TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#14 貴方も、私も、彼も

「私は置物(オーナメント)『邪教の首飾り』を設置する」

>ニーナ:手札3→2

>ニーナ:マナ4→1

────────────────

③邪教の首飾り

オーナメント・カード

お互いのターン終了時:そのターンのプレイヤーは、手札を1枚破棄する。

────────────────

 

 

目の前で銀髪の少女がカードをプレイした。

 

宝石のような赤い瞳。

シルクのような透き通る銀髪。

人形のように整った目鼻。

 

そんな彼女が浮かべているのは、無表情。

生身の人間ではなく、人のフリをした人形と言われた方が納得できる。

 

 

吐き気がする。

 

私、斉木 サエコは彼女の事が嫌いだ。

 

……いや、違うか。

理解できなくて、恐ろしくて、気持ちが悪い。

こちらの方が近い。

 

 

昔。

そう、15年前。

私がまだ12歳だった頃。

 

私は斉木 サエコという名前ではなかった。

名前なんてなかった。

 

私は孤児だった。

父と母の顔は知らない。

そんな私を育てたのは……何だったか、今では名前も覚えていない……そう、所謂『悪の秘密結社』だった。

そこで私はエージェントとなるべく育てられた。

 

愛もなく、ただ使命感だけを植え付けられた。

この世界ではよくある話だ。

『VAX』のような非合法な組織だって、珍しい物じゃない。

そんなよくある話の中で、私はただただ一人のエージェントとして、組織のために戦った。

 

 

戦って、戦って、戦って──

 

 

『悪の秘密結社』は滅びた。

一人の少年の手によって。

 

 

突如、自由になった私は途方に暮れた。

どうしたら良いのか、何をすれば良いのか。

何も分からなかった。

 

 

そんな私に手を差し伸べてくれたのが……組織を倒した少年だった。

 

私は彼に色んな事を教わった。

人間として必要な事も。

私は彼と友人……いや、それ以上の関係になった。

 

私と彼で、沢山冒険をした。

 

一緒に遊んで、色んな所に行って、悪い奴らと戦った。

二人で色んな事をした。

 

何をすべきか、ではなく、何をしたいか……初めて、そう考える事が出来た。

 

私は少年……ヒロトと会うために産まれてきたんじゃないかって、そんな笑えるような事を本気で考えていた。

若かったんだ、私も。

 

だけど、そんな冒険の日々も……急に終わってしまった。

 

 

 

ヒロトが死んでしまったからだ。

 

 

 

あぁ、よくある話だ。

 

『悪の秘密結社』は潰しても潰しても生まれてくる。

人の悪意に際限はない。

アレが欲しい、コレが欲しいと……本当に、世の中には我儘な奴が多い。

 

 

だから、この世界ではありふれた不幸だった。

 

だからといって、納得は出来なかった。

 

 

私は、国際警察機構、ICPOの局員になった。

ヒロトのような悲劇を、二度と繰り返してはならないと思ったからだ。

 

だけど、『悪の秘密結社』はICPOの影を見つけると逃げ出してしまう。

あと一歩の所まで追い詰めても、最後の最後で逃げられてしまう。

追って、逃げられて、追って、逃げられて。

 

そうして規模が広がって、被害も大きくなって。

 

あぁ、その時に理解した。

何故、ただの子供だった私やヒロトが『悪の秘密結社』を倒せたのか。

 

舐められていたからだ。

子供だったからだ。

 

正義の味方は、子供にしかなれない職業だった。

そんな事を大人になってから気付いたんだ、私は。

 

 

私はICPOを辞めて、カードショップを経営しようと思った。

ヒロトは「大人になったら、カードショップの店長になりたい」なんて言っていた。

その夢を代わりに叶えてあげたかったからだ。

彼の望みを私が継ぎたかった。

 

しかし、機密保持条約によってICPOを辞める事は出来なかった。

諦めきれなかった私は、現地でのカモフラージュだと上層部を説得して『カードショップ・ダイス』を開いた。

 

方便だ。

ICPOの上層部からすれば、私の店なんてお遊びのような物だと思っているだろう。

だけど、カードショップの店長こそがヒロトの……いや、私がやりたい事だった。

だから……誰がなんと言おうと、今はICPOの方が副業だ。

 

 

「私はターンを終了する。その瞬間、『邪教の首飾り』の効果で手札を1枚破棄する」

>ニーナ:手札2→1

 

