TSホビアニ転生:悪のTCG組織で実験体やってたけど、いつの間にか滅んだらしい 作:WhatSoon
ニーナが『カードショップ・ダイス』を襲撃……いや、普通に来店してから一週間が経過した。
彼女が再び『カードショップ・ダイス』に来る事はなく……かと言って、『レアカードハンター』の噂が途絶える事もなかった。
つまり、元通り。
何も変わっていない。
……なんだけど。
僕はちょっと、変わってしまったかも知れない。
「……はぁ」
だってこうしてまた、夕方を過ぎても一人で街を出歩いてるのだから。
前に会った時と同様に探していれば、彼女にまた会えるかも知れない……なんて、考えている。
連絡先も知らないし、彼女がどこに住んでいるかも知らないのだから……仕方ない。
茜色の空が、暗くなっていく。
人も少なくなって来た。
みんなは今頃、家族で食卓を囲んでいるのだろうか?
僕には……関係ないけど。
桐谷製薬、という大きな薬の会社がある。
そして、僕の名前は桐谷 ヒイロ……偶然の一致ってワケじゃない。
父が社長をしているんだ。
母は、居ない。
僕がまだ幼い頃に病気で亡くなった、と聞いている。
父は、僕の事が嫌いな訳ではない。
でもきっと、『好き』ではない。
父にとって『家』とは、会社の社長室のことだ。
僕にとって『家』とは、父の元を離れて借りている賃貸のことだ。
家族はいる。
だけど、僕は……。
だから、こうして夜、一人で出歩けている。
心配してくれるような人が居ないから。
「…………」
彼女も、そうなのだろうか。
年頃の女の子が一人、夜中に
どんな事情があるんだろう。
夜風が少し、冷たい。
「……良くないよなぁ」
勝手に知ったつもりになって、勝手に自分の生い立ちを重ねようとしている。
本当に良くない事だ。
次、出会ったらちゃんと訊かなきゃ。
どんな人間なのか、何が好きで、何が嫌いなのか……知りたいから。
バトルディスクの時計機能を確認する。
19時を過ぎたみたいだ。
……まだ、もう少しだけ探したい。
少し、甘い匂いがした。
甘く煮た豆の匂い……餡子と、クリームの匂いだ。
お腹がきゅぅと縮んだような気がした。
まだ、今日は晩御飯を食べてないから。
だけど、そんなオヤツにうつつを抜かしている暇はない。
僕は彼女を探さなきゃいけないんだ──
「はぐ、ふぐ……」
………あれ?
僕は目を擦った。
路地裏で、ゴミ箱に座り……たい焼きを食べている少女が居たからだ。
大きなコート、そのフードをかぶった……僕が探していた少女が。
その手元には大きな紙袋がある。
中には、たい焼きが沢山入っていた。
「……んぐ?」
僕の視線に気付いたようで、こちらに目を向けた。
……うん、やっぱり。
これは幻覚でも、気の所為でもないみたいだ。
僕はため息を吐いて、彼女に近づいた。
「その……久しぶり。こんな所で何をしてるの?」
「うん……んぐもんぐむむ──
「あ、ごめん。飲み込んでからでいいよ……はは」
「んぐ」
彼女はたい焼きを一つ食べ終えた。
そしてもう一つ、新しいたい焼きに手を伸ばして──
「ちょ、ちょっと待って!何でもう一個食べようとしてるの……!?」
「え?だって、冷めちゃうし……」
「うっ……わ、分かったよ。ごめん、食べ終わるまで待つよ」
僕がそう言うと……彼女は紙袋から、たい焼きを一つ手に取った。
そして、そのたい焼きを僕に向けた。
「ヒイロも食べる?」
「……え?」
「あ。もしかして、こし餡派?今、つぶ餡しかないし、クリームで我慢し──
「あ、いや……大丈夫。食べられるよ、ありがとう」
彼女から、たい焼きを受け取って口に含む。
丁度、お腹が空いていたから……凄く、美味しく感じた。
ふと、横を見るとニーナも美味しそうに食べている。
揺れるフードから、彼女の顔が微かに見えた。
無表情……だけど、どこか嬉しそうな顔に見えた。
……というか、僕が食べてる間に既に三個目を齧り始めていた。
思ったより、健啖家なんだな……なんて思いながら、彼女が食べる様子を見ていた。
そして、あんまりジロジロと見てしまったからか、彼女が僕の方へ目を向けた。
手に最後のたい焼きを掴みながら、だ。
「うん……?どうかした?」
「あ、いや……ごめん、ジロジロ見ちゃって……」
「……あ、喉が渇いたとか?」
彼女はたい焼きを紙袋に戻して、お茶の入ったペットボトルを僕へ手渡した。
「ほら」
「あ、ありがとう」
実際、たい焼きの甘味で喉は乾いていた。
僕はペットボトルの蓋に……あれ?
