ただそこにあるだけの存在   作:咲崎咲希(さきざきさき)

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昼想夜夢


1話:私、転生するなら人間って言ったよね!

 

 百聞は一見にしかずという言葉がある。

 百回見聞きするよりも一度自身の目で確かめる方が良い。そういう意味合いの言葉だ。中国の漢書に書かれた話が由来になり今現在まで諺として受け継がれている。

 

 こんな辞書くさい説明を冒頭に持ち込んだことにも、今から話すけったいでキテレツな話もどうか心柔らかに聞いて欲しい。

 先ほど、先ほどかは分からないが私を私たらしめていた命は潰えた。原因などはさして知らないが事実としてそれを飲み下して欲しい。

 ともかく私は死んでしまった。そして私は生を授かった。死んだ後に。手短に言えば輪廻転生だ。創作である程度知られるそれ。でも自分に降りかかる事象として受け入れるのになかなかくるものがある。そして、受け入れた後にこうも思う。これは輪廻転生ではないと。なぜならば私には記憶があり、見慣れない世界がそこにあって、そして。

 私はロボットなのだから。

 

 

 

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 気難しい語り部にも飽き飽きするころだと思う。私だって慣れないことはするものでないと今し方後悔をしているところだ。私は本来もっと楽観主義で傍観主義のポジティブ人間なのだから。

 だけども、そろそろ現実に目を向けようか。

 

 …やっぱり少し現実に向かうために逃げさせておくれ。転生直後のことを話そうか。

 そうだなぁ。あの時は——

 唐突に視界に光が映り込み、眩しく手を庇った。目が慣れた頃には喧騒の中にいて、そのときには辺りには多くの人がいた。大都会を思わせる高層ビルのジャングル。そこを歩く犬猫が二足歩行をした姿やロボット、銃火器をもつ子供やとにかくたくさん。そして、いやでも目につく空を見上げた瞬時にわかった。

 雲一つない澄んだ青空を背景に高く背を伸ばす白色の塔。見上げた直後は根本が地面に接していないその建築物に目を疑ったものだが、そんな考えもその次には塗り替えられた。

 

 ここ、ブルーアーカイブの世界じゃね?

 

 ゲームのローディング画面中に飽きるほど見せられた背景が、そっくりそのままに目の前に実物として存在した。自覚すればさらに目の前の景色にも説明がいやでも付属する。獣人やロボットは市民であったり

 PMCであったり、そして体躯に合わない銃火器をもつ子供は生徒である。

 ——わかった。転生したんだ。

 私はそう思った。

 なんだ。と意外にも驚かず自身の体を見渡した。おそらく転生後の必須ミッションである身体の確認をする。ゴミ捨て場になぜだか放られていたこの体。しかし、ぴしりとスーツを着こなす身体にあたりの人々と比べ少しばかり背が高い体躯——そうか。私は先生なのだな?

 歓喜した。それはもう。胸中の声が聞こえたならあたりの建物が音だけで崩壊するくらい。歓喜した。

 ゲームや二次創作でしか眺められない生徒を私は生の目で愛でられる。略して目でられる。なんと喜ばしい。

 それはそれは高揚してスキップを刻むようにあたりを歩いた。街並みは特別に以前とそれほど変わらず、目新しいのは銃火器が売られていることやその広告などだろうか。しきりに歩き回った後、ふと店先の展示ガラス前で足を止めた。否。止まってしまった。

 自身の顔を見てしまったから。

 その顔には、およそ人間に思える部分がなかった。とてつもなく不細工ならば救われたのかも知れない。いやそれはない。

 その顔はそう。伝わりやすいもので言えばアビドスに金を受け取りにきたあのモブロボットだ。顔が楕円形で目を示す表示が楕円形の画面に映るあれ。

 私自身妙に親しみがあるキャラ造形で好きであったキャラクターだ。モブだけど。

 だがこのときの私にはそんな考えはないわけで。数分前まで主人公なのではと浮かれていたわけで。

 

 この顔ってぇッ!…ッモブじゃねぇかぁああああああああ!!!!!

