魔法科高校の双子   作:まさかり

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三話

 入学三日目、この日のA組は実習授業のガイダンスが行われていた。

 監督している教員が壁面モニターに表示された操作手順を解説しながら、据置型の教育用CADを操作している。今日の授業内容は入門編中の入門編として、授業に使うこの機械の操作を習得することである。

 ガイダンスとはいえ、習熟度が目標に達しているかを確認するため、課題が出されている。今日の課題はこのCADを使い、三十センチほどの小さな台車をレールの端から端まで連続で往復させる、というものである。いうまでもないが、台車には直接触らずにである。

 この課題の難易度はやさしめに設定されているため、生徒たちは非常にリラックスした状態で課題に取り組んでいた。

 教員の指示により、萌花は最初に実習を行う組に振り分けられた。

 萌花は据え置き型のCADの前に立つと、ペダルスイッチでCADを支える脚の高さを調整した。そしてサイドワゴン大の筐体の上面全体を占める白い半透明のパネルに手を押し当て、準備が完了したことを示すため教員の方へと視線を向けた。

 その目配せを受け教員から開始の合図が出されたを確認すると、軽く息を吸い込み肩を上下させた。

 一拍置いて、肉眼には見えない、だが魔法師には知覚できる光、想子(サイオン)の波動が萌花からわずかに漏出した。起動式の展開とそれに続く魔法式発動で、使い切れずに余った想子(サイオン)の光だ。技巧に優れた魔法師ほど余剰想子光は少なくなるものであり、萌花の技量は高校生離れしているといえるほどだった。

 この実習は、レールの中央地点まで台車を加速し、それからレールの端まで減速して停止、逆向きに加速・減速……を三往復行うというものである。CADに登録されている起動式は加速・減速を六セット実行する魔法式の設計図だ。加速度の大きさ自体の指定はないから、その部分は生徒の力量が反映されることになる。

 萌花が行った演習結果は、発動速度こそ周囲より多少速い程度であったが、台車の動きはキビキビとしており、目を見張るものがあった。

 

「ん、簡単だね。これやる意味あるのかな」

「萌花、もう少し声のボリュームを抑えなさい。先生に聞こえてしまうわよ」

 

 課題をクリアした萌花は、予想以上に簡単で拍子抜けしていた。そのことを思わず漏らすも、後ろに並んでいた紫愛に聞こえてしまい、咎められていた。

 

「それにいくらタイム測定が無いからといって、あの出来は酷すぎるわよ。手を少し抜きすぎなんじゃないの」

「紫愛の言っているようにタイム測定なんてしてないんだから、別にいいでしょ。それにちゃんとするときはちゃんとするよ」

「まったく、もう」

「ああ、そうだ。起動式はノイズが酷いから」

「あら、あなたも期待していた訳ではないでしょ」

「それはそうだけどさ、仮にも国立の魔法科高校なんだからさ。ちゃんと整えてほしいよ」

 

 紫愛は萌花を咎めてはみたものの、萌花はのれんに腕押し状態で意に介すことは無かった。萌花はなおも批判を続けたため、紫愛は萌花をからかうことで溜飲を下げることにした。そんな紫愛の態度に、萌花は批判の矛先を他に移すことで自分を納得させた。

 そんな萌花を微笑ましく見守りながら、紫愛は気合いを入れて実習に移ることにした。

 紫愛は萌花とは違い演習に全力で取り組み、クラス内で上位の出来映えであった。

 

「紫愛は随分と真面目に取り組んだね」

「高校生活で初めての実習なんだから、それは当然よ。とはいえ、あなたの言っていたとおり起動式はノイズが酷かったわ。七草会長を通じて改善の要望を出してみようかしら」

「あ、それ賛成。よろしくね」

「あなたは、全く」

「お、次は主席の子だね」

「ええ、司波深雪さんね。生徒だけでなく先生まで演習に注目してるわね」

「ほんとだ。でも本人はプレッシャーを全く感じてなさそうだね」

 

