TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#21 月明かり

「わ、私は手札から『ゴブリン・ナイト』を召喚します!」

 

「手札から高速(クイック)呪文(スペル)『針天井』を発動」

 

 

目の前で繰り広げられる、ニーナとエノンさんのカードの応酬。

それを僕は眺めて……自然と、拳を握っていた。

 

 

「『屍集うタイラント』を召喚。その効果により、ライフを回復する」

 

「えぁっ……!?」

 

 

この試合の勝敗によって、クラス対抗戦の勝敗は決まらない。

勝っても負けても、僕達のクラスの勝ちだってのは変わらないのに。

 

それでも──

 

 

「『屍集うタイラント』で攻撃」

 

「て、手札から『肉盾持ちの醜鬼』の効果を発動します!」

 

 

最後の一瞬まで、互いに全力をぶつけ合っている。

少しも手を抜かず、全力で。

 

観客達も息を呑んでいる。

 

声援はない。

でも白けた試合って訳ではない。

 

ただ、みんな息を呑んでいる。

ここで彼女達の集中を少しも途切れさせたくないんだ。

 

 

「……ふふ」

 

「え、えへ……」

 

 

互いに笑みを浮かべて、全力をぶつけ合っている。

そんな光景を見て──

 

 

「いいよなぁ、あんな楽しそうにバトルできて」

 

「え?」

 

 

すぐ側にいるユウキくんが僕の心を代弁した。

 

……そうか、僕は羨ましいんだ。

あんなにも楽しそうにカードバトルできる二人が。

 

そして、何よりも──

 

 

「これで終わりにする。手札から『解き放たれし破滅 エルザイン』を召喚!」

 

「げぇっ!?」

 

 

あんなにも、ニーナを本気にさせている……対戦相手を、羨ましいと思ってしまったんだ。

 

……強く、なりたい。

強くなりたい。

 

僕を見てくれるように。

 

強くなりたい。

強くなれば、きっと、僕を──

 

 

「『解き放たれし破滅 エルザイン』の効果。複製された『邪念竜アースラ』の効果により、相手プレイヤーに8点のダメージを与える」

 

「あ、あわわ、わわわーっ!?」

 

 

バトルフィールドに、閃光が走った。

強烈なフィードバックにより、風が吹き荒れて、エノンさんが吹っ飛ばされた。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

白熱した試合が終わりを迎えた。

その瞬間、爆発的な歓声が響いた。

 

僕達のクラスだけじゃなくて、相手のクラスからも、声が響いた。

それだけ素晴らしい試合だった、という事だ。

 

歓声に僕の内心はかき消されて、現実に引き戻される。

僕はそのまま、ニーナに視線を向けた。

そんな僕の視線に気付いて、ニーナが振り返った。

 

そして、僕にピースサインをした。

いつもの、少し、表情に乏しい……それでも、微かに微笑んで。

 

その笑顔を見て、僕は何故か……妙に、焦燥感を感じていた。

 

何故かは、分からない。

それとも分からないフリをして、自分を騙しているのか。

 

それすらも、今の僕には分からなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私は対戦相手の緑川 エノンと握手をして、互いに健闘を褒め合った。

彼女の速攻デッキの練度、それはかなりのものだった。

 

何度か押し切られそうになったのは事実で、引き運に助けられたのは自覚している。

 

カードゲームはプレイングが重要だ。

デッキ構築も重要だ。

しかし、それらを全て万全にした上で、運に左右される。

 

勝負は時の運。

互いのプレイングが完璧で、互いのデッキ構築が洗練されたものだとしても……ほんの少しの運の差が勝敗を決める。

 

この試合もそうだ。

だから自惚れはしない。

相手へのリスペクトも忘れない。

 

 

「……ふぅ」

 

 

熱の籠った感情を、吐息に混ぜて吐き出す。

 

あぁ、良かった。

クラス対抗戦に出て、良かった。

 

心から、そう言える。

 

そうして、エノンと別れて他の二人に合流した。

 

 

「よっ、ニーナ。お疲れ」

 

「うん、ありがと。ユウキ」

 

 

ユウキとハイタッチした。

ちょっと柄にもないような行動だけど、あんなバトルの後だ。

ちょっとぐらい付き合ってもいいだろう。

 

そして、ヒイロに目を向ける。

 

 

「勝ったよ」

 

「うん、見てたよ。お疲れ様……」

 

 

……あれ?

