異界冒険譚シリーズ 【セシル編】-聖女様は助かりたい-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第19話『むくれていても、何も生まれませんよ姉上』(デイビッド視点)

(デイビッド視点)

 

 

 

聖女セシルという存在は、獣人の国において非常に有名だ。

 

僕も直接会うのは初めてだけれど、会ってみれば分かる。この人が有名になる理由が。

 

「はじめまして。私、セシルと申します。よろしくお願いしますね」

 

「えぇ。はじめまして。私はデイビッド・シア・イービルサイドです。聖女セシル様にお会いできて光栄です」

 

「え!? いや、あの。私はどこにでもいる普通の人なので、聖女ではなくセシルとお呼びください」

 

獣人の国に伝わる光の聖女アメリアと似たような物言い。

 

そして、定期的に聖国と獣人の国の国境に現れては、内緒ですよと言いながら病や怪我で苦しむ獣人を癒してゆく聖女。

 

獣人というだけで敵対する様な人間が多い中、彼女の存在は特別だ。

 

無論、僕の義姉であるエリカ姉様も同じ様な人柄ではあるが、エリカ姉様は自国から出る事は無いので、ヴェルクモント王国以外の国では聖女セシルの方が圧倒的に有名である。

 

まぁ、エリカ姉様が有名になるまでは、なるべく隠していた為、公然の秘密の様な状態ではあったらしいが。

 

「セシルさん。駄目ですよ。ちゃんと聖女って名乗らないと」

 

「えぇ!? そんな事言って、エリカさんだって聖女って呼ばれるの嫌がってるじゃないですか」

 

「うっ! だ、だって。私なんかが聖女様と呼ばれるのは恐れ多いというか」

 

「そんな事ありませんよ。エリカさんは十分に聖女らしい聖女です。えぇ、聖国出身の私が言うのですから間違いないです。聖女エリカ様」

 

「あぅっ! も、もうー! そんな風に言うのなら、私だってセシルさんの事、聖女セシル様って言いますからね! ね! 聖女セシル様!」

 

「や、止めて下さい。歴代の聖女様と聖女エリカ様に申し訳が……私なんかが聖女と呼ばれるなんて」

 

「自分だけ逃げようとしても駄目ですからね! 聖女セシル様!」

 

「あゃー」

 

エリカ姉様と聖女セシルはやけに近い距離感でイチャイチャとしており、とてもヴェルクモント王国の公爵令嬢とべべリア聖国の聖女とは思えないが、二人とも後からその地位が付いてきただけで、元は平民の出だ。

 

こういうやり取りをしている方が自然なのかもしれない。

 

しかし、そう考えると気になるのはもう一人の義姉だ。

 

アリス・シア・イービルサイド。

 

昔はエリカ姉様と一緒に仲の良い姉妹をしていたが、エリカ姉様がデルリック公爵家に引き取られてからは寂しい想いをされている。

 

そして、今も羨ましそうに二人のやり取りを見ているだけだ。

 

気遣いは素晴らしいと思うが、友人関係や家族関係くらいもっと自由で良いと思うけどね。

 

僕は息を吐きながらアリス姉様に話しかけた。

 

「アリス姉様も参加されないのですか?」

 

「えっ! いや、私は」

 

「一緒に話をされれば良いでしょう。お二人も気にされないと思いますが」

 

「それは、そうかもしれないけど。でも」

 

「……姉上。欲しい物があるのなら、一歩を踏み出さねば。立ち止まっていても、得られる物はありませんよ」

 

「分かってるけどさ。なんかこう、入りにくい空気ってあるじゃない?」

 

「ハァ。姉上も情けなくなりましたね」

 

「む。そういうデイヴは何か生意気になったね」

 

「デイビッドです。いい加減子供扱いするのは止めて下さい」

 

「むー」

 

「むくれていても、何も生まれませんよ姉上」

 

「分かってるよ!」

 

「ハァ。しょうがないですね。私が今回だけは手伝ってあげましょう。……聖女様方! お楽しみの所、申し訳ございません。聖女様同士の会話に我がイービルサイドの天使が一人で寂しいと泣いておりまして。お話に混ぜていただけませんか?」

 

「ちょっと! デイヴ! 私は泣いてない!」

 

「デイビッドです」

 

僕は、淑女らしさなど捨ててむくれたまま服を引っ張るアリス姉様を無視し、聖女様お二人に呼びかけた。

 

その効果は絶大で、二人はにこやかな笑顔を浮かべながらこちらに近づいてきて、二人でアリス姉様を捕まえた。

 

アリス姉様は悲しいかな幼少の頃から体型がほぼ変わらず、まるで幼子の様な見た目をしているせいで、同年代のエリカ姉様や聖女セシルと比べると、その差は大分大きい。

 

故に、アリス姉様は二人から逃げる事が出来ず、まるで人形の様に抱きしめられてしまうのだった。

 

「もー。アリスちゃんってば言ってくれれば良いのに。放っておいてごめんね」

 

「はい! 私も噂で聞いた事があります。イービルサイド領の天使様」

 

「わ、私は天使とかじゃない! 格好いいヒーローになるの!」

 

「んー。可愛い! 大丈夫。アリスちゃんは私のヒーローだよ。天使って言うのも間違いじゃ無いけど」

 

「全然天使じゃないよ!」

 

「そう? 前に空を飛んでる姿見たけど、白い羽が生えてて、本で見た天使様と同じ姿だったよ? 本持ってこようか?」

 

「え!? い、いい……ダイジョブ」

 

