TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

22 / 25
#22 人読みメタは喧嘩の元

深夜、ヒイロのデッキ調整を手伝って……何度か試しに、仮想敵役としてデッキを回して、また調整して。

 

気付けば深夜になっていたので寝た。

ヒイロはまだデッキ調整をしていたけれど。

 

眠かったし。

 

朝起きて、リビングに行けば……ソファで横になって、寝ているヒイロを見つけた。

限界ギリギリまでデッキ調整してたんだろうな……うん、若いカードバトラーにしかできない無茶だなぁ。

 

あ、いや、今は私も若者だけどね。

……睡眠を削って徹夜できる気がしないんだよね。

毎日8時間は寝たい。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

「……ギリギリまで寝させてあげよっと」

 

 

私は簡単な朝食を用意する。

勿論、ヒイロの分もだ。

 

砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲みつつ、テレビを付ける。

ちょっと音量は控えめで。

 

そして、いつもより少し遅い時間で──

 

 

「起きて、ヒイロ。もう朝だから」

 

「……ん、え、ぁ……えっ?」

 

 

ガバっと起きて、準備を始めた。

顔を赤くしてたけど、風邪でも引いてないか心配だ。

 

 

そんなこんなで、いつも通りの準備をして。

昨晩遅くまで調整したデッキを持って、私とヒイロは学園へと向かう。

 

今日はクラス対抗戦、最終日。

Cクラスとの試合日だ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

僕はロッカールームで、深呼吸をした。

不安で押しつぶされそうな心を何とか整えて、振り返る。

 

ニーナとユウキくんは、既に準備が万端なようだ。

 

 

「ヒイロ、準備できた?」

 

「うん、待たせてゴメン。ユウキくんも」

 

「へへっ、良いって事よ。じゃ、行くぜ!」

 

 

クラス代表である3人で、ロッカールームから出る。

既に会場は生徒で埋まっていた。

 

舞台の用意は出来ている。

後は……演者である3人と3人だけだ。

 

相手側の3人に目を向ける。

神経質そうな眼鏡の男……金髪でオールバックで、眉間に皺を寄せている。

もう1人は筋肉質で大柄な男……スキンヘッドでちょっと老け顔。

そんな2人を従えるように、堂々と立っているのが──

 

Cクラスのリーダー。

安東院 セレナさん。

ゴシック調の改造制服に身を包んだ、金髪縦ロールの少女。

 

そんな彼女の目は、ニーナに向けられていた。

……ニッコリと笑っている。

笑っているが……少しも愉快ではなさそうだ。

 

相手の1人、神経質そうな眼鏡の男がバトルスペースへ向かう。

それに合わせて、僕も立ち上がる。

 

 

「……最初は僕だね」

 

「ヒイロ、頑張ってね」

 

 

ニーナからの応援の言葉に頷いた。

直後、背中を軽く叩かれた。

 

 

「良い所見せろよ?」

 

 

振り返ると、ユウキくんがいつものように笑っていた。

 

 

「うん、ありがとう。2人とも。じゃあ──

 

 

そして、僕はバトルスペースへ足を向けた。

 

 

「行ってくるよ」

 

 

誰に言った訳ではない。

ただ、己を奮い立たせるために口にした。

 

緊張、不安……それと、ほんの少しの高揚。

それが戦う力になれば良いんだけど。

 

 

バトルスペースに立つ。

正面にはCクラスの代表。

 

 

「悔いなくやろう。えっと──

 

「レイだ。小塚 レイ」

 

「レイさんで、いいかな」

 

「好きに呼べ。桐谷 ヒイロ」

 

 

……初対面な筈だけど、僕の名前は知っているみたいだ。

やっぱり、彼は……いや、彼らは。

 

 

「……勝たせて貰うよ。レイさん」

 

「フン」

 

 

バトルディスクを展開させる。

緊張の瞬間、互いの視線を向け合う。

 

光のラインが、互いのバトルディスクを繋げる──

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

そして、今、バトルが始まった。

先行は……よし、僕だ。

 

