TS少女は魔女に堕ちても、原作主人公を幸せにしたい〜盲目の魔女〜 作:廃棄工場長
「――二人とも、寝る準備はできたかしら?」
寝室やって来たシオンは、私達同様に寝巻きに着替えていた。ただまだ成長途中の私達と違い、寝る際に下着を身に着けないシオンの体の豊満さがより際立っている。
(……じゃあ、我はもう消えるわね。おやすみ)
「ええ。また明日ね。悪魔さん」
さっきまでのやり取りを一切感じさせない様子で、『前借りの悪魔』はシオンに就寝の挨拶を告げて体を透明化させた。
シオンは異変に気づいたようには見られない。
「先に横になってもらっても、良いかしら?」
シオンの言葉に反応して、私達の首に嵌められた『魔女の枷』が怪しく発光する。こうなると、シオンの命令に逆らうことができない。
もしも逆らうようであれば、『魔女の枷』から装着者の肉体を強制的に操る魔法が発動される。よって、私達には拒否権は最初から存在しないのだ。
「……はい」
「わ、分かりました」
私とクロエは大きなベッドの上に寝転がる。私達を素材の良いふかふかな感触が包む。もしもこんな状況でなければ、ベッドの感触で今日一日の疲れを癒したいところである。
私達がそんなことを思っているとはつゆ知らず、シオンは柔らかい――だけどどこか壊れたような笑みを浮かべていた。
「ふふふ。やっぱりいつ見ても、二人は可愛いわね」
シオンはベッドに横になっている私達を視界に収めて、時間にして数十秒間。私達の頭を優しく撫でたり、ほっぺたの感触を楽しんでいた。
もちろんその間、私達はくすぐったいのを我慢するしかない。それを見たシオンの嗜虐心が刺激されて、ちょっとした拷問の時間が延長されるのがいつもの流れだ。
少し乱れた呼吸を整える私達とは対照的に、シオンは満足そうな表情をしている。
その後シオンはもう一度私達の頭を撫でると、ベッドに横になる。私とクロエの間に入り込むように、位置を取る。川の字の状態だ。
横になったシオンはクロエの方に向くと、両腕をめいっぱいに広げて彼女の小さな体を抱き込む。こうやって私達の内の一人を抱き枕代わりにするのが、ここ最近のシオンの日課である。
私も昨日やられたばかりだ。
抱きしめられた感想としては、シオンの体は女性として理想的な柔らかさで、今では大分薄れつつある男としての本能が刺激され若干の興奮を覚えるぐらいである。
抱き枕代わりにされた翌日、目には隈ができていて眠れていないことを指摘されたことがあるが、その時はシオンやクロエには何ともない風に振る舞っていた。
ちなみに『前借りの悪魔』にはバレバレであった。私と彼女の間にあった魔力的なパスを通じて、思考が筒抜けであることを失念していた。
「じゃあ、おやすみなさい」
シオンが眠る前の挨拶をして、瞼を下ろした瞬間。私達は待っていたのだ。彼女がクロエに無防備に近づき、完全に油断しているタイミングを。
「――『前借り』の権能、発動」
クロエの静かな、けれど覚悟の籠もった声が寝室に響く。それと同時に、クロエの魔力が今までからは考えられない程に増幅していた。
彼女の魔力は、今のシオンや私が持つ闇属性の魔力とは違い、聖女としての希少な才である光属性の魔力。
それが未だに制御が拙いせいか、クロエの体から少なくない量が漏れ出ている。
流石に異変に気づいたのか、シオンは慌てた風に言葉を発する。
「く、クロエちゃん。その魔力量は……もしかして、『前借り』の権能を使ったの……!?」
正気を失いつつあるとしても、素で優秀であるシオンはクロエに起きた異変の正体を察したようだ。それでもクロエが次にどのような行動に移るのかには、考えが及ばないらしい。
「や、止めなさい! クロエちゃん! 止めないのなら、『魔女の枷』で強制的にでも――」
魔女としての本能が、クロエが取ろうとしている行動に対して危機感を抱いたのだろう。それを阻止する為に、シオンはクロエの首に嵌められた『魔女の枷』を通じて妨害しようとする。
しかしシオンがそれを成すよりも先に、クロエの方が魔法を発動させる。
「――『聖女の抱擁』」
クロエはシオンに抱きしめられている状態で、両手を彼女の背中に回して抱き返す。
クロエが使用した魔法は、『聖女の抱擁』。
その発動条件はクロエが対象者に直接触れていることで、効果は対象のあらゆる状態異常の解除である。
効果は強力だが、戦闘中に使うとなるとあまり現実的ではなく、ゲームでもこの魔法は戦闘中には使うことはできない。
それは先に述べた発動条件が原因である。
しかしその問題は就寝時を狙ったことで解決している。
「う……パ、パトリシアちゃん……!?」
苦痛に顔を歪めながらも、クロエの魔法から逃れようとシオンは体を動かそうとする。けれど、それは私が許可しない。
私も体内で暴れ狂う闇属性の魔力に耐えつつ、背後からシオンの体を押さえ込む。
シオンが驚きの声を上げるが、徐々に抵抗する力は弱まっていく。私は振り払われることがないように、必死にしがみ続けた。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。魔法を使っていたクロエも、それに抵抗していたシオンも意識を失っていた。疲れて眠っているようだ。
首元に触れてみれば、『魔女の枷』も力を消失し外れている。つまりそれはシオンの魔女化が解決したということであり、私の闇属性の魔力を抑えていた防波堤が決壊したことを意味していた。