ドラゴンクエストXI 〜世界の創造主と勇者が過ぎ去りし時を求める話〜   作:しゃけ21

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 二話目を載せてから少し時間が経ってしまいましたが投稿です。平日が捗らなくてとても悔しい。(感想くれた方ありがとうございました! とっても嬉しかったです!)


三話 勇者と竜と世界の真実

 頂上で儀式を終えてからというもの、変わらずエマに詰められたイレブンは、もはや一周まわって強気に彼女を躱すようにまでなっていた。

 

「こらイレブンたら! ちゃんと答えなさい!」

「だから戻ったらちゃんと話すって」

「もうっ!」

 

 この通り彼女が何を聞いてもはぐらかし、脅しやハッタリをかけられようとも「はいはい」と笑ってあしらう始末。

 そりゃあエマとしてもいい気分ではないだろう。

 

「ほら、入口まで戻るから手貸して」

「〜〜〜っ、うん……」

 

 その癖エマの気持ちを知ってか知らずか、こういう発言を軽率にするのだからタチが悪いったらありゃしない。

 これがたった数時間前──神の岩の頂上まで向かっている時──のイレブンであれば、それこそ「レディーファーストという言葉を母親の腹に置いてきたのか?」と思うくらいにはガンガン岩山を登っていたし、無言でツタへと走っていっては断崖絶壁を(エマを置いてなんなく)渡っていたのに……それがいざ帰り道になった途端、差し出したエマの手をスっと握っては「リレミト」をするのだからまぁ大変だ。

 ちゃっかり腰に手も回していたし、流石は「ぱふぱふマスター」の異名をその身に宿しているだけのことはある。

 

「ね、ねぇなに、今の!? 私達さっきまで神の岩の頂上にいたはずじゃ……」

「うん? ああ、今のはアレだよ。呪文ってやつ」

「え、じゅ、呪文って……だって行きの時はイレブン、使えるの『メラ』だけって言ってたのに……」

「あーと、それはほら。言ったじゃん? 魔法使いだって」

 

 なんだったらもう一回登って試してみる? とエマの手を取り冗談で言えば。エマは先ほどの出来事──イレブン(いわ)くあくまでも身体を支える為にやっただけ。他意はマッタク無いとの事──を思い出したようで、その顔を真っ赤に染め上げるなり「あなたやっぱりイレブンじゃないわねっ!?」と照れ隠しの如くキャンキャン吠えた。

 それがなんだか面白くってクスクスと素直に笑っていたら、不意に内側の聖竜がポツリと「──なるほど、これが『どすけべ』というヤツですか」と感心したように呟き始めたので、イレブンはそれまで浮かべていた笑みを一瞬にして消し去るのである。

 不覚にも傷ついた勇者(どスケベ)だった。

 だが本人としては嫌味ではなく割と本気で言っているようなので、どうやらとっても余計な知識を蓄えさせてしまったらしい。

 

『──せっかくなのであなたを通して私も世界の事を知ろうかと』

『あー……ハハ。うん、程々にね』

 

 そのうち〝変態勇者〟とか言われたらどうしよう。

 不安を抱くイレブンである。

 

 

 

 *

 

 

 

 さて、そんなこんなの紆余曲折を経て、神の岩のふもとへと辿り着き。

 

「うわぁダンさんだ……! 懐かしい……!」

「懐かしい〜〜?」

「……えーと、な、なつ、なつ……」

『──自ら墓穴を掘ってどうするのです……』

 

 相変わらずエマには怪しまれつつ、また聖竜には呆れられつつも、彼女の祖父兼村長であるダンにここまでの経緯を一通り伝えて。

 

「──えっと、ごめんダンさん。この後話したい事があるから、どこかで時間貰えないかな?」

「ん? わしは構わんよ。儀式が終わってひと段落着いたところじゃからな」

「そっか、ありがとう」

 

 出迎えてくれた村の住民が役目を終えたとばかりに帰っていく中、イレブンがそっとダンを引き止めすかさず約束を取り付ける。

 それを見たエマはハッ! と気付くと慌てて二人の元に駆け寄ったが……イレブンはそれすら計算していたらしい。

 

