TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい 作:WhatSoon
それはプレイヤーがコレクションしたカードで自由に
市販のカードパックを購入して、レアカードが出た嬉しさ……考え抜いた組み合わせで戦う楽しさ。
それは他の趣味では満たせない。
子供から大人までハマる中毒性がある。
斯くいう私も、TCGが大好きだ。
まぁ、友人間で遊んだり、時々店舗の大会に出るような……ただの、一般社会人の成人男性カードゲーマーだった。
『だった』。
そう、過去形だ。
カードゲームを辞めてしまったのか?
いいや、辞めていない。
というか辞められるのならば、学生から社会人に移り変わった時に辞めている。
学生の頃より自由に使える時間が減ったのに、未だ続けているのだから……これからも、きっと私はTCG中毒者のままだろう。
では何故、過去形なのか。
カードゲーマー部分は変わらない。
他の部分が変わったのだ。
『社会人』という部分と、『成人男性』という部分。
この二つが過去形だ。
つまり、どういう事かというと──
「…………」
路地裏に座り込み、排気口の金属パイプに顔を映す。
そこには色白で銀髪、赤い目の美少女が映っていた。
これが私だ。
「…………はぁ」
所謂、転生という奴だ。
成人男性だった頃の死因は思い出せないが、何となく『死んだ』という認識はあった。
だから、今の私は『一般社会人の成人男性』ではない。
『ホームレスの美少女』だ。
……私は顔を歪めて、ゴミ箱に座る。
さて、どうして今、ホームレスなのか。
両親は居ないのか。
二日前、まだ私がホームレスではなかった頃を思い出すとしよう。
◇◆◇
まず、この世界について話そう。
といっても、ナンチャッテ中世ヨーロッパのような異世界ファンタジーではない。
この世界では普通に電気や水道が通ってるし、学校もあるし、現代と同様の社会体制が存在する。
現代と同様……だが、部分的にはファンタジーだ。
この世界には『
だが、ただのTCGではない。
学校の成績付け、会社の面接、不良の喧嘩、国同士の戦争。
それら全ての可否が『
……なんて、バカな世界だと思うだろうか。
だが、これが現実だ。
私はこの世界がTCG販促用に作られたホビーアニメの世界ではないかと疑っている。
と、いうのも──
『217番、前へ』
スピーカーから抑揚のない声が聞こえる。
私は白い部屋に立っていた。
実験体217。
それが今生の私の名前だ。
父も母もいない、人工子宮シリンダーの中で作られた
じゃあ、この世界で
いや、普通に違法だ。
全然、バリバリに違法だ。
とんでもない人権無視の犯罪行為だ。
なら、何故、私のような人間が造られているのか。
答えは簡単、真っ当じゃない奴らが集まったからだ。
秘密結社『
この世界を裏から『
法律を遵守する気のない彼等によって、私は造られた。
……ん?
何でTCGを扱う悪の組織で、
私、そして私以前の216人は共通の調整を施されている。
『
……初めて聞いた時、真面目な話だったのに笑いそうになった。
カードゲームの為に遺伝子を改造とか、薬物投与とか、人工授精とか……バカじゃないのか?
いや……『
バカなのは私か?
兎にも角にも、私はカードバトルが強くなるように調整された人間だ。
そして、身体に施された調整は無意味ではない。
『
明らかに運以外の何かが介入しているのだ。
だから、このよく分からない科学的根拠も怪しい調整も意味があるのだろう。
よくは知らないが、多分、きっと。
じゃないと、私を含む217人が無意味になってしまう。
まぁ、そんな色々な理由でこの世界はTCGアニメの世界じゃないかと思った訳だ。
根性論やオカルトパワー、似非科学(この世界ではちゃんとしたテクノロジーかも知れないが)でカードゲームが上手くなるなんて、やっぱりそうとしか思えない。
私はデッキが装着された金属の板……バトルディスクを右腕に展開して、正面へ目を向ける。
あ、バトルディスクというのは持ち運び式のプレイマットみたいな物だ。
普段はスマホより少し大きい程度だが、展開するとカードを置けるぐらい大きくなる。
これもやっぱりホビーアニメっぽい。
視線を上げる。
白い円柱型のロボットに、二本のロボットアームが生えている。
片腕には私と同様のバトルディスクがセットされている。
……シミュレーション用の対戦相手に、こんな形状が必要なのか?
