「…オフェ、リア…?」
「オフェリア?あの、それがあなたの名前ですか?」
「違…いや、だが、これは…」
「…?」
理解できない。
俺は確かにスルト。
だが眼前の鏡に映る姿はやはりオフェリアそのもの。
そして…眼鏡の女と同様に、頭上には天輪があった。
それはまるで俺の本来の姿のような、炎の如く燃え盛る天輪だった。
…そういえば俺は以前にも似たような状況にあった。
シグルド。北欧神話における
俺自身とオフェリアの縁を利用して、彼女が召喚したあの男の意識に潜り込み、魂と溶け合い、あの肉体の主導権を握った。
だが、此度はそれとは理由が違うだろう。
そもそも、オフェリアは人間であり英霊ではない、サーヴァントとして召喚されることはあり得ないだろう。
まして、あの時確かに討たれ消えた俺がこうして…
それに、もしこれが本当にオフェリアの肉体だと言うなら、その魂は?
仮にオフェリアが…あの後死んだとしても、その魂はどこに行った。この肉体のどこにも、その生命の気配は…
「あ!目を覚ましたのね…」
「…ム」
またしても違う者の声が。
黒髪を二つ結びにし、赤い瞳を持った童…が。
やはりこの女の頭上にも眼鏡の女と同じ天輪が浮かんでいる。
そして、その真下にはおおよそ人間のものと思えぬ耳が主張していた。
…今度は獣人か。
つくづくどうなっている、この世界は…
「ねえ、あなた一体どうしたの?
突然アヤネちゃんが『砂漠で倒れてた』って連れてきて…」
「…さあな。俺にも分からん。
なぜ俺がここに居るのか、何故生きているのか…なぜよりにもよって、こんな姿にされているのか…クク…」
「「…………?」」
眼前の二人は何が何だかという表情だ。
当然だろう。俺自身も理解できていないのだから。
「ねえアヤネちゃん…こう言ったらアレだけど、この人ちょっと…」
「せ、セリカちゃん!」
「………迷惑をかけた、そろそろ立ち去らせてもらう」
「えっ!?ち、ちょっと待ってください!」
「何だ?こんな素性も知れない女など居ては迷惑なのだろう?」
「い、いや、それは…!」
「だからって『はいそうですか』ってほったらかしにできるわけ無いでしょ!
どうしてキヴォトスに居るかも分からないのにほっつき歩いてそれで大変な目にあっても、こっちの気分が悪いんだから!」
「……………」
分からん。迷惑ならば追い出せばいいだけの話ではないのか?
やはり人間は理解できんな。
まあ、確かにこの後どうするかなど知る由もないが…
加えて、今の俺にどれ程力が残っているのかも疑問だ。
状況こそあの竜殺しの肉体を乗っ取った時に似通って入るが、何せこの肉体はオフェリア…魔術師としてはそれ相応に優れてはいるだろうが、身体能力はどれ程のものか。
さて…
バババババッ!!ダダダダッ!!
…む?
「オラオラアビドスぅ!この間の借りを返させてもらうぜ!」
「げっ、もしかしてこの間やっつけた…!?
もー、よりによってこんな時に…!」
「お、落ち着いてセリカちゃん!
取りあえず戦闘を…ええと、先輩たちは…!」
「ん。アヤネ、セリカ、ここに居たんだ」
…またしても獣人が…
こんどは銀髪の…狼か?しかし、この気配は…
「ん…その人、アヤネが連れてきた…」
「シロコ先輩、その話は後で!良いからさっさとあいつら追っ払うわよ!」
「ん…」
「…あの、オフェリアさん。
ひとまず、ここで待っていてください。
すぐに何とかしますから」
…連中が走り去っていった。
『あいつら』とは、恐らく襲撃してきた者たちなのだろうが…『追っ払う』とはどうするつもりだ?
それに、先程の音は…
窓の外の様子を伺う。
この建物の入口と思しき場所から入ってきたのであろう、何かの被り物をした連中が…?
あれは…確か、あの
聖杯の知識にもあった、銃、というものか?
命中すれば並の人間など殺せる代物の筈だが…それを平然と行使しているのか?
何がどうなっている…?
