魔法科高校の双子 作:まさかり
討論会当日、萌花と紫愛は会場である講堂内の警備は十分ということを理由にして、講堂の外を警備することにした。そして今現在、二人の姿は実技棟の屋上にあった。
「しかしボクたちがこんなところにいていいのかな?」
「渡辺委員長に許可をもらっているのだから問題無いわ。それにここにいることには大きな意味があるのよ」
「それはそうだけど」
「あら、随分と不満気ね。そんなに演説を聞きたかったの?」
「あれには会長さんの話を聞く以上の価値はないよ。それに多少の不満はあれどもう決まったことだ、今更否を突きつける気はないよ」
「それはよかったわ。それじゃしっかり頼むわよ、この時のためにわざわざ特化型まで持ち出したのだから」
紫愛の言った通り、萌花の左手の中には普段は持ち歩いていない拳銃タイプの特化型CADが握られていた。
「対人戦のときにはこっちの方が便利だからね、それに心配しなくても汎用型も準備できてるよ」
萌花はそう言うと、左の袖を捲ってみせる。そこには待機状態となっている腕輪型のCADを
「紫愛の方でタイミングまで掴める?」
「ええ、任せてちょうだい。それで他には何かある?」
「今更だね。それこそ何かあるとしたら作戦に問題があった時くらいだよ」
「それなら全て問題ないわね」
二人の会話だけを聞くといつもの調子と変わらないようだが、二人の態度に油断の二文字はなかった。
それから時間が経つこと数分、その時は訪れた。
「萌花」
「了解」
萌花が紫愛の呼びかけに応じると同時に一台のトレーラーが正門前に止まった。
そうして突入してきたトレーラーからは多くの不審者たちが降りてきて、一高構内へと侵入してきた。そしてその中の一人がロケットランチャーを発射し、実技棟にダメージを与えようとした。
しかし萌花がミサイルの着弾点を見極め障壁魔法を発動することで、ミサイルの着弾を阻止してみせた。萌花はそのまま正面に走っていき屋上から飛び降りた。
そして着地の寸前に魔法を発動させることで、落下の衝撃をうまく消した。
「うおっ」
萌花が着地してそのまま走り出そうとした時、後ろから驚きの声が上がった。
「君は西城くんだったっけ、そっちにいるのは千葉さんだよね。風紀委員会の報告書で見た気がするよ、校舎の中が安全だからそっちに避難して」
「おう西城レオンハルトだ、レオでいいぜ」
「私もエリカでいいわよ、それでこの状況は?」
避難してほしいという萌花の要求を無視して状況の確認をする二人。それに呆れつつも萌花は状況を簡潔に説明した。
「テロ組織が仕掛けてきただけだよ、ボクは今から奴らを叩き潰しに行くんだよ」
「なら私たちもご一緒するけどいいわよね」
「自己責任で。それより君らはCADを持ってないでしょ、それじゃ足手纏いになるから取りに行ってきなよ」
「それもそうね、と敵がきたわよ」
「この程度の連中なら問題ないよ。ほら、早く行きなよ、それと司波くんには図書館棟へ行くように伝えといて」
萌花はそう言うと『エアブリット』を発動した。そして後ろの二人に目配せをして、CADを取りに行くように合図を出した。
二人もその目配せの意味をしっかりと理解し、管理棟へ走って行く。
萌花も目の前の侵入者どもを倒し切ると、次から次へとやってくる敵にうんざりしつつも迎撃を続けた。
実技棟の前の敵を制圧した萌花は紫愛と合流し、校内に侵入した武装集団の撃退に当たっていた。初めこそ二人が先頭に立ち戦っていたのだが、途中からは教員や警備員も応援に駆けつけて来たため、二人は後衛に専念していた。
「この分ならボクたちの出番はもうおしまいかな。こんな後方支援、もう大した意味もないでしょ」
「なら計画を前倒ししましょうか」
「おっ、ということは」
「敵の本拠地を叩くわよ」
「了解」
「開始時に連絡よろしく」
二人は簡単に打ち合わせを行うと、それぞれ反対の方向へ立ち去って行った。
