ドラゴンクエストXI 〜世界の創造主と勇者が過ぎ去りし時を求める話〜 作:しゃけ21
教会の綱さえ渡ってしまえば、デクの家はもう目と鼻の先だ。
先の一件の騒ぎもあって兵士はかなり疎らではあるが、それでも確実性を考慮するのなら慎重に動いて損は無いだろう。
『とりあえず回り込もうか』
『──はい』
身を屈め、庭の茂みに潜みつつ、兵士が通り過ぎるのを見送ってから窓を数回コンコンと叩く。一瞬数時間前のこと──扉破壊しようとした問題──が過ぎって互いに嫌な予感がしたが、幸いにも今回は近くに居てくれたらしい。
「ミランダさん、ミランダさん」
「!」
ガタ、と窓を開けたミランダにイレブンが小声で呼びかける。するとミランダがすぐに気付いては「レンさん!」とイレブンの偽名を呼ぼうとしたので、イレブンはそれを自身の口元に指を立てて制すると、玄関の鍵を開けてもらうよう身振り手振りで彼女に頼んだ。ミランダはそれにコクッと頷いて、パタパタとその場を離れていく。
こちらの意図が伝わったらしい。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいえ。ご無事で何よりです」
そうしてデクの家へ駆け込むなり、にこりと淑やかに微笑む彼女に、イレブンもあわせて礼を伝えた。するとすぐに「レンさん!?」と慌てた様子で奥からデクがやって来る。
彼女が呼んでくれたのだろう。
「大丈夫ー!? ワタシもう心配で心配で……!」
「平気です。この通り怪我もしてませんし」
言いながら、身体を捻って笑みを浮かべる。デクは発言の通り相当心配していたようで、発つ前となんら変わりのないイレブンを見て、ようやくホッとしたように息を吐いた。「良かったよー」と呟く姿に、イレブンもはは、と笑いを零す。それから同時に借りていた賄賂の袋を手に取って、デクに「はい」と差し出した。
こういうのは忘れない内にさっさと返してしまうのが得策だ。
「これお返しします。使わなかったので」
「えっ!?」
デクがきょとんと目を丸くする。
「な、なんで!? レンさん兵士に会わなかったのー!?」
「あぁいえ、そういう訳じゃないんですけど……まぁちょっと道中色々あって」
苦笑いしつつ頬を掻く。
デクは不思議そうに首を傾げて見ていたが、とはいえイレブンも譲る気はなくて。やがてイレブンから押し付けるように渡されたそれを、デクがおずおずと言った様子で受け取った。
すぐに中身を確認しない辺り、なかなかに信用されているらしい。
「けどもしかしたらその兵士がいずれこちらに押しかけてくるかもしれないので、その時は無理をせず彼らに賄賂を渡してください。その方が怪しまれずに済みますから。まぁ、たった今返した手前で申し訳ないんですけど……」
目線を落として話すイレブンに、デクがぶんぶんと首を左右に振る。
「い、いやいや! それについては全然平気よー! 元々渡すつもりだったし大丈夫! それより……カミュの兄貴はどうだった? もし体調崩してたり奴らに酷い事されてたら、ワタシ……」
「あぁ、それなら心配は要りません。ついさっきカミュに手紙を渡して──」
そこまで言って、不意に背後の扉から音がした。
ドンドン! と重たい畳音が響く。
「おい商人、私だ! 扉を開けろ!」
「っ、やば……!」
どうやら件の兵士らしい。若干、というか明らかに怒ったようなその声音に、イレブンが「げっ」と声を上げる。
そうしてワタワタと左右を見回しながら、「えーとえーと!」と慌てていれば。ミランダが状況を察したようで、イレブンにすかさず声を掛けた。
デク曰く彼女もまた前科持ちらしいので、こういった事態には慣れているのだろう。
「レンさん! こちらに!」
「えっ!? あ、はい!」
そしてイレブンは戸を開けたミランダに呼ばれるまま、玄関に入ってすぐ右側。先程お邪魔させてもらった、客間の方へと身を隠した。
一瞬反応が遅くなったのは完全に偽名による弊害だ。……危ない危ない。本気で誰の事かと思ってしまった。仮にも自分で考えた名前なのに。
