ワールドトリガー 二次創作 終わってしまった話 作:三ツ虎 円
「こんな時間にお出かけ…?」
玉狛支部での泊まり込みの日。
夕飯後、そろそろ寝ようかと思っていた私がそう聞いた時、遊真くんはいつものように笑っていた。
「ウチの隊長がアイスをおごってくれるらしい、チカも来るか?」
「……ううん、でも気をつけてね、もう遅いから」
「大丈夫、すぐ戻るよ」
そう言って手を振る修くん。
ちょっと迷ったけれど、結局その時は眠気に勝てず「いってらっしゃい」と見送った。
修くんが「冷凍庫に入れとくから、また後で食べると良いよ」と言ってくれて、それを聞いた遊真くんが「おっ、サスガ隊長〜」とからかっていた。
それが、二人と交わした最期の言葉だった。
翌朝、リビングに降りていくと栞さんやゆりさん、レイジさん達が何やら話し込んでいて。
(どうしたんだろう……何かあったのかな)
「チカちゃ〜〜ん! たいへんなんだ! おさむとゆうまがぁ〜〜……」
陽太郎くんは珍しく、パジャマ姿のままだった。いつもならとっくに着替えているのに、不安でそれどころではない様子で、雷神丸に乗ったまま泣きついてくる。
もう一度リビングに目を向けると、テーブルの上に何かが置いてあるのに気づく。透明なビニール袋に入った何か。
アンダーリムの、見覚えのあるメガネ。
(あれ? 修くん、の……)
フレームは踏みつけられたようにひしゃげ、左のレンズが割れて無くなっている。
血の気が引く音が聞こえたような気がした。
「チカちゃん、落ち着いて聞いてほしいの、あのね……」
「何が……何があったんですか!」
近づいてくる栞さんを遮って、びっくりするほど大きな声が出ていた。
「っ……修くんたちに、何かあったんですか」
あの後、二人が帰ってきていないと最初に気づいたのは小南先輩とレイジさんだったらしい。
「あれ? 修と遊真、昨日泊まりじゃなかったの?」
「ああ、そうだ。まだ寝てるはず……」
「……おかしいわね」
「何がだ?」
「靴、無いわよ」
「それで、それでな、とりまるがコレ見つけたって電話してきたんだ」
尚も涙目で、それでも事の次第を私に説明してくれる陽太郎くん。
「つ、通報とか」
「大丈夫、ちゃんとしたわ、でも……」
警察は動いてくれているものの、ボーダー本部は「トリガーの痕跡もない、ひとまず組織としてはまだ動けない」という管轄の違いで手が出せない。
「それでも、有志が動いてくれてるわ」
迅さん、嵐山さんたちが、探してくれているらしい。
それでも、三日ほどで警察から連絡が来た時は安心した。
「修くん、保護されたって! よかったよぉ〜」
栞さんと手を繋いで喜び合った。
でも、あれ?
「……あの、ゆりさん。遊真くんは……?」
「それがね、警察もそこは要領を得なくて……『別の手続きになるんで、署に着いてから確認して下さい』って言われちゃったの」
だから、みんなは先にお見舞いに。
そう言って困ったように笑っていたゆりさんは、今思うとその時すでに察しがついていたみたいだった。
ーーーー彼女にとって、初めてのことではなかっただろうから。
まだ治療中とのことで面会は出来ず、あの時と同じガラス越しに彼を見た時の安堵は言葉にできない程だった。
「修、くん……?」
けど、何かがおかしい。トレードマークのメガネがないからかとその時は思ったけど、でも。
目が落ち窪み、頬はげっそりとして、急に何年も経ったみたいに老けこんでいた。
たった三日とは思えない程のやつれ具合に言葉が出てこない。
病院では結局それっきりで、修くんのお母さん達はお医者さんから説明があったみたいだけど、私たちにはまだ何も知らされていなかった。レイジさんに聞いてみても、知らないの一点張りだった。
「気持ちはわかるが今のところ報告はない……何かあればゆりさんに連絡が行くことになっている、今は待て」
そう言って頭を撫でられた時は少し安心したし、それを信じようと思った。
でも、嘘だった。
レイジさんはことが明るみに出るまで何も教えてくれなかった……正確には、ゆりさんの所で情報が止められていた。
回復する前に、修くんは病院から居なくなった。
少なくとも、任された責任を放り出すような人ではなかったのに。
何があったかはわからないけど、たった一つだけはっきりしていることがある。
玉狛第二というチームはもうなくなった。