TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#13 打ち消し

『『オープン・ファイト』』

 

バトルディスクが先攻を差し示す。

これは完全なランダムであり、互いのプレイヤーが干渉しない采配。

つまり、運。

 

そして、バトルディスクが選んだ先攻は……私か。

 

 

「先攻は私。カードを1枚引く」

>ニーナ:ターン1

>ニーナ:手札5→6

 

 

引いたカードを確認する。

手札は……悪くはない。

尖った性能のカードばかりだが、その性質はまばらだ。

手札破壊(ハンデス)、手札交換、クリーチャー、墓場利用(サルベージ)……相手によっては刺さるカードだろう。

 

問題はどのカードをマナに置くかだ。

 

先攻1ターン目。

つまり、まだ相手から得られた情報は0。

デッキ構成の推測もできない。

どのカードが有効になるか分からない。

 

ここは一旦、今はまだ使い道のない高コストカードをマナゾーンに置こう。

 

 

「……そのまま1枚をマナへ。そして、ターンを終了する」

>ニーナ:手札6→5

>ニーナ:マナゾーン0→1

 

「なら私のターンね。カードを引いて、1枚マナへ」

>サエコ:ターン1

>サエコ:手札5→6

>サエコ:マナゾーン0→1

 

 

後攻1ターン目のドローは2枚。

相手は手札アドバンテージを持っている。

 

それを大事に取っておくのか。

それとも──

 

 

「そのまま、私もターンを終了するわ」

 

 

私も相手も、互いに動かなかった。

手札を温存する流れか。

 

序盤から攻めたいタイプのデッキではなさそうだ。

速攻(アグロ)などの高速デッキである可能性は減った……と思って良いだろう。

 

 

「……私のターン。カードを引いて、1枚をマナへ」

>ニーナ:ターン2

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン1→2

 

 

取り敢えず、動いていくしかない。

 

 

「私は手札から呪文(スペル)、『無謀な契約』を発動する。カードを1枚破棄し、2枚引く」

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナ2→0

────────────────

②無謀な契約

呪文カード

手札を1枚破棄する。

その後、カードを2枚引く。

────────────────

 

 

発動したのは手札交換カード。

本来、このカードは相手の動きを見てからプレイした方がいい。

 

この効果で破棄するカードは不要であればあるほど有意義なのだから。

 

私のデッキはハイランダー。

そして、状況に応じてプレイするカードを変えるデッキだ。

 

散りばめられたピン刺しのカードを、運良く引く事が出来る事に賭けている……訳ではない。

 

WoM(ワールドオブマジック)』はカードを引いて、マナに置く一連の流れがある。

 

つまり、毎ターン手札を1枚ずつ交換しているという事だ。

通常のドローで引いたカードの半数はマナに行く。

そして、マナに送ったカードはその試合では基本的には使用できない。

 

さらに、このデッキには手札を破棄して動くカードもある。

 

つまり、試合中に私が手札に加えたカードの半分程度は、マナや墓場に行き使用できないという事。

逆に言えば、残りの半数さえ相手に刺さればいい。

 

引いたカードの内、3割が速攻(アグロ)対策で、3割がコンボ対策、3割がコントロール対策のカードだったとして。

それらが互いに干渉する訳ではない。

 

相手がコンボデッキならば、引いた3割のアグロ対策カードをマナに送ったり、手札から破棄すればいい。

そうすれば結局、ゲーム中にプレイするコンボ対策カードの割合が増える。

 

それは簡単な事ではない。

完璧に手札の取捨選択を行う事は困難だ。

引き運だって絡んでくる。

試合の終盤に「あの時、捨てなければ……」なんてミスも起こり得る。

だが、困難だが……出来ない訳でもない。

 

重要なのは……相手のデッキタイプの把握。

早めに判別できれば、早めに手札の質を上げられる。

 

そして、プレイング。

相手の先を読み、数ターン後に使用したいカードの保持と、使用する場面のないカードの破棄。

それらを見極める判断力が求められる。

 

 

……その為には、相手の勝ち筋を見極める必要がある。

 

 

「私はターンを終了する」

 

「私のターンね。カードを引いて、1枚マナへ」

>サエコ:ターン2

>サエコ:手札6→6

>サエコ:マナゾーン1→2

 

 

マナが伸びる。

そろそろ、動くか──

 

 

「ターンを終了するわ」

 

 

……動かない?

