TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい 作:WhatSoon
もう少し更新速度を上げられるように頑張ります。
ニーナが家に住む……という大き過ぎる出来事があっても、日常はいつも通り来る。
朝、まだ寝ぼけているニーナに留守番を頼んで家を出た。
通っている高校に行くためだ。
今日ぐらい仮病で休もうか、なんて脳裏に過ったけど、結局学校まで来ていた。
……全身に違和感がある。
というのも、いつも使ってるベッドにニーナを寝させて、僕はリビングのソファで寝たからだ。
……いつまでも、この状況もよくないし、新しくベッド……折り畳みの簡易ベッドでも買おうかな?
それと、新しい寝具を置く場所も考えないと……うーん、使わないカードとか置いてる倉庫代わりの部屋を使おうかな。
でも、掃除しないと寝具置くような場所もないし──
「よっ!おはよう、ヒイロ」
「あ、おはよう……ユウキくん」
自席で突っ伏していた僕に、ユウキくんが声を掛けてきた。
「おはよー!二人とも!」
そして、もう一人。
女の子も僕の席まで来た。
「おはよう、ミユちゃんも……」
彼女は天塚 ミユ。
僕とユウキくん、共通の幼馴染だ。
そして、対VAXチーム『カウンターズ』の初期メンバーで……僕を含めた三人で立ち上げたのが始まりだった。
そんなミユちゃんが僕の顔を見て、首を傾げた。
「あれ?ヒイロくん、大丈夫?元気ないみたいだけど……」
「確かにそうだな。どうした?」
二人が心配するような目を向けてくる。
その事実に申し訳なく思いつつ、当たり障りのない返事をする。
「え?あー……寝不足なだけだよ」
家に
そんな僕に、ミユちゃんが指を立てた。
「もう!寝不足になるほど、遅くまで起きてたの?ダメだよー、学生の本分は勉強なんだから!」
「ははは、気をつけるよ……」
嘘を吐いてる訳ではないけど、本当の事は喋っていない。
そんな罪悪感から、僕は目を逸らした。
そんな僕にユウキくんが口を開く。
「じゃあさ、ヒイロ。今日も『
「それは……」
顎に手で触れて、考える。
店長は『ニーナに会えたら教えて欲しい』と言っていた。
今、『会えたら』というか、それを通り過ぎて家に『住んでる』になってるけど。
……店長はニーナを追ってる大人と繋がっている。
そして、ニーナはその大人に捕まりたくないらしい。
僕はどうすれば良いのだろうか。
……取り敢えず『会った』という情報だけ渡すべきかな。
家に『住んでいる』話はせずに。
それで、如何して探しているのかも訊こう。
そう考えたら──
「ううん、ちょっとだけ行くよ。カードパックだけ買いに」
「おう、そうか」
歯切れの悪い返事に、首を傾げる。
「……何でそんな、残念そうな返事なの?」
「いやさ、ヒイロにデッキ調整の相手をして欲しくてな。バトルする時間があればなぁって」
「あ、あぁ……そっか。でも、流石にカードバトルする元気はないよ。ごめん」
「いいさ。また今度な」
へらへらと笑うユウキくんに、僕は小さくため息を吐いた。
彼はちょっと勘が鋭い所があるから……気を付けないと。
なんて考えていたら、チャイムが鳴った。
各々が自席に帰り始めたのを、安堵しながら見ていた。
あの二人に隠し事をするのは少し、気後れしてしまう。
