先生救済委員会編   作:サクリファイス raurua

7 / 10
ここまで読んでくれ方には説明不要でしょうから略。


Bad√ 救済の先にあったのは...

 拘束された手足、横の部屋から聞こえる話声。見覚えのある景色、また同じところに連れてこられたのだと気づくのに長い時間はかからなかった。

「どうしたらいいんだろうね...。」

と思わず心の声が漏れる。

とりあえず、バレずに脱走できれば一番なんだけどな...。そう考えながらモゾモゾとベッドの上から這い出ようとするも、

ドタッ

という音と共に無様に落下してしまった。

そして後ろから感じる視線、思わず背筋が凍る。ビクビクしながらうつ伏せに倒れた体をなんとか座る体勢にまで持って行ったところで、見慣れた生徒達が自分を見下ろしていた。

「また逃げようとしたんですか。相変わらず懲りない人ですね..。」

全員が強い意志の籠った瞳で先生を見つめる。これは間違いなく彼女たちの熱意の表れだった。

だが、先生からすればそれはもうただの恐怖でしかなかった。震える手、蘇る記憶...。

拘束された手足、見下され、鋭い眼光を浴びせられる。しなくていい、大丈夫と言ったのにそれでもなお干渉しようとしてくる。受け入れてしまえば溺れ行くと分かって拒絶し続け、その度に生徒の曇った表情をみて心を痛め、自分の欲望を抑えつけもがき苦しみ、それでも何度も何度も手を差し伸べようとする生徒。ずっっっと耐えてきた、それが先日の一件で崩壊しかけた。それでもなお崩壊寸前のメンタルを抑えつけていた先生に、ここまでしてしまった彼女たちを肯定的に見る余裕は完全になくなっていた。彼女らの善意は、先生の目には『自分を苦しめようとする悪意』としか映らなくなってしまった。

「...。」

今まで身を粉にして働いてきたのは何だったのか?自分のような哀れな人間が生まれないように努力してきたのは何だったのか?

「サボりも、ライディングも、趣味探しも、スイーツも、昼寝も、全部君たちのために付き合ってやってあげた。例え仕事の時間を削ってでも、自分の体調が崩れようと。君たちにはしてあげなきゃいけないことだと思ったから、してあげたいと思ったから。そしてなにより君たちが頼ってきたから。その中には好きなこともあればあまり好きではないものもあったよ。それでも君たちが笑顔になってありがとうと言ってくれればそれで十分だった。体を壊してまでやる意味がそこにはあったんだよ。」

ブツブツと連ね始めた言葉はどんどん大きくなっていく。

「「「「「先生...。」」」」」

「それで十分だったのに。どうしてこんなことをするんだい。私は、いらない、必要ない、大丈夫、と何度も言ったのに。1人でいいと、1人でできると何度も言ったのに。仮に壊れたって替えが効くって何度も言ったのに。どうして!どうして私の自由にさせてくれないんだい?!」

「先生とりあえず椅...。」

そうホシノが声をかけようとした時、

「人の話は静かに聞こうよ。」

と先生の暗い声が響く。

「私は...私は...私は...、溺れるわけにはいかなかったんだよ。一度堕ちたら戻れなくなる。そう分かってたから。」

誰も知り得ない自分の心情を声に出したところで彼女らにはなんのことかなど分からないだろう。その証拠に彼女らの表情は困惑の色に染まっている。

「それなのに、何度も何度も...。」

気づけば先生の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「誰が、いつ、どこで、助けてって言った?誰も言ってないし頼んでない。私は君たちがこんなことをするなんて望んでいなかった。拘束して閉じ込めて、無理やり口を割らせようとして...そうやって私を傷つけて楽しいの?私が自分を犠牲にしてまで育ててきた生徒はこんなだったの?そもそも私がすべて間違えていたのか?」

先生の言葉は彼女らの心を抉るにはできすぎた刃物だった。

『先生を休ませるためにサボりに誘ったのに、それも負担になっていたんでしょうか。私がこの委員会を作ったのもすべて間違いだったんでしょうか。』

『最初に先生にあった時、道端で倒れてた。助けたらありがとうって言ってくれた。だからただ先生を助けたかっただけなのに...。』

『先生を傷付ける気持ちなんて微塵もなかったんすけどね...。先生、もう一緒にあそんでくれないんすかね...。』

『勉強を教えてもらいながら、一緒に甘いもの食べたり、バンドの練習に付き合ってもらったり、放課後スイーツ部のメンバーと過ごすときとは違う特別な時間だったんだけど、先生にとっては負担でしかなかった...?』