待ってくれ。
これ開いてないか?
「あの……」
「んぐ?」
彼女は口にたい焼きを咥えている。
「あ、いや何でもナイデス……」
僕は蓋を開けたペットボトル。
その飲み口に視線を落とした。
開いている。
お茶も最初より減っていた。
つまり、彼女が……ニーナが、飲んだという事だ。
どこからか?
それは勿論、この飲み口──
つまり……つまり?
つまる、つまれ、つまろ、つまらない。
ダメだ。
こんな事を考えてるって思われると、気持ち悪いと思われてしまいそうだ。
そう、彼女は気にせず僕に渡したんだ。
僕も気にせず口にするべきなんだ。
飲まずに返したら余計に失礼だし、意識してるってバレてしまう。
「……よ、よし」
さ、さぁ、飲むぞ。
口にするぞ。
口に……。
うん、お茶だ。
「ありがとう、返すよ」
「うん」
丁度、彼女もたい焼きを食べ終えたようで、ペットボトルを受け取ってくれた。
どうしてこうも、お茶を飲むだけで疲れてしまったのだろうか。
何だか気持ち悪い事を考えてしまっていたな、なんて自己嫌悪を──
ペットボトルの蓋が開く音がした。
視線を彼女に向けると──
ぐい、とペットボトルのお茶を口にしていた。
さっきまで、僕が口にしていたのに。
何も躊躇う様子もなく。
そして……喉を鳴らして、一気に飲み干した。
「……ふぅ」
一息、吐いた。
彼女と一緒にいると、僕は早死にするかも知れない。
心臓が過労で死んでしまう。
そんな目を回しそうになっている僕に、彼女が視線を向けた。
「で?なに?」
「なにって……」
「用事、ないの?それともリベンジしに来たの?」
「あっ」
そうだ。
たい焼きを食べに来たんじゃない。
本来の目的は──
「ええと、これ……返さないといけないな、って」
バトルディスクからカードを1枚、彼女の前に差し出した。
「『妖精姫 エルザ』……?」
「ほら、前に会った時にさ、バトルするのにデッキが万全じゃないからって……一旦、貸して貰ってたから。それで……その、急に帰っちゃうから返し忘れて……」
何故か、こう、しどろ、もどろ……と、変に言い訳みたいな話をしてしまう。
そんな様子に彼女は少しだけ……本当に、注視していればギリギリ気付けそうなぐらい少しだけ、頬を緩めた。
「……私、気にしてないのに」
「でも、約束だから。僕が負けて、君が勝った。だから、このカードは君の……ニ、ニーナさんの物だ」
僕がそう言い切ると、彼女は首を傾げた。
「ニーナ『さん』?」
「え、あ……だって、よ、呼び捨てには出来ないし……」
目を泳がす。
内心でどうだろうと、女性の下の名前を呼び捨てにするだなんて、僕にはとてもじゃないけど出来ない。
こんな事を指摘されるとは思わなかった。
は、恥ずかし──
「ニーナでいい」
「え?」
「私もヒイロ、って呼んでるし」
そう言われて、僕は思わず顔が熱くなった。
だ、だから……その、ええと、僕にはハードルが高い……って。
「「…………」」
あぁ、もう。
「じゃあ、これから……その、ニ、ニーナ?って呼ぶ事にするよ」
「うん」
何だか、彼女には振り回されてばかりだ。
側にいると、僕が僕でいられなくなる。
そんな気がした。
と、いうか──
「は、話を戻すけど……!このカード、『妖精姫 エルザ』はニーナの物だから。受け取って欲しいんだ」
「……んー」
僕の言葉に彼女は腕を組んで、唸った。
心底、納得していないかのような態度だ。
顔は無表情のままだけど。
「なんで、受け取ってくれな──
「だって、このカード。ヒイロのデッキに必要じゃないの?」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ、持っていて欲しい。弱いカードバトラーに勝っても楽しくないし」
弱い、カードバトラー……って。
僕がそうじゃないと、強いカードバトラーだと言いたいのか?