 この場にいる全員から注目されていながらも、それをプレッシャーに感じていない深雪に驚く萌花と紫愛。

 そして、その堂々とした態度にふさわしい技量を示して実習を完了してみせた。

 

「台車の動きも周囲より数段上の速さだったけど、それ以上に発動速度が周りとは桁違いだったね」

「あら、あなたも出来るのではなくて」

「さあ、どうだろうね。少なくとも慣れてない機械であれだけのパフォーマンスをしてみせるのは流石としか言い様がないよ」

「そこについては同感ね。願わくば全力のあなたと比較してみたいのだけれど」

「そこはノーコメント」

 

 二人は深雪の演習結果を評価しながらも、軽口を叩いていた

 深雪が主席たる所以を見せつけ、周囲の賞賛を受けていた。本人は謙遜しながらも少し照れくさそうにその賞賛を受け取っていた。

 今回の演習では、課題の難易度もあり全員が難なくクリアし、初めての実習授業はこれで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 三日目の授業が終わり、放課後の時刻となった。二人は昨日、摩利にも伝えていたとおり風紀委員本部へ向かった。紫愛が本部のドアをノックし少し待つも返事はなかった。

 

「あれ?返事がないね」

「そうね、もう少し待ってみましょうか」

「面倒すぎない、それ。委員長さんはボク達が来ることを知っているんだから入っても問題ないでしょ」

「あ、ちょっと萌花。待ちなさい」

 

 応答がなかったため紫愛がどうするかを考えていると、萌花が遠慮すること無く本部の扉を開けた。そして紫愛の制止を無視して中に入っていった。

 

「やっぱり、誰もいなかったね」

「やっぱりって」

「ノックした段階で中から人の気配は感じ取れなかったからね。それよりどうする?」

「しばらくここで待機していましょう。もうしばらく待っても来なければ連絡すればいいだけのことよ」

「そう、じゃあのんびりしてるね」

 

 そういうと萌花は持っている端末から電子書籍を開くと、読書を始めた。紫愛は萌花の様子を見ながら、自分はどう時間を潰すか考え始めた。

 

 

 

「なんか生徒会室の方がうるさいね、何かあったのかな」

 

 そうして風紀委員本部で待機すること十数分、突如生徒会室の方から大きな声が聞こえてきた。それまで静かな空間にいた二人にとっては、気に障るものであった。特に萌花は読書の邪魔をされたせいか露骨に迷惑そうな表情を浮かべていた。

 

「そうでしょうね、まったく仮にも高校生なのだから感情くらいコントロールしてほしいのだけれど」

「それは同感だけど、結構酷いこと言ってる自覚ある?」

「あら、そうかしら」

「まあいいや、それじゃあボクは生徒会室へ行って、様子を確認してくるよ」

「この場合は、止めても無駄ね。萌花、私もついて行くから少し待ちなさい」

 

 二人は萌花を先頭に風紀委員本部と生徒会室をつなぐ階段を上り、生徒会室へ向かった。

 

 

「私は生徒会長の権限により、二年B組・服部刑部と一年E組・司波達也の模擬戦を、正式な試合として認めます」

「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として、二人の試合が校則で認められた課外活動であると認める」

 

 萌花が階段を登り生徒会室へ入ると同時に、そんな宣言が飛んできた。これには萌花と紫愛の二人ともが驚きながらも、萌花はいつもと変わらぬ口調で続けた。

 

「あれ?なにこの空気」

「こら、萌花。ノックしなくちゃダメじゃない」

 

 幸か不幸か生徒会室で張り詰めた空気は、二人が現れたことによって見事に霧散してしまった。

 そのことに気が抜けながらも、摩利は二人に質問する。

 

「萌花、紫愛、二人ともどうかしたか」

「それはこっちの方が聞きたいんだけど」

「風紀委員会本部で渡辺委員長を待っていたのですが、遅かったのでこちらにいるかと思い様子を見に来たのです」

「そうか、それはすまなかったな」

 

 摩利には二人を放っていたという負い目があるのかどこか気まずいといった様子であった。しかしすぐに気を取り戻し、二人に事情を始めた。

 

