TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#10 これから

「トドメだ!フェアリー・トークンで攻撃!」

>フェアリー・トークン(7/1)

 

 

僕の場にいるフェアリー・トークンが光を纏い、突撃する。

 

 

「っ、ぐわあぁっ!?」

「きゃあっ!」

>ヤマイ&ヨーコ:ライフ6→0

 

 

その勢いのまま、『決闘組』の二人が吹っ飛んで地面に転がった。

 

 

『『『『バトル・エンデッド』』』』

 

 

直後、カードバトルの終わりをバトルディスクが告げた。

 

 

「くっ……まさか、オレ達が──

 

「アタシ達が負けるなんて……!」

 

 

ヤマイとヨーコの二人の意識はハッキリとしているようだけど、立ち上がれないようだ。

……『タッグバトル』だからバトルディスクのダメージ・フィードバックの影響が分散して、軽減されたのだろうか。

 

カードショップや闘札場(アリーナ)のようなカードバトルを想定している場所なら、フィードバックを軽減するために衝撃吸収用の設備が配置されたりしているけど……ここはただの路地裏。

剥き出しのコンクリートに転がされたっていうのに、随分と頑丈な奴らだ。

 

そんな様子を見て、僕は膝に手をつき、安堵のため息を吐いた。

 

 

「……良かった……勝てた…………」

 

 

ニーナを助けようと『タッグバトル』に介入したのに、もし彼女の足を引っ張ってしまったら……なんて思っていたからだ。

勝てて良かった、心の底からそう思った

 

そして、僕は視線をニーナへ向ける。

 

 

「ニーナ、さっきはありが──

 

 

視線を向けると、彼女は『決闘組』の二人に向かって足を進めていた。

何か、話したい事があるのだろうか。

 

そう思っていると──

 

 

「じゃあ、持ってるレアカードを出して」

 

「ちょっ……!?ニーナ!?」

 

 

慌てて彼女の側に駆け寄った。

 

 

「なに?」

 

「なにって……だ、ダメだよ!賭け(アンティ)だからって、カードを奪るのは!」

 

 

『決闘組』の二人に聞かれないように、彼女の腕を軽く引っ張って……少し離れた場所に移動する。

 

それでも彼女は心底不思議そうな顔をしていた。

 

 

「……なんで?法律で禁止されている訳でもないのに」

 

「そ、それは……」

 

 

確かに賭け(アンティ)ルールは法で禁止されていない。

だから、『決闘組』のような暴札族の間では賭け(アンティ)ルールは盛んだし、警察だって止める事ができない。

 

だけど、健全な訳じゃない。

強い人が一方的に得をする暴力的なルールでしかない。

 

僕は少し悩んで、彼女に視線を戻した。

 

 

「きょ、今日みたいな、不要なトラブルに巻き込まれるからだよ……!」

 

「別に、私は構わないけど」

 

「僕は構うよ……だって、まだマシな方なんだよ、彼等は」

 

「……どういうこと?」

 

「もっと卑怯で、多人数で来る奴もいるんだ……!君が疲労するまで、入れ替わり立ち替わりカードバトルを強要して……無理矢理勝ちに来るかも知れない」

 

「…………」

 

 

ニーナが目を細めた。

彼女も、理解したようだ。

 

 

「見ず知らずの人と賭け(アンティ)ルールするのはダメだよ。不要な恨みを買ってしまうと、危険な目に──

 

「それでも、私にやめる事なんて出来ない」

 

 

理解しても、納得はしていないようだ。

僕は彼女に視線を合わせる。

 

 

「どうしてそんな──

 

「だって私、お金持ってないから」

 

 

……目を、瞬く。

 

 

「お金……?」

 

「ご飯を食べるにも、シャワーを浴びるのにも、ベッドで寝るのにも……何にでも、お金は掛かるから」

 

 

息を呑む。

 

 

「そ、それなら自分の家に帰ったら──

 

「家なんてない」

 

 

