TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#3 ピンポイント・メタ

「私のターン」

>ニーナ:ターン5

 

 

僕は目の前にいる少女を見た。

着崩れた身体の大きさに合わないようなコートを羽織っており、フードを深く被っている所為で顔の全体は見えない。

首元に溢れた長い銀髪と、その声からようやく少女であると気付けるような……そんな姿。

 

噂通り。

僕、桐谷 ヒイロが聞いていた通りの不審な姿だ。

友人の竜ヶ崎 ユウキくんが気にしていたから、僕も覚えていた。

 

ユウキくんは僕なんかよりも強いカードバトラーで……秘密結社『VAX』の目の敵にされていた。

一年前、ユウキくんは、僕や幼馴染のミユちゃんも合わせて対VAXチーム『カウンターズ』を結成した。

そして一年間の激闘の末、ユウキくんは『VAX』の総帥を倒し、秘密結社を解散させた。

 

だから、もう終わった話だ。

……そう思っていたけど。

 

 

「私はカードを一枚引いて、マナゾーンへ」

>ニーナ:手札4→4

>ニーナ:マナゾーン4→5

 

 

目の前の不審な少女。

数日前、つまり『VAX』崩壊後に現れた異変。

賭け(アンティ)ルールを仕掛けてくる、とんでもなく強いカードバトラーがいるって噂になってた。

『レアカードハンター』だ、なんて名前で。

 

でも、最近では別に珍しい事じゃない。

ここ数日間、彼女以外にも異変が沢山起きている。

それらは全て『VAX』残党の仕業だった。

 

だから、『レアカードハンター』も『VAX』残党ではないかと疑った訳だけど──

 

 

「まずは……『屍喰いグール』で攻撃」

>屍喰いグール(1/3)

 

「くっ……」

>ヒイロ:ライフ19→18

 

 

違う。

彼女は今まで戦った『VAX』の構成員の誰よりも、強かだ。

 

まだ数ターン、数手しか交わしていないけれど……それでも分かる。

 

彼女の放つ威圧感。

彼女が醸し出している余裕。

そして、その二つを意味している実力。

 

……僕の警戒心を刺激している。

 

 

「そして、私は手札から『魂の変換』を発動。場の『屍喰いグール』を破壊して、3枚引く」

>ニーナ:手札4→6

>ニーナ:マナ5→2

────────────────

③魂の変換

呪文カード

自分の場のクリーチャーを1体破壊する。

その後、カードを3枚引く。

────────────────

 

 

ボード・アドバンテージを手札アドバンテージに変換する呪文(スペル)カードか。

……でも、何が目的なんだ?

 

そもそも、彼女のデッキは何なんだ?

手札交換を繰り返しているようにしか見えない。

 

何か、僕のようにキーカードを探しているのか?

 

目を細めて、自身の手札を見る。

左端にある、煌めくカードを。

 

────────────────

⑧妖精姫 エルザ

レジェンド・クリーチャー・カード

種族:フェアリー

召喚時:マナを4回復する。

永続:自分の場に種族「フェアリー」を持つクリーチャーが出る度、マナを1回復し「速攻」を付与する(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)。

パワー4/タフネス4

────────────────

 

レジェンド・クリーチャーはデッキに1枚しか入れられないカードだ。

WoM(ワールドオブマジック)』は同名カードを4枚まで入れられるが、レジェンド・カードは同名カード以外も含めてデッキに1枚しか入れられない。

その分、効果は強力……正しく切り札だ。

 

『妖精姫 エルザ』は僕のデッキのレジェンド・カード……つまり切り札だ。

そして、デッキには『妖精姫 エルザ』と強力なシナジーを持つカードが二種類入っている。

一つ、種族『フェアリー』を持つフェアリー・トークンを手札の枚数分生成する呪文(スペル)カード、『光の開花』。

二つ、場のフェアリーが攻撃する度に全てのフェアリーの攻撃力を上昇させるクリーチャー、『剣導のスプライト』。

 

この二枚と組み合わせる事で、即座に相手を削り切るワン・ショット・キルコンボが完成する。

 

