★書籍発売★追放転生貴族とハズレゴーレムの異世界無双――隠し機能がチート過ぎ――え!?ゴーレムが倒した敵の経験値も俺に入るの!? 作:鏡銀鉢
ラビたちがノエルのスキルを気にしていた頃。
近くの山ではクリストファーたちが虹色テントウムシを捕まえてゴキゲンだった。
「いやぁ、僕らは運がよかったねぇ」
「ほんとほんと、これも日頃の行いがいいからだね」
「これを提出すれば、ウォルター伯爵も喜ぶよ」
「虹色テントウムシは宝飾品のいい材料になるからね」
虫カゴがわりの腰のポーチを軽く叩いて、クリストファーは下山路を探した。
「じゃあ、そろそろふもとの馬車に戻ろうか」
「その前にちょっと休憩しようよ」
仲間の一人が近くの斜面に背中を預けると、顔色を変えた。
「どうしたんだい?」
「いや、この斜面、なんか変だなって」
背中を離して振り返る。
みんなで目を凝らすと、今度は四人同時に顔色を変えた。
それは、山の斜面などではなかった。
ゾウよりも巨大な、平屋ほどもあるそれは全身に岩石質のウロコを無数に備えた魔獣だった。
ドラゴン、ではない。
こんな町の近くにドラゴンがいれば、即討伐対象になっている。
顔には毛が生えている。
哺乳類だ。
全身をウロコに覆われた哺乳類。地球で言えば、アルマジロやセンザンコウに近い。
クリストファーが声を押し殺した。
「まさかこれ、ドレイザンコウ? 昔はドラゴンの一種だと思われていたっていう、ウロコを持った哺乳類魔獣だよ」
「そんな大物がなんでこんな山の浅い場所にいるんだよ」
「どっちみちこんな山のヌシみたいな奴に見つかったら大変だ。早く逃げよう」
「みんな、音を立てないでよ」
四人はそっと重心を後ろに傾けた。
けれどただ一人、これを好機と捉える男子がいた。
「いや、待つんだみんな。よく見てみなよ」
心臓を押さえるように胸に手を置いた三人は顔を強張らせながらも、クリストファーの指さした方向に目をやった。
「こいつ寝ているじゃないか。前に図鑑で読んだんだ。ドレイザンコウは冬眠をして、目覚めるのは四月の下旬。つまりまだ一週間は先だ。そう簡単には起きないよ」
「なんだ、よかった」
三人が胸をなでおろすと、クリストファーは剣を抜いた。
「むしろ、これはチャンスじゃないかな」
三人の目つきが変わったのを確認して、クリストファーは勝者のような笑みを浮かべた。
「ドレイザンコウがどれだけ強かろうが、堅牢なウロコに守られていようが、眠っていたら関係ないさ。僕らの最大攻撃をウロコの無い顔面にぶち込むんだ。そうすれば僕らは上級魔獣ドレイザンコウを倒した最強の一年生として不動の名声を手に入れられるじゃないか」
何よりも名誉を、そして武功を重んじる貴族生まれの三人は、目の前にぶら下がった黄金の未来に頬を緩めた。
デビュー初日で上級魔獣ドレイザンコウを討伐。
冒険者ランク昇格。
学園からの表彰。
同級生たちからの称賛の声と羨望の眼差し。
麗しい乙女たちからのラブレター。
上手くすれば、兄を差し置いて実家を継いで当主の座に収まれるかもしれない。
将来有望な若者がいると王室の覚えめでたく王族との晩餐会に呼ばれ、そこで武勇伝を語り聞かせ、お姫様に気に入られ熱い一夜を。
思春期特有の妄想が止まらず、三人は根拠のない無限の全能感に酔いしれた。
アイコンタクトだけで全てを通じ合った四人は、全力で魔力を溜め始めた。
それぞれが剣に、杖に、弓に、槍に魔力を集めると、自分の持てる最大出力でドレイザンコウの顔面に攻撃を叩き込んだ。
衝撃波と熱波が周囲の木の葉を巻き上げ、木々がざわめいた。
濃霧のような白煙の中で、クリストファーたちは一仕事終えたように胸を張り、乱れたヘアスタイルを手櫛で整えた。
白煙が晴れるまでの間、クリストファーたちは眼球を吹き飛ばされ血まみれになった山のヌシの死体を空想した。
「まったく、洞窟や地中に隠れず冬眠なんて馬鹿な魔獣だよね。でも寝ている所を仕留めたじゃあかっこがつかないんじゃない?」
「正直に話すことはないだろ。少しは話を盛ろうか」
「武勇伝なんて多かれ少なかれ尾ひれがつくものだしね」
「そうさ。多少の脚色はこじゃれた愛嬌……」
白煙の壁を突き破り、凶刃のような牙がズラリと視界を覆った。
見上げると、片目を潰された隻眼の獣王が、独眼竜のような殺意の眼光でこちらを見下ろしていた。
射殺すなんて生易しいものではない。
もはや、刺し殺すような殺傷力で矮小な生き物を睨み下ろしてくる迫力に、クリストファーたちは我を失った。
ドレイザンコウが洞窟や地中に隠れて冬眠をしない理由。
それは隠れる必要が無いから。
誰もドレイザンコウを攻撃しないから。
山の魔獣たちは知っているから。
たとえウロコの無い部位を攻撃しても、ドレイザンコウは殺せないことを。
どのような致命の一撃も、ただ逆鱗に触れ殺されるだけだということを。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
人の声帯では到底発声しえない獣王の咆哮に、クリストファーたちは絶叫しながら逃げ出した。