 

「僕のターン!カードを引いて、1枚マナへ!」

>ヒイロ:ターン1

>ヒイロ:手札5→5

>ヒイロ:マナゾーン0→1

 

 

手札を確認して、戦略を組み立てる。

何ターン目にリーサルを見据えるか、そこに至るまでどう動くか。

 

決着まで、長引かせるつもりはない。

デッキから引けるカードの枚数よりも、最初の手札の枚数の方が多い関係上……初期手札での組み立てが重要視される。

 

よし。

僕は、カードを1枚バトルディスクに置く。

 

 

「僕は手札から呪文(スペル)『妖精の導き』を発動する!」

>ヒイロ:手札5→4

>ヒイロ:マナ1→0

────────────────

①妖精の導き

呪文カード

追唱(このカードは墓場から発動する事が出来る。その後、このカードをデッキに戻す)

自分の場に種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンを生成する。

────────────────

 

 

場に妖精が姿を現した。

昨日、ニーナに協力して貰って、調整したフェアリーデッキ。

その本質はコンボ偏重のデッキ……ではない。

 

序盤からクリーチャーを展開する事で、相手プレイヤーのライフを削る。

ライフが削れれば、コンボに必要なフェアリーの数が減る……つまり、コンボの難度が下がる。

 

速攻(アグロ)しつつ、中盤に一気に削り切る中速(ミッドレンジ)デッキ。

それが今の僕のデッキだ。

 

 

「僕はこれでターンを終了する」

 

「私のターン。後攻故にカードを2枚引いて、1枚マナへ置く」

>レイ:ターン1

>レイ:手札5→6

>レイ:マナゾーン0→1

 

 

さて、相手の出方は──

 

 

「そのまま、ターン終了だ」

 

 

よし、1コストの除去は握っていないようだ。

序盤で一気に有利を作らせてもらおう。

 

 

「僕のターン!カードを引いて、1枚マナへ!」

>ヒイロ:ターン2

>ヒイロ:手札4→4

>ヒイロ:マナゾーン1→2

 

 

空っぽの盤面。

ここは好機、一気に攻める!

 

 

「まずは場のフェアリー・トークンで相手プレイヤーへ直接攻撃!」

>フェアリー・トークン(1/1)

 

 

妖精が相手へ突進を繰り出した。

 

 

「チッ……」

>レイ:ライフ20→19

 

 

まずは1点。

そしてまだ、さらに削らせて貰う!

 

 

「さらに、手札から『妖花の精霊』を召喚!」

>ヒイロ:手札4→3

>ヒイロ:マナ2→0

 

 

場に半透明の精霊が現れた。

────────────────

② 妖花の精霊

クリーチャー・カード

種族:スピリット・フェアリー

召喚時:自分の場のクリーチャーを1体破壊する。

その後、このクリーチャーは「速攻」を持つ(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)。

パワー3/タフネス1

────────────────

 

 

「その効果により、場のフェアリー・トークンを破壊し『速攻』を持つ!」

 

 

場のフェアリーを吸収して、精霊が姿を変える。

より、俊敏そうな姿へ。

 

 

「『速攻』を手に入れた『妖花の精霊』で相手プレイヤーを攻撃!」

>妖花の精霊 (3/1)

 

「っ……」

>レイ:ライフ19→16

 

 

これで合計4点のダメージ。

1/5削る事に成功した。

 

盤面に3/1、これも弱くはない。

十分な打点になる筈だ。

 

 

「僕はこれでターンを終了するよ」

 

「私のターン。カードを引いて、1枚マナへ置く」

>レイ:ターン2

>レイ:手札6→6

>レイ:マナゾーン1→2

 

 

手札枚数はレイさんの方が多い。

後攻1ターン目の2ドローと、1ターン目パスによる影響だ。

 

僕が警戒していると……彼が視線をこちらへ向けた。

 

 

「私は、手札から『砦のゴーレム』を召喚する」

>レイ:手札6→5

>レイ:マナ2→0

 

 

場に巨大な建造物を模した巨人が現れた。

────────────────

②砦のゴーレム

クリーチャー・カード

種族:ゴーレム

防衛(「防衛」がフィールドに存在する場合、相手は防衛を持たないキャラクターに攻撃できない)

パワー1/タフネス4

────────────────

 

 

体力(タフネス)に強く寄せた『防衛』クリーチャーか!