始動に必要なコストも8と軽く、揃えば即座に狙える。

しかし、メインのキーパーツである『妖精姫 エルザ』がレジェンドカードであること。

手札の枚数がそれなりに必要なこと。

必要なキーパーツの数が3種類であること。

 

揃えば勝てる。

だが、揃えるのも、前提条件を整えるのも難しいコンボとなっている。

 

だから、僕のデッキはキーパーツを探すためのトップ操作や、キーカードを引く確率を上げるためのデッキ圧縮、手札増強のドローを多く採用している。

 

 

同様に……目の前の、ニーナも手札交換カードや、ドロー効果を使っている。

ただし、僕と違って手札を捨てながらドローしている。

 

だから、最初はキーカードを探しているかも知れないと思っていた。

……今は違う。

 

 

「私はターンを終了する」

 

 

彼女はデッキへカードを探している訳ではなさそうだ。

これに明確な根拠はない。

ただ、仕草から見て……そう思っただけだ。

カードの扱い、ドローした時の雰囲気……墓地に送るカードに対する迷いの無さ。

そこからの推測。

 

勘だ。

 

だが、勘でもいい。

『勘』とは積み重ねた実践の歴史が弾き出した、経験から来る推測だからだ。

 

 

「僕のターン!」

>ヒイロ:ターン5

>ヒイロ:手札3→3

>ヒイロ:マナゾーン4→5

 

 

とにかく、手札が足りていない。

キーパーツの『光の開花』は手札枚数と同数のフェアリー・トークンを生成するカードだ。

ワン・ショット・キルには、それなりの手札枚数を要求される。

補充しなければ。

 

 

「僕はマナを1支払い、置物(オーナメント)『根源のトーテム』の効果を発動!」

>ヒイロ:マナ5→4

 

 

デッキのカードを確認して、目当ての呪文(スペル)カードを引き抜く。

直後、デッキがバトルディスクによって、自動でシャッフルされる。

 

 

「僕がデッキから発動するのは『新緑の回廊』!カードを1枚引く!」

>ヒイロ:手札3→4

────────────────

①新緑の回廊

呪文カード

カードを1枚引く。

────────────────

 

 

通常、『新緑の回廊』は手札を呪文本体である1枚消費する事で、デッキからカードを1枚引ける……つまり、1対1の交換のカードだ。

手札は増えない……無意味なカードだ。

マナを支払って1対1交換するなら、元々強いカードを入れておけば良い。

でなければ1マナ無駄になってしまうだけだ。

 

だが、それは手札からプレイした場合だ。

 

設置された置物(オーナメント)から発動する場合、その性質は異なる。

手札消費はなく、1マナを支払う事で1枚手札を増やせる。

『根源のトーテム』から発動する事で1マナを手札1枚に変換できる強力なドローソースへ姿を変える。

 

僕はデッキから引いたカードを確認する。

────────────────

④光の開花

呪文カード

自分の場に種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンをX体生成する(Xは手札の枚数に等しい)。

────────────────

 

よし……キーカードを引けた。

後は『剣導のスプライト』を引きつつ、8ターン目までに手札の枚数を6枚にするだけだ。

 

このターン使える残りのマナは……4か。

手札のカードを確認する。

 

無理はしなくていい。

寧ろ、手札を使うべきじゃない。

ここは何もせず……ターンを受け渡すとしよう。

 

 

「『月齢樹のトーテム』の効果を発動し……デッキトップの操作後、僕はターンを終了する」

 

 

敢えて動かずに、手札を増やしつつ様子見させて貰おう。

 

 

「私のターン。手札を一枚、マナへ」

>ニーナ:ターン6

>ニーナ:手札6→6

>ニーナ:マナゾーン5→6

 

 

ニーナが、指をカードへ這わせる。

……その直後、バトルディスクへカードを置いた。

 

 

「私は手札から、呪文(スペル)『墓呼びの右手』を発動」

>ニーナ:手札6→5

>ニーナ:マナ6→3

 

僕のバトルディスクに、ニーナが発動した呪文(スペル)カードのテキストが表示された。

────────────────

③墓呼びの右手

呪文カード

相手の手札からカードを1枚、ランダムに破棄させる。

────────────────

 

 

「えっ?」

 

 

手札破壊(ハンデス)!?

