TS少女は魔女に堕ちても、原作主人公を幸せにしたい〜盲目の魔女〜   作:廃棄工場長

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第七十二話 切開

――覚悟を決めて、『賢王の墳墓』に向けて歩みを進めること数分後。予想通り『賢王の墳墓』を守護していた『ブラックドラゴン』に、私の存在を認識された。

 まあ、むしろ正面から歩いて来ている私に気がつかない程、節穴な者はいないだろう。人間や魔物に限らずに。

 

 

 私が『賢王の墳墓』の入り口から相当な距離がある時点で、二体の『ブラックドラゴン』の視線が注がれる。

 例えるなら、蛇に睨まれた蛙――それよりは、マシな力関係。シオン敵対ルートで相対する強化個体でなければ、二体相手でも勝てなくはない。

 相手の出方が分からず、その場で立ち止まってしまう。先制攻撃でも加えるべきか。そう考え、魔剣を具現化しようとした時。

 最近聞いたばかりの少女の声によって、それは中断された。

 

 

「――その子達を殺すのは、止めてもらっていいですか? 今後のことを考えて、足を潰されては困りますので」

 

 

 声の方向に視線を向けてみれば、そこにいたのは金髪に黒色のドレス姿の少女――アリシアであった。

 アリシアの言葉の内容は、戦闘行為そのものを避けたいように感じられた。そこに交渉の余地が僅かでもあると信じて、こちらから会話を切り出す。

 

 

「……どうして騎士団の部隊長である貴女が魔女になって、魔物の……魔人の言うことを聞いているの?」

「貴女がそれを私に言いますか? 私の義父であるベオウルフさんにあのような真似をしておいて……!」

 

 

 アリシアの顔が憎悪に歪む。

 そうだ。アリシアが魔女に堕ちた原因は、彼女の大事な人物――彼女の場合は育ての親であるベオウルフ――が死んだことだ。

 しかもその死には騎士としての誉れも何もなく、ただ敵の操り人形にされたという不名誉な事実しか残らなかった。

 その時は私達も正気を失っていて、選択した行動が正しいとは微塵も思っていない。

 王都でユージンには、私達の方にも事情があったと水に流してもらい、国王の命令として討伐作戦自体も破棄してもらった。

 だが、そんなことはアリシアには関係ない。彼女から唯一の家族を奪った罪が許される訳がない。許されて良いはずがない。

 

 

「あの……そのことについては」

「もう良いです! 別に貴女の謝罪がほしい訳じゃない。そんなものであの人が生き返る訳ないですし。それよりも、もっと良い方法がありますから。私の気分が晴れるには」

 

 

 そこで話を止めたアリシアの表情は、邪悪な笑みに切り替わる。まるでそれは、捕食者が獲物を甚振る際に見せるものに酷似していていた。

 

 

「前にも言いましたけど、魔女さんの大切な人達を目の前で苦しめ、辱める。あの人達はどんな声で鳴いてくれると思いますか? 魔女さん」

 

 

 その言葉にアリシアに対する罪悪感が一気に消え失せ、私の内側で胎動する『怒り』が顔を出そうとする。

 そんな私の様子を見て、アリシアは増々満足そうに嗤う。

 

 

「最高です! その表情! その表情です! 自分の大切な存在が汚されるのは、辛いですよね! 魔女さん?」

 

 

 つい先程までは、どう下手に出ればクロエ達を解放できるかを考えていたが、そんなものは無視だ。

 

 

 脈動する『怒り』を、『憤怒』の魔女の力を開放する。そして瞬時に具現化させた魔剣で、衝動のままにアリシアに切りかかる。

 その速度は凄まじいもので、私達のやり取りを静観していた『ブラックドラゴン』が反応できない程だった。

 しかし――。

 

 

「あはは! 怖いですね! だけど詰めが甘いですよ。感情に任せた一撃を、騎士でもある私に当てられると本気で思ってます?」

「ちっ……!」

 

 

 私の一撃は、アリシアが提げていた魔剣に簡単に受け止められた。

 同じ魔女同士。その力は拮抗――いや、冷静に力を扱えていない分、私の方が若干押し負けていた。

 徐々に魔剣が私の方に押し返されようとしている。

 

 

「その剥き出しの憎悪! 実にぞくぞくします! ……と言いたい所なんですが、それって本当に貴女由来のものですか?」

 

 

 それまでまくしたてるように、嬉々として私の『怒り』を煽っていたアリシアだが、急にテンションが落ち、淡々と疑問を口にする。

 

 

「……何を言っているの?」

「魔女さんから感じられる私に対する憎しみは素晴らしくて、私の中の『後悔』も多少なりとも解消できそうですが……どうも拭えない違和感が。魔女さんは確かにあの人達のことを、大切に思っているのでしょう。でも、まるで魔女さんの中にもう一人誰かがいて、その誰かが貴女に狂気を代弁させている。そんな風にも感じられます」

 

 

 嗜虐性を引っ込めたアリシアの無機質な視線が、私の瞳を射抜いてくる。そしてそのまま、私の奥にある『怒り』とは別の『■■』の正体を言い当てようとする。

 確かに、この『怒り』も『■■』も今の私が直接的に体験したものではない。しかしその二つとも、クロエを失うことで魔女に堕ちてしまった、それぞれ別の未来の『私』が抱いた絶望。

 私の延長線にあったかもしれないものである。アリシアの発言にこそ違和感があるように感じられるが、彼女は私の複雑な事情は知らないので仕方がないだろう。

 

 

 そう自分を納得させようと思っていると、私の中でひたすら狂気的な■を説いていた『私』が舌打ちをした。そんな錯覚をしてしまった。

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