 

目前の少女に視線を戻す。

 

補佐官から手渡された調査報告書で、初めて彼女の存在を知った。

フラスコの中で作られた、紛い物の少女。

 

なんて哀れだと思った。

可哀想だと思った。

 

しかし、『VAX』に残された研究資料を読めば……そんな感情は消えてなくなってしまった。

 

 

曰く、彼女は歩くより先に走る事を覚えていた。

研究施設の外の世界を、何故か知覚していた。

1を聞いて10を知るような少女だった、と。

 

だが、あり得ない話だ。

一度も研究施設から出た事もない少女が、外界の情報を持っていて……人から話された内容を自力で補完できる筈がない。

 

頭がいい……だけでは、通用しない。

 

何かがおかしかった。

まるで、別の人間が成り代わっているような──

 

 

「私のターン。カードを引く」

>サエコ:ターン7

>サエコ:手札3→4

 

 

彼女は見た目相応の人間ではない。

いきなり外界に放り出されても、他者を踏みつけて生き残れる強かな存在だ。

その強かさは、どこで身に付けたのか。

 

補佐官から送られてきた資料の中に、カードバトル中の昏睡事件の調査資料があった。

被害者と対戦していた相手は……銀髪の、赤目らしい。

彼女と同じ姿だ。

 

関係はあるのか?

何がしたいんだ?

何を考えているんだ?

 

最早、どうでも良い話だ。

ICPOの本部が、彼女の身柄を欲しがっている。

私はそれに従うだけだ。

 

実験体217がどうなろうと、知った事ではない。

 

私は大人だ。

子供を守る義務がある。

 

しかし、その中に彼女(217)は存在していない。

この少女は、子供ではない。

子供のフリをしたバケモノでしかない。

 

 

「私は手札から、『記憶の渦潮』を発動する。

>サエコ:手札4→5

>サエコ:マナ6→3

────────────────

③記憶の渦潮

呪文カード

カードを2枚引く。

────────────────

 

 

私にはヒイロや、ユウキ……子供達を守る義務がある。

だから、排除しなければならない。

 

この理解できない、生き物を。

 

 

「私はゴーレム・トークンで相手プレイヤーへ直接攻撃するわ」

>ゴーレム・トークン(3/3)

 

「…………」

>ニーナ:ライフ14→11

 

 

あと必要な攻撃回数は4回。

ゴーレム・トークンを維持して、打点を刻めば私の勝ちだ。

 

 

「私はそのままターンを終了するわ。その瞬間、『魔導図書館ミスティオン』の効果でマナを回復する」

>サエコ:マナ3→6

 

「そして『邪教の首飾り』の効果を発動。貴女は手札を1枚捨てなければならない」

 

 

私は手札へ視線を落とす。

『邪教の首飾り』……互いのターン終了時に、ターンプレイヤーに手札を破棄させるカード。

だが、捨てる対象は相手が選ぶ訳でもなく、無作為(ランダム)でもなく、自分で選べる。

 

手札破壊(ハンデス)としては、最も質の悪い手札破壊(ハンデス)だ。

 

 

「……私は手札を1枚捨てる」

>サエコ:手札5→4

 

 

だが、このターン私が稼いだ手札アドバンテージは失われてしまった。

あと数ターン……ドロー呪文を撃たなければ手札が枯渇する。

 

しかし、それは彼女も同じだ。

それどころか、現在、彼女の手札枚数は1。

私よりも早く手札切れが起きる。

 

このまま、リソースが切れた彼女をゴーレム・トークンで殴るだけ。

それだけだ。

 

 

「私のターン。カードを引く」

>ニーナ:ターン8

>ニーナ:手札1→2

 

 

やはり、マナゾーンにカードは置かないか。

手札消費を少しでも抑えるためだろう。

だが、現在の彼女のマナゾーンの枚数は6。

私のマナゾーンの枚数も6だが、『魔導図書館ミスティオン』のターン終了時効果によって6マナ回復するため……実質12マナ使える。

 

この差は大きい。

 

 

「『背徳の狂信者』で相手プレイヤーへ直接攻撃」

>背徳の狂信者(1/1)

 

「っ……」

>サエコ:ライフ20→19

 

 

大したダメージではない。

これは無視できる。

 

意識すべき脅威は今、相手が引いたカードだ。

 

 

「私は手札から呪文(スペル)『魂の変換』を発動する。対象は『背徳の狂信者』」

>ニーナ:手札2→1

>ニーナ:マナ6→3

────────────────

③魂の変換

呪文カード

自分の場のクリーチャーを1体破壊する。

その後、カードを3枚引く。

────────────────

 

 

自身のクリーチャーを手札に変換するドロー呪文か。

……チッ、前のターン、ゴーレム・トークンで『背徳の狂信者』を取っておくべきだったか?

