魔法科高校の双子   作:まさかり

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二話

 魔法科高校、入学二日目。萌花も紫愛も高校に入学をしたからといって生活態度を変えるような自堕落な性格はしていない。二人とも余裕を持って起床し、萌花は地下室でトレーニング、紫愛は自室で勉強に励んでいた。

 そうして七時を過ぎた頃に二人は制服に着替えた状態でリビングで朝食を取り、七時三十分になる前には家を出て駅へと向かった。

 

 駅に近づくに連れ、学生や社会人の姿が増えてきた。

 通勤・通学の人並みが、停車中の小さな車体に次々と、整然と乗り込んでいく。

 満員電車、という言葉は、今や死語となっている。

 電車は依然として須要な公共交通機関だが、その携帯はこの百年間で様変わりしていた。

 何十人も収容できる大型車両は、全席指定の、一部の長距離高速輸送機以外、使われていない。

 キャビネットと呼ばれる、中央管制された二人乗りまたは四人のりのリニア式小型車両が現代の主流だ。

 動力もエネルギーも軌道から供給されるので、車両のサイズは同じ定員の自走車の半分程度。

 プラットホームに並ぶキャビネットに先頭から順次乗り込み、チケット、パスから行き先を読み取って運行軌道へ進む。

 運行軌道は速度別に三本に分かれており、車両間隔を交通管制システムでコントロールしながら低速軌道から順次高速軌道へと移動し、目的地に接近すると今度は高速軌道から低速軌道へシフト、到着駅のプラットホームへ侵入する仕組みとなっている。

 高速道路で車両変更を進行するようなものだが、管制頭脳の進歩により高密度の運行が可能となり、何十両も連結された大型車両を走らせるのと同じ輸送量が確保されている。

 これが都市間の中・長距離路線となると、キャビネットを収納して走るトレーラーが四番目の高速起動を走っており、乗客はキャビネットを降りて大型トレーラーの設備を利用しくつろぐことができるようになっているのだが、通勤・通学で使われることはほとんどない。

 昔の恋愛小説のように、電車の中で偶然の出会いが、などというシチュエーションは、現代の電車通学では起こりえない。

 友達と待ち合わせることができない代わりに、痴漢の被害に遭うなどということもない。

 キャビネットの車内に監視カメラ・マイクの類はない。

 走行中に座席を離れることはできないようになっているし、席と積を隔てる緊急隔壁システムも整備されている。それ以上は、プライバシーが優先されるというのが社会的コンセンサスだからだ。

 電車は今や、自家用車と同じくプライベート空間になっていた。

 一人ずつしか乗り込むことができない防犯措置がほどこされているキャビネットは、二人乗りを一人で使うことも可能だが(四人乗りを二人以下で使うと追加料金が徴収される)、萌花と紫愛はわざわざ別の車両に乗ることはせず一緒のキャビネットで登校していた。

 とはいえ、常に会話を続けているといったようなことは無く、片方が話しかけるともう片方が応じるといったことを繰り返しており、合間にはネットサーフィンをすることで時間を潰していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 何事もなく一高に到着した二人は、これから一年を過ごすことになるクラスへと向かった。昨日のうちに顔合わせが済んでいる生徒も多いようで幾つかのグループが形成されていた。二人は知り合いがいるわけではないので、自分の端末を探すとIDカードを登録し、相談しながら受講登録を進めていた。

 そうしてしばらくすると、始業の時間になったようでアナウンスがかかった。

 

『ただいまよりオリエンテーションを開始します。生徒の皆さんは席についてください』

 

 校内放送が流れるとそれまで自由に過ごしていた生徒たちはそれぞれ席に着いた。生徒全員が席について少しした頃、教室に教員とおぼしき男性が入ってきた。

 

「皆さん入学おめでとう、一年A組指導教官の百舌谷です。

 難関である一高の中でもA組は特に優秀な成績で試験を通過した方たちにより構成されています。主席の司波さんだけでなく皆さん全員が優等生であり、期待を背負っていることを忘れないでください。

 ここでは図書館や情報端末で学外秘の豊富な知識にアクセスでき、また実際に魔法師として活躍している先生の貴重な授業を受けることができます。これらの権利は魔法師の絶対数がまだまだ不足しているため一科生だけにしかありません。皆さんはこの機会を利用して大いに学んでください。

