魔法科高校の双子   作:まさかり

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五話

 新入生勧誘期間二日目。一年A組のこの日の最後の授業は体育の科目であり、クラスの面々は更衣室で授業終わりの着替えを行っていた。

 

「萌花さんと紫愛さんは風紀委員会なんだよね」

「そうだよ、勧誘期間はフル稼働だからね」

「そうね、まあこの期間が終われば当番制に変更されるそうよ。深雪さんは今日も生徒会かしら?」

「ええ、デスクワーク中心だから風紀委員ほど大変ではないのでしょうけれど。

 そういえば光井さんと北山さんは?もうクラブは決まったのでしょう?」

「うん、バイアスロン部」

「バイアスロン部?雫たちは昨日、あんな目にあったのに?」

「うん、楽しかったよ」

「ま、まあ部長は常識的な人だったし現役の先輩たちも親切そうな人たちだったから」

「それより司波さん、昨日はお兄さんがその……大活躍なさったとか」

「ああ、風紀委員会の方でも話題になってたよ。剣術部を相手に大立ち回りを演じてみせたって」

「…まあお兄様のお力をもってすればあのくらい当然なのだけど」

「そうなのね、まあ副会長をも倒したことを踏まえると妥当ね」

 

 深雪のどこか恍惚として答えに少し引きながらも、紫愛はなんとか返答してみせた。雫も深雪の様子にまずいと思ったのか話題を変える。

 

「そんなわけでクラブも決まったことだし今日はこのまま帰るつもり」

「なら、私たちが送るわよ。とは言っても校門を出てすぐのところまでなのだけれど」

「ええっ!そんなの申し訳ないし大丈夫だよ」

「そうは言うけどさ、ほのかは勧誘の熱量を甘く見てるんじゃないの?それにボクたちは腕章とか必要なものは持っているしね」

「そうね、せっかくなのだし萌花さんと紫愛さんに甘えた方が賢いと思うわ」

「それもそっか、萌花さん、紫愛さん。よろしくお願いします」

「よっ、よろしくお願いします」

 

 深雪の後押しもあり、雫のほのかは紫愛と萌花の好意に甘えることにした。ということで深雪はここで四人と別れることになった。

 

「それじゃ、紫愛さんに萌花さん、また明日。それと……」

 

 深雪はそこまで言うと一度区切り、雫とほのかに向き合ってその続きを言った。

 

「ほのか、雫、また明日」

 

 笑顔で四人に別れを告げると、深雪は軽い足取りで教室を出て生徒会室へと向かっていった。

 

「それじゃあボクたちも行こっか」

「そうね、雫さんもほのかさんも準備はできているのかしら」

「うん、大丈夫」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 そうして四人は教室を出ると昇降口へと向かった。そして昇降口から外を見ると、そこには一年生を捕まえようとする上級生が人垣を築いていた。

 

「ああ、やっぱりか」

「そうね、昨日も帰り際を捕まえようとする先輩方がいたものね」

「ほーのか、雫」

「ひぃっ」

「あっ、エイミィ」

 

 萌花と紫愛が上級生の作る人垣に感想を話していると、後ろから呼び止められた。突如呼び止められたせいで、ほのかが小さく悲鳴を上げた。ただ雫はその声の持ち主に心当たりがあったようで驚かずにその人物の名前を呼んだ。

 

「そっちの二人は初めましてだよね。私は英美、日英のクォーターで正式にはアメリア=英美=明智=ゴールディ。エイミィって呼んでね」

「私は杠葉紫愛よ、私の呼び方は紫愛でいいわよ」

「杠葉萌花だよ、よろしくね。ボクの呼び方も萌花でいいよ」

「うんっ、よろしくねっ。紫愛、萌花」

 

 後ろから話しかけてきた少女、エイミィは萌花と紫愛との自己紹介を終えると、話を戻した。

 

「それでみんなはなんでここで立ち止まっていたの?」

「センパイたちの勧誘熱が想定以上で少し驚いてたとこだよ。エイミィは入部する部活はもう決めたの?」

「うん、私は狩猟部に入ることにしたよ」

「そうなんだ、掛け持ちをするつもりもないの?」

「うん、私は狩猟部一本でいくつもりだよ」

「そうなのね、ではエイミィも私達と一緒に帰りますか?」

「うん、よろしくね。でもこの人だかりの中を帰るのは苦労しそうだね」

「そうでもないでしょ、ボクら風紀委員がいるんだから」

 