別に、CPUと『
わざわざ、こんな……出来損ないのカードバトラーみたいな形にしなくてもいいだろう。
何だその無駄な拘りは。
私は小さく息を吐き出す。
ため息を吐いたつもりだったが、側から見れば吐息との違いも分からないだろう。
人工子宮シリンダーの中で育った
まぁ、もし気怠そうにしている顔を、秘密結社『VAX』の研究員に見られたら拙いし?
表情に乏しくて寧ろ良かったと感謝している。
私は正面の、カードバトラーロボットに目を向ける。
この胸の内で沸き立つ感情、それは──
『217番の擬似戦闘4767を開始する。記録開始』
喜びだ。
カードゲームが出来るという喜びが、私を支配する。
この最悪な環境で唯一の娯楽、それが『
だから私は、この非人道的な環境だとしても……自死を選ばずに済んでいる。
「…………」
私は腕に装着しているバトルディスクを構えた。
『『オープン・ファイト』』
◇◆◇
赤い触手が集合したようなクリーチャーが私の前にいる。
見た人間を不快にさせるようなグロテスクなクリーチャー……これはバトルディスクによって具現化されたカードだ。
この世界は推定ホビーアニメの世界。
ただカードをプレイするだけでは絵面が地味だからか、こうしてバトルディスクを介してカードが具現化するのだ。
私はバトルディスク上にある、クリーチャーが描かれたカードをタップする。
「『精神を刻む者』で、プレイヤーに直接攻撃」
赤い触手……カード名『精神を刻む者』が動き出し、目の前にいるカードバトラーを模したロボットへ攻撃する。
触手を鞭のようにしならせた瞬間、爆ぜる音がした。
対戦相手であるロボットへ衝突し……瞬間、勝敗がついた。
相手プレイヤーのライフは0となり──
『『バトル・エンデッド』』
爆発した。
「…………」
いや、何で爆発するんだろう。
確かに、この世界では『
流石に爆発するような事はない。
というか『
だからこの、ロボット限定で起きる現象だ。
それに、こうやって爆発するのは今に始まった事ではない。
いや、そもそも何で毎回爆発してるんだって話だけど。
この組織のメカニックはアホなのか?
それとも、私の知らない超常現象でも起きているのか?
分からない。
この組織の外の事を映像などで見た事はあっても、実際に外へ出た事はないのだから。
『擬似戦闘4767を終了。記録終了』
偉そうな声を耳にしながら、私は展開していたバトルディスクを収納する。
そのまま真っ白な部屋を出て廊下を歩く。
私は毎日こうして、カードバトルをさせられている。
今日のように誰かプレイヤーの情報が入ったロボットとのシミュレーションであったり、生身の人間だったりする。
この実験の意味はよく分かっていないが、カードバトルは楽しい。
このクソみたいな環境では唯一の娯楽だ。
だから良しとする。
寝床と飯が保障されている状況で、毎日カードゲームが出来るのだ。
……うーん、現実から目を逸らすにも限度があるな。
私は廊下の先に居た組織の人間と合流する。
連れられて、別の部屋に通される。
中にはベッド……と、それに結合された機械群しかない。
私がベッドに横たわれば、電極パッドのような物や、よく分からない機械を装着させられる。
これで私を『調整』しているらしい。
……特に何か、調整前から変わっている気はしないが。
これ何の意味があるんだろうか。
見た目は凄く仰々しいが。
兎にも角にも、機械を装着する。
そして、腕に針を刺される。
針は細く、跡も残らないようになっているが……痛いものは痛い。
持ち前のポーカーフェイスのお陰で顔を歪める事もないが、本当はデカい声を出しそうなぐらいだ。
そのまま、針から薄緑色の液体を入れられる。
どう見たって身体に悪そうだ。
見るからに悪の組織です、みたいな見た目しやがって。
なんて内心悪態を吐いていると……うつら、うつらと意識が朦朧としてくる。
アレが入ると眠くなる。
普通の麻酔……ではなさそうだが。
誰に聞いても、何も教えてくれなさそうで。
朦朧とする意識の中、錯綜する思考を手放し……私は目を閉じた。
◇◆◇
目が覚めると、知らない天井だった。
……あ、いや、知っているな。
知っているが、記憶と違う。
寝る前と同じ天井だが……崩壊している。
ヒビが入っているし、灯りは割れているし、ガラス片が地面に散らばっている。
現状、非常灯だけが光を放っていた。
……というか、私のすぐ側に柱が倒れている。
もう少しズレていれば私はペチャンコだっただろう。
間一髪、といった所だろうか。
なんて、明らかに異常事態なのだが、私は自分でも呆れるほど冷静だった。
この身体になってから感情が大きく振り切れる事がない。
感受性が豊か『じゃない』って感じだ。
表情も乏しいし、それも相まって何考えてるか分かりづらい見た目をしているんじゃないだろうか。
いや、クール系美少女キャラなんて柄ではないが。
小さくため息を吐いて、身体に取り付けられていた機器を外す。
服は……寝る前と同じ、真っ白な病衣のような服だ。
素足で、割れたガラスが散らばっているような床を踏むのは嫌だな。
落ちている靴へ手を伸ばし……届かない。
点滴を支えている金属棒を持って、手元に引き寄せる。
うん、上手くいった。
そのまま履いて、足を下ろす。
「……はぁ」
そして、見渡す。
廃墟のようになっている研究施設。
鏡の前に立つ。
銀髪赤目の美少女が、無表情でこちらを見ていた。
……寝る前から痩せていたり、髪が伸びたりもしていない。
それほど時間は経っていないのか?