無意識のうちに汗をかいていた。

心臓が掴まれてしまったかのように、苦しい。

 

 

「っ、お父さんや、お母さんは……?」

 

「いない」

 

「それなら、誰か、頼れる大人は……!?」

 

 

彼女は少し面倒くさそうな顔で、首を横に振った。

 

 

「そんなの、いない」

 

 

彼女はまだ、僕と同い年ぐらいの女の子だ。

なのに、家もない。

家族も居ない。

頼れる大人も居ない。

 

 

「そ、そんなのって……!」

 

 

そんなの、どんな人生を送っていたら──

 

 

「少しだけ、話してあげる」

 

「……話、って?」

 

「私の話。『タッグマッチ』で助けてくれたお礼に、少しだけ」

 

 

僕は気になっていた。

彼女がどんな境遇なのか。

 

僕は勝手に、彼女を僕のような境遇だと思っていた。

 

だけど、僕が想定しているよりも、彼女は……ずっと。

 

 

「私の本当の名前はニーナじゃない」

 

「……え?」

 

「本当の名前は『217』。『VAX』が作った人造人間(ホムンクルス)。家族も、家も、身分だって……何もない」

 

 

ずっと、苦しくて、辛くて……悲しい境遇だった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は語った。

 

 

 

 

 

今までの事を……そして、彼女の今を。

 

 

 

 

 

帰る場所もなく、身分もない彼女が、一人で生きるためには賭け(アンティ)ルールしかなかったのだと。

 

それに比べて僕は、何不自由なく食事をして、風呂に入って、暖かいベッドで寝ていた。

帰る場所があった。

 

そんな僕が、ニーナに……何を言えるのだろうか?

生きるために行動している彼女に、自分勝手な正しさを説くなんて、そんな恥ずかしい事は……もう、出来ない。

 

 

「だから、賭け(アンティ)ルールはやめられない。せめて、誰かに捕まるまでは……私は『自由』に生きたい」

 

 

それは確かに、彼女の我儘だった。

だけど、当然の事だった。

仕方のない物だった。

 

僕にとって当然の物を、彼女は持っていなかった。

だから……そうやって手を伸ばそうとする事を、咎められる訳がない。

 

僕は、自分が恥ずかしくなった。

 

 

「ニーナ……」

 

「止めないで欲しい。どうしても止めたいなら、私とカードバトルで戦って」

 

「う、ぁ……」

 

 

彼女の視線が鋭くなる。

 

 

「するの?カードバトル」

 

「ぼ、僕は……」

 

「……戦う気もないなら、私を放っておいて」

 

 

そう言って……彼女は落胆したような表情を浮かべ、踵を返した。

 

 

「待っ──

 

 

僕は何がしたいんだ?

何がしたかったんだ?

彼女にどうして欲しかったんだ?

 

初めて彼女と出会った時、『賭け(アンティ)ルールをやめて欲しい』と思ったのは……自分勝手な正しさからくる正義感だった。

だけど、今は違う。

 

ニーナ。

本当の名前が『217』だとしても、僕にとってはニーナだ。

 

ニーナにトラブルに巻き込まれて欲しくないからだ。

危険な目に遭って欲しくないからだ。

 

そんな理由が、今は増えた。

 

だけど、それでも──

 

 

「…………っ」

 

 

僕に彼女は止められない。

 

生きるため。

ただ、それだけの為に賭け(アンティ)ルールを行う彼女に……僕が、何か言える訳がない。

 

だって僕は、納得してしまった。

『仕方ない』と思ってしまったんだ。

 

だから、もう……見ないフリをして、彼女に関わるべきではない。

何も言わずに立ち去ること、それが正しい選択だ。

 

だけど、それでも、僕は──

 

 

「ニーナ……!」

 

 

彼女のコート、その裾を掴んだ。

ゆっくりと、彼女が振り返る。

 

 

「なに?結局、カードバトルを──

 

「だ、だったらさ、僕の家に住んだら良いんじゃないかな……?」

 

