TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#2 レアカードハンター(笑)

私がホームレスになってから三日後。

夜、路地裏。

 

私はバトルディスクを構え、カードバトラーと対峙していた。

 

 

「『(しかばね)集うタイラント』で相手プレイヤーを攻撃」

 

 

私の指示と同時に、目の前のクリーチャーが動き出す。

様々な生物の骨で組み上げられた巨大な獣だ。

牛や鳥……鹿や蛇、見覚えのある骨が集い、見た事もないバケモノを形作っている。

 

その腕が振り上げられた。

 

 

「わ、ま、待てっ──

 

 

目前のカードバトラーが悲鳴をあげる。

黒い学生服を着た、人相の悪い男。

カードバトルを開始する前は、意気揚々としていたが……今はどうだ?

 

バトル中少しずつ笑みを消し、今はただ怯えている。

 

だが、まぁ怯えたとしても。

「待て」と言われても。

リーサルを逃すような私ではない。

 

無数の骨で出来た巨大な腕……『屍集うタイラント』の右腕が、地面に叩き付けられた。

 

 

「ぐわぁあーっ!?」

 

 

男は吹き飛ばされて、壁にぶつかった。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

相手のライフが0になり、バトルディスクが待機状態へと自動で戻る。

 

 

「……私の勝ち」

 

 

バトルディスクによって具現化されたクリーチャーに質量はない。

だが、対戦相手が受けたダメージをフィードバックする。

敗北したカードバトラーは、意識が朦朧となる事も多い。

 

それはまぁ、負け方次第だが。

先程のように残りライフを遥かに越えたダメージ……オーバーキルをされた時の方が精神ダメージも多い気がする。

 

だから、私はこうして大型クリーチャーでトドメを刺す事に拘ってる。

この世界の住人はカードゲームで負けたら素直に勝者へ従うが、自暴自棄になって直接的な暴力に振るう人間もいるかも……なんて杞憂をしている。

 

悪の組織の親玉すらカードゲームで抵抗するし、戦争もカードゲームでやってるのだから、直接的な暴力を振るう奴は居ないだろうが。

それでも警戒してしまうのは……うん、前世の記憶の所為だな。

 

 

「……それじゃあ、賭け(アンティ)ルールに従って、貴方のカードを貰うから」

 

「う……うぅ……」

 

 

呻き声をあげる男のバトルディスクに触れて、デッキからカードを抜く。

彼のデッキの中で最も価値のある(レアな)カード……これか、『ホワイト・グリフォン』。

 

弱くはないが、強くもない。

私のデッキには不要なカードだ。

 

 

「……これを売れば、三日分のホテル代にはなるかな?」

 

 

気を失った男から目を逸らして、懐にカードを入れる。

裸の状態でコートの内ポケットに入れたが、この世界……というか『WoM(ワールドオブマジック)』のカードは異様に固いから問題ない。

手で破れないし、火で焼いても燃えない。

どういう材質で出来ているか、不思議だ。

そんなのだから、カードの状態なんか気にしなくていい……という訳だ。

 

閑話休題。

 

ホームレスになってから、私はこうして賭け(アンティ)ルールで辻斬りカードバトルをしている。

柄の悪そうな奴を相手に、賭け(アンティ)を吹っかけているのだ。

相手の対価は金銭か、レアカード。

私の対価は『なんでも』だ。

 

私に勝ったら『なんでも』するし『なんでも』渡すと言えば、彼らは意気揚々とカードバトルを承諾する。

チョロい。

 

しかし、研究施設で猛者のデッキや戦略を模倣したマシン相手に勝ち続けた私に対して、そこらの一般カードバトラーでは相手にならない。

割りのいい話だ。

 

現金を手に入れた時はそのまま使っているが、レアカードを賭け(アンティ)に出された時はカードショップで金銭に変える手間がある。

可能であれば現金がいいが、大体はデッキ内のレアカードの価値の方が財布の中身より多い。

 

