異界冒険譚シリーズ 【セシル編】-聖女様は助かりたい-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第30話『少しだけ、疲れたので……眠ります』

何が起きてんの?

 

アルバート殿下が攻撃されそうになって、無意識に危なーいと前に飛び出した所までは良かったんだけど、自分が使った光の魔術に弾き飛ばされて、気が付いたら地面に転がっていた。

 

しかも、そんな私の醜態を無視して、アルバート殿下も、エリカ様も、アリスちゃんも、チョロード卿も、レーニも、ニナもリリィも、ジェイドさんも、その他護衛騎士の方々も、みんな寸劇を始めたのだ。

 

まるで幻の私がそこに居るみたいな感じで。

 

は……? なに……? いじめ……?

 

泣くが。

 

良いんですか!? こんな扱いされると、泣いちゃいますよ!! 私!!

 

……。

 

無視。衝撃的なほどの無視。

 

うぉぉぉおおお!! 今から泣くよ……。

 

「うぇえええええええええええ!!!! ん!!!」

 

いっそ耳元で騒いでやると、アルバート殿下の耳元で騒ぐが、驚きの無視である。

 

私は悲しいよ!! ここまでやる!?

 

「はぁー。なんか嫌になってきたな」

 

もうふて寝しようかな。

 

『もう! 何をやっているんですの!? セシルちゃん!』

 

『ふぇ? イザベラさん?』

 

『ふざけていないで、争いを止めて下さいな。今はセシルちゃんの魔術で皆さん争っているという幻覚の中に居ますが、それもいつまで続くか分からないんですよ? もしレーニさんが大規模な魔術を使えば、幻覚も超えてしまう事もあるんですから。それに長く使い過ぎれば貴女の命が!』

 

『私の魔術?』

 

はて。何のことだろうか。まるで意味が分からない。

 

『忘れたのですか!? 自分で魔術を使っているのに!?』

 

『え、ぁぅ。ご、ごめんなさい』

 

『あっ、いや、怒っている訳では無いのですよ。多少思う所はありますが、それでも、決して貴女を責めている訳では無いのです』

 

まるで聖母の様に、イザベラ様は私の罪をお赦しになった。

 

流石は聖女様。パチモン聖女とは違う。

 

『イザベラママぁ』

 

『誰がママですの!?』

 

『ばぶ―』

 

『駄目ですわ! 完全に赤子の様に……! アメリア様! オリヴィアお姉様お助けを!』

 

『はいはーい。アメリアです!』

 

『はい。お任せくださいイザベラさん』

 

不意に現れた、二人の見た目だけ聖女さんのパウワーにより、私は自分を取り戻した。

 

そして、キョロキョロと周囲を見ながら、アリスちゃんの近くでナイフを振りかざしているレーニを見て、周囲に散っていた光の魔術を収束し、目くらましの様に弾けさせる。

 

ついでにアリスちゃんやエリカ様を傍に連れて来る事も忘れない。

 

「大丈夫ですか? エリカさん。アリスさん」

 

「え? え? セシルさん」

 

「本当にセシルさんなの?」

 

「はい。私は間違いなくセシルですよ」

 

驚いているアリスちゃんとエリカ様に微笑んで、私は同じく動揺しているレーニにも声を掛けた。

 

何がどうなっているのかは分からないが、暴れ散らかしているレーニに少し怒りの感情が湧く。

 

「もう。何をしているんですか。レーニは」

 

「……は? セシルか?」

 

「私がセシル以外に見えるんだとしたら、重症です。もう! あれだけ言ったのに、またお酒を飲み過ぎたんですね?」

 

「いや、今日は……飲んでない、よ?」

 

誤魔化すように視線を逸らすレーニに私はカッとなり、怒りの説教をぶつける。

 

あれだけ前に言ったのに、また飲んで、しかも暴れたのだ。

 

信じられない事である。

 

よくお説教をして、一緒に謝って何とか場を収めるべく頑張った。

 

そのお陰か、皆さんいい人ばかりで許して貰えたのである。

 

ありがたい話ですわー。

 

 

 

と、そんなこんなで再びパーティーが始まり、私は何故か会場の中央近くで大きなクッションに座らされていた。

 

ともすれば、柔らかすぎるクッションに沈んでゆきそうになるが、後ろからはレーニが、両サイドにはアリスちゃんとエリカ様が居る為、何とか座った状態を維持できている。

 

けれど、何だろうか。この扱いは。

 

「セシル。体調は悪くないか? どこか痛いとか、苦しいとか」

 

「いえ。どこも問題ありませんよ」

 

「っ、そうか」

 

なんだその顔は。

 

後ろから話かけてきたレーニに、笑顔で大丈夫だと答えたら何だか微妙な顔をされてしまう。

 

何なの?

