「ンンー。では、気を取り直して。」
これからが本番だと言わんばかりにわざとらしく、そして無駄に女の子らしい咳ばらいをしたスバルは、机の上に両肘を乗せて指を組む。
ゴクリ。
これが、異世界の大空警察。
その雰囲気に呑まれて黙り込むミコ。
「お名前いいですか?」
「さくらみこです。」
スバルの硬い表情にみこも硬くなり、少し食い気味に返事を返す。
大丈夫、大丈夫にぇ。
ミコは何も悪いことはしていないにぇ。
「身分証お持ちですか?」
すぐに財布から免許書を出そうとして、手が止まる。
「・・・。」
ミコ、今なにも持ってない!
「聞こえましたよね。身分証明書を見せてください。」
ここで下手に嘘をついても疑われるだけねぇ。
「・・・持ってないです。」
ミコの背中に嫌な汗が流れる。
どうしよう。ミコもしかして異世界転移初手で大空警察に捕まっちゃうの!?
そんな不安なミコチにスバルが追い打ちをかける。
「身分証明書をお持ちでない!これは怪しいですね。普通、肌に放さず持っているものだと思うのですが。冒険者カードとか商業ギルドカードでいいんですよ。それもないのですか?」
「はい。」
「ちょっと、もう少しちゃんと探してください。じゃぁ、公共料金の支払い証明書とか手紙でもいいです。」
「・・・ないです。みこには何もないです。」
「ふぇぇぇぇええ゛え゛え゛!!! ないだと!じゃぁどうやって本人確認するんだよ。」
「だから、さくらみこっていってりゅじゃん。」
「その言葉を鵜呑みにすると思っているのか!」
「だって、ミコ何も持ってないもん。」
「はぁ。分かりました。じゃぁ、さくらみこさん、あなたの家まで案内してください。」
「ない。家もないにぇ。」
「えっ。ちょっと、あなた、家がないってことは、出身はこの町じゃないんですね。なら通行許可証とかお持ちでしょう。それがないなら、不法滞在罪になりますよ。」
「ふほうたいたいざい?」
「不法滞在罪!不法で町に滞在している罪で不法滞在罪。何ですかふほうたいたい罪って、まったく。」
「え゛!!じゃぁ、ミコ捕まっちゃうの?」
「捕まりはしません。罰金1万ホロを支払って、町の滞在許可書を発行します。」
「罰金。ふわぁぁぁぁ。ミコ、警察のお世話になってないことだけが自慢だったのに。」
「はい、じゃぁ。滞在許可書を発行するので、その間に1万ホロのご準備お願いしますね。」
「あのぉ。誠に申し訳ないのですが、ミコお金持ってないです。」
「はぁ゛ぁ゛!あなた、今までどうやって生きてたんですか?」
「だから、突然、この町に転移したって言ったじゃん。」
「はぁ。ちょっと待って、頭痛くなってきた。」
頭を抱えて何やら考え始めたスバルは、何かを決断したかのように立ち上がる。
「お前、ちょっと付いてこい。絶対悪いようにはしないから。スバルのこと信じて!」
もともと無一文で異世界に転移したミコチにほかの選択肢もなく素直にスバルの後をついていく。
スバルは大股でずんずんと先に進んでいき、冒険者ギルドと書かれた建物の裏口から中に入っていった。
◇
「で、対処に困った大空警察さんは、あたしのところに来たっていうのかい?」
「あい。」
スバルが呼び出した人物は、白い尻尾に狐の耳を持ったミコもよく知っている白上フブキ、その人物だった。
「警察っていう自警団の真似事を始めるからって出資はしたけど、自警団の人の邪魔をしたらいけないよ。」
実は大空警察は、一応町公認の組織であるがその活動範囲はごく限られた場所のみであり、基本的に町の治安維持は自警団や近衛兵が執り行っている。
「大丈夫、今のところ自警団の人の仕事の邪魔はしていないはずだから!」
「はぁ。で、今回は何を頼みに来たの?」
「とりあえず、こいつにお金と仕事与えてやってくれない?こいつをこのまま、町に放り出したら、すぐに別の問題を起こしそうだったから。」
「お金と仕事ねぇ。」
「おい、さくらみこ!なに他人事みたいにぽけぇって突っ立てるんだよ。お前の話をしてんだよ。きちんと挨拶しなさい。」
「フブちゃんだぁ~。」
普段配信で、思ったことをすぐに口に出しているミコチは、異世界の白上フブキを見てすぐに思ったことを口に出す。
「ん?お前、ギルドマスターを知っているのか?」
「いんや。全然。」
ホロライブの白上フブキは知っていても、ギルドマスターの白上フブキは知らない。
「とまぁ。変な奴だが、頼むよ。面倒見てやってほしい。ほら、挨拶。」
「はい。さくらみこです。よろしくお願いします。」
「まぁ、冒険者として雇うかどうかは、水晶で犯罪歴や冒険者としての素質を見てからだね。」
「えぇ!ミコ。冒険者になってフブちゃんと働くの?」
「おい。お前、この流れで今そのことに気づいたのかよ!」
「えへっ。」
「えへっ。じゃねぇよ。本当に大丈夫かこいつ。」