ドラゴンクエストXI 〜世界の創造主と勇者が過ぎ去りし時を求める話〜   作:しゃけ21

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もう誰も見てないだろな〜と思いいつつ、けど楽しいので続き書きます。作者が楽しければマァおっけーなんで。バイタリティが売りなんで自分(とかいう奴ほど数日後には消えてる)



二十一話 勇者と竜と交渉戦略

 

 髪をひとつにしっかりと纏め、エマのスカーフを頭に巻いてはサイドをピンで固定して。

 ぐるぐる模様の眼鏡を掛けつつ、鏡で姿を確認する。

 

「うーん、よし! バッチリ!」

『──いやまぁ良いなら良いんですけども……』

 

 本日二日目、最終日。

 いよいよ決戦の刻である。

 

 

 

 *

 

 

 

 雲ひとつ無い快晴というのはまさに今日のことを言うのだろう。

 

「お兄ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして」

 

 猫のメアリーを助けたお礼に、少女から報酬の〝ネコずな〟を受け取る。

 当時は「一体何に使うんだコレ……?」と曖昧な笑みを浮かべていたそれも、今では嬉しい貴重な素材だ。

 ついでにしれっと現れた例の観光客──二人の将軍について調べて欲しいとかいうアレ──からも〝ユグノア銅貨〟を頂いたので、これで現状全ての依頼をこなしたとみて良いだろう。

 

『ねぇ聖竜。他にまだやり残してる事ってある?』

 

 イレブンの問いかけに聖竜が答える。

 

『──いえ。昨日で素材も回収済みですし、そういったものは特にないかと』

『そっか……でも良かったよ。城に行く前に帳尻が合って』

 

 ユグノア銅貨を親指でピッと弾きながら、イレブンが広場までの階段を上る。その際「表」とひとつ呟けば、すぐに聖竜から「では私は裏で」と自然な返答が戻ってきた。

 トスしたコインを手の甲で受けつつ、隠した右手をパッと開く。

 特にどうという事や意味などは無いが、それでもこうして息が合うのは偏に信頼関係のなせる技だろう。互いに思考が読めてきたらしい。

 

『はい残念、表』

『──待ってください。あなた今イカサマ使いましたね?』

『あれ、バレた? さすが聖竜、鋭いね。今の結構上手くいったと思ったんだけど』

 

 けらけらと楽しげに笑いながら、イレブンが再び銅貨を放る。

 するとまたしても「表」の面が出た……というより、ただ激しく揺れて落ちただけだったので、聖竜はやれやれと頭を振ると、仕方ないなぁと言わんばかりにそこからひとつ息を吐いた。

「まぁ上手ですけど」と補足してやると、イレブンが「ほんとに?」と口元を緩める。

 

『これね、カミュが得意だったんだよ。もう最初の頃なんかほんと騙されっぱなしでさ。そのくせタネとか教えてくれないから、もう悔しくて悔しくて』

『──ははぁ、それで何度も練習したと』

『そういうこと』

 

 言いながら、手にした銅貨を指で弄ぶ。聖竜はそれを見て納得したようにコクコク頷くと、それからやけにスッキリとした声音で「なるほど」と大きめに呟いた。

 何か疑問でも抱いていたらしい。

 

『──通りで何かと不器用なあなたがそんなにも上手に扱うわけです。……まぁ多少動機が不純であるのと、結局不正をしている辺りが何ともあなたらしいですけど』

『うーわ、何それ。すっごい言いたい放題言うじゃん。というかコレ始めたのカミュだから。どちらかと言うと被害者だから、僕』

『──でも仕掛けようとしてるんでしょう? 彼に』

『まぁそうだけども』

 

 ちぇー、とわざとらしくイレブンが零す。だが「今なら絶対騙せるのに」とケタケタ口角を上げる様子はやはりどこまでも楽しそうで、聖竜はそれに肩を竦めると「程々にしときなさいよ」と注意した。

 はいはいとイレブンが雑に頷くが、多分伝わっちゃいないのだろう。

 