代わりに攻撃力(パワー)は1だけど、それでも体力(タフネス)の少ないフェアリークリーチャーには強く出られるだろう。

 

最悪、あのクリーチャー1体でフェアリー・トークン4体と交換させられる可能性があるって事だ。

 

 

「私はこれでターンを終了」

 

 

しかし、『防衛』クリーチャーの展開は想定済みだ。

今……いいや、このゲームが始まる前からだ。

 

 

「僕のターン!カードを引いて、1枚マナへ!」

>ヒイロ:ターン3

>ヒイロ:手札3→3

>ヒイロ:マナゾーン2→3

 

 

『対策をしている』という事が、対策相手にバレている場合……その『対策』に対する『対策』が容易に出来る。

自分のデッキの弱み……その弱みに対する対抗策。

そして、その対抗策を貫通するためのカードを用意すればいい。

 

目の前の巨大なゴーレムへ目を向ける。

僕のデッキに対する対策の一つ、『防衛』クリーチャーによる防御。

 

それは既に想定済みだ。

デッキの調整段階から、僕も考えているんだ。

 

 

「手札から呪文(スペル)『新緑の一撃』を発動する!『砦のゴーレム』に4ダメージを与える!」

>ヒイロ:手札3→2

>ヒイロ:マナ3→0

────────────────

③新緑の一撃

呪文カード

クリーチャー1体に4ダメージ。

その後、自分の場に種族「フェアリー」クリーチャーが存在する場合、相手プレイヤーに2ダメージ。

────────────────

 

 

新緑の靄が矢に変わり、『砦のゴーレム』を貫いた。

>砦のゴーレム(1/4)→(1/0)

 

 

「さらに、場に種族『フェアリー』が存在する場合、相手プレイヤーへ2ダメージを与えるよ!」

 

「っ……なるほど……!」

>レイ:ライフ16→14

 

 

『防衛』クリーチャーを除去しつつ、打点を飛ばせるカード。

僕の狙い通りだ。

 

テンポのロスは最低限に、盤面の処理と、ライフダメージを稼げた。

 

そして、今、彼の盤面は空だ。

 

 

「『妖花の精霊』で相手プレイヤーを攻撃!」

>妖花の精霊 (3/1)

 

「チッ……」

>レイ:ライフ14→11

 

 

残り11点。

このまま、何かされる前に削り切る。

 

 

「これで僕はターンを終了するよ」

 

「……そうか。ならば、次は私のターン。カードを引いて、1枚マナへ置く」

>レイ:ターン3

>レイ:手札5→5

>レイ:マナゾーン2→3

 

 

盤面に残っている打点は『妖花の精霊』による3点。

除去されてもリカバリーは効くけれど……。

 

 

「そして、このままターンを終了する」

 

 

……何もせず、ターンを終了した?

除去もせずに……?

 

何で……いや、そうか。

 

僕が今握っているデッキは、本来のコンボ・デッキではなく、速攻(アグロ)デッキ。

それをレイさんが事前に知っていないのならば、彼のデッキにはコンボを妨害するためのカードが多く入っている筈だ。

 

故に、序盤に使えるカードが入っていない……という事かな。

 

 

「……僕のターン。カードを引いて、1枚マナへ」

>ヒイロ:ターン4

>ヒイロ:手札2→2

>ヒイロ:マナゾーン3→4

 

 

僕の残りの手札枚数も少ない。

あまり、悠長にプレイしていたらリソース切れを起こしてしまう。

 

ここは詰める。

相手の策略だとしても、僕は詰めなければならない。

 

 

「まずは、『妖花の精霊』で相手プレイヤーを攻撃!」

>妖花の精霊 (3/1)

 

