転生人造人間と女研究者の親子(?)で行く終末世界旅行 作:POTROT
先ほど殺したモンスターの骨付き肉を咀嚼しつつ、崩壊した街の中をアテもなく歩く。
研究所を探すとは言っても、何の手がかりもないのが現状である。
流石に本当に虱潰しで探していけば、あまりにも時間がかかり過ぎてしまう。
なので少しでもそれっぽい場所を探せないかと散策しているわけであるが、今の所収穫と呼べそうなものは一切ない。ただ肉を食いながらブラブラと歩いてるだけだ。
あ、ちなみにモンスターどもの肉だが、食ってみると割と美味い。
黒い見た目に反して、何となく鶏みたいな風味だ。
俺は火を通さなくても生で食えるので、おやつ感覚で食べられるのがすごく良い。
良い、のだが…………
「ああ、クソ。最悪だ。本当に最悪だ。ああクソ。屈辱だ。これ以上無いくらいの辱めだ。どうして私は毎度毎度こんな奴の胸で……」
「…………はぁ」
食ってる隣がブツブツと、死ぬほどうるさい。
あの後、ようやく落ち着いたと思ったらずっとこの調子だ。
正直、最悪とか屈辱とか言われても「じゃあどうしろって言うんだ」としか返せない。
だってああしてやらないと、下手すれば丸一日あのままなんだぞ。
飯も食わないし下なんて垂れ流しだし……俺は感謝こそされど、咎められる理由が全く思い浮かばんのだが。
「オイ。良い加減黙れ。黙ってちゃんと探せ。お前が言ったことだろうが」
「……探してるよ。喋りながらでもちゃんと探しているんだ。このくらいのマルチタスク、お前のような技術特異点じゃなくても誰にだって出来る」
「オーケーわかった言い方を変えよう。うるさいから静かにしてくれ。良い大人なんだから」
「…………チッ」
俺がストレートにそう言ってやると、流石にうるさいと言う自覚はあったのか、舌打ちを一度だけして素直に押し黙った。
うむ、やはり彼女にはツンデレの素質がある。
彼女はそれを頑なに認めようとしないが、俺はそう確信している。
「……さて。しかし本当にどこにあったものか」
かれこれ数時間は歩いているが、やはり一向に収穫はゼロ。
砂漠の中から一粒の砂金を探す……と言う程の難易度では無いにせよ、あまりにもヒントが無さすぎる。
街の地図すら無いのはもうクソゲーとしか言いようがない。
地図帳をみたいな物をよこせとは言わないが、せめてパンフレットに載っているくらいの大雑把なやつでいいからこの辺りの地図が欲しい。
「……ん?」
何処かに公民館か市役所みたいな公共の建物は無いか、と辺りを見渡していれば、遠くに何やら他の建物とは一線を画す大きさの廃墟が目に映る。
随分とボロボロになっているが、あのマークは……病院だろうか?
「なぁ、あの病院の中に研究所があったりしないか?」
「あ? ああ……ふむ、そうだな……確かに行ってみる価値はありそうだ」
「よし、じゃあ行くか…っと」
ヒョイっと彼女を背中に乗せて、道路の上を駆ける。
彼女はどうもこの移動方法は嫌いなようだが、これが一番早いのだからしょうがない。
こっちの世界の車やバイクは、もう目につく限り廃車しか無いのだ。
「よっと」
「うぐっ」
道を塞いでいた建物の欠片をジャンプして飛び越えると、着地の瞬間に苦しそうな声が背中の後ろから聞こえた。
「……毎度のことだが、もうちょっと優しく走ってくれよ。揺れがひどいし怖いんだが」
「無茶言うな。それと黙ってろ。舌噛むぞ」
「…………」
なんとも恨みがましい声に俺がそう返してやると、彼女は諦めたかのように閉口する。
まぁ、このやりとり自体、すでに何十回と繰り返したことだからな。
これ以上何を言っても無駄だと学んでいるのだろう。
流石。流石研究者賢い。
普段からその賢さを十全に発揮してくれれば言うことなしなのに。
「……っと。よし、ここだな」
そのまま俺は崩壊した街を時に跳ねながら走って行き、数分もせず俺たちは病院へと到着した。
近くで見ると、その荒れ具合が遠目で見るよりよくわかる。
壁には大きな穴が幾つも空いているし、幾つかの棟に至っては完全に崩壊している。
しかも広大な駐車場のど真ん中にはこんもりと積もった土の山が……土の、山が……
「……え、何あの山」
「何だと?」
俺がふと呟くと、その言葉に反応して彼女は駐車場の土山にまで走っていってしまう。
彼女に続いて俺も土山へと走ってみれば……
「……穴?」
こんもりと積もった土山の中心部分に、ぽっかりと穴が空いていた。
「トンネル……と言うより、モグラ塚のような物だな。これは」
「……ああ、成程」
彼女の言葉に得心する。
つまり、巨大な何か──まぁ、十中八九モンスターだろう──が、地下からここまで地面を掘り進んで来た跡だ、と。言われてみれば、確かに近くのアスファルトに足跡が出来ている。
しかし連中、地面も掘って移動できるのか。
こうなって来るといよいよもって何でもアリだな、連中。
どこぞの火星ゴキブリかよ。
「……よし、降りるぞ」
「え? マジで?」
「地下から上がって来たという事は、地下空間があるという事だろう。『機関』の研究所と言えば地下室と相場が決まっている。となれば行くしか無い。知れた事だろうが」
「いや知らねぇよ……ってかお前、まさか俺に地下を虱潰しに探せ言ってやがったのか?」
そうなるとかなり許せないのだが。
死ぬほど大変だぞ、それ。
「は? まさか今の言葉を本気にしたのか? そんなわけがないだろう。『機関』の研究所は自分の所属する研究所以外、完全に秘匿されている。私が他の研究所の位置など、知るわけもないだろう」
「…………」
……何だコイツ。いや本当に何だコイツ。
さっきまであんなに俺の胸で泣き喚いてたってのに、何だマジでコイツ。情緒不安定か?
