魔法科高校の双子   作:まさかり

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一話

 魔法(まほう)

 それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となったのは何時のことだったのか。

 確認できる最初の記録は、西暦一九九九年のものだ。

 人類滅亡の預言を実現しようとした狂信者集団による核兵器テロを、特殊な能力を持った警察官が阻止したあの事件が、近代以降で最初に魔法が確認された事例とされている。

 当初、その異能は「超能力」と呼ばれていた。純粋に先天的な、突然変異で備わる能力であって、共有・普及可能な技術体系化は不可能と考えられていた。

 それは、誤りだった。

 東西の有力国家が「超能力」の研究を進めていく過程で、少しずつ、「魔法」を伝える者たちが表舞台に姿を見せた。「超能力」は「魔法」によって再現が可能となった。

 無論、才能は必要だ。だが、高い適性を有する者たちのみがプロフェッショナルと呼べるレベルまで熟達できる、という意味では芸術分野、科学分野の技術も同じ。

 超能力は魔法によって技術体系化され、魔法は技能となった。「超能力」は「魔法技能士」となった。

 核兵器すらねじ伏せる強力な魔法技能士は、国家にとって兵器であり力そのものだ。

 二十一世紀末――西暦二〇九五年を迎えても未だ統一される気配すら見せぬ世界各国は、魔法技能士の育成に競って取り組んでいる。

 

 国立魔法大学付属第一高校。

 毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。

 それは同時に、優秀な魔法技能士(略称「魔法師」)を最も多く輩出しているエリート校ということでもある。

 魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。

 この国にそんな余裕は無い。

 それ以上に、使える者と使えない者に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。

 徹底した才能主義。

 残酷なまでの実力主義。

 それが、魔法の世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 西暦二〇九五年四月。国立魔法大学付属第一高校の入学式とあって多くの生徒たちが駅からほぼ一本道の道路をどこかそわそわした様子で歩いていた。そんな中、二人の女子学生が雑談をしながら緊張したそぶりを見せることなく歩いていた。

 

「ふわぁー」

「こら、萌花(もか)。もっとシャキッとしなさい、今日は一高の入学式なのよ」

 

 二人の名前は杠葉(ゆずりは) 萌花(もか)杠葉(ゆずりは) 紫愛(しあ)。苗字からも分かるとおり双子の姉妹である。そんな二人だからこそ気心が知れているため、萌花のだらしない態度に対して紫愛は遠慮無く叱責した。

 

「そうは言われてもね、ボクが一高に進学する気がなかったのは紫愛(しあ)も知ってるでしょ」

「仕方ないわよ、他ならぬ御当主さまからの命令なのよ。従うほかないじゃない」

「それはそうだけど」

「まあ、今さらごねても何も変わらないわ。予定より遅い時間になってしまったんだから、少し急ぐわよ」

「予定の時間より遅れているのは紫愛が準備に時間をかけすぎたせいでしょ」

「あら、何か言ったかしら?」

「別に何でもないよ。それに元々早く着きすぎる時間だったから、問題ないでしょ」

「まあ、それはそれ、よ」

 

 以前から萌花は、進学先を一高ではなく他の魔法科高校に進学すると言っていた。紫愛もその意見に賛成しており、自分もそうするつもりであった。

 ところが、その意見は彼女たちの主によってひっくり返されてしまった。

 それ以降、萌花は紫愛を相手に何度も愚痴をこぼしていた。

 とはいえ萌花も本気で逆らうつもりもなく冗談半分で言っており、紫愛にもそれがわかっていたため今更取り合うことはなかった。そんな紫愛に萌花は不満そうな空気を出すもも、それを声に出すことはしなかった。そうして二人はしばらくの間、適当な会話を続けた。

 

 

「新入生の方はそろそろ入学式の会場へと向かってくださいね」

 

 二人が入学式の会場の講堂の近くに座って雑談をしていると、一人の少女が話しかけてきた。その少女は高校生にしてはやや小柄でありながらも、均等なプロポーションをしておりどこか蠱惑的な雰囲気を持っていた。

 

「分かりました、そろそろ向かいますね。七草先輩」

「紫愛?この人のこと知ってるの?」

 

 紫愛は話しかけてきた少女が名乗る前に、その生徒の名前を呼んでみせた。しかし、萌花はその少女のことに心当たりがないのか紫愛に聞いた。

 

