目を覚ますとそこは既視感の塊。横の部屋から聞こえる聞き馴染んだ声も含め、つい先日拉致された場所であるというのは確実だろう。
「仕事途中だったんだけどね...。これは解放されてからの仕事がまた忙しくなりそうだ...。」
はぁ、とため息をつき、これからどうしたもんかと思考を巡らせる。
バレずに脱走できればいいけど、そんなことは不可能。それに今回の彼女たちの目は本気だった。前回でさえ半ば強引に帰ったのだから、今回はそう易々と帰れる訳もないだろう。あんな突き放すような事を言ってしまったのにそれでもなお、自分を心配してくれることをうれしく思う気持ちと、やりすぎじゃないかな?という呆れのような気持ちが渦巻く頭。こうして考えていても何も変わらない、とりあえず皆を呼ぶか。
?、なんて言えばいいんだろう。「おはよう」?「起きたよ」?それとも「おーい!!」とか?
などと、どうでもいいことをまた考えていると段々と隣から聞こえる声が大きくなってきた。
「先生、流石に起きたっすかね?」
「おじさんが言うのも変だけど、今日の先生はお寝坊さんだよね~。」
ガチャ。
?!
「あ、先生!起きてるなら言ってよ。その、ちょっと乱暴にしすぎちゃったから、さ?」
「カズサ、それに皆も。ええと、おはよう?でいいのかな。」
カズサを先頭にぞろぞろと先生の周りに集まる委員会の面々。
「先生、今はこんばんはの時間ですよ。」
そう言ってイロハがカーテンを開けると外は真っ暗だった。
連れ去られたのが大体夕方、ということはあまり時間は経ってない?のかな。
「今日って水曜日かな。」
「先生、今日は木曜日だよ。ホシノ先輩が呆れるぐらいぐっすり寝てた。」
「えぇぇぇ?!私、一日中寝てたの?」
今さらだが、学生時代の休日寝過ぎたときに感じていた頭痛と同じようなものを感じる。
そんなことより重要なのは昨日の分の仕事と今日できなかった仕事だ。
「先生...また仕事のことを考えていませんか。」
ギクッ、とわかりやすい反応をする先生。
「その様子だと図星ですか、そうですか。」
「『大人』にしかできない仕事をこなすのが私の唯一の存在意義だからね。」
ハハハと苦笑いをする先生。あわよくばこのまま仕事を口実に...
「「「「「そんなことない!」」」」」
「そんな急に声をそろえてどうしたの?私、今変なこと言っちゃったかな。」
空気が重い、怒らせちゃったな。
「『大人』にしかできない仕事をするのが唯一の存在意義っすか...。」
「そんなものだけが先生の存在意義であってたまりますか。」
「アビドスのパトロールに付き合ってくれたあれは、『大人』じゃなくたってできたはずだよ。」
「私らスイーツ部のバンドだってそう。」
「ん、みんなの言う通り。先生の言う『大人』っていうのがどんなものなのかは、私には分からない。それでも、先生の存在意義がそんなことだけなはずない。」
「先生が私たちにしてくれたことの中には必ずしも『大人』でないといけない、なんてことだけじゃなかったはずっす。」
「『大人である先生』でも、『ただの先生』でもどちらでもよかったんですよ。」
「少なくとも、ここにいる全員は先生に『大人』であることを求めない。」
「先生が、厚意で、親切心で、優しい気遣いで、私にしてくれたことは、先生にとってはそうじゃなくても、私にとっては先生の存在意義に十分なる。」
「『自分はシャーレに所属するただの道具』だ~、みたいなそんな考えはやめてほしいな。」
「わかった?先生。先生は必ずしも『大人』である必要はない。1人の人間として私たちにしてくれたことは先生がしてきた仕事よりもずっと大切で大事な宝物。」
自分は替えが効く道具、ずっとそう思って生きてきた。それが今、彼女たちの言葉で崩れかけている。どうしてだろう、生まれた時からずっと『いらないもの』として生きてきた。だからこそ、道具だったとしても人の役に立てるならうれしかった、たとえ自分の体調がどうなろうと。
「私はそんなできた人間じゃないよ。みんなに優しく接していたのだって下心なかったか?と聞かれれば嘘になるし。」