余程、手札が事故っているのか?

それとも、速度が遅いデッキなのか?

 

とにかく、動かないなら今がチャンスだ。

 

 

「私のターン。カードを引いて、1枚をマナへ」

>ニーナ:ターン3

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン2→3

 

 

マナは3つ。

手札のカードに目を向ける。

 

彼女のデッキが何かは分からないが、場の主導権を握らせて貰おう。

 

 

「私は『骸の槍兵』を召喚』

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ3→0

 

 

目の前に、槍を持った骸骨が姿を現した。

────────────────

③骸の槍兵

クリーチャー・カード

種族:テラー・ナイト

突撃(「突撃」を持つクリーチャーは、場に出たターンからクリーチャーに攻撃できる)

パワー4/タフネス1

────────────────

 

このクリーチャーは本来、キーワード能力『突撃』を活かして、4点ダメージの除去として扱うカードだ。

だが、盤面がガラ空きの今、次ターンで相手プレイヤーへの4点ダメージを警戒させる事ができる。

 

 

「これで私はターンを終了──

 

「その瞬間、私は高速(クイック)呪文(スペル)『魔力の一矢』を発動するわ」

>サエコ:手札6→5

>サエコ:マナ2→0

────────────────

②魔力の一矢

高速呪文カード

相手のクリーチャー1体に2ダメージ。

────────────────

 

 

光の矢が『骸の槍兵』を貫き、破壊した。

 

高速(クイック)呪文(スペル)による除去……!

このターン、私は3マナを支払って何も出来なかったことになる。

対して彼女はこのターンが終わればマナが回復する。

 

……上手くやられた、か。

 

 

「……私はターンを終了する」

 

「それなら、私のターン。カードを引いて、1枚マナへ」

>サエコ:ターン3

>サエコ:手札5→5

>サエコ:マナゾーン2→3

 

 

店長は手札に触れて……こちらに視線を向けた。

……さっきから感じている感覚。

 

いいや、初めて会った時から感じていた感覚。

彼女がヒイロや、ユウキなどに向けている視線とは違う……私にだけ向けている、底冷えのする目。

 

これが、私が彼女を信用できない理由だ。

言葉がどれだけ優しくても、その根底に私への労りがない。

 

 

「私は手札から呪文(スペル)『ゴーレムの召喚』を発動」

>サエコ:手札5→4

>サエコ:マナ3→0

 

 

地面が競り上がり、人型の土塊が姿を現した。

────────────────

③ゴーレムの召喚

呪文カード

パワー3/タフネス3のゴーレム・トークンを1体生成する。

────────────────

 

 

「ふむ……」

 

 

実質的にクリーチャーとして代用できる呪文(スペル)……生成されるトークンは(3/3)という平均ステータスそのまま。

3コストで生み出すクリーチャーとしては及第点だが、劇的なメリットもない。

 

普通はデッキに入らないようなカード。

 

何か、意図があると考えていいだろう。

呪文である事か、トークンである事か、何かに意味がある。

 

 

「そして私はターンを終了するわ」

 

「……私のターン。カードを引いて、1枚マナへ置く」

>ニーナ:ターン4

>ニーナ:手札4→4

>ニーナ:マナゾーン3→4

 

 

取り敢えず、あのクリーチャーは除去しなければならない。

3点というダメージは決して安くはない。

 

 

「手札から呪文(スペル)『追い剥ぎ』を発動。対象はゴーレム・トークン」

>ニーナ:手札4→3

>ニーナ:マナ4→1

────────────────

③追い剥ぎ

呪文カード

クリーチャー1体に3ダメージ。

その後、カードを1枚引く。

────────────────

 

 

私がプレイしたのはドロー効果付き(キャントリップ)呪文(スペル)

これで先程取られてしまったアドバンテージを取り返し──

 

 

「その瞬間、私は手札からカードを1枚破棄し、高速(クイック)呪文(スペル)『活性』を発動するわ」

>サエコ:手札4→2

>サエコ:マナ0→0

 

