TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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#7 逆転の一手

「…………へへ」

>ユウキ:マナ3

 

 

目前、ユウキくんは絶体絶命の状況に陥っていた。

隣にいる羽金さんも息を呑んで見守っている。

僕だって自分の事のように緊張している。

 

だけど、それでも……ユウキくん自身は違う。

楽しそうに、笑っていた。

 

それがどうしても理解出来なくて。

僕が同じ状況になったとしても、きっと笑えなくて。

 

妬ましく──

 

 

「…………っ」

 

 

そんなの、感じたらダメなのに。

自己嫌悪している──

 

 

「俺は手札から『幼き竜ドライグ』を召喚する!」

>ユウキ:マナ3→1

>ユウキ:手札5→4

 

 

そんな僕なんか無視して、試合が動く。

 

赤く幼いドラゴンがフィールドに現れる。

アレは……ユウキくんの、愛用カードだ。

という事は、この状況を打破できる一手がある……のか?

 

 

「『幼き竜ドライグ』の効果……このクリーチャーをマナゾーンへ送り、マナゾーンから最大マナの半分以下のコストを持つ呪文(スペル)を発動する!」

────────────────

②幼き竜ドライグ

クリーチャー・カード

種族:ドラゴン

起動効果:このクリーチャーをマナゾーンへ置く。その後、自分のマナゾーンからコストX以下の呪文カードを発動する(Xは自分のマナゾーンの枚数の半分に等しい)。

パワー2/タフネス2

────────────────

 

その効果に、ニーナは目を細めた。

 

 

「踏み倒し効果……」

 

「俺がマナゾーンから発動するのは……!」

 

 

ユウキくんがマナゾーンからカードを1枚抜き、バトルディスクへ置いた。

 

 

「『竜の幻出』だ!」

 

 

空間が裂けて、異次元へ繋がる道が拓けた。

────────────────

④竜の幻出

呪文カード

自分のマナゾーンからコストX以下の種族「ドラゴン」クリーチャーを1体、自分の場に出す(Xは自分のマナゾーンの枚数に等しい)。

ターン終了時、この効果で出したクリーチャーをマナゾーンに置く。

────────────────

 

踏み倒し効果から、踏み倒し効果を発動する。

2マナで最大コスト半分の呪文(スペル)を、最大コスト半分の呪文(スペル)から最大コスト以下のクリーチャーを連鎖的に呼び出したんだ!

 

 

「俺が呼び出すのは当然、『ブレイジング・ドラゴン』だ!」

 

 

ユウキくんは、まだ敢えて『ブレイジング・ドラゴン』をマナゾーンへ置いていたのか……?

『歴戦のドラゴニュート』で回収したのは別のカードだったのか……!

 

 

空間の裂け目から、再びユウキくんの切り札が姿を現した。

────────────────

⑧ブレイジング・ドラゴン

レジェンド・クリーチャー・カード

種族:ドラゴン

速攻(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)。

攻撃時:敵クリーチャー全てに6ダメージ。

パワー7/タフネス6

────────────────

 

 

いける!

『解き放たれし破滅 エルザイン』の体力(ヘルス)は13……攻撃時効果による6ダメージと、攻撃力(アタック)7の戦闘ダメージで除去できる!

 

 

「俺は『ブレイジング・ドラゴン』で──

 

 

その翼から炎が放出される。

赤く輝く太陽のように……。

 

 

「プレイヤーへ直接攻撃だ!」

 

「えぇっ!?」

 

 

僕の考えとは裏腹に、『ブレイジング・ドラゴン』はプレイヤーへの直接攻撃をすべく、口を開いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『ブレイジング・ドラゴン』が炎を撒き散らしている。

まさか、3マナから切り札を呼び寄せるなんて……私の想定を上回った。

 

だが、まだ決着は付かない。

……そう、思っていたのだが──

 

 

「私へ、直接攻撃……か」

 

 

ユウキは『解き放たれし破滅 エルザイン』にではなく、プレイヤーへの直接攻撃を選択した。

しかし、私のライフは10。

対して『ブレイジング・ドラゴン』の攻撃力は7……倒し切れない筈なのに。

 

それでもユウキは、私への直接攻撃を選択した。

脅威である筈の『解き放たれし破滅 エルザイン』ではなく、私へ。

 

だから、理解した。

 

ユウキには見えているのだ。

私のリーサルが。

残り1マナでも残り3点を削り切れるプランが。

 

 

「まずは『ブレイジング・ドラゴン』の攻撃時効果!敵クリーチャー全てに6ダメージだ!」

 

 

赤く煌めく羽から炎が放たれ、私の場へ殺到した。

>エルザイン(5/13)→(5/7)

 

ダメージは受けたが、破壊されていない。

このまま次ターンも引き続き効果は使える……だが──

 

 

「そのまま相手プレイヤーに直接攻撃だ!」

 