何だか、ちょっと元気ないかな?

いつもなら、もう少し目を輝かせてる感じなのに。

 

どうしたのだろう。

お腹でも痛いのかな?

 

変なもの食べさせた記憶はないけど。

前世の限界独身晩御飯とは違って、ちゃんと人が食べられる料理してるし、私。

 

……精神的なものかな?

 

 

『勝者、Aクラス!クラス代表は各自、バトルスペースから退出するように』

 

 

少しして、監督役の放送が入り、意識を現実に戻す。

片付けをして、バトルスペースを後にした。

ミユからの労いと喜びをぶつけられたり、昼食のホットドッグを食べたりして──

 

 

 

1時間後。

 

 

 

私とヒイロ、ユウキとミユで客席に座っていた。

下のバトルスペースには、先ほど戦ったBクラスの面々と……Cクラスの面々が向かい合っていた。

 

Cクラスは……神経質そうなメガネの男の子と、大柄な男子。

それと……あれ?

 

 

「あの制服……?」

 

 

そう、制服がこう、凄いドレスっぽくなっている女の子がいた。

色白で、薄紅色の……お嬢様みたいな……うん、そう、ドリルヘアーをしてる凄い派手な女の子だ。

 

 

「あー、セレナちゃん?アレ、制服にフリルとかを安全ピンとかクリップで付けて改造してるんだよねー」

 

 

ミユの言葉に目を瞬く。

 

 

「え?いいの?制服、改造しても」

 

「えっとね、制服を切ったり、何かを縫い付けたりするのはダメなんだけどね……取り外せるようにしてるから、こう、校則では叱られないらしいよ」

 

「へぇ」

 

 

ルールの穴を突く。

うん、カードゲーマーの基本の「き」だ。

らしいっちゃらしいかも。

 

感心して頷くと、ヒイロがちょっと苦笑してた。

 

 

「それで、Cクラスで一番強いのは?あの中の──

 

「セレナや」

 

 

にゅっ、と私とヒイロの間から顔が出てきた。

この関西弁は……式神デッキの使い手、吉祥院 アキラか。

 

私はさほど反応しなかったが、ヒイロはギョッとした顔をしていた。

 

 

「び、ビックリした……」

 

「なんや、ヒイロ。ビビりやのう。見てみぃ、ニーナは何も驚いとらんぞ」

 

 

え?いや、私もちょっとはビックリしたけど。

でもほら、私って無表情(ぽぉかぁふぇぃす)だから。

顔に浮かばないだけで。

 

まぁ、そんな話はどうでもいいか。

私はアキラに視線を向ける。

 

 

「セレナが一番強いって言うのは?何か理由が?」

 

「あん?理屈やないねん。ブッチギリで一番強いから、一番強い……それだけや」

 

 

何だか凄く頭の悪い単純な回答が返ってきた。

でも、単純さは時に理屈よりも物事を表せる。

 

……そうか。

ブッチギリで一番強い、か。

 

バトルスペースに目を向ける。

 

 

 

セレナと──

 

一瞬、目が合った。

 

 

 

そして、頬を緩め、目を細めて……好戦的な笑みを浮かべてきた。

 

そして、セレナはすぐにBクラスへと視線を戻した。

 

 

……何だろう。

ただカードバトルが楽しみだって笑みじゃない。

相手に勝ちたい、勝って屈服させたい……そんな意志が隠れて見えた。

大型の肉食獣っぽい笑み。

 

何か嫌われるような事したっけ?私。

 

 

「あの女……怖い顔しよるわ、ホンマ」

 

 

ちょっと引いたような顔をするアキラの横で、ヒイロは顎に手を当てていた。

そして、不可解そうな顔で口を開く。

 

 

「セレナさん……何だか『らしくない』気がするんだけど……」

 

「え?らしくないって?」

 

「セレナさんらしくないんだよ。去年の彼女は、もう少し穏やかな人だった気がするんだけど……」

 

 

そう口にしたヒイロを、アキラは鼻で笑った。

 

 

「フン、なんや知らんのか?ここ最近、あの女は随分と気が強なったらしいで」

 

「え?気が強く……?というか、最近?」

 

「おん。リーダー……っちゅうか、独裁者気質って感じにな。急に。何があったかは、ワイも知らんが」

 

