魔法科高校の双子   作:まさかり

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四話

 色々と特殊なところのある魔法科高校だが、基本的な制度は普通の高校と大きく異なるところはない。

 ここ一高にも、クラブ活動は数多く存在する。

 正規の部活動として学校側に認められる条件として、ある程度の人数と実績が求められる点も同様である。ただ、魔法と密接な関わりを持つ魔法科高校ならではのクラブ活動も多い。

 メジャーな魔法競技では、第一から第九まである国立魔法科高校の付属高校の間で行われる、通称・九校戦では、その成績が学校の評価に直結する傾向があるほどである。学校側の力の入れようは名門校のそれに匹敵、あるいは凌駕するほどかもしれない。

 この九校戦で優秀な成績を収めたクラブには、多くの優遇が与えられることになっている。そのため優秀な新入生の確保には部活動側はもちろんのこと、学校側もこれを後押ししている。

 かくして、新入部員の獲得合戦は熾烈を極めている。

 

「……ということらしいわよ」

 

 二人は食堂で昼食を取りながら、紫愛がそんなことを話していた。萌花はこのことについては、ほとんど知らないため大人しく話を聞いていた。

 そのため萌花が昼食をほとんど食べ終えているのに対して、紫愛はもう少し時間がかかりそうだ。

 

「なるほど、学校側が黙認している以上歯止めは期待できないね」

「ええ、ちなみにこの期間は一週間続くから」

「そんなにあるんだ。あれ?CADは事務室に預けてるのに、なんでそんなに問題が頻発するの?」

「この期間はデモンストレーション用に持ち出しが許可されているからね。その所為で事実上の無法地帯となっているわ」

「これに対して学校側から警告とか処分とかは?」

「一切なし、こちらについても黙認しているわ」

「これは想定より面倒かも」

「そうね、覚悟しておきなさい。と言うわけで授業が終わり次第、本部へ向かうわよ」

「りょーかい」

 

 紫愛はそう告げると、残っていた昼食を急いで食べ始めた。萌花は紫愛のそんな様子を見ながら残りをゆっくり食べ進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 萌花と紫愛の二人は午後の授業が終わると、風紀委員会本部へ向かおうとした。同じく教室を出ようとしている深雪を見かけると、紫愛が近づき声をかけた。

 

「深雪さんは今から生徒会室でしたね、よろしければご一緒させていただいても?」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとう、ところで生徒会はどんな仕事があるの?」

「そうね、勧誘期間だけでも追加予算の見積もりだけでなく、修理の手配・苦情の受け付けとか色々あるみたいね」

「うわ、生徒会は生徒会で大変そうだ」

「あら、心配しなくても風紀委員もそれ相応の負担があるわよ」

「そんな心配はしてないよ」

「あら、そうだったの。てっきり、風紀委員が暇で心配しているのかと」

「そんな訳ないでしょ。昼食の時に聞かされたことは覚えてるから」

「くすっ、二人は随分と仲がいいのね」

「そんなことないよ、誤解しないでね」

「あら、萌花。そんなところで謙遜しなくていいのよ」

「うるさいよ、紫愛」

 

 そんな軽口を叩きながら、深雪とは三階の階段前で別れた。二人はそのまま風紀委員会本部の前に着くと、中から大声が聞こえてきた。顔を見合わせると萌花が扉を開けた。

 

「何故お前がここにいる!」

「少しは静かにしなよ。えーっと、森、森、何だったっけ」

「森崎よ、萌花」

「そうそう、森崎だったね。彼がここにいるのは風紀委員会だからだよ」

 

 萌花が森崎に静かにするように言う。しかし、萌花は名前を覚えていなかったようで紫愛が補足をした。

 

「やかましいぞ、新入り」

「あ、委員長さん。こんにちわ」

「ああ、よく来たな。それで森崎、この集まりは風紀委員会の業務会議だ。ならばこの場に風紀委員以外の者はいないのが道理。

 

「申し訳ありません!」

 

 萌花が軽く挨拶をすると、摩利もそれに応じた。そして摩利は森崎の方を向くと、一喝した。一昨日、森崎は問題を起こし、その場を摩利が収めていた。

 森崎は生真面目なタイプなのだろう、摩利の叱責が重くのしかかっており、顔には緊張と恐怖感で引きつっていた。

 

「まあいい、座れ」

 

 血の気を失い立ち尽くす一年生に対して、摩利は気まずい表情で着席を命じた。

 萌花と紫愛が横並びですでに座っていたため、森崎は達也の隣に腰を下ろした。森崎は露骨に嫌そうな表情を浮かべていたが、最下級生、一年生が下座の四席に座ることになる。萌花と紫愛が先に横並びでいる以上、やむを得ないことだった。