 

私は手札に視線を落とす。

……この呪文を打ち消した後、残り3マナで除去を撃たれるのは拙い。

だが、手札を増強する過程で除去呪文を引かれる可能性も考慮すれば──

 

 

「その瞬間、高速(クイック)呪文(スペル)『対抗魔術』を発動するわ」

>サエコ:手札4→3

>サエコ:マナ6→2

────────────────

④対抗魔術

高速呪文カード

呪文カードの発動、またはクリーチャーの召喚を打ち消す。

────────────────

 

 

ここは打ち消す!

彼女が自ら置いた『邪教の首飾り』で手札切れを起こさせる。

 

彼女の残りの手札は1枚。

ターン終了時に破棄されるなら──

 

 

「私は手札から呪文(スペル)『蛆殺し』を発動」

>ニーナ:手札1→0

>ニーナ:マナ3→0

 

 

残り1枚もプレイできる算段だったか。

……つまり、『魂の変換』は打ち消される前提でプレイしたのか?

しかし、拙い。

マナの残量的に、このカードを打ち消せない。

 

 

「『蛆殺し』の効果。それは自身の場のクリーチャー1体を破壊し、お互いの手札をランダムに2枚破棄させる」

────────────────

③蛆殺し

呪文カード

自分の場のクリーチャーを1体破壊する。

その後、お互いの手札からカードを2枚、ランダムに破棄させる。

────────────────

 

「…………っ」

 

 

こ、こいつ……!

自身の手札を破壊しても、私の手札を破壊するカードを!

 

思わず奥歯を強く噛んだ。

 

 

「私の手札は0枚。破棄するカードはない」

>ニーナ:手札0→0

 

「……私は、手札からカードを2枚破棄する」

>サエコ:手札3→1

 

 

私の手札まで、枯渇させられる。

ようやく、この少女が狙っている事を理解した。

 

デッキの1番上のカードだけで勝負するつもりだ。

そして、それを私にも強要している!

 

 

「私はターンを終了する。『邪教の首飾り』の効果が発動するけど……捨てる手札はない」

>ニーナ:手札0→0

 

 

『邪教の首飾り』は互いの手札を削る置物(オーナメント)ではなくなった。

この少女が手札を全て捨てた事でリスクを踏み倒しているからだ。

 

このカードはただ、私の手札を削るだけの置物(オーナメント)になってしまった。

 

 

「私のターン、カードを引くわ」

>サエコ:ターン8

>サエコ:手札1→2

 

 

ドロー呪文はない。

先程の手札破壊(ハンデス)で叩き落とされてしまった。

 

そして、今引いたカードは打ち消し。

受動的なカード。

 

手札に蓄えておきたいが、毎ターン『邪教の首飾り』で捨てさせられる都合上……使い所が難しい。

折角、『魔導図書館ミスティオン』でマナを生み出しても、それが活かせない。

 

あの置物(オーナメント)1枚で、ここまで私のデッキが機能不全に持ち込まれるなんて……。

 

だが、しかし──

 

 

「……ゴーレム・トークンで相手プレイヤーを直接攻撃」

>ゴーレム・トークン(3/3)

 

「…………」

>ニーナ:ライフ11→8

 

 

依然、私が有利。

場にゴーレム・トークンがいる限り、毎ターンライフが削れるのは確定している。

 

あと3回の攻撃でライフは0になる。

手札が0枚だろうと、関係ない。

 

 

「私はターンを終了する。そして『邪教の首飾り』の効果で手札を1枚捨てるわ」

>サエコ:手札2→1

 

 

迷った末、残したのは万能打ち消し『対抗魔術』。

これはクリーチャーの召喚も、呪文(スペル)の発動も止められるカード。

 

これで彼女が引いたカードを打ち消す算段だ。

 

 

「私のターン。カードを1枚引く」

>ニーナ:ターン9

>ニーナ:手札0→1

 

 

何を引かれようと関係ない。

確実に止める。

 

 

墓場(トラッシュ)に存在する呪文(スペル)『霊魂の再生』を発動する」

>ニーナ:マナ6→3

────────────────

③霊魂の再生

呪文カード

追唱(このカードは墓場から発動する事が出来る。その後、このカードをデッキに戻す)

墓場に存在するクリーチャーを1体選択し、手札に戻す。

────────────────

 

 

追唱呪文(スペル)……!