だけど、ニーナが話した身の上話を思い出せば……僕ぐらいは、彼女の助けになりたかった。
だから、秘密だ。
彼女の事は、知ってる人が少なければ少ないほど身を隠しやすいだろうから。
……何故だろうか。
心の奥底で……この秘密を共有したくないと思ってしまうのは。
◇◆◇
ヒイロの家に泊まった、翌日。
太陽は真上だ。
ヒイロは私を匿ってくれた。
これで
彼には何の利点もない筈なのに……友達だから助けになりたい……と、言ってくれた。
「…………」
友達、か。
彼は私を『友達』と言った。
「……ほんと、お人好し」
出会って間もない相手を『友達』だなんて。
……いいや、確かに私も、前世ではそうだったけれど。
一緒にカードを遊んだ人間を、すぐに『友達』扱いしていた。
同じ物で競って、同じ物で遊んで、また一緒に遊びたいと思えたのなら……それは、もう『友達』だと。
……いつの間にか、そんな事も忘れてしまっていたようだ。
彼が私を『友達』と呼んでくれたように、私も彼を『友達』だと呼べるだろうか。
呼んで良いのだろうか。
「……お腹空いた」
私はソファから立ち上がり、キッチンに立った。
ヒイロからは、部屋の物は好きにしていいと言われてる。
多分、食べ物も含まれている。
「何か食べる物、ないかな」
冷蔵庫を開けると……飲み物ぐらいしかない。
あとケチャップとマヨネーズだ。
食べる物が入ってない癖に、調味料だけ入っていた。
諦めて、戸棚を開ける。
使っていなさそうなフライパンや鍋があった。
ヒイロは自炊しないのだろう。
引越しした時に買ったけど、最初に何度か使って、今はこうして戸棚の肥やしになっている……という推理をした。
まぁ、合ってようが合ってまいが、この空腹は満たされない。
別の戸棚を開けて──
「……あ、カップ麺みっけ」
保存食扱いだろうか、忘れ去られていたのか、戸棚の奥の方にあったカップ麺を手に取る。
賞味期限は……ギリギリ、二週間後までいける。
購入したのは結構前みたいだ。
蓋を半分剥がして……そこで、周りを見渡した。
「……あった」
湯沸かし用の電気ケトルを手に取り、水道水を入れる。
そして、沸騰するまで待ち……湯をカップ麺に入れた。
更に3分待──
「無理、お腹空いた」
2分強で蓋を剥いだ。
同じく戸棚から持ってきた割り箸で、カップ麺を食べる。
ちょっと芯が残っている。
でも、美味しい。
ずるずると、啜る。
うん。
「……早く帰って来ないかな」
カップ麺を啜り、テレビのワイドショーを見ながら……そう思った。
◇◆◇
放課後。
僕はユウキくん、そしてミユちゃんと共に下校していた。
まぁ、この内の誰も直接帰るつもりはない。
寄り道先は──
「おし、着いたな」
「もう少し立地いい所に移転したら来やすいのにね」
「俺は寧ろ穴場っぽくて良いと思ってるぜ」
「えー」
悪態を吐いているミユちゃんに苦笑しつつ、目の前の看板に目を向ける。
『カードショップ・ダイス』。
僕達がいつも行っているカードショップだ。
ユウキくんが入り口の扉を開けば、鈴の音が店内に響いた。
合わせて、僕とミユちゃんも入る。
入り口からすぐの場所にあるレジカウンターには、店長ではなく羽金さんが立っていた。
腕を組んで、頭を斜めに傾けている。
……あれ?