 

それは次ターンまで生きていれば、だ。

 

このユウキの選択。

間違いなく、握っている……追加打点を。

ならば、どうするか。

 

決まっている。

受け止めるしかない。

 

 

「その瞬間、私は高速(クイック)呪文(スペル)『絶叫』を発動」

>ニーナ:手札3→2

>ニーナ:マナ0→0

 

「なっ、マナは無い筈じゃ──

 

「『絶叫』は手札を捨てる事で、マナの支払いを踏み倒せる代替(ピッチ)呪文(スペル)……その効果は、攻撃するクリーチャーの攻撃力(パワー)をターン終了時まで-6する効果」

>ニーナ:手札2→1

────────────────

②絶叫

高速呪文カード

代替1(マナを支払う代わりに、手札を1枚破棄する事が出来る)

プレイヤーを攻撃対象としたクリーチャー1体は、ターン終了時まで-6/+0の修正を受ける。

────────────────

 

 

念の為にマナ代替呪文(ピッチスペル)を持っていて良かった。

クリーチャーによる速攻デッキには刺さるカードだ……だが、私のデッキには1枚しか入っていない。

重複するカードが採用できないハイランダーデッキだからだ。

 

だが、もう出し惜しみなんて出来ない。

 

 

「対象は『ブレイジング・ドラゴン』。その攻撃力(パワー)は1になる」

>ブレイジング・ドラゴン(7/6)→(1/6)

 

 

攻撃力(パワー)が1となった『ブレイジング・ドラゴン』のブレスは仄かな炎となった。

フィードバックも殆どない……そよ風のようなものだ。

>ニーナ:ライフ10→9

 

これで、私の勝ち──

 

 

「まだだ!俺は手札から『装甲化(アームド)!』を発動!」

>ユウキ:マナ1→0

>ユウキ:手札4→3

 

 

攻撃を終えた『ブレイジング・ドラゴン』が宙へ飛び上がった。

……そうか、『ブレイジング・ドラゴン』は私への直接攻撃を選んでいた。

10点のライフを7点削り、残り3点を削るための手……それがこのカードなのか?

 

 

「『装甲化(アームド)!』は自分の場のクリーチャーを、コストの1つ高い『アーマード』クリーチャーに進化させるカードだ!」

 

 

進化……?

聞き慣れない単語に、私はバトルディスクへと視線を落とした。

 

────────────────

装甲化(アームド)

呪文カード

自分の場のクリーチャー1体を選択する。

選択したクリーチャーより1つコストが高い「アーマード」クリーチャーを、エクストラ・ゾーンから重ねて進化する。

────────────────

 

エクストラ……ゾーン?

なんだ、それは?

私の知らないルールが──

 

 

「いくぜ!」

 

 

ユウキのバトルディスクがスライドして、デッキの横からカードが一枚射出された。

それを手に取り、『ブレイジング・ドラゴン』へと重ねた。

 

 

「『ブレイジング・ドラゴン』は『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』へと進化する!」

 

 

宙に様々な武装が現れる。

爪、砲台、鎧──

それらは光を放ち、赤き竜へと集う。

そして、全てを装着し──

 

ようやく……私が、組織の監視カメラの映像で見た姿と、同一の姿へ変化した。

 

再び、バトルディスクへと視線を落とした。

────────────────

⑨ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン

エクストラ・クリーチャー・カード

種族:アーマード・ドラゴン

進化元:ブレイジング・ドラゴン

速攻(「速攻」を持つクリーチャーは、場に出たターンから攻撃できる)

防衛(「防衛」がフィールドに存在する場合、相手は防衛を持たないキャラクターに攻撃できない)

死亡時:このカードを墓場に置き、進化元クリーチャーを場に出す。

パワー8/タフネス8

────────────────

 

 

感じていた違和感。

私が映像で見たユウキの切り札と異なる姿をしていた『ブレイジング・ドラゴン』。

その違和感の正体に納得した。

 

『ブレイジング・ドラゴン』は真の切り札ではなかった。

この姿こそが、本当の切り札だったのだ。

 

だが、知らない。

私の知らない召喚方法。

私の知らないカードタイプだ。

 

 

「『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』で……『解き放たれし破滅 エルザイン』へ攻撃!」

>ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン(8/8)

>解き放たれし破滅 エルザイン(5/7)

 

 

『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』の武装から炎と弾丸が発射される。

『解き放たれし破滅 エルザイン』も応戦するが……破壊された。

>ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン(8/8)→(8/3)

 

 

「……突破された、か」

 

 

このクリーチャーも速攻持ち……7点の『ブレイジング・ドラゴン』と8点の『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』の合計15点の連続攻撃。

素の『ブレイジング・ドラゴン』の攻撃を直接受けていれば、今頃ライフは0になっていただろう。

『絶叫』による攻撃阻止は無駄ではなかった。

 

だが──

 

