バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
時刻は午後9時。
夜の埠頭は暗く陰気だが、遠い都市の夜景が美しく視界には苦労しない。
地上の星々に照らされた夜空は星の一つも見えず、それが余計に異界感を醸し出す。
いつも通りの真っ黒なコートを海風に靡かせて、ジンは愛用の銘柄のタバコを咥えた。
「エミリオのコンサート中を狙ってルチアーノを始末しろ。奴らのコンサートを血塗られた惨劇に変えてやれ」
ジンの笑みは相変わらず凶悪だ。
幸い、私といる時の彼は大概上機嫌なので下手なことにはならないが、こうした事前ブリーフィングで下っ端がジンに射殺されることも珍しくない。
特に「できません」なんて口答えすれば、鉛弾を頭にぶち当てられること請け合いだ。
ただ……。
ジンは割と計画がおおざっぱというか、与える命令全部が全部「高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しろ」としか言わないので、文句を言いたくなる気持ちもわからんではないのだ。
その分自由度は高いので、こっそりNOCを生かしたりもできるわけだが。
私はにっこりと無邪気そうに見える笑みを浮かべて、何処となく嬉しそうなジンへと頷いてみせた。
「分かりました。ただ、問題が一点……コンサート中のルチアーノなのですが、今回の取引が近場の倉庫街で行われる関係上、コンサート会場を留守にする可能性が非常に高いんです」
「なに?あの臆病者が直接取引に出向くだと?……まあいい。コンサートを血の海にできねぇのは残念だが、あの小物のことだ。護衛は両手で余るほど連れていくはずだ。せいぜい雑魚どものモツを引き裂いてやれ」
「はい。ご命令の通りに」
執事の如く優雅に一礼すれば、ジンはニヤリと凶悪に笑って「それでこそウルフドッグだ」と満足そうに鼻を鳴らした。
こういう大げさなポーズ、この組織の人間はみんな好きなんだよな。
演劇じみてるというか何というか。唐突に飛び出る謎ポエムといい、アクの強い組織である。
隣ではジンが補佐に付けようと呼びつけていたらしいキャンティとコルンが暇そうにあくびをしている。
このスナイパー二人は人をただの射的の的だと思っているあたり、この組織でもトップクラスの狂人だ。
狙撃がメインだが銃器なら割と何でも扱い、軍事用ヘリ等の運転もこなす万能マン。
概して、FPSゲーマーの擬人化みたいな御人なのである。
キャンティが自らのマニキュアのついた爪を確認しながら、ちらりと私に視線をよこした。
「それよりさぁ、これが終わったら狙撃ゲームやらない?ほら、前やった奴。超盛り上がったじゃん」
「ん。バーボン的役として凄い」
「いいですよ。でも任務がありますし、任務が終わってからにしましょう。ねぇジン、構いませんよね?」
「好きにしろ」
彼らの言う「狙撃ゲーム」とはひとけのない倉庫街を走る私をキャンティとコルンが狙撃し、私に弾を当てたほうが勝ちという狂気のゲームである。
キャンティとコルンは人に向かって思う存分弾をぶっ放せてハッピー、私は簡単な運動がてら軽い銃弾弾きの無料練習ができてラッキー、というWIN-WINでできている。
特に、ゲーム後に行きつけの飲み屋で行う感想戦が地味に盛り上がるんだよね。
あの角度は良くなかった、あの建物の陰に誘導できればこっちが勝ってた、エトセトラ。
意外と楽しくかつ銃撃戦でためになる知見を得られる瞬間だ。
ただし毎度降谷さんには「正気の沙汰とは思えない」と全面的に非難されている。
別に当たらなければどうということはないってシャアも言ってたし、大丈夫なのになぁ。
飲み会の席では私の頼んだ鳥串はキャンティに奪われがちだが、それもまた飲みニケーションというやつよ。
それに、私の頼むもの頼むもの全てをキャンティに奪われることを哀れんだコルンが枝豆を恵んでくれたりするしね。
なお、このゲームベルモットには非常に不評で、「キティを的にしていじめるなんて!虐待よ!」と抗議していた。
なんというかこう、ワンちゃんを的当ての的にしてるのを見た愛護団体みたいな盛り上がり方であった。
ベルモットは私のこと小さくてかわいい愛玩動物だと思っている節あるよね。
私がぼんやりと他ごとを考えているうちに、議題は当日の役割分担に移っていた。
キャンティがヤンキー座りでタバコを吸いながらジンへと話しかけている。
「じゃあ、今回はいつも通りバーボンが強襲をメインで、アタシたちが撃ち漏らしを狙うって事でOKかい?」
「あの倉庫街には狙撃手が狙える良い場所がありません。ドローンを使うか、あるいは船等で狙う必要があるでしょう」
私が補足すれば、ジンは舌打ちした。
場所が倉庫街に変更になったことで、狙撃の有用性がガクンと落ちてしまったからだ。
「船は小回りが利かねぇ。軍事用ドローンを2機渡しておく。上手く使えよ、キャンティ、コルン」
「あいよ。ドローンはいまいち気が乗らないが、仕事なら仕方ない。せいぜい派手に撃ちまくってやるさ」
「……ん」
キャンティもコルンも意外と職人なので、仕事には忠実だ。
この辺が自由人でもこの組織で生き残れた理由だろうが…意外とバランス感覚のある御仁らである。
「それと」と口を開くと、場の視線が私に集中した。
どことなく剣呑で陰鬱な視線に自然と身が引き締まる。
「ルパンがルチアーノを狙っているようです。次元大介の姿をルチアーノの近くで確認しました。何が狙いかは分かりませんが…最悪、バッティングするかもしれません」
「テメェの方からルパンの情報は抜けねぇのか」
「流石の僕もそこまで身の程知らずじゃありませんよ。彼の勘の鋭さは異常だ。僕がその手の翻意を見せれば、次の瞬間には気付いているでしょう」
「……チッ、その場合は一旦引け。ルパンに潰されるならそれはそれでも構わねぇしな」
よし!言質は取れた!
各勢力の混戦にしてさりげなく引けばとんでもない惨劇は回避できる。
ミッションコンプリート!と内心で降谷さんとハイタッチ。
あとはコナン君が引き連れてくるFBIと、自然とPOPする銭形警部、そしてジランバ共和国工作員一同、ルチアーノらイタリアンマフィア、ルパン三世の5者がひしめき合うカオスな取引現場を作成するだけだ。
一目で帰りたくなる混迷具合だが、一応は丸く収めるため切り込まなければなるまい。
降谷さんが深層心理内に対策会議室を仮作成し、そこに各勢力図のボードを貼ってくれた。
やはり戦力ではルチアーノらが頭一つ飛び抜けているな。無論ルパン三世を除いてだが。
などと思考に耽っていると、いつのまにか解散の空気となったらしくキャンティやコルンが方々に散っていく。
するとジンが、ぽやっとする私に「来週末、いつもの店だ」と決定事項でも話すように口にした。
どうやら飲み会のお誘いらしい。
最近ジンとは飲んでなかったからな。たまにはサシで飲むのも悪くはあるまい。
「分かりました。楽しみにしてますね」
そう言うと、ジンは片手をピラリとだけ振ってポルシェ356Aへと乗り込んだ。
遠くなっていく車体を見送りながら、私は去り際に私へと放り投げられた新品のタバコを確認する。
セリフにするならば「やるよ。気張ってこい」ぐらいの激励になるはずだ。
内心で降谷さんが「何処ぞのツンデレ攻略キャラかアイツは」と呆れたような声を出した。