TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい   作:WhatSoon

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日間1位になりました。
感謝!

kamukura_kijinさんから、ファンアートも頂きました。
https://www.pixiv.net/artworks/118497707
感謝!


#8 初めての……

ニーナが『カードショップ・ダイス』を襲撃……いや、普通に来店してから一週間が経過した。

彼女が再び『カードショップ・ダイス』に来る事はなく……かと言って、『レアカードハンター』の噂が途絶える事もなかった。

 

つまり、元通り。

何も変わっていない。

 

……なんだけど。

僕はちょっと、変わってしまったかも知れない。

 

 

「……はぁ」

 

 

だってこうしてまた、夕方を過ぎても一人で街を出歩いてるのだから。

 

前に会った時と同様に探していれば、彼女にまた会えるかも知れない……なんて、考えている。

連絡先も知らないし、彼女がどこに住んでいるかも知らないのだから……仕方ない。

 

茜色の空が、暗くなっていく。

人も少なくなって来た。

 

みんなは今頃、家族で食卓を囲んでいるのだろうか?

 

僕には……関係ないけど。

桐谷製薬、という大きな薬の会社がある。

そして、僕の名前は桐谷 ヒイロ……偶然の一致ってワケじゃない。

父が社長をしているんだ。

 

母は、居ない。

僕がまだ幼い頃に病気で亡くなった、と聞いている。

 

父は、僕の事が嫌いな訳ではない。

でもきっと、『好き』ではない。

 

父にとって『家』とは、会社の社長室のことだ。

僕にとって『家』とは、父の元を離れて借りている賃貸のことだ。

 

家族はいる。

だけど、僕は……。

 

だから、こうして夜、一人で出歩けている。

心配してくれるような人が居ないから。

 

 

「…………」

 

 

彼女も、そうなのだろうか。

年頃の女の子が一人、夜中に賭け(アンティ)ルールでカードバトルをしているのに……誰も心配していないのだろうか。

どんな事情があるんだろう。

 

夜風が少し、冷たい。

 

 

「……良くないよなぁ」

 

 

勝手に知ったつもりになって、勝手に自分の生い立ちを重ねようとしている。

本当に良くない事だ。

 

次、出会ったらちゃんと訊かなきゃ。

どんな人間なのか、何が好きで、何が嫌いなのか……知りたいから。

 

バトルディスクの時計機能を確認する。

19時を過ぎたみたいだ。

……まだ、もう少しだけ探したい。

 

 

少し、甘い匂いがした。

甘く煮た豆の匂い……餡子と、クリームの匂いだ。

 

 

お腹がきゅぅと縮んだような気がした。

まだ、今日は晩御飯を食べてないから。

 

 

だけど、そんなオヤツにうつつを抜かしている暇はない。

僕は彼女を探さなきゃいけないんだ──

 

 

 

「はぐ、ふぐ……」

 

 

………あれ?

 

僕は目を擦った。

 

路地裏で、ゴミ箱に座り……たい焼きを食べている少女が居たからだ。

大きなコート、そのフードをかぶった……僕が探していた少女が。

 

その手元には大きな紙袋がある。

中には、たい焼きが沢山入っていた。

 

 

「……んぐ?」

 

 

僕の視線に気付いたようで、こちらに目を向けた。

……うん、やっぱり。

 

これは幻覚でも、気の所為でもないみたいだ。

僕はため息を吐いて、彼女に近づいた。

 

 

「その……久しぶり。こんな所で何をしてるの?」

 

「うん……んぐもんぐむむ──

 

「あ、ごめん。飲み込んでからでいいよ……はは」

 

「んぐ」

 

 

彼女はたい焼きを一つ食べ終えた。

そしてもう一つ、新しいたい焼きに手を伸ばして──

 

 

「ちょ、ちょっと待って!何でもう一個食べようとしてるの……!?」

 

「え?だって、冷めちゃうし……」

 

「うっ……わ、分かったよ。ごめん、食べ終わるまで待つよ」

 

 

僕がそう言うと……彼女は紙袋から、たい焼きを一つ手に取った。

そして、そのたい焼きを僕に向けた。

 

 

「ヒイロも食べる?」

 

「……え?」

 

「あ。もしかして、こし餡派?今、つぶ餡しかないし、クリームで我慢し──

 

「あ、いや……大丈夫。食べられるよ、ありがとう」

 

