ドラゴンクエストXI 〜世界の創造主と勇者が過ぎ去りし時を求める話〜 作:しゃけ21
聖竜の指示に従いながら、星空が照らす夜の村を駆ける。
「ここで合ってる?」
『──はい』
そうして二人が辿り着いたのは、イシの村の中央に位置する大木。──過去にイレブンがテオと邂逅した、ターニングポイントとも言える場所だった。
根の張りつめたそれを見ながら、イレブンが改めて聖竜に尋ねる。
「つい勢いで走ってきちゃったけど……ここで一体何をする気? 大樹の根を通して何か見るとか?」
『──まぁ見ると言えば見るのですが……正確にはこの根を利用して大樹の力を吸収します。過去の私から力を分けて貰うのです』
「え、そんなことして大丈夫? 逆に今の大樹の力が弱まっちゃいそうだけど」
大木を見上げて眉を寄せると、すぐに聖竜がいえ、と否定した。そういう訳でもないらしい。
数歩ほど前に足を進めつつ、続きに耳を傾ける。
『──その辺りは問題ありません。大樹の根はあくまでも根。直結こそしていますが、ひとつひとつは微力であって大した力では無いのです』
『へぇ、そうなんだ。それでもこの根にはかなり助けられたからなぁ……。僕らが困ったり悩んだりした時はいつも道筋を教えてくれて。……でも思えばそういうのも全部、聖竜がやってくれてたんだよね。僕らが迷わないで済むように』
本当にありがとう。
胸に左手を当てながら、噛み締めるようにして感謝を伝える。「やっぱり助けられてばかりだね」と眉尻を下げて笑って言えば、聖竜も同じく優しい声音で『──お互い様です』と短く返した。
あまり助けたような覚えはないが、とはいえそれは聖竜もまた同じ思いでいるのだろう。
「それで……僕は何をしたらいい? 大樹の力を吸収するなら、ただ触るだけじゃダメな気がするけど」
『──そうですね……出来れば大樹の根に触れながら、魔力を吸い取るようなイメージをしていただけると良いかと。そうすれば私の力に
「そっか、イメージすればいいんだね。了解」
『──ですが、ただ……』
「? どうかした?」
『──……』
「聖竜?」
名前を呼んでも返事がなくて、視線を自身の胸元に下ろす。今の今まで普通だったのに、一体どうしてしまったんだろうか。もしかして何か嫌なことでも思い出したのでは……。とそんな考えが頭を過って、焦りから眉間に皺が寄った。
再度胸元に左手を添える。
「聖竜どうした? 気分でも悪い?」
そうして心配するように問えば、聖竜は数秒ほど間を置いた上で、言い辛そうに言葉を発した。
その、と沈んだ声が聞こえて、すぐに意識を集中させる。
『──実は過去の私から力を貰うにあたって、一つだけ、危惧している事があるのです』
「危惧? 何か危険があるってこと?」
『──ええ。それはあなたへの影響……つまり、あなたの身体や精神にかかる負荷です。いくらあなたが勇者といえど、〝ヒト〟であることに変わりはありません。もし仮にあなたの身体を利用して大樹の力を蓄えるとなれば、少なからずあなたにも影響が及ぶでしょう』
「…………」
『──元々私があなたを依存先として考えなかったのはこの為でもありました。確かにあなたの力を借りればその分、過去の私からも多くの恩恵を得ることが出来ます。ですが私の力を貰えば貰うほど、ヒトであるあなたに掛かる負担が大きくなるのもまた事実。悪影響とまでは行かなくとも、なんらかの徴候が見られるかもしれません。……本当は時を遡る前にこの事をお伝えするべきでしたが、あなたの想いが嬉しくて、ここまでずっと話せずにいました。あなたの言葉に甘えたのです。少し考えればあのような提案、受けるべきでは無いと分かっていたはずなのに』
「聖竜……」
申し訳ありません、と謝られて、イレブンが暫し黙り込む。
聖竜は後悔の念に苛まれているようで、それ以上は何も言えないようだった。
というより言い訳になると思ったのだろう。
「……なんだ、そんなことか。僕はてっきり君がまた何か、一人で背負おうとしてるんじゃないかと」
──だが実際にイレブンの口から出てきたのは、ただ心から安堵するような「良かった」の言葉と、安心から来るため息のみであった。「それならそうと言ってくれればいいのに」と肩を竦めて笑ってみせれば、聖竜が慌てたようにいや、と零す。
『──そんなこと、ではないでしょう。現に大樹の力をヒトが取り込むなど前代未聞の試みですし、それに私は、この事をあなたに黙って』
「いいよ別に。気にしてないし」
『──っ、そういう問題では』
「言ったでしょ? 利用上等だって」