 

そう、僕は言葉を口にした。

そして、少しして。

 

僕と彼女の間を冷たい空気が流れて。

 

 

「あっ」

 

 

とんでもない事を口走ってしまったのだと、僕は理解した。

 

 

「い、いや、変な意味じゃないんだ。僕、今、その一人暮らししてて……ええと、ご飯とかも出せるからさ。その賭け(アンティ)ルールとかしなくても──

 

「そんなの、ヒイロに何か得はあるの?」

 

「そ、それは……ほら、『妖精姫 エルザ』を返してくれたし、たい焼きだって──

 

 

そこまで言って……僕は首を振った。

 

 

「ごめん、損得じゃないよ……僕はもう、勝手にニーナの事を友達……ぐらいには思ってるから。困ってるなら、助けになりたいって……そう思ったんだ」

 

「……友達?」

 

「そうだよ……!友達だよ……少なくとも、僕にとっては……だけど」

 

ニーナは僕の話した言葉を咀嚼して、視線を逸らした。

 

 

「……友達、かぁ」

 

 

ポツリと溢した彼女の言葉に、僕は……。

 

 

「ニーナ……」

 

 

……今、口にした言葉を反芻する。

何て、自分勝手で独善的な事を言ってるんだ、僕は。

彼女からしたら僕は……ただ、不審で、気持ち悪い奴なんじゃないか──

 

彼女が僕に顔を向けた。

 

 

「友達なら、うん……仕方ない」

 

 

視線があった。

整った顔立ちの少女が、僕を見ている。

 

ほんの少し身長差がある。

だから、彼女の視線は自然と上目遣いになっていた。

 

 

「でも、ヒイロ……本当に、いいの?凄く迷惑かけると思うけど」

 

 

まるで、心臓が誰かに掴まれるような感触があった。

少し見つめられるだけで、こんなになってしまうのに一緒に暮らせるのだろうか?

自信はない。

 

だけど、一度口にした言葉を取り消すつもりはない。

 

 

「い、いいよ。大丈夫」

 

「本当に?」

 

「気にしないよ……迷惑なんて思わないから」

 

「……そっか」

 

 

彼女は深く息を吐いて、僕に視線を合わせた。

 

 

「……それじゃあ、その──

 

 

そして深く、頷いた。

 

 

「お世話になる、ね?」

 

「……う、うん」

 

 

顔が熱い。

風邪でもひいてしまったのだろうか。

そう思ってしまう程、体の底から熱い。

 

店長から言いつけられていた事も忘れてしまう程、僕は……ドキドキしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

「ど、どうぞ……?」

 

 

ニーナが、僕の家……マンションの一室に足を踏み入れた。

 

あの後、『決闘組』の二人に「もう賭け(アンティ)ルールはしないから、放っておいて欲しい」という要求を飲ませた。

カードバトルで負けた手前、素直に従うしかないだろう。

これで、他の不良カードバトラー……少なくとも『決闘組』から絡まれる事はないだろう。

 

そう、彼女が賭け(アンティ)ルールを自ら行わない限りは。

……つまり、彼女が僕の家を嫌がって出ていかない限りは大丈夫という訳だ。

 

あれ?僕の責任、結構重大かも……?

 

ニーナが顔を回して、室内を見渡した。

 

 

「……結構、広い」

 

 

ここは一応、市内にある少し高めのマンションだ。

部屋は広い。

それに壁も分厚いし、防音もしっかりしてる。

 

ニーナが僕に視線を戻した。

 

 

「……ここ、誰のお金で借りてるの?」

 

「誰って、僕だけど……」

 

「ヒイロの?」

 

 

訝しむような目を向けられる。

僕は慌てて弁明する。

 

 

「えっと、その……僕の実家って、ちょっと大きな会社で。重大な決定を他の会社と締結する時は『WoM(ワールドオブマジック)』で決めるんだけど……そこで一応、僕は雇われてカードバトルしてるんだ」

