八神ゆとりの日常   作:ヤシロさん

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この小説の物語はテレビ設定と映画設定がごちゃ混ぜになってます。

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第二十話 変わり始める日常

Side はやて

 

 

 世界にはきっと、私の知らない事がたくさんあるんだと思う。

 まだたったの九年しか生きてないんだから当たり前の事なんだろうけど、それでも自分の知る世界が狭い事への自覚はあった。人よりも足りないものが多くて、同い年の子のように学校に通えない不自由な体。

 それを気にするようになったのがいつだったかは覚えてない。

 暇を見つけては街の図書館に通い詰めて、手当たり次第に本を読み漁っていたのは私なりの反骨心だったんだと思う。

 普通の人みたいに足を遠くまで伸ばせないから。

 ただの哀れな子供と見られたくないから。

 そんな後ろ向きな理由は確かに私の中に存在した。

 

 だけど、それ以上に。

 すぐ近くで私よりもずっと重いハンデを背負いながら、それでも笑ってくれる家族がいたから。

 精一杯の背伸びをして、弱音を悉く押し潰して。

 必死に努力して前に進もうとしてる姉の後ろ姿を、ずっと見続けてきたから。

 私も追いつきたいって思えたんだ。

 甘えて後ろを付いて回るばかりの妹じゃなくて、一緒に歩んで、支えて上げれるような家族に。八神ゆとりの妹なんだぞって、誰にでも胸を張って生きていけるようにしたかった。

 そのための努力なら苦なく出来る。

 どんな困難にだって、立ち向かおうと思える。だけど――、

 

(・・・・・・さすがにこれは、無理なんやないかなぁ)

 

 何事にも例外はあった。

 

 場所は病室。時間は早朝。

 室内にいるほぼ全員からの無言の視線を受けて、ただひたすら冷や汗を流す。

 引き攣る笑みを浮かべて周囲を見渡すも、味方はいるけど、今この状況で頼りになる人が誰もいないのが悲しい。

 

 なんでこんな事にと思うが、誰も答えてくれないだろう。

 一番それを聞きたい私は何も分からず、一番状況を理解してそうな人達は初対面な上に先ほどから無言を貫いている。

 

 そもそもの発端は、私の9才の誕生日の翌日。

 家のベッドで寝てたはずなのに、起きたら病院のベッドの上。見慣れた白い天井を見て夢かななんて現実逃避してたんだけど、心配そうにこちらを覗き込む石田先生に声を掛けられては、目を覚まさない訳にはいかない。

 大丈夫ですと答えながら、体を起こす。

 一緒に寝てたはずの姉ちゃんの事とか、少し気怠い体の事も気になったけど、それ以上に意識が向くのは、剣呑とした雰囲気が漂う室内の一角。

 

 数人の体格の大きな男性医師に囲まれた、四人組の男女だった。

 

 険しい目つきで一点のみを見つめる、桃色の髪を後ろで一つに括った女性。

 おろおろと辺りを見渡している、金髪を肩の辺りで切り揃えた女性。

 自分を囲む大人達を一人一人睨んで威嚇してる、赤髪をおさげにした女の子。

 その後ろで、直立不動のまま動かない、この部屋の中で誰よりも背丈も体格も勝っている銀髪の男性。

 

 はて、どこかで見たような? と考えたところで昨日の最後の記憶が蘇った。

 

 日付が変わった直後に見た、あの不思議な光景。

 浮かぶ本。光の中から現れる四人の男女。

 

(・・・・・・夢や、なかったんやなぁ)

 

 他人事の様に思いながら、やはり現実とは思えない出来事に今もまだ夢の続きなんじゃないかと疑い始めていると、そこで再び石田先生が質問してきた。

 

「ねえ、はやてちゃん。あの人たち、誰なの?」

 

 それは私も聞きたいです。

 そう言いたかったが、石田先生の四人を見る目が不審者を見るそれだったから、何とか喉元まで出かかった言葉を抑えた。

 下手な事を言うのは、なんでか不味い気がしたのだ。

 かといって、他に何と言えばいいのか。本の中から出てきたんですと正直に話せば、即日入院コース待ったなしだ。

 

 と、不意にポニーテールの女性と目が合った。

 

「主」

 

 あるじ? RG? 主?