『──……』
いよいよ聖竜から言葉が途切れる。反論のしようが無くなったらしい。
それにイレブンはひとつ微笑むと、あのね、と優しい声音で発した。
目を閉じながらに思いを伝える。
「こんなこと言うのは変かもしれないけど……正直今の話を聞いて、ちょっとだけ嬉しいと思ったんだ。もちろん君が僕を想って忠告してくれた事もそうだけど、何より君に返せるものが、僕にもちゃんとあるんだなって思って」
『──ですから、私はあなたには何も』
「……ううん。聖竜には沢山貰ってるよ。君はそんな事ないって言うけど、それでも本当に沢山、数え切れないほど貰ってるんだ。だから僕の事なら気にしなくていい。君は自分の願いのために、僕を好きなだけ利用してくれ。それが巡り巡ってきっと、僕や世界のためにもなる」
『──ですが、それは』
「ははっ、結構頑固なんだね。……でもさ、前に僕こうも言ったでしょ? 『君が自分を犠牲にして力を蓄えようとしているのなら、僕がその半分を担う』って。だから僕としてはむしろ良かったんだよ。君がこの言葉を嬉しいと思って、甘えてくれたのなら尚更。──本来断ろうとしていたはずの未来を、変えられたのなら尚更ね」
『──っ……』
「だから……──! 待って」
イレブンが何かに気付いて振り返る。そうして少し遠くを見遣れば、不意にイレブンと聖竜の視界に、揺れるオレンジと金が映った。──エマだ。どうやらこちらに気づいたようで、ぱたぱたと駆け足でやってくる。
随分と話し込んでいたらしい。
『……ごめん聖竜、また後で話す』
『──はい』
口には出さずそれだけ伝えると、イレブンは胸に当てていた左手を下ろして、やってくる彼女を迎え入れた。
はぁはぁと息を切らすエマに「大丈夫?」と微笑んで聞けば、向こうは息を整えながらもこくりと首を縦に振る。よほど急いで走ったのだろう。
かと思いきやバッと顔を近づけられて、イレブンが思わず目を丸くする。
「エマ? どうし──」
「ほっ、本当にいたんだ! ここに……!」
「?」
だが言っている意味がよく分からなくて、無意識のままに首を傾げた。するとそんなイレブンに詰め寄るようにして、エマが瞳をキラつかせるから。なんだか少し気恥ずかしくなって、イレブンがふい、と目線を外した。自然と顔に熱が集まる。
「あ、あのね! 理由はなんでか分からないんだけど……でもここに来れば私、なんとなくあなたに会えるような気がして……!」
「え、えっと……」
「けど本当にいるなんて思わなかったわ! どうしてこんなところにいるの? もしかしてイレブンも眠れないとか?」
「あー、いや、その、」
──ちょっと近いので離れてもらってもよろしいでしょうか……! 両手を前に持っていきながら、そんな思いで数歩後退る。だがそれでも彼女は興奮しているようで、ますますイレブンと距離を詰めると上目遣いでこちらを見てきた。「なんで? どうして?」と嬉しそうに言われて、うぐ、とイレブンが顔を背ける。
「な、なんとなくちょっと……寝れなくて」
そして苦し紛れにそう答えれば、エマは殊更笑みを深めて「そうなんだ!」と可愛く笑った。「私もなの」と追加で言われて、またしても顔が熱くなる。
この近さといい発言といい、もしかするとこれは昼間の仕返しなのかもしれない。そんな思いで彼女を見たが、とはいえニコニコと笑うその様子から、特にそういった感じは見受けられなくて。
元より天然なところのある彼女なので、多分気付いていないだけなのだろう。
「……あの、エマ」
「うん? なに?」
「その……ちょっと近いかな、って」
「え……──あっ、ご、ごめんなさい! 私ったら嬉しくて、つい……!」
「い、いや、うん。大丈夫」
実際全然大丈夫では無いが。
慌てて離れるエマを見ながら、顔に集まった熱を誤魔化すようにして右手の甲で口元を隠す。するとエマも我に返ったようで、イレブンから身体を九十度背けるなり赤くなった顔を地面へと下ろした。
何を言おうかと悩んでいれば、先に彼女が話を切り出す。
「その……さっきイレブン、私たちに話してくれたじゃない? あなたのこととか、色んなこと」
「え、ああ、うん。そうだね」
「それでね……あんまり上手く言えないんだけど、なんでか私、あなたとこうして夜に木の下で、前にも話した事があるような気がして」
「! それって……」
──過去のエマの記憶だ……! 脳裏を過ったその考えに、不覚にも胸が締め付けられる。