『ちなみに聖竜はそういうの無いの? 箱の中のもの見抜いたりとか新鮮な食べ物見分けたりとか』

『──いやなぜそんな絶妙に程度が小さいんですか……。一発芸じゃあるまいし』

『だって『なんでもあり』にすると本当にとんでもないこと言いそうだなって』

『──言いませんよ。あなたを使った〝火吹き芸〟だなんて』

『いや言ってる言ってる。普通にとんでもないこと言ってる』

『──早く戻るといいですよね、私の魔力』

『お願いだから冗談って言って?』

 

 それもう普通にただの事故だし。

 浮かべた笑顔をイレブンが一瞬で引っ込める。

 そうして暫く話していれば、あっという間に城前広場の先。二人の兵士が待ち構えている城門の前へと辿り着いた。

 わざわざ声を掛けて来ないのは観光客とでも思われているのか。その心中は定かではないが、とにかくこちらがアクションを起こさない限りはその場で待機が常なのだろう。

 

『うわー、こっち見てるこっち見てる』

『──まぁそれだけ奇抜な格好ですからね……気味悪がられても無理はないかと』

 

 そんな聖竜の発言からして、どうやら彼らは動かないのではなく、単にイレブンに驚いているらしい。

 まぁ確かに頭部はオレンジ、服はベージュ、青い腰紐に緑のズボン(+指ぬきグローブにぐるぐるメガネ)と散らかりに散らかったファッション──もはやファッションと呼べるかも怪しい──ではあるが、だからといってそんなまじまじと全身を見てくるのもどうなのか。仮にも騎士道を掲げた兵士であるというのに、まったくなんと情けない話だ。是非ともグレイグを見習って欲しい。

 あまりにセンスが壊滅的すぎて騎士とか言ってる場合じゃないので。(とはいえイレブンもなかなかに酷い)

  

『──とにかく、今のあなたは盗賊カミュの仲間であって、間違っても勇者などではありません。散々設定も練ったのですから、くれぐれもボロを出さないよう注意してくださいね。最悪本当に捕まりますので』

『はいはい、大丈夫だって。僕……じゃない、俺こういうの得意だし』

『──いやもう早速詰まってますけど』

 

 聖竜がじと、とイレブンを睨む。元より設定が「カミュの仲間」であることに加えて、どうせなら敵を撹乱させようと言動の偽装──いわゆるキャラ変──を試みたわけだが……城に行く前からこの調子ではなかなかに前途多難だろう。

 

『い、いや、今のはアレだ。言葉の綾だ。もう間違えない。大丈夫、ダイジョブ』

『──本当でしょうね』

 

 既にカタコトのイレブンである。

 だがまぁ過去では比較的無口なタイプだったので、この方がある意味彼らしいと言えばらしいのかもしれない。人格偽装は高難易度だが、とはいえ一人称だけでも違っていれば人は簡単に騙されるものだ。

 「言葉は立ち居を表す」とも言うし、印象操作としては十分だろう。

 

『よし……オーケー、行こう』

『──頼みますからね、ほんとに、ホントに』

『わ、分かったって』

 

 念押しする聖竜に頼りなく頷きながら、イレブンはそれまで持っていた銅貨を鞄の中へと適当に仕舞った。

 何もかもデクに預けて来たので財布すら無いイレブンだった。現状少女に貰った〝ネコずな〟と報酬で得た〝ユグノア銅貨〟だけが彼のスターティングメンバーである。

 あとは昨日の素材回収で拾った〝つけもの石〟と〝あみタイツ〟、他にゴールドが少しだけというなんともおかしなラインナップだ。

 多分この鞄をカミュが見たら彼は確実に怪訝な顔をするだろう。そしてイレブンにこう問うのだ。「お前一体何する気だよ」って。

 

「待て! 止まれ!」

「旅の者よ、一体何の用だ?」

 

 ガシャン、と互いに槍の穂を合わせ、兵士がイレブンの行く手を阻んだ。ずっと彼らの視界にいた事もあって、凄まじく警戒されているらしい。

 ギロ、とこちらを睨む視線に若干の戸惑いが含まれているのは、きっとイレブンがこちらに来るとは微塵も思っていなかったからだろう。

 ン"ンッとイレブンが咳払いをする。

 

「──俺の名前はレン。この城に捕まっている盗賊カミュの仲間だ」

「なに!?」

 

 そうして淡々と素性を明かしてみせれば、すぐさま兵士の驚愕の声が重なった。

 上空を向いていた二つの槍が彼らの意思で互いに離され、尖った穂先がイレブンの喉元に突き付けられる。

 