 

「これで俺はターンを終了するぜ」

 

 

『解き放たれし破滅 エルザイン』は破壊されてしまった。

私の場はガラ空きだ。

対して、ユウキのフィールドには『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』が存在する。

 

そして、テキストを確認したが『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』が破壊された時、進化元となっている『ブレイジング・ドラゴン』が場に出るらしい。

 

つまり、『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』を除去しただけでは、場に『ブレイジング・ドラゴン』が残ってしまうという事。

……当然だが、私のライフは保たない。

 

私が有利だった筈が、1ターンの間に形成逆転されてしまった。

たった3マナで。

それも、知らない召喚方法や、ルールを駆使されて。

理不尽とも言える状況だ。

 

そんな状況で、私は──

 

 

「私の、ターン」

>ニーナ:ターン8

 

 

酷く、胸を高鳴らせていた。

ワクワクしている、と言っていい。

 

進化するクリーチャー?

エクストラ・ゾーン?

なんだそれは?

 

面白い。

 

面白すぎる。

 

どんなカードがあるんだ?

どんな戦法が取れるんだ?

 

どんな事ができるんだ!?

 

 

「……く、ふふ」

 

 

面白い!

私も使いたい!

 

 

「ふふ、ふ……」

 

 

TCGを題材としたテレビアニメの、新ルールお披露目回を見た時の気分だ。

新たな召喚方法と、それに伴う新ルール、新カード。

 

自分のデッキに活かせるんじゃないかと、新しくデッキを組めるんじゃないかという期待。

高鳴る感情、はやる気持ち。

 

まるであの時、テレビに釘付けになっていた子供に戻ったかのような気持ち。

カードパックを購入して、その特異なカードタイプに目を輝かせたあの頃の気持ち。

 

ノスタルジックなようで、センセーショナルでもある……純粋な、感情が胸を占める。

それは、興奮。

それは、感動。

それは、高揚。

 

言葉で言い表すには難しい、感情。

 

 

だが……だけど、それでも。

 

今は、勝ちたい。

この戦いに勝ちたい!

絶対に勝ちたい!

 

 

「私は、カードを引く」

>ニーナ:手札1→2

 

 

手札はマナに置かない。

この状況を解決するカードはない。

だが、この手札は必要となる。

 

 

「そして『剥き出しの霊術師』を召喚する」

>ニーナ:手札2→1

>ニーナ:マナ7→6

 

ローブを着た骸骨が姿を現した。

────────────────

①剥き出しの霊術師

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:手札を1枚破棄する。

その後、カードを1枚引く。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

「召喚時効果により、私は手札を1枚破棄し、カードを1枚引く」

>ニーナ:手札1→1

 

 

このカードによるコストとするために、マナゾーンへカードを置けなかったのだ。

そして、引いたカードを確認し……目を細める。

ダメだ、このカードでは。

 

だが、まだだ。

まだ、カードは引ける。

 

 

「そして、『邪な儀式』の効果を発動。『剥き出しの霊術師』を破壊して──

 

 

デッキに指で触れる。

この状況を解決するカード……それは、確実に存在する。

私のデッキにまだ、眠っている。

それを引けばいい。

 

だが、このデッキは重複しない(ハイランダー)デッキ……狙ったカードを引ける確率は低い。

 

それでも──

 

 

「カードを、1枚引く」

 

 

私は負けたくない。

勝ちたい。

 

勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい!

こんなに勝ちたいと思ったのは、いつ以来だろう。

こんなにも追い詰められたのは、いつ以来だろう。

 

勝ちたい……!

ただ、純粋に私の負けず嫌いな部分が刺激されている。

ナイフで滅多刺しにされてるのかと思えるほど、強く、強く刺激されている!

 

この戦い……賭けられている物は正直、どうだっていい。

負けた所で、私に不利益は殆どない。

 

だとしても!

 

私は勝ちたい。

 

この、目の前にいる一人のカードバトラーに、勝ちたいのだ!

 

こんなにも私を感動させてくれた相手に、感謝している。

だからこそ、勝ちたい!

私の全力を受け止めて、受け止め切れずに負けて欲しい!

 

これは私の我儘だ──

 

デッキに触れた指に力が込められる。

このデッキは、私がこの世界に生まれてから少しずつ調整してきたデッキだ。

 

あの劣悪な研究施設の中で生きるために、勝ち続けるために作られたデッキだ。

自由の殆どない施設で唯一、私が自由に扱う事を許された紙の束……。

この世界での、私の50枚の積み重ね。

 

それが、このデッキだ。

 

だから今、応えてくれる筈だ。

私を勝たせてくれる!

