TS少女は魔女に堕ちても、原作主人公を幸せにしたい〜盲目の魔女〜   作:廃棄工場長

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第二部 一章 王国魔女異変
第四十五話 圧力


 

 

「――ドリア様! タダイマ帰還シマシタ」

「えーと……あんたは……ああ、どっかの貴族の所に行っていた奴よね? 久しぶり。どう上手くいったかしら?」

 

 

 ここはアルカナ王国とロッキー帝国、両国の境目に位置する洞窟の深部であった。そしてそこには数にして、百体以上にも及ぶ魔物がひしめいていた。

 しかもゴブリンやスライムといった下級の魔物ではなく、中級に分類される魔物の姿も少なくはなかった。

 

 

 魔物の主な生息地は両国よりも遥か北側であるのだが、人里の離れた山間部等に魔物が出没する事例は珍しくない。

 しかしこれだけの種類の魔物が一箇所に集まっているのが、人間が知れば忽ち冒険者や国お抱えの戦力により討伐軍が組織される。

 つまりこの魔物達の群れは、現在アルカナ王国の者達には存在が割れていない、内部に紛れ込んだ爆弾と言える。

 

 

 そんな人外の巣窟の中で一際目を引く存在が一つ。端麗な容姿に加えて、赤色の髪に一対の角が印象的な魔人の少女である。

 

 

 魔人と呼ばれる、多種多様で複雑怪奇を描く魔物の中でも異端な存在である。魔物でありながら、人に近い姿を取り、人の言葉を巧みに操る彼らは自然と魔物達を纏める立場につきやすい。

 と言っても、魔人以外の魔物が個体として優れていない訳ではないのだが。

 

 

 その魔人の少女――ドリアは、この洞窟にいる魔物を率いており、アルカナ王国にやって来たのは彼女の腐れ縁である魔女の頼みを聞いたからである。

 

 

 そしてここ最近アルカナ王国で起こっていた、ロッキー帝国との国境付近にある村々を襲撃していた魔物を手引きしたのも、このドリアであった。

 その村々の襲撃も、とある事情があり中断しているのだが。

 

 

 ドリアは随分前に命令を下し、人間の街に行かせた蝿型の魔物に視線を向ける。

 蝿型の魔物は、ぼそぼそと聞き取りにくい声ながらも受けた命令に対する報告を行った。

 

 

「――目的ノ少女達ヲ確保する為ニ利用シタ人間ノ貴族デスガ……『破壊』ノ魔女ニ妨害ヲ受ケタヨウデ、結果的ニ送り込ンダ騎士団ノ隊長ガ一人洗脳状態ニ。ソノ後洗脳ヲ受ケタ隊長ニ利用シタ貴族ハ残ラズ殺害サレテシマイマシタ」

「そう……それは残念ね。あんた程度の毒でも操れて立場がそこそこの人間なんて滅多にいないのに」

 

 

 ドリアの言う通り、この蝿型の魔物は見た目相応の力しか持ち合わせていない。その分ただの蠅と見分けがつかず、人間の街に潜入するには有用な存在である。

 今回もその有用さを買われて、ドリアの目的である二人の少女が見つかった街の貴族の屋敷に入り込ませていた。そしてこの魔物が持つ、人間の神経系を侵す毒を屋敷の者達に注入して、彼女達の意のままに操っていたのだ。

 

 

 この毒は魔力を持たない人間には強力に作用するのだが、少しでも魔力を持つ人間には全く効果がない。それだけではなく、魔法使いが毒にかかった者を一目でも見れば異常に気づき簡単に対処されてしまうという、リスキーな代物であった。

 

 

 そこら辺の村人数人程度に毒を仕込むのであれば、かなりの長時間対象を操ることが可能だろうが、それが貴族のような身分が高い者になってくると話は変わってくる。

 普通の場合、そのような身分の人間には護衛がついている。物理面をカバーする為に剣士の類を傍に置いておくこともあれば、暗殺を防止する為にその道の同業者や魔法使いを護衛として起用する場合がある。

 

 

 そうなると毒を盛った瞬間に異常を察知され、魔物ごと問題を解決されてしまう可能性が非常に高い。

 そもそも本人が魔法使いである時は近づくことすら不可能である。

 

 

 それらの事態を考慮すると、ドリアが考案した作戦の実行は現実的ではなかった。しかし今回の場合は非常に幸運であり、グラス男爵家はそういう面には無頓着な上に、彼らと顔を合わせた冒険者や騎士団員の中には魔法に明るい者が一切いなかった。

 そんな奇跡の上に、ドリアが蠅型の魔物に命じた作戦は成立したのだ。

 

 

 もちろんドリア自身もそのことは承知の上で、蠅型の魔物にはあまり期待していなかったのだが――。

 

 

「――まあ、都合の良い操り人形が消えたとしても、私達の損にはならないし、別に構わないわ。むしろそれだけの犠牲で上々の成果よ。良くやったわ」

「ア、アリガトウゴザイマス……」

 

 

 まさか褒められるとは思っていなかったのだろう。蠅型の魔物は驚きながらも、せっかく機嫌の良いドリアを不愉快にさせない為に、慌てて感謝の意を告げる。

 

 

「あくまでおまけのつもりだったけど、王国の戦力を少しでも削れたのは運が良いわ。それに長らく消息不明だった『破壊』の魔女の逆鱗に触れるなんて、王国も馬鹿なことするわねぇ。やっぱり、まだまだ人間が死ぬのかしら? あんたはどう思う?」

「エ、エット……」

「別に良いわ。まともな答えは期待していないから。――追加の命令をあげる。『破壊』の魔女と王国が争い合って、どちらかが倒れた後に、目的の子供達を確保しなさい。手段は問わないから。よろしくね?」

 

 

 笑顔でありながら、決して否とは言わせない圧力をかけるドリア。蠅型の魔物は消え入りそうな声で、了解の意を示すのが精一杯であった。

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