TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

19 / 25
#19 クラス対抗戦

「『解き放たれし破滅 エルザイン』で直接攻撃」

>解き放たれし破滅 エルザイン(8/12)

 

 

目前、雷を纏った『エルザイン』から衝撃波が放たれた。

 

 

「っ、ぐおぉーっ……!?」

>アキラ:ライフ5→0

 

 

ワイは吹き飛ばされて、実習室のフローリングを転がった。

背後に置いてあった衝撃吸収用のクッションに衝突して、ようやく止まる。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

バトルディスクがカードバトルの終わりを告げた。

ワイの完敗、っちゅーワケや。

 

 

「げほっ、う、ごほっ……!」

 

 

バトルディスクからフィードバックされた衝撃に、まだ身体が痺れとる。

床に這い蹲って、拳で床を押さえつけた。

 

 

勝てへんかった。

負けてもうた。

 

しかも、時の運で負けた訳やない。

ワイの手札は完璧やった。

ニーナのマナ破壊も、高速(クイック)呪文(スペル)による妨害も踏み越えた。

 

なのに、勝てへんかった。

それでも、負けてもうた。

 

悔しい。

悔しい、悔しい悔しい悔しい。

 

 

「……くっ、そぉ」

 

 

身体が痺れとる。

頭の中でモヤモヤとした感情が渦巻く。

整理出来へん。

 

今はただ、負けたってコトを自覚して──

 

 

「……大丈夫?凄い転がり方したけど」

 

 

頭上から声を掛けられた。

ワイは目を細めつつ、声の主を睨んだ。

 

 

「なんや、負け犬を煽りに来たんか」

 

「……?別に、煽るつもりはないけど」

 

 

対戦相手であるニーナが、ワイを物理的に見下してた。

 

 

「……清々したやろ。調子乗って食ってかかってきた奴を打ち負かして」

 

 

少し不快に感じて、そんなコトを口にしてしまう。

情けないな、と自己嫌悪しとると……ニーナがしゃがんでワイと目線を合わせた。

 

 

「そんな事ない」

 

「……嘘、吐かんでええで」

 

「吐いてない。私はただ、強い相手とカードバトルできて楽しかった」

 

「…………あ?」

 

「最初は少しムカってしてたけど、今はただそれだけ。もう怒ってない」

 

「……オマエ、変な奴やのう」

 

 

体の痺れが抜けて、胡座をかく。

 

 

「変かな?」

 

「変や」

 

「変じゃないと思うけど?」

 

「どう考えても変やろ」

 

 

変や。

コイツ、カードバトルを『遊び』やと思っとる。

 

互いの力量を示して、自分の意見を通すための戦い……それがカードバトルや。

己の誇りを、積み上げてきた経験が、相手より上なんやと屈服させる。

そうやろ?

 

でも、そうやない奴もおった。

 

……やっぱ似とる。

強いヤツは皆、『そう』なんか?

カードバトルを楽しむってのは、それだけ重要なんか?

 

 

「はぁ……しょーもな」

 

「……うん?」

 

 

ワイのため息、そして悪態にニーナが首を傾げた。

 

 

「ちゃう、オマエの事やない。こっちの話や、気にせんでええ」

 

 

しょーもないのは……ワイや。

 

 

「…………?」

 

 

頭をガシガシと掻いて、目の前の女に視線を戻す。

 

 

「ホンマ、なんか気ぃ抜けるわ」

 

「……そう?」

 

「おう。認めたるわ……ニーナ、オマエがこのクラスの代表や」

 

「……代表?」

 

 

ニーナが首を傾げた瞬間、ワイは眉を顰めた。

 

 

「クラス対抗戦の代表やろが」

 

「代表……」

 

「このカードバトルはそれを決めるための試合やったんやろ……!?」

 

「あ、そうだったね」

 

 

惚けた様子に、ワイは呆れる。

何でこんな惚けた奴に負けたんやろ。

途端にムカつきが戻ってくる。

 

 

「なんやねん、目的も忘れとって……何考えてカードバトルしとってん」

 

「うん?『楽しいな』って……」

 

「……ワイとのカードバトルがか?」

 

「うん」

 

 

ニーナがほんの少し笑った。

普段の無表情とは違う、ほんの少しの微笑み。

 

それを見た瞬間、ワイは──

 

 

「……フン、そーかいな」

 

 

なんや、無性に顔が熱くなった。

小っ恥ずかしい気持ちになる。

 

せやけど、悪い気はせんかった。

心臓が痛いほど鳴っとる。

 

でも、この感情が何なのか、まだワイは分からんかった。

分かりたくなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「勝った」

 

 

私が指でVサインを作ると、ヒイロが苦笑した。

 

ここは実技室の観客席だ

カードバトルの終了から時間が経過しているからか、人影も少なくなっていた。

 

そんな中、ヒイロとユウキ、ミユだけが私を待っていてくれた。

ちら、とヒイロが私を見た。

 

 

「……どうだった?アキラくんは」

 

 

そんな事を訊いてくる。

 

 

「うん、良かった。デッキも戦術も、面白かった」

 

「……あー、うん。そうだね」

 

 

ヒイロが目を逸らした。

……何か返答をミスしたのだろうか?