 聞き慣れない言葉に、一瞬外国の言葉かと思った。

 向けられた言葉と視線からして私の事を呼んだのだろうけど、やはり初対面という事もあり、どう反応していいか分からない。

 他の三人も一斉にこちらを見て、私の一挙一動に注目しているようだからますます困惑が強くなる。

 

「あの人達がはやてちゃんを病院にまで連れてきたんだけど、言ってることは意味わからないし、変な恰好だし、春先なのにはやてちゃんに上着も着せずにいたのよ? とっても怪しいわ」

 

 言われて、初めて自分が家で着てる薄手の寝間着だと気づいた。

 最近暑くなってきたとはいえ、夜から朝方にかけては肌寒い時期だ。空調の効いている室内はともかく、外に出るのは少し辛い。

 それに、石田先生の言う通り四人の恰好は怪しいの一言に尽きる。

 肌に張り付くような上下共に黒一色の服。

 目鼻のくっきりとした整った顔立ちは、明らかに日本人ではない。

 銀髪の男性に至っては、頭に犬耳、お尻に尻尾が生えているように見える。

 じっとこちらを窺うような視線から伝わる意志は弱く、なんだか出来のいい人形を見ているような気分になってくる。

 そんな人達が子供を抱えて突然現れればすごく怪しいし、この警戒具合も納得のいくものだった。

 

「・・・・・・それに、ゆとりちゃんと連絡がつかないの」

 

 顔を寄せて私だけに聞こえる声で教えてくれた内容に、どきりと心臓が揺れた。

 途端に鎌首をもたげた不安に支配されそうになる。

 姉ちゃんは私のすぐそばで寝ていたはずだ。

 あの出来事からすぐに気を失ってしまった私には、その後どうなったのかがわからない。

 

 ゆとりお姉ちゃんは? 無事なの? あなた達は誰?

 

 聞きたい事はいっぱいあった。

 たぶん、一番知ってそうな人達は目の前にいる。

 

 深呼吸する。ここで慌てても、きっと何も変わらない。

 まだ朝も早いし、姉ちゃんならまだ寝てるだけだ。大丈夫。ちゃんとしないと。そう自分に言い聞かせて、平静を装う。

 まず初めにやらないといけないのは、この警戒態勢をどうにかしなければならない。

 そうしないと、話だって落ち着いて出来ないだろうから。

 

「えーと、あの人達は、その、なんといいますか・・・・・・」

 

 必死に頭を巡らせるけど、私はそんなに機転の利く頭の良い子じゃないから、上手い言い訳が咄嗟に出て来ない。

 言い淀む私を見て、室内の大人達は一段と四人に対する警戒を強めてしまう。

 そんな状況に焦りを募らす私が思うことは一つ。

 

(・・・・・・さすがにこれは、無理なんやないかなぁ)

 

 そんな諦めが出始めた時、唐突に助け船がやってきた。

 

【ご命令を頂ければ、力になれます】

 

 響く声。

 先ほど一度だけ聞いた女性の声に、弾かれた様に視線を送る。

 四人を代表するように一歩前に出ていた、ポニーテルの女性は私と目が合うと再び声を響かせた。

 

【いかが致しましょう?】

「!?」

 

 問いかける声。しかし、彼女は一切口を開いておらず、周りも女性が私に話しかけている事に気づいてない様子。

 まるで頭の中に直接声を語りかけたような不思議な現象に、周りの目も忘れて絶句してしまう。そんな私を見かねてか、女性は再び声を響かせた。

 

【思念通話です。心でご命令を念じて下さい】

 

 もはや声も出なかった。

 頭がおかしくなってしまったと言われても、しょうがないとすら思う。

 たった今自分の身に起きた出来事なのにとても信じられなくて、混乱して正気であるかも疑いながら、言われた通りに心で念じる。

 

(・・・・・・あの、聞こえますか?)

