「オフェリア!いつまでも寝てないでさっさと起きな…さ…」
「…? どうかしたのか」
「…起き、てたのね」
「ああ。
身体の重みが消えている」
「………?よく分かんないけど…とりあえず行くわよ!」
「どこにだ?」
「あっちにもこっちにも!
やらなきゃいけないことが山積みなんだから!!」
小鳥遊ホシノ…先輩との取引の翌日。
住む場所も寝床もないと判明し、一先ずは学園の一室にて夜をまたいだ。
そして現在、黒見セリカと奥空アヤネの2名に連れられ、自動車というものに乗せられ街へと向かっている。
「『やらなければならないことがある』…と言っていたが、一体何をするというのだ?」
「何もかもよ!アンタがどこから来て何してたのかなんて私たちは知らないけど、キヴォトスで暮らす以上何もしないわけにはいかないの!
…っと、着いた」
「今の時間は人もそんなに居ないから、すぐに終えられそうですね。
さ、オフェリアさんも行きましょう!」
「………これは何だ?」
「アンタ…流石にコレが何なのか分からないのはどうなのよ…人としての常識よ?」
「就籍ですね。
流石にいきなりアビドスに入学するわけではないですけど…この先キヴォトスで過ごすためにはオフェリアさんの事を登録しておかないと。
ええと、ここに名前と名字を………」
「これで終わりか?」
「まだよ。そもそも書類出してハイおしまい、ってわけには行かないの。
このあとも色々手続きして正式に許可をもらわないと」
「…人間とは面倒な生き物だな。
己の存在証明如きにそれほどの手間をかけねばならんのか」
「アンタだって人間でしょーが!
それに、そういう事は私たちじゃなくてそういう制度を作ったやつに言いなさいよ!」
「ふ、二人とも声が大きいです!ここ市役所…!」
「あ、ご、ごめん…気を取り直して次!」
「ここは…」
「ショッピングモールも知らないの?
どんな場所から来たのよ…わざわざ聞く必要も無いと思うけど、アンタ着替えとか下着とか、生活に必要な日用品とか持ってる?」
「……………?」
「…ちょっと、ウソでしょ?
せめて『持ってない』とか『無くした』なら分かるけど、『何を言ってるのか分からない』って顔してるわよ…」
事実分からないのだから仕方がないだろう。
知識がないわけではないが、深く考えたことなどなかった。
やはり人間は面倒な生物だな。
「………アヤネちゃん」
「セリカちゃん。言いたいことは分かるけど…
今は我慢だよ!」
「うぇえ〜〜〜〜〜…もう早く行こ、疲れた…」
「???」
「とりあえず試着して…普段着はコレ、パジャマはコレとか…あと出かける用の私服も…あと下着かぁ…」
「…服一つ一つにわざわざ用途を設けるのか」
「当たり前よ!
アンタせっかく見た目は良いんだからファッションにも気を使いなさいよ!」
…そうか。今の俺はオフェリアの姿なのだったな。
「確かに…今の俺に誇れるものなど顔立ちと整った肉体と膂力くらいのものだ、参考にするとしよう」
「………ムカツク…」
「せ、セリカちゃん…!」
「後は日用品ですね。
ええと…一先ず歯磨きやケア用品は揃えましたけど、シャンプーとかは髪に合うかどうか…」
「………」
「また『面倒くさい』とか思ってるんでしょ」
「よく分かったな。
思考を読み取る力でも持っているのか?」
「なんとなく察しがついただけよ。
アンタ本当に今までよく生きてこられたわね………」
「これでひと通りの物は買い揃えましたね」
「何だろ…ほんの数時間ぐらいだった筈なのに…普段よりよっぽど疲れてる気がする…」
「ようやく終わりか。
…人間とは生きるだけでこれほどの手間をかけなければならないとは」
オフェリアを俺の知らぬところで存外苦労していたのだろうか。
まあ、俺の知る姿でも身なりは整っていた以上、やらねばならないことはやっていたのだろう。
流石と言うべきか…
「今回は私たちも助けてあげたけど、これからは基本的に自分で何とかしなくちゃいけないのよ。
無くなりそうになったら補充して、それも出来るだけ安めに済ませられるようにして………
………あれ?」
「セリカちゃん?どうしたの?」
「ねえ…アヤネちゃん?
「――――――え?」
「いや、だって…わたしたちと違ってお小遣いとかでないだろうし、そもそも家族どころか親族もいるかどうか分からないんだし…」
「……………と、とりあえずホシノ先輩に連絡しよう!」
…セリカとアヤネが何やら慌てふためき電話?を取り出した。
何をそんなに焦っている。やはり人間は分からん。
そして少し何かを話したかと思えばこちらにそれを向けた。
『もしもーし?オフェリアちゃん?』
「ム…ホシノ…先輩か。
一体何だ?」
『いや〜ごめんごめん。おじさんも失念しちゃってたよ〜
ズバリ聞くけど。オフェリアちゃんお金持ってる?』
「金?」
…そうか、現代人は物と金銭を取引するのだったな。
オフェリアが以前値段がどうのとぼやいていたが…あれはこういうことか。
が…当然、そんな物あるわけがない。
「無いな」
『1円も?』
「無い。札はおろか銭の一つすら持ち合わせてはいないぞ」
『うへ〜…セリカちゃん達から聞いたとこで何となく予想はしてたけど…参ったねぇ。
だからって他に…うーん』
「………ホシノ先輩。
人間には日雇いで金を稼ぐ方法があると聞いたことがあるが」
『お、流石にアルバイトの事は知ってるんだ。
でも、それですぐに人ひとりが生活できるだけのお金は稼ぎきれないよ〜』
「ではどうしろと?
