TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#4 都会の隅にあるカーショで日焼けしてるレアカードを見るとちょっとノスタルジーを感じる

かつかつと米と肉を口に運ぶ。

空っぽになった丼をカウンターに置いて、席を立った。

 

会計の必要はない。

食券の先払い制度だからだ。

 

私はそのまま、牛丼屋の外へ出た。

 

 

「……うん、食べた食べた」

 

 

腹をさすり、まだ明るい街中を歩く。

ヒイロと戦ってから二日が経った。

 

あの試合以降、まだ私と『まとも』に戦える相手と出会えていない。

 

低コストのクリーチャーを投げ続け、手札切れして自爆するヤツとか。

マナに置くカードを渋ってマナ差がついて、カードパワー差で捻じ伏せられるヤツとか。

デッキに高コストを入れすぎて、序盤に空いた差を詰める間もなくボコボコにされるヤツとか。

 

そんな歯応えのない奴らばかりだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

どこか燃え損ねた灰のような気持ち。

燻んだ感情を抱えたまま、私はレアカードを巻き上げていた。

 

そんなこんなで、私の感情とは関係なく資産がそこそこ増えた。

ビジネスホテルを1日ごとではなく、7日契約できるぐらいには。

複数日借りると割り引きが効くので助かってる。

 

服も新しくした。

……まぁ、一番外側の施設から持って来たコートはそのままだけど。

コートの下は量販店で安く買えた服で身を包んでいる。

 

下着もちゃんと買えた。

下はメンズ用のボクサーパンツだけど。

だって、前世は男で、今生は被験体生活だし。

女の下着事情なんて全く分からない。

 

……いや、流石に上も買ったけど?

ノーブラは擦れて気持ち悪かったし。

スポーツブラ?ってのを買った。

そもそも私は男みたいなものだし女性ものの下着を着ていると女装っぽさがあって罪悪感が──

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

ある程度、文化人の装いとなった私は、安心して太陽の下を歩けるようになった。

……まぁ、まだ多少は目立つかも知れないけど、許容範囲だ。

デカいコートを羽織ってるだけの女……奇抜だが、不審者扱いはされないだろう。

 

前までは下が薄着だったし、ビビりながら日中に出歩いていたから……それに比べれば今は充実してると思う。

 

そもそも何故、私は日中の街を歩いているのか?

賭け(アンティ)は、夕方や夜の方が釣りやすいのに何故?

 

答えは単純。

カードショップが日中にしか開いていないからだ。

 

手に入れた戦利品(レアカード)を金に換えるため、私はカードショップの開いている日中に出歩かざるを得ないのだ。

 

そして。

 

同じカードショップに何度もこまめにレアカードを売っていれば、不審がられるかも知れないからと……こうして歩き回って色々なカードショップで売り分けているのだ。

幸い、この世界にはカードショップが星の数ほどある。

 

こうして適当に歩いていてもカードショップが見つかる。

 

 

「こんな所にカードショップ、あったんだ。へー」

 

 

あまり大きくないカードショップが道路沿いにあった。

看板にはサイコロが書かれている。

店名は『カードショップ・ダイス』か。

 

 

「入ってみようかな」

 

 

私は今時珍しい手動のドアを開けて、店内へ入った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『カウンターズ』。

それは元々、僕の友人である竜ヶ崎 ユウキくんが結成したチームだ。

街を荒らす秘密結社『VAX』に対抗するために組まれた自衛団……みたいなものかな。

元々、大きな事件は警察に任せて、もっと小さな事件を解決しようって学生クラブみたいなモノだったんだけど……。

 

気付けば、ユウキくんが『VAX』の幹部と交戦して撃破してしまった。

『VAX』に七人居た凄腕のカードバトラー、『セヴンス』……その一人を倒したコトで『カウンターズ』は目の敵にされてしまった。

 

気付けば僕も『セヴンス』の一人を倒して……なんだかんだあって、『セヴンス』は全滅。

ユウキくんが『VAX』の首領を倒して、組織は壊滅した。

 

その後は『VAX』の残党達と戦ってたりするんだけど……。

 

 

「はぁ……」

 

 

僕、桐谷 ヒイロは机の上に並べられたカードを前に、ため息を吐いた。

 

 

「元気出せよ、ヒイロ」

 