 

彼女から、たい焼きを受け取って口に含む。

丁度、お腹が空いていたから……凄く、美味しく感じた。

 

ふと、横を見るとニーナも美味しそうに食べている。

揺れるフードから、彼女の顔が微かに見えた。

無表情……だけど、どこか嬉しそうな顔に見えた。

 

 

……というか、僕が食べてる間に既に三個目を齧り始めていた。

思ったより、健啖家なんだな……なんて思いながら、彼女が食べる様子を見ていた。

 

そして、あんまりジロジロと見てしまったからか、彼女が僕の方へ目を向けた。

手に最後のたい焼きを掴みながら、だ。

 

 

「うん……?どうかした?」

 

「あ、いや……ごめん、ジロジロ見ちゃって……」

 

「……あ、喉が渇いたとか?」

 

 

彼女はたい焼きを紙袋に戻して、お茶の入ったペットボトルを僕へ手渡した。

 

 

「ほら」

 

「あ、ありがとう」

 

 

実際、たい焼きの甘味で喉は乾いていた。

僕はペットボトルの蓋に……あれ?

待ってくれ。

これ開いてないか?

 

 

「あの……」

 

「んぐ?」

 

 

彼女は口にたい焼きを咥えている。

 

 

「あ、いや何でもナイデス……」

 

 

僕は蓋を開けたペットボトル。

その飲み口に視線を落とした。

 

開いている。

お茶も最初より減っていた。

 

つまり、彼女が……ニーナが、飲んだという事だ。

どこからか?

それは勿論、この飲み口──

 

つまり……つまり?

つまる、つまれ、つまろ、つまらない。

 

ダメだ。

こんな事を考えてるって思われると、気持ち悪いと思われてしまいそうだ。

そう、彼女は気にせず僕に渡したんだ。

僕も気にせず口にするべきなんだ。

飲まずに返したら余計に失礼だし、意識してるってバレてしまう。

 

 

「……よ、よし」

 

 

さ、さぁ、飲むぞ。

口にするぞ。

 

口に……。

 

 

 

 

 

うん、お茶だ。

 

 

 

 

 

「ありがとう、返すよ」

 

「うん」

 

 

丁度、彼女もたい焼きを食べ終えたようで、ペットボトルを受け取ってくれた。

どうしてこうも、お茶を飲むだけで疲れてしまったのだろうか。

何だか気持ち悪い事を考えてしまっていたな、なんて自己嫌悪を──

 

 

ペットボトルの蓋が開く音がした。

視線を彼女に向けると──

 

ぐい、とペットボトルのお茶を口にしていた。

さっきまで、僕が口にしていたのに。

何も躊躇う様子もなく。

 

そして……喉を鳴らして、一気に飲み干した。

 

 

「……ふぅ」

 

 

一息、吐いた。

 

彼女と一緒にいると、僕は早死にするかも知れない。

心臓が過労で死んでしまう。

 

そんな目を回しそうになっている僕に、彼女が視線を向けた。

 

 

「で?なに?」

 

「なにって……」

 

「用事、ないの?それともリベンジしに来たの?」

 

「あっ」

 

 

そうだ。

たい焼きを食べに来たんじゃない。

本来の目的は──

 

 

「ええと、これ……返さないといけないな、って」

 

 

バトルディスクからカードを1枚、彼女の前に差し出した。

 

 

「『妖精姫 エルザ』……?」

 

「ほら、前に会った時にさ、バトルするのにデッキが万全じゃないからって……一旦、貸して貰ってたから。それで……その、急に帰っちゃうから返し忘れて……」

 

 

何故か、こう、しどろ、もどろ……と、変に言い訳みたいな話をしてしまう。

そんな様子に彼女は少しだけ……本当に、注視していればギリギリ気付けそうなぐらい少しだけ、頬を緩めた。

 

 

「……私、気にしてないのに」

 

「でも、約束だから。僕が負けて、君が勝った。だから、このカードは君の……ニ、ニーナさんの物だ」

 

 

僕がそう言い切ると、彼女は首を傾げた。

 

 

「ニーナ『さん』?」

 

「え、あ……だって、よ、呼び捨てには出来ないし……」

 

 

目を泳がす。

内心でどうだろうと、女性の下の名前を呼び捨てにするだなんて、僕にはとてもじゃないけど出来ない。

 