「…………」

>レイ:ライフ11→8

 

 

よし、残り8点。

十分に射程圏内(リーサル)が見えている。

 

ここは更に、盤面を充実させて次ターンに備えよう。

 

 

「まずは墓場に存在する呪文(スペル)『妖精の導き』を『追唱』する!」

>ヒイロ:マナ4→3

────────────────

①妖精の導き

呪文カード

追唱(このカードは墓場から発動する事が出来る。その後、このカードをデッキに戻す)

自分の場に種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンを生成する。

────────────────

 

 

キーワード能力『追唱』。

それは墓場(トラッシュ)に存在する場合、デッキにカードを戻すことで再度使用できる効果だ。

 

この効果により、僕は手札消費なしでフェアリー・トークンを1体生成できた。

しかし、これは布石だ。

次にプレイするカードのための──

 

 

「さらに、僕は手札から『エルフの降霊術師』を召喚!」

>ヒイロ:手札2→1

>ヒイロ:マナ3→0

 

 

場に、杖を持ったエルフが現れた。

 

 

「『エルフの降霊術師』の召喚時効果!それは自分の場のクリーチャーを1体破壊して、自身をコストが1つ高い『エルフ』クリーチャーに進化させる効果!」

────────────────

③エルフの降霊術師

クリーチャー・カード

種族:エルフ

召喚時:自分の場のクリーチャーを1体破壊する。

その後、このクリーチャーより1つコストが高い「エルフ」クリーチャーをエクストラ・ゾーンから重ねて進化する。

パワー2/タフネス2

────────────────

 

 

「むっ……」

 

「僕は場のフェアリー・トークンを破壊して、『エルフの降霊術師』を進化させる!」

 

 

場の降霊術師の元に、光の柱が降り注ぐ。

 

 

「『妖精騎士 シンシア』へ進化!」

 

 

場に、エメラルドの鎧を着た妖精が現れた。

────────────────

④妖精騎士 シンシア

エクストラ・クリーチャー・カード

種族:フェアリー

進化元:クリーチャー

進化時:自分の場に種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンを2体生成する。

パワー3/タフネス3

────────────────

 

 

「『妖精騎士 シンシア』の効果!場にフェアリー・トークンを2体生成する!」

 

 

場に妖精が現れる。

 

これで盤面は充分。

除去が追いつかなければリーサルも見えるだろう。

 

 

「これで僕はターンを終了──

 

「その瞬間、私は手札から速攻(クイック)呪文(スペル)『刃の嵐』を発動」

>レイ:手札5→4

>レイ:マナ3→0

 

 

速攻(クイック)呪文(スペル)

くっ、やっぱり握っていたのか……!

 

 

「『刃の嵐』の効果により、場のクリーチャー全てに1ダメージを与える」

────────────────

③刃の嵐

高速呪文カード

場の全てのクリーチャーに1ダメージ。

────────────────

 

 

全体除去(AOE)か!

折れた刃がフィールドを飛び回り、僕の場を襲う。

>妖花の精霊 (3/1)→(3/0)

>妖精騎士 シンシア(3/3)→(3/2)

>フェアリー・トークン(1/1)→(1/0)

>フェアリー・トークン(1/1)→(1/0)

 

 

「くっ、う……!」

 

 

盤面は崩壊。

しかし、幸い『妖精騎士 シンシア』の体力(タフネス)は3……1ダメージを受けても2で残る。

 

これで──

 

 

「さらに、手札から高速(クイック)呪文(スペル)『餓狼の追撃』を発動。『妖精騎士 シンシア』に2ダメージだ」

>レイ:手札4→3

>レイ:マナ0→0

────────────────

⓪餓狼の追撃

高速呪文カード

ダメージを受けているクリーチャー1体に2ダメージ。

────────────────

 

「なっ──

 

 

妖精騎士に飢えた狼が飛びかかった。

>妖精騎士 シンシア(3/2)→(3/0)

 

 

「そんな……」

 

 

これで盤面は空っぽ。

レイさんは軽量の除去呪文を持っていなかった訳ではなかった。

 