 

その側で、腕を組んで座っているのはユウキくんだ。

赤髪で溌剌とした印象の男だ。

僕と同い年……17歳の高校二年生だ。

 

今日は学校が休みだから、行きつけのカードショップで集まっていた。

 

 

「……でもさぁ……」

 

 

僕の前に並べられたカード……これは僕のデッキだ。

『妖精姫エルザ』抜き『妖精姫エルザ』デッキだ。

何を言ってるか分からなくなりそうだけど、実際は言葉通りだ。

 

先日僕は、レアカードハンターに賭け(アンティ)ルールで敗北した。

路地裏で目を覚ました時には、もう彼女は居なくて……デッキから『妖精姫エルザ』だけが無くなっていた。

 

僕のデッキはコンボデッキだ。

コンボデッキとはコンボするからコンボデッキなのだ。

そのコンボの中核となる『妖精姫エルザ』がいない、このデッキは……デッキ?

デッキかな、これ。

勝ち筋のない紙束じゃないか?

 

ってなって……今は、新しい勝ち筋を考えつつデッキを調整……というか、殆ど作り直しになってる。

 

 

「つーか、安易に賭け(アンティ)したのが悪かったよな」

 

「うっ、それはそうなんだけど……」

 

 

何も考えていなかった……って訳じゃないけど……。

自分が負ける可能性を考えながらバトルするカードバトラーは居ない。

僕もそうだ。

 

……いや、だからって、不用意に戦ってしまったのは僕が悪いけど。

 

 

「まぁ、これ以上は言わねーけど」

 

「そうしてくれると助かるよ……ごめんね」

 

 

乾いた笑みを浮かべながら、僕はボックスからカードを取り出して机の上のカードと交換した。

 

 

「それで?デッキどーすんだ?切札も無くなっちまったし」

 

「コンボデッキにしたいけど……『妖精姫エルザ』はないからね……」

 

「どうすんだよ」

 

「どうしようかなぁ……」

 

 

カードを並べて、時折入れ替える。

一枚増やして、一枚減らして、入れ替えてみて。

 

フェアリーを使った、速攻(アグロ)デッキ。

これが一番、現実的かな。

大量にフェアリーを展開して殴りつつ、除去しきれなかったら『剣導のスプライト』でバフを掛けてライフを削り切る。

 

うーん……『妖精姫エルザ』を使ったOSK(ワンショットキル)デッキの方が、強い気がする。

 

だって、『妖精姫エルザ』が居なければ展開から速攻攻撃ができない。

1ターンのラグがある所為で、フィールドに展開したフェアリーを対処されたら『剣導のスプライト』のバフが起動できない。

OSK(ワンショットキル)デッキのサブプランとして狙うにはいいけど、これを勝ち筋にするには細過ぎる。

除去され続けてマナを伸ばされて、大型クリーチャーを出されたら……今度は僕が除去できずに負けてしまう。

 

実際、レアカードハンターの……ニーナを相手にした時に実感した。

『妖精姫エルザ』を手札から抜かれた後、僕は『光の開花』を使って『剣導のスプライト』によるビートダウンプランを狙ったけど──

 

結局、全体除去(AOE)効果持ちのクリーチャーに流されて、そのままライフを削り切られてしまった。

 

そう、フェアリー・トークンを使用した展開系デッキには明確な弱点が存在する。

フェアリー・トークンの体力(ヘルス)が1点のため、ありとあらゆる全体除去(AOE)に弱いという弱点だ。

 

 

「うーん……」

 

 

腕を組んで唸る。

どれもこれも、どんなデッキを考えても『妖精姫エルザ』が頭に過ぎる。

昔からずっとデッキに入れていたカードだから、『妖精姫エルザ』抜きのデッキなんて考えられない……愛着もあるし。

また一つ、僕はため息を吐いた。

 

そんな僕を見て、ユウキ……の隣にいる、青いエプロンを着た金髪の女性が顔を寄せてきた。

 

 

「よければ私のカードから、何枚かお貸ししましょうか?」

 

 

エプロンの胸元にはダイスが二つ転がってるマーク……この店の看板にも書いてある。

つまり、彼女はこの店の店員ということ。

 

 

「……えーっと、羽金さん。気持ちはありがたいけど……フェアリーとシナジーがないから……その、ごめんね」

 