 

青い光がゴーレムを包み、私の発動した呪文(スペル)から身を守った。

────────────────

②活性

高速呪文カード

代替(1)(マナを支払う代わりに、手札を1枚破棄する事が出来る)

クリーチャーを対象とした呪文カードを打ち消す。

────────────────

 

 

代替(ピッチ)呪文(スペル)か……」

 

 

手札コストを支払う事でマナを踏み倒せる、代替(ピッチ)呪文(スペル)

だが、代替(ピッチ)呪文(スペル)は手札の消費が激しい。

序盤から扱うには……拙い筈だ。

それに、守る対象のゴーレム・トークン……手札を2枚消費してでも、守る価値はあるのか?

 

 

「……私は、これでターンを終了する」

 

 

思案しながらも、ターン終了の宣言をした。

 

 

「私のターンね。カードを引いて、1枚マナへ」

>サエコ:ターン4

>サエコ:手札2→2

>サエコ:マナゾーン3→4

 

 

私と彼女の間に手札の枚数差はある。

だが、恐らく……ドロー系の呪文(スペル)を握っているのだろう。

 

 

「私は墓場(トラッシュ)に存在する呪文(スペル)『精神統一』を発動」

>サエコ:マナ4→2

────────────────

②精神統一

呪文カード

追唱(このカードは墓場から発動する事が出来る。その後、このカードをデッキに戻す)

カードを1枚引く。

────────────────

 

墓場(トラッシュ)から発動する呪文……?

 

 

「『精神統一』は自身をデッキに戻して、カードを1枚引く効果。私はカードを1枚引く」

>サエコ:手札2→3

 

 

なるほど、先程の代替(ピッチ)呪文(スペル)のコストとして捨てたカードか。

2コスト呪文のマナ消費の代替として1枚捨てて、後から2マナ支払って1枚引く……手札の消費は抑えられる。

 

つまり、実質的なマナの後払い。

 

『精神統一』単体では2マナで1:1の交換しかできない。

だが、手札から発動した後に墓場から発動する事によって4マナで1:2の交換ができる。

 

単独使用ではアドバンテージを得られない。

そして、2回発動すればコストパフォーマンスが悪い。

 

それを墓場にコストとして捨てる事で2マナの0:1交換へ変換しているということか。

 

墓場に捨てなければコストパフォーマンスが悪いカードを入れているという事から、相手のデッキには代替(ピッチ)呪文(スペル)が多く入っていると考えていいだろう。

 

 

「そして、私は場のゴーレム・トークンで直接攻撃」

>ゴーレム・トークン(3/3)

 

 

土の巨人が腕を振るい、私へ攻撃を繰り出した。

 

 

「くっ」

>ニーナ:ライフ20→17

 

「このままターンを終了するわ」

 

 

ライフは削られたが、まだ許容範囲だ。

まだ焦るような段階ではない。

 

 

「……なら、私のターン。カードを引いて、1枚マナへ置く」

>ニーナ:ターン5

>ニーナ:手札3→3

>ニーナ:マナゾーン4→5

 

 

しかし……高速(クイック)呪文(スペル)による妨害が豊富なデッキだ。

間違いなくクリーチャー主体の速攻(アグロ)や、火力呪文を直接撃ってくる火力(バーン)でもない。

 

一つ、脳裏に過った推測。

その推測が当たっていれば……手札に視線を落とす。

対処札が手札にはない。

いいや、そもそもカード1枚で何とかなるデッキタイプではない可能性がある。

 

厄介。

その一言に尽きる。

 

視線を場に戻す。

ゴーレム・トークンを除去から守った、その理由。

 

……試してみるか。

 

 

「私は手札から呪文(スペル)『祝福の対価』を発動する」

>ニーナ:手札3→2

>ニーナ:マナ5→2

────────────────

③祝福の対価

呪文カード

プレイヤー1人を選択する。

選択したプレイヤーに2ダメージ。

その後、選択したプレイヤーはカードを2枚引く。

────────────────

 

これは、自身を対象にすれば2点ダメージをくらう代わりに、2枚引けるドロー呪文。

そして、相手を対象にすれば2枚引かせる代わりに、2ダメージ与える火力呪文。

二つの性質を持つカードだ。

 

