TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい 作:WhatSoon
「私のターン」
>ニーナ:ターン5
僕は目の前にいる少女を見た。
着崩れた身体の大きさに合わないようなコートを羽織っており、フードを深く被っている所為で顔の全体は見えない。
首元に溢れた長い銀髪と、その声からようやく少女であると気付けるような……そんな姿。
噂通り。
僕、桐谷 ヒイロが聞いていた通りの不審な姿だ。
友人の竜ヶ崎 ユウキくんが気にしていたから、僕も覚えていた。
ユウキくんは僕なんかよりも強いカードバトラーで……秘密結社『VAX』の目の敵にされていた。
一年前、ユウキくんは、僕や幼馴染のミユちゃんも合わせて対VAXチーム『カウンターズ』を結成した。
そして一年間の激闘の末、ユウキくんは『VAX』の総帥を倒し、秘密結社を解散させた。
だから、もう終わった話だ。
……そう思っていたけど。
「私はカードを一枚引いて、マナゾーンへ」
>ニーナ:手札4→4
>ニーナ:マナゾーン4→5
目の前の不審な少女。
数日前、つまり『VAX』崩壊後に現れた異変。
『レアカードハンター』だ、なんて名前で。
でも、最近では別に珍しい事じゃない。
ここ数日間、彼女以外にも異変が沢山起きている。
それらは全て『VAX』残党の仕業だった。
だから、『レアカードハンター』も『VAX』残党ではないかと疑った訳だけど──
「まずは……『屍喰いグール』で攻撃」
>屍喰いグール(1/3)
「くっ……」
>ヒイロ:ライフ19→18
違う。
彼女は今まで戦った『VAX』の構成員の誰よりも、強かだ。
まだ数ターン、数手しか交わしていないけれど……それでも分かる。
彼女の放つ威圧感。
彼女が醸し出している余裕。
そして、その二つを意味している実力。
……僕の警戒心を刺激している。
「そして、私は手札から『魂の変換』を発動。場の『屍喰いグール』を破壊して、3枚引く」
>ニーナ:手札4→6
>ニーナ:マナ5→2
────────────────
③魂の変換
呪文カード
自分の場のクリーチャーを1体破壊する。
その後、カードを3枚引く。
────────────────
ボード・アドバンテージを手札アドバンテージに変換する
……でも、何が目的なんだ?
そもそも、彼女のデッキは何なんだ?
手札交換を繰り返しているようにしか見えない。
何か、僕のようにキーカードを探しているのか?
目を細めて、自身の手札を見る。
左端にある、煌めくカードを。
────────────────
⑧妖精姫 エルザ
レジェンド・クリーチャー・カード
種族:フェアリー
召喚時:マナを4回復する。
永続:自分の場に種族「フェアリー」を持つクリーチャーが出る度、マナを1回復し「速攻」を付与する(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)。
パワー4/タフネス4
────────────────
レジェンド・クリーチャーはデッキに1枚しか入れられないカードだ。
『
その分、効果は強力……正しく切り札だ。
『妖精姫 エルザ』は僕のデッキのレジェンド・カード……つまり切り札だ。
そして、デッキには『妖精姫 エルザ』と強力なシナジーを持つカードが二種類入っている。
一つ、種族『フェアリー』を持つフェアリー・トークンを手札の枚数分生成する
二つ、場のフェアリーが攻撃する度に全てのフェアリーの攻撃力を上昇させるクリーチャー、『剣導のスプライト』。
この二枚と組み合わせる事で、即座に相手を削り切るワン・ショット・キルコンボが完成する。
始動に必要なコストも8と軽く、揃えば即座に狙える。
しかし、メインのキーパーツである『妖精姫 エルザ』がレジェンドカードであること。
手札の枚数がそれなりに必要なこと。
必要なキーパーツの数が3種類であること。
揃えば勝てる。
だが、揃えるのも、前提条件を整えるのも難しいコンボとなっている。
だから、僕のデッキはキーパーツを探すためのトップ操作や、キーカードを引く確率を上げるためのデッキ圧縮、手札増強のドローを多く採用している。
同様に……目の前の、ニーナも手札交換カードや、ドロー効果を使っている。
ただし、僕と違って手札を捨てながらドローしている。
だから、最初はキーカードを探しているかも知れないと思っていた。
……今は違う。
「私はターンを終了する」
彼女はデッキへカードを探している訳ではなさそうだ。
これに明確な根拠はない。