「そんな短期間で……?何があったのかな……」

 

「ワイは失恋やと思うとる。賭けてもええで」

 

 

アキラの言葉に、ミユちゃんが笑顔で割り込んだ。

 

 

「……アキラくんってさ、デリカシーって知ってるかな?」

 

「当たり前やろ」

 

「今のは皮肉だよ」

 

「…………」

 

 

ヒイロは違和感を感じているようだが、私には実感がない。

彼女とは今が初対面だし、ああいう気が強い人なんだな、と思っていたぐらいだ。

 

しかし、悩んでも回答は出ない。

 

 

そして──

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

Bクラス対Cクラス、対抗戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

「……そんな」

 

 

既に、二戦目までが終了した。

結果は……二戦とも、Cクラスの勝利だった。

 

それだけ強かった……そう、強かった……それだけなら、良かったのだが。

 

 

「……チッ、徹底してやがるぜ」

 

 

私の隣でユウキが腕を組んだ。

彼も気付いたようだ。

 

 

「うん」

 

 

私も手を顎に当てて、椅子に深く座る。

 

 

強烈な『対策(メタ)』。

Cクラスの二人は、対戦相手のデッキに対して弱点を突くようなカードを大量に投入していたのだ。

 

速攻(アグロ)デッキには、回復と除去を。

置物(オーナメント)デッキには、置物(オーナメント)を対象とする除去やバウンスを。

 

既存のデッキにメタを入れた……だけでは、こうはならない。

デッキレベルで、相手『プレイヤー』に有利を取りに来ているのだ。

 

これに耐えきれず、Bクラスの面々は戦意を喪失していた。

 

 

「…………」

 

 

ヒイロは少し、不快そうに試合を見ていた。

 

この世界におけるカードバトルは、私の前世のカードゲームとは少し違う。

デッキは魂であり、己の心に一つ持ってる芯のようなもの。

 

そう簡単に持ち替えたりはしない。

 

その筈なのに、彼等は対戦相手へ優位に立つためにとデッキを持ち替えた。

 

私からすれば……勝てるならば、その選択は尊重されるべきだと認識しているが。

ヒイロからすれば、不快に感じるのだろう。

 

まぁ、それは価値観の差だ。

私が彼等に同調する義務はないし、私の意見を押し通す権利もない。

 

 

まぁ。

 

 

でも、まぁ。

 

 

ちょーっと、面白くないかな。

 

 

 

汎用性を捨てて、特定の対戦相手にのみ有利を取れる対策(メタ)カードを入れたデッキなんて……面白くはない。

デッキタイプに対してならまだしも、大会で対戦する相手をピンポイントでメタるなんて……。

 

それに──

 

 

「……楽しくなさそうな顔」

 

 

Cクラスの面々の顔。

少しも面白くなさそうな表情。

 

ただ勝つ為にカードバトルしている。

勝たなければならない、そんな顔をしているのだ。

 

私は視線を、彼等のリーダーに向ける。

仲間に向けて労いの言葉をかける、お嬢様……セレナに。

 

試合に勝ったCクラスの生徒は、セレナに褒められて、ようやく安堵の笑みを浮かべていた。

……何だかな。

 

 

少しモヤっとした感情を感じている中、Bクラスの三人目、緑川 エノンがバトルフィールドに上がって行った。

 

彼女は今回もまた、自身の勝敗がクラスの勝敗に直結しない試合に出なければならないのか。

その姿に憐憫を感じて……ふと、セレナがバトルフィールドに上がらない事に気付いた。

 

何のつもりだろうか。

 

困惑していると──

 

 

『安東院 セレナ、棄権!よって3戦目はBクラスの不戦勝となります!』

 

 

そんな放送が聞こえた。

 

 

「な、なんやと!?」

 

「なんで……!?」

 

 

アキラとヒイロが驚いた。

 

だが、私には理解できた。

彼女が棄権した理由を。

 

 

「あの人……そこまでするんだ」

 

「だな。こりゃちょっと、勝ちに行き過ぎなんじゃねぇのか?」

 

 

ユウキも理解しているようだが、ヒイロは首を傾げた。

 

 

「え?えっと、いったい何で……?」

 

「おう、ヒイロ。セレナはな、次の試合……つまり、Aクラスとの試合に向けて、デッキの情報がバレないよう対戦を見送ったんだ」

 