「エマもこの後時間ある?」

「え……えっ!?」

 

 突如こちらを見たかと思えば真剣な瞳で言われてしまって、彼女は一瞬ポカンとすると、その後すぐさま理解したようにその顔を赤く染め上げた。

 なんたって成人の儀式が終わった直後の、それも家族ぐるみでのお呼び出しなのだ。

 恋に恋する年頃の乙女にその破壊力と言ったらないだろう。

 

「? エマ大丈夫? なんか顔赤いけど」

「え……あ……」

 

 ──とはいえ本人が気付いているかと言えば、そりゃまぁゼンゼンそんな事はないのだが。

 どうやらリレミトで見せた紳士さ(?)が逆に痛手となっているらしい。

 

『──あなたは本当に誤解を招くのが上手ですね』

『え、誤解? なんの?』

「ほっほっほ。イレブンは随分と気が早いのぉ。たった今成人になったばかりじゃと言うのに、もう嫁の心配をしているとは」

「? 嫁の心配……──って、エ"ッ」

「ちょっ、ちょっと! お祖父ちゃんっ……!」

「あっ、いやダンさん違っ、今のはその、そういう意味じゃなくて……」

「まぁそう否定せんでもいいわい。とりあえず時間は空けておくから、まずはペルラにも儀式が終わった事を教えてやりなさい。二人の帰りを待っているはずじゃ」

「いやだから、その……」

 

 そのまま何も言えずにいれば、ダンは「安心せい。そんな急がんでもエマは逃げんぞ〜」とイレブンに追い討ちをかけるようにしてスタスタと村に戻ってしまった。おいおいなにが「ほっほっほ」だよ。こっちはそんな意図まるでなかったのに。

 思わず唖然とするイレブンである。

 

「えっと……」

「…………」

 

 この通りエマも黙ってしまったので、どうやら見事に勘違いなるものを彼女にもさせてしまったらしい。どうしたもんかと考えていると、不意に気まずそうに照れるエマと目が合う。それがまた普通に可愛かったので、その分募る罪悪感が半端ではなかった。

 だが今も後ろ手に組んだ腕を恥ずかしそうに取っかえ引っ変えしているので、少なくともここで「違う」と否定するのは多分お互いにとっても良くないのだろう。

 

「と、とりあえず母さんの所に行こうか」

「う、うん……」

 

 行き先を指さしてそれだけ言うと、なおも気まずそうにしたエマが頷く。そのまま村へと歩き始めたので、イレブンもそれに頷き返して無言のままに隣を歩いた。

 村までの道が果てしなく遠い。何かと語弊の多いイレブンだが、とはいえこんなにもお互い違う理由で気まずくなる事もそうないだろう。

 

『──あなたはもう少し言葉選びというものを勉強しておいた方が良いかと』

『そうします……』

 

 照れるエマを引き連れながら、イレブンは深く猛省すると母であるペルラの元に向かうのであった。

 

『──ところで、光の子よ』

『今度はなんでしょう……』

『──服は着替えなくて良いのですか? 過去に来た時のままですが』

『あ"』

『──やれやれ……』

 

 心労の絶えない聖竜である。

 

 

 

 *

 

 

 

 そこから道中思い出したように着ていたロングベストを脱ぎ──エマは「何!? 何事!?」と驚いていたが──それまで装備していた剣も慌てて袋の中にしまって。

 

「あら、おかえり二人とも」

「ただいま、母さん」

「ただいま帰りました」

 

 およそ数年ぶりに帰省した実家は、暖かいシチューの匂いを纏ってイレブンとエマを出迎えてくれた。

 

「見たところ無事に儀式を終えられたんだね。怪我はなかったかい?」

「うん、大丈夫」

 

 イレブンが微笑んで返答すると、ペルラも大層ニコリと笑ってウンウンと二回嬉しげに頷く。それを見ていたらなんだか途端に「戻ってきたんだな」という実感が湧いて、惜しみなく注がれる母からの愛につい涙腺が緩みそうになった。