こんな事を指摘されるとは思わなかった。

は、恥ずかし──

 

 

「ニーナでいい」

 

「え?」

 

「私もヒイロ、って呼んでるし」

 

 

そう言われて、僕は思わず顔が熱くなった。

だ、だから……その、ええと、僕にはハードルが高い……って。

 

 

「「…………」」

 

 

あぁ、もう。

 

 

「じゃあ、これから……その、ニ、ニーナ?って呼ぶ事にするよ」

 

「うん」

 

 

何だか、彼女には振り回されてばかりだ。

側にいると、僕が僕でいられなくなる。

そんな気がした。

 

と、いうか──

 

 

「は、話を戻すけど……!このカード、『妖精姫 エルザ』はニーナの物だから。受け取って欲しいんだ」

 

「……んー」

 

 

僕の言葉に彼女は腕を組んで、唸った。

心底、納得していないかのような態度だ。

顔は無表情のままだけど。

 

 

「なんで、受け取ってくれな──

 

「だって、このカード。ヒイロのデッキに必要じゃないの?」

 

「それは、そうだけど……」

 

「じゃあ、持っていて欲しい。弱いカードバトラーに勝っても楽しくないし」

 

 

弱い、カードバトラー……って。

僕がそうじゃないと、強いカードバトラーだと言いたいのか?

……なんて、とんだお世辞だ。

ニーナにも、ユウキくんにも僕は勝てないのに。

拳を握る。

 

 

「なら別に、僕がカードを持っていようが、持っていなかったとしても変わらな──

 

「見つけたぞ!レアカードハンター!」

 

 

大きな声が路地裏に響いた。

男の声……その声の主へ、目を向けた。

黒い学ランを着たオールバックの男と、気の強そうな女が立っていた。

 

そして、ニーナも──

 

 

「誰?」

 

 

あ、知り合いじゃないみたいだ。

 

 

「オレは、『決闘組』の頭やってるヤマイだ」

 

「……何それ?」

 

 

ヤマイと女の方も眉間に皺が寄った。

 

というか──

 

 

「『決闘組』って、暴札族の『決闘組』の……?」

 

「っふぅ、そっちの可愛い顔の兄ちゃんの方は分かってるみてぇだな」

 

「か、かわっ……!?」

 

 

何だろう、馬鹿にしてるような素振りではなかった。

だからこそ、物凄く腹が立った。

別に僕は可愛い顔をしていない。

確かに、ちょっと顔付きが男らしくないなーとは自分で思ってるけど、断じて可愛くはない。

 

僕が身を震わせている横で、ニーナが口を開いた。

 

 

「それで?その『決闘組』だっけ?そこのリーダーが、何で私を探してたの?」

 

「あぁん!?そりゃテメーがオレのチームの兄弟共のカードを巻き上げてっからだろうが!」

 

「……あー、なるほど」

 

「なるほどじゃねぇよ!バカにしてんのか!?」

 

 

ヤマイはかなり強面だ。

身長もかなり高い。

 

だというのに、ニーナは全く怯むような様子がなかった。

 

 

「それで、何がしたいの?」

 

「そりゃあテメーをボコボコにして、今までの借りをきっちり返して貰おうって訳だ!」

 

「ふーん、じゃあバトルディスクを──

 

「だがしかし!オレ一人ではお前に勝てねぇって分かってる!」

 

「はぁ……?」

 

 

ニーナが段々と興味なさそうな声色になっていく。

彼女と出会ってまだ短いけれど、それでも分かってしまうぐらいには態度に出ていた。

 

直後、ヤマイが隣の女と肩を組んだ。

 

 

「つまり!オレ、ヤマイと!」

 

「アタシ、ヨーコの!」

 

「「二人で相手しようって訳だ!」」

 

 

……何だか随分と仲が良さそうだ。

だけど、言ってる事は結構、物騒だ。

 

 

「……二人?」

 

「そうだ、二人同時!三人での『変則マッチ』だ!まさか、逃げたりしねぇよな?」

 

 

明らかに不利な条件。

バカげたルール。

 

こんなの普通のカードバトラーなら一蹴する。

だけど、僕は知っている。

ニーナは──

 

 

「そう。よく分からないけど、受けて立──

 

「ちょっと待って!ストップ!ストップ!」

 

 

ちょっと、いや、尋常じゃない負けず嫌いだ。

賭け(アンティ)ルールで負けた時の支払いを、自信満々に「何でもいいよ」なんて言うぐらいには。

そういう意味だと、僕もユウキくんもそうだけど……。

 

ユウキくんなんて「逃げるのか?」なんて言われたら、つい頭に血が昇ってしまうぐらいにはダメダメだ。

ニーナもきっとそうだと思ってたけど、やっぱり……止めてよかった。

 

 

「あん!?邪魔すんのか!?」

 

「ヒイロ、邪魔しないで」

 

 

あー!もう!