 この後は専門授業の見学です。午前中は基礎魔法学と応用魔法学、午後は魔法実技演習の見学を予定してますので希望者は十分後に実験棟一階ロビーに集合してください。他に見学したい授業があれば自主的に行動して構いません。では私は次の授業がありますので」

 

 それだけを伝えると指導教官の百舌谷は教室を後にした。紫愛は萌花の席に向かい予定を相談することにした。

 

「ねえ、萌花はこれからどうするの」

「今日はとりあえず専門授業の見学について行くつもりだよ。この学校の雰囲気も知っておきたいしね」

「そう、じゃあ私もそうするわ。それじゃあ集合に遅れないように早く行きましょう」

 

 クラスメイトたちも萌花や紫愛と同じ選択をしたようで、教室にいた生徒はみな実験棟のロビーに集合した。そこではすでに一人の男性教員が待機しており、そのまま実験棟に入り解説を始めた。

 

「この授業は放出系統魔法の基礎を学ぶもので、摩擦によらず静電気を発生させ空中放電で帯電状態を解消する実験です。

 それでは放出系統魔法の性質について説明できる人はいますか」

 

 説明を行っていた教員は突如、生徒たちに質問を投げかけた。質問があるとは思っていなかった生徒たちの間では小さくない動揺が走った。そんな中、一人の男子生徒が手を挙げた。

 

「はい、先生」

「森崎くんですか、どうぞ」

「放射線を操作する魔法ですか?」

「間違いではありませんが不正確です。

 それから質問に対する回答に疑問形を用いるのはやめるように。たとえ自分の考えに自信がなくてもそれを相手に見せるべきではありません」

 

 自信満々に答えた森崎だったが、教員の容赦のない駄目出しに少し沈んだ様子を見せる。萌花はそんな森崎の様子を見て鼻で笑う。そんな萌花の様子に気づいたのか教員は次の生徒を指名した。

 

「では……そうですね、杠葉萌花さん。いかがですか」

「放出系統魔法とは素粒子及び複合粒子の運動と相互作用に干渉する魔法、でしょ」

「簡潔にまとめられたなかなかよい回答です。

 ただ敬語でなかったのは気になりましたが、まあ今回は多めに見ましょう」

 

 教員からもらった小言に首をすくめてみせる萌花。多くの生徒にとってはそんなことは些事だったようで、萌花の魅せた回答の質の高さに驚きをみせていた。

 そんな一幕がありつつも時刻は昼休憩を迎える頃になった。

 

「昼の休憩は十二時二十分より、午後の見学は十三時四十分から行います。希望者は校庭側の実技棟入り口に集合してください」

 

「んー」

「萌花、少し気を抜きすぎていないかしら」

「そうかなあ?」

「まあ、多少なら多めに見てあげるけど。それ以上気を抜くようなら許容範囲を超えるわよ」

「りょーかい、もう少し真面目にするよ」

「ええ、是非そうしてちょうだい。それじゃ、食堂にいきましょうか」

「だね、色々あるみたいだし」

 

 そうして二人は昼食を済ませると、午後の見学に参加し有意義な時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 こうして、午後の見学を終了した生徒たちはクラスへと戻ってきた。ホームルームは始業前に済んでいるため、緊急の要件でもない限りは授業が終了次第解散となる。

 

「これで一通りは終わったんだよね、紫愛?」

「ええ、ただこれから生徒会室に呼ばれているのを忘れた訳ではないわよね」

「げ、そうだった。それって無視するのはダメ?」

「駄目に決まっているでしょう、ほら、とっとと向かうわよ」

 

 やる気のない萌花は生徒会長からの呼び出しを無視しないかと紫愛に持ちかけた。それを紫愛が了承するはずもなく、二人は生徒会室へと向かった。

 生徒会室に着いた二人は紫愛がノックし、入室の許可を求めた。許可を求めた紫愛の声に、明るい歓迎の辞がインターホンのスピーカーから返された。

 

「いらっしゃい遠慮しないで座って」

 