 

 今度こそ叫んでしまった。

 あたりから狂人を見つめるような目を向けられるのみで済んだ。

 涙は出なかった。当たり前だ。そのときから目は電光掲示板に変わってしまったのだから。

 

 

 過去回想は終わろうか。

 私の話はそんなものだ。そのあとは持ち物からある程度が察することができた。身分証にキヴォトスで必要あるのか免許証。様々なこと難解に書かれた書類どもと几帳面なメモ。どうやらこの体は何か物騒なことを起こす直前で私が来たらしい。

 自身ことのつくべき仕事もわかったし落ち着く時間も手に入れた。そして画面からじゃ分からないことも知れた。知れたことは少ないが、少なくとも目指したい道ができたのだ。そのためにもまた話が逸れることを許して欲しい。

 

 

 ゲームとしてあったあの世界は疑問が生まれる場所が多くあった。

 生徒がいる。テストもある。勉学も学生ならばある。教室も学校も学業イベントも成績もある程度のルールも、ある。

 ならば、とここで疑問が付属する。

 学校ならば生徒だけではないだろう。先生は——主人公であり社畜であるのでノーカウントだ。運営は生徒が行うのでよしとしても、疑問というのはテストも勉学もあるのにそれを教える立場はないのか。ゲームではレポートやBD、ノートがあったがそれだけでいいのか。

 それら疑問はゲームであるからさしたる問題にはならなかった。

 だがゲームは現実に。私はそこに立つこととなった。

 

 ここで冒頭の辞書くさいものに戻る。

 百聞は一見にしかずなのだ。

 それは上の疑問に答えるように、世界のたりない部分を補完するように存在した。その立場は、先生とは異なり道は教えず導かず、寄り添わず。ただこなす。同じ立場のようでそうではないそれは——教師。

 

 今では職業:教師を見つけたその後の判断をした自身を褒めたいと思う。

 このときの私は先生になれなかった後悔と先生に成れる者へ一方的な嫉妬を抱いていた。気持ち悪いにもほどがあるものだ。だからこそこのときはその気持ちの悪く気色の悪い感情が判断を早めた。

 

 私、教師になります。

 

 およそ教鞭を持つにはふさわしくない人間が、まともな人間を目指した瞬間であり転換期であった。

 

 それと、誤解を解くためにも述べておくが私は生徒の青春とそこにほのかな大人との恋的なサムスィングが好みであるため寝取られなんぞある暁には私の存在をかけて滅する所存だ。ああ。存在を賭けてだ。

 

 そして今現在になり知ったことなのだが、当時からこの職は色々な謂れがある仕事らしい。下に羅列しておく。

 

 

________

 銃火器での殉職率77.46%

    安月給ながら無限残業クソッ!  ひぇーこわ。

  銃撃戦起こす人に教える勇気が…。    罰ゲームかな?

学校ガチャ。   人間関係がちょっと…  責任はお前が負うからね

      \\万年人不足//    生き残るかのチキンレース

            結論。ブラックやん

________

 

 

 その後そのときに金を得ていた職場に辞表を投げ捨て教師になるために動き出した。

 

 

 

 

 

 このときはなんの目的もなく、ただ近しい場所に居たかったのか、見届けたかったのか分からない。今でも自分がなぜその立場を目指したのか悩むことがある。

 ただ、私は邪魔にならない程度にそこに在るつもりでいた。

深く関わるつもりもどこか記録に残るつもりもなかった。

私から教鞭を取る立場に立ったというのに、馬鹿な話だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なってみると、いささか大変なことが多いものだね…」

 

 時刻は夕暮れ時。

 大きな学園で教鞭を持つこととなり、お嬢様が多い学校だけに質を求められるので毎回準備が大変で勤務時間外である今も私しかいない職員室で業務に追われていた。

 お嬢様が多いとのところで察することもできるだろう。最近の勤務先はキヴォトス三代校であるトリニティ総合学園。ここに至った軌跡を思い返すとやっぱりと思う。

 

「なかなか、偉くなったものだよね」

 

 四年前は教師になるために色々と奮闘したものだ。

 勉強したり、バイトしたり、支援したり、勉強したり。教員免許を取ってからは多くの学校に勤めて、懐かしいなぁ。

 それが今は三代校のお金持ちの集まるようなところに勤めている。大出世と言っても過言ではないのだろうか。とはいえそろそろ別の学校へ行かなければならないが。

 

 物思いに耽っている場合ではないことを思い出した。今時間外労働に追われている。

 一人しかいない故に私物化し始めている職員室で資料を作り、片手間で趣味やら請け負った頼み事をこなす。こういうときは自分がロボットであることが最大限に生かせる。デスクワークは本能が拒絶反応を起こすが体はそうでもないらしい。

 ぐへへ。体は正直だなぁ!? くっころ!!!