この世界のありとあらゆる事が『WoM(ワールドオブマジック)』の勝負で決まるのだから、それだけ強いカードの価値は高くなる。

カードショップに行けば、前世では考えられないぐらいの価格で売買されている。

 

そんな訳で金券(レアカード)を手に入れた私は、今の拠点へ戻る事にした。

拠点、といっても普通のビジネスホテルだ。

一泊7,000円、シャワー付き、冷蔵庫もある。

食事はなし。

 

巻き上げたレアカードを売り払う事で、人並みの生活が出来ている。

賭け(アンティ)ルール、様様(さまさま)だ。

 

 

「帰りにコンビニで、明日の朝ごはんでも買おうかな」

 

 

ポツリと言葉を漏らして、路地裏から──

 

 

「ま、待って!」

 

 

……背後から声を掛けられた。

しかし対戦相手は気を失っている筈だ。

 

それなら誰か。

 

この路地裏は行き止まりじゃない。

だから、向かいから来た誰か、だ。

 

振り返ると、茶髪で癖っ毛の男……少年?

青年と少年の中間みたいなヤツが立っていた。

中学生……いや、ギリギリ高校生か?

 

 

「……何か用?」

 

「……っ」

 

 

私が声をかけると、少し警戒するような仕草をした。

……なんだか、気弱そうだ。

 

直後、彼は何かを振り払うように首を振り、私へ視線を向けた。

 

 

「き、君が最近この辺で賭け(アンティ)ルールでカードバトルをしてる……レアカードハンター、で間違いないですか!?」

 

「……れあかーどはんたー?まぁ、多分そうだけど」

 

 

よく分からないが、多分、私の事だ。

別にレアカードが欲しい訳じゃなくて、現金でも嬉しいのだが。

 

 

「やっぱり……ユウキ君にも知らせた方がいいかな」

 

 

ボソボソと小声で独り言を呟く彼に、首を傾げる。

ユウキ……?

どこかで聞いた覚えが……組織の首領を倒した赤髪の少年の名前か?

それが何故、このタイミングで出てくる?

 

不思議に思っていると、目の前の茶髪が揺れた。

 

 

「奪ったレアカードをどうしてるんですか……?」

 

「……え?フツーに売ってるけど」

 

「なっ──

 

「だって、別に必要じゃないし」

 

 

私の返答に、彼は信じられない物を見るような目で私を見た。

……違法性はない筈だが、何を驚いているのだろう。

 

少しずつ、彼の目が険しくなる。

 

 

「カードバトラーの魂を……なんで、そんな」

 

 

確かに『WoM(ワールドオブマジック)』を重要視しているこの世界で、カードの価値は高い。

相棒とか魂とか言ってる奴もいる。

 

そんな魂ぃ〜のカードを売られれば……まぁ、確かにショックは受けるだろう。

よく分かんない感情だが、納得はできる。

 

だが──

 

 

「……それ、私に何か関係ある?ちゃんとしたルールの結果、手に入れた私のカードだし。負ける奴が悪いと思うけど?」

 

「それは……」

 

 

賭け(アンティ)ルールで奪ったのだから、今は私のものだ。

どう扱おうと部外者には関係ないだろう。

 

直後、彼は私を睨んだ。

 

 

「……それなら、僕は君に賭け(アンティ)ルールでバトルを申し込む!」

 

 

丁寧な口調も捨てて、私に視線を向けた。

そして、バトルディスクを構えた姿を見て、私は耳の裏を掻く。

 

 

「バトル?……あー、まぁ、別にいいけど」

 

 

先程の男と合わせて2連戦だ。

多少の疲弊はあるが……折角、モチベーションの高いカードバトラーが居るのだ。

獲物を探すのも大変だし、対戦しないと損だ。

 

 

「……僕が勝ったら、もう賭け(アンティ)ルールをやめるんだ。それが僕の求める条件だ」

 

 

……目を細める。

何で私がそんなリスクのあるカードバトルをしなくちゃならないんだ。

 

身分もない。

戸籍もない。

職も家もない。

ないない尽くしだ。

 