紫愛と別れた萌花は校門へと向かっていた。すると後方から全力疾走をしてくる二科生の男子が現れた。
それに気づいた萌花は立ち止まり振り返ると、その男子生徒に話しかけた。
「ねえ、剣道部の主将さんだよね。もう帰宅するの?」
「君は風紀委員の子か、この騒ぎでは部活動は中止になるだろう。だからサッサと帰ろうと思ってな」
萌花の腕に付いている腕章を見た司は、どこか緊張した様子を見せながらそう言って弁解した。
「じゃあちょうどいいね。このまま少しついて来てよ」
「僕が?」
「そうだよ、主将さんにはとある容疑がかけられてるからね、委員長さんに引き渡さないといけないんだ」
「容疑?」
「そう、ブランシュを手引きしたという容疑がね」
萌花はそう告げると胸元にしまっていた拳銃型CADを司に向ける。
「という訳で大人しくついて来てね。抵抗するなら武力行使も許可されているけど、どうする?」
萌花は抵抗するならすればいいとでも言わんばかりの挑発を込めて投降の勧告を行った。司は萌花の言葉を聞き、逃走の意思を固めた。そして右手に巻いたリストバンドを引き抜いた。その下から現れたアンティナイトを使ってキャストジャミングを発動させた。
司はキャストジャミングを受け、顔を顰める萌花に手刀を食らわせようとする。
しかし萌花はその手刀をあっさりと躱すと、司の顎目掛けて蹴り上げた。蹴りは見事にクリーンヒットし、司の意識を刈り取った。
「まったく剣道を使った方がもっと闘えるだろうに」
萌花は地面に倒れ気絶する司を見ながら、呆れながらそう呟いた。
「萌花さん」
「あ、遅かったね」
「すまないな、校内の制圧に思ったより時間を取られてしまった」
萌花が司をどうするか悩んでいると、突如呼びかけられた。振り向くとそこには風紀委員会の上級生である沢木が立っていた。
「ちょうど良いや。先輩、こいつを拘束して委員長さんに引き渡しをしといて」
萌花は沢木にそう告げると返事を聞かずに去っていった。
◇ ◇ ◇
図書室で拘束された壬生は怪我を負っているということで保健室で事情聴取を受けていた。事情聴取には真由美、摩利、十文字克人と生徒首脳陣が集結していた。加えて紫愛、達也に深雪、エリカ、レオといった面々もいた。そこで壬生の口から同盟の背後にブランシュがいる事が明らかにされた。
その直後、タイミングを見計らったかのように紫愛の端末に着信が来た。
「予定より少し遅かったわね、何かあった?」
『些細なものはいくつかね。でも作戦には問題ないよ、こっちは準備できた』
「一応の補足情報よ、同盟の背後にはブランシュがいるそうよ」
『まあ、予想通りだね』
「そうね、わかっているとは思うけど」
『司一は生け捕り、他の構成員に関しては極力生かしたまま』
「ええそれで良いわ。そっちから言っておくことはある?」
『ないよ、むしろ想定通り過ぎてつまらないくらいかな』
「そう、気をつけてね」
『了解、それじゃ終わり次第連絡するね』
「待て、萌花。お前今どこにいる」
萌花が紫愛との通話を切ろうとすると、摩利が会話に混じり状況を確認した。
『どこってブランシュのアジトの近くだけど』
萌花のあっさりとした回答に保健室の空気は一気に張り詰めた。
「なんでそんなとこにいるんだ」
『ブランシュを潰すためだよ』
「危険だ、今すぐ一高に戻ってこい」
『断るよ、ブランシュを潰すのは確定事項だから。それじゃ、切るよ』
「待て、一つ聞かせろ」
萌花が押し問答に飽き、通話を切ろうとすると十文字が声を上げた。
「なぜお前たちがブランシュを潰そうとする?その理由を話せ」
『警察に介入されてこのことが表沙汰になると、色々と都合が悪いからだよ』
その言葉を聞き十文字は萌花、紫愛の真意を悟った。そして十師族としての覚悟を決めた。
「ならば俺が到着するまでは待機していろ」
「十文字、お前まで何を」
「これは一高生としてだけではない。十文字家当主代理としての決定でもある」