ヤマイの方にキレられるのは理解できるけど、ニーナに叱られるのは納得いかない!

僕はただ助けようとしてるだけなのに……。

 

くっ。

 

この態度、このままバトルを止めさせる事は出来なさそうだ。

それなら──

 

 

「二対一なんて卑怯だ!僕がニーナに加勢する……!」

 

「あん?」

 

「アンタが?」

 

 

不良二人が何故か感心するような目で僕を見た。

 

 

「え?」

 

 

真横から疑問の声が出てきたけど、今は無視する。

顔も見ない……何か文句言われそうだし。

 

 

「『変則マッチ』なんてさせない!やるなら、二対二の『タッグマッチ』だ!」

 

「ヒイロ?何言ってるの?」

 

「ほう!なるほど……そいつはいい。まとめてボコボコにしてやるよ!」

 

「え?なんで?」

 

 

横で何度も疑問の声があがる。

緊張が張り詰めた風船だとしたら、何度も口を開いて萎むような感覚があった。

 

 

「バトルディスクを構えな!賭け(アンティ)ルールは……どうでもいい!勝った方が負けた奴を好きにする!それでどうだ!」

 

 

そうヤマイが口にすると、ニーナが無表情のまま頷いた。

 

 

「……まぁ、別にいいけど──

 

「よーし!それじゃあバトル開始だ!いくぜ!」

 

 

僕を含めた四人が、バトルディスクを構えた。

 

 

『『『『オープン・ファイト』』』』

 

 

バトルディスクが展開する。

 

大丈夫だ。

ニーナは僕よりも強い。

そして、僕だって街の不良になんか負けはしない。

互いに相手の実力を上回っていれば、必ず勝てる。

 

 

「よし、僕は出来るだけニーナに合わせる!だから──

 

 

服の裾を引っ張られた。

 

 

「ヒイロ、ちょっといい?」

 

「えっと……どうかした?」

 

「私、『タッグマッチ』した事ない。ルールを教えて」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

今度は僕が疑問の声をあげる番だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

特殊フォーマット、『タッグマッチ』!

それは二人一組でチームを組み、戦うルール!

 

ターンは交互にチームへと受け渡される。

例えばAチームがA1君とA2君、BチームがB1君とB2君なら、

 

A1→B1→A2→B2→A1……

 

といった形で遷移する。

 

そして、『タッグマッチ』最大の特徴にして難点。

それはチームメンバーと『共有』する物があることだ。

 

共有する物は

・ライフ(チーム全体で30点)

墓場(トラッシュ)

・フィールド上のカード(クリーチャーや置物(オーナメント)

 

逆に共有しない物は

・マナゾーン

・手札

・デッキ

 

つまり、A1が場に出したクリーチャーを使ってA2が攻撃する事もできる!

A2が置いている置物(オーナメント)をA1が使用する事もできる。

 

しかし、A1の手札のクリーチャーをA2が召喚する事はできない。

勿論、呪文も使用できない。

 

これが『タッグマッチ』だ。

 

 

 

……と、ヒイロに教えて貰った。

 

ちなみに、私が最初に承諾しそうになっていた『変則マッチ』だった場合、ターン遷移が

 

私→ヤマイ→ヨーコ→私……

 

といった感じになっていたので、かなり不利だった。

相手のタッグが連続で続くため、毎ターン、私だけターンをスキップされているようなものだからだ。

 

……いや、めちゃくちゃだ。

止めてくれたヒイロには感謝しなければならない。

 

 

「僕のターン!カードを引いて、1枚をマナへ!」

>ヒイロ:ターン4

>ヒイロ:手札4→4

>ヒイロ:マナゾーン3→4

 

 

おっと、試合に意識を戻さないと。

現状、私たちのライフは28点。

ヤマイ側は26点。

 

