TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#23 奇跡

結局の所。

 

対策を上から踏み越えるなんて事は、僕には出来なかった。

 

明確な実力不足。

ただ、それだけが敗因だ。

分かっている。

 

積み重ねられた対策カード。

それらを卑怯だと罵るのは容易い。

しかし、『卑怯』とは言いたくなかった。

それでも、僕は……心の奥底、どこかで、対戦相手に対して『卑怯だ』なんて考えていてしまったのかも知れない。

 

負けても仕方なかったのだと、なんて、心のどこかで言い訳をしてしまっていたのかも知れない。

 

自覚すら、していなかったけれど。

 

 

「いけ!『ブレイジング・ドラゴン』で直接攻撃!」

 

 

目の前で繰り広げられている光景をみて、やっと自覚できた。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

この中で、僕だけが……ただ、実力不足なのだと。

 

 

 

2戦目は、ユウキくんの勝利に終わった。

相手はマナを破壊するランデス戦法を取ってきたけれど、ユウキくんはそれを打ちのめした。

 

高ステータスのドラゴンクリーチャーを展開し相手プレイヤーに除去を強要し、マナ破壊より除去を優先させる事で隙を作った。

 

相手の対策を踏み越えての勝利。

それは僕が望んでいたけれど、手に入れられなかった光景だった。

 

 

「よし!まずは一勝!」

 

 

ユウキくんが掲げたハイタッチに、僕は少し気後れしながら手を返した。

……喜ばなきゃ。

心の奥底から喜んで、勝利を讃えないと。

 

分かってる。

分かってるのに。

 

……振り払った筈の『何か』が滲む。

頭を振って、振り払い……息を深く吐いた。

 

そして、ニーナへ目線を向けた。

 

 

「ニーナ、次で……最終戦だね」

 

「うん。今は一勝一敗だし、責任重大かな」

 

 

ごめん、僕が勝っていたら……なんて、言わない。

あまりにも惨め過ぎるし。

 

 

「頑張ってね、ニーナ」

 

「うん、任せて。行ってくる」

 

 

立ち上がって、ニーナがバトルスペースへ向かう。

距離にすれば大した事ない距離なのに、それでも……遠く、遠く感じている。

 

遠ざかる彼女の背中へ、僕は……視線を向けた。

 

それは羨望か、嫉妬か、それとも諦めか。

それすらも僕には分からなかった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「逃げずにこの場に立ったのは、褒めて差し上げますわ」

 

 

目前、フリル塗れの改造制服を身に纏った縦ドリルのヘアーの女に視線を向ける。

 

安東院 セレナ。

Cクラスの代表だ。

 

 

「……何で私を、そんなに敵視してるの?」

 

「敵視?……えぇ、まぁ、そうですわね。恨んでなどは居ませんが……確かに、気に食わないと思ってますわね」

 

 

存外、正直な返答に目を細める。

 

 

「気に食わない?何で?私とは初対面の筈だけど」

 

「私が一方的に知っていて、一方的に疎ましく思っているだけ……それだけですわね」

 

 

一方的な恨み……?

恨まれるようなこと、学園に入ってからした覚えはない。

ならば──

 

 

「レアカード狩りの関係者?」

 

 

私が組織から抜け出してすぐの頃。

レアカード狩りをしていた頃の関係者か?

 

 

「……なんですの?それ。貴女、そんな野蛮な事をしてらっしゃったの?」

 

「違うなら忘れて。気にしなくていい」

 

 

違うのか。

じゃあ、尚更、覚えがないけど。

 

 

「……こんな女の何処が良いのかしら」

 

「え?」

 

 

ボソボソと何か言ったようだが、聞こえなかった。

バトルスペースは広い。

離れていると小声では声も通らない。

 

私が首を傾げると、セレナは鼻を鳴らした。

 

 

「知りたければ、勝負の中で探しなさいな。それがカードバトラーでしてよ?」

 

「まぁ、そうしようかな」

 

 

なんだ。

コイツ、意外と『分かってる』タイプの奴だ。

時にカードバトルは会話よりも意思疎通が取れる……少なくとも、この世界では。

それが分かっているのに……なのに、あんな作戦を立案できるのか。

 

それだけ勝ちたかったのか?