 

 

「…………」

>ニーナ:手札1→2

 

 

引いた、カードは──

 

 

「私は……」

 

 

どうやら、ユウキはカードの神様に愛されているらしい。

 

そして──

 

 

「手札から『甦りし悪夢』を発動する」

>ニーナ:手札2→1

>ニーナ:マナ6→0

 

 

私も、カードの神様に愛されていたらしい。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

目の前で繰り広げられている、一進一退。

カードの応酬。

互いのプレイングを上回ろうとするカードバトル。

 

僕はそれが綺麗に見えて。

本当に綺麗に見えた。

 

毒に感じられるほど、酷く、綺麗に見えたんだ。

目も、心も焼かれてしまうぐらいに。

 

そんな僕の内心を知らず、羽金さんは息を呑んで試合を見ている。

このバトル……彼女の最後の1枚のカードで勝敗が決まると、そう確信しているからだ。

 

それは僕も、ユウキくんも、彼女だって同じだ。

 

 

「『甦りし悪夢』の効果。このカードの発動時、私は手札、マナゾーン、場から1枚ずつ生贄を捧げなければならない」

 

 

マナ以外にもコストを要求するカード……?

6マナというコストは決して少なくない。

その上で、別のコストを要求するなんて──

 

 

「私は手札を1枚破棄し、マナゾーンからカードを1枚墓場(トラッシュ)に置く。そして──

>ニーナ:手札1→0

>ニーナ:マナゾーン7→6

 

 

しかし、『剥き出しの霊術師』はドローに変換した。

ニーナの場にはカードが残っていない筈──

 

 

置物(オーナメント)『邪な儀式』を破壊する」

 

 

そうか、置物(オーナメント)カード!

何も『場に存在するカード』とはクリーチャーだけではないんだ。

 

 

「そして『甦りし悪夢』の効果。墓場(トラッシュ)からクリーチャーを1体蘇生(リアニメイト)する」

 

 

蘇生カード……なら、もちろん対象は──

 

 

「『解き放たれし破滅 エルザイン』を蘇生(リアニメイト)

 

 

彼女の切り札だ。

 

大地が割れ、黒い液体が噴出した。

それは人の形を作り、異形へと姿を変えた。

 

再び、『解き放たれし破滅 エルザイン』が場に現れた。

 

そして──

 

 

ユウキの切り札である『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』と。

ニーナの切り札である『解き放たれし破滅 エルザイン』が。

 

 

正面から、向かい合った。

 

 

だが──

 

 

バトルディスクに視線を落とす。

────────────────

⑪解き放たれし破滅 エルザイン

レジェンド・クリーチャー・カード

種族:テラー

自分の場、墓場に同名カード(トークンを除く)が存在する場合、このクリーチャーは効果を失う。

召喚時/互いのターン開始時:墓場に存在するクリーチャーを1体選択し、デッキに戻す。

そのクリーチャーが「召喚時」効果を持つなら、その効果を得る。

パワー5/タフネス13

────────────────

 

蘇生(リアニメイト)や踏み倒しは、『召喚』とは異なる。

WoM(ワールドオブマジック)』において『召喚』とはコストを支払い、手札からカードをプレイする事だからだ。

 

『解き放たれし破滅 エルザイン』の召喚時効果は使えない。

効果処理ができるのは最速でも相手のターン開始時になる。

 

つまりユウキくんのターン開始時。

その1回だけで『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』の対処と、素体である『ブレイジング・ドラゴン』の対処が出来るのだろうか。

 

 

「そして、『甦りし悪夢』の効果。蘇生(リアニメイト)したクリーチャーの召喚時効果を……発動させる」

 

 

……この程度の疑問、彼女は既に答えを得ていたようだ。

手札、マナゾーン、場を生贄にする重い蘇生カード……デメリットと釣り合うメリットがあるとは思っていた。

それが、召喚時効果の誘発か。

 

だが、それでも『解き放たれし破滅 エルザイン』の効果は……ユウキくんが動けるようになるまで2回しか使えない。

たった、その2回で何が──

 

 

「『解き放たれし破滅 エルザイン』の効果。私の墓場(トラッシュ)に存在する……『ミラージュ・ナイト』を対象に効果を発動する」

 

 

……『ミラージュ・ナイト』?

僕とのバトルで使ったカードだ。

これは『絶叫』で落としたか、それとも『剥き出しの霊術師』で落としたカード……かな?