 

「……プロのカードバトラーなの?」

 

「プロ、とかそういう役職ではないけど……まぁ、一応。カードバトルでお金を貰ってるかな……」

 

「へー、すごい。そんな仕事あるんだ」

 

 

この間、彼女は無表情だ。

だけど、バカにしてるとか、そういう訳ではなく……多分、彼女は表情を顔に出すのが苦手なんだな……なんて思った。

 

 

「あ、玄関に立ちっぱなしも悪いし、リビングまで行こうよ」

 

「うん。荷物って何処に置いたらいい?」

 

 

ニーナは手持ちのリュックを胸元まで持ち上げた。

 

 

「えっと、どこでも良いんだけど……じゃあ、一旦、部屋の隅でいいかな?」

 

「うん、分かった」

 

 

ニーナがリュックを床に置くと、重力に負けてくしゃりと潰れた。

……中に固形物が入ってないのだろうか?

 

 

「アレって何が入ってるの?」

 

「うん?……えっと、着替え。下着とか」

 

 

その言葉に、僕は視線を逸らした。

 

 

「そ、そっか……」

 

 

なんだか少し恥ずかしくなって、ニーナに視線を戻すと──

 

 

「…………」

 

 

大きなコートを脱ぎ捨てていた。

その下は……肌寒い季節だというのに、半袖とショートパンツだった。

 

スラリと長くて、傷一つない白い足が見えた。

……目、目に毒だ。

心臓にも悪い。

 

 

「ソファ、座っていい?」

 

 

彼女の言葉で、僕は意識を現実へ戻した。

 

 

「も、もちろん!自分の家のように使って良いから、うん」

 

「ありがとう……あ、すごい柔らかい」

 

 

彼女がソファの上に座る。

少し姿勢を崩して、無防備な姿を晒していた。

 

 

「うん、快適」

 

 

な、慣れなきゃ。

これから彼女を家に住まわせるのだから、こうして一挙一動に慌てていたらキリがない。

早く慣れないと、心臓が過労死してしまう。

 

 

「えーっと、ニーナはお風呂、入る?」

 

「うん、入りたい」

 

「なら、今から準備するよ。それまではテレビでも見ててよ」

 

「……ありがとう」

 

 

机の上にあるリモコンを押して、テレビの電源をつける。

そして、そのリモコンをニーナに渡した。

 

そのまま、僕は浴室まで行って……お湯張りを開始する。

といってもボタンを一つ押すだけだけどね。

 

そんな事をしていると、リビングの方から聞こえるテレビの音が小まめに切り替わるのを耳にした。

……多分、ニーナが好みの番組に切り替えているのだろう。

 

お湯張りが正常に開始された事を確認して、僕はリビングに戻った。

彼女が見ていたのは……バラエティ番組だった。

 

なんだか意外だ。

こういうの見るタイプの人だったんだ。

 

彼女の隣……いや、少し離れた所……まぁまぁ離れた所に僕は座った。

 

 

「あ、ニーナ。喉乾いてない?水とか用意しようか?」

 

「うん、飲む。飲むけど……」

 

 

ニーナがソファの上を這って、僕との距離を詰めた。

距離が、近い。

 

 

「な、何かな?」

 

「そんなに気を使わなくてもいい。私、居候させてもらう立場だし」

 

「で、でも……」

 

「いつも通りでいい。私がいる事で迷惑がかかるとしても、気を使わなくていい」

 

 

僕は息を呑んだ。

 

いつも、通り?

いつも通り、か。

……う、うーん?

いつも、何してたっけ?

 

 

「わ、分かったよ。これから少しずつ、そう出来るように頑張るから」

 

 

兎に角、今は『いつも通り』なんて出来ない。

少しずつニーナが居る生活に慣れてきてからだ。

 

そんな僕の後ろ向きな回答に、彼女は眉尻を下げた。

 

 

「ヒイロ、ごめん」

 

「え?な、何が……?」

 

「迷惑かけてる自覚はある。だから、何かして欲しい事があったら言って欲しい」

 

「して欲しい事……?」

 

「うん。何でも言って。何でもするから」

 

 

何、でも?