【はい】

 

 返事が来た。そこで私は考えるのを止めた。

 やっぱり夢かもと再び現実逃避しそうになるのをどうにか堪え、戸惑いながらもおずおずと話しかける。

 

(えっと・・・・・・それなら、その、ご命令やなくてお願いがあるんやけど)

 

 それが、私と彼女達、闇の書の守護騎士達との初めての交流だった。

 

◆◆◆

 

 バスを降りると、どっと疲れが出た。

 疲労と安堵が合わさり、大きくなった溜息に後ろにいた金髪の女性が反応する。

 

「ある・・・・・・はやてちゃん、疲れてしまいましたか?」

「あっ、ええっと、大丈夫です――シャマルさん」

 

 心配して掛けられた声に振り返りながら応じる。

 綺麗な女性だった。透き通る金髪に、長いまつ毛。温和そうな瞳はこちらへの気遣いで溢れ、慈悲深い優しさと私への敬意を感じさせた。

 名前をシャマル、というらしい。

 

「主はやて。何かご命令があれば、無理をせずいつでも言いつけ下さい」

「ほ、ほんまに大丈夫ですから・・・・・・シグナムさんもお気になさらず」

 

 私の隣、車道側へと率先して立つ女性、シグナムへと視線を移す。

 桃色の髪から覗く双眸は力強く、悠然としながらも凛とした佇まいは燃え盛る炎を連想させる。自然体にして油断なく辺りを警戒する様は、髪型も相成ってテレビで見るお侍さんのようだ。

 

「・・・・・・」

「ヴィータちゃん?」

 

 無言でシグナムさんとは逆側についた少女、ヴィータの名を呼ぶが返事はない。

 四人の中で一番背が低く、ぱっと見は私とあまり変わらない年齢に見えるから話しかけ易いんだけど、気の強そうな瞳は戸惑いの色が深く刻まれており、なかなか私と目を合わせようとしてくれない。

 赤い髪のおさげが返事をするように揺れて、少し寂しい。

 

「えーと、ザフィーラさんはついて来とりますか?」

「はい、主。私はここに」

 

 最後に私達の後ろを僅かに離れてついてくる唯一の男性、ザフィーラ。

 寡黙な雰囲気と服の下から覗く隆起した筋肉は、彼が武人である事を如実に語っている。が、銀髪の頭から生えている犬耳は何なのだろうか? お尻の尻尾は本物だろうか?

 ある意味、この中で一番よく分からない存在だった。

 ・・・・・・あとでお願いしたら、触らせてくれないやろうか?

 

 ギクシャクとした空気の中、シャマルさんに車椅子を押してもらって帰路に着く。

 ただひたすら無言で周囲を固められ、まるで今にもそこの電柱の陰から猛獣が飛び出してくるのではないかと本気で思っているような警戒ぶりに、再びため息が出そうになった。

 これではまるで命を狙われた要人の護送だ。

 断じてお姫様と騎士なんて、ロマンティックの要素も欠片もない。

 

 そんな感想を懐きながら、自分の手の中にある一冊の本へと視線を落とした。

 黒塗りの、金の装飾が施された分厚い本。

 全ての始まりであり、元凶であると説明された。

 

――『闇の書』

 

 不吉な名であるけど、不思議と恐怖は感じない。

 指先でなぞる本の表紙は、少し冷たく、でも、なんでか心が落ち着く気がした。

 安心感と言えばいいのか。安泰と言えばいいのか。

 今までに感じたことのない想いに戸惑いながら、考えるのは彼女達の事。

 

 あの後、なんとか無事に誤魔化せた。

 

 この四人の事は、私の誕生日を祝ってサプライズで訪れた親戚の人達という、あまりにも苦しい言い訳で押し通した。

 変な恰好はコスプレ。私が薄着のままだったのは驚き過ぎて気絶した私を見て慌てたため。姉ちゃんは寝てた。という事にした。

 