 

効果は確か、防衛を持つコピー・トークンを──

 

いや、待て。

違う。

正確には……確か──

 

 

「『ミラージュ・ナイト』の召喚時効果。自身と同様の効果、ステータスを持つコピー・トークンを2体生成する」

────────────────

⑥ミラージュ・ナイト

クリーチャー・カード

種族:ナイト

防衛(防衛がフィールドに存在する場合、相手は防衛を持たないキャラクターに攻撃できない)

召喚時:このカードと同様の効果、ステータスを持つコピー・トークンを2体生成する。

パワー1/タフネス3

────────────────

 

瞬間、『解き放たれし破滅 エルザイン』の胸が裂けて赤い血のような霧が噴き出した。

そして、その霧は……『解き放たれし破滅 エルザイン』と同じ姿に変わった。

 

 

「何だって!?」

 

 

ユウキくんが目を見開いている。

 

 

「えっ!?」

 

「そんな事が……!?」

 

 

試合を見ている僕も、羽金さんもだ。

 

 

そう。

ニーナの場には今、『解き放たれし破滅 エルザイン』と……その同等の効果と能力を持つコピートークンが2体存在している。

 

つまり──

 

 

「『解き放たれし破滅 エルザイン』が、3体に分身した……!?」

 

 

3体に増えて、脅威も3倍となったのだ。

それも、効果を持たないコピーじゃない。

全く、同一の効果を持つコピーだ。

 

 

「私はこれで、ターンを終了する」

 

 

彼女は薄く笑みを浮かべたまま、ターンを受け渡した。

 

 

「くっ……俺の、ターンだ!『竜の財宝』の効果でカードを1枚引く!」

>ユウキ:ターン9

>ユウキ:手札4→6

 

 

だが、まだ……ユウキくんの場には『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』がいる!

『解き放たれし破滅 エルザイン』が3体に増えたとしても、除去が足りなければライフを削り切れる!

 

 

「ターン開始時、『解き放たれし破滅 エルザイン』……そのコピー・トークン1体目の効果を発動する」

 

「っ……!」

 

 

ここから、『解き放たれし破滅 エルザイン』……いや墓場(トラッシュ)に存在するクリーチャーの召喚時効果が、3回連続で来る!

 

 

「まずは『精神を刻む者』の効果を発動する。相手の手札を選んで、奪う効果」

────────────────

⑧精神を刻む者

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:相手の手札を確認し、1枚選ぶ。

選択したカードを自分の手札へ加える。

パワー5/タフネス5

────────────────

 

「このタイミングで、手札奪取を……!?」

 

 

ユウキくんの驚いたような顔に、彼女は小さく笑った。

 

 

「反撃の芽は……摘んでおかないと」

 

 

『解き放たれし破滅 エルザイン』のコピー・トークン、その胸が引き裂かれて『精神を刻む者』の顔が生えてきた。

……ちょっと、僕は一歩後ろに退いた。

少し、トラウマになっていたからだ。

 

ユウキくんの手札がバトルディスクに公開される。

僕と同様に、彼女も視線をバトルディスクに落とした。

 

 

「……やっぱり、除去用の高速(クイック)呪文(スペル)は握ってたか。まぁ、今は意味がないし……効果を止めるタイプの高速(クイック)呪文(スペル)はなし、と」

 

 

ユウキくんの手札には、確かに小型の除去効果を持つ高速(クイック)呪文(スペル)があった。

だが、今の状況……体力が13点もある『解き放たれし破滅 エルザイン』を除去する程の火力はない。

 

彼女が『精神を刻む者』の効果を発動した目的は……特定の手札を盗む事じゃない。

 

 

「……うん。じゃあ、何でもいいから、その『絆の力』でも貰っておこうかな」

 

 

『解き放たれし破滅 エルザイン』に抵抗出来るカードがあるか、その覗き見(ビーピング)効果が主目的だったんだ!

 

 

「……くっ」

>ユウキ:手札6→5

>ニーナ:手札0→1

 

 

それはユウキくんも理解しているようで、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

この状況、そして彼女の発言。

それは、反撃が間に合わない事を予感させた。

 

 

「そして、私は2体目のコピー・トークンの効果を発動。墓場(トラッシュ)の『暴食アンヴォイド』をデッキに戻す」

 

 

ここで、知らないカードだ。

手札破棄に混ぜて捨てておいたカードだろう。

 

 

「『暴食アンヴォイド』は敵クリーチャーを破壊し、その能力値を吸収する効果。『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』を吸収する」

────────────────

⑦暴食アンヴォイド

クリーチャー・カード

種族:テラー・スライム

召喚時:クリーチャー1体を選択し、このクリーチャーは+X/+Yの修正を受ける(X/Yは選択したクリーチャーの攻撃力/体力に等しい)。

その後、選択したクリーチャーを破壊する。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

コピー・トークンの胸が裂けて、赤い粘着質な触手が伸びる。

それは『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』を捉えた。

身に纏う武装が溶解されて、コピー・トークンへ吸収される。

>コピー・トークン(5/13)→(13/16)

 

 

「それでも!『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』が破壊された時、その進化元クリーチャーを場に出す!」

 

 

触手に囚われていた『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』は装甲をパージして、拘束から逃れた。

>ブレイジング・ドラゴン(7/6)

 

 

まだ、ユウキくんが有利だ。

フィールドにどれだけ強力なクリーチャーが複数体居たとしても、『ブレイジング・ドラゴン』の直接攻撃でニーナのライフは0になる。

 

そう、ここさえ耐えれば──

 

 

「そして、最後の……『解き放たれし破滅 エルザイン』本体の効果を発動する」

 

「…………」

 

 

緊迫した空気の中、彼女が自身の墓場(トラッシュ)から、カードを1枚選んだ。

 

 

「対象は『吐き出す者 アングラール』」

 

 

また、知らないカード……!?

