ワールドトリガー 二次創作 終わってしまった話 作:三ツ虎 円
視界がぼやけ、メガネが近くに落ちているのがかろうじてわかる。
割れてしまったかもしれない、とぼんやり思う。
「気がついたようだな」
正面から男の声がする。
「手荒な真似をしてすまないね。 三雲修君。だが理解してほしい。我々はか弱いんだ」
うろうろと、8の字を描くようにやや早足で行っては戻るを繰り返す。
暗く澱んだ隧道の先、少し開けた空間に出たところで、後ろから殴られたらしい。
トリオン体はいつの間にか解かれていた。
ベイルアウトが機能していないことが何より不気味だった。
「あんたは…一体……」
問われた男は、多分肩を竦めたのだろう。
落ち着きのない仕草。
ただ、警戒というよりは興奮に近い声音の上擦り。
酒でも飲んでいる……にしては、特有の臭いもない。
(誰だ……?)
ふと、男の向こうに誰かが倒れていることに気づいた。
うつ伏せで、微動だにしない背中。
意識の有無どころか誰なのかもわからない。
(ヒュースじゃない、でも、チカとも違う……)
薬でも盛られたのか、思考がまとまらない。
彼我の距離はせいぜい4、5mだが、修は壁の配管に後ろ手を拘束され近づく事も出来ない。
反響から推測して、先ほどまでの隧道ではなくある程度広さのある空間にいるようだ。
男は尚も続ける。
「だが、これは正義なんだ。 そして私は……否、我々は、君に敬意を表するが故に理解してもらいたい!」
その言葉を皮切りに、周りにある柱の影から複数人が現れる。
「理解し、そして現実として、受け止めてもらいたいのだよ」
(何を、言って……)
言葉はわかるのに、意味が理解できない。
迂遠で、大仰で、薄闇に散ってしまうような軽薄さ。
「ああ、あまり暴れてくれるなよ三雲君。
君は立会人だ……危害を加えるつもりはないが、邪魔立てされたいわけでもない」
喋り続ける男はトリオン体ではなく、ボーダーの関係者にしては声にも聞き覚えがない。
「立会いだと……何を言って…」
「なに、難しい事じゃない」
男がそこで言葉を区切ると目線で仲間を促した。倒れ伏す人影に近づき、やや乱暴に襟首を掴んで修の前まで引き摺って来る。
「そいつを…どうするつもりなんだ」
口の中に血の味がする。
「どうする? どうもしないさ! こちらの目的はとうに終わっているからね……君にしてもらいたいのは」
そして、力無い頭を掴んで持ち上げると、修の眼前にまで突き出した。
「単なる近界人《ネイバー》の死亡確認だよ」
ピントが合う。
開き切った瞳孔。
見覚えのある癖毛と、記憶とは食い違う黒髪。
顎が外れたようにだらりと下がった舌がやけに紅く、下水のものだと思い込んでいた臭気が鼻にこびりつく。
「嘘だ」