「おい貴様! それは誠か!」

「ああ、本当だ。なんならレッドオーブの件にも俺は絡んでる」

「なっ!」

「レッドオーブだと!?」

「ああそうだ。……知っているだろう? かつてオーブが盗まれたあの事件。俺はその時彼と共に居た。俺は彼の共犯者なんだ。その件で王と話がしたい。自首させて欲しい」

 

 そう言ってイレブンは両手を上げると、戦う意思が無いとばかりに自身の身軽さを証明してみせた。

 彼らもそんなイレブンを警戒しつつ、尚も穂先を突き付けながらにイレブンの背中や腰元を見やる。だがいくら見られようと武器なんか無いので、彼らの行為が徒労に終わる事は火を見るよりも明らかだった。なんせ本当に軽装備なので。

 現状イレブンと聖竜の懸念なんて、せいぜい昨日タンスから引き抜いた〝あみタイツ〟くらいのもんだろう。

 むしろアレが見つかると非常にまずい。普通に民家で盗ったヤツだし。(捕まる理由が百八十度ひっくり返る)

 

『──だから言ったじゃないですか。あみタイツだけは止めておきましょうって』

『えぇでもあれ店だと売ってないし……って、え、ちなみにあのタイツちゃんと新品だったよね? 貰って平気なヤツだったよね? 仮に一度でも履かれちゃってたらますます罪が重くなるんだけど』

『──いや『貰って平気なヤツ』とは一体?』

 

 別に「新品ならオッケー☆」じゃないだろうに。

 ましてや変に勇ましい〝俺キャラ〟なんか作ってしまったので、これでタイツなんか見つかった日にはまず間違いなく牢屋行きだろう。窃盗、不法侵入、器物破損と三拍子揃ったイレブンである。

 素材(お宝)に対する執着心だけなら確実に盗賊を上回るレベルだ。

 いっそ本当に捕まればいいのに。心から思う聖竜である。

 

「自首だと? ──ハッ、ふざけたマネを!」

「別にふざけてるわけじゃない。俺は至って真剣だ。じゃなきゃ武器も無しにこんなところまでわざわざ来たりしないだろう? 仮にも罪人だっていうのに」

 

 伏し目がちに地面を見ながら、自嘲するようにしてイレブンがこぼす。

 やはり宿屋で練習を積んだのが良かったのか、特に口調から不自然さは感じられなかった。穂先を向けられたことによる緊張感もあるのだろう。

  

「……どうする?」

「……」

 

 片側の兵士が判断を仰ぐ。

 少しも怯まないイレブンを見て、何やら動揺しているらしかった。するともう片方の兵士も同じく考え込むような表情をして、それから何かを思いついたように「とりあえず上に報告だ」と告げた。

 てっきり一人をこの場に残して聞きに行くのかと思っていたが、そういう訳でもないらしい。

 

「……付いてこい。ただし下手な真似はするなよ。この槍で八つ裂きにされたくなければな」

「ああ、分かった。約束しよう」

 

 兵士の言葉にイレブンが力強く頷く。些か強引な手段ではあったが、なんにせよこれで城には乗り込めるはずだ。

 あとは魔王さえ確認出来れば勝負はあったものだろう。

 

『──ひとまず第一関門突破ですね』

『うん』

 

 聖竜の言葉にそれだけ返すと、イレブンは槍で行動を制されながらに、城までの道を進むのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 伝達の早い彼らを見ていると、改めて報連相の大事さを思い知る。

 

「なに!? 盗賊カミュの仲間だと!?」

「ああ、どうやらそうらしい」

 

 彼らに拘束──と言っても単に囲まれただけだが──されたのも束の間、城へ入るなりあっという間にイレブンの存在が知れ渡ってしまった。

 派手すぎたのも良くなかったらしい。同時にデルカダール王とグレイグ、ホメロスの居場所も察したように伝えてくるあたり、相当な連携力であると言える。

 この様子だと多分伝言ゲームとかも強いのだろう。

 

『──それにしてもツイてましたね。王と将軍が同室にいるとは』

『まぁホメロスに関しては余計だけどね……。あの人結構面倒だし』

 