 

勝利への欲求。

それは私も持っているが……彼女のそれは、私よりも大きいようだ。

 

 

「さぁ、バトルディスクを構えなさい。完膚なきまでに打ちのめし、屈服させてあげますわ」

 

「……盛り上がってるみたいだけど、負ける気なんてないから」

 

 

バトルディスクを展開して、向き合う。

光のラインが互いのバトルディスクを繋ぐ。

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

緊迫する空気の中、バトルの開始を告げる声が響いた。

デッキからカードが射出され、互いに5枚の初期手札が配られる。

私の手札は……ふむ、悪くはない。

 

そして、バトルディスクが指し示す、先攻は……ニーナ。

つまり、私だ。

 

 

「私のターン。カードを引いて、1枚マナへ」

>ニーナ:ターン1

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン0→1

 

 

手札からカードをマナに置き、手札へ視線を落とす。

……1コストのクリーチャー。

これを展開する事は可能だが……。

 

 

「私はそのまま、ターンを終了する」

 

 

相手のデッキタイプが見えていない今、無闇に手札枚数を減らすべきではないと判断した。

例え、この1コストのクリーチャーをプレイするタイミングがなかったとしても、最悪、マナに置けば手札が1枚浮く。

 

手札は慎重に切らなければならない。

 

 

「私のターンですわ!後攻、故にカード2枚引きますわ!そして、1枚マナへ」

>セレナ:ターン1

>セレナ:手札5→6

>セレナ:マナゾーン0→1

 

 

互いにマナゾーンは1枚。

1ターン目は──

 

 

「私も何もせず、ターンを終了しますわ」

 

 

互いに様子見。

……なるほど、速攻(アグロ)デッキではなさそうだ。

 

 

「私のターン。カードを引いて、1枚をマナへ」

>ニーナ:ターン2

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン1→2

 

 

これで私のマナは2。

……相手の出方を見たい。

 

ここは──

 

 

「私は手札から『スパルトイ』を召喚」

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ2→0

 

 

場に鎧を纏った骸骨が現れた。

────────────────

②スパルトイ

クリーチャー・カード

種族:テラー・ナイト

召喚時:自分の場に1/2の『スパルトイ・トークン』を1体生成する。

パワー1/タフネス2

────────────────

 

 

「さらに『スパルトイ』の効果で、スパルトイ・トークンを1体生成する」

 

 

更に場にもう1体、骸骨のクリーチャーが現れた。

 

これで場に1/2が2体。

除去を撃って脅威を取り除くのか、クリーチャーを立てて場の優先権を奪うのか、それとも無視するのか。

 

何をするにも、何もしなかったとしても、ある程度は方向性が読めるだろう。

 

 

「私はこれでターンを終了する」

 

「では、私のターンですわ!カードを引いて、1枚マナへ」

>セレナ:ターン2

>セレナ:手札6→6

>セレナ:マナゾーン1→2

 

 

2ターン目。

WoM(ワールドオブマジック)』において、一般的には重要視されるターンだ。

ここで盤面の主導権を握られると、中盤以降も除去を撃たされて、不利になる事が多い。

 

そんな中、セレナが選んだのは──

 

 

「私は手札から『天界の従者』を召喚しますわ!」

>セレナ:手札6→5

>セレナ:マナ2→1

 

 

場に白い翼を生やした、少女が現れた。

────────────────

①天界の従者

クリーチャー・カード

種族:セイクリッド

カードの効果の対象に選ばれた時:カードを1枚引く。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

「さらに手札から呪文(スペル)『天からの加護』を発動!対象は『天界の従者』ですわ!」

>セレナ:手札5→4

>セレナ:マナ1→0

 

 

天から光が、少女へと降り注ぐ。

────────────────

①天からの加護

呪文カード

場のクリーチャー1体は、+0/+2の修正を受ける。

その後、カードを1枚引く。

────────────────

 

 