ボードは前ターンの全体除去(AOE)によって更地状態だ。

 

 

「僕は手札から置物(オーナメント)『根源のトーテム』を設置する!」

>ヒイロ:手札4→3

>ヒイロ:マナ4→1

────────────────

③根源のトーテム

オーナメント・カード

起動効果:マナを1支払う。デッキからコスト1以下の呪文カードを発動する。

────────────────

 

 

私と戦った時にもプレイした置物(オーナメント)か。

デッキからコスト1以下の呪文(スペル)を使用できるカードだ。

 

 

「僕はマナを1支払い、デッキから『妖精の来訪』を発動する!フィールドに1/1のフェアリー・トークンを2体生成する!」

>ヒイロ:マナ1→0

────────────────

①妖精の来訪

呪文カード

自分の場にクリーチャーが存在しない場合、種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンを2体生成する。

────────────────

 

 

私達の場に双子のフェアリー・トークンが生み出される。

 

……私のデッキにも1コストの呪文は幾つかある。

置物(オーナメント)、有効活用させて貰おう。

 

 

「これで僕はターンを終了する!」

 

 

4マナ消費にしては控えめな盤面だが、目的である置物(オーナメント)『根源のトーテム』を設置できた。

維持していれば、毎ターンアドバンテージが稼げる……ここは準備のターンだ。

 

 

「それじゃ、アタシのターンね」

>ヨーコ:ターン4

 

 

ヤマイと同じ服装の女が、そう口にした。

 

 

「アタシはカードを1枚引いて、1枚マナへ」

>ヨーコ:手札3→3

>ヨーコ:マナゾーン3→4

 

 

言動の軽い不良達だが、カードバトルでは中々に堅実だった。

手札の無駄な消費は抑えつつ、クリーチャーを展開してくる。

 

間違いなく下っ端共より強い。

……そうか、不良の喧嘩も『WoM(ワールドオブマジック)』で行われている世界だからか。

喧嘩が強い不良=カードゲームが上手い不良……になるのか?

 

こいつら『決闘組』の規模は分からないが、少なくとも平均的なカードバトラーよりは強いだろう。

 

 

「アタシは手札から『迂闊な埋葬者』を召喚!」

>ヨーコ:手札3→2

>ヨーコ:マナ4→0

 

 

彼女の場に、ボロボロの服を着た女が現れた。

────────────────

④迂闊な埋葬者

クリーチャー・カード

種族:テラー

召喚時:自分のデッキから、任意のクリーチャーを1枚破棄する。

パワー1/タフネス1

────────────────

 

 

見覚えのあるカード……私のデッキにも入っている、狙ったクリーチャーを墓場(トラッシュ)に送れるクリーチャーだ。

ステータスは低いが、効果はその分、強力だ。

 

その効果は、墓場利用をするデッキならば採用を検討してもいい程に。

低いステータス故に場の優位を取られると、墓場(トラッシュ)に落としたクリーチャーを有効活用する前にライフを削り切られる弱点があるが──

 

 

「デッキからクリーチャーを1体、墓場(トラッシュ)に送るわ」

 

 

それでもデッキから落としたいクリーチャーがいる、という裏付けになる。

デッキタイプを読む事は、相手の戦略を読み解く事……つまり、何がしたいか、何をされたくないかが分かるという事だ。

 

マナに置くカードの指標にもなる。

だが、しかし──

 

 

「そしてこのままターンを終了」

 

「次は……私のターンか。カードを引いて、1枚をマナへ」

>ニーナ:ターン5

>ニーナ:手札3→3

>ニーナ:マナゾーン4→5

 

 

正直に言おう。

『タッグマッチ』というルールに、私は慣れていない。

 

そもそも研究施設にいた頃にやった事がないし、初めてなのだから仕方ないだろう。

手札枚数のコントロール、高速(クイック)呪文(スペル)の当て勘……それらが普通のカードバトルと勝手が違う。

 

何故なら、手札枚数が実質的に2倍になっているからだ。

一対一ならば手札消費1枚で呪文1枚を止めると影響も大きいが、二対二ならば……初期手札は5枚ではなく実質10枚だ。

打ち消しや手札破壊(ハンデス)の影響も少なくなる。

 

 

「私は場のフェアリー・トークンで『迂闊な埋葬者』へ攻撃」

>フェアリー・トークン(1/1)

>迂闊な埋葬者(1/1)