『また、私のせいで、大切な人が...。』

心に浮かぶのは悲しみか後悔か。

「先生、私たちはただあなたに休んでほしかっただけなのですが...。」

イロハがおずおずと口を開く。

「イロハ、休んだ分のしわ寄せはどうせ後の私に飛んでくるんだよ。休んだところで仕事の量は変わらない、結局後の私が苦しむだけなんだよ。それなのにこんなことまでして...。」

少し落ち着いたのか、荒げた声からいつも通りの声に戻った先生。そして続けてイチカが口を開く。

「先生、失礼を承知で言わせてもらうっすけど、先生、私たちの心考えたことあるっすか?私含めみんな、心配を蔑ろにされて悲しかったんすよ?」

言われてみれば、自分が溺れないようにすることだけに精一杯だったかもしれない。でも、

「君たちだって私について何も知らないだろう?私の過去も、苦しみも、悲しみも。」

イチカは折れずに応答する。

「それは、、、教えてくれなかった先生が悪いっす!」

そうか、じゃあもう全部話してしまおう。そして、全て終わりにしよう。

そうして先生の過去の話は始まった。

捨てられた子だったこと。拾われた先では虐待を受けて育ったこと。心が歪んでしまったこと。そして、愛に飢えていたこと。

「結局私も愛に対する欲望を向ける先に生徒が入ってしまうような汚い大人だったということだよ。それでも君たちに嫌な思いはしてほしくなかったから今までずっと甘えないように努力してきた。君たちの思わせぶりな態度も、純粋な優しさも、全部見ないふりを続けた。」

そして、その部屋は静寂に包まれた。

いつもなら言葉を交わさなくとも場をともにするだけで心地よかった先生と一緒の時間。それも今になっては息苦しい、耐えがたい空間となっていた。これ以上自分のことをを卑下する先生の言葉を聞きたくなかった。

「結局のところ、私は先生に向いていないんだよ。生徒のため、生徒のためと自分さえも騙し騙しやってきた。それでも根っこは利欲のために先生をしていたにすぎない。私は子供を餌にするような大人が嫌いだったはずなんだけどね...。だからさ、無理して働いてさっさとくたばってしまえばいいって心のどこかで思ってたんだ。」

言葉を失い、ただただ茫然と先生を見つめるだけとなった先生救済委員会。

「だからさ、邪魔しないでほしいんだ。私が私なりに選んだ道なんだ。体を壊して死んだならそれが本望。君たちに心配されるようなできた人間ではない...。君たちがやっていることは善意の押し付けにすぎないんだよ。これでいいかな、イチカ。」

今、私はどんな顔をしているのだろうか。抱えてきたものを吐き出せたすっきりした顔なのか、それとも自己開示による恐怖で強ばっている顔なのか、それとも...。

「そっすね...。先生、一つだけ間違えてるところがあったっす。私たちのこの行動は善意の押し付けなんかじゃない、純粋な好意から生まれた、あなたを心配しての行動です。だから、そんな悲しいこと言わないでほしかったっす...。」

真っすぐな瞳で先生を見つめるイチカの瞳からは涙が溢れていた。それにつられてか、他のメンバーの瞳からも涙が...。

「先生が今まで頑張ってきてたのは知ってたけど...、そんな気持ちを抱えながら生活してたなんて知らなかった。だからさ、ごめんね?せんせ。」

「カズサ...。別に謝ってほしいとかそういう訳じゃないんだけどね。」

耳がシュンとなり気分が沈んでいるのが分かる。

「ん、確かに私は先生に対して無神経なことをしたかもしれない。それでも、先生に嫌われてしまっても守りたかった。前回のことも今回のこともそう。先生は私にとって、アビドスのみんなにとって大事な存在だから。」

「そうか...。でも、さっきも言った通りその行動は結局私を苦しめただけだよ。」

「おじさんはさ、1人で何とかしようとして結局失敗しちゃって、みんなと先生のお陰でここにいる。いくら先生でも1人でやるには限界がある。きっといつかは誰かを頼らなくちゃいけない。それが早いか遅いかだけの違いなんだよ?」

「前も言ったように私は『大人』であり『先生』だ。君たちと同じように周りに甘えて生きていくなんて許されるそんざいじゃないんだよ。」

誰がなんと言おうと否定の言葉を重ねるだけ。どうすればいいのか分からないと皆が思った時だった。

「辛かったですね先生。今までお疲れさまでした。私は嬉しかったですよ、先生の本音が聞けて。自分がしてもらえなかったことをしてあげられるようにって頑張ってくれてたことも、私たちのことを思ってずっと一人で戦ってくれていたことも。」

イロハの声は子供を諭すような優しい声だった。頑なにも否定的な態度を取っていた先生の心が揺れ動いた。

「当たり前のことをしただけだよ。」

ぶっきらぼうにそう返す先生。

「当たり前なんかじゃないですよ、少なくとも私たちにとっては。利己的な考えの人はいくらでもいますが、そこまで利他的に考えてさらに行動に移すなんて当たり前な訳がありません。先生、あなたは自分のことを過小評価しすぎじゃありませんか。」