「うお!?あいつら出てきやがったな!」
「あっぶね!こっちも撃ちまくれー!」
「ったく、無駄に数が多いわね…!」
「ん…面倒。ノノミ、一気に蹴散らせない?」
「うーん、出来なくはないですけど、一度前に出ないといけないので…せめて誰かに注意を引いてもらえたら…」
「うへ〜。この弾幕の中で正面に立つのもなかなか勇気いるよね〜」
『ううん…とにかく今は隙ができるのを待って…え!?
ちょ、ちょっと…!?』
「? アヤネちゃん、どうし「おい」…へ?」
「お前たち、何をやっている…」
「ちょ!?あ、あんた何して…!?」
「それはこちらの台詞だ。
そんな物を平然と使うなど…死にたいのか?」
「………あんた、本当に何にも知らないの!?
あのねぇ、キヴォトスの人間は「おい!お前らさっきから何ごちゃごちゃ言ってんだ!」っちょ…!」
「!?」
まずい、このままではオフェリアの体が…!
「こっち!」
「!?」
ダダダダダッ!!
「っ、と…あんた、何してんのよ!
いくら撃たれても死ぬことはないからって、無防備に出てくるなんて…!」
「ん、セリカ大丈夫?それと…」
「あ、ええとこいつは…って、そういやあんた大丈夫なの!?
避けはしたけどどこか掠ったり…え?ちょっと…っ!?」
「ん?何だアイツ、また立ちやがった!」
「何だよ、的になりたいのかよ!?
だったらお望み通り…」
「貴様ら」
「あ?」「ん?」
「傷をつけたな」
「「??」」
オフェリアの体に。
傷を。
つけたな。
「は?何言って―――――」
赤い瞳の女が急激に、ヘルメットの少女に接近する。
少女は対応することは愚か、反応することすら出来ない。
頭部を鷲掴みにされ、勢いのままに地面に叩きつけられる。
あまりの勢いと力による威力で、地面が形を変える。
突然の出来事に、ヘルメットの少女たちは怯え惑う。
そんな事は知るかと言わんばかりに、殴り飛ばし、或いは蹴り飛ばし。
赤い瞳の少女は、燃え盛る炎が勢いよく木造の建物を焼き尽くしていくが如く、少女達を薙ぎ払ってゆく。
そして、一分と経たず。
ヘルメットの少女たちは制圧された。
「…ム」
気がつけば妙な被り物の女どもは倒れ伏していた。
倒れ伏しているものもいれば、壁にもたれかかっているものもいる。
オフェリアの体に傷をつけられた時から、記憶が安定していない…そうだ、体に傷が…!
「………ない?」
いや、僅かな掠り傷程度はあるが、それでも大した怪我にはならないだろう。
銃で撃たれてこの程度で済むものか?やはり何かが…
「ねえ!ちょっと!」
…あの黒髪の獣人の娘が大声で話しかけてきた。
随分と様子が…
「アンタ一体何なの!?
傷ついたと思ったら突然大暴れしてヘルメット団を制圧しちゃうし、キヴォトスの常識はサッパリ知らないし、それどころか何でキヴォトスに居るのかも知らないし、ああもうそれから…!」
「セ〜リカちゃん。ちょっと落ち着きなよ〜」
「ホシノ先輩、でも…!」
「お互い色々あって落ち着けてないだろうからさ。
ちゃんと詳しく話し合いたいなら、ちょっと休んだほうが良いんじゃない?」
「………それは、そう、かも…」
「こいつらはおじさんたちが縛ってテキトーなとこに放ったらかしとくからさ。
とりあえず、皆は休みなよ~
で、その後にキミから話を聞こうかな。いい?」
「…構わん。
こちらとしても聞きたいことがあった」
「おっけー。
じゃ、ノノミちゃん、シロコちゃん。ちょっと手伝ってくれるかな~?」
…桃色の髪の小柄な少女と薄い黄がかった茶髪の少女、先程も見た銀髪の狼の獣人が被り物の少女たちを担ぎ、転がしながら何処かへと向かっていった。
「…ひとまず、私たちも学園に入りましょうか」
「…そうね。
ほら、あんたも来なさい」
「………了解した」
この状況で逆らおうと得になることもないだろう。
眼鏡の女と、黒髪の獣人娘の後を追うように建物に戻った。