「まずは『天からの加護』の効果!『天界の従者』の能力値を向上させ、更に私はカードを引きますわ!」

>天界の従者 (1/1)→(1/3)

>セレナ:手札4→5

 

 

バフ効果付きのドロー効果付き(キャントリップ)呪文(スペル)

手札消費なくカードにバフを乗せられる、という事か──

 

 

「更に『天界の従者』の効果!効果の対象に選ばれた時、カードを引けますわ!私はカードを1枚引きましてよ!」

>セレナ:手札5→6

 

 

クリーチャー効果との相乗効果……。

これで、完全に手札消費0で1/3クリーチャーを出した事になる。

 

 

「これで私はターンを終了しますわ」

 

「……私のターン。カードを引いて、1枚マナへ」

>ニーナ:ターン3

>ニーナ:手札4→4

>ニーナ:マナゾーン2→3

 

 

厄介な。

 

視線を手札に落とす。

『天界の従者』を除去するのは簡単だ。

私の手札にある除去呪文を撃てばいい。

 

だが、あのクリーチャーは既に1ドローを行なっている。

この時点で私が手札を消費して除去すれば……手札アドバンテージの損失が確定する。

 

しかし、場の『スパルトイ』、トークンは1/2。

クリーチャーの攻撃では、3点の体力(タフネス)を持つ『天界の従者』を倒せない。

 

 

「……よし」

 

 

場に残すリスクの方が大きい。

ここは除去するしかない。

 

 

「私は手札から呪文(スペル) 『追い剥ぎ』を発動する。対象は『天界の従者』」

>ニーナ:手札4→3

>ニーナ:マナ3→0

────────────────

③追い剥ぎ

呪文カード

クリーチャー1体に3ダメージ。

その後、カードを1枚引く。

────────────────

 

 

私が発動したのは、除去に1ドローが付いたドロー効果付き(キャントリップ)呪文(スペル)

これで最低限、リソースを消費せずに除去が出来る──

 

 

「その瞬間、私は高速(クイック)呪文(スペル)『真言』を発動しますわ!」

>セレナ:手札6→5

>セレナ:マナ0→0

 

 

コスト0の高速(クイック)呪文(スペル)……?

 

 

「『真言』は場のクリーチャー1体の体力(タフネス)を強化するカード……対象は勿論、『天界の従者』ですわ!」

────────────────

⓪真言

高速呪文カード

場のクリーチャー1体は、+0/+2の修正を受ける。

────────────────

>天界の従者 (1/3)→(1/5)

 

 

「っ……!」

 

 

そこで理解した。

 

彼女は、私の除去呪文を受け切るためにバフを乗せたのだと。

 

そして、0コスト呪文(スペル)という性質上、前ターンに撃てたにも関わらず撃たなかった理由も……!

 

 

「……発動した『追い剥ぎ』の効果処理。『天界の従者』に3ダメージを与えて、私はカードを引く」

>ニーナ:手札3→4

>天界の従者 (1/5)→(1/2)

 

「あらあら、削り切れませんでしたわね。ならば、『天界の従者』の効果が発動されますわ!」

 

 

そう。

除去で削り切れなかった、という事は──

 

 

「『天界の従者』は効果対象になる度にカードを1枚引きますわ!私の『真言』と貴女の『追い剥ぎ』、2つの対象になったため、2回効果が発動!」

 

 

私の除去呪文までもドローに変換されるという事だ。

 

誘われ、見事に引っかかってしまったのだ。

 

 

「私はカードを2枚引きますわ!」

>セレナ:手札5→7

 

 

セレナがデッキからカードを引く。

 

 

「……私は『スパルトイ』とスパルトイ・トークンで『天界の従者』を攻撃する」

 

 

場の骸骨達が、天使へと攻撃を繰り出した。

>スパルトイ(1/2)→(1/1)

>スパルトイ・トークン(1/2)→(1/1)

>天界の従者 (1/2)→(1/0)

 

これで除去は出来た。

先にクリーチャーで殴っておけば、ドローさせずに済んだが……それは結果論だ。

 