そんな私が生きるためには、賭け(アンティ)ルールが必要なのだ。

 

だから、この条件は受け入れ難い。

 

だが──

 

 

「うん、いいよ」

 

 

不利な条件を背負わされたからと言って、逃げたくはない。

要するに負けなければ良いだけの話なのだ。

負けた時の事を考えて勝負から逃げるのは、己に自信がないと言っているようなものだし。

 

これは私の誇り(プライド)に関わる話だ。

……うん、ただ負けず嫌いなだけかも。

 

視線を茶髪の少年へ目を向ける。

 

 

「で?私が勝ったら?」

 

「……その時は、僕のデッキから好きなカードを、何枚でも持って行っていいよ」

 

「……ふーん、そう。いいよ、乗った」

 

 

私もバトルディスクを展開する。

距離を少し取れば、彼のバトルディスクと私のバトルディスクが疎通する。

 

……あ、そうだ。

 

 

「……名前は?」

 

「え?」

 

「貴方の名前。まだ聞いてないけど」

 

 

私の言葉に彼は困惑の表情を浮かべた。

……カードで対戦する前に、互いに自己紹介するのは普通だと思うけど。

 

それだけ、彼は私に不信感を抱いているのか。

そう思っていると、彼が口を開いた。

 

 

「……桐谷。桐谷 ヒイロだよ」

 

「そう」

 

 

バトルディスクに装着されたデッキが自動でシャッフルされる。

カードの混ざる音が響く。

 

 

「……君の名前は?」

 

「私?私は──

 

 

私に名前はない。

強いて言うならば『217番』が名前だ。

だが、それでは不便だ。

だから、ビジネスホテルに泊まる際に、私は名前を考えていた。

安直な名付けだが──

 

 

「私の名前は217(ニーナ)。よろしく」

 

 

デッキのシャッフルが完了した。

バトルディスクの疎通も完了した。

 

ヒイロへ向き合い、バトルディスクを構える。

デッキからカードが5枚弾き出されて、私の手に収まる。

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

ディスクから無機質な声が響いた。

カードバトルが始まる。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

バトルディスクが先攻後攻をランダムに割り振る。

先攻は……私か。

 

 

「私のターン」

>ニーナ:ターン1

 

 

デッキからカードを1枚引き、手札へ加える。

>ニーナ:手札5→6

 

 

「手札を1枚、マナゾーンに置く」

 

 

私は手札からカードを1枚裏側でバトルディスクに配置する。

>ニーナ:手札6→5

>ニーナ:マナゾーン0→1

 

WoM(ワールドオブマジック)』はコストを支払ってカードをプレイするタイプのカードゲームだ。

お互いにターン開始時にカードを1枚引き、1枚までマナゾーンに裏側で配置する事ができる。

そして、マナゾーンに配置したカードの数まで毎ターンマナ(コスト)が生み出される。

マナはカードをプレイする際に消費する。

 

つまり、マナゾーンに配置したカードがマナを毎ターン生み出し、そのマナを消費する事で生き物(クリーチャー)を召喚したり、呪文(スペル)を撃つ事が出来る。

 

そして、お互いのプレイヤーに配られた20ポイントのライフを削り合い、先に0ポイントになった方が敗北となる。

 

 

「私はこのまま、ターンを終了」

 

 

ターンの開始時にデッキからカードを1枚引く。

マナゾーンにカードを1枚置くか、置かないか選ぶ。

マナゾーンに置かれたカードの枚数だけマナが生み出され、それをコストにカードをプレイする。

そして、ターンを相手に受け渡す。

これが基本的な1ターンの流れだ。

 

 

「僕のターンだ!」

>ヒイロ:ターン1

 

 

対戦相手のターンが始まる。

ヒイロは後攻……後攻の1ターン目はカードを2枚引ける。

>ヒイロ:手札5→7

 

 

「僕は手札を1枚、マナゾーンに置くよ」

>ヒイロ:手札7→6

>ヒイロ:マナゾーン0→1

 

 