 

「全員揃ったな」

 

 その後、三年生や二年生が次々に入ってきて、室内の人数が十人になったところで、摩利が立ち上がり確認を取った。

 

「そのままで聞いてくれ。

 今年もまた、あの馬鹿騒ぎの一週間がやってきた。

 風紀委員会にとっては新年度最初の山場となる。

 この中には去年、調子に乗って大騒ぎした者も、それを鎮めようとして更に騒ぎを大きくしてくれた者もいるが、今年こそは処分者を出さずとも済むよう、気を引き締めて当たってもらいたい。

 いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

 一人ならず首をすくめるのを見て、萌花と紫愛、特に紫愛は萌花に視線を送った。萌花は紫愛の視線に気がつくと、紫愛の方を見てにやりと笑って見せた。

 

「今年は幸い、欠けた卒業生分以上の補充が出来た。紹介しよう、立て」

 

 事前の打ち合わせになかった流れではあるが、新入生の四人は無難に立ち上がった。萌花と達也は落ち着いた面持ちながら肩の力を抜きすぎているようであった。それに対し紫愛と森崎は、緊張を隠そうともせず、それを熱意の表れであるかのように振る舞って見せた。

 

「一ーAの杠葉萌花と杠葉紫愛、それに森崎駿。そして一ーEの司波達也だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

 摩利が達也のクラスを伝えたせいか、ざわめきを生じた。過去に二科生が風紀委員として指名された前例はない。そもそも二科生が風紀委員として指名されたことをよく思わない生徒の一人が声を上げた。

 

「誰かと組ませるんですか?」

 

そう発言したのは教職員推薦枠の二年生、岡田である。

 

「前回も説明した通り、部員争奪週間は各自単独で巡回する。新入りであっても例外ではない。もちろん、不安があるのならそこは各自の判断に任せる」

 

 投げやりな回答に質問をした岡田は鼻白んだ表情を浮かべたが、嫌みな表情で「やめときます」と答えた。

 

「他に言いたいことのあるやつはいないな?

 では早速講堂に移ってくれ、レコーダーを忘れるなよ。新入生には私から説明する。

 他のものは、出動!」

 

 その言葉の直後、全員が一斉に立ち上がり踵を揃えて、握り込んだ右手で左胸を叩いた。これは風紀委員で代々行われている敬礼であるが、そんなことを知らない新入生は一拍遅れて見様見真似で行った。他にも挨拶は時間を問わず「おはよう」を使うなどというなどというものがある。

 摩利と新入生を除いた全員が次々と本部室を出て行った。それを確認した摩利は新入生に説明を始めた。

 

「まずはこれを渡しておこう」

 

 その場で待機していた四人に、摩利は腕章と薄型のビデオレコーダーを手渡す。

 

「レコーダーは胸ポケットに入れておけ。ちょうどレンズの部分が外に出るサイズとなっている。スイッチは右側面に付いている。今後、巡回の時には常にレコーダーを携帯するように。まあ、風紀委員の証言は原則採用されるから撮影に関してはさほど気にしなくてもいい。

 最後にCADについてだが、使用に際して許可を求める必要は無い。各自の判断に任せるが、不正使用の場合は厳重に処罰される。甘く考えないように」

「CADは備品のものを使用してもよろしいですか?」

 

 摩利の説明の後、達也はそんなことを聞いた。それに一番大きな反応を見せたのは意外にも萌花であった。

 

「あれ?それってこの前まで埃を被っていたような旧式だよ、使い物になる?」

「確かにあれは旧式だが、高級仕様のエキスパート品だ」

「そうなの、紫愛は知ってた?」

「ええ、ある程度わね。一部で熱烈な支持を集めている機種ね、しかるべき場所では相応の値段で取引されるでしょうね」

「なるほど、我々はそれをガラクタ扱いしていたということか」

「整理整頓は大事だね」

 

 ここで摩利は蚊帳の外にある森崎の存在に気づき、話を戻した。

 

「コホン、CADは好きに使用して構わない。どうせ今まで使われていなかったものだ」

「ではこの二機をお借りします」

「へぇー」

 

 達也の二機借りるという言葉に萌花と摩利は面白いと言わんばかりにニヤリと笑い、紫愛は何をするのか興味深そうにCADを見つめ、森崎は皮肉げに唇をゆがめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 風紀委員本部を出た四人はそれぞれ思い思いの場所へ向かっていく。本部を出た直後、森崎が達也に絡むという一幕もあったが、萌花と紫愛は特に反応しなかった。