「あのねえ、あなたも去年の九校戦で見ているはずよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。そっちの子は知ってくれているみたいだけど自己紹介しておくわね。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね」

「私は杠葉(ゆずりは) 紫愛(しあ)といいます、よろしくお願いします」

「ボクは杠葉(ゆずりは) 萌花(もか)だよ、それとセンパイのこと思い出したよ。よろしくね、エルフィンスナイパーさん」

「覚えててくれたのは嬉しいけどその呼ばれ方はあんまり好きじゃないわね」

「それはゴメンね、改めてよろしく七草会長」

「ええ、こちらこそよろしくね。萌花さん、紫愛さん」

 

 そうして自己紹介を終えた萌花と紫愛、そして七草真由美は和やかな雰囲気のまま雑談を続けた。

 

「それにしても君たちがあの杠葉さんたちなのね」

「あれ?もしかしてボクたちの事を先輩は知っていたの?」

「ええもちろんよ。先生方の間での注目株なのよ」

「そうなんですか?」

「そうなのよ。萌花さんは次席、紫愛さんも第三席、の成績で入学したのよ。例年なら二人とも首席を狙えるほどの成績を残しているのよ。注目もそれだけ大きいわ」

「紫愛が三席だったんだ、おめでとう」

「ありがとうと言いたいのだけれど、私より上の席次の人に祝われてもね」

「それはゴメンね」

「それにしても、二人は双子なのにあまり似ていないのね。あ、私の妹たちも双子なんだけどね、顔つきはよくにているのよ」

「まあ、ボクたちは二卵性だしね」

「そうね、ということは七草先輩の妹さんたちは一卵性の双子なんですね」

「そっかー、二卵性だと瓜二つとはいかないのね。双子の子に会うことはほとんど無かったから、あまり気にしたことなかったわ」

 

「いつまで新入生の誘導をしているのですか、真由美さん」

 

 そうして三人で少しの話を続けていると、一人の生徒が萌花たちの元へ、より正確には七草のもとへやって来た。

 

「あら、リンちゃん。ってもうすぐ入学式が始まっちゃうじゃない」

「そうですね、教員の方々も最終打ち合わせをしたいと考えているようでしたので、私が呼びに来たのですよ」

「ありがとう、リンちゃん。二人にも紹介するわね、こちらは生徒会会計の市原鈴音、通称リンちゃんよ」

「私のことをそう呼ぶのは会長だけですが」

「初めまして、私は新入生の杠葉紫愛といいます」

「同じく新入生の杠葉萌花だよ。ちなみにボクと紫愛は双子だよ。よろしくね、市原センパイ」

 

 七草を呼びに来た少女は市原と名乗ると、すぐに七草を連れて行くために動き始めた。

 

「色々と話していたいのですが、時間が迫っているのでまたの機会という事で。それでは失礼します、萌花さん、紫愛さん」

「それじゃ、またね二人とも」

 

 そうして話を切り上げると市原は七草を連れて講堂へと向かっていた。七草もそれに逆らうような真似はせず、二人に別れを告げると市原の後を追いかけて行った。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 七草たちと別れてから二、三分してから二人は入学式会場の講堂へと足を踏み入れた。

 

「ここで入学式をするんだ。紫愛、これって席に指定とかあるっけ?」

「無いはずよ、というか高校側は一科生と二科生の間での差別は否定しているもの」

 

 講堂に入った時点で会場の席の半数が埋められていた。

 席は自由だと知らされていたのだが、新入生の並びには明確な区分が存在していた。

 前半分、制服に八枚花弁のエンブレムがあしらわれている生徒たち。後ろ半分はそれらがない生徒たちだった。この学校には入学試験の結果に沿って、定員二百名の新入生を一科と二科に分けている。これは後進の育成に必要な教員が慢性的に不足しているという現状からくるものだった。

 入試で優秀な成績を収めた魔法師の雛鳥が大成し、微力ながらも国の戦力となるようにという思惑なのは容易に想像ができる。だから、魔法科高校では教育機会の均等というものは存在しないのだ。育成者が少ない現状ではそれは望めない。仕方のないことだ。

 

「まったく、くだらないね」

「それには同感よ。席は適当にこのあたりでいいかしら」

「別にどこでもいいよ、たいして変わらないんだし」

 