 だがそうなるのも無理はない。なぜならイレブンの知っているこの光景は、村が焼かれてしまって以降、二度と見ることは無かったのだから。

 もちろん過去でもペルラは元気だったし、彼女の作ったお手製のシチューも何度か食べたりはしていたけれど。それでも原型を保ったこの家で、ペルラが携える暖かな笑みで。迎えてくれたあの日はやはり、後にも先にも〝今日〟が最期で。

 

『──とても暖かい方ですね』

『うん……』

 

 聖竜の言葉に頷きながら、この幸せを逃すまいと改めて自分に言い聞かせる。

 自分のせいで焼かれた村も、意味なく巻き込まれただけの彼らも。今度こそ必ず全部を救って、この溢れんばかりに充ちた幸せを大切に自分が守っていくのだ。

 それが唯一彼らに出来る……怒りも恨みも一切見せず、ただただ「おかえり」と出迎えてくれた。そんな優しい彼らにできる、イレブンの唯一の贖罪なのだから。

 せめて三度目の世界でくらい、穏やかな日々を過ごして欲しくて。

 

「それより聞いてペルラおばさま! イレブンったら凄いのよ!」

「うちの子がどうかしたのかい?」

「あのね、実は──」

 

 すると決意をその身に宿している傍らで、すっかり本調子に戻ったエマが、神の岩の頂上で起きた事を興奮気味にペルラに伝えていた。

 身振り手振りで魔物が襲ってきたことを話し、最後には「痣が光ってイレブンが雷を呼んだみたいだった」となかなかに鋭い考察を交える。またそれが的確であるものだから、イレブンは改めて「合ってるんだよなぁ……」と内心で苦笑し、聖竜は『──今すぐ村娘をやめて学者になるべきでは?』と素直な感想を吐露するのである。

 思えば最後の砦の時も彼女はなかなかに活躍していたようだし、もし世界が平和になった暁にはそういう選択肢もあるのだろう。

 

「イレブン、これを受け取りなさい」

「…………」

 

 そしてペルラはエマの話を一通り聞くと、それから酷く沈んだ様子である物をイレブンの手のひらに乗せた。それはイレブンの実母──所謂エレノアが託してくれた、〝ヒスイの首飾り〟なるものだった。当時はなんとも思っていなかったが、結果として自分は実母の形見を義母から直々に受け取っていたらしい。

 手の上で転がるそれを見ながら、ふと気になった事を聖竜に尋ねる。

 

『……あのさ、これって僕の持っていた方の首飾りは消えたってことになるのかな。消えたというかひとつになったというか』

『──そうですね……その線も考えられはしますが……』

 

 するとそう言って聖竜は暫しの間悩んだかと思えば、けれど突然ああ、と言うなりそこから何かを思い出したように『──実際に見た方が早いですね』と呟きだした。

 てっきり消えたとばかり思ってしんみりしていたイレブンが思わず『エッ』と内心で驚く──こういう時の聖竜はさも当たり前のように常軌を逸した行動を執るので、おちおち感慨に浸ってもいられないのだ──と、案の定散歩帰りみたいなテンションで『──どうやらふくろの中にもあるようです。首飾り』と言ってくるのだから最早どう反応すればいいのか分からない。

 とりあえずセンチメンタルが吹っ飛んで行ったことは確かなので、この後聖竜の力について一度話す場を設けるとしよう。(主にイレブンの精神安定のために)

 

『……あれ、でもそれならどうして消えてないんだろ。こうして母さんに貰ってるのに』

『──それは恐らく、この世にいくつか存在する物だからでしょう。実際王家に伝わる品であればあなたの祖父も所持していたのでは?』

『そりゃまぁ確かにロウじいちゃんも持ってはいたけど……でもだからってそんなポンポン複製されていいものなの? 仮にも王家の証明品だよ? 二個あっても首から下げらんないし』

『──ひとつに結んで使うのはどうでしょう』

『いやもうなにその謎アドバイス。しかも全然解決してないし』

 