そう、道具の癖して他人に愛を求めた。そんな道具に生きていく資格はない。
「はあ、そうですか。」
やっぱり落胆してる。
「下心程度で、あそこまで走り回れる人間ができた人間じゃないんですか。なんです?私たちは塵以下とでも言いたいんですか。」
そこに、隙あらばサボろうとする戦車長の姿はなく、真剣な表情は平時からは想像もつかない。
「別にそういう意図があったわけじゃないんだよ。その、それは私に限っての話というかなんというか...。」
「そうやって自分ばかり追い詰めて、自分ばかり卑下して、自分ばかり傷つけて、他人からの施しを極度に嫌がって...。いい加減自分に優しくなりましょうよ。」
自分に優しくか。
「少し、話をしようか。」
―とあるニンゲンの話だった。
生まれた時から憎まれ、育つにつれ沸々と沸いてくる孤独。周りとの格差に絶望する日々。
誰かに大切にされたこともなければ、誰かに愛されたこともない。かかわりがあった人間には都合のいい道具のように扱われて生きてきたそうだ。
「だからその子は分からないんだよ。大切にされなかったから、どうやって自分を大切にすればいいのかも、愛されなかったから、向けられる好意にどう向き合えばいいのか、1人だったから、共同作業のやり方も、道具だったから、自分の意志で動く方法を。助けたかったから助けたんじゃない、助けを求められたから助けた。全部受動的な行動にすぎない。自ら動いて何かを生み出せるような人間じゃないんだよ。」
先生の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「君たちの好意にはずっと前から気づいてたんだよ。でも、どうすればいいのか分からなかったし、『大人』が『子供』に何かを求めることが許せなかった。だから、君たちと、生徒の皆と、どう関わればいいのかも分からなくなってしまった。」
「『とあるニンゲン』だなんて濁してたけど、やっぱり先生のことじゃん。」
「私から言えることは一つ。先生は替えが効かないかけがえのない存在ってこと。1人でなんでもしようとしないで。それを教えてくれたのは先生だよ。」
病的な域に達するほどのネガティブ思考誰になんと諭されようと変わることはないと思っていたその心が揺るぎ始める。そんな状態に焦り、思考がまとまらなくなってきた。落ち着いて正しい判断が下せるよう頭を冷やさないと。
「一人になりたいから一度、お風呂にでも行かせてもらえないかな?」
「唐突...。ん、いいよ行ってきて。」
「今さら逃げたりもしないから安心していいよ。」
そう言い残して先生は浴室へと消えていった。
ノソノソと服を脱ぎ、風呂に入る。前に見た時より浴室が何周りも大きくなっていたが、気にしないことにした。設定温度を最低にし、シャワーから流れ出てくる水を永遠と頭にかけ続ける。頭を冷やす(物理)だ。ブツブツと呟きながら、頭の中を整理する。
「必ずしも『大人』である必要はない。」
自分の掲げる大人像が間違っていたのかもしれない。固定観念にとらわれて生きるのはもう止めよう。突き放しても、なおも私のためにと動いてくれた子たちに応えるのも大人として重要なことだ。独りよがりな考えはやめて、『子供』のみんなの願いを聞き入れることもすべきだったんだ。気づくのが遅すぎた気がするけどここから挽回していこう。冷たかった水も暖かいお湯となり、先生の凍った心が融解し始めていった。
風呂から出て、諸々の作業を済ませて目を覚ました部屋に戻るとみんなが仲良くベッドで眠っていた。狭苦しいのによく寝るなと、思いつつもその寝顔を見ながらこぼれるのは苦笑いでも、ひきつった笑いでもなく、ただただ愛おしいものに向ける優しい笑みだった。
皆寝てしまっているし、私もこのままもう一睡しようか。不思議とシャーレに戻って仕事をする気にはならなかった。ベッドは満員だったので、先生は床で寝た。
次の日、目を覚ますとみんなはすでに起きていてせかせかと何かをしていた。