 

私は首を傾げる。

アキラがどう……あ、もしかして「強かった」か「弱かった」か気にしているのだろう。

 

まぁ、しかし強さだけで言うなら……このクラスの3番目、というのは納得出来た。

ユウキの方が確実に強いし、ヒイロも100戦したら80戦ぐらいは勝つんじゃないだろうか。

 

『大式神』を主軸にした戦略やデッキ構築は悪くないが、柔軟性がないように感じた。

勝ち筋に対する行動がワンパターンで、読み易い……そんな感じだ。

 

私が後頭部を掻いていると、ユウキが口を開いた。

 

 

「ま、何はともあれ、クラス対抗戦は俺とヒイロ、ニーナの3人で決まりだな」

 

「……うん。でも、アキラ以外に文句のあるクラスメイトは居ないかな?」

 

「へっ、さっきのバトルを見て文句言えるようなヤツはいねーよ。気にすんな」

 

「そっか……残念」

 

「……は?残念?」

 

 

ユウキの言葉を無視して、私は腕を組む。

このクラス内にはもう対戦相手は居ないようだ。

真剣勝負の機会が減った事に、口を「へ」の字にする。

 

しかし、まだ機会はある。

 

 

「クラス対抗戦……」

 

 

言葉を漏らした私に、ヒイロが視線を向けた。

 

 

「流石のニーナも少し不安……かな?」

 

「不安?……え、いや楽しみなだけ」

 

「そ、そっか……」

 

 

私は伸びをして、頷いた。

 

他クラスの実力者と真剣勝負が出来る機会なんて、そうそうない。

賭け(アンティ)ルールでのカードバトルができない(というか店長から禁止されている)今、真剣勝負は中々出来ない。

 

失う物がないカードバトルが楽しくない、という訳ではない。

だが、真剣勝負からしか味わえない『ヒリつき』は確実に存在しているのだ。

 

そう考えれば──

 

 

「……え?なに、ニーナ?僕の顔に何かついてる?」

 

 

ヒイロやユウキとも、真剣勝負がしたい。

バトルするだけなら何時でも出来る……今すぐにでも。

 

だけど……。

 

真剣勝負をするには、舞台と動機が必要だ。

絶対に負けられない、そう思える理由や動機が。

 

 

「ううん、何も」

 

 

私は内心を押し殺して、首を横に振った。

そんな私を見て、ヒイロは不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

少し古びたビルの中。

部屋に入るなり、少女がソファに転がり……ボクに目線を向けた。

 

 

「ね?いい感じに動画撮れたでしょ?お兄ちゃん」

 

「そうだね。バッチリだ。でも、よく学園に潜入できたね」

 

 

ボクは手元の端末に視線を落とす。

そこには少女と少年がカードバトルをしている映像が映っていた。

 

 

「私、そういうの得意だからね〜。褒めてもいいよ?」

 

「すごいすごい」

 

「あー、すぐそうやって誤魔化すんだから」

 

 

視線を上げる。

そこには銀髪、赤目の……手元の動画の少女によく似た、しかし彼女よりも若い……そんな少女が笑顔を浮かべていた。

 

 

「それで、感想は?何かあるかい?」

 

「流石、“ホンモノ”のお姉ちゃんだなぁ……って感じだよね」

 

 

ニコニコと天真爛漫な笑みを浮かべる彼女に、ボクは同意して頷く。

 

 

「それで、姉さんの──

 

「それは無理かな。だってお姉ちゃん、警戒心強いもん。仕込める余裕はないかなぁ」

 

 

そう、少女が口にして──

 

 

「でもねぇ?」

 

 

指を立てた。

 

 

「お姉ちゃんのお友達に植えた“種”は充分に育ってるみたいだったよ」

 

「へぇ?」

 

「そこから経由すれば……私達が直接手を出さなくても、お姉ちゃんにも……ね?」

 

「回りくどいけど、それが確実だね」

 