 萌花はそんな生徒たちが自ら一科生と二科生に分かれている様子を見て、この状況をくだらないと評した。紫愛も萌花の意見に同意した。

 そうして入り口の近くの適当な席に座り、入学式が始まるのを待った。

 

 

 入学式は恙なく終わり、二人は講堂の外に出ることにした。

 

「んー、ようやく解放されたね」

「そう言いつつ船を漕いでいたのを知っているのよ」

「げ、バレてたか。まあ仕方ないでしょ、あんな長いだけが取り柄の式典なんてツマラナイんだからさ」

「そうは言いつつも新入生総代の挨拶を、しっかり聞いていたみたいね」

「あんな騒々しい中、いくらボクでも気になって眠れないよ」

「まあ、それもそうね。総代の子の挨拶はみんな注目していたもの」

「それもそうだけど、それ以上に挨拶の内容も面白かったよね。『みんな一丸となって』とか『魔法以外にも』とか、トゲを上手く隠していたけど」

「あの様子なら新入生だけでなく、一科生の先輩ですら気づいていない人が大半かもね」

「さすがにそこまで惚けた人が多いとは考えたくないわね」

「だね、それはそうとこれからどうするの?」

「とりあえずはIDカードを受け取りに行くわよ」

 

 予め各人別のカードが作成されているわけではなく、個人認証を行ってその場で学内用カードにデータを書き込む仕様となっている。そのため複数あるどこの窓口に行っても手続きが可能なのだが、ここでも一科生と二科生で壁が生まれていた。

 萌花はその様子に呆れた目を向けており、紫愛は萌花のそんな様子に苦笑いを浮かべていた。

 

「ねえ、萌花は何組に配属されたの?」

 

 二人は窓口でに移動し手続きを終えると列から少し離れたところで合流した。そこで紫愛は待ちきれないといった様子で萌花に問いかけた。

 

「ん?ボクはA組に配属されたよ」

「あら、私もだわ。ってそんな嫌そうな顔しないでよ」

「この後はどうする?」

 

 萌花は自分が紫愛と同じクラスになったと分かり、少し嫌そうな表情を浮かべた。そのことに気がついた紫愛はそのことにクレームを入れた。しかし萌花はそんなことは些事と言わんばかりに話をそらした。

 紫愛も萌花の態度を気にすることなく話題を変えた。

 

「その後はホームルームに行くか帰るかのどちらかになるわね」

 

 以前からの伝統を重視している一部の学校を除いて、今の高校に担任教師という制度はない。

 事務連絡にいちいち人手を使う必要はなく、またそんな人件費の無駄遣いをする余裕のあるところも少なく、全て学内ネットに接続した端末配信で済まされる。

 学内端末が一人一台制になったのは、何十年も前のことだ。

 個別指導も、実技の指導でなければ、よほどのことでもない限り情報端末が仕様される。

 またそれ以上のケアが求められるのならば、専門資格を持つ複数分野のカウンセラーが学校には必ず配属されている。

 では何故ホームルームが必要かというと、実技や実験を行う上での都合だ。実技や実験を時間内に終了させ、かつ余剰時間を作らないようにするには、人数を一定程度に分ける必要がある、ということだ。

 加えて自分専用の端末があるということは、何かと便利だという側面もある。

 どのような背景にせよ、一つの部屋で過ごす時間が長ければ、自然と交流も深まる。

 担任制度が無くなったことで、クラスメイト同士の結びつきは、むしろ強くなっていた。

 

「ホームルームには興味がないからとっとと帰りたいかな」

 

 しかし萌花はクラスメイトとなる生徒たちと仲良くする気を端から持ちあわせていない。そのためホームルームに参加することは無駄としか考えていなかった。

 

「そう、お昼はどうする。入学祝いということでどこかに食べに行かない?」

「相変わらず自分に甘いみたいだね」

「うるさいわね、それより何か食べたいものはある?」

「んー、まあ向かいながら考えるよ」

「そう、じゃあ候補をいくつか出しておくからそこから選んでおいて」

「りょーかい」

 

 そんな萌花の考え方をくみ取った紫愛も、萌花とともに帰宅するという選択を取った。そうしてお昼ごはんの相談をしながら第一高校前駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 二人はお昼ごはんを食べ終えると、自宅へと帰宅した。お昼ごはんを食べるために少し離れたところへ出かけていたため、時刻はまもなく夕暮れに差し掛かる頃合いであった。