どうやら彼女に話したことで、ある種の既視感が生まれているらしい。そのまま何も言えないでいると、エマがイレブンをちらっと見るなり、取り繕うような笑みを浮かべた。それが過去のエマを思い出させて、尚のこと胸に痛みが走る。
思えば過去──〝一番初め〟の彼女にはずっと、そんな顔をさせてしまっていたなって。
「じゃあやっぱり、前にもこうして話したんだ。私たち」
「うん……」
「そっか……でも凄いわよね。だって私は全然覚えていないはずなのに、それでもそんな感じがするんだもの。ここに来ればあなたと絶対、この木の下でまた会えるって。それで本当に会えちゃうんだからびっくりしたわ。てっきり居ないと思ってたのに」
「はは……それを言うなら僕の方こそびっくりしたよ。エマの姿が見えたと思ったら、急にこっちまで走ってきて」
くすりと小さく笑いを零すと、エマも少しだけ恥ずかしそうにしながら、「ふふ」と同様にくすくすと微笑む。なんだか懐かしくって目を細めれば、彼女は「でもね」と短く言うなり、下げていた顔を空へと向けた。同じようにして見上げてみると、大木の葉が揺れる隙間から、満点の星空が輝くのが見える。街灯や家の明かりがなくともこうしてエマの顔がよく見えるのは、間違いなくこの煌めく星々のおかげだろう。
「私……こうして実際にあなたと会えて、改めて二人で話してたらね、思ったの。前の私も今の私も、きっと同じ気持ちだったんだろうなって」
「……」
「……ねぇ、イレブン。イレブンは、私のこと好き?」
「……うん、好きだよ」
ほんの少しだけ間を空けて答える。
エマの顔は見れなかった。今彼女の顔を一目見てしまえば、決心が揺らいでしまうような気がして。
すん、と鼻をすするその音に、ぎゅっ、と拳を握り締める。今の自分に出来ることなど、これこそ何もないだろう。
「……ごめんね。辛い思いをさせて」
それでも彼女に謝りたくて、恨んでくれと言わんばかりにエマの背中に腕を回した。頭に手を添え優しく撫でると、エマが「ううん」と短く言って、イレブンの服をじんわりと濡らす。なんとなく予想はしていたらしい。「私こそごめんね」と謝る姿に、どうしようもなく腕に力が入った。
エマは何も悪くないと伝えて、一層強く身体を引き寄せる。
そこからどのくらい経ったのだろう。
「──もう大丈夫。ありがとう」
「……うん」
ひとしきり泣いた後の彼女は、まるで何かの決意でも定まったかのようにとてもスッキリとした顔をしていた。
服を濡らしたことを謝られて、気にしないでと首を横に振る。元より泣かせてしまった身なのだ。謝るのはむしろこちらの方だろう。
「それでも私、あなたを諦められそうにない」
「……」
まっすぐな瞳で言われてしまって、半ば逃げるように目線を下げる。気持ちはもちろん有難かったが、とはいえそれを受け取ってしまうのはあまりにも彼女に失礼な気がした。だって自分は勇者なのだから。世界の命運を握っている今、帰れる保証も無いような人間が適当な事を言う訳にはいかないだろう。
「……ねぇ。一つ聞いてもいい?」
「……うん」
下を見ながらにゆっくりと頷く。
「前の私から言われたことはある? あなたのことが好きだって」
「いや……ないよ。当時は村の件とかもあって、話せる機会もそう無かったし」
「そう……じゃあやっぱり、尚更諦める訳にはいかないね。あなたに伝えられなかった私の分も、私がイレブンに伝えてあげないと」
「エマ……」
ニコ、と泣き腫らした目で笑う彼女に、申し訳なさから口を開く。だが何を言えば彼女が諦めてくれるのか分からなくて、結局声にはならなかった。仮にここで「嫌いだ」と嘘をついても、彼女には見透かされてしまうんだろう。幼馴染の勘というやつだ。それでも何か言わねばと思って、必死になって言葉を探す。
すると彼女はそんなイレブンを見て、何かの決心がついたらしい。どこか寂しげに目を細めると、「ちょっと待っててね」とイレブンに言って、スカーフの結び目に手を伸ばした。それを器用にサラッと解くと、丁寧に畳んでイレブンに差し出す。
「はい、受け取って」
「これ……」
そう呟きながらにエマへ尋ねると、彼女はイレブンの顔を見つめて、「ふふ」と暖かい笑みを浮かべた。触れた指先が少し冷たくて、無理をしているのが伝わってくる。きっと相当な勇気を振り絞っているのだろう。
「……ねぇ、イレブン。ひとつだけ約束して。絶対に無事で帰ってくるって」
「…………」
「それで……もし全部が終わって平和になったら。その時は改めてちゃんと、あなたに思いを伝えるわ。世界の平和とか選ばれた運命とか、そういう使命を背負った勇者じゃない、幼なじみのあなた自身に」
「っ……」