 

「セシルさん。本当に辛い事があれば言ってくださいね」

 

「そうですよ。セシルさん」

 

「ありがとうございます。アリスさん。エリカさん」

 

何だか不安そうな顔をしている二人に笑顔を向けて、安心してもらおうとしたが、やはり二人の顔色は良くなかった。

 

何なんだ……本当に、何があるんだ?

 

もしかして、私が知らないだけで私って結構ヤバイ状態だったりする?

 

いや、本当に痛いとか苦しいとか無いんだけど。

 

健康そのものなんですけどね?

 

『イザベラさん。私は光の魔術について詳しくは無いのですが、セシルさんはどの様な状態なのでしょうか』

 

お、おぉ?

 

何かイザベラさんとオリヴィアさんが私の事について話しているのが聞こえる。

 

『そうですわね。光の魔術……だけでは無いのですが、どの様な魔術であれ、大規模な魔術は使えば使う程に人の寿命を削ると言われております。光の魔術で言うのであれば、治癒の魔術等ですね』

 

え!? そうなの!?

 

『ですが、私も光の精霊の中で過ごし、生前に研究していた事が少々違うのかもしれないと思い始めておりました』

 

『……』

 

『大規模な魔術が人の寿命を削るのではなく、使い手であった私たちが自らの寿命を削りながら使っていたのが問題では無いかと』

 

『それは、同じ事なのでは無いですか?』

 

『いいえ。違います。元々魔術がそうなっているのではなく、私たちの使い方が問題だとするならば、改善が出来るという事です』

 

『……!』

 

『例えば……そうですね。限りなく可能性としては薄いですが、内在魔力ではなく外的な、それこそ他の方の魔力を使う等の方法でも良いですし。例えば私たちが精霊として光の精霊の中で活動出来ているのは私たちが存在する、この世界に魔力が存在するという事になりますし、そういうものを上手く使う事が出来れば解決への糸口があると思います。例えばそう、人の体を通さずに魔力を収集し、それを固定化させ、魔術として転用する方法があれば可能です。頭の中で描いている魔術をより明確に解析し、その構成を何かに書き記すという様な形でも良いと思います。とにかく内在魔力を使わず、自然界を通して魔力を集めれば良いわけです。後は変換の問題等が残りますが、その辺りは技術が進めば自然と解消されてゆく問題でしょう。この技術が段階的にでも構わないので、実現してゆけば内在魔力を消費せず、外的な魔力のみでも魔術が使える様になる筈です。そうなれば、セシルさんもエリカさんも、そして未来の聖女も、早くに命を落とす事もなくなるでしょう』

 

なんだか話が難しくなってきたな?

 

内在が、どうのこうのってのはどういう事なんだろうか。

 

分からない。

 

先生。分からない事が分かりません!

 

私は考えすぎて、頭がこんがらがって来るのを感じた。

 

そして、そのまま目を閉じて、後ろにいるレーニに体を預ける。

 

「セシル!」

 

『セシルさん!』

 

「大丈夫ですか!? 目を覚ましてください!」

 

考え事をし過ぎて、頭がクラクラしているだけだから放っておいて欲しいのだけれど、心配性な人たちだ。

 

でも、こんな風に心配してくれるのなら、悪くはないかな。

 

「少しだけ、疲れたので……眠ります」

 

「っ、セシル。ごめん」

 

「何も謝る事は無いですよ。レーニ」

 

「私、ちゃんとセシルの夢、応援するから、ちゃんと協力するから、だから、お願いだ。ゆっくり休んでくれ」

 

「……はい。わかり、ました」

 

何かよく分からないけど、レーニに許可も貰えたし。眠る事にしよう。

 

閉じられていく視界の中で、ニナやリリィ、そしてアリスちゃんやエリカ様。アルバート殿下とかチョロード卿も居る。

 

何だか人が集まり過ぎて恥ずかしいくらいだ。

 

でも、悪くない。

 

 

 

これから、みんなで幸せになる第一歩としては最高だと思う。

 

私は、今日も無事何の問題もなく終わる事が出来たと、深く息を吐き、深い眠りの世界へ体を委ねた。

 

そうだ。ここには私だけじゃなくて、エリカ様がいる。

 

まだ目覚めていないけど、光の精霊と上位契約を結んで、聖女と呼ばれる様になるアリスちゃんがいる。

 

私が眠っている間にも、二人がきっと苦しむ人を助けてくれるだろう。

 

起きたら誰かが亡くなっているなんて事は無いんだ。

 

あぁ、こんなにも、穏やかな気持ちで眠るのは……久し、ぶり……だな。

 

 

 

私は目を閉じて、夢の世界に体を委ねた。

 

こんな日々を永遠に続ける為にも、明日も変わらず、アリスちゃんとエリカ様を攻略するべく頑張ろう。

 

と、心に誓って。

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