「そうですか。お力になれず、申し訳ありません」

 

「あ、いや……そんな、気にしないでくれると嬉しいかな」

 

「はい。では気にしません」

 

「……はは」

 

 

羽金エリス。

僕とユウキくんより少し年上の女性だ。

彼女は『カウンターズ』のメンバーだけど、最初っからメンバーだった訳ではない。

元々は『VAX』の構成員……それも『セヴンス』の一人だった。

騎士(ナイト)デッキの使い手で、ユウキくんと戦った……んだけど。

彼女も『VAX』に騙されていたらしく、最終的には『カウンターズ』のメンバーとして一緒に戦ってくれた。

 

高校卒業後に新卒で『VAX』に入ったらしく、悪い組織とは知らなかったらしい。

組織が崩壊し職を失った彼女は、『カウンターズ』共通の恩人であるここの店長に雇われている。

 

悪い人ではない。

良い人だ。

 

でも、その……ちょっと変な人だ。

いや、悪い人じゃないんだけどね?

すっごく良い人なんだけど……。

 

 

「しかし……レアカードハンター、とは。どうでしたか?」

 

「お、それは俺も気になるぜ」

 

 

二人して、僕に視線を送ってきた。

 

 

「えーっと、大人用のコートを着た、多分僕達と近い年齢の女の子だったよ。名前はニーナ、って言ってたけど──

 

「いえ、容姿や名前はどうでもいいです。デッキ内容を教えていただきたいです」

 

「あ、はい。ソーデスカ……」

 

 

僕は少し疲労感を感じながら、記憶を遡る。

 

 

「彼女のデッキは……正直、よく分からなかったんだよね」

 

「……?よく分からない、とは?」

 

手札破壊(ハンデス)もあったし、全体除去(AOE)もあった。細かな除去も。手札交換を多めに採用していたみたいで、手札をよく墓場(トラッシュ)に捨てていたけど……墓地利用が主体って訳ではなさそうかな」

 

「ふむ?」

 

「それにコントロールデッキ、にしては使い所が限定的なカードが多かった気がする……気のせいかも知れないけど」

 

 

腕を組んで、僕も首を傾げる。

結局、僕はキーカードを奪われて、クリーチャーに殴り倒された(ビートダウン)されただけだ。

あれが本来の勝ち筋とは思えない。

だからと言って、何なのかも分かっていない。

レジェンドカードを見る事すら出来なかった。

 

 

「様々なカードの種類に、局所的にしか活用できないカード……ですか。そんな物を入れていれば、手札事故を起こす確率が上がります」

 

「……だよね?相手に刺さらなかったら不要札になるし」

 

「その為に、手札を交換するカードを多く採用しているのかも知れません。ですが、わざわざそんな多様なカードを入れる意味は……ふむ、なるほど」

 

「お、何か思い当たる節でもあるのか?」

 

 

ユウキくんが興味深そうに顔を突き出したけど──

 

 

「いえ、全く」

 

 

がくり、と肩を落とした。

僕はため息を吐いた。

 

そんな僕達を無視して、羽金さんが言葉を繋ぐ。

 

 

「しかし、『強さ』には少しだけ心当たりがあります」

 

「……え?どういうこと?」

 

 

僕が首を傾げると、羽金さんが腕を組んで指を立てた。

 

変なポーズだけど、サマになってるなぁ。

美人だから……なんて、どうでもいいことが頭を過ぎる。

 

 

「『VAX』の『セヴンス』。メンバー全員で7人いる事は知っていますよね?」

 

「うん……」

 

「おう、そりゃ名前通りだろ」

 

 

ユウキくんが同意を示して、羽金さんも頷いた。

 

 

「しかし、実際は8人目が居たという噂があります」

 

「え?」

 

「はぁ?」

 

 

僕とユウキくんは首を傾げる。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ……『セヴンス』なのに8人なの?」

 

「詐欺だろ、詐欺!つーか、初耳だぞ!」

 

「はい。訊かれませんでしたので」

 

 

僕はユウキくんと顔を合わせた。

何も言わないけど、多分同じ気持ちだ。

 

僕は視線を羽金さんに視線を戻して、口を開く。

 

 