ただ、仕草から見て……そう思っただけだ。
カードの扱い、ドローした時の雰囲気……墓地に送るカードに対する迷いの無さ。
そこからの推測。
勘だ。
だが、勘でもいい。
『勘』とは積み重ねた実践の歴史が弾き出した、経験から来る推測だからだ。
「僕のターン!」
>ヒイロ:ターン5
>ヒイロ:手札3→3
>ヒイロ:マナゾーン4→5
とにかく、手札が足りていない。
キーパーツの『光の開花』は手札枚数と同数のフェアリー・トークンを生成するカードだ。
ワン・ショット・キルには、それなりの手札枚数を要求される。
補充しなければ。
「僕はマナを1支払い、
>ヒイロ:マナ5→4
デッキのカードを確認して、目当ての
直後、デッキがバトルディスクによって、自動でシャッフルされる。
「僕がデッキから発動するのは『新緑の回廊』!カードを1枚引く!」
>ヒイロ:手札3→4
────────────────
①新緑の回廊
呪文カード
カードを1枚引く。
────────────────
通常、『新緑の回廊』は手札を呪文本体である1枚消費する事で、デッキからカードを1枚引ける……つまり、1対1の交換のカードだ。
手札は増えない……無意味なカードだ。
マナを支払って1対1交換するなら、元々強いカードを入れておけば良い。
でなければ1マナ無駄になってしまうだけだ。
だが、それは手札からプレイした場合だ。
設置された
手札消費はなく、1マナを支払う事で1枚手札を増やせる。
『根源のトーテム』から発動する事で1マナを手札1枚に変換できる強力なドローソースへ姿を変える。
僕はデッキから引いたカードを確認する。
────────────────
④光の開花
呪文カード
自分の場に種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンをX体生成する(Xは手札の枚数に等しい)。
────────────────
よし……キーカードを引けた。
後は『剣導のスプライト』を引きつつ、8ターン目までに手札の枚数を6枚にするだけだ。
このターン使える残りのマナは……4か。
手札のカードを確認する。
無理はしなくていい。
寧ろ、手札を使うべきじゃない。
ここは何もせず……ターンを受け渡すとしよう。
「『月齢樹のトーテム』の効果を発動し……デッキトップの操作後、僕はターンを終了する」
敢えて動かずに、手札を増やしつつ様子見させて貰おう。
「私のターン。手札を一枚、マナへ」
>ニーナ:ターン6
>ニーナ:手札6→6
>ニーナ:マナゾーン5→6
ニーナが、指をカードへ這わせる。
……その直後、バトルディスクへカードを置いた。
「私は手札から、
>ニーナ:手札6→5
>ニーナ:マナ6→3
僕のバトルディスクに、ニーナが発動した
────────────────
③墓呼びの右手
呪文カード
相手の手札からカードを1枚、ランダムに破棄させる。
────────────────
「えっ?」
警戒していなかった……!?
だが、言い換えれば、フィールドやライフに干渉しないカード……手札の枚数を互いに1枚ずつ減らすだけ。
更に使用する側がコストを支払っているのだから、1対1の交換にマナまで消費している……使えば損をするカードだ。
フィールドにクリーチャーを並べて殴り勝とうとするデッキには効果が薄い……いや、それどころか隙になりかねない。
だが、それでも……キーパーツを揃える必要があるコンボ・デッキには有効打になる。
視線をニーナに向ける。
フードを深く被っていて、顔も見れない。
視線を落とし、手札の端にある『妖精姫 エルザ』を確認する。
このカードはレジェンド・クリーチャー……デッキに1枚しか入っていない。
代用品はない。
つまり、万が一にでも墓地へ落とされたら……拙い。
こういう時の為に墓地のカードを回収する
だけど、今度はその墓地回収カードをデッキから引かなければならない。
……やむを得ない。
『妖精姫エルザ』を守るために、このカードを切るしかない。
「僕は
>ヒイロ:手札4→3
>ヒイロ:マナ4→1
────────────────
③魔術の相殺
高速呪文カード
相手の発動した呪文カード1つを打ち消す。
────────────────
戦闘時、召喚時、呪文の発動時、ターンの交代時など……任意のタイミングで使える利点がある。
しかし、『
3マナの
前ターン、マナを多く残しておいて良かった。
「君が発動した『墓呼びの右手』を打ち消す!」
間一髪、冷や汗を拭う。
「…………」
……のか?