初手は取り敢えずマナゾーンにカードを置いた。

これは定石だ。

マナがなければカードをプレイする事が出来ないからだ。

 

 

「そして、手札から呪文(スペル)カード『探索』を発動!」

>ヒイロ:手札6→5

>ヒイロ:マナ1→0

 

 

ヒイロが手札からカードを表向きに、ディスクへ配置した。

……なるほど、1ターン目から動くタイプのデッキか。

 

 

「『探索』の効果で、僕はデッキの上からカードを3枚確認し……任意の順番で戻す事ができる」

────────────────

①探索

呪文カード

デッキの上からカードを3枚確認する。

その後、任意の順番で戻す。

────────────────

 

 

……ふむ。

バトルディスクに表示される相手のプレイしたカード効果を確認する。

 

デッキのトップ操作か。

……直接的な手札・ボードの優位性(アドバンテージ)を稼がないカードだ。

 

WoM(ワールドオブマジック)』は自ターン開始時に手札が1枚増えるが、基本的には1枚マナゾーンに置くのが定石。

つまり、1枚増えて、1枚減る。

ここまでは増減なし。

しかし、その上で呪文カードをプレイしたり、クリーチャーを召喚すれば手札が1枚減ってしまう。

 

手札の数は状況を打開する選択肢に繋がる。

手札を減らせば減らすほど、手数が減る。

 

だから、私は1ターン目にカードをプレイしなかった。

手札が減るのを嫌ったからだ。

 

だが、ヒイロは1コストのカードをプレイした。

手札を増やす訳でもなく、クリーチャーを召喚してボード・アドバンテージを得る為でもなく……ただ、自身のデッキ上のカードを操作するために、だ。

 

1ターン目にカードをプレイするデッキの多くは、素早く相手プレイヤーの体力を削る速攻(アグロ)デッキの場合が多い。

だが、その場合はクリーチャーを召喚したり、直接ダメージを与えるカードを使う場合が多い。

 

彼が使ったのはデッキトップの操作カード、『探索』。

彼のデッキは純粋な速攻(アグロ)ではない可能性が高い。

 

それともただ、デッキ構築が下手なだけか。

結論を出すにはまだ早い。

もう少し、様子を見るか。

 

 

「僕はこのままターンを終了する!」

 

「なら、私のターン」

>ニーナ:ターン2

>ニーナ:手札5→6

 

 

私は手札を確認し、1枚をマナゾーンに置いた。

 

 

「手札を1枚マナへ」

>ニーナ:手札6→5

>ニーナ:マナゾーン1→2

 

 

手札は選択肢だ。

現在の状況から、次ターン……その次ターンを見越して行動する必要があり……相手の戦法を読めてない今、手札の消費は避けたい。

 

 

「そして、私は手札から呪文(スペル)、『無謀な契約』を発動する」

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ2→0

────────────────

②無謀な契約

呪文カード

手札を1枚破棄する。

その後、カードを2枚引く。

────────────────

 

「手札からカードを1枚、墓場(トラッシュ)に捨てる。そして、カードを2枚引く」

>ニーナ:手札4→3

>ニーナ:手札3→5

 

 

 

つまり、呪文(スペル)本体1枚と手札1枚を、2枚に変換するカード。

2マナを支払って、手札を増やしも減らしもしない手札交換カードだ。

 

これもアドバンテージを直接稼がないカード。

だが、『探索』と違って手札の消費もない。

 

普通のデッキならばマナを支払ってもアドバンテージを稼げないカードは、敬遠されデッキに採用され難い。

純粋に2マナのクリーチャーを展開して、相手プレイヤーを殴った方がアドバンテージを稼ぎ易いからだ。

 

……普通のデッキならば、だ。

私もヒイロも、普通のデッキタイプではない……という事が分かる。

 

目前のヒイロの顔を見る。

警戒するような視線……少なくとも、私のデッキタイプを読もうとする意思はあるようだ。

デッキ構築が下手かもしれない……なんて邪推は撤回しよう。

 

 

「私はターンを終了する」

 