本来ならば除去呪文でクリーチャーを焼き、『スパルトイ』達は相手プレイヤーへ直接攻撃する予定だった。

最善の選択が、最良の結果を生む訳ではない……それがカードゲームだ。

 

 

「私はこれで、ターンを終了する」

 

 

私の手札は4枚。

対して、セレナの手札は7枚。

大きく差が出来ている。

 

手札枚数の差は、選択肢の差となる。

私は4種類の選択から選ばなければならないが、セレナは7種類の選択肢があるということ。

 

これは、盤面に対する解決力の差、そして相手への有効打の有無に関わってくる。

その差は大きい。

 

……なるほど、序盤の攻防から理解できた。

彼女は上手い。

 

アキラがクラスで1番、ブッチギリで強いと言っていたのも理解出来た。

……そもそも、対戦相手の情報からデッキタイプと戦略を分析し、その対策(メタ)デッキを構築できる人間が弱い訳がないのだ。

 

この世界のプレイヤーはカードを、全カードが収録された闇鍋パックから入手している。

相手プレイヤーを対策しようとしても、対策カードの用意が難しく、そもそも相手のデッキに採用されているカードの把握が難しい。

 

各々のクラスメイトのカード資産を把握して、現実的な対策(メタ)を組み上げる。

言うだけならば簡単だが、難しい事だ。

 

WoM(ワールドオブマジック)』に対して、十分な理解がなければ出来ないだろう。

 

 

私は、彼女に対する認識を少し上方修正した。

 

 

「私のターン。カードを引いて、1枚マナへ……ふふ、勝負はこれからでしてよ?」

>セレナ:ターン3

>セレナ:手札7→7

>セレナ:マナゾーン2→3

 

 

私の盤面には『スパルトイ』とスパルトイ・トークン。

両方、1/1となっているが、盤面の主導権は私が握っていると言っていいだろう。

 

対して、セレナの盤面は空。

しかし、彼女の手札は7枚。

そして、今ドローしたカードを考慮すれば……マナゾーンへの配置後、手札枚数は7枚となったが、選択肢としては8枚。

 

つまり、8枚のカードをこのターン見ている。

 

動くだろう、間違いなく──

 

 

「私は手札から『ヴァルキリー』を召喚しますわ!」

>セレナ:手札7→6

>セレナ:マナ3→0

 

 

白い翼を生やした、戦乙女が現れる。

────────────────

③ヴァルキリー

クリーチャー・カード

種族:セイクリッド・ナイト

防衛(「防衛」がフィールドに存在する場合、相手は防衛を持たないキャラクターに攻撃できない)

パワー1/タフネス5

────────────────

 

 

なるほど、手堅い。

私はバトルディスクに表示されたカード情報に目を通した。

 

キーワード能力『防衛』を持つ、高体力(タフネス)クリーチャー。

スパルトイ達の攻撃を受け切るつもりだろう。

 

 

「私はこれでターン終了ですわ」

 

 

しかし、攻撃力(パワー)は貧弱。

攻めのクリーチャーではない。

受けのクリーチャーだ。

 

……序盤、中盤にライフを削り切るタイプのデッキではなさそうだ。

しかし、彼女は序盤から『天界の従者』にバフ呪文を付与してみせた。

 

軽量な呪文(スペル)カードを複数投入しつつ、ゲームを長引かせる。

相反する戦略。

 

……単純なコントロールではないだろう。

コントロールは、互いのカードを打ち消し合い、相手の攻め手を受け切り、手札が互いに枯渇した所で相手より1枚の質が高いカードで戦う戦略(アーキタイプ)

一概にそうだ、とは言い切れないが……基本的にはコストの重いカードを複数投入し、終盤にカードパワーの差で勝つ事が優先される。

 

だが、セレナのデッキには軽量な呪文(スペル)カード、そして軽量な生物(クリーチャー)カードが複数投入されている。

1枚では役に立たない強化(バフ)呪文(スペル)までも。

 

では、彼女のデッキとは何を目指しているのか。

 