なんにせよ未来の脱獄犯として、間違ってもここでデクとの関係を見抜かれる訳にはいかないだろう。
そう思って汚れも構わずにスッと暖炉に飛び込むのだから、もはや追われ慣れているとしか言いようがない。躊躇いゼロのイレブンだった。
ましてや心当たり──壺割ったりとかナチュラルに不法侵入したりとか──もあるし。
『──どうやら早速乗り込んできたようですね……。まぁ賄賂の件の直前でしたし、ここが疑われるのも無理はないですけど』
『うん……でもだからって僕らとデクさんが関係者だってバレるのはまずいよ。脱獄した後じゃ庇いようないし』
『──そうですね。そういう意味では賄賂を返せたのは幸いだったかと』
聖竜の言葉に改めて頷く。
詳細は説明出来なかったが、それでもデクが賄賂を持っている以上、兵士とデクが会っていない事の証明は可能だ。「行ったけど居なかったので戻った」とさえ言えば向こうもそれ以上の追及は出来ないだろうし、穴なんか特にデクは見ていないのでそれこそ自然な反応が取れる。
流石にヤケを起こされちゃかなわないが、まぁ金さえ問題なく受け取れれば彼らは黙って帰っていくだろう。
『そういえば僕今日昼から何も食べてないかも』
『──あ、確かに』
襲い来る空腹にため息を吐きつつ、イレブンはひたすら兵士が帰るのを暖炉の中にて待つのであった。
*
そのまま特にする事も無くじっと目を閉じ、日頃燃やされているだろう薪の気分を粛々と味わうこと数分。
「ごめんよーレンさん、おまたせ……って、あれ?」
「…………」
「レンさん? レンさ──ってゔわぁっ!? な、なんで暖炉の中にいるのー!?」
「え? ああ、どうも」
そういえば今僕レンだったな……とまたしてもトラップ(※だが仕掛けたのは自分)に引っかかりながら、デクの手を取り暖炉から引っ張り出してもらう。
デクはよほど驚いたようで「びっくりしたよー」と口に出しては胸に左手をあてていた。たった今「ゔわぁっ!?」と濁点付きで叫んでいたし、まさかイレブンが暖炉を選ぶとは夢にも思わなかったのだろう。正常な思考回路と言える。
「まぁレンさん、お背中が汚れて……」
「あぁ平気です。これ安物なので」
「そういう問題ではないかと……」
そう言って汚れをはたこうと背後に回ってくるミランダ──なぜか悔しがって何度も背後に回ろうとしてきた。だが全て避けるイレブンである──を忍者の如くサッと躱しつつ、イレブンが「それより」とデクに尋ねる。
「怪しまれませんでした? 彼らに」
「え? あ、うん。大丈夫よー! 賄賂は持ってかれちゃったけど」
「そうですか……すみません。大金なのに」
いっそ五十万ゴールドくらい渡しておこうかと袋をガサゴソ漁っていれば、すぐにデクがそれを制した。
元より未練は無かったらしい。
「むしろそれで帰ってくれたんだから感謝したいくらいねー! 怪しんだ様子も無かったし!」
「あ、ほんとですか? 良かったです。お二人がご無事で」
ほっと胸を撫で下ろす。もちろん賄賂の件は残念だったが、それでも下手に疑念を抱かれて絡まれるよりかはよっぽどマシだ。
デク曰く当面の資金については特に問題も無いとの事なので、申し訳ないが今回はお言葉に甘えさせてもらうとしよう。どの道あと二日の辛抱であるので。
「じゃあえっと、さっきの話の続きですけど」
ミランダに背中をはたかれながら──もうしつこいので諦めた。この人負けず嫌いすぎる──、イレブンが話題を切り替える。カミュに手紙を渡せた事や、ひとまず信じて貰えそうな事、また先の兵士との一件などを簡単に纏めて説明すれば、二人は肩の荷が下りたように揃って安堵の息をもらした。
「良かったよー」とデクが涙を滲ませる。
「そっか……ありがとうレンさん。兄貴の様子を見てきてくれて」
「……いいえ。これもお二人が時間をかけて兵士の隙を作ってくれたおかげです。ある程度準備も整いましたし、これで明後日にはカミュを連れて脱獄が出来ます。本当にありがとう」