「……取り敢えず、散策しようかな」
このままここに居ても、事態は進展しないだろうし。
机の上に置いてあった自分のバトルディスクを腕に装着し、外へ出る。
毎日通い続けていたシミュレーションルームはドアが曲がって入れなくなっていた。
見るからに悪役って感じの、鬱陶しい研究者達の姿はない。
……この研究施設が、誰かに襲撃されたのか?
というか、そもそも何でこうも物理的に破壊されているんだ?
謎は深まる。
深すぎ。
そうしてまだ無事そうな施設を探して、コントロールルームへ辿り着いた。
一度も入った事がない部屋だ。
ここで研究者が私に、偉そうな指示をしていた。
まぁ、その研究者も居ないっぽいし、勝手に入ってしまおう。
意気揚々とドアの開ボタンを押す。
幸い、非常用の電源が生きていたのか自動で開いた。
そして、私は中へ入った。
幾つかのコンピュータは光を失っている。
一目見ただけで壊れているのが分かるような機器を軽く蹴って、動いていそうな物を探す。
……あった。
研究施設内の監視カメラの映像を管理するコンピュータだ。
これで何があったか調べて──
困った。
私、この機械の使い方を知らない。
普通のOSじゃないっぽいし、何やってるか分からない。
……取り敢えず、キーボードを適当に叩いてみるか。
……あ。
あー。
あー……あ。
何か色々、データ消しちゃったみたいだ。
無理矢理、触るんじゃなかったな。
まぁ、でも……もう今更か。
恨みこそあれど、心配するような気持ちなんてないし。
もう少し弄ろう。
コツが掴めて来た気がする。
……それから、何か色々データを消したり、壊したり、画面を何度か真っ青にして、更新履歴が最新のデータを見つけた。
うーん、復旧できなくしちゃったかもしれないけど、まぁいっか。
目当てのデータは見つけたし。
最後に録画されていた情報は二日前だった。
……寝てから二日も経っているのか。
にしては、腹は減っていないが……あの緑色のよくわからない液体は栄養剤も含んでいるのか?
ディスプレイに映像が映る。
……これはここの上層階か?
そこで見覚えのある人間が映っている事に気付いた。
『
それと相対しているのは……赤い髪の毛の、高校生ぐらいの男の子だ。
二人ともバトルディスクを装着しており……なるほど『
という事は、あの赤髪の男の子が主人公くんに違いない。
何かカッコいいドラゴン使ってるし。
ほら、やっぱりこの世界はTCGの販促アニメの世界じゃないか。
直後、画面に赤髪の男の子の情報が表示された。
名前、性別、年齢まで。
「竜ヶ崎、ユウキ……?」
年齢は16……この身体と同い年か。
対戦の様子を観察する。
音声はなく、距離も遠い。
全体は把握できないが……どうやら、総督側が優勢みたいだ。
しかし……逆転。
総帥のライフが削られて、決着。
正義は勝つって事ね。
悪党は爆散──
というかまた、敗北した瞬間に爆発したんだけど。
どういう建物設計をしてるんだ。
メカニックだけではなく、建築士も馬鹿なのか?
そして──
「あ」
映像が途切れた。
「……うーん?」
得られた情報は少ない。
私が在籍していた悪の組織の首領が倒され、ここが自爆した……っぽい事しか分からなかった。
研究員達は脱出したのだろうか。
というか、何で私だけ取り残されていたのだろうか。
雰囲気的にこの施設が倒壊しそうになったから逃げたのだろう?