「え?」

 

「1戦目と2戦目はCが勝ってるだろ?だから、3戦目を負けてもいい……理屈としては分かるだろ?」

 

「わ、分かるけど……っ!でも、こんなのって……!」

 

 

そう、理解はできる。

だが、普通はやらない。

 

情報アドバンテージを渡さない為に。

たったそれだけの理由で、試合を放棄したのだ。

 

呆然としているエノンを横目に、セレナが視線を上げた。

まるで、目の前の対戦相手など眼中にないように。

 

代わりに、私と目が合う。

彼女はまた、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

何とも後味の悪い対抗戦だった。

私達クラス代表3人……とミユちゃん、ついでに何故か付いてきたアキラを含めた5人で、明日のAクラス対Cクラスに向けた作戦会議を開く事にした。

 

ちなみに場所は、いつもの所だ。

そう、いつものカードショップ・ダイスだ。

 

カードコーナーから離れた、プレイスペースの机を5人で囲む。

ユウキくんが腕を組んで、唸った。

 

 

「しっかし……あんな露骨に勝ちに来ようとするとはな。驚いたぜ」

 

「ホンマ、しょーもない勝ち方狙う奴やで。メタらんかったら、勝てへんって言うてるよーなもんや」

 

 

ユウキの言葉に、アキラが腕を組んで頷いた。

そして、ミユが困ったような表情を浮かべた。

 

 

「でもさぁ……クラス対抗戦って、そんな『絶対に勝たなくちゃ!』ってイベントじゃないでしょ?なんで、あんなやり方するかなぁ……」

 

 

その言葉に、私は目を細めた。

 

 

「戦う以上は勝ちたいと思うのは普通。だけど、確かに……些か度が過ぎてるとは思う」

 

 

強力なデッキ、流行に対する『対策(メタ)』……それを否定するつもりはない。

前世の私だって、大会で流行しているデッキをメタるために、色々と対策カードを入れていた。

 

だが、それは『流行しているデッキ』に対する『対策(メタ)』だ。

彼等がやっている『特定のプレイヤー』に対する『対策(メタ)』とは違う。

 

本質からして、異なる。

 

恐らく、事前の試合や、日常の実習などを偵察して、そのデッキタイプに対して前もって対策デッキを組んできていたのだ。

 

 

「…………」

 

 

腕を組む。

 

私は勝つ為になら、どんな手段も許されると思っている。

だが、それは『カードゲームの中』に限定されている。

長考でブラフをしていいし、相手のミスリードを誘ってもいい。

どんな強いデッキを使ってもいいし、不恰好なプレイで強カードを押し付けたっていい。

 

勝つ為ならば。

それは、対戦ゲームの本質だからだ。

勝ちたいという思いは、尊ぶべきものだ。

 

しかし、事前に対戦相手のデッキ情報を集めて、その対策カードのみでデッキを組む事は……それは、『カードゲームの中』に該当するのだろうか?

 

そうとも言えるし、そうではないとも言える。

曖昧(グレー)な話だ。

私には善悪の判別はつかない。

 

 

「…………ん?」

 

 

ふと、ヒイロが一言も喋っていない事に気付いた。

難しい顔をしながら、自分のデッキへ視線を向けている。

 

 

「……ヒイロ?」

 

「え?あ……うん、何かな?」

 

「……どうかした?」

 

 

やはり、元気がない。

先程の試合の前から、元気はなかった。

しかも、Cクラスの試合を見て……更に、元気がなくなったように見えた。

 

ヒイロは少し悩むそぶりをしてから、ため息を吐いた。

 

 

「僕のデッキってさ……コンボデッキだよね」

 

「うん」

 

「だからさ、多分……きっと、対策しやすいと思うんだよね」

 

 

なるほど。

元気のない理由は教えてくれなかったが、今、彼が懸念している事が分かった。

 

ヒイロのデッキは『妖精姫 エルザ』で1/1のフェアリー・トークンに『速攻』を付与しつつ、打点上昇(パンプアップ)して一気に削り切るワン・ショット・キルデッキだ。

 

その対策……考えるだけで多岐に渡る。

 

 

「む……大型の『防衛』持ちクリーチャー、コンボパーツを抜く手札破壊(ハンデス)高速(クイック)呪文(スペル)によるシステム・クリーチャーの除去……とか?」

 