いや、当然か。

彼女のデッキは『ハイランダー』だ。

50種類のバラバラのカードで作られたデッキ……たった一回しか戦っていない僕では、彼女のデッキに採用されているカードを見切る事は出来ない。

 

『解き放たれし破滅 エルザイン』の胸が裂けて、巨大な……巨大すぎる口が姿を現した。

目もなく、鼻もない……不揃いで巨大な牙が生えたワームの顔だ。

 

 

「『吐き出す者 アングラール』は自身のクリーチャーを全て破壊し……その攻撃力の合計に等しいダメージを対象に与える」

────────────────

⑨吐き出す者 アングラール

クリーチャー・カード

種族:テラー・ワーム・ドラゴン

召喚時:自身の場に存在する他クリーチャーを全て破壊する。

その後、対象にXダメージ(Xはこの効果で破壊したクリーチャーの攻撃力の合計に等しい)。

パワー7/タフネス7

────────────────

 

 

瞬間、巨大な頭がコピー・トークンへ喰らいついた。

一口で食い尽くし、更にもう1体のコピー・トークンすら貪る。

彼女のフィールドは再び、『解き放たれし破滅 エルザイン』のみとなった。

 

……破壊したコピー・トークンの攻撃力は5点。

それが2体で10ダメージ──

 

いや、違う。

その内の1体は『暴食アンヴォイド』の効果で『ブレイジング・(アーマード)・ドラゴン』の能力値を吸収している!

 

その攻撃力の合計は……!

 

5+(5+8)!

 

つまり──

 

 

「18点のダメージを対象へ与える」

 

「な、何だって!?」

 

 

ほぼ一撃必殺のダメージだ!

しかし、20点には及んでいない。

 

まだ、耐え──

 

違う!

ユウキくんは既に、序盤で……彼女のクリーチャーから直接攻撃を受けている!

 

現在のライフは……16点!?

 

 

「効果対象は、勿論……相手プレイヤーであるユウキへ」

 

 

『解き放たれし破滅 エルザイン』の胸部、巨大な口から光が漏れた。

先程捕食したコピー・トークンから得たエネルギーだろう。

 

飽和し、稲妻のような光を放つ。

空間が歪むような幻覚。

莫大な質量。

 

 

それが──

 

 

収束し──

 

 

ユウキくんへと、放たれる。

 

その瞬間、閃光が……弾けた。

 

 

「くっ、うわぁあっ!?」

>ユウキ:ライフ16→0

 

 

直撃したユウキくんは、バトルディスクからのフィードバックを受けて吹っ飛んだ。

そのまま、背後に置いてある衝撃吸収用のクッションへと衝突する。

 

その衝撃に、観戦しているだけの僕達も……少し、後退してしまった。

静寂が満ちて──

 

 

『『『バトル・エンデッド』』』

 

 

腕に巻いたバトルディスクの声で、ようやく我に返った。

ホログラムが砕けて光の粒子が散る。

 

グロテスクなクリーチャーは青白い粒子となり、その持ち主であるニーナに降り注ぐ。

まるで雪のようだった。

 

その様子に、僕は、惹きつけられて──

 

 

「ユウキ!」

 

 

羽金さんが、吹っ飛ばされたユウキくんの元に走っていった。

 

 

「っ、あ……ユウキくん!」

 

 

僕も慌てて、ユウキくんの元に駆け寄る。

 

……僕は、ユウキくんへの心配より、彼女を見る事を優先してしまったのか?

罪悪感と情けなさを感じつつ、倒れたユウキくんを起こす。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「……くっ、ぅ」

 

 

ユウキくんは……あんなに大きなフィードバックを受けたのに、ハッキリと意識があった。

流石に今すぐ立つ事は出来ないみたいだけど。

 

羽金さんが安堵の息を吐いた瞬間……踏み締めるような音が響く。

僕も、羽金さんも振り返った。

 

 

「…………」

 

 

ニーナが、そこに立っていた。

無表情に、ユウキくんを見下ろしていた。

 

先程のカードバトル中とは全く異なる表情に、僕は気圧され──

 

 

「……大丈夫?」

 

 

……た、んだけど。

その言葉は心配するような言葉だった。

 

ちら、と羽金さんを見る。

混乱していた。

普段、人を混乱させてるような人が、混乱している今の状況……ちょっと変だな、なんて現実逃避をするぐらいには……僕も混乱していた。

 

黙っていると、ユウキくんが上半身を立てた。

 

 

「っ、あぁ……大丈夫だぜ」

 

「そう、よかった」

 