言いながら、改めて二人に頭を下げる。初めは巻き込んでいいものか悩んだ訳だが、やはり協力を仰いで正解だったようだ。
次にカミュを連れてこの家に戻ってきた暁には、ちゃんと自己紹介をするとしよう。じゃないと溢れる罪悪感によって旅どころではなくなってしまうので。今も反応遅れているし。
「それで、あの……」
「はい?」
なんて黙々と考えていた折、ふとデクの声がして顔を上げる。
すると彼らはまだ聞きたいことがあったようで、互いに顔を見合わせてはイレブンに次なる質問を寄越した。
気遣うようにして音が吐かれる。
「その……ちなみにレンさんは明日からどうするつもりなの? もし他に手伝える事があったら、ワタシ最後まで全力でレンさんに力を貸すよー! カミュの兄貴とも約束したし!」
「デクさん……でも」
果たしてこれ以上頼ってもいいものなのか。
困惑したような顔のイレブンに、ミランダも合わせてウンウンと頷く。二人の覚悟は相当なもののようで、少しでもイレブンの力になろうと互いに意気込んでいる様子だった。
まるで頼れと言わんばかりのそれに、イレブンは暫し逡巡して……けれど最後には受け入れたのか、ふ、と目元を緩ませる。てっきりこれ以上は迷惑になるだろうと正直頼む気は無かったのだが……流石はカミュの相棒とその妻というかなんというか。やはりこちらもお人好しらしい。
「えっと……じゃあ、すみません。最後にもう少しだけお二人の力を借りたいんですけど……お願い出来ますか?」
真っ直ぐな瞳で二人を見れば、すぐに「もちろんだよー!」と気の良い返事が返ってきた。
*
空が徐々に青白くなり、早朝独特の新鮮な空気が街を漂い始めたころ。
「あ"ぁー……やっと外に出れた……」
再び教会の屋根を綱渡りしながら、イレブンがはぁ、とため息を吐く。
ここまで立て続けに問題が発生したのもあって、どこか初老じみたイレブンだった。
最初に村を出た頃はあんなに夢見る清らかな少年、または勇者然としていたというのに、今じゃグッと上に身体を伸ばすだけで肩や背中がバキボキ言うのだ。とても少年とは言えないだろう。
『──やはり城の手前だけあって兵士もなかなかに多かったですね』
「うん、ほんとに……」
つい思い出してうげーと唸る。
ふと広場の方に視線を向ければ段々と警備の兵士が増えてきていて、きびきびと揃って動く様子はまさしく国に使える者として相応しい。
おかげでこちらがどれだけ見つからずにデクの家を出るのに手こずった事か。というか仮にも魔王なんだからもっと適当に働かせればいいのに。つくづく何考えてんの? アイツ。
「あぁ……結局デクさん家でご飯もベッドも借りちゃったよ……。それにゴミ袋の処理まで。ただでさえ名前も教えてないのに」
『──まぁまぁ、良かったじゃないですか。向こうも快く受け入れてくれましたし』
「そりゃまぁ確かにそうだけど……でもなんかこう、あまりにも色々と気にかけて貰ったから逆に罪悪感というかなんというか……」
『──その割には普通に家中のタンスとか開けてましたけどね。二階の壺も壊しましたし』
少なくとも罪悪感があるような奴はそんな事決してしないだろう。実際デクも驚いていたし、むしろこうして罪悪感とか言っちゃってるのが本当に恐ろしい限りである。
ミランダなんかイレブンがタンスを漁り出す度にキャーキャー叫んで大変だったのだ。聖竜が何度「やめましょう!? ねぇやめましょう!?」と言っても全然聞かないし、ましてや二階の樽を見るなり笑顔で割り出すイレブンと言ったら。初見のデクやミランダからすればさぞ狂気じみていたに違いない。
「あ、小さなメダルだラッキー」じゃないんだよラッキーじゃ。非常に困った勇者である。(ちなみにデクとミランダはこれを見て渡されたゴミ袋の意味を理解したらしい。揃って浮かべた困惑の視線を聖竜は死ぬまで忘れないだろう)
『──それで、この後はどうするつもりですか? 一応あなたの話を聞く限りだと、今日は城には向かわないようですけど』