ニーナは自身の放った
悪寒。
鳥肌がたつ。
何か、僕は選択を間違えたのだろうか。
そう思わずにはいられない。
◇◆◇
私の発動した
しかし、そのお陰で……逆に、私は情報を得る事が出来た。
打ち消し効果を持っている
それは、手札に破棄されたくないカードがあると語っているようなものだ。
ヒイロの手札が、透けて見える。
既にキーカードを引いているのだろう。
ここで打ち消しを吐かせたのも大きい。
ヒイロの手札は残り3枚……そして少なくとも1枚以上がコンボ用のカード。
そう何枚も打ち消しを持っているとは思えない。
打ち消しがなくなれば、私が本当に通したいカードを通せるようになる。
だから、『墓呼びの右手』を打ち消されたのは損失ではない。
情報アドバンテージを得たこと。
打ち消しを吐かせたこと。
例え、本来の手札破壊効果が止められたとしても、『墓呼びの右手』は十分に仕事をした。
「私はターンを終了する」
「……僕のターン。手札を1枚、マナへ置く」
>ヒイロ:ターン6
>ヒイロ:手札3→3
>ヒイロ:マナゾーン5→6
ヒイロの手札は少ない。
手札が少なくなれば、ランダムな
だから、ヒイロが選ぶ次の手は──
「僕はマナを1つ支払い、
>ヒイロ:マナ6→5
>ヒイロ:手札3→4
手札の補充によって、
それだけなら、これほど手札を増やすカードがデッキに入っている理由が付かない。
「さらに僕は、手札から『森の音楽隊』を召喚!」
>ヒイロ:手札4→3
>ヒイロ:マナ5→0
────────────────
⑤森の音楽隊
クリーチャー・カード
種族:ビースト・インセクト
召喚時/死亡時/ターン終了時:カードを1枚引く。
パワー1/タフネス1
────────────────
フィールドに犬や猫、熊や巨大な昆虫が現れた。
各々、楽器を持って演奏している。
「僕は『森の音楽隊』の召喚時効果により、1枚引く」
>ヒイロ:手札3→4
複数のタイミングでドローできるクリーチャーか。
……確信した。
ドロー効果はキーパーツを探しているだけじゃない。
手札の枚数を参照するカード、その発動を目指していると見ていいだろう。
「そしてターンを終了し、僕は再び『森の音楽隊』の効果を──
「その瞬間、手札から
>ニーナ:手札5→4
>ニーナ:マナ3→1
────────────────
②不意打ち
高速呪文カード
このターン、ダメージを受けていないクリーチャー1体に1ダメージ。
その後、カードを1枚引く。
────────────────
「なっ──
「対象は『森の音楽隊』。ダメージを与え、破壊する」
フィールドにいた獣達の集会所に、火が放たれた。
火がついた動物達が逃げ惑い、散り散りとなる。
「っ、でも『森の音楽隊』の死亡時効果で、僕はカードを1枚引く」
>ヒイロ:手札4→5
召喚時と死亡時、合計で2枚引かれたか。
でも、あのまま放置すれば3枚以上ドローされていた。
それに──
「私も『不意打ち』の効果で、1枚引く」
>ニーナ:手札4→5
私もドロー出来ている。
『不意打ち』は当てる対象が同一ターン上でダメージを受けていないクリーチャーのみ、と対象が限定されている代わりに、コストさえ支払えば手札消費もなく撃てる
手札消費もなく、タフネス1のクリーチャーを除去できる。
状況を選ぶが、私好みのカードだ。
「私のターン……カードを1枚引いて、1枚マナへ」
>ニーナ:ターン7
>ニーナ:手札5→5
>ニーナ:マナゾーン6→7
手札のカードを確認する。
『精神を刻む者』へと。
────────────────
⑧精神を刻む者
クリーチャー・カード
────────────────
今、ヒイロのマナは0。
対して『精神を刻む者』は8コスト……次ターンにならなければ、プレイできない。
しかし、その1ターン後。
ヒイロが前ターンに打ち消しカードを手に入れていた場合、再びマナを支払わずターンを受け渡すかもしれない。
その場合、妨害の可能性を考慮して『精神を刻む者』を撃つか……読み合いになってしまう。
『精神を刻む者』は8コストだ。
打ち消されてしまった場合、大きく隙を晒してしまう。
それは避けなければならない。
ならば、どうするか。
打ち消しを打ち消すか?