 この9年の中でも、あそこまで下手な嘘をついた事はない。

 明らかに信じてもらえてないのに気づきながら、私の話に合わせようとしてくれるシグナムさん達の棒読みな台詞をどうにか無視して、止まらない冷や汗と引き攣る笑顔で嘘を語るのは至難の技だった。

 出来れば、二度と体験したくない。

 そのおかげで、まあ、そういう事にしてもらえた。

 帰り際に防犯ブザーを渡されて本気で泣きそうになったのは、たぶん、一生忘れられないだろう。

 そうまでして彼女達を庇った理由は、実は私もよく分かってない。

 強いて言うなら、放って置けなかったから。

 病室で知らない人達に囲まれて、所在無さげに立ち尽くすシグナムさん達を見た時に、何故か迷子の子供を見たような、そんな気がしたのだ。

 あとは、まあ、気絶した私を病院まで運んでくれて、睨まれながらも私が目を覚ますまで待っていてくれたんだから、悪い人達じゃないんじゃないかって。

 しかし、病院を出て、バスが来るまで時間を潰し、いざバスが来たところでふと思った。

 

 ・・・・・・この人達、いつまでついてくるんやろうか?

 

 なんだか自然と一緒に帰ってたけど、よくよく考えたら自分はシグナムさん達の事を、この時まだ名前すらも知らなかった。

 そうしてバスの中で唐突に始まった自己紹介。

 

 我ら闇の書の主を守りし、守護騎士ヴォルケンリッター。

 烈火の将 剣の騎士シグナム

 紅の鉄騎 鉄槌の騎士ヴィータ

 風の癒し手 湖の騎士シャマル

 蒼き狼 盾の守護獣ザフィーラ

 なんなりとご命令を

 

 ・・・・・・お、おう。

 

 揺れるバスの中で器用に跪いて名乗り上げる騎士達に返せたのは、そんな一言だけ。

 内容もさることながら、他のお客さんの目が痛くて、物理的に頭も痛くなる。

 

 分かった事は、この四人の面倒は闇の書の主に選ばれた私が見ないといけない事。

 話した成果は、人前で「主」呼びは止めてもらえた事。若干守ってない人もいるけど。

 

(・・・・・・姉ちゃんに、なんて説明すればええんやろう)

 

 当面の問題は、この一つ。

 衣食住はなんとか出来る。常識はちゃんとあるようだから、その点も問題ない。

 残るは姉ちゃんが許してくれるかどうかって事だ。

 なにせ、いきなり人が四人も一緒に暮らす事になるのだ。犬や猫を拾ってくるのとは、訳が違う。

 家主である姉ちゃんに説明はするべきなんだけど、自分でもいまだに実感できてない話を正直に話して、信じてもらえるかは分からない。

 

 だって、魔法やもん。

 異世界に、守護騎士に、闇の書やもん。

 

 こんな話をされて、あっさり信じる人なんているわけない。いたとしたら、その人の頭の中は年中陽気な春なんだと思う。

 

 ちなみに、姉ちゃんは無事だと聞いた。

 どうやら私が気絶する直前で、姉ちゃんに私の布団を被せて隠したから、騒ぎには気づかずに眠ったままだったらしい。我ながら咄嗟とはいえ姉を守る行動をしていたのは、愛の成せる業だろう。

 もっともシグナムさん達は姉ちゃんの事には気づいてたみたいだけど、眠っている姉ちゃんよりも気絶した主である私を優先したため、放置する事にしたそうだ。

 

 悩んでいる内に、家の前まで来てしまった。

 ここまで来てしまったら、覚悟を決めるしかない。と、その前に。

 

「あの、みんながちゃんと住めるように姉ちゃんは私が説得しますんで、そこは安心してください。姉ちゃんは優しいし、ちゃんと話せば分かってくれると思います。せやから、姉ちゃんの事を睨んだり、手を出すような事はしないでください」

