TS少女は魔女に堕ちても、原作主人公を幸せにしたい〜盲目の魔女〜   作:廃棄工場長

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第六十三話 『悔恨』の魔女②

 突然現れた魔人の少女は、私に勧誘などという耳当たりの良い言葉を、開口一番に放ってきたが――。

 

 

「……人類の敵である貴女の言葉など、信用できる訳ないでしょう」

「全く手厳しいわね。そんなに信用がないかしら」

「そもそも魔物に与するつもりは毛頭ありません」

 

 

 魔人の少女に対して、断固として拒絶の意志を示す。私の返答が予想通りだったのか、彼女はわざとらしく肩をすくめる。

 その油断している状況を好機だと思い、私は魔人の少女に気づかれないように、室内に視線を巡らして打開策を探す。

 

 

 何故人間の都市のど真ん中に、魔物を連れた魔人が現れたのか。どうやって私の屋敷に侵入してきたのか。

 問い質したいことはいくつもあるが、まずはこの異変を外部に知らせて、屋敷の者達を避難させなければ。

 

 

 そう思考を巡らしつつ、視線を動かしていることを察したのか、私を牽制するように口を開く。

 

 

「あまり下手なことは考えないようにね。私達の存在を知っているのは、あんただけ。もしも騒ぐようなら、余計な死人が増えるかもね」

「……卑怯な手を使いますね」

「別に何とでも言いなさい。こっちだって、ここ数ヶ月は知り合いの頼みごとを果たすだけで、どれだけの労力を使ったか――まあ、あんたには関係がない話ね」

 

 

 そこで一旦言葉を区切った魔人の少女は、寝巻き姿の私の体を上から下へと舐めるように見てきた。

 同性とはいえ、種族も違う相手に不快な視線を向けられて、思わず片手で体を庇うような反応をしてしまう。

 

 

 そんな捕食者に睨まれる小動物のような反応をする私に、魔人の少女はその端正な顔に歪な笑みを浮かべる。

 

 

「そう言えば、さっきから自分はさも人間の味方みたいな発言をしているようだけど、少しはおかしいと思わないのかしら?」

「何のことでしょうか?」

 

 

 私の返答に対して、魔人の少女はできの悪い生徒に教えを説く教師のように、私が無視していた事実を突きつけてきた。

 

 

「――あんたはもう魔女でしょう。そのドロドロした魔力が溢れているのを見たら、私以外でも一発で分かるわよ」

「そ、そんなことは分かっています……」

 

 

 声が震えそうになるのを抑えようとするが、上手くいかない。動揺している私に、ゆっくりと魔人の少女は近づいてくる。

 そして耳元で、脳髄がとろけるような声で一つの『呪い』を囁いた。

 

 

「そう? 自分が魔女だって自覚しているのなら、心の底で渦巻く感情をぶつけたい相手がいるでしょう。良かったら、私がそれを手伝ってあげるわ」

「わ、私は……」

 

 

 声の震えが増々酷くなり、呼吸の間隔が短くなる。自分にしか聞こえない心臓の音が、やけに大きく脳内に響く。

 

 

 この誘いを断らなければ、自分だけではなく王国にとっても最悪の結果を招くことになる。それを僅かに残った理性で理解しつつも、本能が感情のままに動くことを肯定している。

 二律相反。二つの矛盾した考えがせめぎ合い、私の思考は停滞していた。

 

 

 そんな無防備な姿を晒していた私から離れると、魔人の少女は肩に乗った蝿型の魔物に指示を下す。

 

 

「ここまで揺さぶれば十分でしょう。あんたの毒をお見舞いして上げなさい。あんた程度の毒でも、この状態なら効くでしょうし」

「承知シマシタ……」

 

 

 不快な羽音を立てて、肩から離れた蝿型の魔物は私に接近してくる。その行動に対して、流石に不味いと思った頃には既に遅く、その魔物は私の首元に口から伸びる針を差し込んできた。

 

 

 どくん。魔物の針から何かが注入されるのを感じながら、私の意識は暗転していった。

 

 

 

 

「思いも寄らない拾い物があったから、今回はあんたの無能さには目を瞑って上げる」

「ア、アリガトウゴザイマス……ドリア様」

 

 

 自らの毒をアリシアに注入し終わった蝿型の魔物は、上司である魔人の少女――ドリアに最大限の気持ちを込めて礼を告げる。

 

 

 ドリアはそれを鬱陶しそうに右手で払うような仕草をした後、視線をアリシアの方に戻す。

 

 

「――『悔恨』の魔女。我ながら良いセンスしていると思うわ。あんたはどう思う?」

「良イセンスダト思イマス」

「そうでしょう、そうでしょう!」

 

 

 部下である蝿型の魔物から望む答えを聞けたドリアは、ただの少女のように嬉しそうな声を上げて笑う。

 ひとしきり笑ったドリアは目尻に浮かんだ涙を拭うと、それまでのふざけた雰囲気が一変。真剣な表情に切り替える。

 

 

「計画は順調に進んでいるわ。今夜にでも、『破壊』の魔女達と王国がぶつかり合う。両者が疲弊した瞬間に行動を起こすわよ。本当はあんた達だけに任せたいんだけど、最後の仕上げは自分でしないと気が済まないし。感謝してよ?」

「ハ、ハイ。ドリア様ノオ陰デ、野良ノ魔女ヲ一人洗脳スルコトガデキマシタ。ドリア様ノ助ケガナケレバ、自分ノ毒ハ無力デスノデ……」

 

 

 かしこまる蝿型の魔物の羽音だけが室内に響く中、ドリアは『破壊』の魔女一派と王国の騎士団が戦闘を始めるまで暇になるので、部屋の主に許可を取ることなくベッドに飛び込む。

 部屋の主であるアリシアは毒が効いてきているのか、ぶつぶつと何か呟いている。衝動に呑み込まれている魔女共通の症状だ。

 

 

 知り合いの魔女は比較的に正気を保っている方とはいえ、偶に見る光景である為、現在のアリシアの状態に物珍しさはない。

 

 

 素材の良いふかふかのベットの感触を楽しみつつ、暇潰しを兼ねてその知り合いの魔女について考えていた。

 そもそもドリアが魔物の生息範囲を抜けて、アルカナ王国に来たのはその魔女の頼みごとをされたことが切っかけである。

 その内容とは――。

 

 

 そこでふと知り合いの魔女の口癖を思い出す。

 

 

「『お兄ちゃんに会いたい』か……。この作戦が無事に終了したら、私も探すのを手伝ってあげようかしら……」

 

 

 ドリアの知り合い――友人を思いやる呟きは、静かな夜に溶けていった。

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