何でも、か。

何でも……。

 

ニーナが、何でも……?

 

 

「っ……!?」

 

 

咽せた。

 

何を考えてるんだ、僕は。

変な事を考えるな!

 

 

「……ヒイロ?大丈夫?」

 

 

頭の中の妄想を振り払い、僕は頷いた。

 

 

「うん、だ、大丈夫だよ……?」

 

「ならいいけど……」

 

 

彼女は自分の魅力を分かっていないのだろうか?

本当に無防備な仕草で、無防備な事を言う。

まったく、困った人だ。

 

思わず少し頬を緩めてしまう

 

 

「やって欲しい事は……うん、家事の振り分けとか、明日以降に決めようよ。今日はもう遅いし」

 

「うん。わかった」

 

 

そうして、二人で並んで、テレビを見た。

父はあまり好きじゃなさそうな番組だ。

……というかニュース番組ぐらいしか見ないんじゃないかな。

 

そもそも、こうして家でテレビを見るような事も無かったから……分からないけど。

 

風呂場でアラームが鳴った。

お湯張りが終わった音だ。

 

 

「お風呂が沸いたけど……ニーナ、先に入る?」

 

「うん、入りたい」

 

「じゃあ、説明するよ。行こっか」

 

 

浴室で僕はニーナに色々と説明した。

シャンプーとかボディーソープの位置とか、使って欲しいタオルとか、洗濯物を入れる場所とか。

 

 

「……うん、分かった。ありがとう」

 

「分からなかったら、また訊いてくれて良いからね」

 

「うん」

 

 

他にも色々と話さなければならない事は沢山あるだろうけど、今はこれで十分かな。

そう思いつつ、僕が視線を向けると──

 

 

「え」

 

 

ニーナが、目の前でシャツを脱ごうとして──

 

 

「ちょ、ちょっと待って!僕が風呂場から出るまで待ってよ!」

 

「あ、ごめん」

 

 

どうしてこんな状況で彼女の方が謝ってるんだろう。

普通逆じゃないのか?

いや、普通はこんな状況にはならないだろうけど。

 

僕は慌てて風呂場から出て、リビングに退避した。

 

 

「……はぁ、びっくりした」

 

 

ニーナは、本当に……何というか、僕を同性の友人か何かだと思っているんじゃないだろうか。

 

僕は男だ。

ニーナは女だ。

 

その辺りはハッキリと彼女にも認識して──

 

あ、アレ?

今更だけど、彼女を家に住まわせるって事は……異性と同棲するという事じゃないか?

 

 

「…………」

 

 

僕は頭を抱える。

今更、見捨てるという選択肢はない。

彼女が危険に巻き込まれないためにも。

 

今は、僕の家に居て欲しい。

 

だけど、それは……ずっとではない。

一生は面倒を見れない。

 

彼女は人間だ。

ペットではない。

 

一人で生きられるように、どうにかしなければならない。

身分もなく、身寄りもない……そんな彼女が、真っ当に生きられる方法を。

 

 

「……う、何も思いつかない」

 

 

……そういえば、店長がニーナに会いたがってたな。

でも、店長……あの時、彼女を追ってる誰かに連絡したみたいだし。

ニーナはあまり、店長に会いたがらないだろう。

 

……う、うーん。

どっちの事情を優先すべきなんだろう。

 

今はまだ分からない。

結論を急いで出す必要もない。

 

一人で勝手に結論を──

 

 

「ヒイロ、着替えがない」

 

 

風呂場のドアが開いた。

視線を向けると、そこには──

 

 

「ちょっ……!?服、服を着てよ!」

 

「その服がないから──

 

「わ、分かった!君のリュックを持って行くから!出てこないで!」

 

 