「……つーか、ヒイロから聞いてたけど、強いんだな」

 

「うん、ちょっとだけ」

 

 

……返答が素っ気ない。

というか、やっぱりバトル中とテンションが全然違う。

 

混乱している僕と羽金さんを他所に、ユウキくんは……何だか、気を許しているように見える。

 

 

「……それで、賭け(アンティ)ルールに負けちまったから……俺の──

 

「なら、この『絆の力』を貰っていく」

 

 

彼女の手に握られていたのは、先ほどのカードバトル中に効果で奪ったカードだ。

だけど、そのカードは……。

 

 

「……いいのか?それ、アンコモンだぞ?」

 

 

アンコモンだ。

WoM(ワールドオブマジック)』においてカードのレアリティは、上から順に

①レジェンド・レア

②スーパー・レア

③レア

④アンコモン

⑤コモン

となる。

 

アンコモンである『絆の力』はレアカードではない。

ユウキくんなら10枚以上持ってるカードで、多分この店のストレージを探せば見つかるようなカードだ。

 

 

「いい。あんまり強いカードを貰うと、リベンジ出来なくなるから」

 

 

僕と羽金さん、ユウキくんの三人で顔を合わせた。

先程の発言は、つまり──

 

 

「リベンジ……俺のリベンジを受けて立つ……って事か?」

 

「うん?だってそうでしょ。私が勝ったし」

 

 

ズレた発言に、遂に……ユウキくんが笑った。

 

 

「く、っくくくふふ、ははは……そうだよな、俺が負けたんだから当然だよな」

 

「……何で笑ってるの?」

 

「ははは、いや、悪い悪い」

 

 

今度はニーナが少し混乱したような顔をした。

その様子が何だか、まるで友達みたいで……その……羨ましいな、なんて少し思った。

 

 

「はぁ、まぁいいけど……」

 

 

そして、ニーナは小さくため息を吐いて、僕に視線を向けた。

 

 

「じゃあ、次はヒイロの番」

 

「え?僕……?」

 

「うん。バトルするでしょ?」

 

「い、今からするの?」

 

「うん。そうだけど?」

 

 

ユウキくんとあんなバトルをした後、すぐにバトルだなんて……この人、もしかして疲れ知らずなのかな……?

 

常識的に考えて、カードバトルは全身全霊で行うもので、すっごく疲れる筈なんだけど。

 

僕は苦笑しつつも、バトルディスクを用意する。

あんなバトルの後だ。

彼女も見せていないだけで疲労している筈……勝てる……かも──

 

 

「……そうじゃない」

 

 

なんて、情けない考えが一瞬だけ、頭に過った。

そのことにまた、少し自己嫌悪して──

 

 

「……ヒイロ?」

 

 

僕は目を開けた。

 

 

「何でもないよ。それじゃあ、バトルしよっか──

 

 

からからと、店のドアが開いて鈴が鳴った。

 

普段、全然人が来ない店なのに今日は色々な人が来るな……なんて思いながら視線を向ける。

そこには黒いスーツの上にコートを着た二人の男がいた。

 

そして、その姿を見た瞬間、ニーナは顔を顰めていた。

 

 

「……ごめん、ヒイロ。ちょっと急用が出来たから帰る」

 

「え?」

 

 

僕の返事を待たず、彼女はバトルディスクを収納して僕らに背を向けた。

 

 

「ちょっ、待っ──

 

「それじゃ、また」

 

 

瞬間、彼女は僕の背より高い仕切りを飛び越えた。

ノーモーションで、一息で飛び越えた。

 

まるで、スポーツ大会か映画で観るような動きに……僕は目を剥いた。

 

 

「え、なん……え?」

 

 

そして、入って来た二人の人間と顔を合わせないようすり抜けて、すごい速さで店から出て行った。

 

何が起きたのか分からなかった。

あまりにも一瞬の出来事。

 

僕はユウキくん達の方へ目を向けると……良かった、彼らも同じ反応をしている。

今のは夢じゃなくて現実だったらしい。

 

呆けていると……店長が僕達の方へ駆け寄って来た。

 

 

「ありゃ。あの子、もう帰っちゃった?」

 

「え、えぇ……というか今、急に帰ったんですけど……」

 

「……んー、面識あったのかな。こりゃ失敗ね」

 

 

困ったなーなんて言いながら、彼女はボサボサの髪を掻いた。

そんな店長の後ろには、先程入店した大人が二人立っていた。

スーツの上にコートを着た大人だ。

 

 

「えっと……店長?二人は──

 

「あ、えーっと……警察?みたいなものかしら?」

 

 

警察『みたいな』って、じゃあ警察じゃないの……?