……なんて、とんだお世辞だ。
ニーナにも、ユウキくんにも僕は勝てないのに。
拳を握る。
「なら別に、僕がカードを持っていようが、持っていなかったとしても変わらな──
「見つけたぞ!レアカードハンター!」
大きな声が路地裏に響いた。
男の声……その声の主へ、目を向けた。
黒い学ランを着たオールバックの男と、気の強そうな女が立っていた。
そして、ニーナも──
「誰?」
あ、知り合いじゃないみたいだ。
「オレは、『決闘組』の頭やってるヤマイだ」
「……何それ?」
ヤマイと女の方も眉間に皺が寄った。
というか──
「『決闘組』って、暴札族の『決闘組』の……?」
「っふぅ、そっちの可愛い顔の兄ちゃんの方は分かってるみてぇだな」
「か、かわっ……!?」
何だろう、馬鹿にしてるような素振りではなかった。
だからこそ、物凄く腹が立った。
別に僕は可愛い顔をしていない。
確かに、ちょっと顔付きが男らしくないなーとは自分で思ってるけど、断じて可愛くはない。
僕が身を震わせている横で、ニーナが口を開いた。
「それで?その『決闘組』だっけ?そこのリーダーが、何で私を探してたの?」
「あぁん!?そりゃテメーがオレのチームの兄弟共のカードを巻き上げてっからだろうが!」
「……あー、なるほど」
「なるほどじゃねぇよ!バカにしてんのか!?」
ヤマイはかなり強面だ。
身長もかなり高い。
だというのに、ニーナは全く怯むような様子がなかった。
「それで、何がしたいの?」
「そりゃあテメーをボコボコにして、今までの借りをきっちり返して貰おうって訳だ!」
「ふーん、じゃあバトルディスクを──
「だがしかし!オレ一人ではお前に勝てねぇって分かってる!」
「はぁ……?」
ニーナが段々と興味なさそうな声色になっていく。
彼女と出会ってまだ短いけれど、それでも分かってしまうぐらいには態度に出ていた。
直後、ヤマイが隣の女と肩を組んだ。
「つまり!オレ、ヤマイと!」
「アタシ、ヨーコの!」
「「二人で相手しようって訳だ!」」
……何だか随分と仲が良さそうだ。
だけど、言ってる事は結構、物騒だ。
「……二人?」
「そうだ、二人同時!三人での『変則マッチ』だ!まさか、逃げたりしねぇよな?」
明らかに不利な条件。
バカげたルール。
こんなの普通のカードバトラーなら一蹴する。
だけど、僕は知っている。
ニーナは──
「そう。よく分からないけど、受けて立──
「ちょっと待って!ストップ!ストップ!」
ちょっと、いや、尋常じゃない負けず嫌いだ。
そういう意味だと、僕もユウキくんもそうだけど……。
ユウキくんなんて「逃げるのか?」なんて言われたら、つい頭に血が昇ってしまうぐらいにはダメダメだ。
ニーナもきっとそうだと思ってたけど、やっぱり……止めてよかった。
「あん!?邪魔すんのか!?」
「ヒイロ、邪魔しないで」
あー!もう!
ヤマイの方にキレられるのは理解できるけど、ニーナに叱られるのは納得いかない!
僕はただ助けようとしてるだけなのに……。
くっ。
この態度、このままバトルを止めさせる事は出来なさそうだ。
それなら──
「二対一なんて卑怯だ!僕がニーナに加勢する……!」
「あん?」
「アンタが?」
不良二人が何故か感心するような目で僕を見た。
「え?」
真横から疑問の声が出てきたけど、今は無視する。
顔も見ない……何か文句言われそうだし。
「『変則マッチ』なんてさせない!やるなら、二対二の『タッグマッチ』だ!」
「ヒイロ?何言ってるの?」
「ほう!なるほど……そいつはいい。まとめてボコボコにしてやるよ!」
「え?なんで?」
横で何度も疑問の声があがる。
緊張が張り詰めた風船だとしたら、何度も口を開いて萎むような感覚があった。
「バトルディスクを構えな!