「っ、そうだね。何が来ても、ある程度は対処できるようにデッキを組んでるけど……『ある程度』なんだ。勝ち筋を捨ててまで、対策に偏重されたら僕に勝ち目は……」

 

「どうするの?」

 

 

明確な弱点を自覚している。

そして、次の試合では間違いなく突かれるだろうとも。

 

 

「……今から、僕のデッキを調整する」

 

 

その言葉に、ミユが席を立った。

 

 

「えっ!?今から!?試合、もう明日なんだよ!?」

 

「うん。勝ち筋をコンボの完走だけにせず、序盤から攻めるプランをメインに調整するんだ」

 

 

なるほど、私は理解した。

 

ヒイロのデッキ、そのメインの勝ち筋は複数枚のカードの相乗効果による20ダメージを与えるワン・ショット・キル。

メインプランはコンボデッキ……だけど、その過程でフェアリー・トークンを生成する都合上、それらを活かして序盤から詰める中距離(ミッドレンジ)のビートダウンをサブプランにできる。

 

それでも、あくまでコンボデッキ。

ドロー効果を持つ呪文や、クリーチャーなどがデッキに多く入っている都合上……序盤に削り切るプランは、速攻(アグロ)に特化したデッキに比べると遅い。

 

削り切れない可能性がある、という事だ。

だから、対策されるであろうコンボ要素を削り、速攻(アグロ)に比重を置くのだろう。

 

ドローカードを減らし、火力カードに置き換えればいい。

 

しかし、懸念点がある。

アキラも気付いたようで、ヒイロに視線を向けた。

 

 

「せやけど、ヒイロ。そんな前日に調整したような付け焼き刃のデッキで、勝てんのか?キツいやろ」

 

「……それは、確かにそうだね」

 

 

そう、デッキの『完成度』と『練度』の問題だ。

デッキ構築は、構築時点で完璧に作る事などできない。

誰だってそうだ、上手い人だって完璧には組めない。

 

戦っていく上で、必要なカード枚数を増やしたり、減らしたり、差し替えたりして、そうして行くうちにデッキが完成する。

 

だから、今こんな時間がない中で、デッキの構築を変更するのは無謀だ。

 

それは分かっているが……。

 

私はサムズアップした。

 

 

「私が調整、付き合う?」

 

「ニーナ……ありがとう。お願いするよ」

 

 

ヒイロが安堵の息を吐いた。

それに対して、アキラは納得していないようだ。

 

 

「んなもん、今からでも時間的にキツいやろ。ここの閉店時間とか考えれば、そんな長く調整も練習もできへん。せやろ?」

 

 

アキラの言う事はごもっともだ。

ここ『カードショップ・ダイス』の閉店時間が来れば、練習場所がなくなる。

 

 

「それも大丈夫。私が、深夜まで対戦相手になれるし」

 

「……んんん?なんや、今日はお泊まり会でもしようってか?」

 

「ううん?普通に、夜中にデッキ調整を手伝うだけ」

 

「は?どうやって夜に調整すんねん。そん頃には家帰っとるやろ」

 

 

何故か困惑するアキラに首を傾げて、私は口を開いた。

 

 

「だって私、今、ヒイロの家に居候してるし」

 

 

そう言えば、クラスメイトには別に、公表していなかったな。

まぁ、知ったからって、どうもこうも無いけど。

 

そう思って、雑に言ったのだが……。

 

 

「は?居候?どういうこっちゃ?」

 

「一緒に住んでるって事」

 

 

そう答えると、アキラが固まった。

まるでオンボロのPCのように、フリーズしてしまったのだ。

 

 

「ホ、ホンマか?」

 

 

かろうじて復活したアキラの言葉に、ヒイロは頷いた。

 

 

「本当だよ」

 

「……お、同じ屋根の下で男女二人寝泊まりしてるって事か!?」

 

「い、言い方が何かアレだけど、そうだよ?」

 

 

ヒイロの言葉にアキラが眉を顰めた。

 

 

「ふ、ふふふぅっ……!」

 

「ふふふ?」

 

「不潔や!」

 

 

立ち上がって、アキラが身を捻った。

随分とうるさい。

 

ショップ内に他の客がいなくて良かった。

いたら、めちゃくちゃ恥ずかしいし。

 

しかし、不潔か?