 

「森崎はあんなに突っかかって何がしたいんだろ」

「さあ、多分一科生の優越感に浸っているだけなのでしょう」

「何それ」

「さあ、それで萌花はどこを見て回るのかしら?」

「んー、とりあえずは部活の勧誘を見て回ろうかと思ってるよ。その後は色々と校内を見て回るつもりだね。まだ行ったことのない所が多すぎる」

「そう、ちょうどいい機会だし私も付いて行くわ」

 

 萌花は部活動を見て回ることに決めた。そして紫愛も萌花について回ることにした。

 二人は昇降口から外に出ると、そこには数多くのテントが並んでいた。

 

「こんなに熱を入れてるとは思わなかったよ」

「ええ、流石にすごいわね。これじゃあ、巡回するのもままならないかも知れないわね」

 

 しかし、二人の危惧をよそに勧誘はそれほど激しくなかった。一度断るとそれ以上しつこく勧誘されなかった。

 

「こういう時は風紀委員の腕章が役に立ったよ。こいつのお陰で勧誘が対して厳しくない」

「そうね、これなら校内をゆっくり見て回れるわ」

 

 そんなことを話しながら二人が校内の巡回をしていると、後ろから悲鳴が上がった。二人が振り返るとそこにはボードらしきものに乗るジャージ姿を着た二人組がそれぞれが女生徒を抱えていた。

 そして魔法を使用してボードを発進させ、辺りには周囲にいた生徒たちの悲鳴と魔法による強風が残っていた。

 

「萌花、取り締まり対象よ」

「りょーかい、あの攫っていた二人についての情報はある?」

「バイアスロン部のOGの人たちね、確か名前は」

「そこはどうでもいいよ、行き先は?」

「バイアスロン部の勧誘場所かしら、今端末で教えるわ」

 

 紫愛はそういうと萌花にバイアスロン部が勧誘場所として申請している場所を示している端末を見せた。萌花はそれを記憶すると追いかけるために軽いストレッチを始めた。

 紫愛は萌花のその様子を見ながら補足をした。

 

「萌花、目的地はさっき言った場所で間違いないわ。攫われた生徒は新入生二人、委員長への通報は……必要なさそうね。追加があればその都度伝えるから。全員にけがはさせないで」

「りょーかい」

 

 萌花は紫愛の補足を聞き終えると、自己加速術式を発動し走り出した。紫愛はその様子を見るとバイアスロン部の勧誘場所の方へ歩いて向かいだした。

 

 

 

 萌花が走り出して三十秒もすると、OGの二人の後ろ姿が見えてきた。それに加えて摩利もボードを使って追いかけていた。

 

「なんだ、委員長さんへの通報が必要ないってこういうことか」

 

 萌花はそう呟くと、摩利に近づき声をかけた。

 

「やっほ、委員長さん」

「萌花、お前も来たのか。このスピードによく着いてこれるな」

「これくらいなら余裕だよ、それよりこの二人ってOGの人なんだってね。この場合って風紀委員会の取り締まり対象になるの?」

「ああ、珍しいケースだがな。OGに在校生を好きにされる訳にはいかん」

 

 萌花は摩利にそんな疑問をぶつけていた。にも関わらず二人は一切速度を落とさず追跡を続けていた。

 その様子に危機感を覚えたOGの二人は魔法を使用し振り切ろうとした。OGの使用した魔法は『下降旋風』。地面に叩きつけるように下降気流を発生させることで、萌花たち追跡側を向かい風を起こすことで追っ手を鈍らせ、かつ逃走するOG側には追い風になった。

 これを見た萌花は自己加速術式の速度を上げ、下降気流の影響範囲から回避した。さらに校舎の壁を足場にしてOGの意表を突いた。そして呆気にとられているOGに対して『重力(グラビティ)』を発動し、二人を取り押さえた。そして攫われていた生徒二人はOGの手から離れて落下した。二人の着地点に空気の膜を作る魔法を発動させ、怪我を負わせなかった。

 

「あの状況でよく突っ切ったな、正直言って驚いたぞ」

「あれがベストだったからね。それに、相手は魔法を使ったことで油断して、ボクらから目を離していたからね。それより委員長さん、OGの二人にかけた魔法が切れるから早く拘束してよ」

「そうだな。さて風祭、萬谷。よくも好き勝手やってくれたな、連行するから付いてこい」

「じゃあ、後は委員長さんに任せるよ。ボクはこのまま巡回しておきたいし」

「構わないよ、ならばそっちの二人の生徒を頼む。それと後でこの件についての報告書を出してもらうことにはなるが」

「りょーかい、後で風紀委員本部に提出に行くよ」

「ああ、頼むぞ」

 

