バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ここの所裏切り者への制裁役を任されることが増えた、バーボンこと安室透です。
発案はジンで、爪で切り裂かれた遺体が銃で撃たれるより派手で凄惨なのがGOOD!という理由らしい。
この業務が中々の曲者で、別組織の手の者とかなら良心も傷まないのだが、警察機構とかのNOCだったりしたときは本当に大変だ。
なにせ容赦なく殺すってのも後々角が立つからな。
公安の手も借りてなんとかNOCを逃がそうとするものの、成功率は6割程度にとどまっている。
何故か私が近づくとみんな必死になって抵抗するんだよね…。
せっかく逃がしてやるっつってんのに私が爪を降ろしたところで至近距離全弾発砲とかザラにある。ビックリするからやめてくれよ。
反射で爪を振るってうっかり殺害なんて羽目になったらどうしてくれるんだ。みんな命を大切にしてくれ。
などと苦悩する今現在。
今月2件目のNOCの始末を依頼され、私はビルの屋上を駆け抜けている。
いやNOC多いなこの組織。ガバガバじゃん。公安の私が言えたことじゃないけど。
聞きかじったパルクールの要領でひょいひょいとビル風を纏い、非常階段の手すりから突き出したパイプの端へと飛び移る。
巻き取り式のフックも使い、スパイダーマンのように自由自在に夜闇に紛れて大ジャンプ。ひゃっふい。
どこぞのオープンワールド系ゲームみたいな機動で走るのは爽快極まりない。
その遥か下、ひさしの下を走る標的の姿がちらりとだけ視界の端に映る。
壁を這うパイプをつかんで減速。
するっとネコ科動物のように標的の前に着地すれば、男は驚愕に足を止めたようだった。
「!ックソ!ウルフドッグか!」
「あまり抵抗しないでください。手間なので」
勢いよく逆方向へと逃走進路を変えようとしたので眉を顰める。
あまり遠くへ行きすぎると計画がおじゃんになるから、なるべくここにいてくれ。
足をかけて転ばせて、そのまま無防備な腹へ目にもとまらぬ速さで特製の血糊入りの袋を服の下へと放り込む。
この血袋は公安に用意してもらった特別製で、爪で切った時に飛び散る臓物の肉片なども再現することができる優れモノだ。
至近距離で彼だけに聞こえるよう、僅かに囁く。
「死体のふりをして。ジンをやり過ごします」
「!」
返事を待たないままに腹に仕組んだ血袋ごと男の身体を鉄爪で派手にバッサリ。
路地どころか横の工場壁面にまで肉片を含んだどす黒い血がまき散らされる。
無論リアリティを出すため体を切り裂く爪は本物だ。
内臓こそ無事なものの、血袋で守られなかった部位は後で何十針も縫う事になるだろう。
ばたり、とNOCの男が倒れ伏す。
呼吸の様子すら感じられない完璧な死体具合に思わず感嘆の声が出てしまいそうになる。死んだふり上手いかよ。
「ご苦労だったな、ウルフドッグ。コイツも哀れな野郎だ。俺に殺されておけば苦しまず済んだものを」
「ジン。つまらない催しにはなりましたが……ご満足いただけましたか」
「ああ」
後ろからゆったりと歩いてくるのはジンと、お付きのウォッカだ。
ジンは死体のふりをしている男を数度蹴り、ニヤリと凶悪に嗤う。こいつホント好きだな、私の殺し方。
いや死んでないんだけどさ。
「これでネズミも分かったはずだ。組織に入り込めば自分がどうなるかってことをな」
「だと、いいのですが。もう少し切り裂いておくべきでしたか?」
「それだと死体が誰かわからなくなっちまうからな。それも味があっていいかもしれねぇが」
ククク、とジンが地獄みたいな笑い声を漏らした。またなんか悪辣なこと考えてるんだろうな。
前にサシで飲んだときとか延々と私の戦い方の良さ──具体的には武器の野蛮さやら臓物の飛び散り具合やらだ──を散々語ってくれたあたり、趣味の悪さが分かる。
褒めてくれてありがとうジン。でもその話そろそろやめようぜ…。
ウォッカがビル風にあおられた帽子を押さえながら、くいっと顎だけで死体(偽)を指示した。
「バーボン、この後は俺が代わりに始末しといてやろうか。オメーも任務続きで疲れてるだろ?」
「いえ。ウォッカはジンのお付きという大事な仕事があるでしょうし。僕もとっくに一人前なんですから後片付けは自分でしたいです」
「へへ、そうかい。いっちょ前に言うようになりやがって。なら任せたぜ」
「……いつもありがとうございます、ウォッカ」
「いいってことよ」
これをウォッカに任せるなどとんでもない!
慌てて拗ねるようなトーンで一人前を主張すれば、このこのぉ、と揶揄う色を含みながらウォッカは引いてくれた。
ウォッカ先輩に死体(偽)を見られたら死んだふり作戦がばれてしまうから、ここだけは死守せねばならない。
去っていく二人の後姿を見送りながら、私はほっと一息ついた。
どうやら今回は成功のようだ。
完全に姿が見えなくなって、安全が確認できてようやく隣の死体(偽)に声をかける。
「もう大丈夫ですよ。立てますか?」
「グ、っう……問題ない」
浅くともしっかり爪で切り裂かれたのだ。痛みに呻くどこぞの捜査官を気遣い、肩を貸す。
ごめんよ手加減できなくて。結構出血がひどいな。
「……ウルフドッグ、私を助けて一体何のつもりだ」
数回咳き込んで、男は疑念に満ちた視線を私へとむけた。
「なんの、とは。僕も潜入捜査官として、志を同じくしている人間が無為に命を散らすのが我慢できなかっただけなので」
「お前が潜入捜査官?冗談だろう?」
男の表情はまるで出来の悪いジョークでも聞かせられたように歪んでいた。
酷い言い草である。私はすました顔の裏で憤慨した。
なんで全然信じてくれないんじゃワレ。実際助けてるだろうがよぉ!
「別に信じなくとも構いませんが、これからあなたの身柄は公安に引き渡させていただきます。それからの身の振り方はあちらに聞いてください」
「……本気で言っているのか?公安?あの狂犬が?」
「それ以上言うならここでとどめを刺してあげてもいいんですよ」
「OK、OK。その爪は降ろしてくれ、俺もこんなところで八つ裂きになりたくはない」
殺気を込めた爪でくいっと頬をなぞれば、男は大げさに肩をすくめて首を振った。
ウォッカ直伝の爪ペチである。キレたピンガも黙る私の必殺技だ。
しかしなんだこの野郎。私が公安で何か不都合でもあるのかよオォン?
そんな感じで無駄口をたたき合いつつ、その後は無事公安の人員と合流して派手に怪我をしたNOCの男を引き渡すのみだ。
今回は成功したが、次もそうとは限らない。ままならない世の中よ。
それでも、まぁ。
主人格の親友、スコッチを助ける予行演習ぐらいにはなっているといいな。