毎日ちゃんと身体は洗ってるが……疑問を口にする。

 

 

「え、何が不潔なの?」

 

「そら、お前らの関係やろ!良い歳した男女が一つ屋根の下で暮らすとか……あ、ありえへんやろ!」

 

「はぁ……?」

 

 

何を言ってるんだ?

私とヒイロはそんな、爛れた関係ではない。

仲の良い友人、カード仲間、同居人なのだ。

男女とかそういう意識はない。

 

そう思い、ヒイロに視線を向けた。

 

 

「別に、変じゃないよね?」

 

「そ、そうだよ。変じゃないよ!僕とニーナはそんな関係じゃないし!」

 

「んな事言うといて、裏では不純異性──

 

「こらぁっ!2人に変な事言わないの!」

 

 

アキラの頭にミユの拳骨が直撃した。

 

 

「ァ痛ッ!?……な、何すんねん!このアマ!」

 

「公共の場で恥ずかしくないの?この店から、出禁にするからね!」

 

「で、出禁やと!?」

 

 

そんな権利はミユにはない。

だがしかし、アキラからすれば『ダイス』はミユのホームグラウンド。

普段来ないアキラには真偽など分からない。

 

 

「チッ、クソ……!しゃーないな、気になるけど黙っといたるわ……感謝せぇよ」

 

 

出禁にされてもおかしくはない……と、思ったのだろう。

腕を組んで、ムスッとした顔で椅子に座り直した。

……少しも反省してなさそうだな。

 

 

「え、えぇ……?」

 

 

困惑するヒイロを他所に、私は苦笑した。

 

 

「まぁでも、確かに。高校生の男女が『同棲』してるのは、世間的に見ればまずいかも」

 

「……え?あ、うん……まぁ、そうだけど……」

 

「店長が帰って来たら、ちゃんとそっちに引っ越すから」

 

「……うん。まぁ、それがいいよね。うん」

 

 

ボソボソと要領を得ない言葉を返すヒイロに私は首を傾げた。

すぐ側でミユのため息が聞こえた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「じゃ、また明日」

 

「うん、ニーナちゃん。また明日ね」

 

 

私の言葉に、ミユが手を振った。

 

 

「ユウキも」

 

「おう、また明日なー」

 

 

ユウキは自分のデッキから目を離さず、手を振った。

 

 

「…………」

 

「あれっ!?ワイに対しては何もないんかいな!?」

 

 

部外者一名が何か言ってるが、まぁいいや。

 

 

私とヒイロは他の面々より少し早めに『カードショップ・ダイス』を出た。

晩御飯の支度もあるし、少し早めに帰りたかったのだ。

 

そして、ヒイロの手元にはビニール袋。

カードパックを追加でこっそり買っていたみたいだ。

 

12月、冬。

太陽は傾きつつある。

 

吐いた息が白くなるほど、寒い。

 

 

「ヒイロ……最近、寒くなったよね」

 

 

私がそう言うと、ヒイロが頷いた。

 

 

「まぁね……」

 

「今も宿無し生活を続けてたら、凍死してたかも」

 

「はは……あ、あんまり縁起悪い事は言わないでね……」

 

 

……やっぱり、元気ないな、ヒイロ。

すぐ思索に耽るし。

 

ま、ヒイロは心配性だから。

それは別に悪い事じゃないけど。

 

 

「……………」

 

 

でも、ここまで元気ないと、私も心配だ。

明日のクラス対抗戦が心配なんだろうけど……。

 

クラス対抗戦は、どこまでいっても学校のイベント。

勝つべき試合だけれど、絶対に勝たなければならない訳ではない。

負けたら死ぬ訳でもないし、失うものは誇り(プライド)ぐらい。

 

勝つための思考はどれだけしたっていい。

だけど、負けた時の心配はしなくていい。

だって、カードゲームは楽しんで遊ぶゲームなのだから。

 

……よし、少し元気付けてやろう。

 

 

「ヒイロ、少し寄りたい所があるけどいい?」

 

「え?うん、いいけど……」

 

 

私はヒイロの手を引いた。

寒空の下、体温は熱く感じられる程だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「はい、ヒイロ」

 

 