「実はこれから服部範蔵副会長と達也くんが決闘をすることになってな」

「渡辺委員長、それはさすがに省略しすぎです」

「む、そうか」

「とはいえ、試合はこれより三十分後に第三演習室で行われます。その間に説明しますので、服部副会長と司波君は準備をお願いします」

 

 そうしてその場は一時解散となり、服部と司波達也は準備のため生徒会室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 深雪の兄である司波達也が預けているCADを取りに行っている間、摩利に模擬戦を行う経緯を聞いていた。

 曰く、生徒会副会長の服部刑部少丞範蔵が司波達也の風紀委員入りを反対したのだ。そもそも、なぜ達也が風紀委員に推薦されてしまったのかと言えばお昼休みまで遡ることになる。

 まず、新入生のトップ司波深雪が生徒会役員になって欲しいと要請された。新入生のトップが生徒会に入るのは毎年のことなので、ここまでは良い。だが、ここで深雪が達也こそ相応しいと言いだしたのだ。残念ながら生徒会は一科生で構成されると校則で決まっているので、変えようがない。しかし、風紀委員ならば大丈夫だということで、達也は生徒会推薦による風紀委員入りがほぼ決定したのである。

 決め手は深雪が思わず漏らしてしまった達也の解析能力だった。

 達也のことを力説するあまり、魔法起動式から一瞬で発動する魔法を読み取るという特技が発覚したのである。通常は発動しなければ結果の分からない魔法を、発動準備段階で知覚できる能力。これを買われたのだ。

 模擬戦までの経緯を聞いた萌花は心底どうでもいいという表情を浮かべた。

 

「へえ、二科生が風紀委員になることへの反発か。あまり興味は湧かないかな。それにくだらないよ」

「こら。萌花、その言い方は失礼に当たるわよ」

「そう?でもそこまでの啖呵を切って見せた実力は見てみたいかな」

「ええ、そうね。っと、司波くんたちも来たみたいね」

 

 第三演習室に入ってきた達也はCADを入れた黒いアタッシュケースを持って入ってきた。その中に収められている二丁の拳銃形態のその一方を取り、弾倉に当たる部分のカートリッジを抜き出して、別のものに交換した。

 

「お待たせしました」

「いつも複数のストレージを持ち歩いているのか?」

「ええ。汎用型を使いこなすには、処理能力が足りないので」

 

 

「ルールを説明する。

 相手を死に至らしめる術式、並びに回復不能な傷害を与える術式も禁止。直接攻撃は相手に捻挫以上の負傷を与えない範囲であること。武器の使用は禁止、素手による攻撃は許可する。

 勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。

 ルール違反は私が力付くで処理するから覚悟してしろ、以上だ」

 

「準備はいいか」

 

 その言葉に服部が腕輪形態のCADのコンソールに手を当てたのに対し、達也は拳銃型CADの引き金には指をかけなかった。

 

「はじめ」

 

 その言葉と同時に服部は魔法を発動するためにコンソールを操作し始めた。しかし、服部が魔法を発動するよりも速く、達也が服部の背後に回り引き金を引いた。

 

「勝者、司波達也」

 

 摩利による勝ち名乗りはむしろ控えめなものだった。

 勝者である達也の顔に、喜悦はない。目を閉じ、軽く頭を下げるとCADのケースを置いた机に向かう。

 

「萌花、あなたは何が起こったのか分かる?」

「んー、そうだね」

 

 紫愛に問われた萌花は、服部に近づき首筋に手を当てる、口元に手をかざすなど確認をした。

 

「萌花さん、はんぞーくんの様子はどうかしら?」

「はんぞーくんって副会長さんのこと?それなら脳しんとうを起こしているだけだから、時間が経てば回復するよ」

「そうですか」

 

 萌花は真由美の質問に簡単に答えると、先ほど起こった出来事を考え込んだ。そして少し考え込むと、達也の方を向き自身の導き出した答えを告げた。

 