 

 譲れない部分だけは、しっかりと言っておく。

 失礼な物言いかなって思ってしまうけど、いくら私の騎士とはいえ、大事な姉を傷つける真似をするならば家を出て行ってもらう。

 そう言葉に出さずに訴えると、全員が真剣な表情で頷く。

 

 覚悟は出来た。ちゃんと釘も刺した。

 意を決して、家のドアを開ける。

 

「あっ、はやてちゃんおかえりー」

 

 出迎えたのは、元気そうな一糸まとわぬ笑顔の姉。

 

 ぱたりとドアを閉じる。

 目頭を押さえて、今しがた目に映った姉ちゃんの姿が幻覚かどうかを本気で検討する。

 

「あ、主はやて?」

 

 後ろから聞こえるシグナムの困惑した声に、なんとか答える。

 

「すいません、ちょい予定変更や。すこーしでええから、ここで待っててもらえます?」

「あ、はい」

 

 コクコクと全員が頷くのを確認してから、ドアを開けて素早く身を滑り込ませる。

 

「はやてちゃん、どないし」

「姉ちゃん、なんで裸なん!? 服はどないしたの!?」

「えと、朝目が覚めたらなんやめっちゃ布団被ってて、それで汗かいてもうたからお風呂に入ってたんよ。そしたらはやてちゃんが帰ってきたから・・・・・・」

 

 なるほど、原因は私か。ファインプレーだと思ってたのに、まさかこんな罠があるとは。

 

「それでもすっぽんぽんのままで出てきたらあかんて! あっ! よく見たらまだ体も拭いとらんやん! もう、また風邪引いてもしらんよ!?」

「ご、ごめんなさーい!」

 

 なんていうか、もう! もう!

 さっきまでの覚悟とか心労とか、全部返してほしい。

 泣いて謝る姉ちゃんを湯冷めしないように再びお風呂に突っ込み、濡れた床を拭いて、お風呂から上がった姉ちゃんに服着せて、髪も乾かさせて、それからもう一回お説教して。

 

 その間、騎士達は一時間ほど家の前で待たされる羽目になるのだった。

 

◆◆◆

 

「そういう訳で、シグナムさん達をこの家に住ませてあげたいんやけど・・・・・・」

「うん、ええよ」

「あっさり!?」

 

 そんな感じでものすごく簡単に、シグナムさん達の八神家居住が決まった。

 私の後ろで判決待ちしてたシグナムさん達も、これにはびっくりだ。

 逆に私が不安になってしまう。

 

「えっと、姉ちゃん。もうちょっと考えた方がええんやないの? 知らん人達とこれから一緒に住むんやよ?」

「うん、OKや」

「・・・・・・えー」

 

 まさかの二つ返事に、さすがの私も言葉がない。

 そんな私達の様子を見て、姉ちゃんがくすくすと笑いだす。

 

「シグナムさん達と一緒に暮らしたい言うたのは、はやてちゃんなんやよ?」

「せ、せやけど・・・・・・」

「幸いお家の部屋は余っとるし、はやてちゃんがしっかり考えて出した結論なら、それを反対する理由はないし。それに、お腹が空いてまうのは寂しいもんなー」

「姉ちゃん・・・・・・」

 

 私の考えを尊重してくれる答えに、つい嬉しくて頬が緩んでしまう。

 シグナムさん達も無事に住む場所が決まり、安心してくれたのか張り詰めていた空気が霧散するのを感じた。

 懸念してた問題も解決し、残る問題はもうない。でも気がかりな事が一つ。

 

「それでな、姉ちゃん。その、シグナムさん達の魔法の事なんやけど・・・・・・」

「?」

「誰にも言ったらあかんみたいで、秘密にしといてほしいんやけど」

「ええよ、大丈夫。秘密やもんね」

 

 陽気に笑って了承する姉ちゃんの姿に、一抹の不安を覚える。

 