「朝ご飯。そういえば昨日、ご飯食べてなかったんだっけ。」
昨日までの自分ならまた一人でなにかししようとしていたのだろうけど今は違う。生徒が作ってくれた朝食だってありがたくいただく。そして、朝食の場を借りて風呂でのことを話すことにした。
「どうやら、今までの私が間違えていたみたいだよ。自己満で独りよがりな行動にいいことなんて一つもなかった。1人の力には限界がある。『大人』だからは理由にならない、人間には限界がある。そんな単純なことも認めることができていなかった。」
「先生、頭でも打っちゃった?なんか昨日と言ってること真逆じゃない?」
「そうだよ~、昨日は何言ったって無駄っておもったのにさ~。」
「あ。もしかして、先生石鹸で滑って転んだ?」
昨日との差に驚く三人。イロハとイチカは特に驚いていない様子。
「ま、まあ、冷水で頭冷やすぐらいのことはしたかな...。って、そんなことは置いておいて、今日から私、みんなのこと頼ってみようと思うんだよ。廃止にした当番制度も復活させようと思うんだ。私一人の力には限界があるからね。」
今でも愛とか自分の大切にする方法とかは分からない。それでも、生徒がこの子たちが大切にしている存在である『自分』ならきっと大事にできると思うし、大事にしていきたい。愛を求める対象に生徒をいれるっていうことについては抵抗感がまだまだ残っている。それでも、頼るくらいならきっと大丈夫なはずさ。適切な距離感で生徒の皆と協力して生きていく。それでいいんだ。それが正解なんだ。
「こうして考えを改めることができたのは、間違いなく『先生救済委員会』のお陰だよ。イロハ、イチカ、カズサ、シロコ、ホシノ本当にありがとう。お礼に私にできることなら『なんでも』するから遠慮なく言ってね。」
先生の顔み以前のような陰りはない。
「先生、なんでもって言っちゃうと、とんでもないお願いが飛んできちゃうかもしれないよ?勘違いしちゃう子もいるんだからそういう発言は控えるように!」
「確かに、カズサの言う通りだやっぱりなんでもっていうのはナシで...。」
「先生、言質は取ったっすよ。」
「自分の発言には責任を持ってもらいましょうか。」
「おじさん、先生がなんでもしてくれっていうから色々考えたんだけどな~。」
「ん、先生は私の言うことを何でも聞くべき。」
イヤな気配がするな~...。
「アー、やってしまった。」
ガックシする先生。その横でイロハがほっと一息。
「この委員会を設立したのは間違いではなかったんですね。」
「そっすね。」
「最初はどうなることかと思ったんだけど、先生を前にすれば学園の差なんて関係なかったね。」
「そうだね~。」
「ん。」
その後、シャーレ直属の委員会として、『先生救済委員会』が設立された。当番以外にも生徒の助けが必要だと感じたときにはそこのメンバーが主導する仕組みだそうだ。
先生へのお願い権はみんな大事にとっているそうで、卒業するときに行使するとか、しないとか。
眠い、眠すぎる。忙しくて蒸発してました。
やっぱハッピーエンドはいいね。脳が浄化されます。先生のネガティブな感情は自分(作者)を投影したものになっているのでもしかしたら普通そうはならんだろ?ってとこもあったと思うんですが許してください。
worst√は反転した先生がゲマトリア入りして、大人のカード使ってキヴォトスを無茶苦茶にっていうのもありましたが、私の執筆力の都合上断念しました。
曇らせたら晴らせ、常識ですね。
それはそうと、先生へのお願いは何にするやろうか?疑問っすね。
Happy√ってこんな感じでいいの?
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これはもうHappiestじゃない?
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ちょうどいいっすよ~
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trueぐらいでは?