「振動波を合成して、服部先輩をサイオンの波動に晒すことで、脳しんとうと錯覚させて戦闘不能にしたってところかな」

「驚いたな、見ただけでよくそこまでわかるものだな」

 

 達也は萌花の導き出した結論を聞き、驚きつつも称賛した。それに満足した萌花は先程までいた壁際に戻り、壁にもたれかかった。

 しかし他の面々はそれだけでは理解できなかったようで、

 

「萌花さんは何が起こったのかを理解できたのかしら?」

「おおよそのとこは理解できてると思うよ。紫愛もわかったでしょ」

「ええ、貴女の言った結論を聞いてなんとかね。とは言え、幾つか詰めておきたいところもあるのだけれど」

「まあ詳しいところは司波くんに聞けばいいでしょ。この現状は司波君の魔法で起きたんだし」

「それもそうね、それじゃあまず始めに」

 

 それから真由美は達也を質問攻めにした。達也の種明かしによると、己の身体技術のみで瞬間的に接近、背後に回り、振動魔法で作り出した振動数の異なる三つのサイオン波を合成させる事により強力な波動を作り出し、服部の意識を奪う、ということを行っていた。

 

「それにしても、あの短時間にどうやって振動魔法を3回も発動できたんですか? それだけの処理速度があれば、実技の評価が低いはずはありませんが」

 

 生徒会会計の市原鈴音が達也に問いかける。成績が悪い、と正面から言われた達也が力なく苦笑を零していると、あずさが達也の使用しているCADについての言及を始める。

 世界で初めてループ・キャスト・システムを実現した、天才プログラマ「トーラス・シルバー」のフルカスタマイズモデル『シルバー・ホーン』。達也が使用しているCADである。

 だが、それでも真由美と鈴音は疑問が残っているらしく、怪訝そうに達也を見る。

 ループ・キャストは同一の魔法を連続発動する為に、起動式の最終段階に同じ起動式を魔法演算領域内に複写する処理を行うシステムである。その為、ループ・キャストをただ使用するだけでは振動数の異なる波動を作り出すことはできない。振動数を変える為には多変数化の処理を行わなければならない。それを実行している、という事実に鈴音が驚愕で言葉を失う。

 

「……魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報書き換えの強度、この三つが試験の評価項目だ。なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか……」

 

 フラつきながら頭を押さえて立ち上がった服部が小さな声で呟く。

 

「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

 

 服部に近づきながら心配するような声を出す真由美に対して、「大丈夫です!」と逃げるように体を引く。

 

「そうですね。ずっと気がついていたようですし」

 

 鈴音が服部に対してそう言うと、顔を赤くして言い訳を始める。

 

「いや、最初は意識が無くて……身体を動かせるようになったのはついさっきなんですよ!」

 

 服部が言い訳を続けている間にも、達也はCADの片付けを行っている。達也の作業が終わろうか、と言う時に背後で声が聞こえる。だが、達也は振り返らなかった。

 後ろでは服部が深雪に対して謝罪の言葉を述べていた。深雪も自分の行動に対しての謝罪を述べ、深々と頭をさげる。達也が作業を終え振り向くと、服部は強い視線で達也を見るが、そのまま踵を返す。

 

 達也がCADを返却しに事務室へと向かうのを見届けたメンバーは、生徒会室へと戻った。その道中、紫愛が深雪へと話しかけた。

 

「そういえば司波深雪さんだったわよね」

「ええ、そうですよ」

「こうして話すのは初めてですね、私は杠葉紫愛と言います。これからクラスメイトとしてよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

「ほら、萌花。あなたも自己紹介をしなさい」

「同じく、杠葉萌花」

「何が同じくなのかが全く分からないわよ、それ。ごめんなさいね、深雪さん。私たちは双子なの、苗字で呼ばれると区別できなから、是非名前で呼んでね」

「ええ、よろしくお願いします。紫愛さん、萌花さん。私の方も深雪と呼んでください」

 

 萌花と紫愛が深雪と自己紹介をしている間に、生徒会室へと到着した。二人は風紀委員本部へ戻るため、摩利に声をかけた

 