そうヤマイが口にすると、ニーナが無表情のまま頷いた。
「……まぁ、別にいいけど──
「よーし!それじゃあバトル開始だ!いくぜ!」
僕を含めた四人が、バトルディスクを構えた。
『『『『オープン・ファイト』』』』
バトルディスクが展開する。
大丈夫だ。
ニーナは僕よりも強い。
そして、僕だって街の不良になんか負けはしない。
互いに相手の実力を上回っていれば、必ず勝てる。
「よし、僕は出来るだけニーナに合わせる!だから──
服の裾を引っ張られた。
「ヒイロ、ちょっといい?」
「えっと……どうかした?」
「私、『タッグマッチ』した事ない。ルールを教えて」
「え?」
今度は僕が疑問の声をあげる番だった。
◇◆◇
特殊フォーマット、『タッグマッチ』!
それは二人一組でチームを組み、戦うルール!
ターンは交互にチームへと受け渡される。
例えばAチームがA1君とA2君、BチームがB1君とB2君なら、
A1→B1→A2→B2→A1……
といった形で遷移する。
そして、『タッグマッチ』最大の特徴にして難点。
それはチームメンバーと『共有』する物があることだ。
共有する物は
・ライフ(チーム全体で30点)
・
・フィールド上のカード(クリーチャーや
逆に共有しない物は
・マナゾーン
・手札
・デッキ
つまり、A1が場に出したクリーチャーを使ってA2が攻撃する事もできる!
A2が置いている
しかし、A1の手札のクリーチャーをA2が召喚する事はできない。
勿論、呪文も使用できない。
これが『タッグマッチ』だ。
……と、ヒイロに教えて貰った。
ちなみに、私が最初に承諾しそうになっていた『変則マッチ』だった場合、ターン遷移が
私→ヤマイ→ヨーコ→私……
といった感じになっていたので、かなり不利だった。
相手のタッグが連続で続くため、毎ターン、私だけターンをスキップされているようなものだからだ。
……いや、めちゃくちゃだ。
止めてくれたヒイロには感謝しなければならない。
「僕のターン!カードを引いて、1枚をマナへ!」
>ヒイロ:ターン4
>ヒイロ:手札4→4
>ヒイロ:マナゾーン3→4
おっと、試合に意識を戻さないと。
現状、私たちのライフは28点。
ヤマイ側は26点。
ボードは前ターンの
「僕は手札から
>ヒイロ:手札4→3
>ヒイロ:マナ4→1
────────────────
③根源のトーテム
オーナメント・カード
起動効果:マナを1支払う。デッキからコスト1以下の呪文カードを発動する。
────────────────
私と戦った時にもプレイした
デッキからコスト1以下の
「僕はマナを1支払い、デッキから『妖精の来訪』を発動する!フィールドに1/1のフェアリー・トークンを2体生成する!」
>ヒイロ:マナ1→0
────────────────
①妖精の来訪
呪文カード
自分の場にクリーチャーが存在しない場合、種族「フェアリー」を持つパワー1/タフネス1のフェアリー・トークンを2体生成する。
────────────────
私達の場に双子のフェアリー・トークンが生み出される。
……私のデッキにも1コストの呪文は幾つかある。
「これで僕はターンを終了する!」
4マナ消費にしては控えめな盤面だが、目的である
維持していれば、毎ターンアドバンテージが稼げる……ここは準備のターンだ。
「それじゃ、アタシのターンね」
>ヨーコ:ターン4
ヤマイと同じ服装の女が、そう口にした。
「アタシはカードを1枚引いて、1枚マナへ」
>ヨーコ:手札3→3
>ヨーコ:マナゾーン3→4
言動の軽い不良達だが、カードバトルでは中々に堅実だった。
手札の無駄な消費は抑えつつ、クリーチャーを展開してくる。
間違いなく下っ端共より強い。
……そうか、不良の喧嘩も『
喧嘩が強い不良=カードゲームが上手い不良……になるのか?