「うんうん。急がば回れって言うからさぁ……私は知将だよ〜?」

 

 

腕を組んで頷く彼女に、ボクは薄く笑う。

 

 

「負けてられないな……ボクも少しペースを上げようかな」

 

 

左腕に付けたバトルディスクに触れる。

指を這わせて、カードを1枚、捲る。

 

 

「最近は警察も、ICPOも警戒してるみたいだから気を付けてね」

 

 

捲ったカードは──

 

 

「……関係ないよ。ボクが負ける訳ないだろ?」

────────────────

⑪ 永遠に巡る輪廻 エルツヴァイ

レジェンド・クリーチャー・カード

────────────────

 

 

ただのカードではない。

それは触れただけで分かる。

滲むような威圧感。

 

ただの無機物である筈のカードが、存在感を放っていた。

 

ボクはバトルディスクに、カードを戻し……その場を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

アキラとのカードバトル……クラス代表決定戦から、二週間が経過した。

学期末だ。

 

つまらない試験も終えて……普通の学生ならば、長期休暇を前に浮かれて落ち着かなくなる頃。

 

しかし、今、私は別の理由で浮かれていた。

 

冬。

12月中旬。

 

ついに、クラス対抗戦が幕をあけようとしていた。

 

 

「ニーナちゃん、念の為、もう一回説明するね?クラス対抗戦の順、ウチのクラスは……まず今日の午前中にBクラスと。で、明日の午前中にCクラスと対戦だよ」

 

「うん」

 

「あ、それとウチとは関係ないけど。今日の午後にBクラスとCクラスの対戦だね」

 

 

ここはアキラと戦った第三実技室よりも遥かに大きな、第一実技室のロッカールームだ。

 

そこで、ミユが手元のタブレットを見ながら説明する。

今日と明日でA、B、Cの総当たり戦だ。

 

ちなみに、私達はAクラスだ。

 

 

「各々のクラスから3名の代表を選出して、3対3のマッチバトル。2本勝ったチームの勝利だね」

 

「うん、わかった」

 

 

私は頷いて、手元のバトルディスクに触れる。

カードのシャッフル機能を確認して、エクストラ・ゾーンのホルダーを展開する。

 

カードは5枚。

元々入っていた出生不明のカードが3枚と、カードパックから排出したカードが2枚。

それらを確認して、再びバトルディスクに戻す。

 

 

「それじゃあ、頑張ってね!ニーナちゃん、応援してるよ!」

 

 

ミユちゃんが拳を突き上げると、隣にいたユウキが苦笑した。

 

 

「……なんつーかさ。ミユ、前年度よりもすっげーモチベーションあるな。試合に出る訳でもねぇのに」

 

「しっ、ダメだよ、ユウキくん……そんな変な事言うの」

 

 

ヒイロがユウキくんの脇腹を肘で突いた。

それを見て見ぬフリをして、私は足を進めた。

 

ロッカールームを出れば……まるでサッカースタジアムと見紛う程の、大きなバトルスペースが視線に飛び込んできた。

各クラスの生徒、殆どと……学校の教師や、好奇心旺盛な他学年の生徒一部。

 

100人近くの観客が、私達のカードバトルを見に来ていたのだ。

 

 

「……ニーナ」

 

 

無言でその光景を見ていると、心配したヒイロが私の顔を覗き込んで──

 

 

「……緊張してないかな、って聞こうと思ってたけど……うん、大丈夫そうだね」

 

「うん?」

 

「表情で分かるよ」

 

「そうかな」

 

 

そんなに変な顔をしていた覚えはないが。

頬に手で触れる。

 

……いつも通りの無表情だ。

 

まぁ、ヒイロとの付き合いも長い。

この世界に産まれてから……研究施設の奴らを除けば、一緒に居る時間はヒイロが一番長い。

私のこの凝り固まった表情筋からも、感情を読み取る事が出来るのだろう。

 

でも、嫌な気はしない。

 

私は腕を組んで、頷いた。

 

 

「誰に見られても、いつも通りのカードバトルをするだけだから。ヒイロの方こそ、緊張してない?」

 

「まぁ、僕は……他人(ひと)よりは慣れてるからね」

 

 

あぁ、そう言えば。

ヒイロは父親の製薬会社で、お抱えのカードバトラーだった。

重役や幹部社員が観戦する中、カードバトルをする事もあるだろう。

 

それに比べれば、ここに居るのは見知った同級生だけだ。

確かに緊張はしないだろう。

 

そう思っていると、ユウキが声を掛けてきた。

 

 

「おう、二人とも。そろそろ行くぜ」

 