「ま、まぁ……それで……その、レアカードハンターのニーナ、さんはその『セヴンス』の8人目なの?」

 

「いえ、確定情報ではないです。実際、8人目が居るって噂は、噂でしかありませんし」

 

「なーんだ、眉唾情報かよ」

 

 

真面目に聞いて損した、なんて口にするユウキくん──

 

 

「へぶっ」

 

 

その鼻を、羽金さんが指で突いた。

 

 

「な、なにすんだよ」

 

「先程の話は終わっていません。8人目の存在は確かに『噂』でしたが……『VAX』本部付属の研究施設で、私よりも遥かに優れた成績を残すカードバトラーが居ました」

 

「……マジか?」

 

「マジです。出会った事はありませんが、シミュレーションのデータを見た事があります。ですから、8人目かどうかは別として、『セヴンス』と同等……いえ、それ以上の強者が居たのは事実ですね」

 

 

僕は腕を組んで首を傾げる。

……それだけ強いカードバトラーが居たのなら、何故、本部での決戦の際に姿を現さなかったのだろう。

 

 

「…………」

 

 

ニーナと相対した時の事を思い出す。

肌がヒリヒリするような緊張感のあるカードバトルを。

あの強さは……確かに『セヴンス』以上だった。

そう、だから羽金さんが言う通り、もしかすると彼女が8人目……なのかも知れない。

 

もう一度、できれば会ってみたいな。

 

あ、いや、その……次は勝って『妖精姫エルザ』を返して貰わないといけないし。

って、何を自分に言い訳してるんだろう。

 

なんて、考え──

 

 

「すみません、買取お願いします」

 

 

ショーケースの裏、レジ側で声が聞こえた。

多分、今は店長が対応してくれるだろう。

 

ちら、と羽金さんを一瞥する。

彼女はここ『カードショップ・ダイス』の店員だ。

他に客がいないから僕達と会話していたが、流石に拙いだろう。

店長も僕達の知り合いで『カウンターズ』の活動を応援してくれてるとは言え……仕事は仕事。

ここで油を売っていいものか、と。

 

 

「……ちょっと失礼」

 

 

羽金さんもそう思ったようで、悠々とレジへ向かった。

少しぐらい慌てるべきじゃないかと、内心で思ったけど口には出さない。

 

 

残された僕達は、また机に並べたカードへと意識を戻した。

打ち消しを1枚増やすか、それとも減らすか……僕が悩んでいると、ユウキくんが口を開いた。

 

 

「……ヒイロはさ、そのレアカードハンターに恨みはねーのか?」

 

「恨み?」

 

 

僕は高速(クイック)呪文(スペル)『対抗魔術』を手にしながら、空いた手で耳の裏を掻いた。

恨み……恨み、か。

 

 

「ないよ」

 

「相棒を奪われたのに?」

 

「うん。だって……悪いのは彼女じゃなくて、負けた僕だからね」

 

 

条件を提案したのは僕で、カードバトルに負けたのも僕だ。

この街の治安のためにも賭け(アンティ)ルールを辞めて欲しかった……なんてのは、僕の身勝手な事情だ。

僕と彼女は同じ土俵で戦って、『WoM(ワールドオブマジック)』で勝敗を決めた。

 

そこで失った物に対して、今更何かを言うのは卑怯だ。

 

だから、恨んではいない。

 

 

「あ、でも流石に悔しいよ。次は絶対に勝ちたい……って思ってるぐらいにね」

 

 

視線を落とすと、カードが並べられている。

そこで不自然に空いたスペースを見る。

本来置かれるべきカードは今、この手にはない。

 

小さくため息を吐くと、ユウキくんは苦笑した。

 

 

「……お前、変な所で思い切りがいいよな」

 

「思い切りが……?」

 

 

僕が首を傾げると、ユウキくんは視線を逸らした。

何か、誤魔化された気分だ。

 

そうして、またデッキ調整に戻ろうとして──

 

 

「二人とも」

 

 

羽金さんが僕らの前に立っていた。

少し汗をかいているように見える……店内、別に暑くもないのに。

 

 

「ちょっとレジまで来てくれます?」

 

「え?何でですか?」

 

「いいから、来てください」

 

 

僕とユウキくんは首を傾げながら席を立った。

そして、羽金さんの後ろを付いていけば──

 