邪教の首飾りで捨てていたのか。

 

しかし……くっ、このカードは打ち消せない。

追唱の処理は、発動、効果適用、デッキ戻しの順だからだ。

 

ここで発動を止める打ち消しを行った場合、デッキに戻す処理が行われない。

再度マナを支払えば発動できてしまう。

このカードを打ち消しても、リソースを枯らす事は出来ない。

 

 

「私が手札に戻すのは『骸の槍兵』」

>ニーナ:手札1→2

 

 

だが、結果は同じだ。

手札に加えたカードを打ち消せば良いだけだ。

 

彼女の残り手札は2枚だが、『邪教の首飾り』による1枚破棄を考慮すれば……手札に戻した『骸の槍兵』を打ち消せば、手札は0枚になる。

 

さぁ、来い──

 

 

「私はそのまま、ターンを終了する」

 

 

……なっ。

 

 

「『邪教の首飾り』の効果で、手札からカードを1枚破棄する」

>ニーナ:手札2→1

 

 

『霊魂の再生』で回収したカードを、そのまま破棄した?

ここは最初に握っていた手札を次ターンに持ち越そうという考えか。

 

上手く回避された形になるが……問題はない。

結局は手札に蓄えたカード全てを打ち消せば良いだけの話だからだ。

 

 

「私のターンね。カードを1枚引くわ」

>サエコ:ターン9

>サエコ:手札1→2

 

 

引いたカードは……ドロー呪文!

これで手札アドバンテージを取り返せる。

 

 

だが、取り敢えずは──

 

 

「ゴーレム・トークンで直接攻撃」

>ゴーレム・トークン(3/3)

 

「…………」

>ニーナ:ライフ8→5

 

 

残り、5点。

あと2回の攻撃で終わりだ。

 

更に手札も補充させて貰おう。

 

 

「そして、私は手札から呪文(スペル)『記憶の渦潮』を発動するわ」

>サエコ:手札2→1

>サエコ:マナ6→3

────────────────

③記憶の渦潮

呪文カード

カードを2枚引く。

────────────────

 

「その瞬間、私は高速(クイック)呪文(スペル)『打ち砕かれた希望』を発動。『記憶の渦潮』を打ち消す」

>ニーナ:手札1→0

>ニーナ:マナ3→0

────────────────

③打ち砕かれた希望

高速呪文カード

墓場に存在する種族『テラー』クリーチャーを1体選択し、デッキに戻す。

呪文カードの発動、またはクリーチャーの召喚を打ち消す。

────────────────

 

 

こ、このっ……!

 

私の残りマナは3、対して『対抗魔術』は4コスト。

彼女の『打ち消し』を更に『打ち消す』事ができない。

 

私のドロー呪文が霧散する。

 

 

「私は、ターンを終了する。そして、『魔導図書館ミスティオン』の効果でマナを回復する」

>サエコ:マナ3→6

 

 

マナを回復しても意味がない。

相手ターンに発動できる高速(クイック)呪文(スペル)がないからだ。

確かに今、1枚打ち消しを握っているが──

 

 

「……そして、『邪教の首飾り』の効果で、手札を1枚破棄する」

>サエコ:手札1→0

 

 

『邪教の首飾り』によって破棄させられた。

 

そして、彼女の狙い通り……手札が0枚になってしまった。

ここから先はデッキトップを捲り、カードをぶつけ合うだけのゲームが始まる。

 

一見、対等に見えるデッキトップのぶつけ合い。

 

しかし、その実態は……私が不利だ。

私のデッキには相手のカードを打ち消す、受動的なカードが大量に入っている。

 

それらは全て、ハズレだ。

『邪教の首飾り』の効果によって相手ターンまで持ち越せないからだ。

カードを2枚以上引けるドロー呪文が来れば、相手ターンに打ち消しを構えられるが……。

そう都合よく引けるのか、という問題がある。

 

対して、彼女の方はどうだ?