……しかし、もう僕にマナはない。

ここから動くことは不可能。

 

 

「……僕はターンを終了する」

 

 

僕に出来るのはターンの終了を宣告するだけだ。

 

 

「私のターン。カードを引いて、1枚をマナへ」

>レイ:ターン4

>レイ:手札3→3

>レイ:マナゾーン3→4

 

 

僕のターン終了時に合わせて、除去をプレイする事で次ターンに余裕を持たせたかったんのだろう。

 

 

「……ここで完全に蓋をさせて貰う。手札から置物(オーナメント)『蔓延する疫病』を発動する」

>レイ:手札3→2

>レイ:マナ4→0

 

 

場に薄く黒い霧が立ち込める。

 

置物(オーナメント)……?

僕の場を除去して、隙が出来たタイミングで……?

嫌な、予感がする。

 

僕はバトルディスクに表示された、置物(オーナメント)カードの情報を確認する。

────────────────

④蔓延する疫病

オーナメント・カード

場にクリーチャーが出る度、それは+0/-1の修正を受ける。

────────────────

 

 

「なっ……!?」

 

 

場に出てくるクリーチャーに対するデバフ!?

それも、体力(タフネス)に対する-1の修正……!

 

能力値が4/4などの中型クリーチャーなら問題ない。

体力が1点減ったところで問題はない。

 

だけど、僕のデッキには──

 

 

「これでフェアリー・トークンを活かした戦法は機能停止だな」

 

 

そうだ。

フェアリー・トークンは1/1!

場に出た瞬間、『蔓延する疫病』の効果で体力(タフネス)を-1されて破壊されてしまう。

 

 

「…………っ」

 

 

本来ならば、それほど強力な置物(オーナメント)ではない。

場に既に存在するクリーチャーに対して効果はなく、新たに出るクリーチャーに対しても体力を1点減らすだけだ。

このカードのコストは4。

そこまでターンが伸びれば、体力(タフネス)が1のクリーチャーなんて場に出てこない。

 

普通の、デッキならば……!

 

 

「くっ……!」

 

 

息を呑む。

汗が流れる。

視界が狭くなる。

 

どうすれば、どうすれば……!?

どうしよう、どうしよう……!?

 

負ける。

負ける?

負けてしまうのか?

 

戦う前から感じていた、不安。

それが現実味を帯びて、僕に迫り来る。

 

嫌だ。

嫌だ、嫌だ。

 

負けたくない。

負けたくない。

 

 

「これで私のターンは終了する。さぁ、次はお前のターンだ」

 

 

デッキを捲る、力が。

カードを引かなければ。

 

だけど、この状況を打破するカードは……。

置物(オーナメント)を除去するカードは確かにある。

だけど、それだけでは不十分だ。

間違いなく、彼のデッキには『蔓延する疫病』が複数枚投入されている。

 

置物(オーナメント)を除去して、相手の除去を掻い潜り、残りのライフを素早く削らないとならない。

 

その、手段は──

 

デッキの、上が……黒く、輝いて見える。

何だ……?

何が、起きてるんだ?

 

これは?

凄く……嫌な、感じがする。

まるで自分で組んだデッキでは、ないかのような……感触。

 

僕はそんな、デッキの上に指を触れた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「……あれ?お兄ちゃんが先に?」

 

 

私は足を組みながら、放送室に映る映像に目を向けた。

私の周りには誰もいない。

 

今、試合が行われてる別の施設に集まってるからね。

ここは隣……映像だけ引っ張ってるだけに過ぎない。

 

 

「素養があるとは思ってたけど……存外早いなぁ」

 

 

私は回る椅子に背中を預けて、くるくると回る。

 

 

「でも、ここで『成』っちゃったら、お姉ちゃんへのサプライズが出来ないじゃん。困ったなぁ」

 

 

映像の中で、お兄ちゃんがデッキに指をかける。

 

 

「……あれ?」

 

 

だけど、そこで止まった。

カードを引かずに、悩んでいるように見えた。

私は映像が映っている液晶を両手で抱える。

 