加えて、俺には資金のあても無ければ住む場所も食料もない。
人間として最低限必要なものも、
『………うーん。改めて考えると、なかなか大変な状況だよね~
また昨日みたいに学校に泊まってもらうってのもこっちの気分が悪いし…』
「俺はそれでも構わんが――――」
ドゴォォォォン!!
「ム…?」
「ば、爆発!?こんな時に…!」
「と、とりあえず離れましょう!
この辺りならトリニティの正義実現委員会が…」
「ギャーハハハ!」
「お前ら大人しくしな!
金目のモン全部出せば見逃してやるよ!」
「うわっ、もう来た…こうなったら追っ払うしか」
「駄目だ」
「なんでよ!昨日みたいにアンタがひと暴れすればすぐに終わるでしょ!?」
「その時は非常事態だ。
オフェリアの身体に傷をつけるような真似はできん」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!
そもそもこの状況じゃ無傷で逃げるなんてできっこないわよ!」
「ふ、二人とも今は喧嘩してる場合じゃ…!」
「おいそこの!
さっきから何ごちゃごちゃ言ってんの!?」
「うわっ、こっち来た…!!」
「良いからさっさと金目のモンぜんぶよこやまッッ」
「…チッ。
やむを得ん。このまま黙って虐げられるよりは強行突破の方がまだ可能性があるか。
お前たち、協力しろ」
「………い、椅子で殴り飛ばした…」
「ね、ねえアヤネちゃん…ぶっ飛ばされたあいつ、無事よね…?
ちゃんと生きてる…?」
「……………い、今は脱出に専念しよう!!」
「ああ!?てめぇら大人しくしルビアっ」
「お、おいちょっとまリモっ」
「何がおコマツっ」
「…こんなものか、話にならんな」
「…結局私たち大して戦ってない…殆どオフェリアが倒しちゃったんだけど…」
「あはは…まあ、とりあえず出口まで来る事はできたしよかっ『バァンッ』…へ」
「は、ハハハ!
油断したな、どこの誰だか知らねぇけどあんまり調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「「……………」」
セリカとアヤネはその銃弾を受けたであろう女に目を向ける。
漫画やアニメならばギギギギ…と効果音をつけられそうな動きでそれに顔を向け…そして、青ざめた。
今この瞬間こそ俯いているが、数秒後にどうなるかなど想像に難くない。
「オイお前ら!!何黙ってやがる!
なんか一言い」
正拳突きを顔面にくらい、不良が一人反対側の壁まで吹き飛ばされた。
そしてそのまま彼女の仲間であろう者たちのもとに吹き飛ばした主は向かう。
それから数秒後、この世のものとは思えぬ悲鳴がショッピングモールの至る所に響き渡った。
セリカとアヤネは頭を抱えるしかできなかったとさ。
「で、ショッピングモールにいた不良生徒たちみーんな倒しちゃったんだ。
凄いねぇ〜いやー皆無事でえがったえがった」
「えがったじゃねーーーーーーわよ!!!
アイツのお陰で私たちまで事情聴取に巻き込まれたのよ!?
ただでさえこいつに振り回されたのに、もう夜じゃないのよ…!」
「ま、まあまあ、セリカちゃん…
結果的に私たちは何事もなく帰ってこられたわけだし」
「…で。その問題を起こした張本人はどこにいるわけ?」
「帰ってくるなりシャワー浴びて着替えて寝ちゃったよ。
オフェリアちゃんも疲れてたみたいだねぇ」
「……………こっちの気も知らないで…ハァ。
もういい帰る」
「はーい、お疲れ〜アヤネちゃんも今日は帰っていいよ〜」
「はい…ホシノ先輩もお疲れ様です」
「…ふぃ〜オフェリアちゃん強いんだねぇ。
あのパワーをもっと色々活かせたりしないのかなぁ…それこそ…
…早く帰ろっと」
教室に鍵をかけて、念の為オフェリアちゃんの様子を確認して。
学園を出て帰路につく…と、その時電話が鳴った。
こんな時間に誰かと思ったが、知らない番号だ。
またどこかの借金取りかなぁ…と思いつつも電話を取った。
「…もしもし」
『あ…もしもし。夜分遅くに失礼いたします。
アビドス高等学校のお方で間違いありませんでしょうか?』
「…? 間違いありませんけど」
『はい。私は―――――』