僕達が店内に入ったのに反応がない。
店内にお客さんは居ないけれど……もしかして。
慌てて、レジ前まで向かう。
「あの……羽金さん」
……やっぱり。
羽金さんは目を瞑っていた。
「……ん、んん?どうかしましたか?」
そして、僕の声に気付き、慌てて目を開いた。
……う、うーん。
「……あの、寝てました?」
「いや寝ていません起きていますが何か」
凄く早口で否定された。
その否定が逆に肯定となってしまう。
僕は苦笑しながら口を開いた。
「お客さん来ないですからね」
「えぇ。その所為で、本当に眠くなりますね。まぁ寝ていませんが」
「はは、そうですね……」
「そうです。仕事中に寝る訳ないじゃないですか」
「……はは」
僕は後頭部を掻く。
ユウキくんがレジ横の券売機から、席代を支払っていた。
それを横目に見つつ、羽金さんに視線を戻す。
「その……今日、店長はどこに居るんですか?」
「確か、裏でストレージ用のカード確認とかしていましたね」
「……すみません、呼んできて貰っていいですか?ちょっと話したい事があるので」
僕がそう言うと羽金さんは、嫌そうな顔しながらレジ裏のストレージコーナーへ向かった。
少し待つと、ボサボサ髪の妙齢の女性……店長が出てきた。
しかし、羽金さんは戻ってきていない。
恐らく、ストレージの整理を引き継いだのだろう。
……脳内に面倒くさそうな顔をしてる羽金さんが思い浮かんだ。
「ヒイロくん、どうしたの。呼び出しちゃって」
「あ、えっと……あの、銀髪の女の子と会ったので連絡を──
「え?何処で?いつ?」
レジカウンターに手をついて、僕に顔を近づけて来た。
勢いに押されて、思わず一歩下がってしまう。
「昨日、えっと……『甘味処ほがさ』の裏、路地裏です」
「ふむふむ」
店長が指を顎に付けて首を捻った。
……実は今、僕の家に居るけど……それは取り敢えず言わないでおこう。
「あの、店長?」
「ん?何?」
「店長はなんで、その……銀髪の女の子を探してるんですか?」
僕が問いかけると、店長は指を口元に持って来た。
「内緒、かな?」
「……そうですか。だったら、あの子を追ってる大人の人達って──
「それも、内緒」
「……何にも教えてくれないんですね」
少し落胆する。
それと同時に安堵も。
店長が本音を話さないのであれば、僕も話さなくていい……そんな言い訳が頭の中に過った。
「まぁまぁ……で、次に会った時、私に電話してくれない?電話の先は、この店の電話番号でいいから」
店長がカウンターから乗り出して、壁を指差した。
『カードショップ・ダイス!アルバイト募集中!』という張り紙の下に、確かに電話番号が書いてあった。
「……まぁ、分かりましたよ。次会えたら連絡します」
嘘だ。
連絡する気はない。
「うん、じゃあお願いね」
そうして店長と別れ、僕は帰路に──
「……あ。カードパック買って良いですか?」
忘れていた。
この店に来た表向きの理由だ。
正直、店長と会話さえできれば良かったから買う予定はなかったけど、ユウキくんには言ってしまったし……バレると拙い。
「お、助かるよぉ。今月ちょっと売り上げ厳しくてねぇ」
店長が棚の裏から、段ボールを取り出した。
『
「何パック?32パック?64パック?」
「何で箱買い前提なんですか……まぁ、32パックにしますけど。流石に2箱も買わないですよ」
『メイガス社』は謎の多い会社だ。
本社がどこにあるのか、社長が誰なのかも分かっていない。
店長が段ボールをカッターナイフで開ける。
そして、その中から一箱抜いて僕に手渡した。
ちなみに、『
「32パック入りが1つで7,000円ね」
財布からお金を支払い、ビニール袋に入った箱を受け取る。
「まいど〜、また来てね。ついでに約束も忘れないでね」
「分かってますよ」
内心、ため息を吐きたい気持ちを抑えてレジから離れた。
そして、カードバトル用のスペースに視線を向ければ……ユウキくんとミユちゃんが、二人でカードを弄っていた。
「じゃあ、二人とも。僕は帰るから──
「え?もう?」
「ちょっと用事もあってね」
そう言って、二人と別れて帰路についた。
日は傾いており、もう少しすれば空も茜色になる。
そんな中、ビニール袋はざわつく様に音を鳴らしていた。
「…………」
これから、どうすればいいのだろうか。
ずっとニーナを匿っておく事なんて出来ない。
いや……正確に言えば、匿う事だけなら出来る。
だけど、それは本当に彼女の為になるのか。