 なにも全員玉座にいなくてもいいだろうに。やってきた兵士からの情報を受けて、イレブンがうげ、と眉を顰める。

 正直今回は自首だけであって過去ほど大それたものでも無いため、王の姿を一目見られれば──魔王が取り憑いているかの確認が出来れば──後は大人しくお縄につこうと軽い気持ちで考えていたのだが……これはいよいよプランB(昨日宿屋で考えた作戦)を決行しなければならないようだ。

 欺く相手が相手なだけに、一層気を引き締めなければならない。

 

『──いいですか光の子よ。手筈通りに』

『うん、任せて』

 

 イレブンが控えめにコクッと頷く。気付くと兵士の数も増えていて、玉座の扉まで辿り着く頃には三倍の人数になっていた。

 前後左右を包囲する様はまさに過去のそれと近しい。

 というか過去より多いまである。

 

「失礼します! 例の者を連れて参りました!」

 

 玉座の扉をノックしたのち、一人の兵士が声を張り上げる。こちらも話は通っているようで、報告をした兵士の声に躊躇いは少しも含まれていなかった。「お時間よろしいでしょうか」と言った前置きですら必要ないらしい。

 やはり並の伝達力では無いだろう。

 

「入れ」

「はっ!」

 

 扉の向こうからホメロスらしき冷淡な声が返される。

 そしてイレブンが後方の兵士に押されるがまま、中へと足を踏み入れてみれば。そこには過去の景色と同様、見慣れた顔ぶれが揃えられていた。

 唯一違うのはイレブンのふざけ……ヴゥン、独特なファッションセンスくらいのものだ。

 中央の通路を挟むようにして重装兵が互いに列を成し、その延長には二人の将軍が睨みを利かせてこちらを見ている。

 たった一人の盗賊相手にはそれこそ勿体ないくらいのメンツだろう。

 

「……」

 

 チラッと両サイドの将軍を見やる。グレイグもかなりの強面ではあるが、中でも特に酷かったのは右側にいるホメロスだった。なんせ「お前よくもまぁそんな格好で俺たちの前に現れたな」と漏れなく顔に書いてあるのだ。怒りも全面に出ちゃっているし、その上美学に厳しいだけあってこの奇抜な勇者が許せないらしい。

 グレイグもグレイグで睨んではいるが、とはいえ横のホメロスが煩くてなんかもう全然気にならないのである。

 なんなら元より見慣れているので一周まわって可愛いまであった。

 僕の仲間が元気そうで嬉しい。こちらも末期なイレブンである。(果たしてポーカーフェイスとは一体)

 

「……」

 

 そしてそんな格好のイレブンを見て、同じく唖然とする者が一人。

 ──デルカダール王こと、〝モーゼフ・デルカダール三世〟であった。とはいえ今は身体を乗っ取られている可能性が高いことから、いっそ〝ウルノーガ〟と呼んでしまった方が早いかもしれない。

 彼もまたイレブン(の奇抜でファンタスティックな服装)に驚いているのか、ただ呆然としたような表情でこちらを見てくるのみである。

 よほど見慣れない格好なのだろう。

 あまり人のことは言えない──ぶっちゃけウルノーガだってそこまでオシャレな方でもない。頭のツノとか意味わかんないしトサカに至っては謎すぎる──癖に、随分と強気な魔王サマである。お前だって服ダサいくせに!

 

『っ、いけない、いけない……どう、聖竜。分かる?』

 

 クッと寄せた眉を戻しつつ、気を取り直してイレブンが尋ねる。

 聖竜はそれに「はい」と頷くと、やがて確信を持った声音で続けた。

 スルースキルの高い聖竜だった。

 幸いイレブンがキレている間にも向こうは真面目に調べてくれていたらしい。

 

『──あれは完全にウルノーガに取り憑かれていますね。かつて大樹に現れた時と同様の魔力を感じます。恐らく〝クロ〟で間違いないかと』

『……』

 

 イレブンが改めてデルカダール王──もといウルノーガを睨む。正直パッと見だけではよく分からないが、とはいえ聖竜がここまで言うのだ。ヤツで間違いないのだろう。

 

『そっか……本当に……』

 

 どうやら受け入れるしかないらしい。

 だが正直がっかりしたというよりかは、どちらかというと納得した、腑に落ちたといったニュアンスの方が強かった。もちろん期待しなかったといえば嘘にはなるが、それでも自身の中にあった期待値が限りなく低かった事は確かだ。