 この家は平均を大きく上回るほどの立派な家ではあるが萌花と紫愛の二人で使用していた。

 これまでは家族と暮らしていたのだが、高校入学を機に一高の近くに引っ越すことにした。それならばと二人の親が立派な家を用意してくれた。これに対して二人は何も思わなかった訳ではないが、大きいのならわざわざ文句を言う必要はないと考えため、口出しはしなかった。

 現在、紫愛はリビングでテレビを見ながらくつろいでいた。

 

「あら、そろそろいい時間ね」

 

 時計を見てそんな反応をすると、帰宅後地下室にこもっている萌花へと通話をかけた。少しの間コール音がなった後に、萌花が出た。

 

『どうかしたの?紫愛』

「どうかしたかじゃないわよ、時間を見てみなさい」

『うわっ、もうこんな時間になっていたんだ』

「そうよ、ということで早くリビングに戻ってきなさい」

『りょーかい』

「どのくらいかかりそうかしら?」

『五分から十分かな』

「分かったわ」

 

 紫愛はそう返事をすると通話が切られた。そのことに少しの不満を持ちながらもいつものことと割り切った。

 萌花は自身で言ったとおり十分もかからずに、地下室からリビングへと戻ってきた。紫愛はその時点で配膳まで終えており、萌花はそのことに軽く謝罪すると席に着いた。

 

 ホーム・オートメーション・ロボット(HAR/ハル)が普及している先進国では、台所に立つ女性は――無論男性も――どちらかといえば少数派になっている。本格的な料理ならばともかく、パンを焼く、コーヒーを入れる程度の簡単なことに自分の手を使う者は、趣味でもなければほとんどいない。

 二人も多数派に属しており、特別なことでも無い限りは機械任せとなっている。

 萌花が席に付いたことを確認した紫愛が食事の挨拶をした。

 それからゆっくりと夕食を食べながら、いくつかの話題が食卓を彩ってた。そうして二人ともが夕食を食べ終えたことを確認すると紫愛が本題へと切り出した。

 

「そうそう、萌花。あなた宛に荷物が届いていたわよ」

「ん?ボクは特に何も頼んでいなかったと思うけど」

「宛先から考えると、おそらくはCADだと思うわよ。ほら、先週に調整していたじゃない」

「ああ、高校入学を機にCADを新しくしたいって伝えたら対応に時間がかかるって言われたんだっけ」

「ええ、多分というかそれでしょうね」

 

 CAD――術式補助演算機(Casting Assistant Device)。

 デバイス、アシスタントとも呼ばれている。

 この国ではホウキ(法機)という呼称も使われる。

 魔法を発動する為の起動式を、呪文や呪符、印契、魔法陣、魔法書などの伝統的な手法・道具に代わり、提供する、現代の魔法技能士に必須のツール。

 一単語、あるいは一文節で魔法を使い分ける呪文は、今のところ開発されていない。呪符や魔法陣を併用したとしても、短くて十秒前後、ものによっては一分以上の詠唱が必要となるところを、CADは一秒以下の簡易な操作で代替する。

 CADが無ければ魔法を発動できないというわけではないが、魔法発動を飛躍的に高速化したCADを使わない魔法技能士は皆無に等しい。一定の技能に特化することを代償として、念ずるだけで超常現象を引き起こすいわゆる「超能力者」も、起動式システムがもたらすスピードと安定性を求めてCADを愛用する者が主流となっているほどだ。

 ただし、CADがあれば誰でも魔法を使えるというわけでもない。

 CADは起動式を提供するだけであり、魔法を発動するのは魔法技能士自身の能力。

 つまり、魔法を使えない者には無用の長物であり、CADを所持するのはほぼ百パーセント、魔法に携わる者である。

 そしてCADの調整にはそれなりに高価な専用の機械と高い技術力が求められる。そのため二人は入学の一週間前に専門施設で調整を行っていた。しかしそこで萌花は起動式の多くを変更していたのだが、その調整に時間がかかり過ぎると言われてしまいCADを預けてきたのだった。

 

「それより萌花、あなた新しくする必要があったの?」

「まあ、今までよりも穏便に対処できるようにしておいただけだよ」

「そう、まあ早い内に慣れておきなさい」

「それは問題無いよ、それじゃこれから記憶してくるよ。それじゃおやすみ」

「ええ、おやすみなさい」

 

 そうして二人の団らんは終了し、それぞれの部屋へと戻り、夜が深まっていった。




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