人間一人の面倒を一生見る事はできない。
そんな事をするには僕には責任が取れないし、金銭的にも──
……金銭的には、父から送られて来ている仕送りを使えば問題ない。
「……はぁ」
父親からの仕送りには、手を付けていない。
それは、僕のちっぽけな反抗心。
父親に対する反感だ。
父との仲は良くない。
母が亡くなってから、父は僕に興味を失った。
父は母が好きだったのだろう。
そんな母を失った時から、僕は父にとって興味のない存在になったんだ。
それでも、父は僕に対して最低限の世話はしてくれている。
だから、文句を言うべきではないのだと思う。
ニーナの境遇を考えれば、僕は恵まれている。
そう、恵まれているんだ。
僕の感じている不幸は、本当に小さな物だ。
彼女に比べれば……本当に小さな不幸だ。
だから……あぁ、本当に嫌になる。
父に対してじゃない。
自分に対して、嫌になる。
自分が不幸だ、なんて考えは思い上がりだ。
よくない考えだ。
僕は──
「……あ」
自宅に、着いた。
内心を整える為に深呼吸して、僕はドアを開けた。
「ただいま」
……家に帰れば、口にする言葉。
今迄は、返事なんて返って来なかった。
けれど──
「……おかえり」
今日は違った。
ただ、返事を貰っただけだ。
ニーナも特に特別だと思っていないだろう。
それでも僕は、心臓が跳ねる程に嬉しかった。
本当に小さな事かもしれないけれど、凄く嬉しかったんだ。
◇◆◇
「ヒイロ……それ、食べ物?」
私は今、空腹で死に掛けていた。
昼食にカップ麺を食べたが全く足りていなかったのだ。
この身体の身体能力は常人より優れている。
つまり、常人よりも新陳代謝が優れているということ。
さらに言えば、常人よりもエネルギーを消費しやすいのだ。
軽自動車よりデカいトラックの方がガソリンの消費が激しい。
単純に、腹が減りやすいのだ。
「え?あっ……これ?カードパックだけど」
カードパック……か。
『
構築済みデッキの販売もしないし、拡張パックを更新したりもしない。
『
正確には記録されていないが、2万近い種類のカードが確認されており、そのカードが全て『カードパック』に収録されているのだ。
つまり全種のカードが入った闇鍋パックなのだ。
狙ったカードを引ける筈がない。
レアカードの封入率も前世以下。
これの所為で、この世界ではレアカードの価値がかなり高くなっている。
『メイガス社』は阿漕な商売をしている。
まぁ、それはそれとして──
「ヒイロ、お腹空いた。ご飯、食べに行こう」
このままでは、餓死する。
「うん……その、少し準備するから待ってて貰っていいかな?」
「いいけれど」
その言葉に内心絶望しつつも、彼が着替えるまでの間待つ事にした。
私は大人だから、我慢できる。
……くっ、早く着替えてくれ。
私の腹の虫が暴れ出さない内に……!
◇◆◇
「うーん、ヒイロくん。やっぱり様子おかしかったなぁ」
私、天塚 ミユは、腕を組んで唸っていた。
今日、幼馴染であるヒイロの様子がおかしかった。
そもそも最近、何か悩んでいるような素振りが多かったけど……今日はそれに輪をかけて悩んでいるようだった。
「むむ……」
心配はしている。
しかし、それと同時にほーんの少しだけ好奇心が湧いていた。
何を悩んでいるのか。
今日、店長と何か話してたみたいだけど……それ関係かな。
でも店長と相談するような事なんて、思い付かない。
……よし、明日、真正面から訊いてみよう。
ユウキくんと別れた後、夕焼けの中、私は帰路についていた。
自宅……ではなく、女子寮に向けてだ。
今日の晩御飯は何にしようかな、なんて考えつつ、歩いていると──
「……あれ?」
ヒイロくんが歩いていた。
私達と別れた後、また出掛けたのかな。
この時間帯からすれば……多分、晩御飯。
うん、なら声を掛けちゃおうかな。
どうせなら一緒に食事したいし。
ついでに悩みも訊いちゃえ。
声を掛けようと、私はヒイロくんに近付いて──
「ヒイロ、こことかどう?」
「いいと思うよ」
女の子と一緒に歩いている事に気付いた。
コートを着て、フードを被っているから顔も見えないけど……声から分かる、女の子だ。
慌てて隠れる。
「……ん?今何か聞こえた?」
ちら、と振り向いた女の子に驚き、息を殺す。
……い、いや、別にやましい気持ちはないけど、何故か隠れてしまった。
「ニーナ、じゃあここに入ろっか」
「うん……気の所為か」
ヒイロくんが女の子と一緒に歩いている!