勿論、今、対象にするのは──

 

 

「対象は私。カードを2枚引いて、2ダメージを受ける」

>ニーナ:ライフ17→15

>ニーナ:手札2→4

 

 

妨害は吐かなかったか……。

それとも、そもそも握っていないのか。

 

目前にいる『店長』と呼ばれているプレイヤー。

彼女は私の挙動に一喜一憂しない。

完璧なポーカーフェイス……常に薄く笑っている。

プレイヤーの表情から、デッキ情報を引き出せない。

 

それはゲームへの理解度だけで得られない技術……つまり『慣れ』だ。

緊迫した状況でもペースを崩さず、焦らず、冷静に判断できる経験値。

それが彼女にはあった。

 

ならば──

 

 

「私は手札から呪文(スペル)『強制埋葬』を発動する。対象はゴーレム・トークン」

>ニーナ:手札4→3

>ニーナ:マナ2→0

────────────────

②強制埋葬

呪文カード

パワー3以下のクリーチャーを破壊する。

────────────────

 

「その瞬間、私は手札から『魔力乱し』を発動し、『強制埋葬』を打ち消す」

>サエコ:手札3→2

>サエコ:マナ2→0

────────────────

②魔力乱し

高速呪文カード

相手の発動したコスト3以下の呪文カード1つを打ち消す。

────────────────

 

 

また除去呪文が打ち消されてしまった。

だが、相手のデッキタイプが見えてきた。

プレイングから見えてくる、デッキの方向性が。

 

『魔力乱し』はコスト3以下の呪文を打ち消せる。

つまり、私が先程発動したドロー呪文『祝福の対価』にも撃てた筈だ。

だが彼女は、ドロー呪文を無視して、除去呪文の打ち消しを優先した。

 

つまり、それだけゴーレム・トークンの維持が重要だという事。

 

そしてそれは、恐らく『ゴーレム・トークンだから』必要なのではない。

極論、場に打点となるクリーチャーが維持出来れば何でも良いのだろう。

 

私にはもう、彼女の戦法が理解できていた。

複数入っている妨害系の高速(クイック)呪文(スペル)

場のクリーチャーを維持するためのプレイング。

 

……場に出したクリーチャーを維持し、相手を妨害する。

維持したクリーチャーでライフを刻むように、毎ターン直接攻撃を狙う戦法(アーキタイプ)

 

その戦法(アーキタイプ)の名前は──

 

 

『クロック・パーミッション』か。

 

 

攻撃特化の速攻(アグロ)デッキより決着は遅いが、相手側からすれば対処の難しいデッキだ。

思想としては、1度展開したクリーチャーでライフを毎ターン刻み、妨害呪文で相手に何もさせないこと。

 

私がどれだけ強力なカードを使用しても、それが打ち消されてしまえば意味がない。

……という事だ。

 

相手の場にいるゴーレム・トークンの打点は3。

私の残りライフは15。

 

残り5回攻撃されれば、私は敗北する。

それまでに、何とか対処しなければならない。

 

可能性はある。

先程、引き当てたこのカードならば……そして、私の策に相手が気付かなければ。

 

 

「私はターンを終了する」

 

 

悟られるな。

パーミッションとの戦いは、(ブラフ)を見抜けなかったプレイヤーが負けるゲームだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁっ……!」

 

 

夜の街を走る。

太陽はもう落ちていた。

 

人の姿は疎にあるけれど、少しずつ減っていく。

 

ニーナと、ニーナを追いかけて行った店長を探して、僕は走る。

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 

確かに、こっちへ走って行った筈だった。

きっと、恐らく。

 

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 

ニーナに、会わなきゃ。

会って……話さないと。

謝らないと。

 

僕は──

 

 

「はぁ、は、うっ……!」

 

 

限界だ。

心臓がうるさいぐらいに鳴っている。

 

コンクリートの壁に手をついて、汗を溢す。

視界がボヤけているのは疲れからか、汗なのか、それとも涙か。

そんな事も分からない。

 

 

「はぁ……は、う……っく……」

 

 