 

 

味方が出したクリーチャーの扱いも難しい。

勝手にトークンを相打ちさせたが……ちら、とヒイロを一瞥する。

 

頷かれた。

 

うん、大丈夫そうだ。

 

 

「そして、もう1体のフェアリー・トークンでプレイヤーへ直接攻撃」

 

「くっ!」

「鬱陶しいわね……!」

>ヤマイ&ヨーコ:26→25

 

 

相手チームの共有ライフを少し削っておく。

そして──

 

 

「ヒイロ、もう1体のフェアリー・トークンも貰う」

 

「え、あ、いいけど──

 

「私は場のフェアリー・トークンを生贄にして、手札から『偽神デミゴルド』を召喚」

>ニーナ:手札3→2

>ニーナ:マナ5→0

 

 

妖精の真下から黒い腕が生えて、握り……砕いた。

そして、その腕の持ち主である異形が姿を現した。

────────────────

⑦偽神デミゴルド

クリーチャー・カード

種族:テラー・デーモン

自分の場のクリーチャーを1体破壊する事で、このクリーチャーの召喚コストを-2できる。

召喚時:カードを2枚引く。

パワー6/タフネス6

────────────────

 

神像を模した姿をしているが、再現しきれていない歪な姿をしている。

 

 

「『偽神デミゴルド』の召喚時効果でカードを2枚引く」

>ニーナ:手札2→4

 

 

『偽神デミゴルド』は高いステータスと、ドロー効果を持つ。

場のクリーチャーを破壊する事でコストを軽減できる効果を持っており、私のデッキと相性がいい。

勿論、ヒイロが生成するフェアリー・トークンとも相性がいい。

 

……ちら、とヒイロを一瞥する。

いつも通り気の弱そうな笑みを浮かべているが、問題はなさそうだ。

 

私とヒイロ、互いに手札は非公開情報だ。

口頭で内容を開示する事はできるが、相手チームにも聞こえてしまう。

……つまり、お互いの情報を交換しないか、相手に聞かれる前提でやり取りするかの二択だ。

 

私は後者を選択しない。

手札がバレれば、戦略も読まれる。

味方と共有できないよりも、相手に知られる方が拙い。

 

それは相手チームも同じ。

だが……彼等は互いのデッキ内容(リスト)を全て共有しているだろう。

対して、私とヒイロは出来合いのチーム。

互いのデッキ内容(リスト)を、正確に把握出来ていない。

 

『タッグマッチ』とは仲間との相互理解、信頼関係が重要となるようだ。

その点……私達は負けている。

個人の技量でカバーしなければならない。

 

 

「……私はターンを終了する」

 

 

私がターンを受け渡せば、次はヤマイのターンだ。

 

 

「次はオレのターンだ!カードを引いて、1枚をマナへ!」

>ヤマイ:ターン5

>ヤマイ:手札4→4

>ヤマイ:マナゾーン4→5

 

 

現状、私達の場には6/6の『偽神デミゴルド』がいる。

対して、相手の場には何もいない。

 

このまま次の、ヒイロのターンになれば6点ダメージが確定する。

それは避けたい筈だ。

 

除去か……それとも、場にクリーチャーを出して脅威に対抗するか。

 

そう考えていると、ヤマイが私に視線を向けた。

 

 

「レアカードハンター、いいコトを教えてやるぜ」

 

「なに?」

 

 

カードのプレイとは関係のない言葉だ。

どうでもいいからプレイに戻って欲しい。

 

 

「オレとヨーコでなぁ……今まで73戦の『タッグマッチ』をしてんだよ」

 

 

……思った以上に『タッグマッチ』をしているな。

明らかに、手慣れていると思ったが……なるほど当初の『変則マッチ』は囮で、そもそも『タッグマッチ』をさせるつもりだったのか。

 

 

「……それが?」

 

「んで勝率がよ?73戦、72勝。殆ど勝ってんだよ」

 

 

目を瞬く。

たった一度の敗北……それ以外のカードバトルは全勝している……?