確認の意思を込めて聖竜が尋ねる。
ちなみに先程デクの家に厄介になっていた際、イレブンが彼らに伝えた頼みは、大きく分けて以下の二つだ。
──まず一つ目に、イレブンがこの家を出てから先は、お互いの接触を完全に断つこと。また仮に街中で会った場合は、必ず他人を装うこと。
──そして二つ目に、イレブンが現在持っている道具一式を、彼がカミュを連れて戻るまでこの家で厳重に保管しておくこと。
以上である。
というのも、これらはあくまでもイレブンとデクに関係性が無いことを明らかにするための計策だ。幸いここまで兵士の誰にも目撃されてはいない筈なので、このままお互いが他人のフリをすればそうそう気付かれることは無いだろう。
だがもし仮に街の住民や兵士の誰かに二人の関係がバレてしまえば、もうその時点でイレブンはともかく、デクの方は完全にお終いだ。
間違ってもイレブンの脱獄後に彼らが疑われてしまわない為にも、残りの二日は特にこれを考慮した上でそれぞれに日々を過ごさねばならない。
『言い方は少しきつくなりますが、とはいえこれを破ってしまうと、今度はあなた方お二人がカミュと同じ道を辿る事になりかねません。いいですね?』
『っ……!』
眼光鋭く話すイレブンに、聞いていた彼らが気圧されてコクコクと頷いたのも無理はないだろう。
また二つ目の道具を預けた理由についてだが……これに関しては単にイレブンがデクを信用したというのと、明後日に控えた脱獄のための、いわゆる布石のようなものだった。
要は倉庫番が欲しかったのだ。
一時牢屋に入れられる身として、いざと言う時安心して荷物を託せておけるような、そんな場所や存在がどこかに。
そうすれば最悪持ち物を剥奪されても大した痛手にはならないので、余計な心配を覚えることなく脱獄に専念する事が出来る。
なんたってこちとら〝オリハルコン〟やら貴重な素材が多すぎるので。一つでも二つでも無くなってしまえば確実に牢屋で発狂するので。
……まぁとはいえ、過去の事象の通りであるなら荷物は丸ごと帰ってきた──確かカミュが見つけて持ってきてくれた──し、服も脱がされはしなかったので、そういう意味では些か考えが過ぎるような気がしなくもないが。
その辺向こうもガバガバであるし。
「うーん、この後か……そうだね。まだ確認してない事もあるし、ひとまず謁見は後回しかな。あと当分この街に戻れないことを考えると、素材集めもしとかなきゃだし」
よっ、と地面に着地しながら、ふぅとイレブンが一息つく。それから綱渡り中に外した眼鏡を再度掛け直すと、まるで目的地でも決めているみたいに確かな足取りで歩き始めた。
何やら考えがあるらしい。
『──確認していないこと? まだ他に何かありましたか?』
『うん、あるよ。なんならめちゃくちゃ困ってるまである』
『──え、そんなに?』
聖竜が驚いて尋ね返す。
正直ここまで幾度も目を見張るような聡明さを発揮してきたイレブンだけに、まさかそんな弱音を吐かれるとは聖竜自身思ってもみなかった。
そうなると益々概要が気になって──イレブンが悩むほどの要件とはいかほどだろうと考えて──、次に続くだろうイレブンの話に聖竜がはた、と耳を澄ませる。
『あぁいや、でも困ってると言うよりはあれかな……多分大丈夫なんだろうけど『ねぇそれ本当に大丈夫なの?』っていうか』
『──はい?』
だが何を言いたいのか良く分からなくて、聖竜が拍子抜けしたように気の抜けた声をポロッと零した。どういうこと? と思っていれば、それまでうーんと腕を組んでいたイレブンが、諦めたようにその腕を解く。
『ま、要するに僕もよく分かってないってこと。こればっかりは実際に見てみないと判断のしようも無いし』
『──? 実際に見るって、何をです?』
『え、何って……崖? というか滝? とりあえず高さだけでも見ておこうかなって』
『──はあ』
つくづくよく分からない人だな……。