覚悟してよね、と強気に言われて、スカーフをぎゅっ、と握り締める。反動で布に皺が寄ってしまって、畳んで貰った意味がなくなってしまった。
彼女はなんて強いのだろう。どうしてそんなに優しいのだろう。
あんなに酷い断り方をしたというのに、どうして。
「うん……約束する。絶対に全部終わらせて、必ずこの村に帰ってくるよ。それで……その時はちゃんと、僕の言葉で伝えるから。君の気持ちを聞いた上で、僕の答えを、ちゃんと」
「……うん、待ってる」
「ありがとう」
頼りなく眉を下げながら笑う。それを見てエマも同じく微笑むと、「そろそろ寝なきゃね」とイレブンに伝えて、それからくるりと背中を向けた。スカーフに抑えられていた髪がふわりと靡いて、月明かりの下を美しく照らす。
とはいえそれも明日になれば、また当分見れなくなってしまうのだろう。
「──エマ! 本当に……本当にありがとう。エマが僕の幼なじみで良かった」
「っ……」
「また明日」
どうにかそれだけ伝えると、エマがこくりと頷いて走り出す。そうして徐々に遠くなる背中を、イレブンは最後まで見送っていた。耐えきれず涙を流した彼女が、少しでも良く眠れるように。──どうか平和な日常のまま、この村で穏やかに過ごせるように。手にしたスカーフを見ながらに祈る。
「…………」
そしてようやくエマの姿が見えなくなったところで、イレブンは再度大木に向き合うと、はにかみながらに呟いた。……なんだか情けないとこ見せちゃったね、と。
「それで……もうそっちは腹を決めてくれたのかな。こっちは準備万端だけど」
『──え……』
だがいざ魔力を奪うイメージをしつつ聖竜に尋ねれば、どうやら向こうの予想とは違ったらしい。聖竜はもう一度「え、」と声を上げると、驚いた声音を隠さないままにイレブンへと尋ね返す。先程の話の流れからして、てっきり断られると思っていたのだろう。
『──な、なぜですか。だってあなた、彼女にあのような事まで言っていたのに』
「だからだよ。おかげでますます邪神を倒さなきゃならなくなったし、生きて帰らなきゃいけなくもなった。……まぁ本当は聖竜やみんなの役に立てた上で死んじゃうのなら、それでもいいかなって思ってたんだけど」
『──その話は初耳ですが』
少し怒ったような口調で言われて、あははと乾いた笑いを零す。
「もちろんそうならないように頑張るつもりではいるけどさ。それでも覚悟はしておくべきでしょ? じゃないと大事なところで迷うし」
『──それはそうですが……』
「ね? だから最悪はそのくらいの気持ちでいようかなって、今の今までは思ってたんだけどさ……でもエマの言葉を聞いて思い出したよ。『死んでもいい』って思ってた時よりも、『生きて帰るんだ』って思ってた時の方が、何倍も足が動いてたなって」
きっと頭が「生きたい!」って思って色々な事を考えるんだろうね。
そう他人事みたく話をするイレブンに、聖竜がぱたりと口を閉ざす。本人は平然と話していたが、それがどれだけ過酷であるかは火を見るよりも明らかだった。
むしろそれを平然と話せてしまえるくらい、彼は常に死と隣り合わせの中にいたのだ。世界や仲間を守る為なら、それこそ死んだって構わないと思うくらいに。
「──だから邪神を倒すためなら僕は喜んで力を貸すし、君と生きて帰る為にも絶対に最後まで死んだりしない」
『──……』
「大丈夫だって。元は君の力なんだろう? 仮に何かしら異変が起こったら這いつくばってでも治してみせるさ。これでも身体は丈夫な方だし」
むん! と力こぶを作りながら、にぱっと笑ってイレブンが答える。「それに僕今体力半端ないからね」と腰に手を当てて得意気に言えば、聖竜もようやく普段の調子で『──あまり関係ないかと』と答えた。ふ、と緩んだような笑みが聞こえて、イレブンも同じく笑みを零す。
全力で支援すると言ってくれたので、腹は決まったという事だろう。
「よし……じゃあ行くよ」
『──はい』
そしてイレブンは目を閉じると、大木の根に手を伸ばした。
イレブンは エマのスカーフを 手に入れた!
その内ちゃんと使います(多分)
カミュ(序盤)に使って欲しい武器は?
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片手剣
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短剣
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ブーメラン