 ただでさえ十六年もこのままなわけだし、過去と同じ展開が起きている以上そう都合よく行く筈もあるまい。

 

『……』

 

 それでも何とかしてやりたくて、半ば探るように言葉を紡ぐ。

  

『……あのさ、やっぱり何も出来ないのかな。例えば戦うことで姿を見せたりとか、最悪ここで上手いこと話してヤツの存在を引き出したり……』

『──……いえ。残念ですが、その案はどちらも悪手です。仮に一戦交えたとして、確かに今のあなたであれば容易くウルノーガを倒せるでしょう。しかし王を人質に取られてしまえば、その時点でこちらに勝ち目はありません。自らの首を絞めるだけです』

『……』

 

 正論を言われて口を噤む。聖竜はイレブンの意思を理解している事もあって、敢えて諭すような言い方だった。

 お互い同じ気持ちであるらしい。

 そしてそれが分からないほど、イレブンも決して無知ではなくて。

 

『……ごめん、無茶なこと言った。謝る』

 

 そう素直な謝罪を聖竜に零しつつ、切り替えるようにして息を吐き出す。

 聖竜もそんなイレブンを見て、どこかホッとしたようだった。

 つい助けたい気持ちが先行してしまったが、とはいえ聖竜が言うように焦りは禁物だ。計画性のない強行突破は却ってこちらが不利になる。

 今は情報が得られただけでも御の字だと思っておこう。

 

「貴様があのドブネズミの仲間か……」

 

 そう思考を転換させたのもつかの間、やけに低い声のホメロスが、値踏みするかの如くイレブンを睨めつける。

 その様子は言動からも察する通り部外者を排除しようとする者のそれで、けれどそれすらも慣れているイレブンにとってはまるで大した威力など無かった。

 むしろ「相変わらず口が悪いなぁホメロスは」とケロッとしている様子まである。だからこそ周りは「ホメロス様の毒舌が効かないだと……?」と驚いているし、ホメロスは尚のこと不機嫌になるのだ。

 グレイグも不思議そうに見てくるあたり、大方イレブンが動揺するとでも思っていたのだろう。ところがどっこい、てんで効かないイレブンである。

 むしろ今更彼の言動に傷つく心などこの勇者が持ち合わせているワケもない。なんせ散々言われてきたので。あとなんかちょっと聖竜と似てるし。(多分言ったら怒られるヤツ)

 

「っ、──ハッ、今更ノコノコとやって来たかと思えば、まさか自首を選ぶとはな。黙っていれば仲間の命だけで済んだだろうに、愚かなことを」

 

 反対に動揺を見せたホメロスに、イレブンがふっ、と笑みをこぼす。

 

「どうかな? 仲間と共に在りたいと思うのが愚かな事だと俺は思わないが」

「っ」

「それとも仲間を見殺しにするのがこの国の知将のやり方とでも?」

「貴様ッ……!」

 

 それは王と同じく闇に取り憑かれたホメロスにとって、なかなかに重い一撃であった。

 現に言い返せないのが良い例だ。怒りを顕にこちらへと踏み出す。

 

「っ、ホメ──」

「ホメロス」

「っ!」

 

 それを見たグレイグは声を以て彼を制そうとしたが……けれどそれよりも早く響いた声に、二人がすかさず動きを止めた。

 そこから玉座へと示し合わせたように向き直る。

 

「よせ、ホメロス。真に受けるほどの相手では無い」

「はっ! 失礼しました、デルカダール王」

「……」

 

 声の主は魔王であったらしい。

 そしてホメロスは即座に胸元へ拳をあてると、再度イレブンをキッ! と睨んでは踏み出した足を元に戻した。それでもイレブンはちっとも怖くもなんともなくて、変わらず思考の読めないような、やたら涼し気な表情をその場に浮かべる。

 とはいえ先の発言についてはずっと言ってやりたかったことだったので、多少気が晴れた事は言うまでもなかった。出来ればこれで多少は心を入れ替えてくれれば幸いだが……まぁそういう訳にもいかないのだろう。

 とりあえず挑発が出来れば今はそれでいい。

 所詮はただのヘイト稼ぎなので。

 

