乳首から魔貫光殺砲が出せたらロマンチックビーム 作:ミスターポポティンティン
エビチリの前世の人は、元ネタの事件の時には、既に亡くなっています。
「人は日々、ヤクザによる暴力の恐怖に屈しています」
壇上の上、及びその後ろに設置された巨大スクリーンの中で少女が悲しげに語りだす。
「それは、平和な場所で、平和に暮らしている方達も含みます。平和に暮らしているのに? 今の所、被害にあっていないというだけです。例えば詐欺……毎日のように一般の方が狙われています。老後の生活費が全て取られるなどといった致命的な攻撃を日々受けています」
歓声と共に迎えられたスターの登場の名残。浮ついていた雰囲気が徐々に変わっていく。
「ヤクザの仁義や矜持、カタギに手を出さないことなど全て嘘っぱちです。恐ろしい存在です」
真剣な言葉に会場が飲み込まれていく。
「先日、ここ東のエリア出身で、今は西の都で活躍しているベースボール選手の秘書が、窃盗・横領の罪で逮捕されましたね? ギャンブル中毒でものすごい額の借金を作って……」
最近、世間を揺るがしたスキャンダル。裏の世界の組織と闘ってきた少女による……その裏話。
一般の人間からすれば、前代未聞の事件でも、少女からすれば、典型的な事件の1つ。
単に登場人物がテレビによく出ていた人間だっただけ。それにより、特にこの悪が蔓延る世界においては、ごく普通の事件が『スキャンダル』として、未だに世間を賑わせている。
「あの方は責められて当然ですが……。とりあえず、みなさん……自分がいわゆる人生の成功者だと想像してみて下さい。お金持ちになりました。家族も友人も素晴らしいです。とても幸せな日々です………だからこそ狙われます。自身も、周囲も……ありとあらゆる手法で……」
詐欺とは、信用させて騙すこと。様々な手法があるが、その1つに、まずターゲットと仲を深めるというものがある。そして……最初から深い仲の人間を狙うもの……すでに信用されている人物を狙うものがある。
「このエリアで昔から言われていることです。将を、射んと欲すれば先ず馬を射よ」
有名人と出会うのが難しかったとしても、その周囲の人間には簡単に出会えるのだ。一般人なのだから。周囲の人間の、更に周囲の人間……家族などにまで広げれば絶対だ。友人になろうとすれば、高確率でなれる。その内の誰かを、破滅させてやるんだ……堕としてやるんだ。
「あの選手が結婚した方……の両親……の、友人をまず狙うのはどうでしょうか?」
今回は借金を作らすパターン。金貸しとギャンブルの胴元が同一。あの金額にまで膨らますことも含めて、別に珍しいケースではない。スポーツ賭博が盛んな西のエリアでは、よくあることだ。
この世界では存在しないものだが、前世でFXというものが大流行したことがあった。株でいう信用取引を……信用無しで行えることが特徴の1つだ。しかも、もっと大規模に。ようするに、現在自分が所有している金額以上の額での投資が出来るシステムだ。
実質借金で投資デビューって……と思う人間。情勢に乗ったビジネスを、融資を受けて始めるのと一緒だと考える人間。よくわからないけどネットで3倍くらいなら耐えられるって書いてあったから3倍でやってみようと考える人間。界王拳10倍だぁぁーーーーーー! という人間。
「色々な人がいます。1人堕としてやればいい。1人食い物にしてやればいい。落とした先に、糸を垂らしておいて……ハメにハメてやるのです。繰り返し、繰り返し。そうしてその方を操作し、メインディッシュにまで辿り着き……思う存分……貪ってやるのです」
セーフティがあるから大丈夫だと安心させ、そして、ちゃんとセーフな基準のセーフティだと、もうどうしようもなくさせる。『界王拳を20倍まで引き上げるしかねえ……カ……カラダがもたねえかもしれねえが……』とさせることが第一歩。
FXや金融商品がそうだと言っているわけではない。人の
「あの秘書の方を庇っているわけではないのです。ただあの方は、ようは実行犯であり……その裏……そして更に裏……そして横にも……いるのです。ヤクザが……君臨する巨悪が」
気を感じることに長けた少女は、それに集中すれば、彼女の言葉によって、人がどういう感情になったか、場の雰囲気がどう移ろいで行っているのかがわかる。それなりの数の観客を呑んだ。
しかし、時事ネタ……それも報道のノリと少し違う。秘書を庇っているわけではないと念を押したが、一定の人数が、彼を責め立てた自分を否定されたと感じている。敏感なのだ。