しかも、下の名前を呼び捨てにしてる!
私の中にあった彼への心配を、好奇心が上回ってしまった。
さっき、ヒイロくんは女の子の事をニーナ、って呼んでいたよね?
お互いに呼び捨て……下の名前で。
それに、こんな時間に二人で食事?
なるほどなるほど、ずばり──
恋人だ!
「…………!!」
人の恋路、それも幼馴染の恋路。
興味が湧かない訳がない。
しかも、ヒイロくん。
女の子に興味なさそうな顔してたのに。
私が見てる範囲では女の子の影なんてなかったのに、いつの間にそんな恋人を!?
電柱に隠れて盗み聞きしていると、ニーナ……うん、ニーナちゃんが口を開いた。
「ここの食事代は私が出す」
「いや、いいよ。僕が出すから……」
「でも、住まわせて貰ってるから、悪いし」
住ま、住まわせて貰ってる!?
つまり……『同棲』してるってこと!?
わ、わぁっ……すごい!
「いや、これからの事を考えると、そのお金は大事にした方がいいと思う」
これからの事!?
将来性もあるって事なのね!?
「……む、でも」
「僕は気にしてないからね」
「……うん。それなら悪いけど……ありがとう」
二人がファミリーレストランに入ったのを見て、私も少し時間を空けて入った。
迷いはなかった。
ただバレないように時間を空けただけだ。
幸い、席は少し離れてバレ難いけど、耳を澄ませば声が聞こえるような所に案内された。
ラッキーだ。
注文パッドで食事を頼みつつ、盗み聞きすべく耳を澄ませた。
「この後、雑貨も買いに行こっか」
「雑貨?」
「ほら、コップとか、歯ブラシとか。バスタオルとか──
うんうん!
一緒に住んでるんだったら、お風呂にも入るよね?
だったらバスタオルも要るよね?
『同棲』を始めたのは最近なのかな?
「あとはベッドも……今、一つだけだし」
え!?
ベッド一つなのに、二人で暮らして……って、事は二人で一緒に寝てるの!?
だ、だめだよ!
ヒイロくん!
未成年なのに──
「お待たせしました、ハンバーグドリアです」
店員から声を掛けられて、思考が中断される。
「あ、どうも」
そして、再びヒイロくんのいる席に目を向けて──
「……やっぱり」
女の子の方が、近付いて来ていた。
「え?えっ?」
「さっきから私達のコトを見てた。どこの追っ手──
追っ手!?
何なの?
誰かに追われてるの!?
もしかして、愛の逃避行?
駆け落ちなの!?
「ま、待って、ニーナ!彼女は僕の友人なんだ」
「……友人?」
ヒイロくんが間に入ってくれた。
しかし、私は罪悪感から下手くそな笑みを浮かべていた。
「ど、どうも?ヒイロくん……奇遇だねぇ……えへへ?」
「えへへじゃないよ……」
呆れたような顔を向けるヒイロくんから、視線を移してニーナちゃんを見る。
気を取り直して──
「あ、それとニーナちゃん?初めまして、天塚 ミユだよ」
「……よろしく?」
「ヒイロくんの幼馴染で……あ、そういう関係じゃないよ。安心してね」
「……関係?」
「あ、それと一つ聞きたい事があるんだけど良いかな」
手を握る。
……うわ!
すべすべで柔らかくて細い!