 というか論点そこじゃないだろ……。

 手の中の首飾りを軽く握りながら、イレブンがやれやれとため息を吐く。過去に戻る件の時もそうだったが、なんかこう時々ポンコツになるのだ。この聖竜サマという生き物は。

 首飾り二つ一緒に括って「はいオッケー」とはならないだろうに。

 

「実は十六年間、村の皆にも言わないでずっと黙ってたことがあるんだ。実はイレブン、あんたはね──」

「うわぁぁあいやっ、ちょ! ちょっと待った母さん! ストップ、ストップ!」

「な、なんだい? いきなり」

「ええと、その、実は僕も母さんに隠してることがあって……!」

 

 おかげでうっかり勇者だとバラされそうになったイレブンである。……危ない。聖竜によってすっかり調子を崩されたせいで、危うく話がややこしくなるところだった。

 仮にこのままイレブンが勇者だとペルラの口から言われてしまえば、尚更自分が未来から来たと説明するのが困難になるだろう。仮にも明日旅立つ身としてあまり時間も掛けられないし、ここは多少強引になっても自白していった方が懸命だ。

 周りの気配を確認しつつ、呼吸を整えて話を続ける。

 

「えっと、その……ごめん。実は母さんがしようとしてくれてる話とか、僕もう全部分かってるんだ。このヒスイの首飾りを今日母さんがくれるってことも──僕が使命を持って生まれた、勇者の生まれ変わりだってことも」

「なっ!」

 

 ペルラが目を見開いて驚く。

 

「っ、な、なんだって! あんた一体、どこでそれを……!」

「えと、いざ『どこか』って言われるとあんまり上手くは言えないんだけど……でもエマが言ってたのは全部本当だよ。その雷を打ったのは紛れもなく僕の力で、その時この左手のアザも光ったんだ。まぁエマには割と急だったのもあって咄嗟に誤魔化しちゃったんだけど」

「イレブン、あんた……」

 

 するとペルラは強ばった表情を浮かべるなり、そのまま黙り込んでしまった。なんて言おうかと言葉を探していると、途端に隣にいるエマがイレブンの袖をぎゅ、と掴む。

 彼女もまた混乱しているらしい。

 

「ね、ねぇ、ちょっと待って。そのユ、ユーシャ? ってなに? 二人は何の話をしてるの?」

「エマ……」

 

 それがあんまり戸惑った様子だったので、イレブンはエマの方に身体を向けると、先程のペルラに向けたものとは違った、努めて穏やかな笑みを浮かべる。だがそれでもエマは変わらず置いていかれた子供のような顔をしていて、袖を握るその弱い力から、何となくこの先の展開を彼女は察しているようだった。

 大方自分が話したせいでこの状況になったと思っているのだろう。

 

「大丈夫、ちゃんとエマにも話すから」

「……」

 

 なおも不安げな顔をする彼女の頭に、ぽんぽんと二回ほど手を乗せる。それは過去の世界でカミュやシルビア、ロウにマルティナがよくやってくれていた、まじないのようなものだった。

 当時は「子供扱いしないで欲しい」と不貞腐れながらに言っていたものだが、今こうしてやる側に立つと彼らの気持ちがよく分かる。……ああ、あれは相手を思いやっているからこそ手が伸びてしまうのだな、と。

 

「あのね、さっきエマ母さんに言ってたでしょ? 僕が雷を呼んだみたいだったって」

「……うん」

「それさ、本当に僕が呼んだ雷なんだ。この左手のアザが光ってたって言うのも正解で、このアザが手に刻まれているのは『命の大樹』に選ばれた者である証なんだって。それが今言った〝勇者〟って呼ばれるものであって、あの時はその勇者の力が魔物を追い払ってくれたんだよ。だからエマの予想は全部当たり。何から何まで見事に合ってる」

「……イレブンは」

「うん」

「イレブンはどうして、そんなに色々詳しいの? 昨日まではそんな感じ、全然なかったのに……」

「…………」

 