警戒を引き上げる。

 

 

「へっ。オメーに勝って、73勝にしてやるぜ」

 

「……そう。無駄口を叩くなら、ターンを渡してくれる?」

 

「チッ、つれねーなぁ……」

 

 

私も表面上は興味のないフリをしていたが……ヤマイの言っている事が本当なら、彼等は相当な『タッグマッチ』の熟練者という訳か──

 

 

「だが!そのつれねー澄まし顔を、歪ませてやるぜ!オレは手札から、呪文(スペル)『土塊の生体錬成』を発動するぜ!」

>ヤマイ:手札4→3

>ヤマイ:マナ5→0

 

 

フィールドに土くれで出来た人型が現れた。

 

 

「『土塊の生体錬成』の効果ァ!オレは手札からクリーチャーを1体場に出して、即座に自壊させる!」

────────────────

⑤土塊の生体錬成

呪文カード

手札からクリーチャーを1枚、場に出す。

その後、この効果で出したクリーチャーを破壊する。

────────────────

 

 

一見すると意味のない効果……しかし、私は即座に理解した。

『死亡時効果』の踏み倒しを狙っているのか!

 

 

「オレが手札から場に出し、破壊するのは……『死霊騎士 アモルファス』だ!」

 

 

場の土塊は一瞬、鎧のような姿を模して……崩れた。

 

 

「その瞬間、『死霊騎士 アモルファス』の死亡時効果が発動!墓場(トラッシュ)から、このクリーチャー以外の『テラー』クリーチャーを甦らせる!」

────────────────

⑧死霊騎士 アモルファス

レジェンド・クリーチャー・カード

種族:テラー・ナイト

突撃(「突撃」を持つクリーチャーは、場に出たターンからクリーチャーに攻撃できる)

死亡時:このクリーチャー以外の種族「テラー」クリーチャーを墓場から1体、場に戻す。

パワー6/タフネス4

────────────────

 

 

デッキに1枚しか入れられない、レジェンド・クリーチャー……これがヤマイの切り札か。

自身以外の『テラー』クリーチャーを蘇生(リアニメイト)して後続を用意するカード……普通にコストを支払いプレイしても強力だ。

 

だが、今回は自壊している。

そして、このクリーチャーは自身を蘇生するループを組まないように、自分自身を対象に出来ない。

5コストを支払って、墓場の『テラー』クリーチャーを1体蘇生(リアニメイト)するだけだ。

 

まだ──

 

 

「オレが墓場から甦らせるのは……『死霊騎士 アモルファス』だ!」

 

 

場に、漆黒の鎧を身に纏った騎士が姿を現した。

首のない霊体の馬に乗り、その手には巨大な槍を持っている。

 

 

「……なに?」

 

「な、何だって!?」

 

 

私が思わず漏らした声に続いて、ヒイロも声を出した。

そして、ヒイロがヤマイを睨みつけた。

 

 

「『死霊騎士 アモルファス』の蘇生(リアニメイト)効果は自分自身を対象に出来ない筈だ!」

 

「あぁん?オレがいつ自分の『死霊騎士 アモルファス』を蘇生(リアニメイト)の対象にしたんだぁ?」

 

「何を言って──

 

 

瞬間、私は理解した。

 

 

「そうか……そっちの『死霊騎士 アモルファス』か」

 

「くっくっく、流石はレアカードハンター。気付いたようだな」

 

「ニ、ニーナ?ど、どういうことなんだ……?」

 

 

私はヒイロを一瞥し、ヤマイ……ではなく、ヨーコを指差した。

 

 

「今、この場に蘇ったのはヤマイの『死霊騎士 アモルファス』じゃない。ヨーコの『死霊騎士 アモルファス』だ」

 

「なっ──

 

「へぇ……アンタ、よく分かったね」

 

 

なんてコトはない仕掛けだ。

つまり……互いのデッキに『死霊騎士 アモルファス』が入っているだけなのだ。

 

 

「ヤマイの『アモルファス』が破壊されたら、ヨーコの『アモルファス』が。ヨーコの『アモルファス』が破壊されたら、ヤマイの『アモルファス』が蘇る……相互の蘇生ループでしょ?」

 

「く、くっくっく!そうだ!そういう事だ!」

 

 

つまり……彼等のデッキは『タッグマッチ』用にカスタマイズされ、相互にシナジーを生み出すデッキなのだ。

『死霊騎士 アモルファス』はレジェンド・クリーチャー……デッキに1枚しか入れられない。

だから、一対一のシングルでは実現しないコンボ。

2体の『死霊騎士 アモルファス』を使った蘇生ループ、『タッグマッチ』専用のコンボだ。

 

 