彼女のデッキはハイランダー……そして、私のデッキに比べて『打ち消し』カードも少ない。

クリーチャーカードも私のデッキに比べて多い。

つまり、当たりが多い。

 

一見、互いの手札を全て破壊し、互いにリソースが切れたように見えるが……その実は彼女に有利なゲームにさせられたのだ。

 

 

視界を上げる。

目の前の少女へと。

 

……笑っている。

アレだけ無表情だったのに、今は……笑っていた。

その笑顔が理解できなくて、少し不快感を感じた。

 

 

「随分と楽しそうね。何がそんなに面白いの?」

 

 

気付けば、口が開いていた。

笑顔の下に隠していた感情が、言葉となってしまった。

 

だが、そんな私に、彼女は笑顔を浮かべた。

 

 

「だって、カードバトルは楽しいから」

 

 

 

 

 

 

『ヒロトくんはさ、何でそんなに楽しそうに戦うの?』

 

『そりゃあ……だってカードバトルはさ、楽しんでやるもんだろ?』

 

『……そうかな?』

 

『サエ、自覚ないかも知れないけどさ。カードバトルしてる時はすげぇ楽しそうにしてるぜ』

 

 

 

 

 

 

脳裏に浮かんだのは、いつの会話だったか。

どうしてそんな話をしたのかも、思い出せない。

それでも忘れられない、私の記憶。

 

思わず呆けてしまった私に、彼女は視線を向けた。

 

 

「貴女は、楽しくないの?」

 

「……私は──

 

 

右腕に装着されたバトルディスク、そこに装着されたデッキへと目を落とす。

 

私が『クロック・パーミッション』を使用しているのには、理由がある。

確実に初見で相手を倒す為だ。

拘束対象の戦術が何であろうと打ち消して、安定して勝とうとしているからだ。

 

だけど、それだけではない。

 

それだけではないんだ。

 

私が『クロック・パーミッション』を使う理由は、それだけではない。

 

ヒロトと組んだデッキだから。

ヒロトと共に戦ったデッキだから。

楽しかった時も、苦しかった時も、ずっと……一緒に戦ってきたデッキだから。

 

だから──

 

 

「私も、楽しいに決まってるじゃない」

 

「……うん、なら良かった」

 

 

あぁ、そうか。

この少女はただ、カードバトルが好きなだけなのだ。

 

生まれがどうであっても。

不審点があったとしても。

分からない事があったとしても。

 

それでも彼女の中には、一つ真っ直ぐ通っている感情がある。

それは私や『彼』と同じ……『カードバトルが楽しい』という感情。

 

目を見開く。

そして、少女……ニーナと視線をぶつけた。

 

 

「随分と巻き返したつもりだろうけど……依然、私の方が有利。それは変わらない」

 

「知っている。ここからが、勝負」

 

 

既に、彼女に感じていた不快感は消え去っていた。

全てが理解できなくとも、いくつかは理解できた。

そして、その『いくつか』だけで十分だった。

 

彼女も、私や……他の子供達と同じ、カードバトルが好きなのだと理解できた。

 

それでも、負けるつもりはない。

 

彼女を蔑ろにしている訳ではない。

勝った後、保護する前に色々と考えよう。

ICPOの上層部に私から訴えかけてもいい。

私はそれなりに立場と実績がある……無視はできない筈だ。

 

手加減はしない。

 

彼女も、それを望んではいないだろう。

私達は何者であろうとも、『カードバトラー』だ。

勝利を奪い合い、その過程を楽しむ人種なのだ。

 

 

「私のターン。カードを1枚引く」

>ニーナ:ターン10

>ニーナ:手札0→1

 

 

視線を戻す。

 

私の手札リソースは切れた。

打ち消しを引いても、ターン終了時に『邪教の首飾り』に破棄される。

相手ターンに打ち消しを構えられなければ、『魔導図書館ミスティオン』によりマナを回復させても意味がない。

私の戦術は既に崩壊している。

 

だが、それでも。

 

手札リソースが無いのはニーナも同じだ。

 

ニーナのライフは残り5。

ゴーレム・トークンによる3点の打点により、残り2ターンで私の勝利となる。

残り2ターンの間にゴーレム・トークンを除去できなければ私の勝ちだ。

 

 

「……私は『迂闊な埋葬者』を召喚」

>ニーナ:手札1→0

>ニーナ:マナ6→2

 

 