いいや、それは8マナでは足りない。
『精神を刻む者』のコストに上乗せして、打ち消し
8ターン目に『精神を刻む者』を安全に着地させるには──
「私は手札から『ミラージュ・ナイト』を召喚」
>ニーナ:手札5→4
>ニーナ:マナ7→1
────────────────
⑥ミラージュ・ナイト
クリーチャー・カード
種族:ナイト
防衛(防衛がフィールドに存在する場合、相手は防衛を持たないキャラクターに攻撃できない)
召喚時:このカードと同様の効果、ステータスを持つコピー・トークンを2体生成する。
パワー1/タフネス3
────────────────
除去を強要させ、マナを吐かせるしかない。
黒い鎧を着た騎士が、私のフィールドに召喚された。
「そして『ミラージュ・ナイト』の効果。自身と同一の能力を持つ、コピー・トークンを2体生成する」
『ミラージュ・ナイト』の身体から霧が発生し、全く同じ姿をしてトークンが二体生成された。
それを見たヒイロの表情が険しくなる。
ふむ。
……なるほど、ヒイロの狙っているコンボは、効果ダメージを狙うバーンではなく、クリーチャーで殴るタイプのコンボか。
表情から読めた。
それならば、キーワード能力『防衛』持ちがいれば安心だ。
『
だが『防衛』を持つクリーチャーがいれば別だ。
『防衛』を持たないクリーチャーとプレイヤーを攻撃から守ってくれる。
「そして、私はターンを終了する」
さて、ヒイロはどうする?
ヒイロの挙動から大体のコンボ内容は推測出来ている。
複数のカードを必要とし、そして手札の枚数を参照し、速攻クリーチャーによる直接攻撃を目指す……そんな所だろう。
だが、私の場には防衛持ちのクリーチャーが3体……直接攻撃は通らない。
だから、除去せざるを得ない。
マナを支払わざるを得ない。
私はそう、確信していた。
◇◆◇
「僕のターンだ。1枚引いて……1枚、マナへ置く」
>ヒイロ:ターン7
>ヒイロ:手札5→5
>ヒイロ:マナゾーン6→7
僕は手札のカードを確認し、眉を顰める。
……今の手札では、相手の場にいる『ミラージュ・ナイト』達を除去できない。
それなら──
「『根源のトーテム』の効果を発動!デッキから発動した『新緑の回廊』によって1枚引く」
>ヒイロ:マナ7→6
>ヒイロ:手札5→6
デッキからカードを1枚引き……確認する。
「……よし」
この状況を解決できるカードを引いた。
偶然引けた。
ラッキーだ。
だけど、1コストの呪文を『根源のトーテム』で消費し続けてデッキ圧縮が出来ていたこと……そして、ドロー効果を多用していた事によって引けた『狙えた』偶然だった。
とにかく、この幸運を活かさなければならない。
「僕は手札から、『木の葉吹雪』を発動!この
>ヒイロ:手札6→5
>ヒイロ:マナ6→0
────────────────
⑥木の葉吹雪
呪文カード
フィールドのクリーチャーX体に3ダメージ(Xは手札の枚数に等しい)。その後、カードを1枚引く。
────────────────
手札の枚数を参照する擬似
そして、僕の手札は5枚。
対してニーナのフィールドに存在するクリーチャーは3体。
枚数は十分。
「僕の手札は5枚!相手のクリーチャー3体全てに3ダメージを与える!」
木の葉が巻き上がり、『ミラージュ・ナイト』を切り刻む。
そのまま黒い鎧は砕け散った。
召喚されたコピー・トークンも同様に砕ける。
これでフィールドはガラ空きになった。
「その後、僕はカードを1枚引ける」
>ヒイロ:手札5→6
引いたカードは……。
────────────────
⑤剣導のスプライト
クリーチャー・カード
種族:エルフ・ナイト
自分の場の種族「フェアリー」クリーチャーが攻撃する時:自分の場の種族「フェアリー」クリーチャーはターン終了時まで+1/+0の修正を受ける。
パワー2/タフネス4
────────────────
来た!