こいつら『決闘組』の規模は分からないが、少なくとも平均的なカードバトラーよりは強いだろう。
「アタシは手札から『迂闊な埋葬者』を召喚!」
>ヨーコ:手札3→2
>ヨーコ:マナ4→0
彼女の場に、ボロボロの服を着た女が現れた。
────────────────
④迂闊な埋葬者
クリーチャー・カード
種族:テラー
召喚時:自分のデッキから、任意のクリーチャーを1枚破棄する。
パワー1/タフネス1
────────────────
見覚えのあるカード……私のデッキにも入っている、狙ったクリーチャーを
ステータスは低いが、効果はその分、強力だ。
その効果は、墓場利用をするデッキならば採用を検討してもいい程に。
低いステータス故に場の優位を取られると、
「デッキからクリーチャーを1体、
それでもデッキから落としたいクリーチャーがいる、という裏付けになる。
デッキタイプを読む事は、相手の戦略を読み解く事……つまり、何がしたいか、何をされたくないかが分かるという事だ。
マナに置くカードの指標にもなる。
だが、しかし──
「そしてこのままターンを終了」
「次は……私のターンか。カードを引いて、1枚をマナへ」
>ニーナ:ターン5
>ニーナ:手札3→3
>ニーナ:マナゾーン4→5
正直に言おう。
『タッグマッチ』というルールに、私は慣れていない。
そもそも研究施設にいた頃にやった事がないし、初めてなのだから仕方ないだろう。
手札枚数のコントロール、
何故なら、手札枚数が実質的に2倍になっているからだ。
一対一ならば手札消費1枚で呪文1枚を止めると影響も大きいが、二対二ならば……初期手札は5枚ではなく実質10枚だ。
打ち消しや
「私は場のフェアリー・トークンで『迂闊な埋葬者』へ攻撃」
>フェアリー・トークン(1/1)
>迂闊な埋葬者(1/1)
味方が出したクリーチャーの扱いも難しい。
勝手にトークンを相打ちさせたが……ちら、とヒイロを一瞥する。
頷かれた。
うん、大丈夫そうだ。
「そして、もう1体のフェアリー・トークンでプレイヤーへ直接攻撃」
「くっ!」
「鬱陶しいわね……!」
>ヤマイ&ヨーコ:26→25
相手チームの共有ライフを少し削っておく。
そして──
「ヒイロ、もう1体のフェアリー・トークンも貰う」
「え、あ、いいけど──
「私は場のフェアリー・トークンを生贄にして、手札から『偽神デミゴルド』を召喚」
>ニーナ:手札3→2
>ニーナ:マナ5→0
妖精の真下から黒い腕が生えて、握り……砕いた。
そして、その腕の持ち主である異形が姿を現した。
────────────────
⑦偽神デミゴルド
クリーチャー・カード
種族:テラー・デーモン
自分の場のクリーチャーを1体破壊する事で、このクリーチャーの召喚コストを-2できる。
召喚時:カードを2枚引く。
パワー6/タフネス6
────────────────
神像を模した姿をしているが、再現しきれていない歪な姿をしている。
「『偽神デミゴルド』の召喚時効果でカードを2枚引く」
>ニーナ:手札2→4
『偽神デミゴルド』は高いステータスと、ドロー効果を持つ。
場のクリーチャーを破壊する事でコストを軽減できる効果を持っており、私のデッキと相性がいい。
勿論、ヒイロが生成するフェアリー・トークンとも相性がいい。
……ちら、とヒイロを一瞥する。
いつも通り気の弱そうな笑みを浮かべているが、問題はなさそうだ。
私とヒイロ、互いに手札は非公開情報だ。
口頭で内容を開示する事はできるが、相手チームにも聞こえてしまう。
……つまり、お互いの情報を交換しないか、相手に聞かれる前提でやり取りするかの二択だ。
私は後者を選択しない。
手札がバレれば、戦略も読まれる。
味方と共有できないよりも、相手に知られる方が拙い。
それは相手チームも同じ。
だが……彼等は互いのデッキ
対して、私とヒイロは出来合いのチーム。
互いのデッキ
『タッグマッチ』とは仲間との相互理解、信頼関係が重要となるようだ。
その点……私達は負けている。
個人の技量でカバーしなければならない。
「……私はターンを終了する」
私がターンを受け渡せば、次はヤマイのターンだ。
「次はオレのターンだ!カードを引いて、1枚をマナへ!」
>ヤマイ:ターン5
>ヤマイ:手札4→4
>ヤマイ:マナゾーン4→5
現状、私達の場には6/6の『偽神デミゴルド』がいる。
対して、相手の場には何もいない。
このまま次の、ヒイロのターンになれば6点ダメージが確定する。
それは避けたい筈だ。
除去か……それとも、場にクリーチャーを出して脅威に対抗するか。
そう考えていると、ヤマイが私に視線を向けた。
「レアカードハンター、いいコトを教えてやるぜ」
「なに?」
カードのプレイとは関係のない言葉だ。
どうでもいいからプレイに戻って欲しい。
「オレとヨーコでなぁ……今まで73戦の『タッグマッチ』をしてんだよ」
……思った以上に『タッグマッチ』をしているな。
明らかに、手慣れていると思ったが……なるほど当初の『変則マッチ』は囮で、そもそも『タッグマッチ』をさせるつもりだったのか。
「……それが?」
「んで勝率がよ?73戦、72勝。殆ど勝ってんだよ」
目を瞬く。
たった一度の敗北……それ以外のカードバトルは全勝している……?