「うん、行くよ」

 

「ん」

 

 

3人、並んでバトルスペースの中央へ向かう。

そこには、他クラスの代表が集まっていた。

 

3対3。

1戦目に出るのは──

 

 

「……僕が先鋒だね」

 

 

こちらからはヒイロ、Bクラスからも1名出てきた。

中央のバトルスペースにヒイロが足を踏み入れる。

 

私とユウキは、側のベンチに座る。

正直、今すぐカードバトルしたいし、私が1戦目に出たかったけれど……後ろの方が強い相手の可能性が高いと聞いて、我慢した。

 

ヒイロが1戦目で、ユウキが2戦目。

私は3戦目だ。

 

 

対面に出てきたBクラスの代表に、目を向ける。

黒髪でツインテールの女の子だ。

学園指定のスカートの丈が、心なしか短い気がする。

 

そんな少し派手目な女の子が、バトルスペースに立ち……ヒイロに視線を向けた。

 

 

「おひさ!ヒイロ君!」

 

「あー……久しぶりだね、ユウナちゃん」

 

 

ユウナ、と呼ばれた少女が腕を組んで笑った。

 

 

「今年は転校生ちゃんが代表になったって聞いてたけど……まさかヒイロ君が一人目で来るなんてね!」

 

「ニーナは強いよ。だから、僕が先鋒なんだ」

 

「ふーん、そうなの?あたしとしては、ヒイロ君と試合出来るし、嬉しいからイイけど!」

 

 

ニコニコとユウナは笑みを浮かべている。

そんな彼女の顔を見て、ヒイロは照れる事なく頷いた。

 

 

「それじゃあ、そろそろ始めよっか」

 

「いいよ!でも……なんていうか、去年より初心じゃなくなったね」

 

「初心?」

 

「うん、女慣れしたって言うか……恋人でも出来た?ヒイロ君」

 

「い、いや……居ないけど」

 

 

ヒイロが面倒そうな表情を浮かべて、私とユウキを一瞥した。

心底めんどくさそうな顔だ。

 

残念だが、代わってやる事は出来ない。

 

しかし、ユウナはヒイロの視線を追い……彼女も私を一瞥した。

 

 

「ふぅん?なるほどね」

 

「……何か、勘違いしてないかな」

 

「どうかなー?」

 

「……もう、カードバトルしよっか」

 

 

ヒイロがバトルディスクを構えれば──

 

 

「うんうん、良いところ見せたいもんね?」

 

「……いや、だからそうじゃないけど」

 

 

ユウナもバトルディスクを構えた。

そして、二つのバトルディスクを光のラインが通り……リンクする。

 

バトルディスクが展開する。

カードを設置できるプレートが突き出して、デッキの封が解かれる。

 

そして──

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

クラス対抗戦、その火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ヒイロのデッキは妖精(フェアリー)・トークンを利用したコンボデッキだ。

対して、ユウナのデッキは……小型クリーチャー『荒野のハイエナ』を使った速攻(アグロ)デッキだった。

 

────────────────

②荒野のハイエナ

クリーチャー・カード

種族:ビースト

召喚時:デッキから「荒野のハイエナ」を1枚、手札に加える。

パワー3/タフネス2

────────────────

 

前回、私が試合した吉祥院 アキラの『大式神』クリーチャーのような名称指定のサーチ効果。

しかし、幾つか違う点がある。

まず、後続用意が『召喚時』効果だということ。

タイムラグがないため、4マナあればプレイ直後にサーチした2枚目をプレイできる。

つまり、2連続で『荒野のハイエナ』を召喚出来るのだ。

 

そして同名カードである点。

『大式神』と比べて、その召喚時効果を活かせる回数が少ないという事だ。

長期戦には向かないだろう。

 

だが、これを──

 

────────────────

①魂喰いハゲワシ

クリーチャー・カード

種族:ビースト

永続:破壊されたクリーチャーは墓場に置かれず、デッキの一番下に置く。

パワー2/タフネス1

────────────────

 

『魂喰いハゲワシ』によるデッキ回収効果で、何度も使い回すのならば、話は別だ。

 

毎ターン小型クリーチャーである『荒野のハイエナ』を繰り出しつつ、低コストのクリーチャーを連打する。

 

所謂、ウィニーと呼ばれるデッキだ。

行動が遅いコンボデッキ相手に、有利なデッキ……天敵と言って良いだろう。

 

 

そんなデッキを相手に、ヒイロが選んだのは──

 

 

「僕はフェアリー・トークンで『魂喰いハゲワシ』を攻撃!」

>フェアリー・トークン(1/1)