「僕のターン。カードを1枚引いて、1枚をマナゾーンへ」

>ヒイロ:ターン2

>ヒイロ:手札5→5

>ヒイロ:マナゾーン1→2

 

 

マナは毎ターン、マナゾーンの枚数まで使用できる。

つまり、ヒイロは1ターン目に1マナ使用したが、このターンは2マナ使用できるという事だ。

だからこそ、序盤はマナゾーンへカードを配置すべきなのだ。

マナゾーンへの供給を怠れば、ゲーム終盤までに使用できるマナの総量に大きな差が付く。

 

 

「そして、『深林の探究者』を召喚!」

>ヒイロ:手札5→4

>ヒイロ:マナ2→0

────────────────

②深林の探究者

クリーチャー・カード

種族:エルフ

召喚時:カードを1枚引く。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

場に薄緑色のマントを着た、登山者のような格好をしたエルフが現れた。

 

 

「召喚時効果で、僕はカードを1枚引く」

>ヒイロ:手札4→5

 

 

なるほど、2コストのドロー効果持ち(キャントリップ)クリーチャーか。

クリーチャーを展開しながら、オマケでドローする事で手札を消費しない便利なカードだ。

……代わりに能力値(ステータス)は貧弱だが。

 

クリーチャー・カードは攻撃力(パワー)体力(タフネス)を持つ。

パワーは相手プレイヤーの体力を削るのに使ったり、敵クリーチャーの除去に使われる攻めのステータス。

タフネスは0になればクリーチャーが破壊される為、場持ちの良さ、除去耐性に繋がる守りのステータス。

 

どちらも基本的に、高ければ高いほどいい。

だが、手札の消費なしに使えるクリーチャーという事で、ヒイロの出した『深森の探究者』のステータスは1/1と低い。

それだけドロー効果は強力だという話ではあるが……。

 

しかし……これで、速攻(アグロ)デッキである可能性が減少した。

こんな弱小ステータスのクリーチャーでは、ライフ20点を削るのに時間がかかり過ぎるからだ。

 

中コスト帯で戦う中速(ミッドレンジ)、もしくはそれ以降の低速(コントロール)か。

……見極める必要がある。

 

 

「僕はターンを終了する」

 

「……私のターン。ドロー、カードをマナへ」

>ニーナ:ターン3

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン2→3

 

 

前ターン、手札交換で引き寄せたカードを使用するとしよう。

 

 

「私は『屍喰いグール』を召喚』

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ3→0

────────────────

③屍喰いグール

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:クリーチャー1体にXダメージ(Xはこのクリーチャーの攻撃力に等しい)。この効果でクリーチャーを破壊した場合、カードを1枚引く。

パワー1/タフネス3

────────────────

 

 

灰色の素肌を剥き出しにした、痩せこけた人型のゾンビのようなクリーチャーが姿を現した。

 

 

「召喚時効果で『深森の探究者』に1ダメージ。破壊する」

 

 

口を開いて血を弾丸のように吐き出す。

そして、『深森の探究者』の身体を貫いた。

 

 

「くっ」

 

「そして、『屍喰いグール』の効果で敵クリーチャーが破壊された時、私はカードを1枚引く」

>ニーナ:手札4→5

 

 

『屍喰いグール』は直接的なドロー効果を持たないが、召喚時効果による除去と、除去に成功した時に1ドローが可能だ。

つまり、条件付きでドロー効果(キャントリップ)を持つ除去クリーチャーとなる。

 

フィールドにタフネス1のクリーチャーが居る場合のみ、ドローに変換できるクリーチャーだ。

状況を選ぶドロー効果(キャントリップ)クリーチャー、代わりに除去効果も持っていると見るか。

もしくは、貧弱な除去効果持ちで、条件持ちドロー付与を持っていると言うべきか……どちらとしても取れる。

 

一枚でクリーチャーとして、除去として、ドローカードとして……上手く噛み合えば3つ全ての効果が発揮される、状況によって強さが大きく変わるカードだ。

 

 

「私はターンを終了する」

 