場に布切れを身に纏った、瘦せこけた女が姿を現した。

────────────────

④迂闊な埋葬者

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:自分のデッキから、任意のクリーチャーを1枚破棄する。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

「その効果により、デッキからクリーチャーを1枚、墓場(トラッシュ)へ送る」

 

 

デッキから任意のクリーチャーを墓場(トラッシュ)に送れるカード……それ単体ではアドバンテージを稼いではいない。

だが、この現状……間違いなく、何か、墓場(トラッシュ)から効果を発動できるクリーチャーを捨てた筈だ。

 

 

「私はそのまま、ターンを終了。『邪教の首飾り』の効果が発動するけど……捨てる手札はない」

>ニーナ:手札0→0

 

「私のターン、カードを引くわ」

>サエコ:ターン10

>サエコ:手札0→1

 

 

引いたカードは……チッ、打ち消しのカードか。

 

 

「私はマナに、カードを1枚置く」

>サエコ:マナゾーン6→7

 

 

どうせターン終了時に捨てさせられるのなら、マナゾーンに置いた方がマシだ。

今回のデッキトップはハズレ……だが、盤面はまだ私の方が有利。

 

相手の場を見る。

『迂闊な埋葬者』は1/1の貧弱なステータス。

無視してもいい。

……本来ならば、だ。

ニーナのデッキには自身のクリーチャーをコストに効果を発揮するカードが採用されている。

 

ならば、除去するべきなのか。

ゴーレム・トークンで攻撃すべきなのか。

だが、そんな事をすればニーナのライフを詰められない。

 

 

「…………」

 

 

少し悩み、そして私は決断した。

 

 

「ゴーレム・トークンで相手プレイヤーへ直接攻撃!」

>ゴーレム・トークン(3/3)

 

 

決着を急いた。

だが、焦った訳ではない。

 

デッキトップでの勝負は私に不利。

理解している故の判断だ。

 

早期に試合を終わらせる事で、彼女にカードを引かせる回数を減らす。

デッキトップでの解決を探す、その試行回数を稼がせない事を優先した。

 

 

「っ……!」

>ニーナ:ライフ5→2

 

 

流石に彼女の顔にも焦りが浮かんでいる。

当然だ。

 

次の攻撃で、この戦いに決着がつくのだから。

 

 

「私はターンを終了。各オーナメントの効果が発動するけど……まぁ、もう影響はないかな」

>サエコ:マナ7→7

>サエコ:手札0→0

 

「……私の、ターン」

>ニーナ:ターン11

 

 

砂埃が巻き上がる。

月の光を反射して、まるで彼女自身が輝いてるかのように錯覚した。

 

 

「カードを1枚引く」

>ニーナ:手札0→1

 

 

緊迫、緊張。

張り詰めた糸のように、身体が強張る。

 

このドローで、決まる。

何を、何を引いたんだ?

 

 

「……私は──

 

 

何を。

 

 

墓場(トラッシュ)に眠る『陵墓のタイタン』の効果を発動する」

 

 

違う!

前ターン『迂闊な埋葬者』で破棄したクリーチャーの効果か!

 

 

「『陵墓のタイタン』は能力『再生』を持つクリーチャー。マナを支払う事で、墓場から召喚できる」

ニーナ:マナ6→2

 

 

大地が裂けて、巨大な死霊が蘇る。

───────────────

⑥陵墓のタイタン

クリーチャー・カード

種族:テラー

再生(4)(このクリーチャーが墓場に存在する時、マナを4支払う事で墓場から召喚できる。「再生」で召喚したクリーチャーが墓場に送られる時、デッキに戻す)

パワー4/タフネス4

────────────────

 

 

4/4のクリーチャー!

3/3のゴーレム・トークンを一方的に戦闘破壊できるパワータフネスがある。

 

だが、しかし──

 

 

「惜しいわ。トークンを破壊できるクリーチャーを出そうとも、残りライフは2……召喚酔いが解ける頃には、決着がついてる」

 

 

そう、遅かったのだ。

クリーチャーは『速攻』や『突撃』を持たない限り、場に出たターンは攻撃できない。

 

どれだけ強力なクリーチャーを出したとしても、もう遅い。

ゴーレム・トークンの攻撃は止められない。

 

 

その、筈なのだが──

 

 

「まぁ、そんな事は……言わなくても、分かってるみたいね」

 

 

それでも彼女は笑っていた。

 

敗北を認めたのか?