 指し示された先は会議用の長机。今時、情報端末が埋め込まれていないのは、飲食用途を見越してのことなのか。

 なんにせよ、学校の備品としては珍しい重厚な木製の方卓に、紫愛が上座、萌花が下座へと腰掛けた。

 

「失礼します、一年A組の杠葉紫愛です」

「同じく一年A組、杠葉萌花」

「丁寧にありがとうね、入学式の日にも挨拶したけど生徒会長の七草真由美です。こちらは風紀委員長の渡辺摩利」

「よろしくな、杠葉姉妹」

「名前を呼ぶ時にまぎらわしいと思いますので名前で読んでいただいて構いませんよ」

「そうか、ではよろしくな萌花さん、紫愛さん」

「んー」

「どうかしたか、萌花さん」

「なんか違和感があってね、呼び捨てでいいよ、委員長さん」

「そうか、実を言うと私のほうも肩がこりそうだったんだ。改めてよろしくな、萌花、紫愛」

 

 そうして四人が自己紹介を終えると、早速と言わんばかりに摩利が本題を切り出した。

 

「それじゃ、早速本題に入らせてもらうぞ。君たちには風紀委員会に所属してもらいたい」

「風紀委員会?

 紫愛は風紀委員会ってどんな役割か知ってる?」

「ええ、主に魔法の不正使用を取り締まる役職という事なら。ただそれ以上の詳しいことまでは把握してないわ」

「ああ、その認識で間違っていないぞ」

「紫愛さんは入学したばかりなのによく知ってるわね」

「いえ、大したことではありませんわ」

「ねえ、紫愛。それって知らなかったボクへの当てつけ?」

「さあ?委員会くらいは頭に入れておきなさいと伝えた気はするけど」

 

 紫愛の言葉に居心地が悪いのか萌花は少しだけ目をそらした。そんな萌花の態度を面白そうに見る真由美と摩利だったが、話を先に進めるため摩利が風紀委員について説明を始めた。

 

「風紀委員の主な仕事は魔法使用による校則違反者の摘発と、魔法を使用した騒乱行為の取り締まりだな。萌花には教職員推薦、紫愛には部活連推薦でそれぞれ風紀委員に指名がかかっている。どうだ、私としては是非君たちに引き受けて欲しいんだが」

「ええ、お願いできないかしら」

「萌花、あなたはどうしたい?」

「面白そうだね、それ。引き受けるよ、よろしくね、委員長さん」

「そうか、それはありがたい。紫愛さん、君はどうだ?」

「光栄に存じます。それからよろしくお願いいたします、渡辺委員長」

「よし、それじゃこれから風紀委員室へと案内する。二人ともついてこい」

「分かりました、それでは。七草生徒会長、これで失礼させていただきます」

「またね、会長さん」

「ええ、また」

 

 二人は真由美に挨拶をすると、摩利の後に続いた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 部屋の奥、普通なら非常階段の設置されている場所に、風紀委員会本部への直通通路があった。彼女に続いた裏口を通り抜け、本部室へ足を踏み入れた二人に、摩利は長机の前の椅子を指差した。

 

「ここが風紀委員室だ。少し散らかっているが、まあ適当に掛けてくれ」

「これを少しとするのは無理だと思うけど」

「風紀委員は男所帯でね。整理整頓は口酸っぱく言い聞かせてはいるんだが」

「そうなんだ、紫愛はどう思う?」

「そんなの決まっているわよ、渡辺委員長」

「なんだ、どうかしたか?」

「今からここを片付けますが構いませんか?」

「それは構わないが、いいのか」

「紫愛はこうやって乱雑になっているのを嫌う性格なんだよ。まあ、これからボクたちも使うことになるんだし、綺麗なことに越したことはないでしょ」

「そうか、私もやろう。話は手を動かしながら聞いてくれ」

 

 萌花と紫愛は許可を求めた時点ですでに手を動かし始めていた。摩利も改めて許可を求められたことでそれに気づき、慌てて手を動かし始めた。

 手を動かす速度は二人とも同じであったのだが、摩利の手元には一向に机の天板が見えてこなかった。摩利が二人の様子を確認すると、その手元には大きなスペースができあがっていた。

 摩利は手を動かすのを諦めて、小さく溜め息を着いた。

 