警戒を引き上げる。
「へっ。オメーに勝って、73勝にしてやるぜ」
「……そう。無駄口を叩くなら、ターンを渡してくれる?」
「チッ、つれねーなぁ……」
私も表面上は興味のないフリをしていたが……ヤマイの言っている事が本当なら、彼等は相当な『タッグマッチ』の熟練者という訳か──
「だが!そのつれねー澄まし顔を、歪ませてやるぜ!オレは手札から、
>ヤマイ:手札4→3
>ヤマイ:マナ5→0
フィールドに土くれで出来た人型が現れた。
「『土塊の生体錬成』の効果ァ!オレは手札からクリーチャーを1体場に出して、即座に自壊させる!」
────────────────
⑤土塊の生体錬成
呪文カード
手札からクリーチャーを1枚、場に出す。
その後、この効果で出したクリーチャーを破壊する。
────────────────
一見すると意味のない効果……しかし、私は即座に理解した。
『死亡時効果』の踏み倒しを狙っているのか!
「オレが手札から場に出し、破壊するのは……『死霊騎士 アモルファス』だ!」
場の土塊は一瞬、鎧のような姿を模して……崩れた。
「その瞬間、『死霊騎士 アモルファス』の死亡時効果が発動!
────────────────
⑧死霊騎士 アモルファス
レジェンド・クリーチャー・カード
種族:テラー・ナイト
突撃(「突撃」を持つクリーチャーは、場に出たターンからクリーチャーに攻撃できる)
死亡時:このクリーチャー以外の種族「テラー」クリーチャーを墓場から1体、場に戻す。
パワー6/タフネス4
────────────────
デッキに1枚しか入れられない、レジェンド・クリーチャー……これがヤマイの切り札か。
自身以外の『テラー』クリーチャーを
だが、今回は自壊している。
そして、このクリーチャーは自身を蘇生するループを組まないように、自分自身を対象に出来ない。
5コストを支払って、墓場の『テラー』クリーチャーを1体
まだ──
「オレが墓場から甦らせるのは……『死霊騎士 アモルファス』だ!」
場に、漆黒の鎧を身に纏った騎士が姿を現した。
首のない霊体の馬に乗り、その手には巨大な槍を持っている。
「……なに?」
「な、何だって!?」
私が思わず漏らした声に続いて、ヒイロも声を出した。
そして、ヒイロがヤマイを睨みつけた。
「『死霊騎士 アモルファス』の
「あぁん?オレがいつ自分の『死霊騎士 アモルファス』を
「何を言って──
瞬間、私は理解した。
「そうか……そっちの『死霊騎士 アモルファス』か」
「くっくっく、流石はレアカードハンター。気付いたようだな」
「ニ、ニーナ?ど、どういうことなんだ……?」
私はヒイロを一瞥し、ヤマイ……ではなく、ヨーコを指差した。
「今、この場に蘇ったのはヤマイの『死霊騎士 アモルファス』じゃない。ヨーコの『死霊騎士 アモルファス』だ」
「なっ──
「へぇ……アンタ、よく分かったね」
なんてコトはない仕掛けだ。
つまり……互いのデッキに『死霊騎士 アモルファス』が入っているだけなのだ。
「ヤマイの『アモルファス』が破壊されたら、ヨーコの『アモルファス』が。ヨーコの『アモルファス』が破壊されたら、ヤマイの『アモルファス』が蘇る……相互の蘇生ループでしょ?」
「く、くっくっく!そうだ!そういう事だ!」
つまり……彼等のデッキは『タッグマッチ』用にカスタマイズされ、相互にシナジーを生み出すデッキなのだ。