これで必要なカードは揃った!
次ターン、8ターン目にワン・ショット・キルが狙える!
手順としては──
①8コスト支払い、『妖精姫エルザ』を召喚……召喚時効果でマナを4回復。
②次に、4マナ支払い、『光の開花』を発動して1/1のフェアリー・トークンを5体召喚。
『妖精姫エルザ』の効果でフェアリー・トークンに速攻を付与しつつ、マナを5回復。
③最後に、回復した5マナを支払って『剣導のスプライト』を召喚。
④そして、速攻が付与されたフェアリー・トークン5体で攻撃。
『剣導のスプライト』の効果で、攻撃時にフェアリー・クリーチャー達の
フェアリー・トークン5体で攻撃、2+3+4+5+6の合計20ダメージ……ワン・ショット・キルの達成だ。
『防衛』を持つクリーチャーも突破した。
キーカードも揃った。
手札の枚数も問題ない。
このまま、次ターンを迎えるだけでいい。
それだけで勝てる。
「僕はターンを終了する」
ターンを受け渡し、僕は視線を上げた。
……フードを深くかぶっていて、ニーナの顔は見えない。
だけど、何故か──
「私のターン。カードを1枚引き、マナへ」
>ニーナ:ターン8
>ニーナ:手札4→4
>ニーナ:マナゾーン7→8
酷く、嫌な予感がした。
思い通りに動かされているんじゃないか、という恐怖だ。
そして、ニーナのターンが始まった瞬間……彼女は、一瞬の迷いもなく手札のカードをバトルディスクへ置いた。
「私は『精神を刻む者』を召喚」
>ニーナ:手札4→3
>ニーナ:マナ8→0
赤い触手に、人の目玉が沢山埋め込まれたクリーチャーが姿を現した。
冒涜的な姿に……いや、何よりも『一瞬の迷いもなく』プレイされた8コストの大型クリーチャーという事実に、僕は息を呑んだ。
「そして『精神を刻む者』の効果──
マナはない。
その効果の発動を、僕は妨害できない。
「貴方の手札を1枚──
だけど、ここを耐えれば次ターンに勝てる。
最悪の場合、
だから、これで僕の──
「奪う」
「……え?」
視線をバトルディスクへ落とす。
カードの効果が、表示されている。
────────────────
⑧精神を刻む者
クリーチャー・カード
種族:テラー
召喚時:相手の手札を確認し、1枚選ぶ。
選択したカードを自分の手札へ加える。
パワー5/タフネス5
────────────────
「なっ──
これは、ランダム
それよりももっと、悪質な……
フィールドの『精神を刻む者』の目が、輝く。
全てを見通せると、そう言わんばかりに。
「さぁ、貴方の手札を見せて」
そして、ようやく僕は理解した。
「……ふぅん。そういうコンボだったんだ……」
まずい、まずい、まずい!