「して盗賊よ。お主なぜ今更になって我らの前に顔を出した。今まで一体どこに隠れていたのだ。これだけ我らを欺き続けたお前が、むざむざと自首をするとは思えまい。目的を話せ」

「……はは。流石は王だ、話が早い。実は交渉をしようと思って、ある条件を持ってきたんだ。そっちが呑んでくれるというなら、俺は大人しくあなた達に捕まろう。持ってる情報もなんでも吐くし、煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わない」

「ふむ……。呑まないと言ったら?」

「お前の首を()ねる」

「ッ!」

 

 グレイグとホメロスがバッ! と身構える。周りの兵士も慌てたようで、分かりやすく槍がガタガタッ! と揺れた。

 だがそれでもイレブンが動く気配は無い。ただひたすらに王を見据えて、冷徹な視線を向けるのみだ。だからこそグレイグもホメロスも動けなくて、ただイレブンに明確な殺意を送り続けることしか出来ないのである。

 まさに「隙がない」状態のイレブンだった。今仮に戦闘をまみえたとしても恐らく彼には敵わないだろう。例え我々が手を組んだとしても。

 そんな考えがお互い手に取るように分かって、ホメロスもグレイグも顔を顰める。長いこと将軍を務めてきた彼らにとって、自分よりも強い敵を前にするのは久方振りの感覚と言えよう。

 ましてやこんな幼い子供だ。これほど屈辱的な事は無い。

 イレブンがわざとらしく肩を竦める。

 

「……なに、そんな難しい話じゃないさ。ただ俺の家族を守ってくれたらそれでいい」

「ほう? 家族とな」

 

 魔王の眉がピクリと動く。

  

「ああ。〝バンデルフォン地方〟の東の島。あそこには俺の家族がいるんだ。敵もさほど強くないから、暮らすにはもってこいの場所でな。これまで盗んだ宝なんかも纏めてそこに隠してある。アイツらの身柄を保証してくれるんならそれも全部そっちに譲ろう。あくまでも俺が盗んだものであってアイツらは全くの無関係だからな。もちろんレッドオーブの件にも絡んじゃいない。俺の首を懸けてもいい」

「……」

「みんな本当に良いヤツらなんだ。頼む」

「…………」

  

 懇願するような眼差しのイレブンに、魔王が目を閉じて暫し考え込む。ホメロスも魔王と同様にして、何やら考えるような素振りを見せた。

 若干口角が上がっているような気がするが、恐らく気のせいでは無いだろう。

 

「……」

 

 ふと左側にいるグレイグを見れば、彼はこちらの実情を哀れむようにしてイレブンの事を真剣に見ていた。

 元より家族を失った身として、イレブンの気持ちが分かるらしい。

 だがここまでの話は全てイレブンの作り話──所謂ウソの内容であるため、イレブンがグレイグに対して、罪悪感で心を痛めるのは最早どうしようもないことであった。

 だって何もかもでっちあげなのだ。実際バンデルフォン地方に家族などいないし、盗んだ宝のひとつだって無い。なんなら何を以て「宝」と呼ぶのかさえイレブンは未だに理解出来ていない節がある。〝オリハルコン〟だって〝うまのふん〟だって彼には立派なお宝であるので。

 よってここまでの話は全て、ただホメロスを〝イシの村〟から遠ざけるための、単なる施策だったと言っていい。

 なのでヘイトを溜めたのもこの為であったし、また彼が忠誠を誓っている魔王ウルノーガに対して、わざと敵意を向けたのもこのためであった。

 要するに少しでもホメロスの反感を買って、「苛立ちの発散」と称して意味もなく孤島に向かわせようと言う故郷救済作戦(またの名をプランB)である。

 ちなみにバンデルフォンを指定した意図はとくに無い。被害が出なければそれで良いので、孤島なら正直どこでもよかった。

 それにあそこなら仮にいくら焼き尽くそうといるのは所詮〝スライム〟系の魔物のみなので、実害的にはほぼゼロと言える。……いや、ある意味魔物を一掃するので、実質プラスまであるだろう。

 運が良ければレベルだって上がる──稀に〝メタルスライム〟とかいるので割と助かる──し、やっぱり僕って超良い奴では? お荷物遠ざけて掃除もするとか僕もうめちゃくちゃ有能じゃん。