推測できるのは……呪文(スペル)を連打する事で、優位に立つ事が出来るデッキ。

つまり、コンボデッキ。

 

 

「じゃあ、私のターン。カードを引いて、1枚をマナへ」

>ニーナ:ターン4

>ニーナ:手札4→4

>ニーナ:マナゾーン3→4

 

 

推測が正しいかは分からない。

一旦は留意しよう。

 

私のデッキには重複するカードは存在しない。

ハイランダーデッキだ。

 

デッキのカードは千差万別。

速攻(アグロ)対策用のカードもあれば、コンボ対策用の手札破壊(ハンデス)も存在する。

マナに置くカード……その傾向をコントロールする事で、私のデッキは様々な戦略に対抗できる。

 

だが、それは早い段階で相手のデッキタイプを見抜けてこそだ。

終盤、相手が動き始めてからマナゾーンへ置くカードを選んでも遅い。

序盤から、相手のデッキに合わせた手札管理を行い、質を高める必要がある。

 

一先ず、アグロ対策用に入っている軽量全体除去(AOE)はマナに置いていいだろう。

 

そして……うん。

序盤から詰める必要はなさそうだ。

 

 

「私は手札から『魂の変換』を発動する。私は場のスパルトイ・トークンを破壊して、カードを3枚引く」

>ニーナ:手札4→6

>ニーナ:マナ4→1

────────────────

③魂の変換

呪文カード

自分の場のクリーチャーを1体破壊する。

その後、カードを3枚引く。

────────────────

 

 

ここは私も手札を補充させて貰う。

引いたカードは……よし。

 

 

「続けて、私は手札から『疫病鼠』を召喚する」

>ニーナ:手札6→5

>ニーナ:マナ1→0

 

 

場に骨が剥き出しになったネズミが現れた。

────────────────

①疫病鼠

クリーチャー・カード

種族:テラー・ビースト

召喚時:場の他クリーチャー1体は「猛毒」を持つ(「猛毒」を持つクリーチャーが他クリーチャーと戦闘した場合、戦闘した他クリーチャーを破壊する)

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

「『疫病鼠』の効果により、私の場の『スパルトイ』はキーワード能力『猛毒』を持つ」

 

「っ……」

 

「『猛毒』を持つ『スパルトイ』で『ヴァルキリー』に攻撃」

 

 

骸骨が戦乙女へと飛び掛かる。

しかし、戦乙女の反撃により骸骨は砕け散った。

>スパルトイ(1/1)→(1/0)

>ヴァルキリー(1/5)→(1/4)

 

 

「『スパルトイ』は戦闘で破壊された……しかし、『猛毒』により『ヴァルキリー』も破壊される」

 

 

スパルトイによってダメージを受けた戦乙女が、砕け散った。

 

 

「厄介なカードをお持ちですわね……」

 

「まぁね」

 

 

この場は返せた。

だが、私の場に残ったのは『疫病鼠』が1体。

1/1のクリーチャーだ。

 

3ターン目にこれでは、居ないにも等しい能力値(スタッツ)

 

 

「私はこれでターンを終了する」

 

 

だが、返せないよりはマシだ。

出来れば、1/2の状態で『猛毒』を付与して、1/5の『ヴァルキリー』を破壊しつつ場に残したかったが……致し方ない。

 

 

「では、私のターンですわ!カードを引いて、1枚をマナへ!」

>セレナ:ターン4

>セレナ:手札6→6

>セレナ:マナゾーン3→4

 

 

一見すれば場の有利を取っている私が優勢に見えなくもないが……実際は貧弱な盤面しか残せていない中、4マナも自由に使えるセレナの方が優勢だ。

 

 

「そして、私は手札から『大天使 リコリス』を召喚しますわ!」

>セレナ:手札6→5

>セレナ:マナ4→0

 

 

白銀の鎧を着た天使が、降臨した。

────────────────

④大天使 リコリス

クリーチャー・カード

種族:セイクリッド

自分の手札に存在する呪文カードは、コストがー1される。

パワー3/タフネス3

────────────────

 

 

「『大天使 リコリス』が存在する限り、呪文(スペル)のコストは全て1軽減されますわ」

 

 

コスト軽減能力を持つ、システム・クリーチャーか!