「なに?」
「ヒイロくんとどういう関係なの?会ったのはいつ?同棲してるの?どこまでいったの?付き合ってるよね?どっちが先に告白し──
「ちょ、ちょっと待ってミユちゃん!ストップ!ストップ!」
い、いけない。
つい興奮しちゃった。
私は口元を拭う。
すると、ニーナちゃんは少し引いたような目をしていた。
「ヒイロとはそういう関係じゃない」
「え?一緒に住んでるのに?呼び捨てなのに?」
「……居候してるだけ」
ニーナちゃんの言葉に、ヒイロくんが頷いた。
「そ、そうなんだ。遠い親戚でね。少し面倒を見てるんだ」
ダウト。
これは絶対嘘だ。
ヒイロくんは嘘を吐くのがメチャクチャ下手だ。
すっごい違和感が出る。
汗も出てたし、気付いてないのはヒイロくん自身ぐらいだ。
いやでもしかし、何故、嘘を吐くのだろう。
私には言えない関係……ニーナちゃんが言ってた「追っ手」という発言……。
ハッ、まさか!
ニーナちゃんは闇の組織によって作られた悲劇のヒロインで、ヒイロくんが助けたってコト?
それで、逃避行を手伝っている間に恋仲になっちゃって──
「んんっ」
なんて、マンガの読み過ぎかな。
冷静に冷静に。
でも、実際、何か私やユウキくんに言いたくない関係なのだろう。
うーん、気になる。
気になるけど……。
「へー、そうなんだ!」
迷惑をかけたい訳じゃないんだよね。
だから、ここは引き下がろう。
あ、ヒイロくんがホッとしてる。
こういう所も嘘が下手な所なんだよね。
「それじゃあ、邪魔しちゃ悪いし……これ食べたら帰るからね」
「あ、うん……その、この事は秘密にして貰っていいかな?」
……そんなに知られたくないの?
やっぱり、ちょっとした関係じゃないんだろうな。
どんな関係なんだろ。
うう、気になる、気になっちゃう!
「……イイヨー、言わないでおくね?」
「ミユちゃん……?何でそんなカタコトなの?」
「何でもなーいよ」
喋りたいし、調べたいし、問いただしたい。
でも我慢だ。
私の笑みに、ヒイロくんは胡散臭そうな顔をしていた。
◇◆◇
食後、スーパーで買い物をして……夜になった。
私とヒイロは自宅に戻っていた。
リビングに机を前に、二人で向かい合う。
「……まさかミユちゃんと会うなんて」
ヒイロは少し疲れたような顔をしていた。
精神的にもだろうけど……先程、私と一緒に倉庫みたいな部屋を片付けていたからだ。
私は身体能力が他の人間より優れているから疲れないが、ヒイロは違う。
重い物を運べば疲れるし、身体を動かせば疲れるのだ。
最終的に、今日ヒイロが買ったマットレスが置けるぐらいには綺麗になったけど。
本格的な掃除は明日以降かな。
それにしても──
「私、ヒイロと一緒に外に出ない方がいいのかな。今日みたいな勘違いならまだしも、レアカードハンターと一緒にいるのが知られると困ると思う」
ヒイロと一緒に外出すれば、私と関係がある事を知られてしまう。
さっきみたいに、彼の幼馴染である女の子に『恋人だ!』と誤解される程度なら良い。
いや良くないけど。
……私は悪名高きレアカードハンターだ。
知らなかったが、いつの間にか結構有名になっていたらしい。
悪名の所為でトラブルが起こった時、それにヒイロを巻き込むのは申し訳ない……と、思った。
だから──
「そんな事ないよ……僕は気にしないから」
なんてヒイロは言っているが、私自身としてはそう思わない。
どうするべきか。
せめて、レアカードハンターであるという事実は隠さなければ──
「そうだ。変装すればいい」
「変装?」
「そう、私が私だってバレないようにすればいい」
私は部屋の隅に置きっぱなしになっている自分のリュックの中を漁り、装飾品を取り出した。
「これとか」
目元にサングラスを付けて、口にはマスクを付けた。
「……いやぁ、それは別の意味で不審者になると思うよ」
「むっ……そうかな。自信は結構あったつもりだけど」
マスクを外して、リュックに仕舞う。
サングラスもだ。
「コートを着なければ良いだけの話なんじゃないかな。レアカードハンター、といえばそのフード付きのコートってイメージあるし」
「……あ、なるほど」
私は納得した。