 

「っ、やるね!ヒイロ君……!」

>魂喰いハゲワシ(2/1)→(2/0)

 

 

序盤からフェアリー・トークンを生成し、迎撃する事だった。

 

『妖精姫 エルザ』を使ったワン・ショット・キルには、手札が必要であり、リソースの温存は必須だ。

しかし、ヒイロは1ターン目から、コンボの成立を放棄してフェアリー・トークンによる盤面の奪い合いを狙った。

 

ウィニーデッキであるユウナのデッキに、真正面からぶつかりに行ったのだ。

 

 

上手い。

その方針に気付いた瞬間、私は思わず頷いてしまった。

 

 

ヒイロのデッキはコンボデッキだが、確実にコンボを成立させなければ勝てない訳ではない。

確かに、私のデッキのような『コントロール』軸には全体除去(AOE)を撃たれて時間を稼がれ、大型クリーチャーで踏まれるようなデッキだが……。

 

今回の相手はウィニー。

小型クリーチャーを大量に搭載した速攻(アグロ)デッキだ。

序盤、中盤までは強烈な攻めを繰り出せるが、ターンが伸びるにつれてリソースが切れて息切れするだろう。

 

そして終盤になれば……デッキの構築上、デッキトップでの勝負では、ヒイロが圧倒的に有利だ。

 

ユウナのデッキを詳しくは知らないが、終盤、互いに手札が切れた時……小型のクリーチャーを引く確率は高いだろう。

終盤、たとえマナが大量にあったとしても、小型クリーチャー1枚しか手札にないならば……その動きは弱くなる。

 

対して、ヒイロのデッキはドロー効果を持つカードが多い。

『光の開花』による手札枚数をフェアリー・トークンに変換する効果の為に、手札枚数を維持する必要があるからだ。

 

実際、その読みは正しかった。

ヒイロは終盤、余ったマナをドローに変換しつつ、除去を撃つ事に成功していた。

 

序盤を勝負としている速攻(アグロ)を受けきられ、息切れをしているユウナに──

 

 

「『剣導のスプライト』で直接攻撃!」

>剣導のスプライト(6/4)

 

「きゃあっ!?」

>ユウナ:ライフ5→0

 

 

前ターン取り損ねたクリーチャーによる直接攻撃で、決着はついた。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

バトルディスクがカードバトルの決着を告げた。

直後、観客からの歓声が聞こえた。

 

そのまま、こちらに戻ってくる……と思ったが、ヒイロは地面に転がったユウナの方へ向かった。

 

 

「たはは……今回も負けちゃった」

 

「でも、良い勝負だったよ」

 

 

ヒイロが手を伸ばして、ユウナを起き上がらせた。

 

 

「えー?ずっと凌がれてただけじゃーん」

 

「結構、冷や冷やしてたよ。僕の方は」

 

「ふぅん……ま、お世辞でも受け取っとこうかなー」

 

 

……なんだか仲が良さそうだ。

そんなユウナと握手をして、ヒイロが私達の方へ帰ってきた。

 

 

「おう!まずは一勝だな!」

 

「うん、勝てて良かったよ」

 

 

にへら、と安堵の笑みを浮かべるヒイロが、私に視線を向けた。

 

 

「……ど、どうだった?」

 

 

え?

何で感想を求められてるの?

私は目を瞬いて、本音を口にする。

 

 

「コンボデッキなのに、やりたい事を捨てて受けに徹したね」

 

「うん……あ、ダメだった?」

 

「ううん。明確な勝ち筋を見据えるのは大事だけど、相手に合わせて柔軟に立ち回れる方が偉いと思う」

 

「……だよね?」

 

「うん。良い判断だった、前より強くなった」

 

「……ほっ」

 

 

安堵したような顔をしたヒイロ……とは、対照的に、私は口を尖らせた。

 

 

「でも……いつの間に、そんなに強くなったの?」

 

「え?」

 

「どこかで強いカードバトラーとでも密会してるの?私には内緒で」

 

 

今迄の自分の戦法を捨ててまで、ここまで柔軟な思考を得るには……間違いなく、『誰か』の影響がある筈だ。

私に隠れてコッソリ、闇カードバトルに勤しんでいるのか?

それとも父親の会社関係ですっごく強いカードバトラーと戦ったのか?