警戒していなかった……!?

 

手札破壊(ハンデス)は相手プレイヤーの手札リソースを破壊する戦法だ。

だが、言い換えれば、フィールドやライフに干渉しないカード……手札の枚数を互いに1枚ずつ減らすだけ。

更に使用する側がコストを支払っているのだから、1対1の交換にマナまで消費している……使えば損をするカードだ。

フィールドにクリーチャーを並べて殴り勝とうとするデッキには効果が薄い……いや、それどころか隙になりかねない。

 

だが、それでも……キーパーツを揃える必要があるコンボ・デッキには有効打になる。

 

視線をニーナに向ける。

フードを深く被っていて、顔も見れない。

 

視線を落とし、手札の端にある『妖精姫 エルザ』を確認する。

このカードはレジェンド・クリーチャー……デッキに1枚しか入っていない。

代用品はない。

つまり、万が一にでも墓地へ落とされたら……拙い。

こういう時の為に墓地のカードを回収する呪文(スペル)も採用している。

だけど、今度はその墓地回収カードをデッキから引かなければならない。

 

……やむを得ない。

『妖精姫エルザ』を守るために、このカードを切るしかない。

 

 

「僕は高速(クイック)呪文(スペル)、『魔術の相殺』を発動!」

>ヒイロ:手札4→3

>ヒイロ:マナ4→1

────────────────

③魔術の相殺

高速呪文カード

相手の発動した呪文カード1つを打ち消す。

────────────────

 

高速(クイック)呪文(スペル)、それは相手ターンにも発動できる呪文(スペル)カードだ。

戦闘時、召喚時、呪文の発動時、ターンの交代時など……任意のタイミングで使える利点がある。

しかし、『WoM(ワールドオブマジック)』でマナが回復するのは自分のターン開始時だ。

3マナの高速(クイック)呪文(スペル)を使いたければ、自分ターンの最後にマナが3以上残るようにしなければならない。

 

前ターン、マナを多く残しておいて良かった。

 

 

「君が発動した『墓呼びの右手』を打ち消す!」

 

 

間一髪、冷や汗を拭う。

 

手札破壊(ハンデス)には驚いたが、上手くしのげた──

 

 

「…………」

 

 

……のか?

ニーナは自身の放った手札破壊(ハンデス)を止められたというのに、悔しそうにもしていない。

 

悪寒。

 

鳥肌がたつ。

何か、僕は選択を間違えたのだろうか。

そう思わずにはいられない。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私の発動した手札破壊(ハンデス)、『墓呼びの右手』は無効化されてしまった。

しかし、そのお陰で……逆に、私は情報を得る事が出来た。

 

打ち消し効果を持っている高速(クイック)呪文(スペル)を吐いたという事実。

それは、手札に破棄されたくないカードがあると語っているようなものだ。

 

 

ヒイロの手札が、透けて見える。

既にキーカードを引いているのだろう。

 

 

ここで打ち消しを吐かせたのも大きい。

ヒイロの手札は残り3枚……そして少なくとも1枚以上がコンボ用のカード。

そう何枚も打ち消しを持っているとは思えない。

 

打ち消しがなくなれば、私が本当に通したいカードを通せるようになる。

だから、『墓呼びの右手』を打ち消されたのは損失ではない。

 

情報アドバンテージを得たこと。

打ち消しを吐かせたこと。

例え、本来の手札破壊効果が止められたとしても、『墓呼びの右手』は十分に仕事をした。

 

 

「私はターンを終了する」

 

「……僕のターン。手札を1枚、マナへ置く」

>ヒイロ:ターン6

>ヒイロ:手札3→3

>ヒイロ:マナゾーン5→6

 

 

ヒイロの手札は少ない。

手札が少なくなれば、ランダムな手札破壊(ハンデス)によってキーカードが落ちる確率が上がる。

 

だから、ヒイロが選ぶ次の手は──

 

 

「僕はマナを1つ支払い、置物(オーナメント)『根源のトーテム』の効果を発動する!そして、デッキから発動した『新緑の回廊』によって1枚引く」

>ヒイロ:マナ6→5

>ヒイロ:手札3→4

 