乱れた呼吸を整えていく。

頬をつたって、水滴がぼろぼろと地面に落ちる。

 

ニーナが何処に逃げたのか、店長が何処まで追えたのか。

分からない。

分からないんだ。

 

この街は広い。

頑張って走っても、見つからない。

追いつかない。

 

もう彼女には会えないのだと……僕は、感じていた。

 

 

「……はぁ、はぁ」

 

 

足を進める。

少しでもいいから、足を進める。

 

分からなくても、何もしないでなんて居られない。

 

喉が痛くて、足が痛くて、肺が痛くても。

僕は、彼女を追わないと──

 

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

 

耳に聞こえたのは、僕よりも幼げな女の子の声。

足を止めて、振り返れば──

 

 

「……ニーナ?」

 

 

幼い……まだ10歳と少し……ぐらいの年齢の、少女だ。

だけど、もっと気になる点があった。

 

銀髪に赤目、整った容姿。

 

ニーナの幼い頃だと言われても納得がいくような姿。

 

 

「ううん?私はニーナじゃないよ」

 

「……っ、そ、そうだね。ごめん」

 

「いいよ、気にしてないから」

 

 

ニコリ、とニーナは浮かべないような笑みを浮かべた。

年相応の無邪気な笑みだ。

 

気になる。

その容姿は、あまりにもニーナに似ていた。

 

 

「君は──

 

「ね?何を追いかけてたの?そんなに辛そうな顔で」

 

 

僕の言葉を遮って、少女が口を開いた。

……僕は目を瞬いて、息を深く吐く。

 

 

「友達が、どこかに行ってしまったから……追いかけてるんだ」

 

「ふーん、友達……ね。喧嘩しちゃったの?」

 

「なんで、そう思う……の、かな?」

 

 

僕は視線を少女に戻す。

先程と同様の無邪気な笑みを浮かべていた。

 

 

「だって、すっごく悲しそうな顔してるから。私が心配しちゃうぐらいにね」

 

 

僕は口元を手で触れる。

確かに、そうかも。

呼吸は不規則だし、涙は出ているし。

 

 

「……そっか。心配かけて、ごめんね」

 

「ううん、いいよ!私は気にしてないから」

 

 

少女が足を小さく曲げて、飛んだ。

ほんの軽い動作で……1メートル以上の高さがあるコンクリートの塀に登った。

 

……ニーナも店長も、この女の子も。

みんな人間離れした身体能力をしてるな……。

 

なんて考えてから、僕は首を捻った。

 

 

「その、あんまり高い所に登ると危ないよ」

 

「うーん……そうかな?」

 

「そうだよ……」

 

「うん、ならやめようかな……っと」

 

 

少女が塀から飛び降りて、地面に足をついた。

その瞬間、彼女の着ている上着のような物にフードが付いている事に気付いた。

白い猫を模した可愛らしいフードだ。

 

 

「ね?お兄ちゃんも一緒に遊ぶ?」

 

 

彼女は何者なんだろうか。

ニーナの関係者だろうか。

 

……いや、それよりも──

 

 

「ごめん、僕、友達の所に行かないといけないから」

 

「……そっか、そうだよね」

 

 

純粋な、邪気のない笑みを浮かべて、少女は笑っている。

 

 

「それと、あんまり遅くなるとパパやママが心配するから帰っ──

 

「それは大丈夫だよ」

 

 

何が大丈夫なのだろうか。

何だか、この女の子を放っておくのは悪いことなんじゃないか?……って後ろめたくなる。

 

だけど、やるべき事がある。

 

 

「それじゃあ、僕は友達の所に行かないと……」

 

「場所、分かるの?」

 

 

少女の言葉にまた、足を止める。

 

 

「……分からないよ。でも、追いつかないといけないんだ」

 

「ふーん?」

 

 

少女が僕の前に立った。

そして、僕の方へと振り返った。

 

 

「教えてあげよっか?」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんが探してる人の場所」

 

「知ってるの……?」

 

「うん」

 

 

嘘……ではなさそうだ。

何故か、そう思った。

 

彼女の笑みが純粋だったからか。

疑う、という感情が少しも湧いてこなかった。

 

 

「ど、どこに……」

 