 とりあえずグレイグには後で謝ろう。僕が罪悪感で殺られる前に。

    

「分かった。お主の提案を受け入れよう」

「! ありがとう。助かる」

  

 頭を下げてイレブンが礼を述べる。魔王はそれを見てひとつ頷くと、スクッと玉座から立ち上がるなり階下のホメロスに声を掛けた。

 ホメロスも呼ばれる事を察していたらしく、「はっ!」と芯のある声を上げては玉座へと身体を向け直す。

  

「バンデルフォン地方の東の島と言ったか。……ホメロス、しかと聞いたな?」

「はい……しかと聞きました。現にこの盗賊の言うことが真実ならば、従って彼の家族は全くの無実。我が国と領土こそ異なりますが、とはいえ騎士道を掲げる我々にとっては守るべき民も同然です。万が一彼に脅されているという可能性もありますゆえ、早急に保護するべきであるかと」

「……」

 

 保護ねぇ、とイレブンが内心で呆れる。聖竜もまた同意見だったようで、「全くです」とため息を吐いていた。

 魔王に身体を向けているのでその表情こそ見えやしないが、きっと悪どい笑みを浮かべて「守る」だのなんだのと言っているのだろう。そんな見せかけの騎士道を掲げても島にいるのはスライムだけなのに、なんだか策に嵌っているホメロスが可哀想にすら思えてきた。多分もの凄くキレるんだろうな。過去でも延々と不機嫌だったし。

 聖竜も聖竜で「憐れだなぁこの人……」みたいな事をポソりポソりと呟いているので、どうやら自分は相当な仕打ちをこの知将様に与えているらしい。

 まぁそれでも向こうの罪を思えば全然軽いと思うのだけれど。

 

「うむ。──ホメロスよ! 分かっているな! あとは任せたぞ!」

「はっ!!」

 

 そして魔王の言いつけの元、ホメロスはハキハキと返事をすると、結んだ金髪をサッと揺らしてはキビキビとこちらに歩き始めた。

 ご丁寧にイレブンを親の仇の如くギロ! と睨めつけるのも忘れず、指揮者の如く片手を振っては列を成す兵士と共に王の間を出ていく。

 その際どこか蔑むような目でニヤリと笑みを向けられた訳だが……とはいえ今後の彼の心境を思えば、それが怒りの感情になる日もそう遠いワケではないのかもしれない。

 なんにせよこれでイレブンの故郷は見つかることなく済むだろう。

 

「……さて、約束は約束だ。牢にでもなんでも入れてくれ。俺はアイツらが無事ならそれで良い」

 

 そう言って再度両手を上にしながら、イレブンがグレイグと視線を合わせる。

 グレイグはそれを見て何かを言おうと口を開いたが、けれどまたしても魔王が先に発したことで、その先の言葉は絶たれてしまった。

 ウルノーガとしてはホメロスに司令を出した事もあって、もうこの件については興味が無くなってしまったらしい。非常に身勝手な魔王であった。

 だが元より彼が探しているのは勇者であって盗賊では無いので、彼に言わせればレッドオーブの事なんてそもそも取るに足らない話なのだろう。

 

「うむ、ではそうさせて貰うとしよう。──グレイグよ! 遠慮することは無い。その者は大罪人じゃ。国に(あだ)なす反逆者なのじゃ! あの盗賊と同様、その者を地下牢にぶち込んでおけ! 二度と陽の光を浴びれんようにな!」

「……」

「グレイグ!」

「っ! はっ!」

 

 ウルノーガに指示されて、ハッとしたようにグレイグと部下の兵士達が動き出す。緩められていた槍がキィン! と甲高い音を鳴らして、イレブンを再び取り囲んだ。

 尚も両手を上げるイレブンを横目に、グレイグが先頭まで歩みを進める。

 その際見せた気遣うような彼の視線に、イレブンが思わず笑んだ事は言うまでもない。

 

『とりあえず地下牢でグレイグと話さないと』

『──ええ、そうですね』

 

 聖竜と方針を確かめ合いつつ、イレブンは兵士に促されるまま、地下牢獄へと向かうのであった。

 

カミュ(序盤)に使って欲しい武器は?

  • 片手剣
  • 短剣
  • ブーメラン
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