「僕のターン!カードを1枚引いて、1枚をマナゾーンに置く」

>ヒイロ:ターン3

>ヒイロ:手札5→5

>ヒイロ:マナゾーン2→3

 

 

互いに3ターン目に突入した。

コストが3のカードを使えるようになる、という事だ。

コスト3帯は序盤と中盤の間であり、デッキの動きのメインエンジンになっているカードが多い。

未だ、互いのデッキ全体が見えていない状況……ヒイロがカードをフィールドに置いた。

 

 

「僕は置物(オーナメント)カード、『月齢樹のトーテム』を設置する!」

>ヒイロ:手札5→4

>ヒイロ:マナ3→0

────────────────

③月齢樹のトーテム

オーナメント・カード

起動効果:デッキの上からカードを3枚確認する。

その後、任意の順番で戻す。

────────────────

 

 

置物(オーナメント)・カード。

それは即ち、生き物(クリーチャー)でも呪文(スペル)でもない文字通り置物となるカード。

呪文(スペル)のように即座に消費される訳ではなく、生き物(クリーチャー)のようにフィールドに配置するが、パワーやタフネスは存在しない。

フィールドに文字通り置物(オーナメント)として設置される事で、カード効果による除去を受けない限り永続的なアドバンテージを得る事が出来るカードだ。

 

 

「僕は『月齢樹のトーテム』の効果を起動する。カードを3枚確認して、戻す」

 

 

……ふむ。

初手で使用していた『探索』と同じ効果だ。

ただ、大きく違う事がある。

 

『月齢樹のトーテム』は置物(オーナメント)だ。

呪文(スペル)と違って場に残り、毎ターンに一度だけ起動できる。

 

更に、置物(オーナメント)には体力(ヘルス)がない。

だからこそ、呪文(スペル)によるダメージや、生物による攻撃では除去されづらい。

 

 

だからこそ──

 

 

デッキトップの操作。

これは『探索』と同様に、直接的なアドバンテージにはならない。

次のターンのドローを、3枚確認して選ぶことが出来るだけだ。

 

そして、毎ターン、デッキの上から3枚を操作するという事は……次ターン、1枚のドローを考慮しても、操作可能対象が3枚中2枚が前ターンの効果対象と重なるという事。

 

3枚を捲り、不要札を2枚下に置いても……次のトップ操作に引っかかる。

するとデッキトップに不要札が溜まり、自身のドローの質を上げる事が出来なくなる。

『月齢樹のトーテム』は、維持しても劇的な効果を発揮するカードではない。

 

……一見すると悪くないカードだが、致命的な欠点を持つカードだ。

単体での使い勝手は悪い。

 

 

「僕はターンを終了する」

 

「私のターン。ドロー……そして、カードをマナへ」

>ニーナ:ターン4

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン3→4

 

 

フィールドを確認する。

私の場には『屍喰いグール』が残っている。

そして、相手の場にクリーチャーはいない。

 

取り敢えずは──

 

 

「私は『屍喰いグール』で相手プレイヤーを攻撃」

 

 

目前の『屍喰いグール』がヒイロに飛び掛かり、爪を振るった。

>屍喰いグール(1/3)

 

 

「っ……」

>ヒイロ:ライフ20→19

 

 

『屍喰いグール』の攻撃力(パワー)は1……このまま殴り続けても、20点のライフを削り切るには日が暮れる。

それはヒイロも分かっている筈だ。

 

ヒイロは私のデッキを、低コストクリーチャーを展開して殴り続けるビートダウンだと思っていない。

だから、『屍喰いグール』の除去を優先せず、置物の設置をした。

 

その選択は正しい判断だ。

……だからこそ、その選択を、私は許し続ける訳にはいかない。

 

相手プレイヤーの『やりたいこと』をやらせないこと。

それが『WoM(ワールドオブマジック)』において、重要な事なのだから。

 

 

「そして、私は手札から『魂の賭博者』を召喚」

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ4→0

────────────────

④魂の賭博者

クリーチャー・カード

種族:デーモン・ウィザード

召喚時:カードを3枚引く。

死亡時:手札を3枚破棄する。

パワー4/タフネス3

────────────────

 