 

兎に角、自分より格上のカードバトラーと戦ったに違いない。

 

ずるい。

 

 

「え?あ、いや、そんな事してないよ……?」

 

「嘘。自力だけで、急にこんなに強くなれる筈がない」

 

「え、えぇ……?でも思い当たる節なんて……あっ」

 

 

ヒイロが何かに気付いたような顔をして、一瞬、私の顔を見た。

目を細める。

 

 

「やっぱり隠れて、強いカードバトラーとバトルしてた?ずるい、私も誘って欲しかった」

 

「あー……いや、そもそもニーナに隠れてカードバトルしてないし……その人とニーナは戦えないんじゃないかなぁ……って」

 

 

言い難い顔で、意味の分からない返答が返ってきた。

思わず顔を顰めて──

 

 

「次は俺の番だな」

 

 

Bクラスの対戦相手が、既にバトルスペースに来ていた。

 

 

「むっ」

 

「はは……」

 

 

安堵の息を漏らしたヒイロを横目に、対戦相手へ目を向ける。

角刈りの筋肉質な男だ。

まぁ取り敢えず、この話は後にするとして……今は次の対戦に集中すべきか。

 

ユウキがバトルスペースに向かい、足を向けた。

 

……あ。

 

 

「ヒイロ、ここでユウキが勝ったら2本先取した事になって……私のバトルが行われなくなるとか……そういうのある?」

 

「え?いや、大丈夫だよ。クラス対抗戦って、学校の授業の一環だから。例えクラス全体の勝敗が決まっても、生徒は全員カードバトルしないといけないんだ」

 

「……うん。良かった。なら、安心して応援できる」

 

 

私が安堵して頷くと、ヒイロがじとっとした目を私に向けた。

 

 

「……ニーナ。もしかして、自分が試合できないなら、ユウキくんに負けて欲しかったの?」

 

「え、いや。そんなこと、ない……うん」

 

 

誤魔化すように目を逸らせば……ユウキが対戦相手の男とバトルディスクを構えあっていた。

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

多くの言葉は語らず、即座にカードバトルが始まった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「俺は手札から、高速(クイック)呪文(スペル)超進化(エボリューション)!』を発動!」

>ユウキ:マナ2→0

>ユウキ:手札5→4

────────────────

超進化(エボリューション)

高速呪文カード

自分の場のクリーチャー1体を選択する。

選択したクリーチャーより2つコストが高く、種族が同一のクリーチャーを、エクストラ・ゾーンから重ねて進化する。

────────────────

 

「俺の『輝く稲妻』を避けて、進化を!?」

 

「対象は俺の場の『ブレイジング・ドラゴン』だ!」

 

 

ユウキが発動した呪文(スペル)により、彼の切り札が進化する。

身体がひび割れるように光り、翼が大きくなり、牙や爪が輝く。

 

より強靭な姿となって、空を翔ける。

 

 

「来い!『ブレイジング・(バスター)・ドラゴン』!」

────────────────

⑩ブレイジング・(バスター)・ドラゴン

エクストラ・クリーチャー・カード

種族:ドラゴン

進化元:ブレイジング・ドラゴン

速攻(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)

進化時:相手の場のカードを2枚まで、破壊する。

パワー8/タフネス7

────────────────

 

 

まるで赤く熱せられた鉄のように、光り輝くドラゴンが姿を現した。

 

 

「そして、『ブレイジング・(バスター)・ドラゴン』の効果!相手の場のカードを2枚まで破壊できる!対象は……クリーチャー『守護ゴーレム』と置物(オーナメント)『巨大鏡の防壁』だ!」

 

「なっ──

 

 

閃光が走り、対戦相手の防衛網を突き崩した。

 

 

「これでお前を守る盾はもうない!『ブレイジング・(バスター)・ドラゴン』で直接攻撃するぜ!」

>ブレイジング・(バスター)・ドラゴン(8/7)

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

>ゴンゾー:ライフ8→0

 

 

対戦相手が吹っ飛んで、地面を転がった。

先程の、ユウナの時よりもかなり大袈裟に転がったな。

大丈夫か心配するレベルだ。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

まぁ、この世界のカードバトラーの肉体強度はすごい。

それに何か彼、ムキムキだし。

 

多分、大丈夫だろう。

 

 

直後、先程よりも大きな歓声が沸いた。

まぁ、速攻(アグロ)デッキを受け切るような地味なバトルよりも、大型の進化クリーチャーによる強烈な一撃の方が観客ウケは良いのだろう。

 

私はどちらかというと前者の方が好きだが。

まぁ、後者も嫌いではないが……やりたい事をぶつけ合うバトルよりも、相手の嫌がる事をぶつけ合うバトルの方が好きなのだ。

 

転がった対戦相手をユウナが引き摺って、自陣に引き戻しているのを横目に、ユウキが私達の元に戻ってきた。

 