 

「ごめんねぇ、お嬢ちゃん。このカード、取扱営業法に決められた価格より高いの。だから、身分証の提示が必要になるのよ」

 

「……そうなの?」

 

 

妙齢の女性……この『カードショップ・ダイス』の店長である斉木サエコさんが客と会話していた。

サエコさんはいつも通り、気怠げにやる気なさそうに接客している。

 

そして、その接客相手は──

 

 

「あっ」

 

 

僕が会いたいと思っていた相手……大きなコートを着て、フードを深くかぶっている少女だ。

フードの間から見える銀髪から、確信した。

 

 

「ん……?ヒイロ?」

 

 

気付いたようで、彼女が僕を一瞥した。

というか、名前……覚えててくれたんだ。

なんて、ちょっと、いや、もう、何で喜んでるんだ?僕は。

 

僕は少し混乱しながら、口を開いた。

 

 

「……な、何でここに?」

 

「何でって……カードを売りに?」

 

 

確かに彼女と出会った時に言っていた。

彼女がレアカードを賭け(アンティ)で奪っているのは、お金が欲しいからだ。

 

そして、ふと思った。

もしかして──

 

 

「僕の……じゃなくて、元僕の『妖精姫エルザ』を売りに来たの?」

 

「違うけど?アレは売らないって言ったけど」

 

「え、あれ?そうだっけ?」

 

「言ったけど」

 

「……ご、ごめん。覚えてないや」

 

 

彼女に負けた後、僕はカードバトルのフィードバックで気絶していた。

その時に何か言われていたのだろうか。

 

周りの人を無視して、彼女が一歩近づいた。

 

 

「じゃあ、リベンジマッチする?」

 

「……え?」

 

 

じゃあって……脈絡がない気がするけど……。

 

 

「返して欲しいんじゃないの?『妖精姫エルザ』」

 

「そ、それは……そうだけど」

 

 

フードを深く被っているから目元は見えない。

だけど、綺麗に整った口元がちらりと見えた。

 

 

「私が勝ったら新しくレアカードを貰う。貴方が勝ったら『妖精姫』エルザを返す。これでどう?」

 

「え、あ……」

 

「分かりやすいと思うけど。どうする?」

 

 

僕は手元のデッキに視線を落とす。

今のデッキは『妖精姫エルザ』の入っていないコンボデッキだ。

力の全てを発揮できない。

 

でも……ここで承諾しないと、二度と返ってこない可能性が──

 

 

「待てよ」

 

 

ユウキくんが、僕と彼女の間に割り込んだ。

すると、ニーナが彼を一瞥した。

 

 

「誰?私は今ヒイロと話してるんだけど」

 

「……黙って聞いてられねぇ事を言ってたからな」

 

「え、何が?」

 

 

心底分からない、と言った声色で彼女が疑問を口にした。

……他に客が居なくて良かった。

少し緊迫した空気が満ちている。

 

 

「ヒイロのデッキに切り札はない。なのにバトルするつもりなのか?」

 

「あ、そっか」

 

「力を発揮できないヒイロ相手に戦って、体良くレアカードを奪うって魂胆……そうだろ?」

 

「……え?違うけど」

 

「……は?違うのか?」

 

「うん」

 

「……おう?」

 

 

ニーナの言葉にユウキくんが首を傾げた。

……少し困惑しているようだ。

 

分かるよ。

何だか、その見た目の、こう……不審者感?と違って、そんなに悪い人じゃない……っぽいんだよね。

 

 

「でも、そう。うん。分かった」

 

 

そんな困惑しているユウキくんから視線を外して、僕の方へ一歩近付いた。

そして、懐からカードを1枚取り出した。

 

それは──

 

 

「一旦、このカード返してあげる」

 

「え?」

 

 

僕が賭け(アンティ)で奪われた『妖精姫エルザ』だった。

困惑する僕をよそに、僕へ『妖精姫エルザ』を押し付けてきた。

そして、満足げに頷いた。

 

 

「うん、これで万全。じゃあ、カードバトルを──

 

「待てよ、まだ俺との話は終わってないだろ」

 

「……知らない人は、黙ってて欲しいんだけど」

 

 

彼女の言葉を、ユウキくんが止めた。

そしてその行為に、ニーナは少し苛立っているように見えた。

 