 

手札の補充によって、手札破壊(ハンデス)がキーカードに当たる確率を下げる……いや、違う、それだけではないな。

それだけなら、これほど手札を増やすカードがデッキに入っている理由が付かない。

 

 

「さらに僕は、手札から『森の音楽隊』を召喚!」

>ヒイロ:手札4→3

>ヒイロ:マナ5→0

────────────────

⑤森の音楽隊

クリーチャー・カード

種族:ビースト・インセクト

召喚時/死亡時/ターン終了時:カードを1枚引く。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

フィールドに犬や猫、熊や巨大な昆虫が現れた。

各々、楽器を持って演奏している。

 

 

「僕は『森の音楽隊』の召喚時効果により、1枚引く」

>ヒイロ:手札3→4

 

 

複数のタイミングでドローできるクリーチャーか。

 

……確信した。

ドロー効果はキーパーツを探しているだけじゃない。

手札の枚数を参照するカード、その発動を目指していると見ていいだろう。

 

 

「そしてターンを終了し、僕は再び『森の音楽隊』の効果を──

 

「その瞬間、手札から高速(クイック)呪文(スペル)『不意打ち』を発動」

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ3→1

────────────────

②不意打ち

高速呪文カード

このターン、ダメージを受けていないクリーチャー1体に1ダメージ。

その後、カードを1枚引く。

────────────────

 

「なっ──

 

「対象は『森の音楽隊』。ダメージを与え、破壊する」

 

 

フィールドにいた獣達の集会所に、火が放たれた。

火がついた動物達が逃げ惑い、散り散りとなる。

 

 

「っ、でも『森の音楽隊』の死亡時効果で、僕はカードを1枚引く」

>ヒイロ:手札4→5

 

 

召喚時と死亡時、合計で2枚引かれたか。

でも、あのまま放置すれば3枚以上ドローされていた。

それに──

 

 

「私も『不意打ち』の効果で、1枚引く」

>ニーナ:手札4→5

 

 

私もドロー出来ている。

『不意打ち』は当てる対象が同一ターン上でダメージを受けていないクリーチャーのみ、と対象が限定されている代わりに、コストさえ支払えば手札消費もなく撃てるドロー効果持ち(キャントリップ)高速(クイック)・除去・呪文(スペル)だ。

 

手札消費もなく、タフネス1のクリーチャーを除去できる。

状況を選ぶが、私好みのカードだ。

 

 

「私のターン……カードを1枚引いて、1枚マナへ」

>ニーナ:ターン7

>ニーナ:手札5→5

>ニーナ:マナゾーン6→7

 

 

手札のカードを確認する。

『精神を刻む者』へと。

────────────────

⑧精神を刻む者

クリーチャー・カード

────────────────

今、ヒイロのマナは0。

高速(クイック)呪文(スペル)による打ち消しを懸念しなくて良い今、『精神を刻む者』を出したい状況だが……私のマナは7。

対して『精神を刻む者』は8コスト……次ターンにならなければ、プレイできない。

 

しかし、その1ターン後。

ヒイロが前ターンに打ち消しカードを手に入れていた場合、再びマナを支払わずターンを受け渡すかもしれない。

その場合、妨害の可能性を考慮して『精神を刻む者』を撃つか……読み合いになってしまう。

 

『精神を刻む者』は8コストだ。

打ち消されてしまった場合、大きく隙を晒してしまう。

それは避けなければならない。

 

ならば、どうするか。

打ち消しを打ち消すか?