どうやら、僕の日常はこれから騒がしくなるらしい。

でも、何故だろうか。

後悔はないんだ。

 

寧ろ、どこか……楽しくなりそうだと思った。

そう思えたんだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「……くそっ、負けちまったな」

 

「まーね、強かったから。アタシは仕方ないと思うわ」

 

 

オレはヨーコの肩を持って、歩いていた。

 

 

「……オレはそんなに切り替え早くなれねーよ」

 

「別にいいけど。ヤマイのそういう所、アタシは別に嫌いじゃないし」

 

「……はぁ、そーかよ」

 

 

今は、深夜……ここは人影のない街中だ。

レアカードハンターとフェアリー使いに負けたオレ達は、バトルディスクからのダメージフィードバックを受けた。

結果、こうやって歩けるようになるまで2時間も路地裏に転がってた訳だ。

 

これで74戦、72勝と2敗だ。

負け数が1つ増えちまった。

 

 

「でも、マジで強かったな……」

 

「うん。ありゃ、ウチの奴らが負ける訳だね」

 

 

賭け(アンティ)ルールでレアカードを奪われた『決闘組』の奴ら、その仇討ちに来たんだが……結局、負けて『賭け(アンティ)ルールをしない代わりに、もう二度と関わらない』なんて約束をしちまった。

 

完敗した上に、譲歩までされちまった。

オレのメンツはボロボロだ。

 

意気消沈したまま、オレは『決闘組』の奴らが集まっている本拠地(アジト)……まぁ、なんてことない工場跡に到着した。

 

 

「オイ、帰ったぞ」

 

 

レアカードハンターとの勝負の結果を教えてやろうと、中に入れば──

 

 

「あ?」

 

「はぁ!?」

 

 

そこには『決闘組』の奴ら……気の良い奴らが……今、コンクリート剥き出しの床に転がっていた。

呻くような声をあげてる奴……白目を剥いてる奴……痙攣してる奴。

 

ただ、フツーにカードバトルしただけじゃあ、こうはならねぇ。

 

 

「何があっ──

 

「遅かったね。二人とも」

 

 

振り返ると、ローブを着て、顔を隠した少年が居た。

木箱の上に腰を下ろしている。

……その木箱は積み上げられていて、高さで言えば3メートルは余裕である。

 

そんな場所から、オレとヨーコを見下ろしていた。

 

 

「テメェ……何しやがった!?」

 

「そう怒んないでよ。君達に貸したカードを返して貰おうと思ってね?わざわざ、来たんだよ?」

 

「……あ?」

 

「君達を待ってたけど、中々帰って来ないし。暇だったんだ。だから、暇潰しにちょっとカードバトルをしたんだ」

 

 

そう、オレはコイツを知っている。

と言っても、名前も素顔も知りはしない。

友達(ダチ)なんかじゃない。

 

 

「暇潰しだと……?舐めてんじゃねぇぞ!」

 

「舐めてる?それを言いたいのはボクの方だよ。貸したカード、デッキに入れてなかったでしょ」

 

「あんな得体のしれねぇカード、使えるかよ……!」

 

 

たちの悪い、一方的な関係だ。

 

 

「……はぁ、折角、君達が探していたレアカードハンターの居場所を教えてあげて、勝つためのカードも貸してあげたのに」

 

「オレにだって気に入らねぇ勝ち方があんだよ!」

 

 

1ヶ月前、突如現れ……オレ達にカードバトルを仕掛け……そして、オレ達は一度負けたんだ。

その際に、このカードを使えば勝てるなんて……一方的に渡してきやがった。

そんな怪しいカード、オレが使う訳ないだろうが。

 

 

「それで負けてるんだから世話ないよ……っと」

 

 

少年(クソガキ)が木箱から飛び降りた。

数メートルはある高さから飛び降りたってのに……まるで、ちょっとした段差を降りたぐらいの態度でいやがる。

 

 

「それじゃあ、カードを返してもらおうかな」

 