だが、その体力(タフネス)は3……除去できない訳でもない──

 

 

「私は手札から『天からの加護』を発動しますわ!対象は『大天使 リコリス』!」

>セレナ:手札5→4

>セレナ:マナ0→0

────────────────

①天からの加護

呪文カード

場のクリーチャー1体は、+0/+2の修正を受ける。

その後、カードを1枚引く。

────────────────

 

「なっ」

 

「その効果により『大天使 リコリス』の体力(タフネス)強化(バフ)されて、さらに私はカードを1枚引けますわ!」

>大天使 リコリス(3/3)→(3/5)

>セレナ:手札4→5

 

 

元々、『天からの加護』はドロー効果を含むドロー効果付き(キャントリップ)呪文(スペル)……手札消費は0だ。

そして、『大天使 リコリス』のコスト軽減効果により発動コストは0となる。

 

つまり、手札もマナも消費しない。

無料(ただ)という訳だ。

 

しかし……『大天使 リコリス』の体力(タフネス)は5。

生半可な除去では打ち取れない程の高能力値(スタッツ)

 

厄介な状況に──

 

 

「さらに!私は手札から呪文(スペル)『剣に魔力を』を発動しますわ!対象は『大天使 リコリス』!」

>セレナ:手札5→4

>セレナ:マナ0→0

 

 

更に呪文(スペル)を……!

 

 

「『剣に魔力を』の対象となった『大天使 リコリス』の攻撃力(パワー)強化(バフ)され、さらにキーワード能力『突撃』を持ちますわ!」

────────────────

①剣に魔力を

呪文カード

場のクリーチャー1体は、+1/+0の修正を受け、「突撃」を持つ(「突撃」を持つクリーチャーは、場に出たターンからクリーチャーに攻撃できる)

────────────────

>大天使 リコリス(3/5)→(4/5)

 

「むっ……!」

 

 

実質的な4コスト4/5、『突撃』クリーチャー。

マナに対する能力値(スタッツ)と効果が超過した、強力なクリーチャーへと化けた。

 

 

「『突撃』を手に入れた『大天使 リコリス』は場に出たターンから攻撃できましてよ!貴女の『疫病鼠』を攻撃!」

>大天使 リコリス(4/5)→(4/4)

>疫病鼠 (1/1)→(1/0)

 

「くっ……」

 

 

強烈なクリーチャーへと変貌した。

しかし、手札の消費枚数は多い。

クリーチャー本体に呪文(スペル)が2回。

片方の呪文がドロー効果付き(キャントリップ)呪文(スペル)だった事を考慮しても、手札消費は2枚。

 

ここで勝負を決めに来たという訳か──

 

 

「そして、私は手札から呪文(スペル)『小回復』を発動しますわ!」

>セレナ:手札4→3

>セレナ:マナ0→0

 

「なっ……」

 

 

さらに追加で呪文(スペル)を!?

いくら呪文のコストを軽減できるクリーチャーが居るからとはいえ、そんな事をすれば手札が消耗する筈だ。

 

 

「『小回復』の効果!場のクリーチャー1体の体力(タフネス)を2回復しますわ」

────────────────

①小回復

呪文カード

場のクリーチャー1体は2回復する。

その後、このターンに使用した呪文(スペル)カードの枚数が(このカードを含めず)2枚以上だった場合、マナを1つ回復する。

────────────────

 

 

光が天使へと降り注ぎ、傷を癒した。

>大天使 リコリス(4/4)→(4/5)

 

 

「そして、このターン中に使用した呪文(スペル)が2枚以上の場合、マナを1つ回復しますわ!」

 

 

なるほど。

1コストで2点の回復……そして、プレイ数が増えれば実質的に0コストで使用できる呪文(スペル)という事か。

 

だが、現状。

『小回復』は『大天使 リコリス』によって、コストが軽減されて0となっている。

つまり──

 

 

>セレナ:マナ0→1

 

 

0コストで、マナを1つ起き上がらせる呪文となっている……!