 

「勝ったぜ!」

 

「うん、お疲れ」

 

「へへ」

 

 

私が労うと、ユウキは鼻を擦った。

彼が気恥ずかしい時にやる癖だ。

 

……ふと、ヒイロの方を見る。

何故か、呆けたようにバトルスペースを見ていた。

先程まで、ユウキが戦っていた場所を──

 

 

「ヒイロ?」

 

「え、あっ……」

 

 

私が呼ぶと慌てて、こちらを見た。

そんな挙動不審なヒイロに、ユウキが首を傾げた。

 

 

「ん?どうした、ヒイロ」

 

「いや……勝つと思ってたよ。ユウキくん」

 

「あ?まぁな?」

 

 

何かヒイロは誤魔化すように、そう言った。

先程の試合に、何か思う所があるのだろうか?

 

今回、ユウキは終始優勢だった。

マナを加速し、キーカードを手札に加えて、相手の除去を避けて、防御カードを進化クリーチャーで踏み抜いた。

それだけの試合だ。

 

腕を組んで、頷く。

 

 

「おっ、Bクラスの方が準備完了したようだぜ」

 

 

直後、ユウキから声をかけられた。

……やっとカードバトルできるのか。

 

先程の疑問や心配を他所に置いて、私は高鳴る気持ちのままベンチから立った。

 

 

「頑張ってね、ニーナ」

 

「勿論」

 

 

ヒイロに向かってサムズアップして、ユウキの方へ視線を向ける。

 

 

「負けたら学食、奢ってくれよ」

 

「いいよ。でも、勝ったらユウキが奢ってね」

 

「へっ、割に合わねぇ賭けだけど……いいぜ」

 

 

そのまま、私はバトルスペースへ向かった。

衝撃吸収機能の付いた床を踏みしめて、Bクラスの3番目と向き合う。

 

先程までの代表達とは異なる、少し陰気な雰囲気をした少女が、そこに居た。

前髪は目のすぐ上まで伸びている。

そして、自信なさげに視線は揺れている。

 

 

「は、初めまして……」

 

「む、初めまして?」

 

 

初対面の挨拶をして来たので、返す。

そして──

 

 

「…………」

 

「…………?」

 

 

無言。

 

 

「「…………」」

 

 

何も喋らない。

 

 

「「…………」」

 

 

互いに無言のまま向かい合い、気まずい思いを──

 

あ、これ私から話しかけた方が良いのか。

 

 

「私の名前はニーナ、斉木 ニーナ。よろしく」

 

「え?あ、私は……緑川 エノンです……よ、よろしくお願いしまつ、します!」

 

「うん、よろしく。エノン」

 

 

あたふたとしているエノンに、手を伸ばす。

握手しようと思って、だ。

 

 

「ふぇっ!?いきなり呼び捨てなんですか……!?」

 

「あ、ごめん。さん付けの方がいい?」

 

「え、いや、いやいや、嫌じゃないです!むしろ、呼び捨てでお呼び下さい……!」

 

 

恐る恐る伸ばして来た手を握って、握手する。

陰気で内気っぽいが、悪い子ではなさそうだ。

 

 

「ふ、ふへへ……すべすべ……」

 

 

……う、うん。

多分、悪い子ではないだろう。

うん。

 

握手を終えた私は、互いにバトルディスクを用意して向き合う。

 

そして、エノンが私に目を向けた。

 

 

「もうBクラスは2敗しちゃったから……ええと、もうこれに私が勝ってもクラスは負けなんですけど……ちゃ、ちゃんとバトルはしてくださいね?」

 

「うん、最初(ハナ)っからその気だけど──

 

 

無意識のうちの発言だったのだろう。

だが、彼女の言葉の節には、自身の勝ちを疑わない自信を感じられた。

 

 

「私になら『勝てる』ってこと?」

 

「え、あ、そうじゃなくてですね……えっと、その……怒りました?」

 

「ううん。寧ろ、この勝負に手を抜かないって分かって安心した」

 

 

そう、安心したのだ。

気弱に見える。

内気に見える。

 

 

「よかったぁ……私、いらない事を言っちゃう癖があるんです……すみません」

 

「いいよ、気にしてない」

 

 

だが、彼女は間違いなくBクラスの代表。

クラスで最も強いカードバトラーの1人なのだ。

 

その謙遜する姿勢では隠しきれない、数多の勝利に裏打ちされた自信に……私は思わず頬を緩めた。

 

そして──

 

 

「じゃあ、しよっか。真剣勝負」

 