困惑する僕を他所に、二人の大人は店長に頭を下げて……店長も頭を下げた。

そして、二人はこの店から出て行った。

 

 

「……あの、店長。僕達にまた何か隠してます?」

 

「ふふん。大人の女は謎で着飾るものなのよ?少年」

 

「また、適当なことを言って……はぁ」

 

 

店長は変人だ。

恩人でもあるけど、変人だ。

そして、口が固くて、絶対に僕達に口を割らない。

 

こういう時は大概、僕達を巻き込まないようにしているみたいだけど……素直に言って欲しいな、なんて思ってる。

 

だけど、カードバトルできる場所を貸してくれたり、店に集まる事を許してくれてるし……そもそも僕達の為を思って動いてくれてるみたいだし。

……何にも言えないんだよね。

 

僕だって、すっごく感謝してるし。

……はぁ。

 

 

「取り敢えず、ユウキくんを椅子に座らせようかな……」

 

「あ、ヒイロくん。ちょいちょい、ちょっといいかしら」

 

 

店長に名前を呼ばれて、僕は胡散臭く感じながらも振り返る。

……めちゃくちゃ、顔が近かった。

 

 

「うわっ!?」

 

 

思わず一歩下がる。

彼女は髪型もボサボサで、化粧もしてないし、厚底の指紋まみれの眼鏡をかけてるけど……それでも、美人なのだ。

美人はその、怖い。

 

そんな僕の心境を無視して、店長がにへらと笑った。

 

 

「さっきの女の子。次に会う事があったら教えてくれる?」

 

「……何でですか?」

 

「悪いようにはしないから」

 

「答えになってないですよ……」

 

「ね?」

 

「……分かりましたよ。次会ったら、ですね?」

 

 

僕はため息を吐いて、承諾した。

 

 

「うん、助かるわ〜、さんきゅ」

 

 

気の抜ける感謝の言葉を吐きながら、店長は顔を退けた。

……全く、本当に。

 

ユウキくんの肩を担いで、店のドアへ目を向けた。

……ニーナは一体、何をしたんだろう?

こんな警官『みたいな』人に追われてるなんて……。

 

ほんの少し同情しながら、僕はバトルディスクに手で触れた。

そして──

 

 

「ん?あれ……あっ!」

 

 

大声を出した。

 

 

「……おう、どうした?ヒイロ?」

 

 

疲れた表情を浮かべたユウキくんが、僕の声に反応した。

 

 

「『妖精姫 エルザ』、彼女に返してない……!」

 

 

そう、バトル前に一旦返して貰っていた『妖精姫 エルザ』。

それは一時的なものだった筈だ。

今の所有権は彼女にある筈なのに……返し忘れていたのだ。

 

そんな僕の言葉に、ユウキくんが……ついでに羽金さんもため息を吐いた。

 

 

「真面目すぎだろ」

 

「ですね」

 

 

苦笑を浮かべる二人を他所に、僕は彼女に会うための用事が一つ増えた事を……何故か、少し嬉しく感じていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

私は『カードショップ・ダイス』から出て、路地裏に隠れていた。

 

まさか……あの二人が来るなんて。

 

名前は知らない。

所属も知らない。

 

だが、研究所から出た時、跡地で何か作業していた二人だ。

秘密結社『VAX』と敵対している……何かしら、(おおやけ)の組織の一員だろう。

警察官か、何かのエージェントとか……?

 

とにかく捕まったら、この『自由』な生活が終わってしまう。

折角、面白くなってきたのに。

 

私は脳内に二人の少年の事を思い浮かべる。

彼等とのカードバトルは最高に楽しかった。

研究施設の機械では感じられなかった、生の闘争心を味わえたのだ。

 

これを私は手放したくない。

 

 

「……ここは、一旦。ホテルに帰ろう」

 

 

しかし、どうして彼等が店に来たのか。

タイミングが良過ぎる……まさか、あの店長が通報したのか?

 

……だったら、あの店には行きづらいな。

折角、面白いカードバトラー達と出会えたのに。

 

顔を顰めて、ビルの壁……室外機に指を掛けて、飛び上がった。

 

排気口のダクトに足を掛けて、パルクールの要領でビルを駆け上がり……屋上に着地する。

そして、下を見た。

 

……やっぱり、二人、あの男達が居た。

 

身体強化されていて良かった……なんて、思う時が来るとは。

感謝はしないけどね。

 

私は腕を組んで、一人頷いた。

 

そして──

 

 

ぐぅ。

 

 

私は小さく腹を鳴らした。

……人間離れした動きをするという事は、人間離れしたカロリーを消費するという事なのだ。

 

 

「……うん。帰る前に、何か……うん、鰻重が食べたいな」

 

 

大変だ。

口が鰻重の口になってしまった。

今日の晩御飯は絶対、鰻重じゃないと満足できない。

これは困った。

 

カードも売れなかったし、今日の収支はマイナスだ。

下にいる警官モドキどもの所為だ。

 

なんて逆恨みしながら、私はフードを深くかぶり……別のビルへと飛び移った。

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