いいや、違うだろう。

 

その笑みは──

 

 

「私は手札から、呪文(スペル) 『大いなる再臨』を発動する」

ニーナ:手札1→0

ニーナ:マナ2→0

 

 

勝利を確信した者の笑みだ。

 

 

「『大いなる再臨』は自身の場の種族『テラー』を持つクリーチャーを進化させる呪文(スペル)カード」

────────────────

②大いなる再臨

呪文カード

自分の場の「テラー」クリーチャー1体を選択する。

選択したクリーチャーより2つ、または1つコストが高い「テラー」クリーチャーを、エクストラ・ゾーンから重ねて進化する。

────────────────

 

「この土壇場で『進化』を……?」

 

「対象は『陵墓のタイタン』。そのコストより2つコストが高い……8コストの進化クリーチャーへと進化する」

 

 

ニーナの腕に装着されているバトルディスクが展開した。

そして、カードが射出され……『陵墓のタイタン』へ重ねた。

 

 

「『死皇帝ハーデス』へ進化」

 

 

場の巨大な死霊が砕けた。

霧散した屍体から魂が解き放たれ、それらは再構築される。

 

其れは人の形を為さない。

其れは生物の形を為さない。

 

霊魂が集い、強大な異形が形作られる。

厳かで、恐ろしい、偉大な王の姿へと。

 

 

「……これが、進化(エクストラ)クリーチャー……!」

 

 

ユウキくんが扱っているのは知っている。

見た事だってある。

だが、対面したのは初めてだ。

 

場に、死霊の王が降臨した。

 

震えるような威圧感が私の身体へ叩きつけられた。

だが、それでも……私の場にゴーレムが残っている限り、勝利は揺るがない──

 

 

「『死皇帝ハーデス』の効果。お互いの場のクリーチャーを全て破壊し、その数だけクリーチャーを蘇らせる効果」

────────────────

⑧死皇帝ハーデス

エクストラ・クリーチャー・カード

種族:テラー

進化元:種族「テラー」クリーチャー

進化時:場の他クリーチャー全てを破壊する。その後、互いのプレイヤーは破壊された自身のクリーチャーと同等の数だけ、墓場からクリーチャーを蘇生(リアニメイト)できる。

パワー8/タフネス8

────────────────

 

「なっ──

 

 

世界が歪む。

現世と冥界が逆転する。

 

ニーナの場の『迂闊な埋葬者』が冥界へと沈む。

私の場のゴーレム・トークンもだ。

 

 

「私は破壊された『迂闊な埋葬者』の代わりに『骸の槍兵』を蘇生(リアニメイト)する」

────────────────

③骸の槍兵

クリーチャー・カード

種族:テラー・ナイト

突撃(「突撃」を持つクリーチャーは、場に出たターンからクリーチャーに攻撃できる)

パワー4/タフネス1

────────────────

 

 

『死皇帝ハーデス』の効果。

その全体破壊能力からの蘇生能力は強力だ。

しかし、それは互いに適用される効果。

 

私も場のクリーチャーが1体破壊された。

つまり、1体のクリーチャーを蘇生(リアニメイト)できる。

 

だが……私のデッキは呪文(スペル)に特化したノン・クリーチャーデッキ。

墓場(トラッシュ)にクリーチャーは存在しない。

更に、破壊されたのはゴーレム・トークン……一時生成されるトークンなのだ。

墓場には行かない為、即座の蘇生すらできない。

 

 

結果。

私に対しては単純な除去として適用されてしまったのだ。

相性は最悪と言って良い。

 

私の場はガラ空きで。

私のデッキにプレイヤーを直接焼ける火力(バーン)カードや、速攻クリーチャーは存在しない。

 

つまり──

 

詰めきれない。

そして、ニーナの場には8点の打点を持つ『死皇帝ハーデス』と、4点の打点を持つ『骸の槍兵』。

 

 

「……ちょっと、拙いかも」

 

 

敗北の二文字が脳裏に浮かぶ。

そして、それが逃れられない未来なのだと予感していた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁ……こ、ここかな?」

 

 

ニーナによく似た女の子に言われた場所に、僕はようやく辿り着いた。

そして、路地裏へと足を踏み入れ──

 

 

「『死皇帝ハーデス』で直接攻撃」

>死皇帝ハーデス(8/8)

 

 

異形が腕を振り下ろし、店長へと直接攻撃を繰り出した。

 

 