いいや、それは8マナでは足りない。

『精神を刻む者』のコストに上乗せして、打ち消し高速(クイック)呪文(スペル)を撃つ余裕はない。

 

8ターン目に『精神を刻む者』を安全に着地させるには──

 

 

「私は手札から『ミラージュ・ナイト』を召喚」

>ニーナ:手札5→4

>ニーナ:マナ7→1

────────────────

⑥ミラージュ・ナイト

クリーチャー・カード

種族:ナイト

防衛(防衛がフィールドに存在する場合、相手は防衛を持たないキャラクターに攻撃できない)

召喚時:このカードと同様の効果、ステータスを持つコピー・トークンを2体生成する。

パワー1/タフネス3

────────────────

 

 

除去を強要させ、マナを吐かせるしかない。

黒い鎧を着た騎士が、私のフィールドに召喚された。

 

 

「そして『ミラージュ・ナイト』の効果。自身と同一の能力を持つ、コピー・トークンを2体生成する」

 

 

『ミラージュ・ナイト』の身体から霧が発生し、全く同じ姿をしてトークンが二体生成された。

それを見たヒイロの表情が険しくなる。

 

 

ふむ。

……なるほど、ヒイロの狙っているコンボは、効果ダメージを狙うバーンではなく、クリーチャーで殴るタイプのコンボか。

表情から読めた。

 

 

それならば、キーワード能力『防衛』持ちがいれば安心だ。

 

WoM(ワールドオブマジック)』は場にクリーチャーがいようと、プレイヤーへ攻撃できる。

だが『防衛』を持つクリーチャーがいれば別だ。

『防衛』を持たないクリーチャーとプレイヤーを攻撃から守ってくれる。

 

 

「そして、私はターンを終了する」

 

 

さて、ヒイロはどうする?

 

ヒイロの挙動から大体のコンボ内容は推測出来ている。

複数のカードを必要とし、そして手札の枚数を参照し、速攻クリーチャーによる直接攻撃を目指す……そんな所だろう。

 

だが、私の場には防衛持ちのクリーチャーが3体……直接攻撃は通らない。

 

だから、除去せざるを得ない。

マナを支払わざるを得ない。

 

私はそう、確信していた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「僕のターンだ。1枚引いて……1枚、マナへ置く」

>ヒイロ:ターン7

>ヒイロ:手札5→5

>ヒイロ:マナゾーン6→7

 

 

僕は手札のカードを確認し、眉を顰める。

……今の手札では、相手の場にいる『ミラージュ・ナイト』達を除去できない。

 

それなら──

 

 

「『根源のトーテム』の効果を発動!デッキから発動した『新緑の回廊』によって1枚引く」

>ヒイロ:マナ7→6

>ヒイロ:手札5→6

 

 

デッキからカードを1枚引き……確認する。

 

 

「……よし」

 

 

この状況を解決できるカードを引いた。

 

偶然引けた。

ラッキーだ。

 

だけど、1コストの呪文を『根源のトーテム』で消費し続けてデッキ圧縮が出来ていたこと……そして、ドロー効果を多用していた事によって引けた『狙えた』偶然だった。

 

とにかく、この幸運を活かさなければならない。

 

 

「僕は手札から、『木の葉吹雪』を発動!この呪文(スペル)は僕の手札の枚数分の敵クリーチャーに3ダメージを与えるカード!」

>ヒイロ:手札6→5

>ヒイロ:マナ6→0

────────────────

⑥木の葉吹雪

呪文カード

フィールドのクリーチャーX体に3ダメージ(Xは手札の枚数に等しい)。その後、カードを1枚引く。

────────────────

 

 

手札の枚数を参照する擬似全体除去(AOE)だ。

 

そして、僕の手札は5枚。

対してニーナのフィールドに存在するクリーチャーは3体。

枚数は十分。

 

 

「僕の手札は5枚!相手のクリーチャー3体全てに3ダメージを与える!」

 

 

木の葉が巻き上がり、『ミラージュ・ナイト』を切り刻む。

そのまま黒い鎧は砕け散った。

召喚されたコピー・トークンも同様に砕ける。

 

これでフィールドはガラ空きになった。

 

 

「その後、僕はカードを1枚引ける」

>ヒイロ:手札5→6

 

 

引いたカードは……。

────────────────

⑤剣導のスプライト

クリーチャー・カード

種族:エルフ・ナイト

自分の場の種族「フェアリー」クリーチャーが攻撃する時:自分の場の種族「フェアリー」クリーチャーはターン終了時まで+1/+0の修正を受ける。

パワー2/タフネス4

────────────────

 

 

来た!

これで必要なカードは揃った!

 

次ターン、8ターン目にワン・ショット・キルが狙える!