 閑話休題。

 

 脳内セルフくっころごっこを続けていると、扉のノック音が私を正気に戻した。趣味のものを適当に仕舞い込み、書類なんかを広げてそれらしくする。最近は高い頻度でくるので慣れたものだ。

 待たせるわけにも行かないので、扉の方へ入っていいよと声をかけた。カラカラと音を立てて扉をスライドして彼女は真っ直ぐとやってきて、ノートを片手に手前の方で立ち止まる。

 

「…すみません。尾陰教員、ここの問題が分からず質問よろしいでしょうか」

 

 尾陰というのは私の名前だ。機体製造番号からちなんでつけている。私の情報なんぞどうでも良いので割愛する。

 

「…ええ。いいですよ。それにしてもこれは三年生の応用テスト問題。随分と進んでいますね」

 

浦和ハナコさん。

 

 

 

/////

 

 

 

 

 私はいつも、同じような失敗を繰り返してしまっている。

 ただ私は見ていたかっただけなのに、見つめればどう思ってしまうかなんて、画面から見ていたときから知れたことなのに。

 倒れてしまいそうでフラフラしている積み木から目を離すなんて、あまりに出来たものではない。それがいくつもあって、私はそれらの揺れが収まるのをただ見ることが私のできる最良の仕事なのに。

 

 どうしても見つけてしまったら放っておけないと思ってしまう。私の気持ちの悪い自己満足に嫌気がさす。

 

 彼女の暗がりがある目を見るとどうしても、そんな気持ちが再発する。邪魔するわけにはいかないと思いながらも、それなのにいまだこの仕事を続けているのはやはり自身の欲があるからなのだろう。本当に——。

 

 そんな私の心象なんていらない。目の前の生徒が一番大切なんだ。

 

 件の生徒、一年生浦和ハナコは持ってきたノートを教員机に広げてそこらの椅子に座る。その横に立ち、私は質問に答えた。

 

「…そこで、ええ、その式から答えを出します。質問はその二問でよろしいですか?」

 

「はい…いつもありがとうございます」

 

 沈んでいる表情、光が差していない目を見ると、日に日に酷くなる隈を見ると、自分では何もできないと知りながらも。どうしても。

 …私はいつも同じ失敗を——

 そんなの、どうでもいい。

スピーカーから勝手に音が出ていく。

 

「少し、お話をしませんか?」

 

「……お話…ですか」

 

 暗がりに沈んでいた表情がさらに沈み込んだように思う。当たり前だ。彼女は多くの人に期待されて、多くの組織の長から声をかけられている。私の要件もそうと思われても仕方がない。ただ、声高らかにその声かけをした人々と違うところを宣言できることがあるとすれば、私は何も考えなしに彼女へ声をかけた。ノープランだ笑いたまえ。

 

「最近の学校生活はどうでしょうか。そろそろ二年生に上がる頃ですので聞かせてくれると嬉しいのです」

 

「話す意味はありますか」

 

 間髪入れずに、拒絶するような返事が飛び込む。聞いたジャンルが悪かったかな。

 ええい、こちとらノープランだぞ。

 

「意味はないかも知れません。ただ、この職員室一人で寂しいので、雑談に付き合っていただきたいのです。お時間いただけますか?」

 

「…雑談なら、付き合います」

 

 意外な返事だった。とびきりに面白い話をしてやりたい気持ちが出てくるが、彼女の琴線にふれる話など持ち合わせてない。誤魔化しに、お菓子を少々、引き出しから出した。ときどき来る人にあげているものだ。子供はお菓子で連れているうちが可愛い。異論は捻り潰す。

 でも若い子と話すことも少ないね。おじさんになると。お菓子とお茶を出して、さあ何を話そうか…。

 

「そうですね…最近はクラスではどうですか? お友だちとか」

 

「いきなりですね…何にもないです。本当に」

 

「そうですか…、うーん、あなたの周りは多くの人がいるので、この手の話題は尽きないと考えていました」

 

 少しだけ、眉間に皺がよって影ができた。この話題は触れるな。そう言われた気がした。間が空いた。

 本当に、彼女も、彼女たちは難しい。思春期であった自分はここまで辛い経験をするほど優秀ではなかったので共感できる部分は本当に少ない。

 けど、それでも言いようのない気持ちが、どうしようもない体を後押しする。

 

「…やっぱり、期待は辛いですか」

 

「……何を、知った口を…」

 

 小さな声だったのかも知れない。でも二人しかいない空間じゃ大きすぎる声で、その声はロボットの身体の集音器へよく聞こえた。心をめったうちにされた気分だ。

 けど、鉄屑の身体は引いてくれない。

 

「井の中の蛙大海を知らずという言葉はご存知ですか?」

 

 彼女は座っていた椅子を蹴飛ばすように立ち上がって、奥歯を削るような音が聞こえた。何を言いたいと、目が訴えかけていた。私も、なんでこの言葉が出たか分からない。でも、好きなんだ。こういう言葉が。意味が変化する言葉が。

 

「その言葉には続きがあるんです」

 