 本当に鋭いな、と思う。

 きっと彼女はこれまでの十六年間、ちゃんと自分のことを隣で見てくれていたのだろう。

 そしてそんな彼女だからこそ、この疑問にも辿り着いたのだ。気付かないふりでも良かっただろうに、それでも向き合わなくちゃと思って。

 イレブンの身を案じるが故に。心から心配しているが故に。

 

「……はは」

 

 思わず緩やかに口角が上がる。やっぱりエマには敵わないなぁと、ただただそんなことを思った。

 ダンにも話す予定ではいるが、それでも二人には今伝えよう。というよりも今聞いて欲しい。そんな思いで彼女達を見る。

 聖竜も否定して来ない辺り、見守ってくれるという事なのだろう。

 

「……それはね、僕が今から少し先──未来からやって来てるからなんだ」

 

 そして真っ直ぐな目をしてそう伝えれば、二人は驚きこそしたものの、けれどもイレブンを疑うことなく話に耳を傾けてくれた。

 

 

 

 *

 

 

 

 難しい部分は掻い摘みながらも事の顛末──主に世界が滅んでしまったことと、それが自分のせいであること。また今度こそ世界を救いたいと思っていることの三つ──を二人に話して、けれどそれでも余程壮絶だったのか、「大変な思いをしたんだね」と揃って涙を流されてしまって。

 

「う、うう……」

「っ、っ……!」

「イレブン、これは一体どう言う状況じゃ……?」

「あ、はは……えーと」

 

 そして肝心の村の話をするべく、イレブン自らエマの家に赴いて村長のダンを連れてきたところ、開口一番に告げられたのがこの台詞という訳である。

 いっそ「ルキも一緒に連れて来てしまえばエマが泣き止んでくれるかも」と思ってわざわざルキを連れてきたのだが……残念ながらそういう感じでもないらしい。

 

「わんっ」

「ルキ……ルキっ……!」

「あー……」

 

 この通りルキを抱き締めるなり益々エマに泣かれてしまって、もはや逆効果まであった。またペルラもペルラで布団からシーツを剥ぎ取ってくるなりそれを涙でびしゃびしゃにしていて、その光景のあまりの異様さにダンが「なんだなんだ……!?」と慌てまくる始末。

 無法地帯とはまさにこの事を言うのだろう。

 

「……えっとね、ダンさん。とりあえず話したい事があるからこっちに座ってもらってもいいかな」

「あ、ああ……」

 

 とりあえず玄関で呆然としているダンを呼んで、エマとペルラが座っている四人がけのテーブルチェアに同じく彼を座らせる。そこからお茶を入れようとすれば、「あんだばずわっででいいがら!」と謎にペルラに怒られてしまった。

 仕方ないので頬を掻きつつ言われた通りテーブルに座ると、不意にエマに抱きつかれたままのルキと目が合う。だが賢い彼はこの状況でも上手に空気を読んでくれているようで、ルキは小さくわん、とだけ鳴くとそのままエマに寄り添っていた。まったくなんて利口なルキなのだろう。

 聖竜が感心したように『──ほう』と唸る。

 

『──随分と賢い生き物なのですね。犬というのは本来もっと吠えるものかと思っていましたが』

『そう? まぁ確かにルキは滅多に吠えたりしないけど、まぁでもせい……』

『──せい?』

『……いや、なんでもない』

 

 ──まぁでも聖竜も鳴かないじゃん? 竜なのに。

 とは流石に言えなかったイレブンである。

 なんなら本当に竜という種族で括って良いかも怪しいので──というかただでさえさっき言語関連で怒られたばかりなので──もう余計な事は言わない方がいいだろう。アレだ、触らぬ神に祟りなしというヤツだ。いやまぁこの場合神というよりは竜になるけど。いや竜かどうかすら怪しいけど。鳴かないし。

 

「じゃ、じゃあまぁとにかく話を進めるね。あんまりゆっくりしてると夜になっちゃうし」

「あ、ああ。そうじゃな。とはいえあれじゃろ? 例の話じゃろ? ほら、エマを嫁に貰うとか何とか……」

「お祖父ぢゃん、今私だぢは真剣な話をじでいるのよ。ふざげないで」

「なっ!? ワシはふざけてなど!」

「あー、っと! とりあえずその話はまた置いておくとして、まずは僕の話を聞いて欲しいなって!」

 

