の差異がわからなかった経験不足だろう。

周囲が妖怪は化け物だと断じるならてんとにとっての妖怪もまた化け物になる。なってしまう。そしてあの空間はそれをてんとに強要し得る状況だった。

もし、あのまま大量の思考の中に放り投げたままだったのなら…あまり考えたくはない。

 

幸い尋常じゃない様子のてんとを見かねた両親がすぐにあの場を離れ事なきを得たがその代償に今もてんとは己の能力に全く慣れていない。心ではケロリとしていたが街に入った途端、自律神経が狂ったかのように冷汗をかいていたのを私は知っている。しかしあの時の癖はなくなっているようで、最近は周囲の思考を反芻する事も無くなり場合によっては私達の敵になり得たてんとはいなくなっていた。成長して自分と他人を切り分けられるようになったのだろう。

 

だけど、あの時の価値観はおそらくそのままだ。一度自分のものだと思ってしまったてんとの思考は妖怪は仲間だと思わず何か自分とは違う別のモノだと考えてしまっている。周囲の人間がそう思っているから。そして人間に対しても同じように考えている。周囲の妖怪がそう思っているから。周囲が変化していくことにより一見破綻しているかのような価値観が今もてんとの底に根差し続けている。きっと周囲をモノとして視ている価値観はそこからきてしまっているんだろう。

 

 

 

「…じゃ、ちょっと遊びに行ってくるから」

 

 

 

てんとは何も言わずに私の横を通り抜け部屋から出ようとする。そう、瞳に映る私の疑心に何も言わずに。

 

駄目だとわかっているのに、それを私にもこいしにも適用しているとしたら?と思考が邪魔をして動けない。声が出ない。声をかけたくない。

けど、これがだめだということもわかる。私の疑心に敢えてなにも言わないということは、弁解しようとも言い訳しようともしないということは私からの評価を甘んじて受け入れているという事。もし本当に私たちに対しても同じ価値観を持っているなら障害になり得る私の評価なんとか覆そうとするはずだ。

 

それに、私は知っているし見ていたはずだ。てんとが私たちのために一生懸命に企みなんとか皆の安寧を守ろうとしているのを。

 

 

 

「てんと」

 

 

 

遠くなりつつある肩に手を伸ばし優しく触れる。理論武装で固めた私は決意も共に固めた。

 

 

 

「なんで…私たちのためにそんなに頑張ってくれるの?」

 

 

 

「なんでって、そりゃあ…っ」

 

 

 

私の姿をてんとの瞳が捉える。

てんとの瞳に映った思考を私が視る。疑心に満ちていた心は信頼に置き換わっていた。

きっと大丈夫。だって弟だから。

 

 

 

「家族…姉妹だからね。当たり前だよ」

 

 

 

その言葉に嘘はなかった。あったのは温かいなにかだけだった。




この後ダイジェスト

「じゃ、ちょっと外行ってくるよ。別に気まずいとかじゃなくてホントに用事はあるから」

「待ちなさい。用事というのはコネの話ね?」

「そうだけど」

「じゃあ少し待ってなさい。私が作ってくるから」

「え?」



「すみません、ぶつかってしまって…服を汚してしまいましたか」

その少女は男にとって正に運命の出会いだった。鮮やかな髪色、ゆったりとした服、膝丈までのドレスは吹けば飛びそうな程儚げな少女に非常にマッチし普段高慢な態度を取り繕わない男でさえ思わず手を貸してあげたくなってしまう。さらに顔の造形も非常に美しく普段から美人麗人を見慣れている男も息をのんでしまうほどだ。その慎ましい胸も短所ではなく自然美のような魅力を放ち思わず男はまじまじと見てしまいそうになる。

「あ、ああ。これはかの有名な…!」

「すぐ拭います。…匂いも移ってしまったようですね」
「洗濯代はお支払いします。申し訳ありません」

「いや…金は払わなくていい。かわりにはなんだが、僕とお茶しないかい?」

富豪の生まれゆえに今まで純粋(に見える)な好意を受けたことのなかった男はちょろかった。めちゃめちゃちょろかった。

「はい、よろこんでお受けします…!」



「コネ作ってきたわ」

(俺の姉ちゃんホント姉として嫌すぎるな…)
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