 

手順としては──

①8コスト支払い、『妖精姫エルザ』を召喚……召喚時効果でマナを4回復。

②次に、4マナ支払い、『光の開花』を発動して1/1のフェアリー・トークンを5体召喚。

『妖精姫エルザ』の効果でフェアリー・トークンに速攻を付与しつつ、マナを5回復。

③最後に、回復した5マナを支払って『剣導のスプライト』を召喚。

④そして、速攻が付与されたフェアリー・トークン5体で攻撃。

『剣導のスプライト』の効果で、攻撃時にフェアリー・クリーチャー達の攻撃力(パワー)は+1されるから──

 

 

フェアリー・トークン5体で攻撃、2+3+4+5+6の合計20ダメージ……ワン・ショット・キルの達成だ。

 

『防衛』を持つクリーチャーも突破した。

キーカードも揃った。

手札の枚数も問題ない。

このまま、次ターンを迎えるだけでいい。

それだけで勝てる。

 

 

「僕はターンを終了する」

 

 

ターンを受け渡し、僕は視線を上げた。

……フードを深くかぶっていて、ニーナの顔は見えない。

 

だけど、何故か──

 

 

「私のターン。カードを1枚引き、マナへ」

>ニーナ:ターン8

>ニーナ:手札4→4

>ニーナ:マナゾーン7→8

 

 

酷く、嫌な予感がした。

思い通りに動かされているんじゃないか、という恐怖だ。

 

そして、ニーナのターンが始まった瞬間……彼女は、一瞬の迷いもなく手札のカードをバトルディスクへ置いた。

 

 

「私は『精神を刻む者』を召喚」

>ニーナ:手札4→3

>ニーナ:マナ8→0

 

 

赤い触手に、人の目玉が沢山埋め込まれたクリーチャーが姿を現した。

冒涜的な姿に……いや、何よりも『一瞬の迷いもなく』プレイされた8コストの大型クリーチャーという事実に、僕は息を呑んだ。

 

 

「そして『精神を刻む者』の効果──

 

 

マナはない。

その効果の発動を、僕は妨害できない。

 

 

「貴方の手札を1枚──

 

 

だけど、ここを耐えれば次ターンに勝てる。

手札破壊(ハンデス)だとしても、キーカード以外に当たれば問題ない。

最悪の場合、墓地回収(サルベージ)効果がある呪文(スペル)を引けたらリカバリーもできる。

 

だから、これで僕の──

 

 

「奪う」

 

「……え?」

 

 

視線をバトルディスクへ落とす。

カードの効果が、表示されている。

 

────────────────

⑧精神を刻む者

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:相手の手札を確認し、1枚選ぶ。

選択したカードを自分の手札へ加える。

パワー5/タフネス5

────────────────

 

 

「なっ──

 

 

これは、ランダム手札破壊(ハンデス)じゃない!

それよりももっと、悪質な……覗き見(ビーピング)付きの手札奪取カードだ!

 

フィールドの『精神を刻む者』の目が、輝く。

全てを見通せると、そう言わんばかりに。

 

 

「さぁ、貴方の手札を見せて」

 

 

そして、ようやく僕は理解した。

全体除去(AOE)でボードを処理『出来た』んじゃない……処理『させられた』んだ。

高速(クイック)呪文(スペル)で抵抗する為のマナを枯らして、確実に『精神を刻む者』を通すために!

 

 

「……ふぅん。そういうコンボだったんだ……」

 

 

まずい、まずい、まずい!

『妖精姫エルザ』は1枚しかデッキにいない。

そして、僕のデッキに手札破壊(ハンデス)はない。

 

つまり……僕から『妖精姫エルザ』を奪って、手札にキープしているだけで……二度と、僕の手札に戻りはしない。

ワン・ショット・キルコンボは、永久に完成しない。

 

汗が濁流のように流れる。

祈るような気持ちが、胸に押し寄せる。

 

だけど、それでも……現実は──

 

 

「じゃあ、うん。『妖精姫エルザ』を貰おうかな」

 

 

非情だ。

彼女は選択(プレイング)を間違えない。

 

