「…さーて。じゃあ何から話してこっか?
ええと…オフェリアちゃん?」
「…この際だ、一先ずはそれで構わん」
桃色の髪の女の問いかけに、一言端的に返す。
こちらとしても聞きたいことはある、呼び方呼ばれ方などいちいち気にしている余裕もないだろう。
「ちょっと!アンタ今の状況分かって…「セリカちゃんどーどー。今は待ってね」…むぅ…!」
「何から話す、か。
俺としては大して答えられそうなこともないが…」
「うーん…じゃあまず
後は覚えてることを教えてくれたり…」
覚えていること…か。
『オフェリア・ファムルソローネの姿となった炎の巨人スルト』とバカ正直に答えたところで、連中は納得するのか?
そもそも、俺はこの場所がどういう場所なのかも知らん。
俺や連中の頭上に浮かぶ
「…オフェリア・ファムルソローネ。それが俺の名だ。
覚えていることは…己の名くらいだ。
何故この世界にいるのか、何故この砂漠のような場所で倒れていたのか、後のことは何も知らん」
「ふーん…記憶喪失、ってやつなのかな。
見たところ私達と同じっぽいし、キヴォトスの外から来たとも思いにくいけどなぁ…」
「………そもそも『キヴォトス』とは何だ?
それに、なぜ俺やお前たちの頭上にはそんな物が浮かんでいる?」
「…その分だと、本当に何も知らないっぽいねぇ。
もしくは、忘れてるのかな?まあいいや。
キヴォトスっていうのは、私たちが今いるこのアビドスも含めた様々な学校の自治区が幾つも集まって出来た巨大学園都市の名前だよ。
それと、この頭に浮かんでるのはヘイローって言って、キヴォトスの生徒ならだいたい皆持ってるんじゃないかな」
「学園都市…自治区…」
つくづく俺の理解から外れた世界のようだな、ここは。
学園といえば…童共が学問を学ぶ為の施設に過ぎなかった筈だが、自治区やそれが集って都市を作るなど…まるで国家だな。
…そうだ。
それよりも気にしなければならないことがあった。
「お前たちはその兵器を平然と携行しているが。
それは相当の危険を伴う兵器ではないのか?」
「ん、あーこれね。
えーと、私たちも詳しいことは分からないんだけどさ。
キヴォトスの人間は基本的に銃で撃たれても平気なんだよ」
「………?」
「ま、その反応だと本当に知らなかったみたいだし、信じられないんだろうね。
でもよく思い出してみなよ。キミ、さっきちょっと撃たれてたでしょ?」
…そうだ。
あの被り物の童共が銃を…その時に傷が…ム?
「…大した傷になっていない?」
というよりも、まるで傷など負っていなかったかのように、傷跡など残っていなかった。
ハッキリと命中こそしていなかったが、掠めはしたはず…
「ね?キヴォトスの人間…私たち生徒は勿論、大人とかロボットとかも基本的に銃で撃たれてもちょっと痛いぐらいで死んだりはしないんだよ。
まあ、あんまり大きくダメージ受けすぎたりしたら話は別だけどね〜」
…なる程な。
その話でいけば、どうやら俺の…今のオフェリアの身体はキヴォトスの人間と同等の性能になっているようだ。
「だからキヴォトスじゃ銃撃戦なんて日常茶飯事だし、生徒一人が最低一つ銃を持っているのも当たり前。
コンビニとか自販機で弾薬だって買えちゃうんだよ〜?」
「………つくづく常識を外れた世界だ、ということは理解させてもらった」
「ま、残念ながらキヴォトスじゃ私たちのよく知る常識が『常識』なのさ~。
さて、私達から話せることはこれぐらいかな?
それとも、他に何か質問ある?」
「…この学園に居るのはお前たちだけか?