そんな感想を抱きつつ、すぐさま「あ!」と樽を見つけて走り出したイレブンに、聖竜はやれやれと呆れるのだった。
*
どうやらイレブンの言う目的地というのは、城下町をさらに超えた先にある丘の、とある瀑布のことであったらしい。
「うーわ、たっか……」
『──ええ、本当に』
ドドドド、と腹の奥底にまで響くような滝の音を耳にしながら、互いに上空を見上げて感想を呟く。
──あの後イレブンは昨日の一件で大穴を開けた場所へと向かうなり、回収しそびれた樽を壊しては、上層の兵士の目を盗んで街の下層へと足を運んだ。そうして下層の見張りである兵士に「許可なら得てますので、ハイ(すっとぼけ)」と適当に言ってはこの地へとやってきた訳である。
ちなみにその際兵士からは「今聞いてくるから待ってろ!」と言われた訳だが、ポケットのマネーをチラつかせてみればまぁ兵士のチョロいことチョロいこと。
出来れば浪費は避けたいところだが、とはいえたった千ゴールドで通してくれるのならこの際安いものだろう。ちょっと言ったら値切ってくれたし。(兵士相手に値切るとは一体)
『──それで、この滝がどうかしたのですか? 見たところ普通の滝ですけど』
「あーいや、問題は滝じゃなくて……アレ」
『──?』
イレブンがスッと上空を示す。その標的はよほど高い位置にあるようで、指を指すと言うよりかは殆ど手を挙げているような状態だ。
そして言われるがままに聖竜も同じく見上げてみれば。そこには広大な滝口の傍に、小さくボコッと出っ張ったような、謎の地形が僅かに映って。
「見える? あのちょっとだけ出てるとこ」
『──あの滝口の横にある場所ですよね? いかにも崖というかなんというか』
聖竜の言葉にイレブンが頷く。
「そうそう。……それでね、あそこから飛び降りるんだよ。カミュと二人で」
『──えっ』
聖竜から割と大きめの声が出た。理解をしようと一度黙考して、けれど理解が出来なくてやっぱり「えっ?」と声を上げる。
その心境を言葉にするなら、まさに「何言ってんだ」と言うところだろう。
『──え、と、飛び降り? 降りるんですか? あそこから?』
「うん、そう」
『──なぜ!?』
「いやなぜって……こう、脱獄した先が地下水路になってるんだけどさ、そこを抜けた先が今見てるあの崖しかないんだよ。戻ったところで城の中だし」
どうしたもんかなぁとイレブンが腕を組む。
聖竜は未だ理解が追いついていないようで、「え、あそこを? 飛び降り……!?」と何やら驚いているようだった。どうやら世界の創造主と言えど、光の子であるイレブンの行動を逐一見ていたわけでは無かったらしい。
上向きすぎて首痛いなぁ〜と呑気に話しているイレブンに畏怖を覚えつつ、怯えながらに質問を投げかける。
『──……その、要するに過去ではあそこから飛び降りたと言うことで合ってます? 生身で。いきなり。止むを得ず』
「な、なんか圧がすごいな……でもまぁうん、そういう感じ。──って、聖竜あの時見てたんじゃないの? 仮にも世界の創造主なわけだし」
聖竜がいやいやと首を横に振る。
『──そこまで万能じゃないですよ、創造主……ましてやあなたに備わった勇者の力は、あくまでもあなた自身のものですから。確かに力が発動された際は私の力とも共鳴はしますが、まさか〝あんなところ〟から〝そんなこと〟してるとはとてもとても……』
「後半にかけての含みが凄い」
致し方なくやっただけなのに……。
分かりやすく肩を竦めながら、イレブンが自身の左手を見やる。
「……まぁ実際のところ、僕はあの時気絶しちゃったからどうやって助かったのか分からないんだけどさ、でもきっとこの力のおかげだと思うんだよ。じゃなきゃあんな高い所から落ちて無傷なわけないし」
言いながら、ぐっと拳を握りしめる。……そう、あの時崖から飛び降りた際、多分発動したはずなのだ。事実カミュも〝奇跡〟だと話していたし、何よりこれまで何度もその力に助けられてきた身なのでよく分かる。
当時は〝不思議〟で片付けていたそれも、全ては勇者の力だったのだと。