 

「どうしたんだろ?」

 

 

映像の中でお兄ちゃんは、顔を青くして……汗を流して、それでもカードを引けずにいる。

 

 

「……『それ』が良くないモノだって、理解してるの?嘘だ〜、そんなワケが……」

 

 

カメラに映るお兄ちゃんを、私は注視した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

確かに感じる。

デッキの上に置かれたカード。

 

このカードならば、この状況を打破できる。

 

そんなカードは僕のデッキに無い筈なのに、それでも分かる。

 

だけど、だけど──

 

 

……これは、良くない『モノ』だ。

僕を僕じゃなくする、良くない『モノ』だ。

 

 

それも分かる。

 

 

引けば勝てる。

このカードならば、勝てる。

負けたくないのならば、このカードを使うべきだ。

良くない『モノ』でも、なんでも使うべきだ。

 

僕の実力で勝てないのなら、どんな『モノ』でも使うべきだ。

何を使っても、勝つべきだ。

 

そうだ。

僕を信じてくれている仲間達に幻滅されないために!

僕は、このカードを──

 

 

『確かに勝負には勝った方がいい』

『勝った方がいいけど……それでも、カードバトルは楽しい物だから』

『だから、もっと気を楽にしていい』

『何があっても、私がヒイロを見る目は変わらないから』

 

 

「っ……!」

 

 

違う!

仲間に幻滅されないために、カードを引くんじゃない!

僕は……僕の個人的な不安のために、カードを引こうとしているんだ!

それは言い訳だ!

自分以外の誰かを理由にして……!

 

だから、本当に仲間のことを思うのならば──

 

 

「……僕のターン」

 

 

これが良くない『モノ』ならば、そんなものに頼ってはいけない。

そんなモノで勝っても、きっと……。

 

気付けば、デッキから感じていた『何か』は霧散していた。

いつも通りの、僕のデッキ。

 

そこに指を乗せる。

 

 

「カードを引く」

 

 

そして、手札に加わったカードは──

 

 

────────────────

⑧妖精姫 エルザ

レジェンド・クリーチャー・カード

種族:フェアリー

召喚時:マナを4回復する。

永続:自分の場に種族「フェアリー」を持つクリーチャーが出る度、マナを1回復し「速攻」を付与する(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)。

パワー4/タフネス4

────────────────

 

 

この状況を打破できない、カードだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

試合が終わった。

私の目の前で、ヒイロが崩れ落ちた。

 

やはり、対戦相手のデッキは強烈な対策(メタ)カードを大量に積んだデッキだった。

全体除去、小型除去、全体デバフ、軽量の防衛クリーチャー……それら全てで、ヒイロのデッキを封殺した。

 

ヒイロ側も除去や妨害を駆使して、何とかしようと立ち回っていたが……それでも限界があった。

 

結果は、ヒイロの敗北だった。

だけど、完敗という訳ではなかった。

限界まで食い付いていた。

……正直に言えば、最初の対策(メタ)カードでヒイロは戦意喪失すると思っていた。

しかし、それでも彼は立ち向かった。

細い勝ち筋を手繰り寄せようと、必死に戦った。

 

らしくない試合だった。

だけど、いい意味で『らしくなかった』。

 

私の持っていたヒイロの評価が、少し上がるぐらいには。

 

 

そんなヒイロを──

 

対戦相手の眼鏡が、見下して嘲笑った。

 

 

……何か、切れるような音が聞こえた。

きっと私の中の切れてはいけないもの。

 

不利な中、全力で戦った相手を……リスペクトせず、馬鹿にする?

勝ち誇ったような、顔で?