学園というものなら他の生徒や成人した人間…教職員に当たる者が居るはずだが」
「うーん。キヴォトスじゃそーいうのもあんまり無いんだよね。
勉強なんてBDの内容で学ぶのが殆どになっちゃってるし。
それに、正直な話こんな有り様の学校に進んで通おうとする子も…ねぇ?」
「…」
この女の言うことにも一理ある。
この部屋に向かうまでの間に建物の中を一通り見たが、どれも砂が入り込むなり老朽化するなりで使い物になりそうもないものばかりだったな。
「ま、私たちの話は別に良いんだけど。
じゃ、今後の話でもしよっか?」
「今後?」
「うん。君、一応記憶喪失なんでしょ?
なら、このあとどうするつもりかな〜ってさ」
「………」
「分かるのは名前だけ。
この世界が何なのかも知らない、どこから来たか、どこに行けばいいのかも知らない、キヴォトスの常識も知らない。
ハッキリ言って、キミが今この状態で外に出てくなんて自殺行為だよ?」
「…戦闘に関しての知恵はある。
この身体でアレができると言うなら…遅れを取るつもりもない」
「ま、確かにヘルメット団の相手ぐらいならできるかもね。
でも、他の学園の自警団とか、ヴァルキューレのこわーい警官さんたちもいるよ?
いくら君一人が強くたって、集団に囲まれたら捕まっちゃう。
そうなるのは君だってイヤじゃないかなぁ?」
「俺がそのような連中に遅れを取るとでも?」
「おー、なかなかの自信だね。
でも、100%負けないとも言い切れないんじゃない?」
「………」
確かに、不本意であるが今の状況は
いくら力を発揮できるとはいえ、オフェリアの身体に限界が来ないとも考えられん。
俺としてもオフェリアの身体に傷をつけるのは…
「ならばどうしろと?
そこまで人を散々に言っておきながら、『何も知らん』とは言わせんぞ」
「まーまー。そう怒んないの。
…そこで、おじさん達から提案があるんだけどね?
君を
「…?」
「ちょ、ホシノ先輩!?本気で言ってるの!?」
「うん。セリカちゃんだって見たでしょ?
オフェリアちゃんこんなきれいな見た目なのにすんごいパワーだったじゃん。
もしこんなすごい子がうちの子になってくれたら助かるじゃん?」
「だからって…!」
「そ・れ・に〜?
『何も知らないかわいそうな子を放って置くなんて出来ない』ってセリカちゃんも言ってたじゃん?
いや〜優しいねぇ〜」
「はあ!?ちが、いや、似たようなことは言ったかもしれないけどそうじゃなくて…!!」
「…ま、結局のところ本人の意志次第なのは変わらないんだけどさ。
で、君はどうなのかな?」
「………」
この女、言い方に含みを感じるが…
だが、俺に行く宛がないのも事実、腕を買うというのなら乗らぬ手はないだろう。
今の俺にとって最優先にすべきは『
ならば…
「よろしく頼む」
「おっけー。歓迎するよオフェリアちゃん。
私はこの学校…アビドス高等学校3年の
ホシノ先輩って呼んでね?」
「了解だ。ホシノ先輩」
「んじゃ、今日は疲れたし諸々の手続きはまた明日にしよっか。
今日は解散解散〜」
「ホシノ先輩」
「ん~?どうしたのノノミちゃん」
「………オフェリアちゃんのことをアビドスの生徒にするつもり、本当にあるんですか?」
「……………」
「だって、あの話をしてないじゃないですか。
…それとも、わざと話さなかったんですか?」
「…預かるって言っても、まだ正式にアビドスの生徒にするってわけじゃない。
あくまでも仮在籍ってやつだよ。
そんな子を、私たちの問題に巻き込むわけにはいかないよ」
「でも、そんなのすぐにバレちゃいます…」
「ま、そーだよね。
その時はその時で私がなんとかするからさ。
さっきも言ったでしょ?結局は本人の意志だよ」
「……………わかり、ました」
ノノミちゃんが踵を返して帰っていく。
壁にもたれかかってため息をふうっ、とこぼした。
「…ユメ先輩が見てたら、なんて言うのかな」