「・・・・・・あの、姉ちゃん? 疑わへんの?」

「え?」

「せやから、魔法とか闇の書の事とか、自分でも話してても随分荒唐無稽な話をしとるなーて思うんやけど・・・・・・」

「うん、信じたよ。それがどないしたん?」

 

 ニコニコと笑顔で断言する姉を見てると、気付いたら涙が出てた。

 

「うっ・・・・・・ううっ、ぐすっ・・・・・・」

「はやてちゃん!?」

「主!?」

 

 突然泣き出した私に、みんなが一斉に慌てだす。だけど、悲しみにくれる私はそんな事を気にする余裕なんてなかった。だって――、

 

「お、お姉ちゃんが年がら年中頭の中が春の人になってもうたぁー!」

「は、はやてちゃん・・・・・・!?」

「私だって、ほんまは話半分に聞いとったのにぃー!」

「あ、主・・・・・・!?」

 

 愕然とする周囲を他所に、大泣きする。

 悲報、私のお姉ちゃんはおバカな人でした。知ってたけど、改めて確認させられた惨い事実に、悲しみで涙が止まらない。ぽろろーん。

 今朝からドッキリ染みた苦難の連続で、つい張り詰めていたものが切れてしまった。

 昨日はあんなに楽しかったのに! 誕生日が終わった翌日がこれってあんまりだと思う。

 滂沱の如く流れる涙をそのままにしていると、不意に姉ちゃんの手が優しく私の頬に添えられて、引っ張る。

 

「・・・・・・姉ちゃん、痛い」

「もう、失礼な事を言うはやてちゃんが悪いんやよ?」

 

 ぷくーっと頬を膨らませた姉ちゃんは、それだけ言うとそっと涙を拭いてくれる。

 

「だって、魔法なんやよ?」

「うん、信じるよ。はやてちゃんが言うことやもん」

「――」

「いっぱい考えて、いっぱい悩んで。それでもはやてちゃんは、本当の事を隠さずに話してくれた。それだけで信じるのには充分やもん。せやから、泣かんでもええんよ」

「・・・・・・うん、ごめんなー」

「怒っとらんよ。さあ、お腹空いたやろ? 顔洗ったらご飯にしよ?」

 

 姉ちゃんに手を引かれて、洗面所へと向かう。

 

「シグナムさん達もちょい待っててなー。すぐにご飯にするからね?」

「え、あ、はい」

「あと、」

 

 そういえば、勢い余ってシグナムさん達にも失礼な事を言ってしまった気がする。

 まだ信じられないのは本当だし、疑う気持ちも少しだけ残ってる。だけど、これから一緒に住む家族になってくれる人達なんだ。

 あとで、ちゃんと謝ろう。

 

 そう考えたところで、姉ちゃんが足を止めてシグナムさん達に向かって何気なく問いかける。

 

「ジュエルシードって、知っとる?」

 

 聞いたことのない単語だった。

 

「・・・・・・? いえ、聞いた事ありませんが」

「わ、私も知りません。宝石類の類でしょうか?」

「ううん、知らんならええんよ」

 

 それだけ言って、再び歩みを再開する。

 引っ張られる形の私からは姉ちゃんの表情が見えない。

 

「姉ちゃん、じゅえるしーどってなんなん?」

「んー? なんでもあらへんよー」

 

 何でもない風に答える姉ちゃん。

 でも、明るい声とは裏腹に、見えない顔は別の感情を浮かべてるんじゃないかって、なんでかそう思った。

 

Side out…

 

 

 




感想ありがとうございます!

現段階での原作との相違点

原作との違い
・八神家の家主はゆとり。
・はやてに家族(姉)がいるため孤児ではない。
・闇の書覚醒が6月4日ではなく6月5日。
・無印組ははやての存在をゆとりを通して知っている。

原作との共通点
・グレアムの存在あり。
・はやてと無印組の面識なし(鮫島を除く)。
・無印は無事に終了?

さて、この後どうするか・・・。
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