「でもこの力の何が不便ってさ、僕の意思では使えないんだよね。あくまでもココ! っていう時だけで、普段は全く反応が無くて」
『──まぁ言っても私の力ですからね……。元よりあなたを大樹に導く為の足掛かりといった意味合いでしたから、融通が利かないのも無理はないかと』
「やっぱりそうなんだ……。いやまぁ散々お世話になったし、欲張りだとは思うんだけど……」
そう言って再び崖を眺める。
元々ここへやって来たのも、全てはそういう理由からだった。要するに〝穴〟を探したかったのだ。どこかにツタなどは伸びていないか、はたまた抜け道があったりしないか。それをこの目で確かめたくて。
降参したようにイレブンが唸る。
「……僕はまぁ、それこそ分かって飛び降りるからいいんだけど、でもカミュはそうじゃないからさ。本当に勇者の力が出るかも怪しいし、出来るなら無茶はさせたくなくて」
むしろこれで怪我なんかされた日には一生後悔するだろう。
過去では散々守ってくれた彼も、今となっては守るべき対象だ。傷を負う彼など見たくは無いし、だからといって自分が庇ってもいい顔をしないのは目に見えている。
「だから他に手はないかなって確認しようと思ったんだよ。言っちゃえば明後日まで待って貰ったのもその為なんだ。代替案でも浮かべばなって。まぁ結局何も浮かばないんだけど。他に抜け道も無さそうだし」
一息にイレブンが不満をこぼす。聖竜に割り込む隙を与えないどころか、後半に連れて段々と不貞腐れる始末だった。何も浮かばないのが悔しいらしい。
「いっそ翼でも生えたらいいのに」とメルヘンな事を言い出すあたり、なかなかに諦観の念が見て取れる。
「〝キメラのつばさ〟もさぁ、あれって飛ぶとこすごい見られるじゃん? しかもどこ指定しても近場だから下手に追われても面倒だし──ってあれ。もしかして今回グレイグいない? 追っ手に加わって参戦どころかメインで追いかけてくるんじゃない!? え、そうだよね!? ホメロス僕の村行かないし!」
『──あの、光の子よ、その……』
「うーわ、どうしよ……! いっそあそこで説得する? いやでも周りに兵士いるしなぁ……となると下手な手は使えないし──ってああもうホントにどうしようっ!」
『──あぁ怒りの〝イオラ〟で〝リリパット〟が塵にッ!』
やはり容赦の無いイレブンである。
体を動かせば妙案が浮かぶとでも思ったのか、やれ〝ベギラゴン〟やら〝アルテマソード〟──剣が無いのでこれしか出来ない。なんせ全部の武器を置いてきたので──などをぶっぱなしては「あーどうしよ、どうしよ」と呟いていた。完全な大量虐殺である。
こちらに一切気付くこと無く消えていく〝おばけキノコ〟がまぁ可哀想なこと可哀想なこと。これではただの焼きキノコだろうに。(またの名を敵バーベキュー)
『──ちょっ、落ち着いて下さい! 光の子よ! ろくな戦闘経験も得られないというのに!』
「いっそこの辺の魔物を縛って大きくて厚いクッションか何かを……!」
『──いやどういう思考回路ですかそれ!? というかあります! ありますって方法!』
「え、ほんとに?」
ピタッ! とイレブンが動きを止める。手からは今にも〝メラゾーマ〟なるものが盛大に放たれようとしていて、煌々と紅く光る右手に〝ももんじゃ〟が酷く戦慄していた。というかほとんど涙目だった。仮にも人々の敵であるのに、よっぽどイレブンが怖かったらしい。
ぴゃ〜っ! と逃げる彼らを横目に、はしゃいだ様子でイレブンが尋ねる。
「で、なになに!? どんな方法!?」
『──あなたよくそんなケロッとしてますね……。今の今まで暴れていたのに』
やはり人として何か大切なモンが勇者には欠如しているのだろう。
『──まぁ方法といっても急拵えの策にはなりますが……』
興味津々のイレブンに、聖竜がひとつ咳払いをして話す。
『──結論から言って、あなたの中にある〝勇者の力〟を意図的に引き出すことは可能です』
「ほんとに!?」