フィールドに青白い肌に真っ赤なツノを生やした、悪魔が現れた。

 

 

「召喚時効果。私はカードを3枚引く」

>ニーナ:手札4→7

 

「3枚も……!?」

 

 

一気に潤沢となった手札を確認し、ヒイロへと視線を戻す。

 

 

「……安心していい。このカードが死亡した時、私は手札を3枚捨てる」

 

 

『魂の賭博者』は3枚ドローという強烈なドロー効果を持つが、デメリットとして死亡時に3枚捨てなければならない効果を持つ。

つまり、3枚引いて3枚捨てる……本体の手札消費も考慮すると、手札を1枚減らす手札交換カードだ。

だが、『魂の賭博者』の能力値は4/3と4コストの標準近い能力値を持っているのが大きな利点だ。

 

このクリーチャーを無視すれば、その4点という攻撃力(パワー)でライフを大きく削られる事になる。

合計20点……いや、残りの19点を削るには5回の攻撃で足りてしまう。

ライフを守るため、手札を捨てさせるためには、除去しなければならない。

 

処理を強要しつつ、手札を交換できるクリーチャー……それが『魂の賭博者』だ。

 

 

「私はこれでターンを終了」

 

「僕のターン……マナにカードを置くよ」

>ヒイロ:ターン4

>ヒイロ:手札4→4

>ヒイロ:マナゾーン3→4

 

 

私とヒイロ、その手札差は大きい。

私は7枚、ヒイロは4枚だ。

それも……このターン、ヒイロがカードをプレイしない前提で、だ。

 

ヒイロは『魂の賭博者』の攻撃を警戒して、破壊しにくる筈だ。

その除去札の消費によって、更に手札の枚数差が付く。

例え『魂の賭博者』が破壊されて3枚捨てる事になっても──

 

 

「僕は……置物(オーナメント)カード、『根源のトーテム』を設置する!」

>ヒイロ:手札4→3

>ヒイロ:マナ4→1

────────────────

③根源のトーテム

オーナメント・カード

起動効果:マナを1支払う。デッキからコスト1以下の呪文カードを発動する。

────────────────

 

 

……いや、置物を追加した?

 

 

「そして『根源のトーテム』を起動!マナを1つ支払い、効果を発動する!」

>ヒイロ:マナ1→0

 

 

私はバトルディスクから『根源のトーテム』の効果を確認する。

起動にコストを要求するが、デッキの1コスト以下の呪文を使用できるカードか。

……なるほど、理解した。

このカード単体の性能だけではなく、ヒイロが他カードをデッキに採用している理由も、だ。

 

 

「僕がデッキから発動するのは『ポルターガイスト』!このカードは僕のフィールドの置物(オーナメント)の数だけ性能を向上させる除去カード。対象は勿論……『魂の賭博者』だ!」

────────────────

①ポルターガイスト

呪文カード

クリーチャー1体に1+Xダメージ(Xは自分の場に存在する置物(オーナメント)カードの数に等しい)。

────────────────

 

 

「僕の場に存在する置物(オーナメント)は2枚!『魂の賭博者』へ3ダメージを与える!」

 

 

青白い光の玉が、相手の場のトーテムから舞い上がる。

そして、それは質量を持って『魂の賭博者』へ殺到し……破壊した。

 

 

「……私は、『魂の賭博者』のデメリット効果で手札を3枚捨てる」

>ニーナ:手札7→4

 

 

私は自身の手札から、不要札を捨てつつ……ヒイロへと目を向ける。

 

カードを切る音。

ヒイロのデッキがバトルディスクによりシャッフルされている。

……やっぱり、『根源のトーテム』と『月齢樹のトーテム』は──

 

 

「そして、僕は『月齢樹のトーテム』を効果を起動。カードを3枚確認して、戻す」

 

 