『死霊騎士 アモルファス』はレジェンド・クリーチャー……デッキに1枚しか入れられない。
だから、一対一のシングルでは実現しないコンボ。
2体の『死霊騎士 アモルファス』を使った蘇生ループ、『タッグマッチ』専用のコンボだ。
「さらに!ヨーコの墓場にある
地面が砕けて、姿形が朧気な壁が姿を現した。
……ヨーコが手札破棄で落としていたカードか。
用意周到な……。
「ついでに『死界の亡壁』の効果を教えてやるぜ?自分の場に『テラー』クリーチャーが存在する限り、オメーらはオレ達を攻撃できねぇ!」
「む……」
「何だって!?」
「おっと!だが、安心しな?この
────────────────
⑥死界の亡壁
オーナメント・カード
自分の場に種族「テラー」クリーチャーが存在する場合、自分プレイヤーを攻撃対象にできない。
自分のクリーチャーが破壊された時:このカードを破壊する。
自分の場にコスト8以上の種族「テラー」クリーチャーが蘇生された時:このカードを墓場から場に戻す。
────────────────
つまり、種族『テラー』が存在する限りプレイヤーを守る盾になる
そして、自分の場のクリーチャーが破壊されたら自壊し、自分の場にコスト8以上に種族『テラー』クリーチャーが蘇生されたら場に戻る……。
「……その
「おう、よーく理解してんじゃねぇか!」
つまり……私達は──
「僕達は、ずっと相手をクリーチャーで攻撃できない……?」
ヒイロが唖然とした表情で、そう呟いた。
そう、これは『死霊騎士 アモルファス』を使った無限に続く防御陣形。
このままでは、私達に勝つ術などない。
「ど、どうすれば……?」
ヒイロが私に視線を向けた。
自信無さげな、そんな目。
『タッグマッチ』特有の無限ループコンボ。
そして、用意周到なタッグ用デッキ。
対して、私達のデッキは……味方の所為で条件すら満たしていない『ハイランダーデッキ』と、自己完結していて足並みを揃えられない『コンボデッキ』。
「……くっ──
圧倒的に不利な状況だ。
「ふ──
面白みのなさそうな二人組だと思ったが、なかなか、どうして。
「く、ふふ、ふ……」
面白い戦略を取るじゃないか!
そうこなくては!
「ニ、ニーナ……?」
「ふふ……ヒイロ、大丈夫……」
私はバトルディスクを高らかと掲げる。
同時に、フードが外れ、素顔が露わになる。
私の顔を見て、『決闘組』の二人が目を丸くした。
「おっ?」
「あら……?」
だが、そんな事はどうでもいい。
私は自信満々に笑みを浮かべる。
ヒイロの不安を振り払うために、奮い立たせるために。
「私達なら勝てる。ヒイロ、私を信じてくれる?」
「ニーナを……う、うん!信じるよ!」
「ありがとう。私も、ヒイロを信じるから」
私は手札に目を落とす。
そこには、私の切り札『解き放たれし破滅 エルザイン』があった。
そして、自身の……いや、私達の
……やはり、そういう事か。
「おうおう、聞き捨てならねぇな」
「そうよ、誰に勝つって?」
私は笑みを浮かべたまま、彼等に視線を向ける。
「どんなデッキも『完璧』にはなれない。必ず穴がある。私のデッキも、ヒイロのデッキにも……勿論、そのデッキにも」
「あぁん!?」
重要なのは信頼関係。
チャンスは1回。
そして、そのタイミング……猶予も短い。
私だけでは間に合わない。
ヒイロだけでは掴み取れない。
だが、このバトルは『タッグマッチ』!
二人ならば、勝機はある!
「私とヒイロ、二人でなら……貴方達に勝てる」
そう、宣言した。