好きになることも、嫌いになることも、本質は理屈ではない。怒りや嘲りには理屈があっても、一定以上の嫌悪にまで昇華されてしまったのなら、それを超越する。自身は相変わらず理屈として語っていても、他人の理屈に耳を貸すことはない。理屈ではないのだ。
つまりはクリトリスだ。色んな意味でセンシティブ過ぎるんだ。もっと乱雑に扱っても良いものじゃないと笑えない。つまりは乳首だ。最強だ。後に熱くなるにしても、まずは、心地よく、くすぐったいものがいいんだ。
空気を……部屋に充満している気を、物理的に変えていく。
以前、タイツに、殺気を乳首から出したのか聞かれたことがあった。その発想はなかったが、確かに出そうと思えば出せるんだ。でも乳首が1番得意とする放出物は……もっと優しく、暖かく、人を育むものなんだ。
「人には自分や自分の家族を守る権利があります。日常が何よりも大事です。そして大事すぎるからこそ、日常を壊す存在への対処が……そういった非日常の決断が出来ない」
怠惰だとか、惰性だとか、そういう言葉は使わない。青臭く、くすぐったい正義で包むんだ。
「新たな脅威に人は敏感です。でも、既存の脅威の存在は……日常になってしまってます。無視するのも日常。受け入れることも日常。正当性を見出してしまっている人もいるでしょう」
いわゆる必要悪だが……必要がない方が良いに決まっている。悪に頼らない方が良いに決まっている。
「単に正義の力と、数が足りていないだけなのです」
徐々に放つ気を強めていく。声にも乗せる。音の震えを心の震えと誤認させる。俺が物理的に放った気の熱を、感銘により受けた精神的なものだと思い込ませる。
そもそも人は熱くなりたいんだ。震えたいんだ。まいったと褒め称えたいんだ。その逆の感情、人の醜さ、負の感情……少なくてもそれらと同じ規模の正の感情を誰もが持っていて、ぶちまけてやりたくてたまらないんだ。
「大丈夫です。私が来ました。この世界に……私が来ました」
俺を崇めろ!!
「ヤクザが君臨する時代。ヤクザに役目がある時代。私が終わらせます!」
気を当ててやる。熱気に包んでやる。正気を塗りつぶしてやる。
「屈するのが当然、そうしなかった人は害される……私が元を絶ちます!」
語られる彼女の人生。
ヤクザに屈さなかった両親。報いを受けた勇気ある人達。
こちらの落ち度での事故ということで片付けられた。そうならずとも下っ端が逮捕されるだけ。
支配者。君臨者。絶対的正義。
勝てる者はいない。屈さない人間はいない……全てを失った自分以外は。
自分しかいない。もう自分しかいない。だからやれる。だから殺れる。だから殺ってみせる。
殺し屋を訪ねる。何でもする。何でもした。力をつけた。あの日に無かった力を。
「聖地は燃えました! 燃やし尽くしてやりました! 我が物顔でヤクザがのさばる時代は終りです! ここまま終わらせるんです! 悪が
講演が終わる……それと共に、まるで何かから解放されたような歓声があちこちから上がる。
「おおぉぉぉおおおお、エビチリ! エビチリ! エビチリ!」
「負けなかった! よくぞ負けなかった!」
「俺も戦うぞ! 俺も戦う! 俺も戦える側なんだ!!」
大熱狂の講堂を後にし、同じホテル内の自分にあてがわれた部屋に向かう。
気を探って感情を読み取るとか、更には操作するだなんて、鶴仙流にいた頃は考えもしていなかった。新たな分野で、様々な経験をしたことが、専門の武道にすら通ずる成長を促している。
タイツの小説は、今なお売れているベストセラーだ。その前代未聞のヒットにより、すぐに映画化も決定し、主演はなんと……俺、本人。
実際の俺の闘いが写っている高解像度の映像が豊富にあった。しかし、とても世間に見せられない部分も多かった……。その結果、見せられない部分や、ストーリーの部分を、もう俺自身の、主演女優とスタントで撮影して、最終的に1つの作品に仕上げようということになったのだ。
CGも外部のスタントも使ってないことをアピールしたCMが、もの凄い話題になり、どんな女優を使うよりも宣伝効果があった。そして、当然のように、その映画も大ヒット。俺のアクションや美貌で、非常に高い評価を得て、ロングラン……数々の賞も受けた。
それらの成果や、他にも色々な要因により、今の俺は複数の仕事に携わっている。
スケジュールは常にカツカツで、部屋には戻ったが、一息つく暇もない。さっさと講演用の服から、黒スーツに着替える。サングラスをかけ、金髪ウェーブのウィッグとハットも身につける。
今の俺は、武道家、女優、歌手、テレビタレント、反ヤクザ活動家に加えて、ヤクザの元締めなど、マルチな才能を発揮して日々大忙しだ。