何を見捨ててるんだ。
……なんて。
「……まぁ、いいか」
どうでもいい話だ。
今は取り敢えず、ここを出よう。
私は映像を表示していた端末の電源ボタンを押した。
何だか、また画面が真っ青になっているけど気にしない。
細かい事は気にせず首を突っ込まないのが、悪の秘密結社で生きるコツだ。
視線を下げる。
この病衣みたいな服だけというのも拙いか。
外で出歩くには薄着過ぎる。
私に羞恥心はないが、悪目立ちしたくない。
典型的日本人なのだ、私は。
例え銀髪赤目色白美少女だとしても、心は日本人だ。
コントロールルームを出て、何か着れる物はないか漁る。
そうして探している内に……壊れたロッカーを発見した。
幸い、鍵も壊れているようでこじ開けられる。
無理矢理開けて、中を覗く。
「……ラッキー」
中に入っていたのはフード付きのコートだ。
恐らく成人男性を対象にしたサイズ感……私には少し大きいが、貰っていこう。
羽織ってみると……うん。
大きい。
袖を捲らないと手が出せないぐらいだ。
だが、無いよりはマシだ。
フードを被れば、この無駄に目立ちそうな容姿も隠せそうだし。
ついでに入っていたセキュリティカードと、財布も貰っていこう。
……お、そこそこ入っているな。
現金はいくらあっても困らないし、嬉しい。
コートの中に財布を入れて……ロッカーの裏に付いている鏡の中の私と目があった。
自分の物じゃない財布を懐に入れる、私。
……いや、これは迷惑料だし?
今まで、無給で虐待紛いの実験に付き合っていたんだ。
私は悪い事などしていない。
殆ど機能していない罪悪感から目を逸らして、私はロッカールームを出た。
所々、崩壊している廊下を歩き……エレベーターの前に立つ。
破損箇所は特に多いようで、金属片が散らばり、鉄筋も剥き出しになっている。
「……まぁ、動いてる訳ないか」
エレベーターにはBF2(地下二階)と書かれている。
地上に上がるのも一苦労かな。
私は床に落ちていたちょうど良い長さの金属棒を拾って、歩き出す。
前世の小学生だった頃を少し思い出す。
良い感じの長さの木の棒を、剣だと言い張って持って帰ろうとした事があったな。
なんて。
ひしゃげた非常扉を見つけて、前に立つ。
金属製の扉は歪んで開かないようだ。
こういう時の為に、コレを拾ってきたのだ。
「よいしょ」
金属の棒を扉に差し込んで、無理矢理こじ開ける。
軋む音が鳴り響き、歪んでいく。
……この扉が柔らかい訳じゃない。
私の身体能力が高いだけだ。
別に筋トレしたりした訳ではなく、ここのマッドサイエンティストどもに肉体を弄られたからだ。
カードゲームするのにマッスルは必要なんだろう、知らないけど。
非常扉を開けて、入る。
……所々、崩落している階段を上がっていく。
BF2(地下二階)、
太陽光ではない、人工の光だ。
……まだ組織の人間が居たのか?
なんて思いながら、地上へ到着した。
静かに非常扉を開け……開かないな。
無理矢理蹴飛ばして開ければ、地下とは異なる景色が見えた。
瓦礫も残っており、廃墟といった様子だが……三脚に支えられたライトが幾つかある。
それは星が見えない夜空でよく目立っていた。
「……あ」
そしてまだ私に気付いていないが、作業服らしき服装の男達がいる。
側に警官らしき人も。
やった。
保護して貰お──
いや、待て。
私の所属させられていた組織は『悪の組織』だ。
……罪に問われないだろうか?
確かに私は被害者の立場だが、それを誰が証明する?
……私は口を閉じて、瓦礫の影に隠れた。
見つからないように息を殺して、距離を取る。
「…………」
折角、組織が崩壊した(っぽい)のに、また捕まってたまるか。
私は今、自由を謳歌したいのだ。
ならば、選択肢は一つ。
私は、こっそりと瓦礫の山から離れた。
そのまま廃墟となっている施設から出れば……なんだ、普通の街並みだ。
前世の記憶と同様……いや、『
しかし、まぁ、普通の景色だ。
「……こんな街中に悪の組織があること、あるんだ?」
木を隠すなら森の中……悪の組織の秘密基地を隠すならビル街に?