確かに、今まで私はフード付きのコートを着てレアカード狩りをしていた。
今迄が変装していたようなものだ。
素顔を堂々と出しておけばバレはしないだろう。
しかし──
「フードかぶってないと、私目立つから」
「……え?どうして?」
「自分で言うのも何だけど、目立つ容姿してると思う」
「……あー、そうだね。結構その……うん、凄く美人だから」
ヒイロは少し顔を赤くしていた。
私も口にするのが恥ずかしくて誤魔化していたのに、それを態々『美人だ』なんて口にするから……私も恥ずかしくなってくる。
しかし、事実だ。
「色々弄られてるから、容姿にはちょっと自信がある」
「…………そ、そうだね」
ヒイロは微妙な顔をしている。
彼は私の過去に触れないようにしている節がある。
それはきっと私を傷付けないようにする為だろう。
「気にしなくても良いのに」
だが、私はあまり気にしていないのだ。
『VAX』に居た時、確かに『自由』がないクソみたいな環境だったが、トラウマになるほど辛かった訳ではない。
飯も出るし、寝床もあるし、
あの頃が辛かった訳ではないのだ。
ただ──
「……ふふ」
今が、楽しいだけなのだ。
「い、今何か笑う事あったかな……?」
「ううん、何も」
揶揄われたと思ったのか、ヒイロがバツの悪そうな顔をした。
別に揶揄うつもりはないのだが……まぁ、訂正する必要もないだろう。
「そ、それよりさ──
そんな私の視線がむず痒いのか、無理矢理話題を切り替えようとする。
「買ったカードパック開けない?よければだけれ──
「剥く」
即答した。
私はカードパックを剥くのが大好きなのだ。
知らないカードを見て「こういう強みがあるな」とか「あのカードとコンボできるな」なんて考えるのが堪らなくて好きだ。
レアカードの有無で一喜一憂する感覚も堪らない。
例え、使わないカードだとしてもレアなカードが入っていれば気分が高揚する。
カードパックの開封とは、ギャンブルなのだ。
「学校の帰りに『ダイス』に寄ったからね、一箱だけ買ってきたんだ」
「帰りに……?何か用事があったの?」
箱のラベルを剥いているヒイロに訊いた。
その時、私は腹を空かせて待っていたんだぞ……とは言わないが。
決して言わないが。
態々、カードショップに寄るなんて何か理由があるんじゃないかと思う訳だ。
「あ、えーっと……ほら、ユウキくん達との付き合いでね」
「……そっか」
私は頷きつつも、内心は納得していなかった。
何だか嘘っぽいからだ。
目が泳いでるし。
机に置かれたカードパックを開ける。
「む、このカード……」
中から強そうなカードが出るとヒイロと共有して、あーでもこーでもないと言う。
「これって……」
ヒイロからも私に見せてくる。
私のデッキにも、彼のデッキにも入らないカードで一喜一憂する。
使い方を考察し、結局デッキに入れない。
無駄な時間だ。
だけど、それが堪らなく──
「うん、楽しい」
「……なら良かったよ」
誰かと『
組織では確かに何度もカードパックを剥いた。
というか私の部屋に、常にカードパックが差し入れされてた。
デッキを自由に構築できるように、という事だろうが……なんというか、義務感で剥いてたような気がする。
カードパックを剥くなら、やっぱり誰かと剥くのが一番楽しい。
思わず鼻歌でも歌ってしまいそうになりながら、パックを剥いて──
「……む?」
あるカードが気になった。
────────────────
②大いなる再臨
呪文カード
自分の場の「テラー」クリーチャー1体を選択する。
選択したクリーチャーより2つ、または1つコストが高い「テラー」クリーチャーを、エクストラ・ゾーンから重ねて進化する。
────────────────
「……『進化』と『エクストラ・ゾーン』に関わる
そういえば、と思い出す。
ユウキは自身の『ブレイジング・ドラゴン』を進化させて、エクストラ・ゾーンから『ブレイジング・
それは私の知らないルールだ。
ヒイロが私の持つカードを覗き込む。
「あ、『進化』効果のある呪文だ。しかも、スーパー・レア、当たりだよ!」
私は目を瞬いた。
スーパー・レアって……封入率、1%以下じゃなかったっけ?