 とか何とか聖竜と話していたらこっちはこっちで揉めているので、イレブンは「ああもうどっちもややこしいな!」とやっぱり頭を抱えるのである。なんならペルラもガン! と音を立ててダンの目の前にお茶を置いているし、これはさっさと話をしないと流石にダンが可哀想かもしれない。

 ゴホン、と大袈裟にひとつ咳をして、改めてイレブンが話を進める。

 

「あのねダンさん。信じられないかもしれないけど、実は僕数年後の未来から来てるんだ。この手で魔王と邪神を倒して、世界の崩壊を未然に防ぐために」

「???」

「えと……それでもっと言っちゃうと僕は命の大樹から勇者の使命っていうのを預かっててね、それが魔王と邪神を倒すっていうものだったんだけど、実は僕未来で失敗しちゃって。世界が崩壊しちゃったんだ。今から三年後くらいの話なんだけど、闇に飲まれて皆亡くなっちゃって。だからそんな世界を救うために、こうして僕が過去に戻ってやり直してるってわけなんだ、けど……」

「?????」

「まぁそりゃそうなるよね……」

 

 はは、とその場で苦笑を浮かべる。

 ペルラとエマに至ってはイレブンが話し始めた段階から既に涙を流していて、理解に苦しむダンを見ては「なんでわかんないの!?」という顔をしていた。

 とはいえ本来の流れで言えばダンの反応こそ正しいのだろう。それこそエマ達はイレブンが自ら「勇者である」と語っただけに話に説得力があったが、何も知らないダンからすれば理解出来ないのも無理はないのだ。実際「数年後の未来から来た」なんて言われても冗談としか思えないだろうし。

 

「……いや、いいんだ。正直僕自身の話については信じて貰えなくてもいい。いきなり信じろって言ったって難しいのも分かるしね」

「イレブン……」

「でも──」

 

 言いながら、三人とそれぞれに目を合わせる。

 

「でもお願い。ここまでの話はどう思ってもらっても構わないから、今から僕が言うことだけ。これだけは絶対に信じて欲しい。そして僕の話の通りに動いて、最後まで守り抜いて欲しいんだ。今から交わす僕との約束と、皆の──このイシの村の未来を」

「っ、」

「っ……!」

「イレブン……」

 

 そうして頭を下げて頼み込めば、すぐにイレブンの頭上から、息を飲むような音が聞こえてきた。エマとペルラが更に泣く声がして、少なくとも二人は守ってくれるだろうと確信を得る。

 ──だがこの場で真に頼むべき相手は、やはり村の長である彼だろう。むしろ彼が動いてくれなければ最悪の未来になってしまうのだ。

 ゆっくりと頭を正位置に戻して、ダンの姿をその目に捉える。

 

「ごめんね、ダンさん。いきなりこんな話しちゃって。でも僕はこの村が……イシの村の皆が大好きだから。ダンさんや母さん、エマや皆を守るためなら、例え嘘だって思われようとも僕はあなたに真実を伝える。信じてくれるまで何度でも話すよ。それで未来が変わるなら尚更ね」

「っ……」

 

 そう言って見据えるイレブンの目には、「絶対に村を守って欲しい」という確かな信念が込められていた。

 ダンもまたそれに気づいたからこそ、返す言葉に詰まったのだろう。「……分かった、話してみなさい」と根負けするように告げられて、イレブンは頼りなく眉を下げるとダンにありがとうとお礼を伝える。

 

『──ここが正念場ですね』

『うん』

 

 聖竜の言う通り、ここでの自分の布石によって未来が大きく変わってくるのだ。確実に村を守るためにも、ここまで考えたイレブンの計画を漏れなく彼らに伝えねばならない。

 呼吸を整えて口を開く。

 

「あのね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど──」

 

 そこから全てを伝え終える頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

カミュ(序盤)に使って欲しい武器は?

  • 片手剣
  • 短剣
  • ブーメラン
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