……いや、普通に山奥とかに隠すべきじゃないか?
人が居なさそうな方へ通り抜け、人に見つからないよう逃げ出す。
幸い、今は深夜か……人と会わずに済みそうだ。
深呼吸する。
そして、伸びをする。
「……自由だ」
私は喜色満面に溢れて……いや、ポーカーフェイスだが、内心だけ、喜色満面に溢れていた。
あのクソ不味いサプリや、べちょべちょした栄養食とはおさらばだ。
気持ち悪い調整も、ブラック企業ばりにカードバトルを強制される日々とも。
自由。
それを、この世界に生まれてから初めて実感した。
コレから何をしてもいいのだと。
何もしなくてもいいのだと。
強制される事はないのだと。
「……ふふ」
私は両手を空へ伸ばす。
こんなポーズを取っても、誰にも咎められない。
私はこれから来る、素晴らしい日々に胸を高鳴らせた。
◇◆◇
──のだが。
現実は非情である。
組織で生まれた私に戸籍はなく、家もない。
住所もなければ、アルバイトも出来ない。
持ってきた財布の中身も有限。
詰み、に近い状況だった。
つまるところ、『組織の実験体』という仕事を失い、私は完全にホームレスとなったのだ。
「……寒い」
コートの下は薄着の病衣だ。
今の季節では少し物足りない。
内ポケットから財布を取り出して、開く。
1,386円。
それが私の全財産だ。
何がいけなかったのか。
昨日、ビジネスホテルに泊まった事か。
空腹に耐えかねて豚骨ラーメン+餃子+半炒飯を食べた事か。
情報収集の為にネカフェに入った事か。
ネカフェで販売されてる菓子を貪ってしまった事か。
分からない。
心当たりはな……いや、うん。
だって……仕方ないし。
眠かったし、シャワー浴びたかったし、お腹減ったし。
私はゴミ箱の上で揺れる。
すると中身がガラガラと音を立てた。
「……今日から野宿か」
金が無さすぎる。
この現代社会、生きるには金が必要だ。
食うにも、寝るにも金が要る。
コートを捲る。
薄くなった財布を眺める。
左腕に装着されたバトルディスクを見る。
これが私の家財──
「あ」
……そうだ。
いいこと考えた。
「私にはまだ、『
そう、組織の実験体だった頃から使っている、このデッキが。
ゴミ箱から降りて、路地裏を歩く。
足取りも軽い。
「それなら、その辺の奴から
ネカフェに入った時にニュースで見た。
街のガラの悪い奴らが、
違法行為ではないから、咎められなくて困ってるって。
「もしかして、私って頭いいかも」
レアカードだったり、金銭だったり……他にも。
「……ふふ」
私はフードを深くかぶった。
この容姿は目立ってしまう……顔は隠して、活動しよう。
路地裏を後にして、私は暗がりの街へ繰り出した。
「へくちっ……」
……が、餓死か凍死する前に、
危機感を感じ、少し小走りになった。
◇◆◇
─────────────────
VAXヴァックス国家転覆未遂事件
事後調査報告書
─────────────────
10月21日。
竜ヶ崎 ユウキと総帥ヴァン・キッシュが交戦の末、前者が勝利。
直後、秘密結社VAXの本拠地である七四ビルが崩壊。
逃走を図った構成員163名及びヴァン・キッシュを確保。
崩壊寸前となった七四ビルについて、調査を継続。
10月24日。
旧・七四ビル内で地下通路を発見。
構成員への尋問の結果、研究施設の存在を確認。
第4、5階のラボラトリーはダミーである事を確認、周知。
安全が確保出来次第、地下の調査を行う。
10月26日。
降下資材提供により、地下調査を決行する。
地下に複数階層を確認。
残された資料から、人体実験、複製実験など違法な実験をしていた事を確認。
10月27日。
データ班の調査の結果、コントロールルーム内のデバイスが意図的に破壊された事を確認。
データリカバリーに失敗、復旧は不可。
また、データ以外にも幾つかのデバイスが人為的に破壊されていた。
破損した痕跡から、工作処理が施されたのは10月22日以降である事を確認。
七四ビル崩壊後の状況から、隠蔽行為を図ったと推測。
別途、地下への入り口が強制開放されている事も確認。
以上より、何者かが研究所で工作行為を行い、離脱した事を確認。
VAX残党の一員の可能性が高い。
継続調査。
現地調査班とは別に、VAX残党探索班の構成を検討。
人員不足のため、追加人員を要請。