「ん、先生はよく頑張った。」

「イロハさんの言う通りっすよ。」

「先生、もう少しだけでいいから自分にやさしくなろ?」

「私たちも手伝うからさ。」

「あなただって『大人』である前に、『先生』である前に、人間です。疲れた時には休んでいいんです。欲しいものを欲しいと言ってもいいんです。それに、幼少期に与えられなかった愛なら、私たちが、私があなたにあげます。親からの愛情の代替品などではなく、ただただ1人の人間としてあなたに愛をあげます。大人から搾取されてるなんて思いません。先生、あなたのためだからしたいことなんです。分かりましたか?少し恥ずかしいですが...、私たちはあなたが思っている以上にあなたのことが大好きなんですよ。ちょっとやそっと醜い部分があったところで見限るなんてことは絶対にありません。」

...、気が付くと再び涙が溢れていた。悲しみでも、後悔でも、苦しみからでもない、ただ嬉しかった。ここまで自分のことを思っていてくれる生徒がいたことが。

「み..みんな、あ、ありがとう。そんなに私のことを思っていてくれたなん..て。」

そしてやっと自分に正直になったので先生の拘束はすべてはずされた。

「シャーレの仕事はおいておいて、ここでゲームでもしながらゆっくり過ごしましょう。たまった仕事はここにいる全員で手伝いますから。」

そうしてこの部屋は幸せな空気包まれのであった。

 

 しかし、次の日...先生は死んだ。

朝みんなで先生を起こしに行くと反応が無く、救急車で病院に運ばれた後、死亡と判断された。

そして、机の上には遺書のようなものが置いてあった。

そこにはこう書いてあった。

「私は、私のことを許せなかった。生徒の姿を親と重ねたこと、生徒の優しさを無下にしてきたこと、生徒の好意を見て見ぬふりしてきたことを。昨日先生対策委員会の皆が私のことをどう思っていたのか教えてくれた。それなのに、数日前の私は彼女らに酷いことを言った。自分を心配してくれている人間にかける返す言葉ではなかった。そんな私に彼女たちの愛を受け取る資格などない。こんな人間さっさと死んだ方がマシだ。」

それを見た五人は後悔した、一緒にいてあげればよかった、本当に落ち着くまで話を聞いてあげるべきだった、1人にさせるんじゃなかった、と。今さら考えても遅いのに。

先生を殺したのは自分たちだと、自責の念に襲われる毎日。夢を見れば出てくるのは遅れていたかもしれない先生との楽しい生活。食事はのどを通らず、学校に行く気など出るはずもなかった。

かろうじて復帰したものもいれば、そのまま引きこもってしまったものもいる。

 

救済委員会なんてものを立ち上げたが救うことはおろか、自ら命を絶つ選択をさせるなどという結果を招いてしまったことで精神が壊れてしまったイロハ。サボり部屋には漫画本、ゲーム機が埃を被って主の帰りを待ち続けている。

 

かろうじて学校にはくるものの、大好きな人一人救えなかった自分に人助けをする資格はないと正義実現委員会の活動に参加しなくなったイチカ。

 

丸くなっていたはずが、昔のように荒れてしまったカズサ。放課後スイーツの皆がなんと言おうと収まる様子はなかった。

 

もう一人の自分に救いを求めに行ったシロコ。

 

どこかへ行ってしまったホシノ。

 

先生の死から少しして大規模な葬式が開かれた。そこにはキヴォトス中の生徒たちが参加し、先生の死を悼んだ。

その中に、必死でキヴォトスの外から来た人間を探す影が五つ。

「子供が死んでも姿さえ現さないとは、とんだ薄情者ですね。もっとも、先生を殺した私が言えることではないですが。」

 

後任の先生がやってきたものの、生徒達の前任者に対する思い入れが強すぎるあまりうまく物事が進むこともなく、『先生』がいたころよりもキヴォトスは荒れてしまったようだ。

その現状を見て後悔し来るん死でいる魂が一つ、今日もS.C.H.A.L.Eに縛られていた。




イロハにウェイトが偏りすぎました。すみません。
シロコ、イチカ、カズサ、ホシノをメインに読もうと思っていた方には申し訳ないです。
(もちろん、みんな大好きな生徒です。)
他√は多かった順で書いていきます。(再アンケはなしでいこうと思います。)
大筋は今回と一緒になるかもしれないですし、変わるかもしれません。

Bad√ってこんな感じでいいの?(他√書くときの参考にします。)

  • もっとひどいほうがいい
  • ちょうどいい
  • これはもうworstだろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。