「さらに!ヨーコの墓場にある置物(オーナメント)『死界の亡壁』の効果が発動する!自分の場にコスト8以上の『テラー』クリーチャーが蘇生(リアニメイト)された時、場に戻る効果だ!」

 

 

地面が砕けて、姿形が朧気な壁が姿を現した。

……ヨーコが手札破棄で落としていたカードか。

用意周到な……。

 

 

「ついでに『死界の亡壁』の効果を教えてやるぜ?自分の場に『テラー』クリーチャーが存在する限り、オメーらはオレ達を攻撃できねぇ!」

 

「む……」

 

「何だって!?」

 

「おっと!だが、安心しな?この置物(オーナメント)は自分の場のクリーチャーが破壊されたら、自分も墓場(トラッシュ)に戻っちまうデメリット効果付きだ」

────────────────

⑥死界の亡壁

オーナメント・カード

自分の場に種族「テラー」クリーチャーが存在する場合、自分プレイヤーを攻撃対象にできない。

自分のクリーチャーが破壊された時:このカードを破壊する。

自分の場にコスト8以上の種族「テラー」クリーチャーが蘇生された時:このカードを墓場から場に戻す。

────────────────

 

 

つまり、種族『テラー』が存在する限りプレイヤーを守る盾になる置物(オーナメント)

そして、自分の場のクリーチャーが破壊されたら自壊し、自分の場にコスト8以上に種族『テラー』クリーチャーが蘇生されたら場に戻る……。

 

 

「……その置物(オーナメント)が自壊しても、『死霊騎士 アモルファス』が蘇生されたタイミングで場に戻る」

 

「おう、よーく理解してんじゃねぇか!」

 

 

つまり……私達は──

 

 

「僕達は、ずっと相手をクリーチャーで攻撃できない……?」

 

 

ヒイロが唖然とした表情で、そう呟いた。

 

そう、これは『死霊騎士 アモルファス』を使った無限に続く防御陣形。

このままでは、私達に勝つ術などない。

 

 

「ど、どうすれば……?」

 

 

ヒイロが私に視線を向けた。

自信無さげな、そんな目。

 

 

『タッグマッチ』特有の無限ループコンボ。

そして、用意周到なタッグ用デッキ。

対して、私達のデッキは……味方の所為で条件すら満たしていない『ハイランダーデッキ』と、自己完結していて足並みを揃えられない『コンボデッキ』。

 

 

「……くっ──

 

 

圧倒的に不利な状況だ。

 

 

「ふ──

 

 

面白みのなさそうな二人組だと思ったが、なかなか、どうして。

 

 

「く、ふふ、ふ……」

 

 

面白い戦略を取るじゃないか!

そうこなくては!

 

 

「ニ、ニーナ……?」

 

「ふふ……ヒイロ、大丈夫……」

 

 

私はバトルディスクを高らかと掲げる。

 

同時に、フードが外れ、素顔が露わになる。

私の顔を見て、『決闘組』の二人が目を丸くした。

 

 

「おっ?」

 

「あら……?」

 

 

だが、そんな事はどうでもいい。

私は自信満々に笑みを浮かべる。

ヒイロの不安を振り払うために、奮い立たせるために。

 

 

「私達なら勝てる。ヒイロ、私を信じてくれる?」

 

「ニーナを……う、うん!信じるよ!」

 

「ありがとう。私も、ヒイロを信じるから」

 

 

私は手札に目を落とす。

そこには、私の切り札『解き放たれし破滅 エルザイン』があった。

そして、自身の……いや、私達の墓場(トラッシュ)を確認する。

 

……やはり、そういう事か。

 

 

「おうおう、聞き捨てならねぇな」

 

「そうよ、誰に勝つって?」

 

 

私は笑みを浮かべたまま、彼等に視線を向ける。

 

 

「どんなデッキも『完璧』にはなれない。必ず穴がある。私のデッキも、ヒイロのデッキにも……勿論、そのデッキにも」

 

「あぁん!?」

 

 

重要なのは信頼関係。

チャンスは1回。

そして、そのタイミング……猶予も短い。

 

私だけでは間に合わない。

ヒイロだけでは掴み取れない。

 

だが、このバトルは『タッグマッチ』!

二人ならば、勝機はある!

 

 

「私とヒイロ、二人でなら……貴方達に勝てる」

 

 

そう、宣言した。

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