 

私は立ち上がっ──

 

 

「落ち着け、ニーナ」

 

 

肩にユウキの手が乗った。

 

 

「…………」

 

「怒ったら相手の思う壺だぜ」

 

 

その言葉で理解した。

確かに、あの眼鏡が敗者を煽る必要はない。

勝敗は既に決しているのだから。

 

なら何故、あんな見下すような仕草をしたのか。

 

これはクラス対抗戦。

3対3。

 

後続のカードバトラーの平常心を失わせるために、怒らせるために振る舞ったのか。

 

そう気付けば、私の中にあった怒りは急速に落ち着いていった。

そう言えば、眼鏡……レイの仕草はどこかぎこちなかった。

まるで、やらされているかのような仕草だった。

 

つまり、アレは誰かに指示された挑発。

ならば、誰が指示したのか。

 

……視線を上げる。

相手側の控えに座っている、改造制服を着た女……セレナと目が合った。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

無言のまま、セレナがニタりと笑う。

……倒すべきは、あの女か。

私は私の対戦相手に集中しなければならない。

 

深呼吸をして、感情を落ち着ける。

 

 

「……ありがとう、ユウキ。もう大丈夫」

 

「おう、良いってコトよ。つーか、それよりもヒイロを励ましてやれ」

 

「うん、そうだね」

 

 

頷いて、控えに戻ってきたヒイロと顔を合わせ──

 

え、あ、うわ、死んだ目をしてる。

生気のない目だ。

 

 

「ヒ、ヒイロぉ……?」

 

 

思わず、掛ける声もか細くなる。

私の言葉に気付いたヒイロが、私に目を向けた。

 

あ、ほんの少し目に光が戻った。

よかった。

 

 

「ニーナ……ごめん、負けちゃった」

 

 

仕方ないよ……とは言えない。

そんな言葉で片付けてはならない気がする。

 

惜しかったね……とも言えない。

あと一歩で勝てた訳ではないと、彼自身が一番理解している筈だ。

 

 

「え、えと……」

 

 

掛ける言葉が思いつかない。

 

何を言えば良いのだろう。

何て励ませば良いのだろう。

 

視界がぐるぐる回る。

今生、施設育ちの私にとって円滑円満コミュニケーションは難解難題だ。

だって慣れてないもの。

 

そうして私の中にある迷いと言語と感情が入り混じり、最終的に吐き出された言葉は──

 

 

「ど、どんまい?」

 

 

多分、最適解から、ありえない程離れた言葉だった。

 

しかし、そんな私の言葉を聞いてヒイロは……苦笑した。

 

 

「ぷ……な、なにそれ?」

 

 

その堪えられない、って笑みに少し腹が立つ。

私はこれでも、悩んだ末の励ましなのに。

 

なんて──

 

 

「よし、じゃあ次は俺だな。2人とも、行ってくるぜ」

 

「あ、うん。行ってらっしゃい、ユウキ」

 

 

ユウキに手を振ると、サムズアップした。

さっきの試合結果を見ても尚、少しも不安を感じさせない仕草だった。

 

そんなユウキに、ヒイロが視線を向けた。

 

 

「ユウキくん……その、勝てるかな?」

 

 

ヒイロの不安も分かる。

先鋒の敗北、即ち、私達にもう負けは許されなくなったのだ。

 

3対3である都合上、2試合目であるユウキが負ければ……私達のクラスの負けが確定するからだ。

だから、そんな言葉が出てしまったのだろう。

 

しかし、ユウキはその言葉に対して笑った。

 

 

「ん?そりゃあ、やってみなきゃ分かんねぇよ」

 

「え……」

 

「でもまぁ、勝つようにやるさ。俺は負ける前提でカードバトルしないぜ」

 

 

その仕草にヒイロは少し複雑そうな顔をした。

聞き取り方によっては皮肉にも聞こえかねない返答だけど、ユウキは皮肉とか言うタイプじゃないし。

というか皮肉を言われても気付けないタイプだし。

 

多分、言葉通りの意味でしかないんだろうな。

 

私とヒイロ、2人の視線を背中に受けながら、ユウキがバトルフィールドに立った。

 

筋肉質な男と一つ、二つと言葉を交わして──

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

第二試合が開始した。

 

 

カードバトル要素を

  • 増やした方がいい
  • このままでいい
  • 減らして欲しい
  • (アンケート結果だけ見たい)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。