TS少女は魔女に堕ちても、原作主人公を幸せにしたい〜盲目の魔女〜   作:廃棄工場長

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第四十九話 新しい契約者

 

 

 

「――さあ、クロエちゃんに、パトリシアちゃん。今日はもう遅いから寝る準備をして頂戴」

「はい、シオンさん」

「は、はい」

 

 

 『前借りの悪魔』が中心となって行われた、シオンを完全に正気を戻す作戦会議から一日が経過した。

 いきなり決行するのは失敗のリスクを高めるだけ、というのは『前借りの悪魔』の言葉である。

 

 

 しかしこの作戦の実行にあたって準備するものは特になく、精々最適なタイミングを見計らうことと、クロエと私の両者が互いのことを信じ合うことぐらいであった。

 

 

 そして時間は翌日の夜。入浴を済ませた私達に向かって、就寝するように言ってきた。それに素直に従い、私達は寝巻きに着替える。シンプルなデザインながら、可愛らしい寝巻きである。

 

 

 着替え終わった私達は、普段利用している寝室へと行く。前の住居では違ったが、今の寝室は一室しかなくベッドもシオンと私達で共用の一つしかない。

 ベッドのサイズは子供が二人と大人の女性一人が問題なく寝れる程の大きさであり、新しい住居に移り住んでからずっと三人で眠っている。

 

 

 これもシオンの魔女化が進行している症状の一つであり、若干気恥ずかしい為断りたくても、首に嵌められた『魔女の枷』により拒否権はない。

 そのせいで羞恥心に耐える日々が続いていた。

 

 

 だが無防備に私達に近づいてくるこのタイミングが、作戦の成功確率が一番高い。

 

 

 素直に寝室へと到着した私達は、シオンが来る前にある作業に移る。私と『前借りの悪魔』との契約破棄だ。

 それ自体は別に仰々しいものではなく、互いの合意さえあればスムーズに完了する。

 しかしその後が難所である。『前借りの悪魔』が吸収してくれていた分の闇属性の魔力を、シオンに悟られずなおかつ暴走しないように意識を保たねばならない。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 『前借りの悪魔』との契約を破棄した瞬間に、今まで肩代わりされていた闇属性の魔力が襲いかかってくる。少しでも気を緩めると、呑まれてしまいそうになる。

 

 

(契約者様!?)

「大丈夫!? パトリシア!?」

 

 

 『前借りの悪魔』とクロエが心配そうに声をかけてくれる。そのお陰で薄れつつあった意識が僅かではあるが、はっきりとしてきた。

 

 

「……うん。何とか大丈夫。今まで散々迷惑をかけられた『これ』も多少は役に立ってるし……」

 

 

 息を整えて二人に返事をしながら、首に嵌められた『魔女の枷』を右手で触る。

 装着者の行動に制限をかける呪いの装備であり、クロエ共々これには非常に頭を悩まされた。

 しかしシオンが私に対して個別にかけた一つの制限が上手く作用して、私の意識を留めるのに一役買っていた。

 その制限の内容とは、『憤怒』の魔女の力の使用を禁ずる、というものである。

 

 

 皮肉にも私の自由を縛っている『魔女の枷』の存在が、私の魔女化を食い止めるとは。『前借りの悪魔』が最初に作戦を提案した時には思いつきもしなかった。

 

 

 それでも私の内側では、荒々しい『怒り』の感情が湧き、闇属性の魔力が激しく暴れ回っている。シオンに異変を察知されないように振る舞える時間も、そう長くはないだろう。

 

 

「……無理そうになったら、すぐに声をかけてね。パトリシアまでおかしくなっちゃたら、私……本気でどんな行動に移るか分からないから」

 

 

 そう私に言ってくるクロエの表情は真剣というよりも、どこか危うげな雰囲気を纏っていた。それこそ少しでも触れたら、壊れてしまう硝子細工に似た儚さと言えば伝わるだろうか。

 

 

「……大丈夫、大丈夫。もしもそうなったら、迷わずクロエを頼るから」

 

 

 クロエを安心させるように、できるだけ柔らかい口調で話しかける。

 万が一私の魔女化が進行するようであれば、シオンの魔女化をクロエの魔法で浄化するよりも先に、私のことを優先してもらうことになる。

 

 

 もしもそうなった場合は作戦は失敗で、駆けつけたシオンによってクロエの魔法の使用は『魔女の枷』によって半永久的に禁止されることだろう。

 そうなれば二度とシオンを元に戻す機会は失われてしまい、このまま彼女の下で囚われの日々が続くことになることは間違いない。

 

 

 だから失敗する訳にはいかない。この作戦はクロエがシオンに対して、有効な魔法を使えるとは思われていないことが前提にないと成立しないものだ。

 一回しかないチャンスは決して無駄にできない。

 

 

 理想を言えば『前借り』の権能を使ったクロエの魔法で、私の魔女化を先に解除してもらうのが最適解だろうが、使用する魔法の効果が出るまでの時間を考えれば、この方法しかない。

 

 

 『前借りの悪魔』の方から、クロエに向かって問いが投げかけられる。

 

 

(――我は『前借りの悪魔』。貴女はこれから我と契りを交わし、地獄への道を歩む覚悟はあるのかしら?)

 

 

 この問答はあくまでも形式的なものでしかない。しかし彼女達にとっては、これ以上になく覚悟を確認し合う儀式でもある。

 部外者である私には、そう感じられた。

 

 

「――もちろん。私の名前はクロエ。パトリシアもシオンさんも両方、私は助けたい。だから、『前借りの悪魔』。私に力を貸して」

(――ええ。その願い、確かに聞き届けたわ。我の権能を貴女に預けて上げる。新しい契約者様)

 

 

 ――こうして、クロエと『前借りの悪魔』の契約が正式に完了した。と言ってもまだ権能は未使用の為、クロエに外見や魔力的に変化は見られない。

 契約による魔力の揺らぎ等は、今の魔女としても中途半端な状態であるシオンでは、探知されないだろうから心配はいらない。

 

 

(……二人とも、準備は良いかしら? シオンがもうすぐ来るわよ)

 

 

 『前借りの悪魔』の言葉に、私とクロエは無言で頷き了解の意を示す。

 作戦開始だ。

 

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