 萌花は余裕そうにエイミィに向かってそう告げると、昇降口から堂々と出て行った。紫愛も萌花に続いて出て行き、雫とほのか、エイミィも遅れないようについて行く。

 一年生が出てきたことに気付いた上級生たちは、急いで萌花たちの元に駆けつけた。ただこの事態を想定していた萌花と紫愛は、冷静に上級生に対応した。

 勧誘をされたとしてもすでに入部を決めてある部活がある、と返すと諦めて帰っていった。時々引き下がらずに勧誘する者もいるが、萌花と紫愛が介入するとしぶしぶ諦めた。

 断られた部活が他の部活にそのことを伝えたりしたために、結局勧誘されたのは最初の団体だけで、それ以降は勧誘されることはなかった。

 

「センパイたちも想定以上に聞き分けがよくて助かるよ」

「そうね、勧誘したいという思いと同時に問題を起こしたくないという思いも持っているようね」

「そしてその二つを天秤にかけた結果が」

「ええ、後者の方に傾いたというわけね」

 

 萌花と紫愛はこれ以上は上級生が勧誘に話しかけてこないと判断し、雑談をしていた。二人のそんな空気感に当てられてか、雫たち三人も緊張が次第に溶けていき、リラックスしてきていた。

 そんな中、周囲に目を配る余裕の出てきたほのかがあることに気付いた。

 

「あれって……」

 

 そういってほのかの視線の先にはもみ合いになっている上級生の仲裁に入ろうとしている達也の姿があった。

 

「風紀委員?」

「深雪のお兄さんだ」

 

 エイミィの疑問に雫が答えていると、その間に達也は行動に移っていた。達也がもみ合っている二人の上級生の間に割って入ったと同時に、達也の背後から空気弾が迫ってきた。使用された魔法は『エア・ブリット』、圧縮空気の弾を作り、それを打ち出すポピュラーな魔法である。

 背後から迫ってきた魔法を振り返ることなく余裕で交わして見せた。そして、魔法の不適正使用の摘発のために自分に牙を剥いた犯人を追おうとするが、目の前でいがみ合っていた二人に邪魔をされて追うことが出来ずにいる。

 

「紫愛」

「ええ、後は任せなさい」

 

 達也が追跡できないと判断した萌花は萌花は紫愛の名前を呼ぶと同時に走り出し、達也に魔法を使用した生徒を追いかけた。萌花が自分の返答を待たずに走り出したがそのことには気にせず、自分の役割を果たすため雫たち三人に声をかける。

 

「さあ、校門まで送るからちゃんと着いてきてね」

「えー、でもあんな無法な奴ら放っておけないよ」

「そうですよ、早く捕まえないと」

 

 紫愛が着いてくるように言うが、不満をあらわにするエイミィとほのか。紫愛は不満が出ることを想定していたのか、特に気にすることなくなだめた。

 

「大丈夫よ。そっちは萌花が追跡しているから、すぐに捕まるわ」

「なら、安心ですね」

「よかったー」

 

 紫愛の言葉に安心する三人。とはいえ紫愛は不安要素でもあるのか、少し顔が曇ったままであった。とはいえ、出会って数日しか経っていない雫とほのか、ましてや出会って十数分のエイミィにそれを見抜かれるほど紫愛のポーカーフェイスのレベルは低くなかった。

 

「さて、それじゃあまた明日ね」

「うん、また明日」

「はいっ、お仕事頑張ってください」

「またねー」

 

 校門に着いた紫愛は三人に別れを告げると、校内へと引き返していった。そして、ある程度歩いた所で萌花に連絡を入れた。

 

「萌花、聞こえるかしら」

『うん、聞こえているよ。そっちも大丈夫だった?』

「ええ、三人は問題なく送り終えたわよ。そっちの状況も教えてもらえるかしら」

『司波くんに魔法を使ったセンパイは、委員長さんに引き渡したよ。その後にも通報があったからそっちの対処をしてたとこ』

「そう、ちなみに合流するつもりはあるのかしら?」

『個人で動きたいかな』

「そう、じゃあ風紀委員会本部でまた」

 