「……チッ」

「……なら、アタシのも」

 

 

オレ達がカードを返そうとすると──

 

 

「何をしてるんだい?君達はカードバトラーだろ?」

 

 

少年が右腕を掲げると、バトルディスクが現れた。

オレ達のとは違う、最新品のバトルディスクだ。

 

それを、オレたちに向けて構えた。

 

 

「返さなくていい。力尽くで『奪う』……それがカードバトラーだよ」

 

「……あ?バカにしやがって──

 

「カードバトル、しようよ」

 

 

そう、ヨーコにも声をかけた。

不快感と共に、苛立つ。

 

 

「変則マッチでもやろうってのか……!?」

 

 

前回はコイツと似たような格好をした女がいた。

だから『タッグマッチ』だった。

だが、今、目の前にいるのはコイツ一人だけだ。

 

 

「うん、それでいいよ。一人ずつ相手するつもりだったけど、時間が勿体無いし。纏めて掛かってきなよ」

 

 

一瞬で身体が沸騰しそうなほど、熱くなる。

 

 

「っ、舐めやがって!やるぞ!ヨーコ!」

 

「一回勝った事があるからってチョーシのんなよ!」

 

 

オレとヨーコ、二人でバトルディスクを展開する。

そして、目の前の少年に構えた。

 

 

「話の早い奴は嫌いじゃないよ」

 

 

少年がバトルディスクを構え、ローブのフード部分を脱いだ。

銀髪……赤目……異様に整った容姿。

 

既視感。

さっき戦った、レアカードハンターによく似た容姿……。

 

 

「でも、あまり時間はないから……本気で行かせて貰おうかな」

 

 

そんな疑問がどうでも良くなるような威圧感。

それはオレの勘違いじゃねぇ。

……隣のヨーコだって冷や汗をかいてるからだ。

 

 

『『『オープン・ファイト』』』

 

 

カードバトルの始まりを知らせる、バトルディスクの声。

だが、それは……オレ達に対する死刑宣告かと、考えてしまう。

 

それ程までに、悪寒が、威圧感が、寒気が、怯えが、恐怖が……オレの身体を蝕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

─────────────────

集団昏睡多発事件

調査報告書

─────────────────

各地で複数人が意識障害となり、近地の病院へ搬送される事件が発生している。

関連調査について、当報告書に記述する。

 

10月28日。

6名の10代〜20代の男女が倒れている所を発見される。

全員、命に別状はないが、原因不明の意識不明となっている。

現在も治療は継続中。

 

 

10月30日。

3名の20代〜30代の男女が倒れている所を発見される。

先日の意識不明状態と同様。

その内、1名は全日本プロカードバトラー連盟に所属している浅村 マキコである事を確認。

 

備考:事件の被害者のバトルディスクには、直前までカードバトルを行っていた形跡があった。

しかし、詳しいバトル内容についてはデータ不整合により解読不能。

 

 

11月2日。

5名の10代の男女が倒れている所を発見される。

被害者の状態は他事件と同様。

 

目撃者1名の無事を確認。

証言により、被害者はカードバトルの敗北後、意識障害となった事を確認。

バトルをしかけた相手の特徴を下記に示す。

・10代

・性別は不明

・銀髪

・赤目

・整った容姿……主観である事を留意されたし

 

備考:上記特徴から、別紙1「VAXヴァックス国家転覆未遂事件」から派生した別紙2「VAX違法実験体捜索」と関連する可能性あり。

 

 

11月6日。

20代の男性が倒れている所を発見される。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

11月14日。

24名の10代の男女が倒れている所を発見される。

現在も意識不明。

 

調査の結果、暴札族である事を確認。

以前からの事件に比べ、被害者の人数が増加しているため、規模の拡大が懸念される。

 

別紙2「VAX違法実験体捜索」についての捜査を急ぐべし。




ちょっとアンケート取らせてください。
今後の参考にします……。

主人公の絡まないカードバトル描写はいる?

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