毎ターン、デッキトップ操作の効果対象をリセットするコンボだったか。

『根源のトーテム』はデッキから呪文を選んで発動する効果……所謂、デッキを見る(サーチ)を含む効果。

その効果の使用後、デッキ内のカードを確認した為、プレイヤーはシャッフルを要求される。

そしてこの、ルール上必須となるデッキシャッフル……これによって『月齢樹のトーテム』によって溜まってしまった不要札をデッキの下に送る事が出来る。

 

順として──

①ターン開始時、前ターンに『月齢樹のトーテム』で3枚の中から選んだカードを1枚ドローする。

②その後、『根源のトーテム』でデッキから呪文カードを使用して、デッキをシャッフルする。

③最後に、リセットされたデッキトップを『月齢樹のトーテム』で操作して次ターンのドローを選ぶ。

これが一連の流れだ。

 

これは『月齢樹のトーテム』のデッキトップ操作効果を有効に使えるコンボ……いいや、それだけではない。

『根源のトーテム』はデッキに1コスト以下の呪文が多ければ多いほど使用回数を稼げるカードだ。

コスト1の呪文は低コストであるが故に、効果は小さく、状況を変えるには複数枚の発動が必要となる。

つまり、デッキに投入し過ぎると手札が枯渇してしまう危険性があるという事だ。

 

だから、採用枚数は控えめにしている筈だ。

そう考えると『月齢樹のトーテム』を発動後に、手札に1コストカードが来てしまうとそれだけでアドバンテージの損失になるということが理解できる。

 

だから、デッキトップを操作する『月齢樹のトーテム』が有効なのだ。

3枚めくり、必要なカードをデッキの1番上へ用意し、1コストカードは下に眠らせる。

 

 

……カード同士のシナジーを感じる。

そして、これだけがメインの動きではあるまい。

他に、相手プレイヤーを倒すためのカードを搭載している筈。

 

 

「……なんで、笑って……?」

 

 

ポツリと、ヒイロが私を見て疑問を口にした。

 

……笑う?

手で口元に触れる。

 

確かに、私は……笑っていた。

研究施設にいた頃も、その辺の奴らと賭け(アンティ)をしていた頃も笑えなかったのに。

それでも笑っていた。

 

理由は分かっている。

 

 

「楽しいから、ね」

 

 

カードを通して、相手プレイヤーとの読み合いが成立しているからだ。

私の行動に対して、ヒイロはデッキタイプを想定している。

考えられた構築で、勝利に向けて。

論理的にカードをプレイしている。

 

 

「楽しい……?」

 

「うん、楽しいよ」

 

 

無機物相手では味わえない。

格下相手では味わえない。

理解している人間としか交わせない、会話に等しいカードの応酬。

 

カードゲームの、醍醐味。

私は今、それを味わっているのだ。

 

 

デッキトップ操作、ドロー効果、1コスト呪文をデッキから使う事によるデッキの圧縮。

 

そして、マナにも置かず盤面にも置かず、大事そうに抱えてる左端のカード──

 

 

ここから導き出される、推測。

 

 

恐らく、ヒイロのデッキタイプは──

 

 

『コンボデッキ』だ。

 

 

キーカードを手札に集めて、相互作用で莫大なアドバンテージを稼ぎ、相手プレイヤーを倒す『コンボデッキ』の可能性が高い。

 

そして最大限警戒するのならば……コンボさえ決まれば他に必要がないタイプ、1ターンの間に返す間もなく勝つ『ワン・ショット・キル』タイプを想定すべきだ。

 

 

 

私は手札に視線を落とす。

左端にあるカード……『精神を刻む者』へ。

 

マナに送らなくて正解だった。

このカードは、この勝負……ヒイロの勝ち筋を破壊するポテンシャルを持ったカード。

 

そう……キーカードを揃えて勝つ『コンボデッキ』には、明確な弱点がある。

 

 

「私のターン」

>ニーナ:ターン5

 

 

そして、私のデッキにはその致命的な弱点を突く為のカードが入っている。

私はカードに、指を這わせる。

 

無意識のうちに、頬を歪めながら。

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