「教えてあげても良いけど……追いついて、どうするつもりなの?」

 

「それは……」

 

 

その言葉に言葉が詰まった。

具体的にどうすればいいか、僕には分からない。

それでも兎に角、彼女に会いたいと思ったから……僕は追い掛けているんだ。

 

 

「お兄ちゃんは、その友達をどうしたいの?」

 

「どうって……それは……」

 

 

僕は彼女に死んで欲しくない。

僕は彼女と一緒に居たい。

僕は彼女へ謝りたい。

 

沢山ある。

 

 

「それならさ、カードで勝って……全部、好きにしたら良いじゃん?」

 

 

それは天使のような、悪魔の囁きだ。

カードバトルで相手の考えを好き勝手しようだなんて、それは傲慢な考えだ。

 

 

「そ、そんなのダメだよ!」

 

「えー、良い考えだと思うけどなぁ」

 

「それにっ、彼女は僕より強いし……!」

 

 

胸の奥がズキリと痛む。

僕は弱い。

 

ニーナにも、ユウキくんにも勝てない。

僕では彼女に勝てない。

 

弱いんだ。

だから、僕にできる事なんて──

 

 

「ね?お兄ちゃん、強くなりたいよね?」

 

「強く……なれるなら、なりたいよ。でも、僕は──

 

「なれるよ」

 

 

ニーナによく似た少女が僕に接近した。

 

顔が近い。

鼻が触れ合いそうなほど、近い。

 

 

「ちょっ──

 

「お兄ちゃんには素質があるよ。大丈夫、私が保証してあげる」

 

 

その少女の手が、僕の右腕……バトルディスクに触れた。

だけど、何故か……振り払う気にはなれなかった。

 

しかし、悪寒がした。

背筋に冷たい手で触れられたかのような感覚。

 

思わず、一歩下がった。

彼女から距離を取るために。

 

そんな僕の失礼な動きにも、少女は笑みを崩さなかった。

 

 

「うん、それじゃあ……お兄ちゃんが探している友達の場所を教えてあげよっか」

 

「っ、あ……うん、お願いするよ」

 

 

落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。

深呼吸をして息を整えて──

 

 

「場所はあっちの方。おっきいお菓子屋さんの横にある路地裏って所だね」

 

「そ、っか……ありがとう」

 

「あ、カードバトルしてるね。今から行けば間に合うかなぁ……?」

 

 

店長は、ニーナに追い付けたのだろうか。

尚更、早く追いつかないと。

 

 

僕は少女から目を背けて、指示された場所へ向かおうとして……立ち止まった。

 

 

「そういえば、君は一体、誰──

 

 

振り返ると、そこにはもう少女の姿は無かった。

 

 

「え、あれ?」

 

 

まるで夢だったんじゃないかと、自分の腕を抓る。

……痛い。

現実、だった筈だ。

 

彼女は何者だったのだろう。

ニーナに似た容姿。

だけど、ニーナよりも幼い。

 

妹だ、と言われたら納得出来てしまうぐらいだ。

 

それに、どうやってニーナと店長の場所を知ったんだ?

しかも……カードバトルしている、なんて情報も。

 

狐につままれたような気分だ。

だけど──

 

 

「っ、て……そんな事よりも……!」

 

 

追わなければならない。

ニーナが店長と戦っているという事は、勝敗が決まるまでは移動しないという事だ。

 

間に合えば合流できる。

合流して……合流してからのことは、その時考えればいい。

 

僕は先ほどの少女に教えられた場所へ、足を進めた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「私のターン。カードを引いて、1枚をマナへ置くわ」

>サエコ:ターン5

>サエコ:手札2→2

>サエコ:マナゾーン4→5

 

 

手札は残り2枚。

『パーミッション』は妨害呪文をプレイする都合上、手札の枯渇が激しい。

その為、ドロー呪文を多く採用している筈だ。

 

 

「まずはゴーレム・トークンで攻撃」

>ゴーレム・トークン(3/3)

 

「くっ」

>ニーナ:ライフ15→12

 

 

決して安くないダメージに冷や汗を掻く。

残り12点……ゴーレム・トークンの攻撃に耐えられるのは残り4回か。

 

 