 摩利がOGの二人を連行していくのを確認すると、萌花は攫われていた二人に声をかけた。

 

「さて、二人とも大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「おかげで助かりました、ありがとうございます」

「気にしなくてもいいよ、風紀委員としての活動範囲内のことだし」

 

 三人がそんなことを話していると、萌花の後方から現れた紫愛が声をかけた。焦って追いかけてきた様子はなく、その証拠に息は一切乱れていなかった。

 

「萌花、無事に片付いたみたいね」

「うん、一切の問題無くね。それで委員長さんにこの二人の対応を頼まれたんだけど」

「ああ、そういうことね。自己紹介くらいはしたのかしら」

「まだだよ」

「はあ、やっぱりまだだったのね。初めまして、私は一ーAの杠葉紫愛といいます。風紀委員に所属しています」

「同じく杠葉萌花だよ」

「私は一ーAの光井ほのかといいます。こっちは」

「同じく一ーAの北山雫です。助けてくれてありがとうございます」

「二人とも同じクラスだったんだ、紫愛は知ってた?」

「ええ、もちろんよ。それはさておき、お二人はこれからどうしますか?」

 

 紫愛は萌花が二人のことを同じクラスであることを知らなかったということに呆れたもののそれをいつものことと割り切った。そして二人にこれからどうするのかを尋ねた。

 しかし、雫とほのかはその答えを持ち合わせていなかったようで顔を見合わせていた。

 

「えっと、どうしようか雫」

「んー、萌花さんと紫愛さんはさっきの人達のことについて何か知っていますか?」

「ボクたちのことは呼び捨てでいいよ。さっきの人って君たちを連れ去ったOGの人?」

「そう、その二人のこと。何か知らない?」

 

 呼び捨てでいいと萌花が言うと、その意を汲んでため口にした雫。そんな雫の様子に紫愛と萌花は顔を見合わせると、軽く笑った。

 紫愛は雫とほのかの方を向き直ると説明を始めた。

 

「さっきの人達は一高生のOGですね、確かバイアスロン部に所属していたと記憶しているのだけれど」

「バイアスロン?」

「ええ、あの二人が乗っていたボードを使用した競技部活動ですね。興味がありますか?」

「うん、私そこに見学に行ってみたい」

「えっと、雫がそう言うのなら。でも場所は分かる?」

「ううん、今から調べる」

「じゃあ、ここから近いしボクたちが案内するよ。バイアスロン部に用事ができたことだし。付いてきて」

 

 萌花はそう告げると、とっとと歩き出した。紫愛は慣れた様子で続き、雫とほのかは戸惑いながらもついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 萌花と紫愛、それに雫とほのかの四人はバイアスロン部の勧誘場所に向かった。とはいえ距離はさほど離れていないため、すぐに到着した。

 萌花と紫愛は到着すると、すぐに部長と話を始めた。

 

「風紀委員の杠葉紫愛といいます、先輩がバイアスロン部の部長さんですか?」

「ええ、部長の五十嵐亜実よ。それで杠葉さんたちは入部希望者ということかな?」

「そっちにいる北山さんと光井さんはそうですね、と言うわけであの子たちには説明をお願いしてもよろしいですか」

「もちろん、あの二人は期待の新人だからそれはこちらから望むところよ。それより説明希望でないのならあなたたちは何をしにここへ?」

「それについてはこちらの萌花からお話しいたします」

 

 五十嵐に用件を尋ねられた紫愛は先ほどの顛末を説明した。

 

「そんなことがあったのね、それは申し訳ないことをしてしまったわね」

「それでバイアスロン部の現役生がこのことに関与しているのかを確認するよう委員長さんに頼まれたんだけど」

「そんな、私たちは無関係です」

「一応の確認だからそこまで深刻に捉えないでいいよ。ただ生徒会か部活連に弁明書は挙げといて欲しいって」

「分かったわ、すぐに準備して今日中には提出するわね」

「りょーかい、委員長にもそう伝えておくよ」

「ええ、お願いします」

 

 萌花と紫愛の二人は五十嵐に対して、簡単な事情聴取を終えた。

 これを摩利に連絡するとその対応で問題ないというお墨付き、そしてそのまま巡回に戻るように指示が言い渡された。

 紫愛は萌花と共有するとそのまま巡回に戻った。

 それから数件の通報に対応し、その日はそれで風紀委員としての初日を終えた。 

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