「え、真剣勝負……?うん……まぁ、そうですね。真剣勝負ですね……はい、お願いしますぅ……」

 

 

バトルディスクを構えた。

光のラインが、私と彼女のバトルディスクを繋ぐ。

 

緊張感と高揚。

熱く煮えたぎるような闘争心を、冷静に研ぎ澄ます。

張り詰めた水のような感情が、表面張力のように満ちて……それでも、表には出さない。

 

この感覚が、私は堪らなく好きだ。

 

そして──

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

本日三度目。

カードバトルの開始を告げる声が響いた。

 

 

「あっ、私が先攻ですね?1枚引いて、1枚マナへ置きます!」

>エノン:ターン1

>エノン:手札5→5

>エノン:マナゾーン0→1

 

 

さて、まずは1ターン目。

ここは様子見を──

 

 

「てっ、手札から『笛吹きゴブリン』を召喚します!」

>エノン:手札5→4

>エノン:マナ1→0

 

 

むっ。

序盤からクリーチャーを?

というか……ゴブリン?

 

緑色の肌をした小型の亜人、ゴブリン。

それが笛を持って姿を現した。

 

 

「『笛吹きゴブリン』の召喚時効果、です!手札からコスト1の『ゴブリン』クリーチャーを場に出します!」

>エノン:手札4→3

────────────────

①笛吹きゴブリン

クリーチャー・カード

種族:ゴブリン

召喚時:手札のコスト1の種族「ゴブリン」クリーチャーを1体場に出す。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

「1ターン目から2体も……」

 

 

種族シナジーを活かした展開?

だが、そんな事をすれば手札が大きく減る。

長引けば、息切れは必至だ。

 

そう、『長引けば』だ。

 

 

「えっと……場にっ、出すのは『血走ったゴブリン』です!」

────────────────

①血走ったゴブリン

クリーチャー・カード

種族:ゴブリン

速攻(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

場に出たのは『速攻』持ちのコスト1クリーチャー。

やはり、このデッキは──

 

 

「ではっ、『血走ったゴブリン』で相手プレイヤーを攻撃します!」

>血走ったゴブリン(1/1)

 

「っ!」

>ニーナ:ライフ20→19

 

 

先攻1ターン目からライフを削ってくるクリーチャー。

手札を複数枚消費してもクリーチャーを並べるプレイング。

そして、種族『ゴブリン』シナジーの活用。

 

 

「こ、これで私はターン終了ですぅ」

 

 

間違いない。

この、エノンのデッキも……速攻(アグロ)デッキだ。

 

それも、種族『ゴブリン』に特化した種族シナジーを活かした速攻(アグロ)

 

WoM(ワールドオブマジック)』に於いて、汎用な補助カードと、種族を限定する補助カードならば後者の方が強力な事が多い。

限定的なカードは、使い道が限定的であるが故に強力なのだ。

 

故に、ヒイロやユウキのように1つの種族に特化したデッキを組み易い。

 

 

目の前の彼女、エノンは……『ゴブリン』を選んだのだ。

 

 

人は見た目によらないな。

いや、性格とデッキタイプは一致しないと言うべきか。

 

人畜無害そうな振る舞いから、強烈なビートダウンを構えている。

私の首筋を狙う、牙のように。

 

 

「……いいね。私のターン」

>ニーナ:ターン1

 

 

恐らく、彼女のデッキには火力呪文や、全体バフ、速攻クリーチャー等がフィニッシャーとして控えているだろう。

ライフを削られれば……不意の一撃で決着が着く事もあり得る。

 

いいや、大いに想定すべきだ。

序盤、ライフを守らなければ、中盤以降にリーサルを危惧して、私も見えない攻撃から防御しなければならない。

そうなれば、私自身の動きが鈍り、速攻(アグロ)に猶予ターンを与えてしまう事になる。

 

やはり、速攻(アグロ)相手に先行を取られたのは拙い。

拙いが……依然、問題はない。

 

 

「カードを2枚引いて、1枚をマナに置く」

>ニーナ:手札5→6

>ニーナ:マナゾーン0→1

 

 

この勝負、勝敗でクラス対抗戦の勝ち負けは決まらないとしても……確実に、勝つ。

勝ちにいかなければ、無作法だ。

 

緊迫した空気を肌に感じる。

 

私はカードに、指を掛けた。

 




投稿遅くなってごめんね。
毎週投稿に戻れるよう頑張ります。

カードバトル要素を

  • 増やした方がいい
  • このままでいい
  • 減らして欲しい
  • (アンケート結果だけ見たい)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。