「そして、手札から呪文(スペル)『閃き』を発動」

>サエコ:手札2→1

>サエコ:マナ5→3

 

 

彼女のバトルディスクが青く輝く。

 

 

「『閃き』は残りのマナを全て消費し、消費したマナの数だけカードを引ける。私はカードを3枚引く」

────────────────

②閃き

呪文カード

マナを全て消費する。その後、カードをX枚引く(Xは消費したマナの数に等しい)。

────────────────

>サエコ:マナ3→0

>サエコ:手札1→4

 

 

3枚も手札アドバンテージを稼がれてしまった。

 

ライフアドバンテージも、ボードアドバンテージも負けている中……手札の有利ぐらいは得たかったが……拙いな。

 

この戦い。

明らかに相手に有利を取られている。

今は、私が不利。

 

 

「私はターンを終了するわ」

 

 

だが、それでも──

 

 

「私のターン……!カードを引いて、1枚マナへ置く」

>ニーナ:ターン6

>ニーナ:手札3→3

>ニーナ:マナゾーン5→6

 

 

今、明確に見えている隙。

そこを突く。

 

相手の手札枚数は確かに補充された。

しかし、呪文(スペル)に注ぎ込んだ所為で、残りのマナは0だ。

 

ここは除去を──

 

いいや、違う。

私は既に一度、代替(ピッチ)呪文(スペル)で除去を止められている。

そして恐らく、彼女のデッキには上限枚数の4枚入っている。

つまり、使用した1枚を差し引いて、残り3枚。

 

引かれている可能性を考慮し、除去呪文を撃つのは控える。

また無闇に手札とマナを浪費したくはない。

 

 

「私は手札から『黙示録の獣』を召喚する」

>ニーナ:手札3→2

>ニーナ:マナ6→0

 

 

錆びた銅のような毛皮を持つ獣が姿を現した。

────────────────

⑥黙示録の獣

クリーチャー・カード

種族:テラー・ビースト

召喚時:カードを1枚引く。

永続:相手がカードを引いた時、ライフを2点回復する。

パワー3/タフネス5

────────────────

 

 

「その効果により、私はカードを1枚引く」

>ニーナ:手札2→3

 

 

場に召喚された『黙示録の獣』へ視線を向ける。

召喚時の1ドロー(キャントリップ)効果で既に1:1の交換は出来ている。

ここから除去をされても痛手にはならない。

 

それだけではない。

『黙示録の獣』にはもう一つ効果がある。

 

 

「私はターンを終了する」

 

「なら、私のターンね。カードを1枚引いて──

>サエコ:ターン6

>サエコ:手札4→5

 

「その瞬間、『黙示録の獣』の効果が発動する。相手がカードを引いた時、2点の回復を行う」

>ニーナ:ライフ12→14

 

 

それはカードを引かれる度に回復する効果。

これでまた、ライフを削り切るのに必要な攻撃回数が増えた。

 

この効果は毎ターン開始時……だけではなく、ドロー呪文を使用した際にも起動する。

彼女は『黙示録の獣』を維持させたくない筈だ。

しかし、『パーミッション』が得意とする『打ち消し』効果は、既に場へ出ているクリーチャーには無意味。

それが明確な弱点だ。

 

 

「ふーん……私は手札を1枚マナへ置くわ」

>サエコ:手札5→4

>サエコ:マナゾーン5→6

 

 

除去呪文にマナを使用するなら、ドロー呪文にマナを割けないだろう。

 

視線を相手プレイヤーへと向ける。

その目は薄く笑っていた。

 

……何か、まだ余裕があるのか──

 

 

「私は手札から、レジェンド・置物(オーナメント)『魔導図書館ミスティオン』を設置」

>サエコ:手札4→3

>サエコ:マナ6→1

 

 

彼女の背後から大理石で出来た本棚が生えた。

そこには色鮮やかな本が収められている。

 

ここでレジェンド・カード?