「それじゃあ、ボク達は先に本部に戻ってるね」

「ああ、分かった。私も達也君が戻り次第、彼を連れて本部へ戻る」

「分かりました。それでは私たちはこれで失礼します、深雪さんもまた明日」

「またね」

「ええ、また明日。紫愛さん、萌花さん」

 

 そうして二人は生徒会室から姿を消し、階段を通って本部へ移動した。

 

「さっきの決闘、意外に見応えがあって面白かったね」

「そうね。でもあなたはカラクリをすぐに見破ったのに対して、私はあなたのヒントをもらってようやくよ。もっと精進しなくちゃね」

「がんばってねー」

「もう少し気持ちを込めて欲しいのだけれど」

 

 二人は適当に雑談しながら、ほとんどまとまっていない報告書に目を通していた。そして過去の仕様を確認し、報告書の体裁を整えていた。

 そうすること数分、摩利が達也を連れて降りてきた。

 

「ここが風紀委員会本部だ。萌花、紫愛。二人とも待たせたな」

「いえ、ご心配なく」

「そうか、それじゃあそこに腰掛けてくれ」

 

 摩利はそう言うと目の前にある長机を指さし、達也を誘導した。達也もそれに従い、萌花たちとは反対側に座った。

 そして、部屋を見渡すと棚に並べられているCADに目を止めた。そのことについて質問する前に摩利が話を始めた。

 

「先に紹介しておこう、こっちにいる二人は一年生の杠葉萌花・紫愛だ。それぞれ教職員推薦と部活連推薦で風紀委員会に入ることが決まっている」

「一ーAの杠葉萌花だよ、よろしく」

「同じく一ーAの杠葉紫愛です、よろしくお願いします」

 

 摩利の紹介を受けて、片や簡潔に、片や丁寧に対照的に自己紹介をした二人を見て、達也は苦笑しながらも自己紹介をした。

 

「一ーEの司波達也です。杠葉さん、これからよろしくお願いします」

「ふふ、杠葉だと区別がつかないのでそれぞれ萌花、紫愛でいいですよ」

「では萌花さん、紫愛さん。よろしくお願いします」

 

 和やかに自己紹介をした三人を見て、摩利は楽しそうな口調で話し始めた。

 

「萌花と紫愛、二人は二科生に随分と好意的だな」

「好意的、というかわざわざ敵対的になる理由がないだけだよ」

「だが、同じ一年生の一科生の間には差別するような空気があるんじゃないか。実際、昨日も問題を起こした奴がいたくらいだし」

「仮に現時点で優れていたとしても、この先は努力次第でしょ。そんな肩書きは実戦では無意味だしね」

「そうね、それには同意見よ。入試の結果だけでおごるとその内、足下をすくわれるでしょうしね」

「くく、やはり君たちを受け入れて本当に良かったよ。実際、私もうんざりしていたんだ。一科だの二科だの、つまらない肩書きで優越感に浸ったり劣等感に溺れたりするような奴らにはな」

「やっぱり、委員長さんとは気が合うね」

 

 そうして萌花と摩利が人の悪い笑みを浮かべながらニヤニヤしていた。それに呆れながら、紫愛は時計に目をやった。

 

「萌花、そろそろ時間よ」

「あ、ほんとだ。それじゃあ、委員長さん、ボク達は帰ることにするよ。今日、まとめたデータはここに入っているから目を通しておいて」

「まあ予定外のことが数多くあったし仕方が無いか。データの件は了解した。悪いが達也くんは、説明があるからもうしばらく残ってくれ」

「了解です」

「萌花、紫愛」

 

 摩利はそう言うと、真面目な表情を浮かべ続けた。

 

「明日から始まる新入生勧誘活動が風紀委員会における最初の山場だ。覚悟しておくように」

「わかりました。それでは失礼します。渡辺委員長、司波くん」

「また明日、委員長さん、司波くん」

 

 二人は摩利と達也に挨拶をすると、風紀委員本部を後にした。そして、校門を出て駅へと向かい帰路についた。

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