『妖精姫エルザ』は1枚しかデッキにいない。
そして、僕のデッキに
つまり……僕から『妖精姫エルザ』を奪って、手札にキープしているだけで……二度と、僕の手札に戻りはしない。
ワン・ショット・キルコンボは、永久に完成しない。
汗が濁流のように流れる。
祈るような気持ちが、胸に押し寄せる。
だけど、それでも……現実は──
「じゃあ、うん。『妖精姫エルザ』を貰おうかな」
非情だ。
彼女は
僕は、足元が崩れるような幻覚を見た。
◇◆◇
私の手札に収められたカード……『妖精姫エルザ』に視線を落とす。
デッキに1枚しか投入できないレジェンド・カード。
そして、ヒイロの手札にはこのカードを基盤にしたワン・ショット・キル用のカードがあった。
間違いなく、コンボの中核。
その中核を抜かれたヒイロのデッキは今……最早、エンジンのない車のようなもの。
勝ち筋はもうない。
『詰み』だ。
ヒイロは
これなら……私の切り札を使うまでもない。
奪ったカードから視線を横へ、映す。
11コストの、レジェンド・クリーチャー。
このデッキの切り札──
手負いの相手に油断はしない……だが、このカードの出番はない。
そもそも、11マナに到達する事もない。
私のデッキタイプを教える必要もない。
このまま勝ち筋を失った相手をすり潰すだけなのだから。
◇◆◇
「私のターン」
>ニーナ:ターン11
>ニーナ:手札4→5
「『骸の槍兵』で相手プレイヤーを攻撃」
私がカードをタップすると、フィールドにいる槍を持った骸骨が動き出した。
そして、ヒイロへ突進攻撃を繰り出した。
「く、うわぁっ……!?」
>ヒイロ:ライフ4→0
地面を転がって、壁にぶつかった。
……偶然だけど、さっき倒した別のカードバトラーの横に転がった。
『『バトル・エンデッド』』
バトルディスクがカードバトルの勝敗を確定させ、具現化されたカードの虚像達が消滅した。
「……これで私の勝ち」
「……う、くっ」
蹲って、息を切らしている。
……気を失ってないだけ、今まで戦ってきたカードバトラーに比べてタフだ。
私は手札のカードを1枚、ヒイロに見せつけるように公開した。
「じゃあこれ、貰っていくから」
公開したカードは『妖精姫エルザ』。
『精神を刻む者』によって奪取した、ヒイロのレアカードだ。
「まっ……て……」
悔しそうに顔を歪めて、コンクリート剥き出しの地面に手をついている。
その仕草を見て、私はこの
曰く、好きなだけレアカードを持って行って良いと。
つまりデッキのカードを全て奪う事だって出来る。
でも、まぁ──
「あ。貰っていくのは、これ1枚『だけ』でいいから」
そこまでしようとは思わないけど。
だって、楽しかったし。
本当に久しぶりに。
施設の外に出てから、私は退屈していたのだ。
だって、施設内のシミュレーションよりも遥かに弱いカードバトラーしか居なかったから。
弱いカードを、メチャクチャな手順で、相互作用も考えず投げてくる相手プレイヤー。
そんな奴らをボコボコにしても何も面白くない。
やたら滅多に適当な事を言う奴を相手に、会話なんて出来はしない。
それに比べて、ヒイロは別格だった。
カードを通して互いの戦略を読み合い、ぶつけ合えた。
そうだ。
これがカードゲーム……『
だから、気に入った。
また対戦したいと思える程には。
「このカードは売らない。だから、またリベンジしに来て」
私がそう言うも……あれ?
返事がないな、なんて視線を落とした。
……気を失っていた。
「……うーん、しまらないなぁ」
ため息を吐いて、私は奪ったカードを懐に入れる。
この『妖精姫エルザ』を売れば大金になるだろうけど……そこまで困ってはいない。
今日は2戦したし、もう一枚の『ホワイト・グリフォン』を売れば良いだろう。
私は指で口元を触れる。
……気分がいいのに、また無表情に戻っていた。
ま、いいか。
鼻歌を歌いながら、私は路地裏を後にした。
……人が二人倒れてる、事件現場みたいになってるけど。