「なら、私も」
「七草、この状況下で生徒会長が抜けることは好ましくない。もちろん渡辺、お前もな」
「では十文字会頭、車は用意してありますのでこちらへお願いします」
「感謝する」
「紫愛さん、その車の定員に余裕はあるか?」
「ええ、大型のモノを用意しているわ」
「ならばその車に俺も乗せて欲しい」
「達也くん、あなたまで何を言い出してるの」
「俺は、俺と深雪の日常を損なおうとするものは、すべて駆除します。これは俺にとって、最優先事項です」
達也のこの決意を聞き、全員が言葉を失っていた。その時を進めたのは通話先にいる萌花だった。
『来るのは会頭さんと司波くんの二人でいいの?』
「私もお供します」
「あたしも行くわ」
「俺もだ」
萌花の問いに次々と表明される参戦の意思。紫愛がどうしようかと考えていると、通話先の萌花から声がかかった。
『紫愛、参謀は君だろ。君が判断しろ』
「ブランシュのアジトに追加で向かうのは私、十文字会頭、司波くん、深雪さん、エリカ、西城くんの六人よ」
「すまないがもう一人追加してもいいか」
「わかりました。訂正、七人よ」
『時刻は』
「今から二十分以内に」
『了解、それまでは偵察として待機している。それを過ぎたら』
「想定外が起きたということよ。私たちのことは無視してそのまま踏み込みなさい」
『了解』
萌花にそう告げると紫愛は通信を切った。そして十文字の方を振り返る。
「という訳で、今すぐに出発します。先ほども言いましたが車は用意してあるのでそちらに向かいましょう。追加の一人にもそう伝えてください」
「承知した」
◇ ◇ ◇
紫愛との通話から十五分後、萌花は宣言通りブランシュのアジトの様子を伺っていると、大型オフローダーがアジトの門扉を破って突入して来た。
「うわ、随分と大胆な策だね。一人は随分と疲れてるみたいだけど」
オフローダーから降りて来たメンバーに対して、そう声をかけた。
「杠葉姉妹、これは元々お前たちのやろうとしていたことだ。お前たちが指示を出せ」
「紫愛」
十文字に委ねられた権限をあっさりと紫愛に投げた萌花。紫愛はそれに臆することなく頷いた。
「萌花、入口は幾つあった?」
「正面と裏口、それと搬入口の計三つ」
「千葉さんと西城くんは退路の確保と逃げ出した構成員の始末を」
「捕まえなくてもいいの?」
「余計なリスクを負う必要はないわ」
紫愛の言葉に思わずといった感じで返答したエリカに、紫愛は身の安全を第一に行動するよう指示を出した。
「では会頭と桐原先輩、司波くんと深雪さん、私と萌花の三組に別れてそれぞれ踏み込みます」
「では俺と深雪はそのまま正面に踏み込みます」
「なら俺と桐原は裏口へ回ろう」
「では裏口へは左手を迂回して向かってください。私たちは右から迂回して搬入口に向かいます」
居残りを命じられたエリカとレオも不満を漏らすことはしない。
全員が紫愛の作戦に従い、行動を開始した。
萌花と紫愛は作戦通りに正面入口から右に周り、搬入口に到着した。
二人は顔を見合わせると、萌花を先頭に中に入った。そのまま進むこと数分、ブランシュのアジトが騒がしくなってきた。
「雰囲気が変わってきたわね」
「だね、まるで追い込み漁とでも言えばいいのかな」
「なら私たちは網を持っている漁師で、司波兄妹は音を立てる追い込み役ね」
「そうなるかな、まあ相手はボクたちのことに気づくのが遅れている。このままなら本当に楽に終わりそうだね」
二人は軽口を叩いているが、この間にもブランシュのメンバーが逃げてきていて鉢合わせとなっている。しかし、萌花が移動魔法で相手を大きく吹き飛ばし気絶させていた。ちなみに、紫愛が手を出す必要はなかったため、普通に歩いている。
「それにしても予定通りに運んだね」
「何のことかしら?」
「十文字センパイをこの作戦に参加させてことだよ、そのためにボクに電話をかけさせたんでしょ。ボクたちの目的を知ればセンパイたち、少なくとも十師族に名を連ねる二人のどっちかは同行すると言わざるを得なくなる」