ニーナが手元に持っている大きな紙袋から、たい焼きを一つ渡して来た。

彼女の寄りたい場所とは、たい焼き屋だったのだ。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

ニーナの生活費は店長から振り込まれてる。

月のお小遣いもだ。

 

そのお小遣いの中から、僕のたい焼きを買ってくれたのだ。

感謝しなければならない。

 

たい焼きを齧る。

餡子の優しい甘みが、口の中で広がる。

 

 

「今日は控えめ。夕飯前だし」

 

 

そう言いながら、彼女は2つ目のたい焼きに手を伸ばした。

 

ニーナ……『控えめ』って言いながら、たい焼きを複数個食う人は居ないよ。

ちょっと呆れながらも、何だか……「らしいな」と思えた。

 

もう一口、たい焼きを齧る。

 

 

「……ニーナってさ、たい焼き好きなの?」

 

「んぐ?もご──

 

「あ、ごめん。飲み込んでからでいいよ……ゆっくりでいいからね」

 

 

ニーナが口に含んだたい焼きを飲み込んで、頷いた。

 

 

「ん……まぁ、好きだけど。でも、何でそんな事を聞くの?」

 

「だってさ……」

 

「だって?」

 

 

手元の少し欠けた、たい焼きに視線を落とす。

 

 

「初めてタッグバトルした日も、たい焼きを食べてたし」

 

「そういえば、そうだっけ?」

 

 

ニーナが3つ目のたい焼きを、紙袋から

取り出した。

 

 

「……よく買い食いしてるし。好きなんだね」

 

「うん。ちょっとした反動だと思う」

 

「反動?」

 

「研究施設にいた頃のご飯、美味しくなかったから」

 

 

……その言葉に、息を呑んだ。

 

 

「ご、ごめん。変な事訊いちゃって……」

 

「ん?いいよ。私、気にしてないし」

 

「でも……」

 

 

ニーナがたい焼きを大きく齧って、僕に笑顔を向けた。

 

 

「私は今が楽しければ幸せ。あの頃も……別に、ヒイロが思ってるほど辛かった訳じゃないからね」

 

「……そ、そっか」

 

 

そして、ニーナは四つ目のたい焼きを取り出した。

 

 

「毎日、こうして美味しい物を食べて。好きなカードバトルに熱中して……それを友達としているなら尚更、幸せだと思う」

 

「ニーナ……」

 

「ヒイロは今、どう?何か悩みはある?」

 

「……僕は」

 

 

手元の、たい焼きを包んでいた紙を握り潰した。

ほんの少し、整理できない感情を発散したくて。

 

心の中で渦巻く。

言葉にできない焦燥感、無力感。

そこから目を逸らして、目下に悩みを口にする。

 

 

「明日のクラス対抗戦、心配でさ……」

 

「……そうなの?」

 

 

少し話が長くなりそうだと判断したのか、ニーナがベンチに座った。

それを見て、僕もベンチへ座った。

 

 

「もし負けたら……って思うとね。どうしても」

 

「ヒイロが負けたら、他の……私とユウキで2勝しないといけないから?」

 

「……そこは心配してないんだ。僕が負けても、きっと2人は勝つんだろうなって思ってるから」

 

「……勝負に絶対はないけど」

 

 

……こんなこと、言うべきじゃない。

言葉にするべきじゃない。

分かってるけど、口にしてしまう。

 

 

「僕が心配しているのは、チームの勝ち負けじゃないんだ。もっと……独りよがりな不安だよ」

 

「……そっか」

 

 

それが何か、とニーナは訊かなかった。

ここまで言っておきながら、僕も言いたくなかったから……助かるけど。

 

両手を膝の上で組んで、目を細める。

 

ユウキくんとニーナは負けないだろう。

だからこそ、2人が勝つのに……僕が、負けたら。

 

きっと、2人は責めない。

きっと、誰も責めない。

 

だけど、それでも……。

 

 

「……僕はただ、負けるのが怖いだけなんだ」

 

 

負けてしまったら。

 

僕の弱さが露顕したら。

 

ただでさえ、ユウキくんとニーナから数歩遅れているのに……これ以上、差がついてしまったら。

 

誰も、僕を──

 

 

「む」

 

 

頬に痛みが走った。

 

 

「いたっ!?」

 

 

ニーナに頬をつねられた。

それを理解したのは、痛みを感じて少ししてからだった。

 