それも、置物(オーナメント)カードを。

 

 

「そのまま私はターンを終了……そして、置物(オーナメント)『魔導図書館ミスティオン』の効果を発動する」

 

 

彼女の背後にある本棚から、青白い光が放たれる。

 

 

「私の墓場(トラッシュ)にクリーチャーが存在しない場合、ターン終了時にマナを最大値まで回復するわ」

>サエコ:マナ1→6

────────────────

⑤魔導図書館ミスティオン

レジェンド・オーナメント・カード

ターン終了時:自分の墓場にクリーチャーが存在しない場合、マナを全て回復する。

────────────────

 

「むっ……」

 

 

その性質に、私は目を見開いた。

クリーチャーが墓場にいると使用できない……実質的なデッキ構築の制限が必要となるレジェンド・置物(オーナメント)だ。

 

そのためにゴーレム・トークンなどトークンを生成するカードを採用しているのだろう。

トークンは一時的に生成される実体のない存在……場を離れた瞬間にゲームから取り除かれ、墓場に行かない。

呪文(スペル)しか採用しなくても、クリーチャーの展開ができる。

 

なるほど。

そして『魔導図書館ミスティオン』は、その縛りに相応しい効果を持っている。

 

その効果、ターン終了時のマナ全回復だ。

本来ならば、相手ターン中にマナが回復してもあまり意味はないが、彼女のデッキには多くの高速(クイック)呪文(スペル)が入っている。

マナを注ぎ込む先には困らないだろう。

 

つまり、自ターン中に通常の呪文(スペル)を使い、相手ターン中に高速(クイック)呪文(スペル)で妨害する事で、合わせて2倍のマナ総量でカードをプレイできるという事だ。

 

……これが、彼女の切り札(レジェンド)

『クロック・パーミッション』を補強する強力な置物(オーナメント)だ。

 

 

だが──

 

 

「私のターン。カードを引く」

>ニーナ:ターン7

>ニーナ:手札3→4

 

 

マナには、敢えてカードを置かない。

ここからは……私と彼女の消耗戦になる。

いいや……消耗戦に『する』。

 

 

「手札から『背徳の狂信者』を召喚する」

>ニーナ:手札4→3

>ニーナ:マナ6→4

 

 

黒い法衣を着たゾンビが現れる。

────────────────

②背徳の狂信者

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:相手プレイヤーはマナを6失う。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

「『背徳の狂信者』の召喚時効果により、貴女のマナを6つ失わせる」

 

 

さぁ、どうする?

このカードを通せば、マナを全て失い、妨害も出来ないはずだ。

このターン中に高速(クイック)呪文(スペル)を撃ちたいなら、今しかない筈だ。

 

 

「私は手札から高速(クイック)呪文(スペル)『抹消』を発動する。対象は『黙示録の獣』ね」

>サエコ:手札3→2

>サエコ:マナ6→2

────────────────

④抹消

高速呪文カード

場のパワー5以下のクリーチャーを破壊する。

────────────────

 

 

私の場の『黙示録の獣』が消滅した。

 

……除去されたか。

だが、遅かれ早かれ除去されるのは分かっていた。

 

高速(クイック)呪文(スペル)はどのタイミングでも撃てる事が強みだ。

だが『背徳の狂信者』は、マナ損失という効果を見せる事で相手に高速(クイック)呪文(スペル)の即時発動を強要できる。

 

 

「『背徳の狂信者』の効果処理。マナを失わせる」

 

「…………」

>サエコ:マナ2→0

 

 

初めて、その表情に焦りが見えた……ような気がした。

表面上は薄い笑みを浮かべたままだ。

だが、私には分かる。

 

ほんの少し、口角が下がった。

瞬きした。

一瞬だけ、口呼吸をした。

 

人為的に強化された『目』があった故に見抜けた無意識の癖。

 

そんな彼女の焦りに対して、私は……笑みを浮かべる。

店長のマナは0。

手札も2枚、代替(ピッチ)呪文(スペル)は使えば手札は無くなる。

 

私が次に出すカードは、止められない。

 

 

「私は置物(オーナメント)『邪教の首飾り』を設置する」

>ニーナ:手札3→2

>ニーナ:マナ4→1

────────────────

③邪教の首飾り

オーナメント・カード

お互いのターン終了時:そのターンのプレイヤーは、手札を1枚破棄する。

────────────────

 

 

場に設置された置物(オーナメント)

これが私の、彼女のデッキに対する『解答』だ。

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