「そうね」
「そしてそのセンパイたちに後始末を丸投げする。これでボクたちは面倒な後始末をしなくて済む」
「そうね。後始末くらい私がしても良いのだけれど、こうするのが一番パフォーマンスがいいのよね。加えて不用意に目立つようなことは避けないと」
「そうか」
「まもなくこっちに司一が来るわ、あと十五秒ってところかしら」
「ボクの方も確認できたよ、こっちに変な顔で心底必死そうに走ってきているヤツが?」
「ええ、あの男が司一よ。回収しておきたいから少しの間、拘束してくれる?」
「了解」
紫愛が萌花に指示を出すと、CADを操作して『』を発動した。その魔法をまともに受けた司一は平衡感覚を失い、その場に崩れた。萌花は続けて放出系統魔法『
「紫愛、時間は三十秒だよ」
「ありがとう、それで十分よ」
紫愛は麻痺状態で動けてない司一に近づくと首筋に手を当てて、目を閉じた。それから数秒の時間が過ぎると紫愛は目を開け、司一から離れた。
それから少しすると、司一が立ち上がった。とはいえ、麻痺が残っているのか生まれたての子鹿のように脚を震わせていた。
「くそっ、お前たちは一高生か」
「司一に告げる、大人しく投降しろ」
悪態をつく司一に対して萌花は腕輪型CADの操作キーに指を添えて投降するように告げた。司はそれには従わず、とはいえ萌花たちには勝てないと悟ったのか元の道へと引き返した。
萌花はCADの操作に入ろうとするも、紫愛はそれを制止した。
萌花はそんな紫愛に不思議そうな目を向けると、それに気付いた紫愛は微笑んで見せた。
紫愛が微笑んで見せた直後、司が逃げようとした先の曲がり角からCADを構えた達也が現れた。
そして、挟み撃ちにされた司一が咄嗟に背にした壁が切れた。腰を抜かしたと思わせるような無様な姿で司一は壁から飛び退いた。
「ひいぃっ!」
切れた壁の場所から現れたのは、裏口から侵入していた桐原。どうやらここまでの道を文字通り切り進んできたらしい。
「あ、桐原センパイだ」
「おっ、杠葉姉妹か。それに司波兄もいるのかよ。なんだ、俺たちが最後じゃねぇかよ」
「いやいや。センパイが一番おいしいとこを持っていけるんだから、良いタイミングだよ」
「あ?そりゃどういう意味だ」
「文字通りの意味だよ。センパイの目の前にいるのがブランシュの日本支部リーダー、司一だよ」
「こいつが…?」
その瞬間、紫愛や達也がたじろぐほどの怒気が桐原から放たれた。
「テメェか!壬生を誑かしやがったのは!」
「ひいぃぃぃぃぃ!」
憤怒の表情で詰め寄る桐原に対して、キャストジャミングで対抗しようとする司一。しかし、そのキャストジャミングでも桐原の高周波ブレードは問題なく発動した。
そして、司一の右腕を切り落として見せた。
それを見た萌花はCADを操作して司一の右腕の残った部分の先端を焼くことで止血した。これにより出血は止まったものの、司一は泡を吹き、失神してしまった。
そして司一が失神した直後、桐原が切ってきた壁から十文字が現れた。片腕を失い、床に倒れている司一を見て、十文字は眉を顰めた。
「これはどういう状況だ」
「そいつは問題なく生きてるよ、もっとも片腕欠損はどうしようも無いけど」
「その片腕は?」
「桐原センパイの刀に聞いて」
「おいっ」
萌花のあっさりとした対応に思わずといった様子でツッコミを入れた桐原。とは言え自身が切り落としたことは事実のため、強く出ることはない。十文字に対しても、視線を合わせずにあさっての方を向いていた。
そんな桐原の様子からおおよその事情を察した十文字は、司一の具合を確認すると肩に背負う。そして裏口に向けて足を進める。他のものも十文字に付いていき撤収となった。
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