それだけ、自分の思考に没頭してたという事だろう。

 

 

「前にも言ったけど、ヒイロはネガティブすぎ」

 

「うっ、でも……」

 

「確かに勝負には勝った方がいい。勝った方がいいけど──

 

 

ニーナがベンチから離れて、僕の正面に立った。

 

 

「それでも、カードバトルは楽しい物だから」

 

「ニーナ……」

 

「だから、もっと気を楽にしていい。何があっても、私がヒイロを見る目は変わらないから」

 

 

少し暗くなった空の下、彼女の銀髪が煌めいたように見えた。

街灯がまるで、スポットライトのように彼女を強調していた。

 

その姿に、僕は──

 

 

「……う、うん。分かったよ、ニーナ」

 

 

目を逸らした。

 

何故か顔が熱い。

何故か動悸がした。

 

そうだった。

あんなにも苛烈にカードバトルをしているから、少し忘れていたけれど……彼女って、ほら……凄く、綺麗だから。

 

っ、なんで今更、そんな事を考えてるんだろう。

 

 

「……よし。ちょっとはマシな顔になった」

 

「えっ、そんなに酷い顔してた?僕」

 

「してた。病院に行く事を理解してしまった子犬みたいな顔だった」

 

「……そ、そんなに?」

 

 

ニーナ、犬を飼った経験があるのかな?

いや、ないよ、絶対にない。

だって、最近まで研究施設生活だったし。

Card Tubeで動画でも見たのかな?

 

 

「うん。でも今は大丈夫。いつも通り」

 

「……励ましてくれたんだね。ありがとう、ニーナ」

 

「ふふ、お礼に回らない寿司でも奢ってくれていいよ」

 

「え……それは、まぁ、いいけど」

 

 

……これ冗談で言ってるのかな?

トーンは冗談っぽいけど、目が真剣(マジ)だ。

ま、まぁ、寿司ぐらい全然いいけど。

 

 

「さ、そろそろ帰ろっか。調整もしなきゃならないし」

 

「あ、うん。そうだね……ニーナもデッキの構築変えるの?」

 

「ううん。私はこのまま。ハイランダーだし、対策はし辛いと思うし」

 

「あ……じゃあ、一方的に僕と付き合うだけになっちゃうのか」

 

「いいよ、付き合っても」

 

 

……付き合う、って。

いや、僕から口にした言葉だけど、こう、何か妙に……う、うん。

 

 

僕もベンチから立ち上がって、帰路につく。

 

 

まだ夜と呼べるほどの時間じゃないのに、日はもう完全に落ちていた。

冬だから、か。

 

街灯が点滅している。

 

2人、並んで歩く。

 

……さっきのニーナの言葉には救われた。

だけど、完全に悩みが消えた訳じゃない。

 

ちっぽけな不安の種が、まだ僕の中に埋まっている気がした。

だけど、今は……それ以上に。

 

 

 

瞬間、ニーナが振り返った。

 

 

「……ニーナ?」

 

 

唐突な挙動に驚きつつ、僕は彼女の視線の先に目を向けた。

街角、何も、誰も居ない。

 

 

「……ううん、何でもない」

 

「なら良いんだけど……」

 

 

そう言ってニーナは、自宅へと踵を返した。

僕もそんな彼女に従って、足を進める。

 

ほんの少し、後ろ髪を引かれるような不安を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ヤバ〜、お姉ちゃん、勘が良すぎだよ。

もー、もうすぐでバレるとこだったじゃん。

 

ま、バレても何とかなったとは思うけど。

 

しっかし、こんな時間にお兄ちゃんとデートって……青春だねぇ。

明日、大事な試合がある自覚あるのかなぁ?

 

あ、そっか。

 

お姉ちゃん、知らないんだ。

明日も『普通』のカードバトルが出来ると思ってるんだ?

 

 

「……えへっ」

 

 

驚く顔が楽しみだなぁ。

上手くいけば……ね?

 

お姉ちゃんの隣にいた、ヒイロお兄ちゃんを思い浮かべる。

 

ま、メインプランはヒイロお兄ちゃんのままだけど、明日のサブプランが通れば……ラッキーかな。

 

 

「やっぱり私って策士の才能あるかも〜?」

 

 

心の下から上まで、愉快に埋め尽くされたまま、私はその場を離れた。

 

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