一触即発──

 

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!ユウキくんもニーナも!」

 

 

緊迫した空気をどうにかしたくて、僕が間に入った。

すると……彼女は左手で、自身の顎を撫でた。

 

 

「ユウキ……?」

 

 

名前に覚えがあるのだろうか。

 

 

「あぁ。竜ヶ崎ユウキ、俺の名前だ」

 

 

彼女は目を瞬いて、小さく頷いた。

 

 

「へぇ……貴方が?そう、なら……話ぐらいは聞いても良いかな」

 

 

そして、さっきとは一転、興味深そうにユウキくんへ視線を向けた。

……何だろう、少し、モヤっとする。

興味の対象が僕からユウキくんに移ったから、だとしたら……だとしたら、何だろう。

分からないけど、兎に角、少し嫌な感じだ。

 

ニーナが、口を開く。

 

 

「それで?何で止めるの?」

 

「……今はまだ、お前とヒイロを戦わせたくねぇ」

 

「え!?ユウキくん!?」

 

 

何を言い出すのか。

まるで戦ったら僕が負けるかのような……いや、確かにそうか。

僕のデッキは彼女に割れているのに対して、僕は未だに彼女のデッキ……その主軸が何なのかも分かっていない。

対策もしていないし、僕のデッキの弱点は変わらない。

このまま戦っても、前回と同じ負け方をする確率が高い。

 

 

「……邪魔するの?」

 

「あぁ、だが安心しな。賭け(アンティ)は──

 

 

視線が交差する。

 

 

「俺が引き受けてやる」

 

「へぇ……」

 

 

片方はフードを深くかぶっていて、目も見えないけれど。

 

ユウキくんが視線を外し、レジの隅っこからこちらを見ている店長へ向けた。

 

 

「……店長。バトルスペース借りても良いか?」

 

「もち。おっけーだよ」

 

 

緊張感のない返事にユウキくんが頷き、視線をニーナに戻した。

 

 

「お前に、賭け(アンティ)ルールでのカードバトルを申し込む」

 

「……ふふ、いいよ。何を賭ける?」

 

 

ユウキくんが店内を歩き始め、彼女もそれに追従する。

店内のパーティションで区切られた先……『WoM(ワールドオブマジック)』でのバトル用フィールドがそこにあった。

 

 

「俺が求める賭け(アンティ)対象は『妖精姫エルザ』だ。勝ったら返して貰うぜ」

 

「……いいけど。私に賭け(アンティ)するな、って言わないの?」

 

「それは別口だ。まずは奪われた仲間のカードを取り返す」

 

「へぇ……じゃあ、私が勝った時は貴方のデッキのレアカードでも貰おうかな」

 

「好きにしてくれ」

 

 

薄緑色のフィールドを挟んで、ユウキくんがバトルディスクを展開した。

それに続いて、ニーナもバトルディスクを展開した。

 

直後、ユウキくんが僕を一瞥した。

 

 

「わりーな、ヒイロ」

 

「……え?」

 

「お前相手のバトル、勝手に請け負っちまって」

 

 

気にしてない、と言えば嘘になる。

本当はかなり嫌だ。

僕だって、彼女と戦いたい。

 

だけど……ユウキくんの選択は正しい。

 

僕は一度、彼女に負けている。

そして、そこから何の情報も得られておらず、僕のデッキ構築も変わっていない。

それどころかパワーダウンしている……敗北が再生産されるだけだ。

 

誰でも分かる単純な理屈。

納得はできても、どこか感情に引っ掛かっていた。

 

 

それでも、僕の内心を知らない二人は……バトルフィールドで向き合った。

 

 

バトルディスク同士で疎通が開始される。

ディスク内でデッキがシャッフルされる。

 

気付いたら、羽金さんが僕の側まで来ていた。

 

 

「……どっちが勝つと思う?」

 

「僕は──

 

 

分からない。

僕の知っているユウキくんは、最も強いカードバトラーだ。

対して、ニーナはまだ底が知れない。

 

本当はどう考えていたとしても「ユウキくんが勝つと思うよ」と言うべきだけど。

 

緊迫した空気の中、デッキのシャッフルが完了して──

 

 

『『オープン・ファイト』』

 

 

戦いの火蓋が、切られた。

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