アリス姉様はたどたどしい言葉で、エリカ姉様の言葉を拒否し、遂に抵抗をやめた様だった。

 

しかし聖女様方の猛攻は止まらない。

 

「天使の羽って何ですか? 私、見てみたいです!」

 

「私もまた見てみたいなぁ」

 

「いや、あれはそのー、もうあんまり出せないというか。見せたくないというか。その、ごめんなさい」

 

「駄目ですか? アリスちゃん。ねー。お願いお願い」

 

「イヤ、ソノムリ」

 

「駄目ですよ。エリカさん。あまりアリスさんを困らせては。申し訳ございません。アリスさん。無理を言ってしまって」

 

「そんな事は! ナイケド」

 

「ほら。こんなに震えて可哀想に」

 

「あー。ごめんなさい。アリスちゃん」

 

「ベツニ、ダイジョブダケド」

 

もはや聖女様二人の人形となってしまったアリス姉様をそのままに、僕は茶会の準備を進めるべくメイドたちを呼ぶのだった。

 

 

 

そして、茶会の準備が出来た頃、ようやくアリス姉様も自分を取り戻し、会話が出来る様になった。

 

「そう言えば、お二人はご結婚とか何か考えてらっしゃるんですか?」

 

「結婚! ですか!?」

 

「はい。エリカさんもアリスさんもとても魅力的な方ですし。婚約者とか決まった相手は居るのかなと気になりまして」

 

僕は女性方の話には入らず、黙って座っていた。

 

しかし、耳だけはしっかりと動かし、細められた目で姉様たちを伺う。

 

「結婚かぁ。私はまだ分かんないなぁ。お父様もアリスが望む人とー。なんて言ってるけど、好きな人とかよく分かんないし」

 

「そうなんですね」

 

「あ。でも恵梨香姉様は、凄くモテるので決まった相手が居るんじゃないですか!?」

 

「うっ!」

 

「エリカさんはお美しい方ですし。当然と言えば当然ですね」

 

「それで? 恵梨香お姉様は誰が本命なの?」

 

「誰がって、私は別に、そういうのはあんまり微妙ですけど」

 

「どうやらエリカさんはあまり結婚に前向きでは無いようですね。何処かに好きな方でも居るのでしょうか」

 

聖女セシルの言葉に僕は内心が大きく揺れるのを感じた。

 

気になる。

 

エリカ姉様の好きな人。

 

いったい誰なのだろうか。

 

僕は息を潜め、エリカ姉様の視線を追った。

 

すると、その視線の先には……アリス姉様?

 

「その、私はあまり、よく分からなくて」

 

「ふぅーん。そうなんだ。私と同じだね!」

 

「え、えぇ。そうですね!」

 

突然敬語になるエリカ姉様を見ながら、なるほどと心の中で呟いた。

 

やはり例のドラゴン事件から、エリカ姉様の心はアリス姉様に奪われてしまったようだ。

 

ドラゴンに攫われそうになった危機に、アリス姉様が助けに来て、そのまま二人で封印したというのだから、そりゃ気持ちも持っていかれるという物である。

 

あの時、僕も国内に居ればという気持ちが無いでも無いが、居たところで僕がドラゴンに対抗できるとも思えない。

 

なら、こうなるのが必然だったという事か。

 

どこか寂しいような気持ちを抱えながら、僕は空を仰いだ。

 

でも、父上ならアリス姉様とエリカ姉様が結ばれる事を許すだろうし、そうなればまた僕の姉様になるのだから、それはそれで良いような気がする。

 

どの道、僕がイービルサイド家を継ぐことになるのだから、後は妻として迎え入れる人を説得して、イービルサイド家に二人を受け入れられる様にすれば、僕の未来は明るい。

 

なら、二人をくっつけるのもアリかもな。

 

少なくとも僕がエリカ姉様を狙うよりは現実的だろう。

 

僕はそう自分を納得させ、また女性方の話に意識を戻したのだが、そこでは衝撃的な発言がちょうど落ちる所だった。

 

「そういえばさ。セシルさんは好きな人とか居ないの?」

 

「私は、そういう方はいませんね。ずっと聖国の大教会に居ましたし」

 

「ならさ。ウチのデイビッド君とかどうかな!?」

 

思わず飲んでいた茶を吹き出しそうになったが、何とか堪えた自分を褒めたい。

 

突然なんて事を言いだすんだろうか。この人は。

 

あまりにも衝撃的な発言だったからか、聖女セシルも完全に固まっていた。

 

しかし、少ししてから自分を取り戻したのか、僕の方を見て首を傾げる。

 

その仕草に僕は胸の奥で、ドクンと何かが跳ねる様な気配がして、心が揺れた。

 

駄目だ。僕にはエリカ姉様という心に決めた人が……!

 

いや、でもエリカ姉様はアリス姉様の事が好きな訳だし。なら、セシルさんもアリなのか?

 

いやいやいや駄目だ! そんな浮ついた気持ちで相手を決めるなんて! 失礼じゃないか!

 

そうだ。僕はそんな一時の感情には流されない。気持ちを強く持つんだ。

 

例え、透き通る様な白銀の長い髪が僕を誘う様に揺れていたとしても!

 

その蒼い空の様な瞳が僕を見つめていたとしても!!

 

ふとした時に幼い顔が見える、あどけない可愛らしさを持ったセシルさんの顔が柔らかい笑顔になったとしても!!?

 

「確かに、デイビッドさんはとても素敵な人ですね」

 

わぁあああああああああ!!!

 

あぁぁぁああああ!? あぁぁあああああ!!

 

あぁ!!

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