「それに、『テラー』関連……うん、僕は使わないし、ニーナにあげるよ」
「え?ヒイロが買ったカードパックなのに……」
「良いんだ。どうせ僕には使えないカードだからね」
「……ありがとう」
感謝の言葉を伝えつつ、私は内心首を傾げる。
私はエクストラ・ゾーンの使い方が分からない。
『進化』に対するルールもよく分からない。
そもそも、進化先のエクストラ・クリーチャー・カードを持っていない。
だから、『ありがたみ』も分からない。
「ヒイロ、『進化』について詳しい?」
「……え?ひ、人並みには?」
「教えて。私、『進化』についてよく分かってない」
「あ、だったら……」
ヒイロが私のバトルディスクに触れた。
そして、OSのバージョンを確認した。
「……うん、やっぱり3.1以上になってるね」
「何を見てるの?」
「バトルディスクに搭載されてる『
私は『
施設の研究者達が色々と弄っているのを見た事はあるが……。
「バトルディスクに搭載されてるルールは、新ルールを持っているカード・バトラーと対戦すると更新されるんだ。多分……ユウキくんと対戦した時に更新されたんじゃないかな?」
「……そうなの?」
オンライン・アップデート、という仕様がないのは知っていたが、まさかウイルスみたいに新バージョンが感染していく仕様なのか。
「それで……ええと、ここのマニュアル表示を開くと──
ディスプレイ上に、総合ルールv3.12と表示された。
そこには確かに、『
見覚えのあるルールを飛ばしエクストラ・ゾーンに関するルールを見つけた。
そして、その更新日は……VAXが崩壊した日になっている。
「……あ、もうこんな時間だ。先にお風呂に入ってくるね」
「うん」
生返事を返して、私はルールに集中する。
エクストラ・ゾーンは通常デッキ外に5枚まで用意できる……そして、同一種類のカードは1枚まで。
つまり、5種類、5枚のカードを用意できるのか。
そして、進化とは場のクリーチャーに重ねて、エクストラ・ゾーンからクリーチャーを出す事。
任意のタイミングで進化できる訳ではなく、カード効果によって処理できる。
「……なるほど」
デッキに進化を可能とするカードを入れるなら、5種類用意した方が良いだろう。
状況に応じて使い分けられるのならば、5種類採用しないのは勿体無い。
進化時にクリーチャーを破壊するカードしか入れていなければ、オーナメント主軸のデッキに対して腐ってしまうし。
その逆も然りだ。
どうせ同じカードが1枚までしか入れられないなら5種類投入した方がいい。
「エクストラ・ゾーン……このバトルディスクにもあるのかな」
そもそも全てのバトルディスクに予備のスペースとして空きがあったようで、新ルールによってエクストラ・ゾーンという名称と使用用途が与えられたようだ。
だから、このバトルディスクにもエクストラ・ゾーンはある。
多分。
バトルディスクのデッキ搭載部を弄る。
……触ってみると、確かに5枚ほどカードが入る空間はあるが──
「む……開かない……」
蓋が開かない。
マニュアルを再度確認すると……あった。
エクストラ・ゾーンの開き方。
ディスプレイのオプションを開き、表示項目の『エクストラ・ゾーンの表示』を有効化する。
そうすれば、基本画面にアイコンが表示された。
それをタップすれば──
カション!
という音がして、デッキの下がスライドした。
「おぉ……」
今まで、ずっと使ってきた相棒とも言えるバトルディスクに私の知らない機能があった。
そう思えば、感動にも似た感情が沸くという物だ。
そして、私は開いたエクストラ・ゾーンを──
「……あれ?」
私の知らないカードが3枚……エクストラ・ゾーンに入っていた。
主人公の絡まないカードバトル描写はいる?
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いる
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いらない