僕は、足元が崩れるような幻覚を見た。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私の手札に収められたカード……『妖精姫エルザ』に視線を落とす。

デッキに1枚しか投入できないレジェンド・カード。

そして、ヒイロの手札にはこのカードを基盤にしたワン・ショット・キル用のカードがあった。

 

間違いなく、コンボの中核。

 

その中核を抜かれたヒイロのデッキは今……最早、エンジンのない車のようなもの。

勝ち筋はもうない。

 

 

『詰み』だ。

 

 

ヒイロは降参(サレンダー)をしていないが、それでも彼の顔は青褪めている。

 

これなら……私の切り札を使うまでもない。

奪ったカードから視線を横へ、映す。

 

11コストの、レジェンド・クリーチャー。

このデッキの切り札──

 

手負いの相手に油断はしない……だが、このカードの出番はない。

そもそも、11マナに到達する事もない。

私のデッキタイプを教える必要もない。

 

このまま勝ち筋を失った相手をすり潰すだけなのだから。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「私のターン」

>ニーナ:ターン11

>ニーナ:手札4→5

 

 

「『骸の槍兵』で相手プレイヤーを攻撃」

 

 

私がカードをタップすると、フィールドにいる槍を持った骸骨が動き出した。

そして、ヒイロへ突進攻撃を繰り出した。

 

 

「く、うわぁっ……!?」

>ヒイロ:ライフ4→0

 

 

地面を転がって、壁にぶつかった。

……偶然だけど、さっき倒した別のカードバトラーの横に転がった。

 

 

『『バトル・エンデッド』』

 

 

バトルディスクがカードバトルの勝敗を確定させ、具現化されたカードの虚像達が消滅した。

 

 

「……これで私の勝ち」

 

「……う、くっ」

 

 

蹲って、息を切らしている。

……気を失ってないだけ、今まで戦ってきたカードバトラーに比べてタフだ。

 

私は手札のカードを1枚、ヒイロに見せつけるように公開した。

 

 

「じゃあこれ、貰っていくから」

 

 

公開したカードは『妖精姫エルザ』。

『精神を刻む者』によって奪取した、ヒイロのレアカードだ。

 

 

「まっ……て……」

 

 

悔しそうに顔を歪めて、コンクリート剥き出しの地面に手をついている。

その仕草を見て、私はこの賭け(アンティ)ルールの条件を思い出した。

曰く、好きなだけレアカードを持って行って良いと。

つまりデッキのカードを全て奪う事だって出来る。

 

でも、まぁ──

 

 

「あ。貰っていくのは、これ1枚『だけ』でいいから」

 

 

そこまでしようとは思わないけど。

 

だって、楽しかったし。

本当に久しぶりに。

 

施設の外に出てから、私は退屈していたのだ。

だって、施設内のシミュレーションよりも遥かに弱いカードバトラーしか居なかったから。

 

弱いカードを、メチャクチャな手順で、相互作用も考えず投げてくる相手プレイヤー。

そんな奴らをボコボコにしても何も面白くない。

 

やたら滅多に適当な事を言う奴を相手に、会話なんて出来はしない。

それに比べて、ヒイロは別格だった。

カードを通して互いの戦略を読み合い、ぶつけ合えた。

 

そうだ。

これがカードゲーム……『WoM(ワールドオブマジック)』の醍醐味だ。

 

だから、気に入った。

また対戦したいと思える程には。

 

 

「このカードは売らない。だから、またリベンジしに来て」

 

 

私がそう言うも……あれ?

返事がないな、なんて視線を落とした。

 

……気を失っていた。

 

 

「……うーん、しまらないなぁ」

 

 

ため息を吐いて、私は奪ったカードを懐に入れる。

この『妖精姫エルザ』を売れば大金になるだろうけど……そこまで困ってはいない。

今日は2戦したし、もう一枚の『ホワイト・グリフォン』を売れば良いだろう。

 

私は指で口元を触れる。

……気分がいいのに、また無表情に戻っていた。

 

ま、いいか。

 

鼻歌を歌いながら、私は路地裏を後にした。

……人が二人倒れてる、事件現場みたいになってるけど。

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