「二人ともよくそこまで早く片付けられるな」

「これくらいは、当然でしょ。最も委員長さんは時間をかけても難しそうだけど」

「その通りだが、実際に言われると結構来るものがあるな」

 

 摩利はそう言うと、開き直ったのか、紫愛が片付けた椅子にもたれかかるように腰掛けて座り、書類の束をパラパラ見ている。

 そんな摩利の様子をよそに二人はテキパキと片付けていく。

 

「紫愛、こっちの書類は適当にまとめておいたから後はお願い」

「わかったわ。それじゃあ、そっちに紙の本がいくつかあったから並べておいて。ブックスタンドは埋もれていたものをその辺にまとめてあるわ。それからそこのキャビネットの中も整理しておいて」

「了解。このペースならあと二十分もあれば終わるだろうね」

「それじゃあ十五分で終わらせるわよ」

「りょーかい」

 

 そんな二人の様子を見ていた摩利はどこか面白そうな表情を浮かべていた。そうして思い出したかのように説明を始めた。

 

「そういえばまだ話していなかったが、風紀委員会には後二人、新入生が入ることになるだろう」

「あら、そうだったんですか。差し支えなければ誰が入るかお伺いしてもよろしいですか」

「ああ構わないぞ、一人は一ーAの森崎駿だ。もう一人は生徒会推薦枠で入ることになっているんだが、まだ人選中らしくてな。まだ決まっていないんだ」

「森崎駿ね、ああ彼か」

「?紫愛、それってどんなやつだっけ」

「相変わらずね、ええっとなんて言ったらいいかしらね。一科生であることを鼻にかけている子よ。後はそうね、クラスのリーダーみたいに振る舞っていたわ」

「んー、ちょっと待ってね。今思い出しているから。ああ、思い出した、放出系統についてへんな回答したやつだ」

「その覚え方は少し同情しそうだけど、まあその子よ」

「まあ、無事に覚えているようで何よりだよ。彼が風紀委員会に入るわけだ、まあ問題は起こさないでくれよ」

「だってさ、紫愛」

「問題を起こすならあなたでしょう」

 

 紫愛をからかうも、あっさりとカウンターをもらった萌花。想定していたとはいえ気まずいのか顔をそらしてしまう。紫愛はその反応を見て自覚があることに安心した。

 萌花はこの場の雰囲気を変えるため話題を強引に変えた。

 

「とりあえず片付けはこんなところかな」

「相変わらずね、まあ今日のところはこんなものでいいわね」

「今日はって?」

「さっきチラッと確認したけど、活動報告書がほとんどまとまっていなかったのよ」

「委員長さん?」

「仕方がないだろう、そもそも部屋の掃除をできていないのにそこまで手が回ると思うのか」

 

 摩利は開き直ったのか堂々と反論して見せた。とはいえ、その言い分には一部の隙もないため、萌花と紫愛は顔を見合わせて苦笑いをした。

 

「と言うわけで明日の放課後もこちらに伺いますね」

「ああ、是非頼む」

 

 そうして三人が解散しようとすると風紀委員会と生徒会室をつなげている部屋の扉が開いた。

 

「……ここ、風紀委員会本部よね」

 

 扉を開け階段を下りてきた真由美の、開口一番がこの言葉だった。その言葉に摩利は不満を示す。

 

「いきなり随分な挨拶だな」

「だって、そうじゃない。摩利。

 リンちゃんがいくら注意しても、あーちゃんがいくらお願いしても、全然片づけようとしなかったのに」

「事実に反する中傷には断固抗議するぞ、真由美!

 片付けようとしなかったんじゃない、片付かなったんだ!」

「女の子としてはそっちの方が問題だと思うけど……ああ、そういうこと」

 

 キャビネットや書類を棚に並べている二人の姿を見て、真由美は納得顔でうなずいた。

 

「それじゃあ、そろそろ生徒会室を閉めるから、摩利も早めに二人を帰してあげてね」

「心配しなくてもそろそろ帰すところだ」

「そう、なら大丈夫そうね。またね、萌花さん、紫愛さん」

「またね、会長さん」

「ええ、失礼します」

 

 そう告げると手を振って、真由美は生徒会室へ引き揚げていった。それを見た萌花と紫愛も摩利に挨拶をし、風紀委員室を後にした。

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