 遺言になりそうなものだけど、貫かせてもらう。

 

「されど空の深さを知る」

「狭い知識を持っているからこそ、その知識について細かいところを知っている。そういう意味があるのだとか」

 

「…だから、なんですか。何にも知らない癖に何を言いたいんですか」

 

 そうだ。私は結局外から概要をさっと目を通しただけで苦労なんて何一つ知らない。

 ゆっくり、言葉を置くように口に出す。

 

「あなたにはこの学園で、この三年間で色々なことを知って欲しい。私は知らないことばかりの残念教師なので、教えて欲しいのです。私に質問をしに来てくれるような人もあなたくらいならものですから。

今は牢獄のように思えるかも知れませんが、足掻いてみれば変わるかも知れません」

 

「…それは、大事な事全部丸投げじゃないですか」

 

「ええ、解決は私にはできないものです。ですが百聞は一見にしかず、そして百考は一行にしかずです。考えるばかりでなく一度行動を起こすが吉、そういう言葉ですね」

「いつか、取り巻きではなく友達ができます。ええ。保証しましょう。近いうちに現れますよ」

 

「何を、根拠に」

 

 確信しているような面持ちと言葉に、毒気を抜かれたように少し目を丸くしている。

 当たり前だ。私はこの先も大雑把に知っている存在で、そこからくるへんな自信でこんな投げやりなことを言っている。なんて気味が悪い。

 

「根拠は、現れたときにでもお話ししましょうか。ただ、またお話しに来てくれませんか?」

 

「…お話?」

 

「投げやりな事をしている自覚もあるので、負担の一端でも背負うべき、だと思いまして」

 

「……はぁ、…」

 

 がっかりしたような声だ。突然煽られたかと思えばそいつは励ますつまりでしたなんて、怒る気持ちが少しでも抜けたのなら、いいのだけど。

 そんな私と対照的に、倒してしまった椅子を直して立ち上がっていた。

 

「次来るとき、ミラクル5000を用意しておいて下さい」

 

「えっあれって限定品のお高いものでは…」

 

「そしたら、許す気にも話に来る気にもなるかも知れないですよ」

 

 はは、と声をこぼす。そう言われたら、用意しなければね。結局私は浦和ハナコの抱える問題をただ刺激しただけだ。なんて余計な事だろう。どうか先生。早く私を裁きに来てくれ。

 

「そうだ。浦和ハナコさん。これは私からの贈り物です」

 

 ただ、適当なことを言って送り返すなんてとても心苦しいので、本を一つ、渡すことにした。

 適当に広げた書類の下からそれを引っ張り出して渡す。

 それは私が読んできた中で面白かった小説だ。青春の中、多くを抱える生徒が周りの人々と協力し影響し合い、青春を生きる。小さなブルーアーカイブがそこにあって、ここにきてから感動した物語の一つでもある。

 それはいろんな感情を与えてくれる物語だった。喜びも憤慨も共感も、ただの600ページに満たない物語がいつもいろんなものをくれた。だから、渡したくなったんだ。

 

「…もらっておきます。それではミラクル5000お願いしますね」

 

 乾いた笑いが止まらなかった。

 本当に、私にできる最大の仕事が彼女たちの邪魔をすることだけだなんて、なんて可哀想で邪魔な存在なんだ私は。でも、なんだかんだ話せると喜ばしく思ってしまうのは、なんでなんだろうね。

 

 カラカラと音がして、職員室にいる人はまた一人になった。仕方なしに仕事に戻る。趣味の品物を隠すために広げたわざとらしい書類を片付ける。

 

「ん、これ…あれ。先ほど渡した本…だよね?」

 

 嫌な予感がした。そんなわけないだろと、急いでデスクを確認した。

 この本は、結構人気なもので健全版でも少々お色気が入るやつだ。だから好きになったんだけども。だってハナコだから大丈夫だろと渡した。健全版を。

 健全版と言ったからにはわかるだろう。不健全版がある。先ほど書類の下敷きにして、今頃私の手に収まっているはずなのに。

 

「はは…明日にはクビかも……」

 

 贈り物としてR-18を送る教師なんて死んでしまえよ…今ばっかりは時間を巻き戻したいと、本気で思った。

 




ブルーアーカイブの市民にいるロボット。細い方を想像していただくと主人公に当たります。

浦和ハナコって子は、青春とか友情とかを声に出すのを恥ずかしがるくらい大好きで、エッチなもので覆い隠してしまうほど憧れがあるんだと思います。エッチなのは駄目っ! 死刑!!!

そりゃね。推したくなりますよね。

なんか書きたくて書いたんだ。
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