 紫愛は通話を切ると、大きく伸びをして気持ちを切り替えた。そして、周囲を見渡すとトラブルが起こりそうな場所へと巡回に向かった。

 そうして数件のトラブルを対処し、風紀委員会本部へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 紫愛が風紀委員会本部に戻ると、そこにはすでに帰還し報告書を作成している萌花の姿があった。その横には同じく作業を行っている達也と、報告書に目を通している摩利の姿があった。

 

「ただいま戻りました」

「あ、おかえり、紫愛」

「おお、戻ったか。それで何か特別に報告することはあるか?」

「いえ特段お伝えすることはありません。報告書についてはこれを」

 

 紫愛はそういうと、移動中に音声入力でまとめていたものを差し出した。摩利はそれを確認して不備がないことを確かめた。

 

「うむ、確かに受け取った」

「萌花、後どれくらいで終わる?」

「もう終わってるよ、今やってるのはセンパイ達の分だね。

 体裁が上手くまとまっていないやつの手直しをしてるんだよ。まあ、もう終わったけど」

「そうか、助かるよ。後はこちらで確認しておくよ」

「そう?じゃあ、これの確認をよろしく」

 

 萌花はそういうと摩利に報告書を渡した。摩利は先ほどと同じく報告書を確認していった。紫愛は摩利が確認している間、手が空いていたため達也に話しかけた。

 

「司波くん、今日は災難だったわね」

「あ、それはボクも思ったよ。まさか嫉妬からセンパイに闇討ちをされるとはね」

 

 萌花も紫愛と同じく暇をもてあましていた為、会話に混じった。

 

「いや、闇討ちというほど大それたものでもないと思うが。それに萌花さんが捕まえてくれたしな」

「とはいえ、司波くん個人に対することが攻撃理由なら明日からもあるでしょうね」

「うわ、それは面倒だね。ボクが護衛にでも着こうか?」

「いや、そこまで大事にする必要はないよ。あの程度なら俺一人で対処できる」

「そう?ならいいけど」

 

 萌花が達也のボディーガードに着こうかと提案したが、達也はあの程度の攻撃なら問題ないと断った。それを聞いた萌花は肩をすくめた。

 紫愛は二人のその様子を見て、話が終わったと判断した。

 

「さて、話も終わったようだしもう帰るわよ」

「りょーかい、それじゃあまたね。委員長さん、司波くん」

「ああ、またな」

「ああ、また明日」

 

 萌花と紫愛は二人に挨拶をすると、そのまま風紀委員会本部を出て帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 二人は一高から寄り道することなくそのまま自宅へと帰宅した。萌花はいつも通り帰宅すると、制服から着替え、そのまま地下室へと移動した。

 一方の紫愛は、食事の準備を簡単にすませると自室に戻った。そしていくつかの宛先にメールを送ると、これまでに送られてきたメールの全てに目を通して、不備がないかを確認していった。そして再度、メールを送信した。

 そうした作業を続けていき相当の時間が経過したところで、アラームが鳴った。目の前の時計に目をやると、大きく伸びをした。

 そして自室からリビングに戻ったが、萌花は地下室から戻ってきていなかった。紫愛は夕食が出来ていることを確認すると、萌花を迎えにいくために地下室へと降りていった。

 地下室の扉を開けるとそこには、床で大の字になって倒れている萌花の姿があった。よく見ると胸はわずかに上下しており、わずかだが呼吸音が聞こえた。

 

「あら、随分と疲れているみたいね」

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 紫愛は萌花に声をかけたものの、萌花は随分と疲れていたのか紫愛に対して返事は出来なかった。それを見た紫愛はいつものことの為、特に気にすることはなかった。

 

「そろそろいい時間なのだけど、動けるかしら?」

 

 しばらくの間、萌花が倒れている横で待っていたがしびれを切らしたのか紫愛が声をかけた。実際、いつもの萌花であればすでに動けるようになっている時間は経過していた。

 

「ん、もう大丈夫だよ」

 

 萌花はゆっくり立ち上がりながらも気丈にもそう返した。ただ、脚はまだ震えており強がりを言っていることは明白だった。

 

「無理して強がらなくてもいいのに。というか少しオーバーワークなんじゃない。そこまで急ぐ理由はあるのかしら?」

「そうかもね。実際、高校に進学してから時間が思うようにとれていなくてね。このままだと計画に支障が出かねないんだよ」

「計画?何かあったかしら」

「自分で立てた計画だよ。正直、高校の忙しさをなめてた」

「まったく、少しは私にも相談しなさいよ。手を貸すわよ」

「りょーかい、後で送っておくから手直ししといて」

「ええ、任せなさい。とりあえずは夕食、っとその前にシャワーを浴びてきなさい。汗を流さないと気持ち悪いでしょう」

「ん、二十分くらいで戻るよ」

 