「うぎゃっ……!」

>サエコ:ライフ7→0

 

 

店長は情けない声を上げて、地面を転がり……僕のすぐ横で停止した。

気を失ってしまったようだが……怪我はなさそうだ。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

店長と、対戦相手のバトルディスクがカードバトルの決着を告げる。

そして、その対戦相手へと……僕は視線を向けた。

 

銀髪と、赤い目を持つ少女へと。

 

 

「……ニーナ」

 

「ヒイロか……」

 

 

ニーナがバトルディスクを収納し、僕へと視線を向けた。

足元でひっくり返っている店長も気になるけど、今は……彼女から目を離したくなかった。

 

目を離した瞬間、どこかに消えてしまいそうだと思っていたからだ。

 

互いに言葉を発さない。

長いような、短い時間が過ぎた。

 

そして、先に口を開いたのはニーナだった。

 

 

「何しに来たの?ヒイロ」

 

「ぼ、僕は……」

 

 

悩む。

 

何しに来たのか。

色々な理由が思い浮かぶ。

どれも嘘じゃない。

だけど、本質ではない気がした。

 

 

「ヒイロも私とカードバトルするの?」

 

「……っ」

 

「別に、私はそれでもいいけど」

 

 

違う、僕はそんなことをしに来た訳じゃない。

……僕は悩んで、そして──

 

 

「ニーナと……は、話がしたくて」

 

「話?」

 

 

ニーナが目を細めた。

 

 

「まず、謝りたいんだ……急に、店長に……勝手に話して、連れて帰ってきて、ごめん……って」

 

「いい。それは気にしてない」

 

 

僕の内心とは裏腹に、ニーナはあっさりと僕を許した。

 

 

「それと……ニーナの身体はメンテナンスしないと長生き出来ない、らしくて。その……店長はその、国際警察らしくて──

 

「知ってる」

 

 

しどろ、もどろ。

言葉を選ぼうとして、結局選べなくて、僕はただ心の内に感じて考えている物を吐露しているだけだった。

 

それでも、ニーナは去らずに聞いてくれた。

その事実に僕は安堵した。

 

 

「なら、その……店長と一緒に──

 

「それは嫌」

 

「な、なんでっ──

 

「例え、早死にしたとしても。私はもう『自由』を奪われたくない」

 

 

彼女の言葉に、僕は詰まる。

 

彼女に長生きして欲しいと思うのは、僕の我儘だ。

だけど、それでも、僕は──

 

 

「ヒイロ。話は終わり?終わったなら、もうここに用はない」

 

「あっ、ニ、ニーナ……」

 

「今日まで、ありがとう。楽しかった」

 

 

ニーナの言葉に、僕は息を呑む。

 

何で、そんな……もう、二度と会えないような別れの言葉を言うんだ。

少し憤り、その憤りが気にならなくなる程に、僕は悲しくなった。

 

 

「それじゃあ、さよな──

 

「ま、待って!ニーナ!」

 

 

堪らず、僕は彼女の側に駆け寄り……手を握った。

その手は細く、白く、滑らかな……女性の手だった。

 

しまった。

と考えた時にはもう遅かった。

 

ニーナと視線が合う。

嫌悪感は浮かんでなかった。

 

 

「……なに?」

 

「え、っと、あの……」

 

 

何か。

何か、何かないのか。

 

 

「えっと……」

 

 

とにかく、今だけで良い。

彼女を繋ぎ止められる何かが。

 

 

「ば、晩御飯……!二人前作ってくれたからさ、僕だけじゃ食べきれないよ。何処かに行くとしても……食べてからで、良いんじゃない、かな……?」

 

 

そして捻り出された言葉は、あまりにも情けない物だった。

今はそれどころではないだろうに。

僕が今、彼女を繋ぎ止めたいと思って浮かんだ光景は……一緒に、ご飯を食べていた日々の光景だった。

 

 

「…………」

 

 

何でもない日常。

だけど、僕がずっと欲していた日常。

その景色が忘れられなくて……僕は咄嗟に、晩御飯の話をしてしまった。

 

そんな、僕をニーナは──

 

 

「……ふっ」

 

 

呆れる訳でもなく──

 

 

「ふふふ……ふふ、ふっ……」

 

 

笑った。

 

先程までの冷たい表情ではなく、この数日間よく見ていた優しい笑顔で。




文字数増えすぎたので分割。
キリ悪くてごめんね。

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