 

 

「そして、私は手札から呪文(スペル)『祈りの対価』を発動しますわ!」

>セレナ:手札3→2

>セレナ:マナ1→0

 

 

そして、今、彼女は起き上がった1マナと『大天使 リコリス』の軽減効果により2コストの呪文(スペル)が使用できる!

 

 

「『祈りの対価』はこのターン中に発動した呪文(スペル)の数だけ、ドローできる効果。私が発動したのは3枚。よって、私はカードを3枚ドローできますわ!」

────────────────

②祈りの対価

呪文カード

カードをX枚引く(Xはこのターン中、自分が使用した呪文(スペル)カードの枚数 (このカードは含めない)に等しい)

────────────────

>セレナ:手札2→5

 

 

プレイ数に応じたドロー呪文!

2コストで3ドロー……破格の性能だ。

 

相手の場には4/5、しかもコスト軽減効果を持つシステムクリーチャー。

手札の消費枚数は『祈りの対価』によって、殆ど回収されている。

 

ボードアドバンテージも、手札アドバンテージも彼女の優位!

 

 

「これで私はターンを終了しますわ……さぁ、貴女のターンでしてよ?」

 

 

カードの効果の対象になる度、ドローするクリーチャー。

呪文(スペル)カードのコストを軽減するクリーチャー。

軽量のドロー効果付き(キャントリップ)呪文(スペル)

プレイ数に応じて強力な効果を発揮するカード。

 

 

ここまで並べれば、理解できる。

彼女のデッキ、その戦略が。

 

ずばり、彼女のデッキは──

 

 

「私のターン」

>ニーナ:ターン5

 

 

奇跡(ミラクル)と考えて良いだろう。

 

奇跡(ミラクル)

それはカードがプレイされる事で発動する強化(バフ)効果を持つクリーチャーが、みるみる内に巨大化する事から「まるで奇跡(ミラクル)のようだ」と名付けられたデッキだ。

誘発効果を発動するための軽量呪文、そして軽量呪文をさらに軽くするためのコスト軽減が採用される。

 

勝ち筋は多岐に渡るが、メジャーなのはカードがプレイされる度に「強化される」「ダメージを飛ばす」「増殖する」カードが多い。

もしくは、サブプランとしてカードのプレイ数に応じて強力な効果を発揮する『祈りの対価』のようなカードか。

 

 

「カードを引いて、1枚をマナへ」

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン4→5

 

 

厄介なデッキタイプ。

盤面を形成し下準備をするデッキとは違い、フィニッシャーが急に現れ、呪文(スペル)を連打してくる。

 

先程のコスト軽減クリーチャー『大天使 リコリス』のように。

 

そして、場に残せばゲームエンドまで持っていけるシステムクリーチャーである事も考えなければならない。

確実に処理しなければ、次ターンに呪文(スペル)を連打されて試合が終わる可能性がある……いや、ほぼ確実と言って良いだろう。

 

 

この奇跡(ミラクル)

終盤までフィニッシャーを握り続けていれば序中盤に圧を掛けられずに敗北し、序盤にカードを切り過ぎてしまえば終盤に息切れをする。

 

攻めるタイミングが自由自在……と言えば聞こえは良いが、実際はそのタイミングを見計らうのが難解なデッキだ。

 

この状況。

『大天使 リコリス』を4ターン目にプレイして圧を掛けてきたが、後続が用意出来ていなければ『大天使 リコリス』を破壊された時点で彼女の勝ち筋がなくなる可能性だってある。

 

その、リスク・リターンを天秤に掛けるバランス感覚。

それが必要なデッキなのだ。

 

 

手札から、視線を上げる。

自信に満ちたセレナの顔。

 

 

……どうやら、一筋縄ではいかなさそうだ。

 

彼女のデッキ……軽量呪文(スペル)の連打、そして大量のドロー……リソースの供給は充分に見える。

 

だが……そこに、勝ち筋はある。

 

私はカードに指を滑らせた。

 




わ ぁ っ …

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