 萌花はそういうとシャワーを浴びに行った。紫愛は萌花を見送ると、一足先にリビングへと戻った。先に送ったメールの返信を確認すると満足そうにうなずき、料理の配膳を始めた。

 配膳が完了した頃になると、萌花もシャワーから戻ってきた。シャワーを浴びてさっぱりしたのか先ほどよりもどこかすっきりした様子だった。

 ただ肩には髪を拭くようのタオルが掛かっていた。紫愛はその姿に眉をひそめるも、萌花がそれを気にする様子はなかった。

 そうして二人は食事を終えると、萌花が食後の紅茶を用意し始めた。これは萌花のルーティンの一種であるが、普段は部屋で作業を行いながら飲むものである。これをリビングで行うということは、紫愛に話しておきたい、あるいは聞きたいことがあるという意思表示であった。

 

「紫愛、確認しておきたいんだけどさ」

「あら、それは今日達也さんに攻撃を仕掛けけられたときに、近くにいた奴のことかしら」

「そうだよ、そいつの手首にはリストバンドが巻かれていた。しかもそのリストバンドの配色は赤と青のラインで縁取られた白い帯のものだった」

「そう、その生徒は”ブランシュ”の一員ということね」

 

 反魔法国際政治団体「ブランシュ」。

 魔法師が政治的に優遇されている現代の行政システムに反対し、魔法能力による社会差別を根絶することを目的に活動する、というのが彼らの掲げる理念だ。

 だがそもそも、この国には魔法を使える者が政治的に優遇されている、という事実がない。

 むしろ、魔法師を道具として使い潰す軍や行政のやり方に、被人道的という非難が浴びせられているというのが実情である。

 これは、世界一の人口を抱える隣国に比べて、どうしても動員可能兵力の絶対数で劣ってしまうハンデを質で埋めなければならないという、如何ともしがたい必要性の故だ。

 確かに魔法師の軍人・行政官は、そうでない者より高い報酬を受け取っているが、それは単純に労働の量に応じたもの、命をすり減らる過重労働の対価でしかない。

 反魔法組織のほとんどは、自ら作り上げた虚構に対する批判を元に反体制運動を行っている組織であり、ブランシュはその中でも特に先鋭な活動を行っている組織の一つに挙げられている。

 この国では建前上、政治活動の自由が保証されているから、単に政府を批判するだけなら取り締まられることも弾圧されることもない。だが反体制運動は往々にして犯罪行為と結びつきやすいものであり、また実際にテロ行為に走った反魔法組織の例も複数ある。

 ブランシュは現在、公安当局から厳重にマークされている組織の代表的なものである。

 

「ブランシュ、ないしはエガリテに対してどう動く?」

「情報収集に関してはすでに動いているわ」

 

 紫愛はそう言うとリビングのディスプレイを起動させ、これまでに入手している全データを表示させた。ただ情報が多かったせいで、少し見えにくくなっており、萌花は紫愛に聞くことにした。

 

「ブランシュのリーダーは?」

「司一という男よ、そいつのプロフィールの詳細はこっちのファイルにまとめてあるわ」

「あれ?一高に弟がいるんだ」

「ええ、剣道部主将の司甲ね。その弟を使ってブランシュへの勧誘を進めているみたい」

「所属している生徒のリストアップは?」

「大まかには済ませてあるわ」

「拠点は?」

「いくつかの拠点についてはつかめているわ、後はどこが本拠地かを確認中よ」

「奴らの目的については?」

「そこまではまだよ、長期目標は日本の弱体化なのだけれど。目先の目的については今現在、調べているわ」

「諸々を含めた許可は取れているの?」

「簡単にはね、ただやり過ぎは許容されないからそこは慎重にね」

「わかってるよ、それくらいは」

「そうね、一応のプランはいくつか立ててあるからそちらについても話しておくわね」

 

 そうして紫愛が予想される相手の出方とそれに対する動き方を説明し、萌花がその行動に注文を付け、紫愛がプランに修正を加えていく。

 二人はそんな会議を夜が深まるまで続けていた。

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