イレブンがきらきらと瞳を光らせる。
おお……! と一人興奮する姿は傍から見れば異質だろうが、それでも周りに人は居ないのでいくら騒いでも今は平気だ。
なんなら魔物すらいない──ほとんどイレブンが消し炭にした──ため、気を配るだけもはや無駄だろう。
『──ただ一つ問題がありまして』
「え、問題? 何それ──って、っ……!」
聖竜に尋ね返そうとして、イレブンがその場に片膝をつく。
どうやら力を吸い取られたらしい。
『──この通りあなたが使えなくなるかと』
「おおう……」
まさに「おお……」な事態であった。さっきの興奮とはまるで違ったトーンで同じ感想をこぼしつつ、片膝立ちのままにイレブンが嘆く。
なんせ聖竜が「問題」と提示した直後にアザや体が金色に光り出したかと思えば、それらが消えた次の瞬間には力が抜けてコレだったのだ。
片膝がカクッと折れる様子はまさしく「膝カックン」のそれと同義だろう。
「ええ……ちょっ、困るんだけど何これ……毎回毎回こんなんなってたら僕もう旅どころじゃない──ってあれ、立てる」
『──そりゃまぁ一瞬だけですからね……。ですがこれを継続させたらどうなるかはもうお分かりでしょう』
「ゔ……確かに」
聖竜に言われて渋面を作る。
向こうはこれを見越していたようで、「ね?」と言わんばかりだった。ここまで言わずに渋っていたのも恐らくこれが原因だろう。
「ちなみにだけどさ、これを本気でやるってなったら僕どのくらい持つと思う?」
屈伸しながらイレブンが問う。
『──さぁ……どうでしょう。一分が限界じゃないですかね。相当消耗するみたいですし』
「え、いや一分て。短すぎて何も出来ないんだけど。六十秒だし」
『──ちなみに一分を超過した場合は恐らくこの世から消滅するかと』
「いや怖っ! いきなり怖っ! ちょっと待って何その〝ニフラム〟みたいなシステム! 僕いま初めて聞いたんだけど!」
『──大丈夫です。そうならないようセーブするので』
「いやそれ全然大丈夫じゃないし! というかそもそも『セーブ』ってなに!? 別に五十九秒まではセーフとか無いからね!? 消滅手前はもうアウトだし!」
『──ギリギリを攻めるのがあなたの趣味かと……』
「そんな変わった趣味とか無いけどッ!!」
驚愕したようにイレブンが叫ぶ。
だが聖竜はすっかり彼の事をアホかなんかだと思っているようで、何とも涼しげな声を出しては「違うんですか?」と聞き返していた。なかなかに非道な聖竜である。(だがあながち間違ってないから難しい)
『──まぁとりあえずその辺りの采配は私に任せていただくとして』
「いやダメでしょ。絶対任せちゃいけないでしょコレ。何しでかすか分からないし」
『──大丈夫ですよ。五秒休めばリセットですから』
「僕の身体はリセットじゃないけどっ!?」
むしろ蓄積型まであるだろう。だが聖竜的にはリセットらしい。(解せぬ)
また聖竜曰く本来の大樹の加護に上乗せで力を使用するそうなので、先程みたいに乱用しなければひとまず安全なんだとかなんとか。最悪大変なことになっても大樹が助けてくれるとかなんとか。多分。
「…………」
全く信じられないイレブンである。なんせ凄まじい力だったので。有無を言わさぬ膝カックンだったので。
例えるならばいきなり後ろから〝あらくれ〟がやってきて膝だけカックンしてきたようなそれだ。強制力という点においてはそれこそ昨日──大樹の力を吸収したことによる疲労──の比ではないだろう。
「……ねぇ僕飛び降りて大丈夫かな。カミュ助ける前に消えちゃうかも。光に」
『──心配要りません。痛いのは一瞬だけですので』
「それ絶対いま言うことじゃないし……」
せめて大樹が暴走かなんかして聖竜の出番がありませんように……。
両手を組んで祈りながら、イレブンは一抹の不安と共に城下町へと戻るのだった。
次回からようやく本編(謁見)です。
う"れ"じい"!
カミュ(序盤)に使って欲しい武器は?
-
片手剣
-
短剣
-
ブーメラン