……いや、冷静に考えれば元から情緒不安定だったな。怒りと呆れのあまり、基礎的な部分をすっかり忘れていた。いけないいけない。
「帰る」
「なッ!?」
それはそれとしてムカついたので報復はする。
俺の身体能力をフルに発揮し、一瞬で彼女から死角になる場所へ。
「おい!? 何を……おい! お、おい!? 帰って来い!! どうせ近くに居るんだろ!? さっさと、さっさと出て来い!?」
彼女は俺に対して散々と言って来るが、彼女自身はどうしても俺に依存している。
「わ、私はわかってるんだぞ!? 今までに何度もあったからな……!」
彼女は心身共に、俺に依存しなければ生きていけない。
俺がいなければ食糧を確保できない。俺がいなければ孤独の重圧に耐えられない。俺がいなければモンスター共の脅威から身を守る事ができない。
「な、なぁ! おい! もう良いだろう!? もう、もう十分やっただろう……!? 腹いせはもう済んだんじゃないか……!?」
親のスネを齧って生きるニートのようなものだ。
普段は親の事を散々言うくせに、自分は親がいなければ生きていけない。
だから捨てられそうになると、凄まじいまでの不安を感じる。
「……………ッ、そ、そっちがその気なら、私は一人でこの穴を降りるぞ!? 良いのか!?」
可愛らしいなァ。実に、実に。
出来もしない事を言って強がっている様なんて、特に可愛らしい。
そうすれば、俺が止めに出て来てくれると思ってるんだろう。
もうしばらく観察してみようか。きっと降りないぞ。アイツは。
「……おい!? 良いのか!? ほ、本当に降りるぞ!? わ、私がこの下で、お、お前、お前なんて駄作がいらなくなるくらいの兵器を手に入れても、良いのか!?」
あー、楽しい。
何だ俺が要らなくなるくらいの兵器って。
残念な事に、ンなもんあったらこの街はここまで荒廃してないんだわ。
さて、いよいよ余裕が無くなってきたが、こっからどうなるか。
「……ッ、おい……! もう、出て来てくれよぉっ!? そろそろ良いだろう……!? 確かに、わ、私も悪ふざけが過ぎた……! その事は謝る……! それで良いじゃないか、なぁ!?」
ふむ、譲歩と来たか。しかし、まだ足りないな。
具体的には誠意とか誠意とか誠意とか。あと俺の愉悦。
「……なぁ……っ! なぁ……っ!! ……………ほ、本当に私の事を見捨てたのか……?」
お? 流れ変わったか?
よし、これは面白くなりそうだ。もうしばらく様子見してみるか……
「…………………………」
あれ、何も喋らなくなった。どうしたのだろうか。
不審に思ってちら、と死角から顔を出して彼女の方を見てみれば、地面に膝をついて、ひどく憔悴した顔で辺りを見渡しつつ、息を荒くして……
……あ、やべ。やり過ぎたなこれ。過呼吸になってやがる。
仕方ない。不完全燃焼な感じはあるが、ここで死なれても困る。
「おい、何をへばってる。さっさと行くぞ」
再び彼女の隣へと移動して、なんて事なかったかのように振る舞……
……過呼吸真っ最中の彼女が俺の足に縋り付いて来た。
「ああもう、何だってお前はこうも精神が弱いんだ……いやまぁそれをわかってて色々やる俺も俺だが……ほら、落ち着け。ゆっくり呼吸しろ、ゆっくり……」
はぁ……こりゃあ、下に降りれるのは夕方くらいになってからかねぇ……
……ああもう、面倒臭い。余計なことするんじゃなかった……
いやまぁ、可愛かったからそこまで後悔はしてないんだが……面倒臭いモンは面倒臭い。
つまりそう言うことだ。